ER-症候別

大動脈解離

【0】定義

3膜の内最も脆弱である中膜が引き裂かれて偽腔を作る。
偽腔に血流があるかどうかで下記に3分類する。

①偽腔開存型(communicating aortic dissection)

上記のa-type, true lumenとfalse lumenが交通していることがわかる。

②偽腔閉塞型/IMH(Intramural hematoma/non-communicating aortic dissection)

上記のb-type, こちらは交通していない。
海外ではIMH(intramural hematoma)と呼ぶ。あくまで、亀裂(tear)がないため、壁内血腫である、という認識である。
その上でtearがあれば「IMH with ulcer」であり、内腔が突出していれば「IMH with ULP」である。
本来中膜が破れて瘤になるはずなので、全て開存になるはずだが、血栓で偽腔が詰まること
でこの交通が遮断されることになる。
すなわち
①全て造影される
②偽腔は造影されない
はずである。

③ULP (ulcer-like projection)

偽腔閉塞型ではあるものの、内腔が偽腔へ突出しているケースを指す。
ガイドラインにおいては閉塞した偽腔における、頭尾方向の広がりが15mm未満の造影域を潰瘍突出像(ULP)と定義されている。
一般的に偽腔閉塞型はリスクが相対的に低いが、この場合は、解離腔が増大したり、そこからさらに解離が始まる可能性、また内圧が上がること/その部分が脆弱なことからAortaそのものが破裂するリスクがあるため危険とされる。
また経過良くても経過観察の段階で解離性大動脈瘤になる。
そのため開存型に準じた治療が行われる。
先述した「IMH with ulcer」、「IMH with ULP」はここに内包される。
上図の左側のようにぴょこんと出ているだけのケースは非常に多い。
ちなみに2020年のガイドラインから15mm以上のULPに関しては偽腔開存型とする、としている。
これはまだまだこの部分は器質化しておらず脆弱ではないかということ、またそれもあってまだまだ再度解離になるリスクが非常に高いということで偽腔開存型に準じて方針決定を行う。

一般的に、以前使用されていたDebakey分類は使用しない。Stanfordのみでいい。上図参照。

※PAU(penetrating atherosclerotic ulcer)
適切な和訳がないが、直訳の通り、粥状病変が潰瘍になって穿通するという病変である。
内膜プラークに潰瘍ができ、その結果血腫が中膜、外膜方向に進展していく。結果、外膜の仮性動脈瘤となり、同部位が破裂、貫壁性に破れる。
cf. Lancet P773-788March 04, 2023

【1】診断するにあたって

これに関しては確定するにはCTしかないし、「症状、病歴から疑うことができるか(CTを撮ろうと思えるか)」にかかっている
(所見)
・①上縦隔拡大
・拡張期雑音
・移動する痛み
・②裂けるような背部・肩甲骨内側の痛み(Sn 50 Sp 97)
・③胸痛+脈の欠落/血圧左右差(LR+ 5.7)←Snは低い、Sp高い
・胸痛+神経学的局在所見(LR+ 6.6-33)
痛みの移動?→ Sn 16-31, (+)ならLR 1.1-7.6
痛みが数時間で治まる?→解離が止まっただけ、「切迫破裂s /o」
①~③
0項目 LR 0.1
1項目 LR 0.5
2項目 LR 5.3
3項目 LR 66
※バイタルサインは?
基本的に痛みが大きく交感神経亢進に寄与するイメージがあるため、頻脈や大脈になりそうなものである。
しかし、どちらかといえば痛みの有無に関係なく、脈は走らないし、血圧は上がらないものが多い。
血圧の左右差は感度は低く、なかったからといって否定できるものではないが特異度が高く、sudden onsetの胸痛患者には基本的にルーチンワークとして取っておきたい所見である。
多くは右が下がると思ってもらって良い。後述する心筋梗塞がRCA領域優位に起こることと原理は同じである。
※risk factors
妊娠、HT、男性、高齢者、抗原病、二尖弁、大動脈弁置換後、Marfan、Turner、コカイン、ウェイトリフティングetc
→40歳以下女性のADの半数以上は妊婦
基本的には
・高血圧や動脈硬化といった大動脈壁にストレスをかけ続ける背景病態
・Marfan、E-danlos、血管炎など大動脈中膜の変性、脆弱化をきたす背景病態
を考慮する。

※ADD-RS

Aortic Dissection - A Needle in a Haystack - EMOttawa Blog

上記のようなリスク因子にて検査前確率を想定するAADーRSが存在する。

これとD-dimerを合わせて除外するのがよいとされる。(PMID 29030346)

