生理学

昇圧薬・強心薬の使い分け ―どれを・いつ・どれだけ(循環管理③)

「輸液しても血圧が上がらない。さあ、何を足す?」——ここで手が止まる研修医は多いです。ノルアド?アドレナリン?バソプレシン?ドブタミン?名前は知っていても“どれを・いつ・どれだけ”が曖昧なまま当直に入ると、けっこう怖い。
この記事は集中治療 循環管理③。①循環動態・②輸液反応性を踏まえ、「輸液で足りないときに足す薬」を、受容体の地図からショック病型別の使い分けまで一気に整理します。

この記事でわかること

  • 受容体(α1・β1・β2・V1)で薬を“地図化”する考え方
  • 敗血症性ショックの並べ方(ノルアド→バソプレシン→アドレナリン)
  • 心原性ショックの昇圧×強心の組み方(OptimaCC / DOREMI)と、やりがちな失敗

0まず前提(③の位置づけ)

「上がらないからとりあえずアドレナリン」——気持ちは分かりますが、病型を無視した“とりあえず”が一番危ない。まず“何が足りないのか”を決めてから薬を選びます。

血圧 = 心拍出量(CO)× 体血管抵抗(SVR)。ざっくり、血管が緩んでいるなら締める薬(昇圧)、ポンプが弱いなら押す薬(強心)。①で扱った灌流圧、②で扱った輸液反応性を確認したうえで、「輸液で足りない分を、締めるのか・押すのか」を切り分けるのが③です。

用語の整理

昇圧薬(vasopressor)=血管を締めてSVRを上げる(α1・V1)。強心薬(inotrope)=心収縮を上げてCOを上げる(β1・PDE3)。inodilator=強心しつつ血管を広げる(ドブタミン・ミルリノン)。この3語が混ざると使い分けを間違えます。

1受容体の地図:薬のプロファイル

丸暗記より、「どの受容体を叩くか」で覚えると忘れません。α1=血管収縮、β1=心収縮・心拍数↑、β2=血管拡張・気管支拡張、V1=カテコラミン非依存の血管収縮。これを薬に当てはめるだけです。

薬剤 主な受容体 効果の中身 使いどころ / 注意
ノルアドレナリン α1 ≫ β1 血管収縮メイン+軽い強心 分布性・心原性ともに第一選択の“軸”
アドレナリン α1・β1・β2 強力な強心+昇圧 追加/難治時。乳酸↑・頻脈・不整脈に注意
バソプレシン V1 カテコラミン非依存の血管収縮 second-line。0.03U/min固定、末端虚血に注意
フェニレフリン 純α1 血管収縮のみ(COは上げない) ニッチ。反射性徐脈。頻脈時の一時しのぎ
ドパミン 用量依存(DA→β→α) 昇圧+強心だが不整脈多い 原則“使わない”(SOAP II)
ドブタミン β1(+β2) 強心+末梢拡張(inodilator) ポンプ不全に追加。血圧は下がりうる
ミルリノン PDE3阻害 強心+血管拡張(inodilator) 腎排泄・半減期長め・低血圧に注意
覚え方

締める=α1・V1(ノルアド・バソプレシン・フェニレフリン)押す=β1・PDE3(ドブタミン・ミルリノン)両方=アドレナリン。フェニレフリンは“締めるだけでポンプは押さない”ので主力にはしない、と押さえておくと事故りません。

2ショック病型別の使い分け

同じ「低血圧」でも、原因が違えば選ぶ薬が変わります。ここが本題です。

① 血液分布異常性ショック(敗血症性)

血管が緩んでSVRが落ちるタイプ。だから“締める”のが軸。SSC2026の並べ方はこうです。

1stノルアドレナリン

第一選択。SSC2026では「バソプレシン/アンジオテンシンIIよりノルアド(suggest)」と、推奨の“強さ”は下がりましたが、第一選択であることは不変。輸液で足りなければ早期に・末梢からでも開始してよい(CENSER:早期ノルアドで到達が速い)。

2ndバソプレシンを追加エスカレーション

ノルアドが増量傾向(目安 ~0.25–0.5µg/kg/min)になったら、増やし続けるよりバソプレシン0.03U/minを追加。カテコラミン総量を減らし、心房細動を減らせる可能性。V1受容体を叩くので“カテコラミンとは別ルート”で締められるのが利点。

3rdアドレナリンを追加

ノルアド+バソプレシンでもMAPが足りなければアドレナリンを追加。バソプレシンが使えない施設では、ノルアドにアドレナリンを足してもよい。

心機能低下を伴う敗血症性ショック

第一選択はノルアド or アドレナリン(頻脈・頻拍性不整脈があればノルアド優先)。輸液とMAPを満たしても灌流不良が残るなら、ノルアドにドブタミンを追加、またはアドレナリン単剤。ドブタミンvsミルリノンは優劣つかずレボシメンダンは推奨しない。強心薬は昇圧薬の“代わり”ではなく“上乗せ”で使うのが原則です。

② 心原性ショック

ポンプが弱い+しばしば血圧も低い。昇圧はノルアド、強心はドブタミン/ミルリノンが基本形。

エビデンスの要点

昇圧=ノルアドが第一。OptimaCC(AMI後の心原性ショック)で、アドレナリンは難治性ショックが37% vs ノルアド7%と多く、乳酸も上昇して試験が早期中止。ドパミンもSOAP IIで不整脈が多く心原性で予後不良。直近の昇圧剤の歴史はDOAがNAdに敗け続けた歴史といっても差し支えありません。
強心=ドブタミン or ミルリノン。DOREMIで両者に差なし。腎障害・コストならドブタミン、頻脈・虚血が気になるならミルリノン、と実務で選ぶ。血圧が保たれていればinodilator単独、低ければノルアド+強心の組み合わせに。

