【0】定義
てんかん重積状態(SE:status equlepticus)は
①発作を起こすtrigger
②発作停止機構
のいずれかの異常である。これによりもたらされた異常な発作遷延状態(t1以降)を指す。厳密に言えばt1以内に自然頓挫したものは重積状態とは呼ばない。
型と持続時間に依存して、神経細胞死、損傷、神経回路網の異常を含む長期的な後遺症をきたす。(t2以降)
t1(5min)→ここを超えると自然停止し難い
t2(30min)→ここを超えると不可逆的後遺症が脳に残る
cf. 小児てんかん重積状態・けいれん重積状態治療ガイドライン
【1】対応について
まず、けいれんは続いているか?からである。
成人と同じく、けいれん状態にあるところから改善に至った場合、postictal stateという、ぼーっとしたフェーズがある。
0から100になるわけではなく、緩やかに意識レベルが改善していく。
これが失神との大きな違いの1つである。(失神は意識が速やかに改善する)
そのため意識障害が遷延している状態であるから、本人のけいれんが止まっているかの判断が難しい。
・首、四肢は固くないか?
・眼球は正中位であるか?
・頻脈は発作時と比較して落ち着いていないか?
・舌根は?ABCは保たれているか?
などを見て発作がおさまっているかを判断する。
根本的にNCSE(非けいれん性てんかん重積状態)というけいれんがないものもあるため、運動がないから(広義の)けいれんではない。は誤りであり、危険であるので、注意する。
その状態でも意識レベルの改善の確認や、後述するABCの評価をしっかりとすること。
①ABCDEの評価、対応
②痙攣の原因
③けいれんを止める
この3本柱を同時に行うことが肝要である。
①ABCDE
A→舌根沈下、分泌物・吐物の有無
(tre)気道確保、吸引
気道確保は肩枕、下顎挙上を施行する。
嘔吐などもあるため吸引をする。
これでダメであればエアウェイや挿管も考慮する。
B→誤嚥、低換気/apnea
(tre)酸素投与
必要があればバッグバルブにて用手換気を
C→循環不全、頻脈、高血圧(交感神経刺激)
(tre)モニター、ルート確保
D→痙攣、意識障害、瞳孔散大、対光反射消失、筋緊張亢進
(tre)抗けいれん薬の投与
E→発熱(髄膜炎、脳炎を考慮)
②原因検索
1)病歴聴取
・発熱の有無→有熱性であれば、髄膜炎、脳炎。無熱性であれば頭蓋内損傷を考慮する。
・持続時間
・前駆症状(外傷の有無、発熱、頭痛、悪心嘔吐、下痢)
・既往、薬剤歴(抗痙攣薬の増減、中止、怠薬)
・予防接種
・家族歴
2)physical
・VS
・外傷痕→①外傷後、頭部の外傷、出血などから痙攣した場合、②けいれんしてそのまま受け身を取れずに受傷してしまった外傷の2パターンあるのでこれは現場でどうであったか親御さんに聴取すること。
・髄膜刺激症状の有無
3)test
・採血(CBC、生化学(Na/Ca/Mg, BUN/Cre, CK, 肝機能, アンモニア)、血糖、血液ガス、抗けいれん薬血中濃度)
・血液培養、尿培養(有熱時)
・頭部CT→頭蓋内圧亢進症状、頭部外傷、虐待を疑う、凝固能異常、焦点発作、15分以上痙攣が遷延する
の場合はCTを撮影する。
・髄液検査→有熱性であり、髄膜刺激症状や30分以上の意識障害を認める場合は必ず施行する
・乳酸、ピルビン酸、アミノ酸分析などは必須ではないが、代謝疾患を疑う病歴、家族歴などあれば。
4)原因疾患一覧
中々頓挫しない場合は【0】で話したように、
triggerが非常に強力か、止める機構の不全かを考える。
圧倒的に脳炎、髄膜炎などが多いが、やはりそれ以外の疾患も捨てがたい。
下記列挙したため、可能性がないかは大まかに考慮して進めること。
・感染症→髄膜炎、脳炎、脳症
・代謝異常→低血糖、低酸素、高二酸化炭素血症、高浸透圧、尿毒症、肝不全
・電解質異常→低ナトリウム、低マグネシウム、低カルシウム
・内分泌疾患→副甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、低下症
・外傷→脳挫傷、びまん性軸索損傷、頭蓋内出血
・中枢神経疾患→脳血管障害、脳腫瘍、熱性痙攣、胃腸炎関連けいれん
・てんかん→良性乳児けいれん、BECTs、Panayitopoulos症候群、欠伸てんかん、WEST症候群など
・薬剤→向精神薬離脱、血糖降下薬、リチウム、イソニアジド、テオフィリン、局所麻酔など
・中毒→CO中毒、コカイン、重金属(鉛)、農薬、銀杏
【2】薬剤/抗けいれん薬
1st ミダゾラム(ドルミカム®︎)1A=10mg(2cc)
例)1AをNS8ccに混ぜて10ccにする。
これを0.1mg(=ml)/kg静注。
5minおきに2-3回。
※ルートが取れない時はミダゾラム筋注もしくは鼻腔内も手。
原液で0.2mg/kgで。(セルシンは筋注が効かない)
cf. NETT trial (N Engl J Med, 2012;366(7):591-600)
→n=893,ミダゾラムi.m.群と、ロラゼパムi.v.群でランダム化比較試験を試行したところ、再発など含めて有意差を認めなかった。
2nd フォスフェニトイン(ホストイン®) 750mg/1v(10cc)
初回 22.5mg/kgを3mg/kg/min or 150mg/minをどちらも超えないように投与
維持投与 5-7.5mg/kg/dayを1mg/kg/min or 75mg/minをどちらも…略
例)0.3ml/kgをNS5倍で希釈し、10分以上かけて静注
※副作用としての血圧低下に気をつけること。
3rd フェノバルビタール(ノーベルバール®︎)250mg/1V
1VをNS 10ccで希釈し、0.6ml/kgを10分以上かけて静注
*必ず挿管の準備をすること
例)15mg/kgを100mg/min以下で10分以上かけて静注
4th チオペンタール(ラボナール®︎)300mg/1V
5mg/kgをゆっくり静注。
例)1VをNS12ccにて時、0.2ml/kg静注。
【3】止まった後、、
重積もしくは群発としてコントロール不要に感じれば、基本的には入院にて経過対応するべき。
少しoverなくらいでちょうど良い。
また短時間の痙攣であっても
1)意識障害の遷延、新たな神経症状の出現
2)頭蓋内圧亢進症状、髄膜刺激症状を認めている場合
3)呼吸循環不全がある
場合は入院とする。
けいれんが有熱性のものであれば、単純に熱性けいれんであった可能性は十分だが、無熱性であった場合、てんかんの家族歴、頻回などあればてんかんの精査を始めた方がいいだろう。小児科への適切なフォローアップをすること。
【4】胃腸炎関連けいれん
6ヶ月-3歳程度に多く見られる、ノロウイルス、ロタウイルスなどを契機に発症するけいれん。発熱がなかったり、胃腸炎症状が乏しい場合にも発症しうるのが特徴。第3病日が一番多い。短時間で群発する場合は考慮する。この場合、ダイアップが効かないことが特徴的であり注意すること。
【5】AESD(けいれん重積型二相性脳症)
Acute Encephalopathy with biphasic Seizures and late reduced Diffusion
6ヶ月から1歳代(ほとんどが4歳以下、0-2歳が多い)
毎年100-200人ほど新規発症する。
けいれんを初発症状として、3-7病日にけいれん、意識障害の増悪を認める疾患。
これがあれば入院として、ビタミン類の補充と、脳平温療法を施行する。
ビタメジン(0.1V/kgをメインに混注)
エルカルチン(30mg/kg/day 分3 ワンショット)
脳平温療法は36℃台に持っていく。クーリングなど積極的に。
あくまで弱い推奨だが。