74歳の男性が、右脚の痛みで救急外来を歩いて受診した。3日前、フロリダ湾岸の海に飛び込んだときに右下腿を切った。よくある裂創である。ところが2日後、なぜか右の前腕にも皮膚の変化が出てきた。腕は怪我をしていない。
受診時、右下腿には皮下気腫(crepitus)と皮膚の剥離が起きていた。そしてこの患者に、肝硬変はない。免疫抑制状態でもない。最終的に、彼は右脚を大腿から失った。
2026年4月のNEJM、Images in Clinical Medicine に載った一枚である(N Engl J Med 2026;394(16):e31)。写真3枚と300語ほどの短い記事だが、救急にとっては痛いところを突いてくる。
我々はこの疾患を「夏・海・肝硬変」の3点セットで覚えている。そして3点目がないと、少しだけ気を抜く。この症例は、その気の抜き方が命取りになることを示している。
この連載「Case Report Club」では、高IF誌に載った症例報告を1本持ってきて、「自分のERに来たらどう動くか」まで落として検討していきます。第1回はこの菌です。
補足
NEJMのこの号のImages in Clinical Medicineは「気候危機が臨床にもたらす影響」を特集する企画で、本症例はその1本として選ばれています。温暖化の話は記事の最後で扱いますが、それがこの症例の掲載理由でもあります。
この記事でわかること
- 肝疾患がなくても Vibrio vulnificus は起こる。宿主要因をどう使い、どう使わないか
- 受傷部位から離れた場所に出る皮膚病変が意味すること
- LRINECスコアとCTを、どこまで信じてどこで捨てるか
- 日本で実際に出せる抗菌薬とその用量(ドキシサイクリン静注は国内にない)
- 初回デブリドマンまでの時間が死亡率をどれだけ動かすか
- Aeromonas・劇症型GASとの見分け方(聞くべきは「どの水か」)
1今回の症例
元論文
Rosseau N, Beatty NL. Vibrio vulnificus Necrotizing Soft-Tissue Infection. N Engl J Med. 2026 Apr 23;394(16):e31.(University of Florida College of Medicine)
NEJMの Images in Clinical Medicine。写真はPanel A(右下腿)、Panel B(右前腕)、Panel C(6か月後の右前腕)の3枚である。
症例
74歳男性。主訴は右下腿の有痛性裂創(3日前から)。
3日前、フロリダ湾岸の海に飛び込んだ際に右下腿を裂創した。以後、疼痛が持続していた。受傷の2日後、右前腕に皮膚の変化が出現した。前腕に外傷はない。
既往歴として、慢性肝疾患の既往はなく、免疫抑制状態をきたす基礎疾患もない。
身体所見は、右下腿(Panel A)に皮下出血(ecchymosis)、皮下気腫(crepitus)、皮膚の剥離(desquamation)。右前腕(Panel B)に発赤、腫脹、皮下出血、そして血性水疱(hemorrhagic bulla)。
経過と転帰
緊急で右上肢・右下肢のデブリドマンが施行された。血液培養および組織培養から Vibrio vulnificus が検出され、V. vulnificus による壊死性軟部組織感染症と診断された。
最終的に膝上切断(above-knee amputation)と前腕へのメッシュ植皮を要した。抗菌薬はセフトリアキソンとドキシサイクリンを完遂している。植皮および切断から6か月後、前腕(Panel C)と切断部はいずれも良好に治癒した。
図1:本症例の時系列を示す模式図
この症例が投げている問い
受診3日目、右下腿にcrepitusと皮膚剥離があり、右前腕に血性水疱がある74歳。これを初日の裂創の時点で、あるいはせめて前腕に病変が出た2日目に捕まえられたか。
2Stop & Think
答えを見る前に3つだけ考えてみてください。
- Q1 肝硬変も免疫抑制もないこの事実は、あなたの Vibrio vulnificus の疑いを下げますか、下げませんか。
- Q2 右下腿を怪我したのに、右前腕に病変が出ているこれは何を意味していますか。
- Q3 抗菌薬を2剤選ぶとしたら日本の病院で、何をどの用量で出しますか。
3答え合わせ
診断は Vibrio vulnificus による壊死性軟部組織感染症。血液培養と組織培養の両方から菌が検出されている。3つの問いの答えを先に置く。
疑いは下がらない。V. vulnificus 敗血症の80〜90%には基礎疾患があるとされるが、逆に言えば10〜20%は基礎疾患なしで発症する。この症例はそちら側である。宿主要因は「重症度と予後の予測因子」であって、「除外基準」ではない。
