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心原性ショックーNEJM 2026;394(1):62-67

「心原性ショックだからIABP」という発想は、もう10年以上前に終わっている。それでも当直で心原性ショックの患者を診るたびに、IABPを入れるかVA-ECMOを回すかImpellaを呼ぶか、あるいは?、という判断に迷う人は多いはずだ。

2026年1月のNEJMに、心原性ショックの総説が載った(Thiele H, Hassager C. N Engl J Med 2026;394(1):62-77)。IABP-SHOCK II、CULPRIT-SHOCK、ECLS-SHOCK、DanGer Shockという過去10年の主要RCTを一望できる、実務的にかなり使える総説である。

結論を先に言うと、機械的循環補助(MCS)は「使うか使わないか」ではなく「誰に使うか」を選ぶフェーズに入っている。そして日本の現場は、このアップデートと少し距離がある。IABPは今も現役だし、ガイドライン自体が「推奨クラスをあえて付けない」という珍しい立場を取っている。

この記事では、この総説の骨格を日本のER/ICUに引き直して整理する。

この記事でわかること

  • SCAIショックステージ(A〜E)で何を評価し、どう使うか
  • 心原性ショックの原因内訳が変わってきている、という事実
  • IABP・VA-ECMO・Impellaの、それぞれの「効かなかった」エビデンスと「効いた」エビデンス
  • 多枝疾患のPCI戦略(CULPRIT-SHOCK)と、それが変えたもの
  • ノルアドレナリンを第一選択にする理由
  • 日本のガイドラインが「推奨クラスを付けない」という異例の立場を取っている理由

1定義とSCAIショックステージ

心原性ショックの定義は、Shock Academic Research Consortiumによれば「心臓の異常により、臨床的・生化学的に持続する組織低灌流の証拠を伴う病態」。

具体的な診断基準は、収縮期血圧90mmHg未満が30分以上持続(またはそれを保つために強心薬・血管収縮薬・機械的補助が必要)+全身の低灌流所見。血圧が90mmHg以上でも臓器低灌流の所見があれば「正常血圧型心原性ショック」となる。

混合性ショック(mixed shock)という考え方

敗血症性ショックや循環血液量減少性ショックも低血圧・臓器低灌流を呈するが、「心原性ショックに、同時に存在するもう1つの寄与因子が加わったもの」を混合性ショックと呼ぶ、と原文は定義している。ER・ICUで実際に多いのは、敗血症に心機能低下が重なっている、あるいは大量出血に心原性の要素が混じっているパターンで、「心原性ショックか、それ以外か」の二択で考えないほうがよい場面は少なくない。

臨床的には、輸液に反応しない持続する低血圧、四肢冷感・乏尿・意識障害といった臓器低灌流所見、乳酸上昇、心エコーでの心機能低下で診断する。血行動態的には心係数2.2 L/min/m²以下、全身血管抵抗係数の上昇(>2200 dynes/cm/sec)が基準になる。

SCAIショックステージ分類

米国心血管造影・インターベンション学会(SCAI)と米国心不全学会(HFSA)が共同で提唱した分類。血圧、バイオマーカー(乳酸・ALT・pH)、治療強度をもとに5段階で重症度を層別化する。

ステージ 呼称 特徴
A At risk ショック徴候なし。乳酸2mmol/L以下
B Beginning 相対的な低血圧・頻脈はあるが低灌流所見なし。乳酸2mmol/L以下
C Classic 乳酸2mmol/L超。心係数2.2未満、PCWP 15mmHg超
D Deteriorating 乳酸が上昇し続ける、または持続して2mmol/L超。昇圧薬・MCSの増量が必要
E Extreme 乳酸8mmol/L超。最大限の支持療法でも血圧が維持できない

図1:SCAIショックステージA〜Eの重症度

AAt riskショック徴候なし乳酸 2mmol/L以下BBeginning相対的な低血圧・頻脈はあるが低灌流所見なし乳酸 2mmol/L以下CClassic低灌流あり(心係数2.2未満・PCWP 15超)乳酸 2mmol/L超DDeteriorating治療を強化しても乳酸が上昇し続ける乳酸 持続して2mmol/L超EExtreme最大限の支持療法でも血圧を維持できない乳酸 8mmol/L超SCAI/HFSA共同提唱。血圧・バイオマーカー・治療強度から5段階に層別化。少なくとも2回評価すること

このスコアの限界

原文は「病態の動的な性質上、少なくとも2回の評価が必要」「ステージ判定には主観が入り、研究間の比較を難しくしている」と述べている。1回のスナップショットで決め打ちしないこと。

2疫学 ― 死因の内訳が変わってきている

30日死亡率は依然として40〜50%。この数字は過去10年、大きく変わっていない。

8,974例のレジストリデータでは、原因別の院内死亡率は以下のとおり。混合性:48%、心筋梗塞関連:41%、新規発症心不全:31%、二次性(弁膜症・不整脈・心タンポナーデなど):31%、慢性心不全の急性増悪:25%。

図2:原因別の院内死亡率(8,974例のレジストリデータ)

0%10%20%30%40%50%48%混合性41%心筋梗塞関連31%新規発症心不全31%二次性25%慢性心不全急性増悪8,974例のレジストリデータ

歴史的には、SHOCK試験で血行再建を受けた心筋梗塞関連ショックの死亡率が47%。心原性ショックは今も「心筋梗塞入院患者の死因第1位」である。レジストリでは近年むしろ死亡率が上昇している報告もあり、高齢化と併存疾患の増加が一因として挙げられている。心筋梗塞関連心原性ショック患者の71%にフレイルの問題があるという指摘も原文にある。

死因の内訳も押さえておきたい。レジストリ解析では、死因として最も多いのは「持続する循環不全」で、次いで不整脈、低酸素性脳症、呼吸不全の順とされている。「心臓が止まったから死ぬ」だけでなく、蘇生後の脳損傷や呼吸不全が死因として一定の割合を占めるという事実は、次章の心停止後フェノタイプの話に直結する。

原因の内訳が変わってきている

「心筋梗塞に伴う心原性ショックの相対的な割合は着実に減少しており、非心筋梗塞性の心原性ショックが心筋梗塞関連の心原性ショックの数を上回るようになった」と原文は明記している。心筋炎、たこつぼ症候群、慢性心不全の急性増悪など、カテーテル室ではなく病棟・ICUから始まる心原性ショックが増えているということである。「心原性ショック=AMI+緊急カテ」という反射だけでは足りなくなっている。

3病態生理とフェノタイプ

病態の中心は、心拍出量と心係数の著しい低下。これが血圧低下と冠灌流低下を招き、心収縮力がさらに低下するという悪循環(downward spiral)を作る。

進行の過程では、初期の代償性血管収縮の後、炎症反応による病的な血管拡張が起こり、心臓・腎臓・肝臓・肺・腸管・免疫系・凝固系を含む多臓器不全に至る。

原因は4つの柱で整理される(原文Figure 2)

1. AMI-C shock:急性心筋梗塞に伴うもの(STEMI/non-STEMI、心室中隔穿孔・乳頭筋断裂・自由壁破裂などの機械的合併症を含む)
2. HF-C shock:心筋梗塞を伴わない一次性の心室不全(急性心筋炎、たこつぼ症候群、周産期心筋症、急性増悪した慢性心不全・新規発症心不全)
3. Secondary C shock:不整脈、弁膜症、心膜疾患など非心筋性の原因による二次性の心室不全
4. 心臓手術後(postcardiotomy shock)
「AMI+緊急カテ」で連想されるのは1だけで、実際には残り3つの経路からも心原性ショックは起こる。ICUで人工心肺離脱後に血圧が保てない、という状況もこの4本目の柱に含まれる。

図3:心原性ショックの原因分類(4本柱)

柱1AMI-C shock・STEMI/non-STEMI・機械的合併症を含む柱2HF-C shock・急性心筋炎・たこつぼ症候群・周産期心筋症・慢性心不全の急性増悪柱3SecondaryC shock・不整脈・弁膜症・心膜疾患柱4Postcardiotomyshock・心臓手術後・(人工心肺離脱不全等)原文Figure 2に基づく著者作成の模式図。「AMI+緊急カテ」で連想されるのは柱1だけ

フェノタイプは以下のように分類される。左室不全優位(最も多い)、両室不全、右室関与(心筋梗塞関連ショックの44%に認め、非心筋梗塞性ショックではさらに多い)、機械的合併症(自由壁破裂、乳頭筋断裂、急性僧帽弁逆流など)、心停止蘇生後のスタニング。

心停止蘇生後のフェノタイプを見逃さない

蘇生後に昏睡状態にある患者の20〜30%は、循環不全ではなく脳損傷で死亡する。「心原性ショックだからMCSを」という判断の前に、低酸素性脳症の可能性を評価しておかないと、MCS導入の適応判断そのものを誤る(【7】で詳述)。

4初期評価 ― エコーが最初、肺動脈カテーテルは限定的

「心エコー、少なくともポイント・オブ・ケア超音波(POCUS)が、心原性ショックの原因を明らかにするために最初に使うべき手段である」と原文は明記している。

肺動脈カテーテルについては、「初期治療に反応しない患者、または混合性ショックのように診断・治療上の不確実性がある患者に限って」使うことがガイドラインで推奨されているが、「肺動脈カテーテルの有用性を検証したランダム化試験のデータはまだない」とも釘を刺されている。ルーチンで全例に入れるものではない。

評価すべきバイオマーカーは以下のとおり。

・動脈血乳酸(組織灌流不全の指標)
・BNP、心筋トロポニン(心筋障害)
・CRP、IL-6、IL-1、IL-8(炎症)
・クレアチニン、シスタチンC(腎機能)
・AST、ALT、ビリルビン(肝機能)

5薬物治療 ― 輸液・強心薬・血管収縮薬

輸液

輸液は「中心性の循環血液量減少があり、うっ血がない患者」(下肢挙上試験への反応で判断)でのみ血行動態を改善しうる。うっ血がある場合はループ利尿薬で除水する。右室優位か左室優位かで輸液戦略は変わるため、病態生理に基づいた個別化が必要になる。

強心薬

「第一選択の強心薬について明確なコンセンサスはない」というのが原文の率直な結論である。

ドブタミン:左室不全に対して最も一般的に使われる
レボシメンダン:カルシウム感受性増強薬。強心作用とともに後負荷を軽減するが、RCTでは「VA-ECMOからの離脱を促進しなかった」
ミルリノン:PDE3阻害薬。RCTで「ドブタミンとの間にアウトカムの差はなかった」

Cochraneのメタ解析では「死亡率に関して、特定の強心薬の優位性を確立するに足るエビデンスはない」と結論されている。

血管収縮薬

2つのランダム化試験が引用されているが、対象集団が違うので分けて読む必要がある。

試験1ドパミン vs ノルアドレナリン(1,679例)

原文は「さまざまな原因のショックを対象とした1,679例のランダム化比較」と明記している。つまり心原性ショック限定の試験ではない。結果は、ドパミンで「不整脈イベントが明らかに多かったが、死亡率に差はなかった」。

試験2エピネフリン vs ノルアドレナリン

こちらは急性心筋梗塞後の心原性ショックが対象。心係数への効果は同様だったが、「心拍数と代謝面(乳酸アシドーシスを含む)への影響は不利だった」。

「ドパミンは心原性ショックで死亡率が高い」の正確な理解

原著が引用しているのは各種ショックを含む試験であり、その本文中では「死亡率に差はなかった」と書かれている。推奨の根拠は死亡率ではなく不整脈イベントの多さである、という理解が正確。