この陰性的中率は99.7%である。

【3】画像所見

①CXR

・上縦隔の拡大
・calcification sign
・胸水(反応性に出現することがある)
※ 臥位だと広く見えてしまう??
・撮像時の体位:AP撮影,吸気不足,円背
・血管像:大動脈とその主要分岐の蛇行、大動脈瘤、大動脈解離、大動脈縮窄症、左上大静脈遣残(persistent left SVC)
・外傷による血腫:大動脈断裂,胸骨・椎骨骨折,縦隔の術後,医原性(カテーテルやファイバーによる気管・食道損傷)
・腫瘍:悪性リンパ腫、ホジキン病、肺癌(特に小細胞癌)のリンパ節転移、他臓器の腫瘍からのリンパ節転移(特に精巣腫瘍),血管腫、リンパ管腫
・炎症:
 ・肉芽腫性→結核,非定型抗酸菌症,Coccidioidomycosis,サルコイドーシス
 ・胸腔外からの炎症の波及 →下咽頭膿瘍、横隔膜下膿瘍、急性膵炎
・lipomatosis:Cushing症候群、肥満、ステロイド長期使用
・その他:chylomediastinum、リンパ管拡張|ymphangiectasis(リンパ管腫症Iymphangiomatosis)、放射線肺臓炎

②CT

単純CT
外がやや高吸収でありここが偽腔(false lumen)
中はやや低吸収ここが真腔(true lumen)
これがhyperdense crescent sign.
これを造影, 特にdynamic CT(動脈硬化との区別のために単純も撮らないといけない)で確認すると
下記のように偽腔部分に造影効果を認めない。
つまり、血流を認めないということ。
sagitalがわかりやすい。
左鎖骨下動脈から腎動脈まで解離を起こす。
※エコー??
大動脈基部での拡張やflapを指摘できるか
・AR、心タンポナーデの有無である
まず手っ取り早くこれを当ててしまうのがいいだろう。

【4】treatments

初療対応
sBP 100-120を目指してニカルジピンを。
HR<60にすることが予後を改善させるとし、β-blo(オノアクトがbest)を使用する
cf. circulation 2008 Sep 30;118

・開存A型
手術

・閉塞A型
大動脈径>50mm もしくは偽腔径>11mm→手術

・ULPA型
上行にULP→手術

下行にULP→閉塞Aと同じ

・B型
臓器障害を認めない場合は降圧含めた保存加療

合併症があれば、手術

※心筋虚血の合併
PCIを先行させる

【5】合併症

実際先述の通り、A型は何があろうと緊急手術であり、合併症の有無など関係なし。
上行大動脈がentryであることがほとんどであり、上行置換術が選択される。弓部以下であれば、全弓部置換が選択される。
考えなくてはならないのはB型解離である。
B型解離の治療方針を決定するのが「malperfusionの有無」である。
※malperfusion
・解離した内膜が分枝内に入り込んで、分枝血流を阻害する
・tearがある場合、そのflapが分枝を塞いでしまう
これらから起こる分枝の血流障害とその臓器障害である。
これらが起これば緊急、準緊急のTEVERの適応になる。
これは是正する必要があり、ステント挿入により、真腔還流増加+偽腔圧低下を目指す。
近年ではAortaの修復より先に、malperfusionの改善を目指した方が予後がいいとされる。
これは勿論A型解離も同じである→A型解離とmalperfusionを切り離して考えることを推奨するものではない。先述した通り、冠動脈病変の合併はこちらのPCIやCABGを先行させるのがよいとされるが、勿論これもmalperfusionの1つである。
malpefusion(+)以外でいえば
・持続する疼痛
・瘤の破裂、切迫破裂
・解離腔の進行
などはTEVERの適応になるため注意する。
①総頸動脈閉塞やintimal flapなどから脳梗塞→左上下肢麻痺を惹起することがある
左上下肢麻痺であればX-p,胸部CTは撮影しておくべき(t-PA適応なら猶更)
②心筋梗塞
③AR
解離腔によって冠動脈入口部が圧排される。
もしくは進行して冠動脈そのものに解離が至る。
ことにより心筋梗塞が起こる。基本的には外側から解離が起こるので、RCAの起始部に梗塞が起こる。裏を返せば、II、III、aVFのST-T changeを認めた場合、解離を逆に疑うことができるか、ということになる。
ちなみに本筋からは少し逸れるが、RCA梗塞ではIII誘導優位のST上昇を認める(IIと比して)。
同様の理由で、大動脈の基部が拡張し、相対的に大動脈弁閉鎖不全になる。A解離の6-7割に生じる。
④心タンポナーデ
解離腔に溜まっている血液が圧較差から心膜の間に入り込むことで心嚢液貯留、心タンポナーデに至る。
⑤嗄声、嚥下障害
反回神経、迷走神経の障害
⑥胸腔内出血、縦隔出血
下行大動脈からの浸潤
⑦下肢の対麻痺、パレステジア
→脊髄横断症状としてのもの
Adamkiewicz動脈の障害
⑧腹腔動脈以下の症状
腎不全、腸管虚血、麻痺性イレウス、後腹膜血腫、下肢単麻痺、下肢の疼痛
ABOUT ME
aas
野戦寄りの病院で救急医をしております。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA