ER-症候別

敗血症 SSCガイドライン2026 ―変わらないこと・変わったこと・結局どう動くか

「敗血症の初期対応、って結局なにをすればいいんでしたっけ?」——研修医とベッドサイドで話すと、だいたいここで止まります。
2026年3月、SSC(Surviving Sepsis Campaign)成人ガイドラインが更新され、129推奨・うち46が新規という大型アップデートになりました(Crit Care Med / Intensive Care Med 2026)。この記事では、その差分を現場で使える形に整理します。

この記事でわかること

  • 変わっていない「不変のコア」(培養→抗菌薬→輸液→昇圧→MAP65→乳酸)
  • 2026で変わった8つのポイント(層別化・バランス晶質液・MAPレンジ 他)
  • 結局どう動くか——最初の1時間から退院までの実運用

0まず前提を揃える

 

 

「培養とって、抗菌薬いって、輸液して、上がらなければ昇圧剤」——これで70点。悪くないです。ただ、その中身が2021→2026で微妙にズレてきています。

構成は3本立てで行きます。【1】今までの大事なこと(不変のコア)【2】2026の変更点【3】結局どう運用するか。差分だけ拾いたい人は【2】へどうぞ。

定義のおさらい(Sepsis-3)

敗血症の定義は今も Sepsis-3(JAMA 2016;315:801)です。
敗血症 = 感染に対する制御不能な宿主反応による、生命を脅かす臓器障害

臨床的には感染 + SOFA≧2点の急上昇
敗血症性ショック = 十分な輸液でもMAP≧65維持に昇圧剤を要し、かつ乳酸>2mmol/L。この「循環+代謝」の二段構えは2026でも不変です。

qSOFAの立ち位置

qSOFAは「単独スクリーニングでは推奨しない」流れ。“陽性なら怖がる”道具であって、“陰性なら安心する”道具ではない——と理解しておくと事故りません。

1今までの大事なこと(不変のコア)

まず変わっていないところを固めます。ここがブレると差分だけ覚えても現場で使えません。

  • スクリーニングと質改善プログラム(強い推奨)ハイリスク患者にスクリーニングを回し、標準化手順(SOP)と質改善の仕組みを持つ。個人技ではなく体制で拾う。
  • 血液培養は抗菌薬の“前”に原則、抗菌薬投与前に採取。ただし培養にこだわって抗菌薬が遅れるのは本末転倒。ショックなら“できる範囲で”先行。
  • 抗菌薬は早く。ショックなら1時間以内骨格は不変。ただし2026は“誰に急ぐか”の解像度が上がった(→【2】)。
  • 初期輸液は晶質液 ≧30mL/kg を3時間以内(条件付き・低エビデンス)2026も維持。実体重ベース、BMI>30は調整/理想体重。少なすぎ(<20)も多すぎ(>45)も害。頻回の再評価とセット。
  • MAP目標はまず65mmHg灌流圧の下限として65。数字自体は据え置き(レンジ化と高齢者は変更あり→【2】)。
  • 輸液反応性は動的指標でCVP単発など静的指標より、PLR・SVV/PPV・輸液チャレンジ後のSV変化・エコーで評価。
  • 乳酸は経時的に追う初期値だけでなくシリアルに。蘇生の指標にする。
  • 第一選択昇圧剤はノルアドレナリン立ち位置は不変(推奨の“強さ”は変わった→【2】)。
ここが要点

初療医が最初に体に入れるべき骨格は、実はほとんど動いていません。安心して土台を固めてください。

22026の変更点(本題)

差分を8つに絞ります。太字だけ拾えば当直前の復習になります。

01抗菌薬は「早く、でも全員にではなく」

一番の思想転換。「早期抗菌薬」一辺倒からリスク層別へ。

ショックあり → 認知から1時間以内に即投与
ショックなし・probable/definite → やはり1時間以内。
感染の可能性が低く・ショックなし抗菌薬をあえて保留し、closeにモニタリング

つまり“敗血症っぽい全員に即broad”ではなく、低リスク非ショックは「待って見る」が明文化。経験的カバーもMDR/嫌気性菌リスクで判断、rapid診断も選択的に。

02輸液は「バランス晶質液」を生食より優先

2021では弱めだったここが、2026はバランス晶質液(リンゲル系)を0.9%生食より優先と踏み込んだ(SMART/BaSICS/PLUS)。アルブミンは晶質液“単独”をまず提案し、ルーチン上乗せはしない。

0330mL/kgの“その後”を個別化

≧30mL/kg入れても灌流不良が残る場合、liberal(積極追加)とrestrictive(絞る)のどちらでもよい=患者・施設で個別化(CLASSIC/CLOVERSで差が出なかった)。心不全の併存、モニタ可能ベッドの有無などを勘案。

※外傷(つまり出血であり、Hypovolemia)も日本で他施設研究が走っていますが、体感はあんまり変わらない気がします。

 

04蘇生後は「引く」フェーズを明示

蘇生が済んだら余剰輸液を積極的に抜く(de-resuscitation)方向へ。“入れる”だけでなく“抜く”までが循環管理。溢水は明確な予後悪化因子。

05MAPは“点”でなく“レンジ”。高齢者は低め

MAP65は一点厳守ではなくレンジ(例:±5程度)で管理。65歳以上は初期MAP目標を60–65と“低め”に。高いMAPを狙うメリットが乏しく、カテコラミン過剰の害が上回りうる。

06昇圧剤まわりの微修正

ノルアド第一選択の推奨が“recommend→suggest”に格下げ(第一選択であることは不変、確実性の反映)。末梢からの開始を提案(ライン確保待ちでMAPを放置しない・CENSER)。心機能低下を伴うショックでは第一選択にノルアド“または”アドレナリンと柔軟化。不安定なら輸液と昇圧の同時併走可。

07呼吸サポートの初手が変わる

敗血症関連の呼吸不全の初期デバイスにHFNC(ハイフロー)を推奨。酸素目標は個別化、awake proning(覚醒下腹臥位)も考慮。肺傷害がなければ一回換気量6–8mL/kgでよい(ARDSでない限り6mL/kg厳守にこだわらない)。

08“やらないこと”が増えた(adjunctive)

新たに推奨しないが明確化:ルーチンの解熱薬(予後改善目的では不可・症状緩和は可)/プロバイオティクス/治療目的のβ遮断薬

2021 → 2026 早見表

項目 2021(従来) 2026(今)
抗菌薬 疑えば早期に リスク層別。低リスク非ショックは“保留して監視”も可
晶質液 バランス晶質液を弱く提案 バランス晶質液を生食より優先(踏み込み)
MAP目標 一律 ≧65 レンジで管理/65歳以上は60–65
昇圧剤 ノルアド “recommend” ノルアド “suggest”/末梢開始/心機能低下でAd併記
蘇生後 明確な言及少 de-resuscitation(抜く)を明示
呼吸 HFNC初手・awake proning・非肺傷害はTV 6–8
補助療法 解熱薬ルーチン/プロバイオ/β遮断薬は“しない”
cf. モニタリングと院外

CRT(毛細血管再充満時間)を他の灌流指標の補助として使うのを提案(ANDROMEDA-SHOCK)。低侵襲/非侵襲の心拍出量モニタ“上乗せ”の根拠は不十分、観血的血圧モニタは推奨。院外は搬送中もスクリーニングツールを使用し、院外抗菌薬は“高リスク限定”(ショック+院内評価まで60分以上)で選択的に。サバイバーシップ(退院後の移行期ケア・post-sepsis syndrome)への配慮も新たに強調。

3結局どう運用するか

差分を全部覚える必要はありません。当直で回せる形に落とします。

最初の1時間(初期蘇生)

  1. 拾うスクリーニング陽性 or「なんか変」で敗血症を疑ったらスイッチを入れる。
  2. 培養 → 抗菌薬血培を採り、ショック or definiteなら1時間以内に抗菌薬。“感染かも・でも安定・低リスク”なら反射のbroadを一度止めて考える。
  3. 輸液バランス晶質液で≧30mL/kgを3時間以内。入れっぱなしにせず動的指標で反応性を都度確認。心不全・高齢は特に慎重に。
  4. 上がらなければ昇圧剤ノルアドを末梢から開始してよい。ライン待ちでMAPを放置しない。不安定なら輸液と同時併走。
  5. 心機能が悪そうならノルアド or アドレナリンを選択。エコーで左室を一度見る癖を。

目標設定

ここだけは

MAPは“レンジ”で65前後。65歳以上は60–65で十分。臓器(尿量・意識・皮膚・乳酸クリアランス)が動いていればOK。乳酸とCRTを両輪で——数字(乳酸)と指先(CRT)、どちらも見る。

蘇生が済んだら

“抜く”に切り替える。溢水を放置しない。de-resuscitationまでが循環管理。30mL/kg後も灌流不良が残るなら、liberal/restrictiveは患者・施設で個別化。正解は一つではありません。

この発言にエビデンスはありませんが、良く若手にいうのは「CはirreversibleなのでBより優先するべき」と考えます。循環不全を放っておくことによる主要臓器への血流低下→脳血管障害やNOMIなどは戻そうとしても戻りません。水は引けば極論なんとかなります。勿論「バランスよくBもCもいいところで」、がBESTですが、どうしようもなければ、蘇生、Cの担保を優先して、後で水引しましょう。

やらないことリスト(2026)

しない

予後目的のルーチン解熱薬プロバイオティクス/治療目的のβ遮断薬は、いずれも“しない”。低リスク非ショックへの反射的broad抗菌薬も、“いったん止まる”が選択肢。

退院まで見据える

生き延びさせて終わり、ではありません。post-sepsis syndromeを見越して本人・家族に説明し、サマリーに残す。ここも診療の一部、というのが2026のメッセージです。

まとめ:一段落で言うと

 

Take home
骨格(培養→早期抗菌薬→晶質液≧30mL/kg→ノルアド→MAP65→乳酸)は不変。2026で変わったのは、「全員一律」から「層別・個別化・引き算」へという運用の解像度です。

抗菌薬はリスクで層別、輸液はバランス晶質液で入れて蘇生後は抜く、MAPはレンジで高齢者は低め、昇圧は末梢から柔軟に、そして“やらないこと”を増やす。——この方向性を押さえておけば、細かい推奨は都度引けば大丈夫です。

参考文献
  • Prescott HC, et al. Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2026. Crit Care Med / Intensive Care Med 2026.
  • Singer M, et al. Sepsis-3. JAMA 2016;315:801.
  • Semler MW, et al. Balanced Crystalloids vs Saline(SMART). NEJM 2018.
  • Zampieri FG, et al.(BaSICS)JAMA 2021. / Finfer S, et al.(PLUS)NEJM 2022.
  • Meyhoff TS, et al.(CLASSIC)NEJM 2022. / NHLBI PETAL Network(CLOVERS)NEJM 2023.
  • Permpikul C, et al. Early Norepinephrine(CENSER). AJRCCM 2019.
  • Hernández G, et al. CRT-targeted resuscitation(ANDROMEDA-SHOCK). JAMA 2019.

※本稿はガイドラインの要点整理であり、個々の症例判断に代わるものではありません。最新の原文・自施設プロトコルを併せてご確認ください。

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aas
野戦寄りの病院で救急医をしております。

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