【0】輸液をする理由
輸液をする意味は、循環の担保である。
前項で説明した通り、oxygen deliveryとperfusionの2つの軸がそれぞれしっかりしていないと循環が担保されない。
そのうち、後者であるperfusion(組織灌流)を保つために十分な灌流圧(≒血圧)が必要。
それをもたらすのが輸液である。
静脈灌流量を上げ→平均血圧を上げ→全身、臓器の灌流圧を上げる
→心拍出量を上げ→DO2(酸素供給量)を上げる
つまり、輸液をすることはperfusionとoxygen deliveryを同時にあげ、循環不全を改善する方向に至る。
現在これを読んでいるあなたには今輸液は必要ない。十分な灌流圧が保てる状態であるからである。
我々が、ICUやERにおいて診療にあたる、おおまかに「循環が破綻している」といえる患者はそうはいかない。
そのため、
まず輸液をする前に、
①輸液必要性はあるか
②輸液をどれくらいしたところで再評価するか
③輸液反応性はあったか
④なら次点の加療はなににするか
の順に必ず追って治療しなくてはならない。
ただ漫然と輸液を落としてもいけない。
【1】前負荷、心拍出量、後負荷に分けて考える
心収縮力は上記3項目がそろって初めて規定できるものである。
それぞれが独立因子なわけではなく、
①前負荷が増えると、心拍出量が増える
②後負荷が増えると、心拍出量が減る
前負荷、すなわちVenous returnが増えることで、starlingの法則から心拍出量が増える。
後負荷、すなわち血圧が高いほど、左室から出ていきにくく、心拍出量が減る。
そのため、これ以後この項では前負荷を容量負荷、後負荷を圧負荷と呼ぶ。
まずここでStarlingの法則について簡単にかいつまんで説明する。
一言で言えば、「容量負荷が増えるほどに、心拍出量が増える」の①そのままを言っているだけである。
もう少し、生理学的なお話しをすると、「拡張期に心筋が伸展すればするほど、弾性力を持って収縮し、心拍出量が増える」
というわけである。拡張期に伸展するは、いかに容量負荷が入るか、と同義といえることは理解できるだろうか。
なので①が成立するのである。厳密にいえば、Starlingの法則は「心収縮力や圧負荷は同じである」という前提の上で話を進めているので、交絡因子は考慮されていないが、概ねある程度は許容できる。
勿論、あまりに容量を上げすぎた結果のボリューム過多としての圧負荷増強や、心不全患者であって心拍出量として十分担保できない可能性があり、一定以上を超えたタイミングで、心拍出量が下がっていくポイントがあることは理解しておく必要がある。
【2】輸液反応性について考える
「細胞外液を1L入れたところで血圧が上がってきたので輸液反応性があります」
「1.5Lほどいれましたが、血圧があがりません。輸液反応性がありませんでした」
これらはある意味正しくて、ある意味で間違っている。
輸液を入れて血圧が上がることのみを反応性と呼ぶのであればどれほど簡単であるか。
輸液反応性を見るための方法はいくつかある。以下列挙した。
・輸液チャレンジ
・SVV/PPV
・IVC/SVC
・PLR
・EEOテスト
大まかに上記のものが挙げられる。
それぞれ詳細にみていく。
①輸液チャレンジ
一番簡便で、わかりやすく使用されるものではないか。
500mlの晶質液を10-30分かけて急速投与した結果、1回拍出量(心拍出量)が10-15%上昇すれば輸液反応性ありと判断する。
これを理解するのにはFrank-Starlingの法則に基づいて考えるといい。

縦軸が心拍出量、横軸が前負荷である。(SVの記載の曲線がFrank-starling曲線である)
前負荷がまだまだ乏しい段階(A)では少しの輸液にて心拍出量は大きくあがるが、ある程度満たされると(B)心拍出量は殆ど上昇しない。
輸液反応性があるのは、前負荷が足りない(血管内volumeが足りない)患者である。
上図のもう1本の下に凸な曲線、Mark-phillips曲線という。
これはEVLW(Extravascular lung water/肺血管外水分量)である。輸液負荷をすることで、左室内が充足しているために、肺血管外にどれだけ水分が漏れ出るかということを評価した曲線である。
AよりもBで漏れ出る量が多いのは肌感覚としても当たり前であり、充足した後の輸液は当然のように溢水をきたし、有害である。
ちなみにこのMark-phillipsの曲線はARDSやsepsisなどの重症病態において左方移動してしまうことが知られており、管理を怠ると容易に血管外漏出をおこしてしまう。
先ほどの「なぜ、輸液を行うのか」にもとづいて考えると、輸液の意義を最も直接的に、視覚的に評価できているのはこのチャレンジテストではないかと思う。
しかしながら、「ICU入室患者で輸液チャレンジにて反応性があったのは50%程度」とされる。
これは、輸液チャレンジの不完全性ではなく、「輸液が必要と判断し、本当に輸液が必要だったのが半分程度しかいない」
ということを示している。(PMID:21906322/21705869/23774337)
またチャレンジテストの不完全性として30分以降の評価は考慮していないことが挙げられる。
ICU入室するような重症患者において、晶質液がしっかりと血管内に残存するかどうかは疑わしい。
ボーラス投与した1時間後には血管内に5%ものこっていないとされる(PMID23649099)
②SVV/PPV(stroke volume variation/pulse pressure variation)
強制換気下においては非常に有効な指標である。
人工呼吸器設定下において、動脈圧の振幅から1回拍出量を推定できるとされる。
PPVは脈圧の最大値と最小値の和を平均値で除したもので表す。
デメリットはかなりの制約下でのみ指標たり得ること。
・強制換気下である
・洞調律である
・右心不全がない
・肺コンプライアンス>30ml/cmH20
・1回換気量>8ml/kg
③IVC/SVC
IVCであれば超音波にて簡便に済むことがメリット。
SVCの方がIVCより信頼度が高いとされるが、経食道エコーが必要になるので、無論現実的ではない。
④PLR

