【0】循環とはなにか
「循環とはなんでしょう?」
「何を以て循環が保たれていると言えますか?」
この質問に明確に答えられればここからの数稿は不要だと思います。
後者の質問から行きましょう。
「循環が保たれている」
=sBP>90
これは10点くらい。
確かにこれくらいを目指していきますが、それは結果論ですし、必要十分とは言い難い。
正解から言うと、
「循環が保たれている=重要臓器などにて十分な好気代謝をするために、必要な組織灌流が担保されていること」
一番の大きいポイントはここです。
組織に灌流するために必要な血圧(平均血圧であることが多い、この後はMeanと表記)を担保することで、組織まで届き、さらに同部位での毛細血管を超えるための最低限の血圧が確保されるのです。
この組織灌流を形式上perfusionと呼びます。
また先ほど、好気代謝と言いましたが、組織の運用に好気代謝が必要なことは想像に易いと思います。
そのため、酸素が十分に運搬されていることが必要です(oxygen delivery)。
・perfusion
・oxygen delivery
の2要素がどちらか逸しただけでも保たれることはない。
と考えるべきです。
下記は上記について簡便に理解するための基本的な生理学を説明します。
【1】perfusion(=組織灌流)
(1)perfusionと血圧
血圧が十分に保たれていれば、あとは流れに乗っていく…はずだが
例えば十分な血圧が保たれていても「動静脈シャント」などがあればそうは行かない
逆に考えれば、血流に乗るものは全て血圧、心拍出量に依存するはずである
例えば「血糖」
臓器灌流に必要な圧をMeanにて担保する必要がある。
MAP-CVP(もしくは臓器圧)=臓器灌流圧
である。
勿論CVPがMAPと比してかなり小さく、血圧が非常に低い場合に困るのは、例えば特定の臓器に灌流させたい場合にその圧を乗り越えられないことがある。高すぎるhyper perfusionもよろしくないのでちょうどいいところをたもつ。灌流圧が50-120mmHg程度が適切である。このプラトーでいれる圧の幅は各臓器で異なる。例えば脳は50-140までOK。
もしくはと書いたのは、結果としてCVPもしくは臓器圧の高い方が採用される。
結果として臓器圧の方が乗り越えるのにしんどい場合は還流される圧がその分低くなるのは理解できるだろう。
上記をもうすこし、生理学的に考えてみる。
先ほど申し上げた通り、最後に「組織に灌流するために毛細血管を越えなくてはならない」
という問題がある、
そのためには「毛細血管の入口の圧ー出口の圧」を生み出す必要がある。
これはおおまかに言えば「動脈圧ー静脈圧」である。
流体力学的にいえば、

(Q 流量、ΔP 圧較差、D 管の半径、μ 流体粘度、L 管の直径)
で表される。
流量を上げるために、こちらが関与できることは、勿論圧較差、つまり「動脈圧ー静脈圧」をあげてあげることである。
動脈圧を上げるために、最低限の血圧を上げてあげるのである。
そのためsBP>90にしよう、Mean>65にしよう、は大まかにこれらの最低限の血圧が、この付近にあるとされているからである。
(2)各臓器圧
先述の通り、それぞれの臓器で圧が違う。
そのため、それぞれの臓器に灌流させるために必要な血圧が違うということである。
下記、脳や腹は上記CVP(中心静脈)から遠くその影響を受けがたい。
それよりもその臓器圧の方がしんどいのでそれを乗り越えた先がその臓器に還流される、perfuseされる圧となる。
下記脳であれば、その臓器圧がICPであり、腹なら、IAPである。
①脳
脳の灌流圧(CPP:cerebral perfusion pressure)は上記の定義から
CPP=MAP-頭蓋内圧(ICP:Intracranial pressure)
にて定義されることになる
勿論一番血流が必要な臓器であることは言うまでもないが、CPPを保つために
①MAPを上げる
②ICPを下げる
の2つの方策が取られる。
後者にて脳浮腫の管理などを行うのである。
cf.脳浮腫管理
先述の通りで、猶予はかなり広いためMeanの設定は、灌流だけ考慮すれば厳密にしなくてもよさそうである。脳出血において、などそのほかの交絡要素はあるので、おそらく厳密になりそうだが。
②心臓
つまり冠動脈として担保される圧は?ということ。
基本的な部分であるが、冠動脈には拡張期に広がったときに血流が流れる。
つまり、この場合のみmeanではなく、拡張期血圧に依存する。
冠動脈灌流圧=dBPー右房(拡張期)圧
≒ dBP-CVP
③腸管
集中治療領域で、循環破綻した患者の加療をしている最中に、腸管壊死、NOMIになりました、ということはたびたび経験される。
これはショックにおいてカテコラミンを使用した場合などを考慮する。
一般的にカテコラミンを使用すると、持ちうるvolumeの中で血流を再分配するようになる。
重要だと思う臓器に血流を持っていき、不要だと思われる臓器の血流を犠牲にするのである。
これが顕著になり、消化管を犠牲にして、脳血流を担保するようになる。
(PMID 11420490)
あとは、腹部手術後の出血、イレウス、腹水の存在から腹腔内圧上昇をきたすことがある、その結果の腹部コンパートメント症候群(ACS)にも注意する必要がある。
腸管の灌流圧もMeanでよい
灌流圧=Meanー腹腔内圧(IAP)で表される。
IAPを測定することは困難であるため、膀胱内圧で代替する。
ACSを疑う場合は膀胱内圧をモニタリングすることで、評価する。
【2】oxygen delivery
DO2(=全身への単位時間あたりの酸素供給量)とほとんど同義である
①DO2=CO×CaO2(ml/min)
②CaO2=1.34×Hb×SaO2+0.003×PaO2 (ml/dl)
上記の2式が重要である。(CO 心拍出量、CaO2 動脈血酸素含有量、SaO2 酸素飽和度)
①
DO2=CO×CaO2
=13.4×CO×Hb×SaO2
上記のように展開できる。
結局DO2が担保できればいいので、必要なのはHbとCOとSaO2
一番上げ易いのはHbです。輸血してしまえばいいので。
COを上げる余地はないか、酸素化を上げる余地(利尿や呼吸器設定など)はないかなどを考えつつ、調整するのがよい。
②
後ろの項(血漿成分の分)は微小で無視できるため、CaO2=1.34×SaO2×Hb(ml/dL)に近似できる
→動脈血1dL当たり、Hbと結合した酸素が何mlあるかという計算
つまり、CaO2をあげるためにはHbをあげるか、SaO2をあげる必要がある。
※1.34はHbの結合能を指す、Hb 1g当たり1.34mlの酸素と結合できるの意。
本来1.39だが、COHbやMetHbを除くとこれくらい。
COの単位は勿論 回/minであるから
DO2=CaO2×CO×10となる
DO2をキープするために
Hbは7
SaO2≒SpO2は90
CO
SVO2でDO2の効果判定をする
SVO2で60-70%あれば良い
正確に取るならganzカテだが、ScvO2(from Vas-Cath)も10%の誤差(位置はSVCとする)で見ることができる
(Intensive Care Med 2004;30:1572-78)