結論

「血圧が低く組織灌流圧が不十分なとき、ノルアドレナリンがおそらく血管収縮薬の第一選択である」
目標平均血圧は65mmHg超が一般的な目安だが、原文は「血管収縮薬による目標平均血圧は十分に定義されていない」ともはっきり書いている。55mmHg目標と65mmHg目標を比較する臨床試験(NorShock、776例)が進行中で、「もっと低い目標でよいのでは」という問いはまだ決着していない。

バソプレシンについて

「心原性ショックにおけるデータが不足している」と原文は明記している。敗血症性ショックほど確立した位置づけではなく、現時点でノルアドレナリンに次ぐ選択肢として積極的に推せる根拠は乏しい。

6血行再建 ― 「責任病変だけ」が標準になった理由

試験ごとに「心原性ショック」の定義が違う

原文のTable 1は、SHOCK・TRIUMPH・IABP-SHOCK II・CULPRIT-SHOCK・ECLS-SHOCK・DanGer Shockという主要6試験の登録基準を並べているが、収縮期血圧の閾値、乳酸カットオフ(2.0mmol/L超か2.5mmol/L超か)、尿量基準の有無などが試験ごとに微妙に異なる。「エビデンスに基づく」と言うとき、その根拠になっている「心原性ショック」の定義自体が実は一枚岩ではないことは、数字を読むときの前提として持っておきたい。

タイミング

SHOCK試験では、早期血行再建は初期の30日死亡率を有意には下げなかった。しかし長期成績(最長6年)では、早期血行再建群で死亡率が低下した。このため「早期血行再建は各国のガイドラインで強く推奨されている」。

レジストリデータでは、心原性ショックにおける血行再建の遅れは臨床アウトカムの悪化と関連しており、door-to-balloon時間の短縮が求められている。

多枝疾患をどうするか ― CULPRIT-SHOCK試験

心筋梗塞関連心原性ショックの70〜80%は多枝冠動脈疾患を合併している。ここで長年の問い「責任病変だけ治療するか、その場で全部治療するか」に答えを出したのがCULPRIT-SHOCK試験である。

CULPRIT-SHOCK試験

責任病変のみのPCI vs 即時多枝PCIを比較。退院時点の死亡+腎代替療法の複合エンドポイントは、責任病変のみ群45.9% vs 多枝PCI群55.4%(RR 0.83、95%CI 0.71–0.96、P=0.01)。差は主に死亡率の低下によるもので、責任病変のみ群で生存した患者の多くは、その後の病状安定後に段階的な血行再建を受けている。

現在の標準戦略は「責任病変のみのPCI、その後病状安定後に段階的な追加血行再建」。冠動脈の解剖がPCIに適さない場合は冠動脈バイパス術も検討される。

機械的合併症

乳頭筋断裂、心室中隔穿孔、自由壁破裂といった急性心筋梗塞後の機械的合併症は、「まれであり、発生率も減少している。しかし、ひとたび起これば予後は極めて不良である。したがって生存のためには外科的または経皮的な修復が必須である」と原文は述べている。ここだけは血行再建やMCSの議論とは別で、「修復しなければ助からない」という単純な構造になっている。

遠方施設からの搬送 ― pharmacoinvasive approach

観察研究では、施設間搬送に時間がかかるSTEMI+心原性ショック患者において、線溶療法を先行させるpharmacoinvasive approachが、直接PCIと比べて重大出血を増やすことなく臨床的benefitを示したと報告されている。遠隔地からカテ室のある施設への搬送に時間を要する日本の一部地域でも参考になる知見である。

7機械的循環補助(MCS)― 何が効いて、何が効かなかったか

主要デバイスはIABP、VA-ECMO、Impella(微小軸流ポンプ)、TandemHeartの4つ。それぞれの主要試験と現在の位置づけを一覧にした。

デバイス 流量 主要試験・エビデンス 結果 現在の位置づけ
IABP 血行動態の検討 薬物療法と比較して、心係数その他の血行動態指標を改善しなかった
IABP IABP-SHOCK II(心筋梗塞関連) 薬物療法と比較して生存benefitなし 心筋梗塞関連ショックへのルーチン使用は非推奨(米国)。機械的合併症には欧州ガイドラインで推奨
IABP Altshock-2(心不全関連、101例のみ) 60日時点の生存・心臓移植へのブリッジ成功率を改善せず 非推奨の方向。ただし試験規模は小さい
VA-ECMO 最大6 L/min ECLS-SHOCK 30日死亡率 47.8% vs 49.0%(RR 0.98、95%CI 0.80–1.19、P=0.81)。1年後も差なし 米国ガイドラインでルーチン使用は非推奨
VA-ECMO 同上 4試験の個別患者データメタ解析 心筋梗塞関連ショックで死亡率benefitなし、合併症はデバイス群で多い 同上
Impella 約4.3 L/min 大規模傾向スコアマッチング研究(10万例超) 一貫して生存benefitなし、合併症増加
Impella 同上 DanGer Shock(STEMI、360例) 180日全死亡率が低下(HR 0.74、95%CI 0.55–0.99、P=0.04)。最長10年の追跡でもbenefitは持続 米国ガイドラインでクラスIIa(選択された患者に)
TandemHeart 最大4 L/min 小規模2試験(主に心筋梗塞関連) 臨床アウトカムについて決定的なエビデンスを示さず 実臨床ではまれにしか使われない

DanGer Shockの結果を安易に一般化しない

Impella群では出血・下肢虚血・腎代替療法が有意に多かった。別のレジストリ解析では、「DanGer Shockの適格基準に照らすと、心原性ショックで入院した全患者のうちMCSの候補となるのはわずか5%、STEMI関連心原性ショックに限っても32%」でしかないと報告されている。「Impellaが効く」のではなく、「効く可能性がある集団を絞り込めた」というのが正確な理解である。

なお、心筋梗塞関連心原性ショックにおける微小軸流ポンプの試験は他に2本開始されたが、そのうち1本はDanGer Shockの結果が公表された後、データ安全性モニタリング委員会によって中断された。エビデンスが出た瞬間に、進行中の試験の倫理的な立ち位置が変わったということである。

誰にMCSを使うか ― 原因別に見た振り分けアルゴリズム

原文のFigure 3Bは、ショックチームでの協議を起点に、原因別にMCSの位置づけを振り分けるアルゴリズムを示している。

図4:原因別に見たMCS適応の振り分け(原文Figure 3Bに基づく著者作成の簡略図)

ショックチームでの協議二次性ショック全体の10%未満心不全関連全体の50%超心筋梗塞関連全体の50%未満選択された患者にのみ(コホート研究)LVAD・移植へブリッジ選択された患者にのみ(マッチング比較)脳損傷リスクなし<10%benefitありRCT・メタ解析心停止あり約50%benefitなしむしろ害機械的合併症約3%選択のみ症例対照根拠のレベル:AMI関連のみRCT・メタ解析/心不全はマッチング比較/二次性はコホート/機械的合併症はケースコントロール

原因 全体に占める割合 MCSの位置づけ 根拠のレベル
二次性ショック 10%未満 選択された患者にのみ コホート研究
心不全関連 50%超(新規発症 約25% / 慢性の急性増悪 約75%) LVAD・心臓移植へのブリッジとして、選択された患者にのみ マッチング比較
急性心筋梗塞関連 50%未満(STEMI 約66% / non-STEMI 約30% / 機械的合併症 約3%) 下記のとおり分岐 RCTとメタ解析
― うち 左室不全で脳損傷リスクなし 心原性ショック全体の10%未満 ルーチン使用で生存benefitあり RCTとメタ解析
― うち 心停止例 心筋梗塞関連の約半数 ルーチン使用に生存benefitなし、むしろ害 RCTとメタ解析
― うち 機械的合併症 心筋梗塞関連の約3% 選択された患者にのみ ケースコントロール

この図で本当に読むべきもの

右端の「根拠のレベル」の列である。MCSについてRCTとメタ解析という水準の根拠があるのは急性心筋梗塞関連の枝だけで、心不全関連はマッチング比較、二次性はコホート研究、機械的合併症はケースコントロールにとどまる。つまり「心不全でECMOを回す」「弁膜症でImpellaを入れる」という判断は、心筋梗塞の場合と同じ強さの根拠に立っているわけではない。

そして、DanGer Shockが恩恵を示した「左室不全が主体で低酸素性脳症リスクがない」集団は、このアルゴリズム上でも心原性ショック全体の1割に満たない狭い一角である。前段のレジストリ解析(5%・32%)とこの数字(10%未満)は集計方法こそ違うが、「MCSが積極的に恩恵をもたらす集団は一部に限られる」という結論では一致している。

図の読み方について2点

・Figure 2(病因分類)は心臓手術後(postcardiotomy shock)を含む4本柱だが、このFigure 3B(MCS適応)には心臓手術後の枝が登場しない。心臓手術後ショックのMCS戦略は本稿の射程外という位置づけと読める。
・心停止の有無による約50%ずつの分岐が、STEMIのみに掛かるのかnon-STEMIにも掛かるのかは、図の矢印からは一意に読み取れない。ここでは終点の推奨内容を軸に整理した。

VA-ECMOの物理的な問題

「VA-ECMOデバイス自体が、大動脈内に逆行性血流を作ることで後負荷を増やし、心臓に害を与えることすらある」。これがVA-ECMO単独使用の弱点であり、微小軸流ポンプやIABPによる左室アンローディングを併用する発想につながっている。観察研究では、これらのデバイスを併用した場合に死亡率が低いことが示唆されている。

ただし、ここでも観察研究とRCTは食い違っている

経中隔左房脱血によるルーチンの左室アンローディングとVA-ECMO単独を比較した最近のランダム化試験は、死亡率に効果を示さなかった(EARLY-UNLOAD試験、Circulation 2023)。「アンローディングは理屈が通っているし観察研究でも良さそう」という段階にとどまっており、確立した戦略ではない。追加のRCT(UNLOAD-ECMOなど)が進行中である。

誰にMCSを使うべきか ― 9試験・1,059例のメタ解析

全体では、MCS群と対照群で死亡率に差はない。ただし、左室機能不全優位の表現型で、かつ低酸素性脳症のリスクが低い患者集団に限ると、死亡率のbenefitが確認された(HR 0.77、95%CI 0.61–0.97、P=0.024)。合併症率はデバイスの種類によらず、一貫してMCS群で高い。

MCSが効く集団は狭い

心筋梗塞関連心原性ショックの50〜60%は、MCSを使わなくても生存する。この集団にMCSを入れれば、合併症のリスクだけを負わせることになる。残り40〜50%のうち、高齢・フレイル・低酸素性脳症を合併した患者ではMCSの恩恵は乏しい。MCSが効くのは、「左室不全が主体で、脳損傷リスクが低い」という狭い集団である。

8集中治療管理とシステムオブケア

全身管理

血糖管理、1時間ごとの頻回な乳酸測定(病状安定まで)、適切な酸素供給、血栓予防、ストレス潰瘍予防、早期安定後の経腸栄養開始が推奨される。

人工呼吸を要する場合は、可能な限り肺保護換気(一回換気量6〜8mL/kg 予測体重)を行う。非侵襲的陽圧換気(CPAP)は挿管回避に有用な場合があるが、「右心不全が優位な病態では注意が必要」とされる。

腎代替療法

適応は、尿毒症症状を伴う急性腎不全、他の方法で管理できない体液過剰、代謝性アシドーシス、難治性高カリウム血症。

主要試験での腎代替療法導入率は、IABP-SHOCK II 18%、CULPRIT-SHOCK 14%、ECLS-SHOCK 11%、DanGer Shockではそれより早期に導入されていた。「従来の緊急適応がない状況での早期導入は、アウトカムに影響しないことが示されている」とされ、最適な導入タイミングは「今も不明」というのが正直な結論である。

システムオブケア

「心原性ショックの患者は、機械的循環補助の開始・エスカレーションが可能で、心臓インターベンションを提供でき、CCUと心臓外科がオンサイトにある専門の三次医療施設で治療されるべきである」。

年間症例数が最も多い施設群(年間107例以上)で死亡率が低いというvolume-outcome関係も示されている。集中治療医・インターベンション医・臨床工学技士・心臓外科医からなる多職種ショックチームと、地域単位でのショック診療体制の構築が、独立してアウトカムを改善する可能性があるとされる。

9日本の実情

Impella(J-PVAD)の施設基準は、日本の方がむしろ厳格

日本でImpellaを使うには、「循環器専門医、および心臓血管外科専門医、集中治療専門医、心血管インターベンション治療学会認定医あるいは専門医、メディカルスタッフにより構成されるハートチーム」に加え、「体外循環技術認定士または人工心臓管理技術認定士2名を含む3名以上の臨床工学技士の在籍」が必要とされている。

施設の症例数要件も具体的である(以下は更新認定基準)。

・心臓血管手術が年間100例以上
・最近3年間の、補助循環用ポンプカテーテル装着症例を含むIABP・PCPS/ECMO(VV-ECMOを除く)の経皮的循環補助症例が合算で30例以上
・最近3年間のPCI施行総数が300例以上

2つ目の要件について

「IABPで何例、ECMOで何例」という別々のハードルではなく、経皮的循環補助を合算して30例という1本の基準である。なお小児専門施設についてはIABPとPCIの要件が免除されるなどの例外規定がある。

適応は「あらゆる内科的治療抵抗性の急性左心不全を主体とする循環不全が遷延する症例」とされ、重症度分類としてSCAIショックステージが用いられるようになっていることも指針に記載されている。

一方で、「自己心拍再開を認めていない症例や、低酸素性脳症が強く疑われ、予後が極めて不良と想定される症例などはIMPELLA使用の除外も考慮に入れること」とも書かれている。絶対禁忌という書き方ではないが、方向性はDanGer Shockの適格基準(脳損傷リスクの低い患者に限る)と一致している。

つまり

日本では、「MCSを誰に使うべきか」という選別が、個々の医師の判断だけでなく施設認定の仕組みそのものに組み込まれている。これは原文が強調する「MCSは選ばれた集団にだけ効く」という結論と、方向性としては整合している。

ガイドラインが推奨クラスをあえて付けていない

日本循環器学会の「PCPS/ECMO/循環補助用心内留置型ポンプカテーテルの適応・操作」(2023年フォーカスアップデート版)は、注目すべき立場を取っている。

「推奨クラスやエビデンスレベルを無理に記載することはせず、あくまでエキスパートコンセンサスとして提示することとする」

IABP-SHOCK II試験の結果(30日死亡率、IABP群39.7% vs コントロール群41.3%)はこのガイドラインでも引用されており、「欧米のガイドラインでIABPをルーチンで使用することは推奨されなくなった」という事実は共有されている。一方で、VA-ECMOについては欧州ガイドラインの「クラスIIb」を参照するにとどまり、日本独自の推奨クラスは示されていない。

エビデンスと、現場の温度差

欧米のガイドラインが「ルーチン使用は非推奨」と明言する一方、日本のガイドラインはあえて推奨クラスを付けず「エキスパートコンセンサス」の形を取っている。これは、施設ごとの経験や医療体制の違いが大きいことの裏返しでもあるが、現場の医師がIABPやVA-ECMOを「昔からある選択肢」として反射的に選びやすい土壌が残っているとも言える。CULPRIT-SHOCK試験の「責任病変のみPCI」についても、このガイドラインには明示的な言及がなく、各施設の慣行に委ねられている部分が大きい。

血行再建戦略

CULPRIT-SHOCK試験の結果は国際的に標準treatmentとして広く受け入れられており、日本の循環器診療でも責任病変優先PCI+段階的追加血行再建という流れは浸透している。ただし、施設によっては多枝疾患に対して一期的な血行再建を選択する慣行が根強く残っている場合もあり、エビデンスと実臨床の間に一定の距離があることは意識しておきたい。

10やりがちな失敗とTake home

1「心原性ショック=AMI」で思考を止める

非心筋梗塞性の心原性ショックが、心筋梗塞関連の症例数を上回るようになっている。心筋炎、たこつぼ症候群、慢性心不全の急性増悪も同じ土俵で考える。

2SCAIステージを1回だけ評価して終わる

ステージは動的。少なくとも2回評価するという原則を忘れない。

3「心原性ショックだから」とルーチンでIABPを入れる

IABP-SHOCK II、Altshock-2ともに生存benefitを示せていない。機械的合併症など個別の適応を除き、反射的な使用は避ける。

4VA-ECMOを回せば安心、と思い込む

ECLS-SHOCKは30日死亡率で差を示せなかった。後負荷増加というデバイス自体の弱点も理解しておく。

5DanGer Shockの結果を全患者に当てはめる

MCSの候補となるのは心原性ショック全体の5%、STEMI関連に限っても32%。低酸素性脳症リスクの評価を先に行う。

6多枝疾患を見つけたその場で全部治療する

CULPRIT-SHOCK試験以降、責任病変のみPCI+段階的追加血行再建が標準。

7蘇生後の意識障害を「循環の問題」とだけ捉える

昏睡患者の20〜30%は脳損傷で死亡する。MCS導入の判断はここに直結する。

8血管収縮薬の選択に迷わずドパミンを使う

ノルアドレナリンと比べて不整脈イベントが多い。第一選択はノルアドレナリン。

9「心不全でもECMO、弁膜症でもImpella」を心筋梗塞と同じ感覚で判断する

MCSについてRCTとメタ解析の水準で根拠があるのは急性心筋梗塞関連の枝だけ。心不全関連はマッチング比較、二次性はコホート研究、機械的合併症はケースコントロールにとどまる(原文Figure 3C)。

10左室アンローディングを確立した戦略として扱う

経中隔左房脱血によるルーチンのアンローディングを検証したRCTは死亡率に効果を示していない。観察研究とRCTが食い違っている段階である。

Take home

  1. 非心筋梗塞性の心原性ショックが増えている。「AMI+緊急カテ」だけの発想では現場に追いつかない。
  2. SCAIショックステージ(A〜E)で重症度を層別化し、少なくとも2回評価する。
  3. 血管収縮薬はノルアドレナリンが第一選択。強心薬は明確な優劣がない。
  4. 多枝疾患には責任病変のみのPCI、その後の段階的血行再建が標準(CULPRIT-SHOCK)。
  5. IABP・VA-ECMOのルーチン使用は生存benefitを示せていない。Impella(DanGer Shock)は左室不全優位・低酸素性脳症リスクが低い集団でのみbenefitが確認されている。
  6. MCSが積極的に生存benefitをもたらす集団は、心原性ショック全体の1割に満たない(STEMI・心停止なし・低酸素性脳症リスクなしの一角)。「使うか使わないか」ではなく「誰に使うか」を選ぶ。
  7. 日本のガイドラインは推奨クラスをあえて付けず、施設基準(J-PVAD)で選別を担保している。エビデンスと現場の慣行に距離がある領域だと自覚しておく。
参考文献
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