圧倒的に簡便である、がメリット。
他動的に両下肢を挙上させる。これにより、下肢から胸腔内に300mlほどの血流が移動するとされる。
その結果上昇したvenous returnにて心拍出量が増えるかを判断する。
このメリットは評価項目は輸液チャレンジと同じであるが、輸液そのものをしなくていいことである。
PLRによる輸液反応性の精度はかなり高く、Sn86/Sp92である。(PMID26741579)
上図のように、最初は45°半座位を推奨しているが、先述のメタ解析では臥位スタートであり、この限りではない。
血圧ではなく、必ず心拍出量を測定すること、患者には触れないこと、リアルタイムでの心拍出量を測定することを推奨している。
また最後には半座位に戻したときに心拍出量がもどっていることを確認してから輸液負荷をすることを推奨する。
Q.輸液反応性があった!が全て是であるか?
イメージとして「輸液にて心拍出量は上昇したが、循環が保たれない(たとえば血圧があがらない)」という状況は考えられるだろうか?
これは生理学的な言葉だけに言い換えると、
「前負荷に対する心拍出量の上昇は認めたが、その他の構成要素としては不十分であったので血圧が上がるまでには至らなかった」
といえる。
よく、「sepsisを疑う患者に対して、輸液を行い、血圧があがらなかったので、輸液反応性がないとしてノルアドレナリンを開始しました。」というプレゼンを聞く。
これはある意味で不完全性を孕んでいる。
まず「輸液反応性がない」は正しいのだろうか。
このプレゼンのいけないところは血圧があがらない=輸液反応性がないとしているところである。
心拍出量はおそらくそれなりに上がっている。多分チャレンジテストとしては輸液反応性ありになるのである。
しかしながら、血圧があがらないのはなぜか。
これは「血圧を構成する要素が前負荷、心拍出量、後負荷の積算」であることを失念しているためである。
正確に言えば、輸液反応性はあると言えるが、敗血症にともない末梢血管抵抗が低下しているために血圧があがらない。
と言わなくてはならない。
ーーーここから先はかなりadvancedであり読み飛ばしてもよいーーーーーーーーーーーーーー
これを画一的に考慮する際に理解すべき概念として「dynamic arterial elastance(Eadyn)」がある。
elastanceはcomplianceの対義語であり、どれだけ動脈が伸縮から戻りやすいかを表す指標で、
Eadyn=PPV/SVV
で算出される。
つまり、1回拍出量の変動によって、どれくらい脈圧が変動したかを表す。
Eadynは、MAP(COではない!)を上げる指標としてSn94/Sp100と非常に鋭敏であるとされる。(PMID:21226909)
先述したとおり、SVVやPPVは自発呼吸があると正確な評価とならないとされるが、Eadynについては、問題なく評価できるとされる。
Q.PLRを逆利用する?
PLRはマイナスバランスをプラスバランスに持っていくことを目標に予測を立てるものだが、逆はどうだろうか。
まず、PLRは「心拍出量が前負荷依存に上昇するかどうか」を判断する材料である。
言い換えれば、「前負荷が減少すれば、心拍出量が減少するのではないか」という仮説を立てることができる。
まず「循環不全から輸液療法にて血行動態が改善した患者に対してIRRTを使用することで除水が必要と考えているケース」を考える。
そこで、除水の忍容性を推定するのにPLRが使用できるのではないかと考えた。
IRRTにて血圧低下した群は、しなかった群と比較して、透析前のPLRのによるCO上昇値が14-5%と有意に高くなっており変化率が高いほど血圧低下をきたしやすいことが明確になった。7-9%を明確なカットオフにしやすく、それ以下であれば問題なく除水できそうである。

PMID27207178