右下腿の創部から菌血症を起こし、離れた右前腕の皮膚に病変を作った。実際、血液培養が陽性である。外傷部位以外にも皮膚病変があるという所見は、局所感染ではなく菌血症が既に成立していることを示す強いサインになる。
原文ではセフトリアキソン+ドキシサイクリンが使われている。ただし日本にはドキシサイクリンの静注薬がないので、ミノサイクリン点滴静注に置き換えることになる(詳細は第7章)。
壊死性軟部組織感染症(NSTI)
皮下組織・筋膜・筋に及ぶ進行性の壊死を伴う感染症。necrotizing soft tissue infection。「壊死性筋膜炎」を含む上位概念である。外科的デブリドマンが治療の本体であり、抗菌薬は補助という位置づけを最初に押さえておく。
4肝硬変がなくても起こる ― 宿主要因の正しい使い方
菌の側の事情
Vibrio vulnificus は好塩性のグラム陰性桿菌。一端に鞭毛を持ち、活発な運動性を示す。海水・汽水域に常在し、水温15℃以上で活発化する。V. parahaemolyticus がほとんど生息できない低塩分(2.0‰以下)の汽水域にも高率に生息しているのが特徴で、これが河口域での受傷が問題になる理由でもある。
原文も、この菌が温かく低塩分の沿岸・汽水域に存在すること、感染は主に加熱不十分な魚介類の摂取または開放創の水曝露で成立することを明記している。
病原性の中心は、大型のMARTX毒素(RtxA1)、溶血毒VvhA、メタロプロテアーゼなど。組織を直接壊しながら進むため、進行速度が他のNSTIと比べても速い。潜伏期は数時間〜7日、平均24時間以内で、皮膚病変は24時間以内に出現しうる。
鉄と肝疾患 ― 「かかりやすさ」ではなく「壊れやすさ」
この菌は増殖に鉄を必要とする。肝硬変、アルコール性肝障害、ヘモクロマトーシスなどの鉄過剰状態ではトランスフェリン飽和度が上がり、菌が使える遊離鉄が増える。慢性肝疾患や免疫低下があると、原発性敗血症のリスクは健常者の最大80倍とされる。
予後も明確に分かれる。V. vulnificus 壊死性軟部組織感染症のメタ解析(12研究・1,157例)では、肝疾患ありで致死率 53.9%(292/542)、肝疾患なしで 16.1%(99/615)、リスク比 2.61(95%CI 2.14–3.19)であった。日本のデータでも菌血症の致死率は約40%、来院時にショックがあれば90%近いとされる。
だが、それは除外の道具にならない
図2:Vibrio vulnificus 敗血症例における基礎疾患の有無を示す模式図
やりがちな誤り
「肝硬変も免疫抑制もないから、Vibrioは考えなくていいだろう」
→ V. vulnificus 敗血症の80〜90%に基礎疾患があるとされるが、残り10〜20%は基礎疾患のない人に起きている。NEJMの症例(74歳男性)はまさにその群であり、結果として大腿切断に至った。
宿主要因の正しい使い方
肝疾患・鉄過剰・糖尿病・悪性腫瘍・免疫抑制・透析がある → 疑いの閾値をさらに下げる。致死率は3倍以上になる。
それらがない → 疑いの閾値は下がらない。ただそれだけ。曝露歴と局所所見で判断する。
つまり、宿主要因は疑いを「上げる」ためだけに使い、「下げる」ためには使わない。
肝疾患なし群の致死率16%、創傷感染全体の平均致死率25%という数字も、「基礎疾患がなければ軽い」という直感が間違っていることを示している。6例に1例が亡くなる病気を軽症とは呼べない。
5傷は脚、病変は腕 ― 遠隔部位病変というサイン
この症例の時系列(図1)をもう一度見てほしい。Day 2の「腕」が、最も見逃されやすく、最も価値のある所見である。
外傷部位から離れた場所に皮膚病変が出たら、それは局所感染ではない
創部が右下腿なのに右前腕に病変が出るということは、菌が血流に乗って遠隔部位の皮膚に到達しているということ。つまりこの時点で既に菌血症である。実際、この患者は血液培養が陽性だった。
これは V. vulnificus に限った話ではないが、この菌では特に重要になる。なぜなら、経口感染による原発性敗血症でも「外傷のない四肢に水疱性病変が出る」という同じ形をとるからだ。
ERでの実務的な言い換え
・傷がある部位だけが赤い → 局所の話。それでもNSTIは否定できない
・傷のない部位にも皮膚病変がある → 血流に乗っている。血液培養を取り、全身疾患として扱う
・そもそも傷がなく、四肢に水疱性病変とショックがある → 経口感染からの原発性敗血症を疑い、食事歴(生牡蠣・刺身)を聞く
日本感染症学会の記載でも、経口感染では肝疾患患者において「来院後12時間以内にショックを呈する」とされ、「皮膚に水疱性病変を生じることも多い」と明記されている。傷がないのに水疱がある、という組み合わせを異常と感じられるかどうかが分かれ目になる。
6どう疑うか ― 病歴・身体所見・検査の限界
病歴 ― 夏の四肢の痛みで必ず聞く3つ
