生理学

循環管理④「乳酸の読み方」

敗血症の抗菌薬というと「1時間以内!」ばかりが強調されますが、実際に予後を分けるのは“始める”だけではありません。膿が溜まったまま最強の抗菌薬を流しても治らないし、効いた後もダラダラ続ければ耐性菌とC. difficileが待っています。
この記事は始める → 出す(source control)→ 絞る・やめるの3段構えで、抗菌薬の一生を整理します。SSC2026の変更点も織り込みました。


この記事でわかること

  • いつ・何で始めるか(層別化と初期投与量の落とし穴)
  • source control——“抗菌薬より優先”の場面と時間軸
  • 絞る・やめる(de-escalation、7日 vs 14日、PCTの正しい使い方)

0まず前提:抗菌薬“だけ”では治らない



「メロペネム入れました!」——で、膿瘍は?胆管は?CVは抜いた?ここを詰めずに薬だけ強くしても、患者はよくなりません。

感染症診療の原則は「原因菌・臓器・薬」+「溜まっているものを出す」。とくに重症では、ドレナージされていない感染巣がある限り、どんな抗菌薬でも改善しません(乳酸が下がらない典型的な理由でもあります → 循環管理④)。抗菌薬は必須ですが、単独では不十分。この記事はその両輪を扱います。

1始める(タイミング・選択・投与量)

① タイミング:全員に急ぐのではなく“層別”

SSC2026の考え方の転換点です。従来の「疑ったら即broad」から、リスクで分ける方向へ。

状況 2026の推奨
ショックあり 認知から1時間以内に即投与
ショックなし・敗血症の可能性が高い やはり1時間以内
ショックなし・感染の可能性が低い あえて保留し、closeにモニタリングしてよい

つまり、「敗血症っぽいけど安定していて、感染らしさも乏しい」なら一度立ち止まってよい。これは手抜きではなく、不要な広域曝露を避けるstewardshipの実践です。逆にショックなら迷わない。ここのメリハリが2026の肝です。


始めるかどうかにPCTは使わない

SSC2026は、抗菌薬を“開始するか”の判断は臨床評価のみで行い、プロカルシトニン(PCT)を上乗せしないことを提案しています。PCTは“やめる”ときに使う道具であって、“始める”ときの道具ではない——この非対称性を覚えておくと迷いません(→【3】)。

② 培養:抗菌薬の“前”に、でも遅らせない

血液培養は抗菌薬投与前に2セット(好気・嫌気、別部位)。ただし培養にこだわって投与が遅れるのは本末転倒で、ショックなら“採れる範囲で”先行し、すぐ抗菌薬へ。加えて疑う臓器の検体(喀痰・尿・膿・髄液・腹水)も忘れずに。ここを取っておかないと、後述のde-escalationができません。培養は“やめるため”に採る、と考えると動機づけが変わります。

③ 何を選ぶか:カバー範囲はリスクで決める

「とりあえずカルバペネム」ではなく、患者背景と地域のアンチバイオグラムで決めます。押さえるべき問いは4つ。

  • 感染臓器はどこか肺・尿路・腹腔・皮膚軟部組織・中枢神経・血管内デバイス。臓器が決まれば想定菌が決まる(=移行性も考慮できる)。
  • MRSAリスクはあるか既往・保菌、透析、長期入院、留置デバイス、重症皮膚軟部組織感染など。あればバンコマイシン等を上乗せ、なければ外す。
  • 耐性グラム陰性桿菌(ESBL/緑膿菌)リスクは既往の耐性菌検出、広域抗菌薬の使用歴、長期入院・施設入所、渡航歴。SSC2026はMDRリスクのプロファイルに応じた選択を求めている。
  • 真菌・嫌気性菌は要るか消化管穿孔・術後腹腔内、長期TPN・広域曝露・好中球減少ならカンジダを考慮。嫌気性カバーもリスクに応じて“要るときだけ”。

④ 投与量:重症では“少なすぎ”が起こる


PK/PDの落とし穴

敗血症では分布容積が増え(輸液・血管透過性亢進)、初期は腎クリアランスがむしろ亢進することもある(augmented renal clearance)。結果、初回投与量が足りなくなる
ローディングドーズは腎機能で減らさないのが原則(減らすのは維持量)。β-ラクタムは時間依存性なので持続・延長投与が有利になりうる。バンコマイシン等はTDMを。「腎障害があるから少なめに」で初回から絞ると、効かないまま時間が過ぎます。

2出す(source control)

SSC2026は、敗血症患者を「緊急のsource controlを要する解剖学的な感染源がないか、速やかに評価せよ」としています。抗菌薬と並行して、常に問い続ける項目です。

!時間が勝負のもの最優先

壊死性軟部組織感染(緊急デブリードマン。抗菌薬だけでは絶対に治らない)、急性胆管炎(胆道ドレナージ/ERCP)、閉塞性腎盂腎炎(尿管ステント・腎瘻)、消化管穿孔・腹膜炎(手術)、膿胸(ドレナージ)。これらは抗菌薬より“出す”が先、あるいは同時進行です。

忘れやすいもの

血管内デバイス——感染源として疑われるCVカテーテル等は、他のアクセスを確保した上で速やかに抜去。ほかに膿瘍のドレナージ(IVRで可能なことが多い)、感染した人工物(人工関節・ペースメーカー)、尿道カテーテル閉塞褥瘡・骨髄炎。「熱源不明」で悩む時、実はライン、ということはよくあります。


タイミングと侵襲度

原則は「診断がついたら、医学的・実務的に可能な限り速やかに」。従来から6〜12時間以内が一つの目安とされてきました。ただし侵襲の小さい方法を優先する(開腹よりIVRドレナージ、など)のも重要で、患者の耐術能と天秤にかけます。「安定してから」と待っているうちに悪化する——このパターンが最も多い失敗です。

3絞る・やめる

始めるのと同じくらい大事なのに、圧倒的に忘れられる工程です。

① de-escalation(狭める)

SSC2026では、培養と感受性が判明したら de-escalation を「推奨(recommend)」と、2021年版の「毎日評価を提案」から表現が強まりました。加えて、別の疾患が判明・強く疑われるなら、経験的抗菌薬は中止することも明記されています。「培養が出たら必ず見直す」を回診のルーチンに

② 期間:短くてよい、が主流


BALANCE試験(NEJM 2025)

菌血症の患者3,608例で7日 vs 14日を比較。90日死亡は14.5% vs 16.1%で、7日間は14日間に非劣性でした。メタ解析でも、再発・有害事象を含めて両者は同等。
ただし除外条件が大切です——黄色ブドウ球菌菌血症、感染性心内膜炎、骨髄炎、人工弁・血管内グラフト、重度の免疫不全、真菌血症などは対象外で、これらは長期治療が必要。「なんでも7日」ではありません。
SSC2026も、source controlが適切に行われた敗血症では“より短い”期間を支持しています。

③ PCTは“やめる”ために使う

【1】の裏返しです。適切なsource controlが済み、最適期間が不明な症例では、PCT+臨床評価で中止を判断することが提案されています(臨床評価単独より)。目安はPCT <0.25 ng/mL、またはピーク比80%以上の低下
重要なのは使い方の向きです。PCTが高いことを“続ける理由”にしない——臨床的に中止してよい状況なら、PCTが下がりきらなくても止める。腎機能低下・免疫不全・術後・外傷・膵炎などでは解釈がずれる点にも注意します。


やりがちな失敗

培養を採らずに開始して、後から狭められない/ドレナージせずに抗菌薬を強くする初回から腎機能で減量して効かない/感受性が出ても広域のままPCTが下がらないから続ける惰性で14日。どれも“よくある”ものばかりです。

④ 実運用フロー

  1. 0時間:疑ったら層別ショック or 敗血症らしさが高い→培養を採って1時間以内に投与。低リスク・安定なら保留して監視も可。
  2. 同時:感染源を探す画像・身体所見・ライン。緊急ドレナージが要る病態(壊死性軟部組織感染・胆管炎・閉塞性腎盂腎炎・穿孔)を必ず除外。
  3. 6〜12時間:出す可能な限り低侵襲な方法で。ライン感染ならデバイス抜去。
  4. 48〜72時間:見直す培養・感受性でde-escalation。別診断なら中止。改善しないなら“薬”より“source”を疑う。
  5. 5〜7日:やめる算段source controlが済み経過良好なら短期間で終了。PCT+臨床で後押し。長期が要る病態(S. aureus菌血症・心内膜炎・骨髄炎など)だけ例外扱い。

まとめ:一段落で言うと



Take home

ショックなら1時間以内、低リスク非ショックは立ち止まる。選択はリスクで決め、初回投与量は絞らない。そして溜まっているものを出すまでが治療——ドレナージされていない感染巣がある限り、抗菌薬は勝てません。

始めた後は48〜72時間で必ず見直し、狭めて、短く終える。PCTは“やめる”ための道具で、“始める理由”にも“続ける理由”にもしない。——始める・出す・やめる、この3つが揃って初めて抗菌薬治療です。

参考文献
  • Surviving Sepsis Campaign 2026(Infection / Antimicrobials / Source control). Crit Care Med / Intensive Care Med 2026.
  • BALANCE Investigators. Seven vs 14 Days of Antibiotic Therapy for Bloodstream Infection. NEJM 2025;392:1065.
  • Ssentongo P, et al. 7 vs 14 days in bacteremia: meta-analysis of RCTs. 2025.
  • Montravers P, et al. Short-course vs long-course(DURAPOP). Intensive Care Med 2018.
  • Yahav D, et al. Seven vs 14 days for gram-negative bacteremia. Clin Infect Dis 2019;69:1091.
  • Surviving Sepsis Campaign 2021. Crit Care Med 2021;49:e1063.

※本稿は要点整理であり、個々の症例判断に代わるものではありません。抗菌薬の選択・用量は、自施設のアンチバイオグラム、添付文書、感染症科・薬剤部の助言に従ってください。

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aas
野戦寄りの病院で救急医をしております。

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