③ 閉塞性・循環血液量減少性ショック

ここは薬の使い分け以前の問題。昇圧薬はあくまで“つなぎ”で、本質は原因解除です。出血なら止血と輸血、緊張性気胸なら脱気、心タンポナーデならドレナージ、肺塞栓なら再灌流。昇圧剤で数字を作って安心し、原因対応が遅れるのが最悪

3結局どう運用するか

敗血症性ショックを軸に、当直で回せる順序に落とします。

  1. 輸液で反応不十分を確認②の動的指標で「もう輸液では上がらない」を判断してから薬へ。輸液不足のまま昇圧に頼らない。
  2. ノルアドレナリン開始早期に、末梢からでも開始してよい。MAP65(高齢は60–65)をレンジで狙う。
  3. 増量傾向ならバソプレシン追加~0.25–0.5µg/kg/minが目安。0.03U/min固定で上乗せし、カテコラミン総量を抑える。
  4. まだ足りなければアドレナリンノルアド+バソプレシンでも不足なら追加。
  5. ポンプが問題ならドブタミン追加MAPは満たすのに灌流不良(乳酸・尿量・末梢)が残る=心機能低下を疑い、エコーで確認して強心を上乗せ。

投与の実務

末梢か中心か・モニタリング

短時間なら末梢でOK(近位の太いライン・頻回観察・逸脱時プロトコルを整備)。高用量/長時間は中心静脈へ。A-lineで観血的血圧を。効果判定は数字(MAP)だけでなく、乳酸クリアランス・尿量・末梢(CRT)・エコーの心機能を合わせて見ます。

やりがちな失敗

これは避ける

ネオシネジンを主力にする(COを上げない)/ドパミン1stに選ぶ(不整脈・予後)/低血圧なのにinodilator単独使用する→血圧が下がりうる/バソプレシンを急に中止(漸減する)。

cf. 難治性・その他の選択肢

ノルアド+バソプレシンでも難治なら、アンジオテンシンII(ATHOS-3:第3の昇圧として血圧は上がる)やメチレンブルー(血管麻痺性ショック)が選択肢に挙がることも。(cf.EMPRESS/当方は使用したことはありませんが、早期に使用することで死亡率を下げたと言うRCTです)離脱期にはミドドリン(内服)でカテコラミンを早く切る戦略も。いずれも“軸を決めたうえでの調整弁”という位置づけです。

催不整脈性:頻脈性不整脈で困ったら“どれから切るか”

昇圧・強心薬は多かれ少なかれ催不整脈性(proarrhythmia)を持ちます。とくにβ刺激やcAMPを上げる薬——ドブタミン・アドレナリン・ドパミン、そしてミルリノン——は、心房細動(AF)をはじめとする頻脈性不整脈を誘発しやすい。実際SOAP IIでは、ドパミン群でAFなどの不整脈が有意に多く、これが心原性ショックで予後を悪くした一因とされます。一方、ノルアドレナリンは主にα1で相対的にマシ、バソプレシンはカテコラミン非依存でAFがむしろ減る可能性(VASST/SSC2026)。フェニレフリンは純α1で反射性徐脈を来すため頻脈は起こしにくい(ただしCOは上げない)。


実践:AFなどtachyで困ったら

まず“最も不整脈を起こしやすい薬”から減らす/切る——具体的にはドブタミン・アドレナリン・ドパミン。強心がまだ必要なら、頻脈が問題な症例ではドブタミンからミルリノン寄りに振る手も(DOREMIでは中止理由が“ドブタミン=不整脈/ミルリノン=低血圧”と対照的。ミルリノンは低血圧に注意)。昇圧はアドレナリンよりノルアドレナリンへ、さらにバソプレシンを追加してカテコラミン総量を落とすとAFが落ち着くことが多い。
並行して誘因の是正(Mg・K補正、虚血・脱水・発熱・過剰カテコラミンの見直し)と、必要ならレート/リズムコントロール(ショック下ではアミオダロンが使いやすい。血行動態が破綻するなら電気的除細動)を。β遮断薬は代償が崩れている時は要注意です。

まとめ:一段落で言うと

Take home
受容体で地図化し、病型で選ぶ。血管が緩めば締める(α1・V1)、ポンプが弱ければ押す(β1・PDE3)、両方ならアドレナリン。

敗血症性はノルアド→(増量傾向で)バソプレシン→アドレナリン、心原性は昇圧ノルアド+強心ドブタミン/ミルリノン。フェニレフリンとドパミンは主力にしない。強心は昇圧の“代わり”でなく“上乗せ”。——この型を持っておけば、当直でも迷いません。

参考文献
  • Surviving Sepsis Campaign 2026(Hemodynamic management). Crit Care Med / Intensive Care Med 2026.
  • De Backer D, et al. Dopamine vs Norepinephrine(SOAP II). NEJM 2010;362:779.
  • Russell JA, et al. Vasopressin vs Norepinephrine(VASST). NEJM 2008;358:877.
  • Khanna A, et al. Angiotensin II(ATHOS-3). NEJM 2017;377:419.
  • Permpikul C, et al. Early Norepinephrine(CENSER). AJRCCM 2019.
  • Levy B, et al. Epinephrine vs Norepinephrine in Cardiogenic Shock(OptimaCC). JACC 2018;72:173.
  • Mathew R, et al. Milrinone vs Dobutamine(DOREMI). NEJM 2021;385:516.

※本稿は要点整理であり、個々の症例判断に代わるものではありません。投与量は代表的な目安で、必ず最新の添付文書・自施設プロトコル・患者状態に合わせて調整してください。

ABOUT ME
aas
野戦寄りの病院で救急医をしております。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA