ER-症候別

腎盂腎炎

超高齢化社会、圧倒的に高齢者の発熱として、外来でも入院患者でも見る機会の多い疾患である。しっかりと理解しておいた方がいい。
概ね、小生の考えていることはまとめたように思う。

発症当日から食思不振、嘔気(54%)が先行し、悪寒戦慄を伴い片側の側腹部・背部痛を伴う発熱

ちなみにこのような前駆症状がなく、尿所見だけで診断するのは危険。その他の疾患を鑑別してからにすべき。
例えば18-49歳の健康な女性の腎盂腎炎にfocusを当てたstudyにおいては(Ann Intern Med. 2005 Jan 4;142(1):20-7.)
側腹部痛(86%)もしくは発熱(77%)のいずれかは95%ある
また排尿障害、頻尿、尿意切迫感が83%に見られたとされる。

上記の所見からd/dを考える
・胆嚢炎、胆管炎、肝膿瘍
・PID
・虫垂炎、憩室炎
・尿路結石
・腹部大動脈瘤切迫破裂

[1]Dia

・腎双手診、CVA
・膿尿 WBC>10個/HPF→尿検査の有用性
・グラム染色 細菌>1個/HPF
・血培
・(Abx投与前に)水腎や結石の除外
・単純CT:周囲の脂肪式濃度上昇(無論疑うなら造影が望ましい)

Q,造影行こうと思わせるときは?

①バイタルの大きなくずれ、ショック
②再発例
③結石による閉塞
④compromised host(uncontrolled DM、免疫不全など)
⑤発症数日してからの来院
⑥痛みが激しい(結石による閉塞、膿瘍形成、AAA、appe、穿孔などを考慮する)

研修医時代の指導医の受け売りであるが、小生はこれらがあったら行くと決め打っている。

[2]class

①単純性腎盂腎炎

若年健常女性(基本的に閉経前とする)はこちら。
閉塞や背景疾患を有しないものを指し、抗生剤投与から72時間以内に解熱する。

②複雑性腎盂腎炎

閉経後の女性や男性など、何らかのリスクを持ってして感染した腎盂腎炎を指す。
閉塞やcompromised hostであること、デバイスなど異物が入っていること、など医療関連を考慮するものが多い。
特に尿管結石や泌尿器/女性器の腫瘍、先天性奇形(この場合若年女性もこちらに分類)などを原因とした閉塞を原因とするものが多い。また閉塞によるものは、細菌尿が停滞しながら、閉塞のために腎盂〜尿管内圧が上昇し、血中に細菌が移行していくために敗血症のリスクが高い。
閉塞性腎盂腎炎においては抗生剤治療と同時に、ステントなどドレナージが必要になるためこの診断は必要になる。
Clin Infect Dis. 2010 Dec 1;51(11):1266-72.

ORの高い方から
・History of ephrolithiasis(結石症の既往)
・GFR≦40ml/min
・Urine  pH≧7.0
・male sex
これらはOR 2以上になるわけであり、ある程度疑わしいため、閉塞性腎盂腎炎疑いとしてCTは必要になると思われる。
これのいずれも除外できている状態なら十分にr/oできる。

※逆にCTを先行した場合、一般的に使用される造影剤のpHが6.5-7.5であるため尿検査の評価には注意する。

[3]身体所見

頻尿 LR+ 1.8 LR- 0.6
側腹部痛 LR+ 1.1 LR- 0.9
背部痛 LR+ 1.6 LR- 0.8
CVA LR+ 1.7 LR- 0.9

[4]画像

・腎周囲の脂肪織濃度の上昇(PFS/perinephric fat stranding)
・水腎
・Gerota筋膜の肥厚

これらは単純の時点で見ることができる。なんならエコーでも十分にわかるものもある。
上記のバイタルの崩れなどを満たしていなければ、決して造影剤を使う理由はない。

(造影)
早期相のみで認める造影不良域

cf.自験例

これらを認める場合には診断として良いだろう。
勿論繰り返しになるが、simpleな腎盂腎炎を対象にして造影剤をかけることはない。
繰り返すから背景疾患はないか?とか、バイタルが崩れてsepticで、compromisedだけどその他にfocusはないか漏らしたくはないよな、、、
とかそういったケースでなくては不要。

[5]治療

まずはempiricに
グラム染色ができる環境であれば、抗生剤選択の段階で染めてしまうことが望ましいと考える
→尿のグラム染色については別項で解説する

(経口)

①バクタ 4T2x 14days
②LVFX 500-750mg 1T1x 7-10days
(妊婦)セファレキシン 250mg 8T4x 10-14days

※G/Sで細菌をすぐに目視できることが一番望ましいが、それが困難な場合は①、②を選択すること。
いずれも妊婦禁であること、また妊婦である場合に耐性菌などの検査前確率は明らかに下がることから、E.coliの非耐性であることを願ってセファレキシン経口投与とする。compromisedであったり、抗生剤投与歴があったりする場合は入院加療で下記の妊婦にも安全な抗生剤を選択すること。
一つの手としては外来の時点で、CTRXを滴下することで、24時間分の抗生剤加療を安心に済ませることである。
帰宅希望がどうしても強い患者を症状安定するまでCTRXを毎日落としに来ることという折衷案を使ったことは何度かある。

 

(点滴)

①CTX or CTRX
②PIPC/TAZ

過去の尿培養の結果があることが望ましい。
特にない状態であれば、「耐性菌がありそうか/なさそうか?」という曖昧な判断をその場ですることになる。
ESBLなど耐性あり得そう、SPACEなどまで考慮せざるを得ない背景がある場合は当然②を選択する。
それらがなさそうであれば、①で好きな方を使う。(CTXの方がCDIのリスクは少しだけ低い?、CTRXは単回投与で良い。この辺を天秤で)耐性は
・過去の培養
・過去の(特に直近半年を)抗生剤治療歴
・尿カテが留置されている
・入院歴、施設など医療関連の感染症として良いもの

