【0】心筋梗塞総論
圧迫感LR1.7
刺すような痛みLR 0.41
呼吸による変動0.22
体位による変動0.13
冷や汗(diaphoresis) LR 4.6
(両肩に)放散痛(radiation) LR 7.11
Q、痛みのないAMI?
→2、3割いる!
Q、どこが痛い?
心臓を中心に30cm
胸、胃、背中、両肩、喉、歯
Q、無痛性心筋梗塞?
DM、高齢女性
Q、若年者のAMI
川崎病の既往
(本邦では稀だが、、、コカインが起こす血管炎から)
Q、7つのflamingamのうち最も信頼できるrisk factorは?
(狭心症の)既往LR 2.3
「DM,HT,HL,familial,smoking,male」
【1】まずはSTEMIか否かである!
ACS(急性冠症候群)はSTEMIかNSTEMIかに大別される。
ST上昇しているか否かなので簡単である。
(1)STEMI
「STEMIだ!→PCIだ!」である。
STEMIを見た時点で、カテーテル治療のほかにない。
STEMIはある程度径の大きい(>2mm)冠動脈の閉塞を示しており、door-to-balloon-time(初療時からカテーテルにて拡張するまでの時間)が90分以内であることが望ましいとされる。
Q. D to B time<90minがどうしても担保できない場合。
離島など、どうやってもこのような場面に出くわしてしまう環境はあるだろう。
ESC guidelineにおいて、「primary PCIが120分以内に選択できない場合は、機械的合併症を除外した後に、血栓溶解療法を選択する」を推奨度IIa(有効である可能性が高く、考慮されるべきである)としている。
実際問題、当方も同様の場面に出くわしたことがあるが、クリアクターなどの血栓溶解療法は使用しなかった。できなかったという方が正しい。実際に本土の転送先において
多大なる出血リスクにおいてのカテーテル操作がしにくいこと(シースを1度取り違えたら大惨事である)、搬送中の脳出血などの粗大な出血イベントのリスクなどから選択する自信がなかった。
私はDAPTのローディング+ヘパリン+ニコランジルにてお茶を濁していた。
推奨としてしっかりなされていることから、実際に使用することは否定はしない。
(2)NSTE-ACS
NSTE-ACS/NSTEMIの診断方法は以下の通りである。自分の中に明確なプロトコルがないとぶれるので下記の通り進むこと。
①胸痛を含めて「ACSらしい」
②心電図測定したところ、STEMIではなかった
③心エコーにて新規の虚血があるか確認する(初診だと比較困難であるが)
④Trop-I/Tを測定してその値から「0-1hr アルゴリズム」に則って進める
②でSTEMIであれば、繰り返しであるが考えは簡単である。D to B timeを如何に短くして、循環器医に繋げるかだけを考えればよい。
しかし、STEMIではない、NSTE-ACSかはたまたACSではないのかの判断が苦しいのである。
ESC(欧州)は下記の通り0-1hアルゴリズムを提唱している。(0-2もあるが<0-1h)
簡単にいうと、「MIらしい患者に対して真っ先に高感度トロポニンを測定する。1時間後に再度測定しその差を含めてrule-in/outする」である。


これは
①早期1時間の絶対値の変化は3時間の絶対値変化に代用できる
②連続変数である高感度トロポニンは高ければ高いほどMIである可能性が上昇する
という2つの考えに起因する。
また最後に「rule-inにもoutにも該当しなかった患者はobserveの群であり、これらは3時間後の3回目のTrop測定(±心エコー)が推奨される」としている
つまり上記いずれにも該当しないものはその通りに動く。

cf.ESC guideline
【2】心電図
(1)超急性期の変化(hyperacute T)
超急性期には活動電位の持続時間が短縮される。
結果として早期再分極隣、正常T波よりも立ち上がりが早くなる。
よくこのhyperacuteと高カリウム血症の尖鋭T波の違いを、という話になるが、

