【1】原因
原因は3つ。
(1)髄液アルカローシス
①(中等度以上の)COPDなどをbaseに慢性的にCO2がたまった状態となる
②代償として(慢性的に)HCO3が上昇する
③HCO3が髄液に移行し、髄液がアルカローシスに
④2days以上髄液アルカローシスが続くと,CO2がドライブしなくなる
⑤CO2ナルコーシス
(2)Haldane effect
酸素飽和度が上昇することにより、ヘモグロビンのCO2親和性が低下し、PaCO2が上昇することを指す。これそのものがドライブを止めるわけではないが、PaCO2を上昇させていることには変わりない。
(3)死腔の増加
COPDの2型呼吸不全は肺コンプライアンス低下、毛細血管の破壊などに起因する。
その破壊や、コンプライアンスが下がっている部分ではmismatchが顕著になるためである。本来、低酸素はいいことではないが、低酸素によって肺血管のスパズムが起こっていることで、肺胞血流を低下させ、mismatchが改善する方向に進んでいることも事実である。
過剰な酸素投与を行うことで、このspasmが解除されてしまい、死腔が増加し、ナルコーシスになる。
Crit Care Med. 1996 Jan;24(1):23-8.
そのため中等度以上のCOPDではSPO2を88-92%目標に設定することが必要(Thorax. 2017 Jun;72(Suppl 1):ii1-ii90.)
※呼吸ドライブは
O2
CO2の2つ。
中枢化学受容器(PaCO2の上昇に惹起)
末梢化学受容器(PaO2の低下に惹起)→頸動脈体>大動脈体
Q,喘息は??
喘息は発作を起こさない限り、CO2貯留が起こらないので、「慢性的なCO2貯留」はない。発作でたまっても、CO2ドライブをとめない。
また破壊やコンプライアンスの低下も起こっていないので(3)も起こらないだろう。
【2】CO2ナルコーシスと肺胞低換気
ナルコーシスについては概念は皆よくわかっているのに、なぜ/いかにして起こるかをわかっている人は優秀な研修医の先生に聞いてもしっかり答えられない印象なので原因に重きをおいて講義した。
ここで「そんなことは知ってる」と一蹴されそうだが定義について今一度。
CO2ナルコーシス
→高二酸化炭素血症とそれに伴う呼吸性アシドーシスが一定時間続いた結果意識障害に陥る
肺胞低換気
→PaCO2>43mmHgとなっている時にこれを疑う
因みに本題ではないが、肺胞低換気は
①中枢性→頭頸部疾患により呼吸がtriggerされなかった結果
②末梢性(二次性)→肺の問題や呼吸筋の問題など様々
③特発性
に分類される。
ここで考えなければいけないのは
肺胞低換気=CO2ナルコーシス
は間違いということ。
肺胞低換気→CO2ナルコーシス
もしくは
肺胞低換気 ⊃ CO2ナルコーシス
と考えるのが正しい。
CO2が溜まった状態ではただの肺胞低換気であり、ナルコーシスと飛びつくのではなく、「なぜ肺胞低換気になっているのか」の原因疾患の検索をする必要がある。
・COPD/COPD急性増悪
・喘息発作
・その他の閉塞性/拘束性障害
・重症筋無力症
・頭蓋内疾患/C4-5以上の頸部障害
・SAS
・持続する代謝性アルカローシス
細かいことを言えば、重箱の隅を突くように大量の疾患は上がってくるが
・呼吸をドライブする中枢、末梢神経
・肺や気道
・胸郭変形、形成以上
に大きく分けて、ここに異常をきたすとあなたが考えればそれも原因になろう。
「CO2が溜まっているのだからNPPVを」とするのは否定しない。
原因によってはそのままナルコーシスに移行することは十分に考えられるし、あくまで“non-invasive“なのだから放っておくよりはさっさと使った方が良いとは思う。
ただ、CO2が溜まっている→肺胞低換気であり、肺胞低換気はなぜ起こっているのか?
・中枢性の否定は?
・COPD急性増悪は?
をする必要がある
これらならさらに異なった治療法が必要になることは言うまでもない。
①CO2ナルコーシス≠肺胞低換気という意識を
②中枢性や急性増悪などその辺への鑑別に気を配る