これらの背景がある時に有意に考える。
勿論初療の段階で、sepsisなどを考慮する場合、安定するまで、尿培養が出るまではwideで良い。

単純性→10日間
複雑性→10-14日間
血液培養陽性例→14日間

※入院適応

・バイタルの破綻/sepsisを疑うもの
・compromised host
・餌食困難、(中等度以上の)脱水

これらがある場合は、経静脈的抗生剤の投与が望ましい。
これらがないのであれば、念の為血液培養を採取した上で、p.o.による抗生剤加療でも良い。

[5]入院後フォロー
臓器パラメータ=側腹部・背部痛、CVA,腎双手による圧痛
抗生剤投与後の4hrでの菌消失もしくはfilamentaion
72時間解熱しない場合は造影CTフォロー(13%は解熱しない)

※解熱しない可能性は?
①膿瘍形成している、閉塞機転がある
②当たっていない(腸球菌など)

天下の青本によれば、通常の腎盂腎炎であっても、微細な膿瘍形成をきたしているので72時間まで解熱しない可能性がある模様。
よって72時間で造影をかけるのだが、基本的にはそれでも解熱しない場合は①を考慮した方が良い。
またCTRXやCTXを投与していたが、蓋を開けてみればEnterococcus faecalisでしたというケースは時々ある。(個人的には耐性考えても今挙げたセフェムに分があると思う、初療の投与としてはこちらが適切だと考える)こういったことを起こさないためにもすぐにグラム染色をしてGNRであることを確認すること。GPCであれば、腸球菌や黄色ブドウ球菌など治療を変えなくてはならないため。こちらについては後述する。

[6]その他の疑問点

①G/SでGPCがでた場合の取扱い

・まずは再検を、慎重にもう一回採取しておく

ここでGPCになった時の起炎菌を考えてみる。
Enterococcus spp.
Staphylococcus spp.

その他も考えられないことはないが、この2つで(Enteroが多い)殆どを占めることになる。

‘Enterocococcus spp.’

Enterococcusは腸内細菌であるから、女性ではcontaminationになる可能性が十分にある。これが男性であれば真の起炎菌として判断すべきであろう。
faecium(球状で重なりがある)
faecalis(やや楕円型)

がメインの菌になるが、いずれも連鎖する。
名前も形も正直似通ったもので判断が難しいのだが、治療方針からするとここははっきりと鑑別する必要がある。
faeciumはVCM、faecalisはペニシリン」だからである。
faeciumはペニシリン耐性菌であるという危機感がないといけないので、この事実は覚えなくてはならない。
尿からEnterococcusが採取された場合(コンタミでないとして)、G/Sの時点で「faecalisの可能性が高いが、faeciumもなあ…」とどちらか判断に苦しむならVCMを選択しなくてはならない。
因みにfaecalisにVCMはちゃんと効く、βラクタムと比して非劣勢であるため安心して欲しい。
cf. Int J Antimicrob Agents. 2019 Jun;53(6):761-766.

因みに、感染症ジャーナルにおいて前橋赤十字病院の林氏らの発表した“peanut sign”は有用かもしれない。
落花生のように中心に切れ込みを認める(peanut sign陽性とする)とペニシリン耐性菌であるケースが有意に多かったとするのである。peanut(+)のfaecalisがなかったこと、faeciumが多かったことが挙げられる。(peanut(-)のfaeciumが
一定数あったことには注意が必要)
これは覚えておいた方がいいかも。
cf. http://journal.kansensho.or.jp/Disp?pdf=0930030306.pdf

‘Staphylococcus’
菌種は
・S.aureus
・S.saprophytics

の2つを考慮する。
これらはG/Sで判断することは極めて困難であり、clusterに見えた場合、Staphylococcusなんだなで良い。

加えてEnterococcusであれ、StaphylococcusであれIEを考えければならない。
特にfaecalisはブドウ球菌ほどでないがIEの起炎菌として有名なもの。
これらが検出された場合IEのその他の徴候はないかの検索はした方が良い。
当然血液培養はとっていると思うので、そちらとの照らし合わせも是非。

改めてUTIの起炎菌は殆どがGNRだが、不潔や尿カテなどがあって尿道から「逆行的に」入ってくる逆行性感染である。
この表現が正しいかは置いておいて、GPCの場合、コンタミであるか、菌血症がベースにあり、「順行性に」腎に押し出されたケースであることを頭に入れておいた方がいい。

 

②真菌が出た場合の取扱

基本的にはcandida spp.が殆どだが、そこにいるだけのことが殆ど。
血液培養からでてきたら、それは本物の「カンジダ菌血症」だが、尿だけではフォローアップで良く、抗真菌薬により積極的に叩くことは不要。
もちろん、初療段階でバイタルが不安定で、かつcompromised hostであったり、尿カテの留置など明らかにリスクが高そうな患者の場合は各種培養を採取した上で広域に叩いておくことは良いことである。(この場合やめ時が難しいが、、、)
少なくともUTIの起炎菌としてcandidaというのは基本的に考えなくて良い。
先ほどのGPCのように、菌血症からの順行性?のみを考慮しておく。

 

 

 

③尿カテーテルはどうするか?

根本的に尿カテ挿入がUTIそのものの十分なリスク因子である。
ERに尿カテの入った発熱患者が来たら真っ先にUTIを考えろということである。
因みに日本泌尿器科学会の感染制御ガイドラインには、
閉塞しがちな患者では1-2週間に1度、閉塞がなくても1-2ヶ月に1度は交換すること」と推奨している。

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