hyperacute Tは
・虚血が起きた当該の誘導のみで起こる
・裾野が広い
高カリウム尖鋭T波は
・広範な誘導で起こる
・裾野が狭い
・左右対称性

(2)陰性T波
・陳旧性心筋梗塞
・NSTEMI
・UAP(不安定狭心症)
などを示唆する。
上記を鑑別することは困難だが、
NSTEMIの場合は、T波の終末から陰転化し、その後逆行してT波の中央部、早期と順番に陰転化する。
終末のみしている初期は二相性に映る。
Q最初の心電図に異常がない?
初回のECGに感度は3割ほど
but ミラーイメージ(reciprocal change)は絶対なのでAMI 診断して良い
(3)reciprocal change
鏡面像。虚血の反映であり、ST上昇の対側に認める。
下壁梗塞では70%に、前壁梗塞では30%にreciprocal changeが出現する。
→特にaVLではreciprocal changeが先に出ることがある。
(4)aVRのST上昇
cavity lead(aVRは右肩から左心室を覗く方向に向いた誘導である)のSTEMIを疑う。この他に広範囲のST低下を認めればほとんど確定でよい。
主幹部もしくは3枝病変であろう。
※下壁梗塞
下壁梗塞の原因冠動脈は当然RCAorLCXだが、出てくる心電図の波形は違うことが多い。
下壁誘導(II、III、aVf)のST上昇→RCA 92% LCX 45%
低下→RCA 2%. LCX 28%
側壁(V5,V6)の上昇→RCA 17% LCX 42%
前壁(V2,3,4)の低下→RCA 48% LCX 63%
※右室梗塞
下壁梗塞(RCAの下の方#3.4)に合併しやすい。(25-40%)
RCAの先が詰まれば下壁梗塞だし、根本が詰まれば右室梗塞になる。
→下壁梗塞で右室梗塞合併例にはMONAは禁忌。
血圧低下をきたすので、してしまった場合は輸液負荷(昇圧)を全力で。
IIIがII、aVFよりもST上昇の程度が高かった場合、よりRCA領域の梗塞を疑う。(ベクトルの問題)
II優位ならLCXの可能性が高い。
即ち、III優位であれば右室梗塞をより疑って右室誘導を加えるべきである。
同様の理由でV1がV2よりも高いとそれは1つの因子になる。
→とはいえ、V4RがSn,Sp共に圧倒的でそちらを取る方がいい。
Q、右室梗塞はADによるもの??
Am J Cardiol100: 1013,2007
Klompas M.DOes this patient have an acute thoracic aortic dissection? JAMA 287;2262-2272,2002
Hansen MS,et al. Frequency of and Inapproapriate treatment of misdiagnosis of acute aortic dissection Am J Cardiol 99: 852-856,2007
大動脈解離のうち2-7%に心筋梗塞を伴った。
当然Aortaは外周から裂けていくのでRCAに解離が噛んでくるケースがおおい。(odds 5.27)
しかしながら、大動脈解離でも数%は左冠動脈にかかるので注意すること。
※後壁梗塞
右室梗塞や側壁の梗塞に合併する
①II ,III,aVFのST上昇
②V1-3のST低下→後壁ST上昇のミラーイメージ
③V1-3のR上昇→後壁のQ波のミラーイメージ
④V8(肩甲骨の真下),V9のST上昇
【4】治療薬
①抗血小板薬
初療医としてはこれで概ね十分である。
今はステントがあまりに優秀であり、ステント留置後の血栓予防としての投与期間も短く済むことが知られている。
定常容量まで持っていくのにそれなりに必要であるため、初回はローディング容量(後者が維持容量)の投与が必要である。
・バイアスピリン 200mg/100mg
・クロピドグレル 300mg/75mg
・プラスグレル 60mg/10mg
所属病院の選択に委ねればよいが、アジア人であれば、バイアスピリン+プラスグレルを推奨する。
クロピドグレルがCYP2C19という肝臓の薬物代謝酵素の影響を受けるが、この結果血小板抑制がなされない遺伝子多型がアジア人に多いため、血栓イベントが多いとされるためである。
先述の通り、ステントが進化してきた上で、薬物溶出性ステント(DES)が留置された患者に対しては、DAPTの投与期間を短縮し、1剤に切り替えることを推奨している。
例えば、STOP-DAPT2 trialにおいては、1ヶ月 DAPT vs 12ヶ月DAPTにて比較研究が行われた。
これは日本における研究である。出血、血栓症、死亡、再度のMIなどあらゆる点で1ヶ月DAPT群が非劣性/優勢であった。(しかし1ヶ月後のSAPTはクロピドグレルを選択していることに注意)
つまり、DES挿入後であれば、速やかにSAPTに変更するのがいい。
Q.Af合併時はどちらを優先させればよいのか?
Af患者においてMIを発症した場合は、3剤(抗凝固+DAPT)を選択することは避け難い。(TAT:triple antithrombotic therapy)
基本的には腎機能などの禁忌がない場合は、DOACを選択するのがいい。
DOAC+DAPTのTAT vs ワルファリン+DAPTのTATでは虚血イベントが増えないばかりか、出血合併症が30-40%程度減少したことが報告される。(RE-DUAL PCI trial/PIONEER AF PCI trial/AUGUSTUS trial)
それをもってESCはPCI後最低1週間はDOAC込みのTATを施行して、その後DOAC+SAPTを12ヶ月間継続し、その後に合併症がないことを確認して、DOAC単剤へと変更していくことを推奨している。
②ヘパリン
考慮される。急性期の血栓形成を予防する、またトロンビン活性阻害のためである。