集中治療

集中治療における鎮痛

【0】基礎

鎮痛なくして鎮静はない。
挿管やその他の留置物の疼痛、苦痛が大きくそれだけで不穏になってしまう。
まずは鎮痛を適正にすること。
基本的にはCPOTで評価し、CPOT<2-3を目指す。(発語など意識問題なければNRS<3-4でも良い)

 

 

【1】まずオピオイドに飛びつかない

集中治療室の鎮痛というからにはオピオイド、という考えになりそうだが、別に通常診療における鎮痛と大方針は変わらない。
まず、痛みの原因検索と、原病の除去がなによりなのはいうまでもない。
その上で薬剤であるが、
非オピオイドで済むのならそれにこしたことがない。

・非オピオイド性鎮痛薬

①非神経性疼痛への薬剤

・アセトアミノフェン(アセリオ、カロナール)

・NSAIDs(ロピオン、ロキソニンなど)

・ケタミン

→基本的には上記で済むのなら、ここから進めたい。
ケタミンは鎮静作用も含めてあり、これらがメリットになるときもデメリットになるときもあり、患者さんに合わせて使用したい。

 

②神経性疼痛への薬剤

プレガバリン、ガバペンチン、カルバマゼピンなど

③神経ブロック

④IVPCA、硬膜外麻酔

 

これらを組み合わせた上で、自制内になるのであればこれで十分である。
しかしながら、一般的に術後入室になった患者さんはこれで十分な鎮痛が得られないことが非常に多いため、慣習的にはいきなりオピオイドを使用することが多い。(そのような患者が挿管帰室になることが多いことも大なり小なり影響していると考えられる)

 

【2】オピオイド

下記の強オピオイドを使用し始めることが主流である。
有名な副作用である

①呼吸抑制
②便秘
③嘔気

は懸念される。
それぞれ方策は明確であり

①呼吸抑制→呼吸器設定にて管理
②便秘→ピコスルファートセンノシドなど(酸化マグネシウムもあるが、蠕動の低下の側面が強く前者がより効く)
③嘔気→大建中湯モサプリドメトクロプラミドなど

 

 

1)フェンタニル

フェンタニルが基本的には主流。
腎障害があっても基本的には減量が必要ないとされている。
しかしながら、腎、肝代謝であり、透析レベルであると効果遷延も経験するため注意する。
鉛管現象(like a parkinson/こわばりが続く)は副作用で稀に遭遇する。

・dose
原液(1mg/20cc)を0.5cc/hrから。少しずつ増減していく。
1hr分のフラッシュは可。
基本的には天井効果はないので際限は理論上はないが、、、

 

2)レミフェンタニル

後の選択肢としてはレミフェンタニルも可。
2022年から「集中治療における人工呼吸中の鎮痛」に対して適応が承認された。

メリット
①切れ味がいい超短時間型である(作用発現まで1分、消失まで5-10分)
②腎障害、肝障害があっても別経路で(血液中、組織中のエステラーゼ)代謝されるため高度な障害があっても使いやすい
③上記ゆえ蓄積性が少ない

・dose
2mg 1VをNSで溶いて 2mg/20cc、もしくは5mg 1Vで5mg/50cc
基本的には50-200μg/hrで投与する。
50kg換算で0.5ml/hr(50μg/hr)で開始して増減。
フラッシュは禁。

 

※レミフェンタニルはフェンタニルの代用になり得るか?

現在はフェンタニルの出荷制限がかかっており、再開の目処も立っておらず、そう簡単に使いにくい状況が続いている。
一般的に集中治療室において鎮痛にフェンタニルを使用することはあれど、レミフェンタニルを使用することは殆どない。
現状フェンタニルの安定供給の目処がたっておらず、ICUにおいてフェンタニルの代用としてはモルヒネを使用している施設も多いだろう。
術後疼痛に対して使用するべきかと言われると難儀である。
集中治療室においては基本的に「人工呼吸器管理下の鎮静との併用」に使用するのにとどめておいた方がいいだろう。
術中管理でさえ、レミフェンタニルはおろか、フェンタニルでも、循環動態の破綻は考慮され、(血管抵抗をあげるような)カテコラミンのバックアップは概ね必要になる印象である。
ただの術後鎮痛において、レミフェンタニルを静注で使用することは、カテコラミン(特にノルアドレナリン)が嵩んでしまうのであまり望ましくない。(レミフェンタニルはフェンタニルよりも循環動態を破綻させやすい)
挿管管理において、挿管による疼痛管理のみであるならば、ノルアドレナリンのバックアップをもとに、少量のレミフェンタニルを持続静注することは考慮されるだろう。
また、どうしても術後疼痛としてフェンタニルが使用され、かつ量が嵩んでしまう場合(>5ml/hrなど)には、レミフェンタニルの併用は考慮される
ただ、基本的には、術後疼痛管理そのものに対してはIVPCAを使用するべきであるし、可能なものなら神経ブロックなどを併用していくべきであろう。
レミフェンタニルもモルヒネもフェンタニルもμ受容体作用であり、それに伴う効果を発現している。
勿論、モルヒネの使用にあたっては、腎代謝であり、代謝産物の蓄積が問題視される。
また、ヒスタミン作用による掻痒感がみられることがある。
引き換え、レミフェンタニルは非特異的エステラーゼにて代謝され、代謝物もほとんど残らない。
それならば、レミフェンタニルの切れ味の良さから、在室や人工呼吸器管理期間が短縮できるのではないかと考えられた。(PMID:28774327)
人工呼吸器管理期間は少なからず短縮され、特にフェンタニルと比して特に短縮できる。
在室期間などは短縮されず、必ずしも必要なものではないが、この結果を見るに、腎障害などがあり、その他の代謝経路では他のオピオイドよりは効果遷延が考慮される場合には選択されてもよいだろう。
当然であるが、使用における副作用としての、
・呼吸停止
・鉛管現象
には注意しておくべきである。
(肌感覚は鉛管現象はいうほどない印象)
これも含めて、術中以外での使用は挿管管理下に限られるべきであると考える。

 

 

※1オピオイドの副作用
便秘、呼吸抑制、循環抑制、麻薬呼吸など

※2モルヒネはどうか?
他2剤に比べて循環抑制の要素が強いため、これらを使おうという全身状態が不安定な患者にはやや使いにくい。

※3麻薬呼吸とは
呼吸抑制に起因した呼吸回数低下を一回換気量で代償しようとする呼吸様式。
分時換気量としては代償されることが多いので問題はなさそうだが、同調性などに注意する。

 

3)レペタン(ブプレノルフィン)0.1mg/ml

0.5-1A i.v.
持続投与は2-5A+NS
それなりに強く、持続で使えて、オピオイド系だが非麻薬。
かなり強いので2A+NS/48ml 2ml/hrとかからでよい。

 

※セロトニン症候群に注意せよ!

フェンタニル、トラマドール、ペンタゾシン(ソセゴン)は原因薬剤として知られる。集中治療の鎮痛の現場にて疑うような所見(説明できない高体温、高血圧、クローヌス、頻脈、腱反射亢進など)を認めた際には疑う。

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aas
野戦寄りの病院で救急医をしております。

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