ER-症候別

低血糖

意識障害でまず考えるのが低血糖。
恐らくデキスター含めて血糖測定をしない人はいないだろう。
デキスターは正確に出ないことがあるので、必ず採血も測ること。
どうせ意識障害なので、同時に血液ガスを施行しそれで判明するのが一番よい。

(1)低血糖の症状

60mg/dlになったらGlu投与が必要。
症状は以下の通りとされるが、overlapするし、それだけに囚われてはならない。

  • <60mg/dl 血圧低下、脈圧増大、動悸、発汗、飢餓感
  • <55mg/dl 認知障害、記憶障害
  • <50mg/dl 傾眠傾向
  • <30mg/dl 昏睡
  • <20mg/dl 痙攣、死亡

Gluを投与する際に

①まず採血しておく(下記に項目を示す)
②VitB1を先行(殆ど同時で良い)投与
③その後50% Gluを投与

Q, VitB1は何を、どれくらい投与するか?

注射用製剤として
・ビタメジン(1バイアル B1, B6, B12が100mgずつ)
・チアミン(10, 50mgなどのアンプルがある)
がある。

ーーーここは読み飛ばして良いーーーーーーーーーー
B1を投与するのは、B1の活性型/チアミンピロリン酸(TPP)が、TCA cycleを回す際に補酵素(ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(ピルビン酸→アセチルCoA)の補完)として必要であるためである。その状態で血糖が入ると、B1がさらに枯渇してしまう。
また低血糖の原因としてアルコール多飲が考えられ、その場合、B1が枯渇し続けることはWernicke-Korsakoff症候群の発生、増悪に寄与するために前もって補充しておくことが重要になる。
ここで改めてどれくらい入れるかだが、Wernickeを考慮する場合はB1 500mgを、考慮しないがB1欠乏を疑う場合300mg、何もなくとも低血糖さえあれば前もって100mgである。根本的にチアミン単独での多量投与は、いくつものアンプルを急いでいるときに開けなくてはならないとなるのは現実的ではない。
B6, B12の投与についてだが、基本的に、単純にinsulinのみを原因にした場合をのぞいて、その他のビタミン群も欠乏していることが圧倒的に多い。そのためB6, B12も投与しておくことは好ましい。
ビタミンB群は水溶性ビタミンであり、過剰投与が問題になることは基本的にはないはずである。
しかし、ビタミンB6(ピリドキシン)は過剰によって深部覚障害をはじめとした末梢神経障害をきたすことが知られている。(ちなみに欠乏でもニューロパチーが起こる、イソジアニド投与の際にB6補充するのはこのためだっただろう。あとは口角炎、ペラグラなど)しかし、一過性にビタメジンを多量に投与したところでたかが知れており、急性期の低血糖の管理としては気にする必要はない。(さっさとB1が入ってくれることの方が肝要)しかしやはり長期的にみるとよろしくないのではないか?相対的にB1が足りないのではないかと、Wernickeの治療としてはここ数年ではビタメジンとチアミンの併用が選択されるようになってきている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一回の投与で問題になるわけでなく、小生は各種採血取り終わった直後でビタメジンを思考停止で5バイアル(NS 100ccに溶解)入れることにしている。

各種採血を取り、すぐにビタメジン5V+生食100ccを。

(2)採血項目

  • 血算
  • 生化学
  • 血糖、HbA1c
  • Cペプチド、インスリン、(プロインスリン)ー①
  • ビタミンB1, B12ー②
  • (血液培養、尿培養など各種培養)ー③

下記に原因疾患の鑑別を記すが、そこから逆算して測定する。

①は当然低血糖の鑑別として薬剤性なのか、インスリンを発生させてしまう何かが存在しているのかなどの鑑別をするために必須の項目である。インスリンが上がっているのに、Cペプチドやプロインスリンが上がっていないのであれば外因性のインスリンを原因として考える必要がある。
重要なこととしてこれは空腹時血糖時として評価しなければならない、とういことである。
そのためこれは補正して安定したのちに、「あ、忘れてた」と急いで取り直しても意味がないのである。
初療でとっておいて診断、治療方針を決定づける重要な証拠を残しておくべきである。
(しかし、これは救急隊でデキスターで低血糖がわかった状態で、レスキューとしてのGluを落としてしまうことがあり初療の段階でもうすでに遅いということもある。)
②は先述の通り、ビタメジン投与のためである。
③敗血症を疑うようなものがあった場合で良いように思う。
敗血症そのものが意識障害の原因とてあり得るし、バイタルだけで絶対に否定できるものではないと思うので、患者さんには申し訳ないが2回刺すことで診断に確実性を持たせるようにしている。

(3)ここで低血糖の3徴を、、、

当たり前のことを言っているに過ぎないが、意外に重要な考えなので、振り返っておく。

1. 低血糖である
2. 低血糖症状がある
3. 血糖が戻ったらその症状が改善する

である。

1がないのに「低血糖だ!」という人間はいないと思うが、、今回これを取り上げたのは3に重きを置いて欲しいためである。
症状が改善しなければ、他にその症状の原因になる疾患を見逃しているのではないかと考えることが必要である。
随時意識障害なら意識障害とそれぞれの症状に対して鑑別を挙げる作業を行うこと。

(4)低血糖の原因を鑑別する。

①本患者はDM持ちか?また薬は何を使っているのか?

当然だが、これを最初に考える。(意外にできていない人が多い印象)

低血糖の圧倒的に多い原因として、インスリンやSU薬などの直接血糖を落とす薬剤の使用である。副次的なものとしては間接的に落とす薬剤の併用、腎機能の増悪によるinsulin停滞、投与量のミス、別個の原因により餌食の減少で相対的にinsulinが増量した、が挙げられる。
この直接誘引、間接誘引は全て聴取することは絶対である。

※直接血糖を落とす?間接的に落とす?

insulinはもちろん、SU薬グリニドなどはinsulinを直接分泌することを目的としている薬剤であるため、直接血糖を落としてくる。(血糖非依存性に血糖降下をもたらす)
経口血糖降下薬と一口に言っても、それ以外の薬は間接的であり、グッと落として単独作用で低血糖を惹起することはないと考えて良い。
以下にSU、グリニドで本邦で使用する薬剤を列挙したので、処方歴と照らし合わせる。

SU→アマリール、グリミクロン
グリニド→シュアポスト、グルファスト

ビグアナイド、チアゾリジンは基本的にinsulin感受性の改善。
α-GIは食後をあげにくくするだけ。
DPP-4はinsulin分泌促進、グルカゴン分泌抑制だが、これは高血糖に伴っての反応性に起こるものでありこれ単独でこれほどの低血糖は起こさない。(血糖依存性)
SGLT2は腎での再吸収抑制から糖を尿中排泄という具合だが、1日に排泄できる(正確に言えば再吸収できる)糖の量は決まっており、間違えなければこれだけで低血糖は起こさない。

適切な表現ではないかもしれないが、小生は直接 or 間接とこのように分類をして血糖降下薬を考えることにしている。(何言ってるんだと言われそうなので、上級医には言わないよう)

①-2 DMではない、直接系の薬剤なし

ここで初めてその他の鑑別を考え始めるで良い。
鑑別は以下の通り。

・敗血症
・副腎不全
・インスリノーマ、インスリン自己免疫症候群、Noninsulinoma pancreatogenous hypoglycemia
・ダンピング症候群
・アルコール多飲
・肝不全
・L-カルニチン欠乏症
・(間接的に落とす)薬剤性

単独でなりうるのは上4つの印象で、基本的に敗血症の結果、肝機能も悪くなって、、とか、腎機能悪くなって薬剤が排泄できず、、とか。overlapする病態は多岐にわたり、原因を全て覚えておき、頭の中であり得る組み合わせを考えておく必要がある。

②インスリン自己免疫症候群、インスリノーマ、Noninsulinoma pancreatogenous hypoglycemia

どれもそれ程頻度の高い疾患ではないが、これらは総じてインスリンを体内から過剰分泌してしまう何かが存在するという病態である。インスリンを投与していないのにもかかわらず、体内がインスリンでいっぱいという一見おかしなことが起きているが、それらを惹起するものとしてこれらを考慮する。

・インスリン自己免疫症候群(Inuslin autoimmune syndrome: IAS)

Basedow病の患者によく多かったことから、この病態との関連を疑った。これは抗甲状腺薬であるメルカゾールが原因であり、このSH基がインスリンのA鎖とくっついてTリンパ球を活性化することでインスリン自己抗体が出来上がった。

※サプリメント??
個人的には「サプリメント飲んでますか?」で有意義になるケースを想起できないことから基本的にはこれを聴取することはほとんどない。しかし、IASを疑った時は数少ない私がサプリメントをclosedに聴取する時である。
なぜなら、原因たるα-リポ酸は十分に摂取される頻度が増えている、かつIASをしっかりと惹起する原因になっているからである。
α-リポ酸は欧米諸国ではDM神経症状に対して使用される薬剤であったが、本邦では、抗酸化作用によるアンチエイジングやミトコンドリアでの脂肪燃焼サイクルを回すため脂肪燃焼に一役買うと痩せ薬的な意味合いで飲む人が増えている。

③ダンピング症候群

胃切除の既往、食後1-3時間程度であればこれを考慮する。

④L-カルニチン欠乏症

L-カルニチンは長鎖脂肪酸をミトコンドリアに運搬し、燃焼を促す運び屋の役割をになっている。Fanconi症候群など代謝異常など先天的異常としてもあるが、後天的に年齢とともに生合成が減り、経口摂取も減少するために欠乏症になりやすい。
肝硬変や慢性腎不全も原因として考えられる。また抗てんかん薬やβラクタム抗菌薬(特に第3世代経口(メイアクト、フロモックスetc))が原因として名高い。前者は脂肪酸代謝や尿素サイクルに影響を与えた結果であるとされ、後者はピボキシル基を持つ抗菌薬であり、これらはL-カルニチンと結合して尿中排泄されるためとされる。
疑った場合は、カルニチンの血中濃度を測定し、L-カルニチン製剤(エルカルチン®︎)を投与(意識障害があればi.v.、なければp.o.)すること。

-原因疾患鑑別-
・高齢、栄養不良
・肝硬変
・慢性腎不全、透析
・Fanconi症候群
・吸収不良症候群
・尿細管性アシドーシス
・薬剤性(抗てんかん薬、βラクタム)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssmn/54/2/54_57/_pdf/-char/ja

⑤間接的な薬剤

抗不整脈薬(β-blo)、ARB、ST合剤、キノロン系
などを挙げる。
やはりこれだけでは起こり得ない印象であり、例えばSUと一緒に…などを考える。

 

 

本日のまとめ

①意識障害で低血糖であれば、まずは浮かんだ鑑別から丸ごと採血をする
②その後即時のビタメジン5Vと50% Gluを
③そこから腰を据えて低血糖の原因を/DMか否かを家族などから確認
④DM薬ならfollow
⑤それ以外、また単独で説明できないのであればその他の原因疾患を探しそちらの治療を

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