- 海・河口・汽水域に入りましたか。どんな水でしたか最優先の質問。遊泳、飛び込み、釣り、漁、潮干狩り、素足で磯を歩いた。ここで「海水か淡水か」を必ず区別する。1975〜2005年の国内185例では、報告患者の77%が海での感染だった。
- この1週間、生の魚介類を食べましたか特に牡蠣・刺身。加熱不十分も含む。国内の集計では経口感染例の74%が生食、8.6%が加熱不十分だった。
- 肝臓の病気、糖尿病、免疫を抑える薬はありますかあれば閾値を下げ、致死率の見積もりを上げる。なくても閾値は下げない。今回の症例がその証拠である。
順番が重要である。曝露歴を先に聞き、宿主要因は後から重みづけに使う。逆にすると、今回のような「基礎疾患のない患者」を取りこぼす。
身体所見 ― 「ないこと」は除外にならない
Fernando らのシステマティックレビュー・メタ解析(Ann Surg 2019、23研究・5,982例)の数字を覚えておくと、身体所見の使い方が変わる。
| 所見・検査 | 感度 | 特異度 | 使い方 |
|---|---|---|---|
| 発熱 | 46% | — | 半分は熱がない。除外に使えない |
| 血性水疱 | 25.2% | — | 4例中3例では出ていない。待つと間に合わない |
| LRINEC ≧6 | 68.2% | — | 3例に1例を見逃す。rule outには使えない |
| CT | 88.5% | 93.3% | 有用。ただし結果を待って外科コールを遅らせない |
| 単純X線 | CTに劣る | — | 陰性でも否定材料にならない |
血性水疱はこの菌の代名詞のように語られるが、NSTI全体での感度は25%である。今回の症例では血性水疱もcrepitusも揃っていたが、それは受傷から3日目の話であって、Day 0やDay 2にはそこまで揃っていない。
代わりに拾うべきは、次の「不釣り合い」である。
- 疼痛が皮膚所見に不釣り合いに強いpain out of proportion。触診で発赤範囲を大きく越えて痛がる。
- 皮膚所見が軽いのに、全身が悪いショック、乳酸上昇、血小板減少、AKI。見た目と数字の乖離を異常と捉える。
- 数時間単位で発赤の境界が動くマーキングして30〜60分後に再評価する。
- 外傷部位から離れた部位にも皮膚病変がある前章のとおり、菌血症のサインである。
- 皮膚の感覚低下進行例。神経が壊れると痛みが「消える」ので、痛みの改善を良い徴候と取り違えない。
crepitusについて。今回の症例では右下腿にcrepitusが認められている。あれば強い警告だが、なくてもNSTIは否定できない。「ガスがないからガス壊疽ではない」で止まらないこと。
LRINECの使い方を間違えない
LRINEC(CRP、WBC、Hb、Na、Cre、血糖の6項目)は、カットオフ6以上での感度が 68.2% である。スコアが低いことを理由にNSTIを否定してはいけない。スコアは「高ければ背中を押す」道具であって、「低ければ帰す」道具ではない。なおIDSAの皮膚軟部組織感染症ガイドライン(2014)はLRINECに言及していない。日本人コホートでの検証と日本版スコア(J-LRINEC)の提案も出ている。
検査室に何を伝えるか
血液、水疱内容、創部組織を検体として、通常の血液寒天培地での分離で十分検出できる。特殊な培地を最初から用意しなくても、通常の血液培養で生える。今回の症例も血液培養と組織培養の両方から検出されている。
細菌検査室への一言
「海水曝露のある患者です。Vibrio vulnificus を疑っています」
グラム染色でグラム陰性桿菌が見えた時点でこれが伝わっていれば、テトラサイクリン系を含む治療の妥当性が固まる。簡易同定キットでは白糖・マンニトール分解性やオルニチンデカルボキシラーゼの反応が株によって異なり、判定できない例もあるとされる。
7何をどの順でやるか
図3:壊死性軟部組織感染症を疑ったときの初期対応を示す模式図
- 0分 ― 疑った瞬間に3つを同時に始める逐次ではなく並列。「外科コンサルトはCT結果を見てから」が最もよくある失敗である。蘇生(末梢2本・細胞外液・乳酸・血液培養2セット)、検体(創部と水疱内容のグラム染色と培養、可能なら組織培養)、外科コール(整形外科/形成外科/消化器外科など施設の当番科に「NSTI疑い、手術室確保を」)。
- 15分以内 ― 抗菌薬Vibrio を疑うなら、テトラサイクリン系を必ず載せる。ここが最重要。
- 6〜12時間以内 ― 初回デブリドマン予後を最も動かすのはここ。抗菌薬ではなく、手術が治療の本体である。
- 並行 ― ICU管理敗血症性ショック、DIC、AKI、(肝疾患があれば)肝不全が同時に来る。日本感染症学会も「集学的管理を行うICUでの管理が望ましい」と明記している。
日本で実際に出せる抗菌薬
第一選択(併用)
セフトリアキソン 2g を12時間ごと 点滴静注(添付文書上、難治性・重症感染症では1日4gまで2回分割が可能)
または セフォタキシム 1g を6時間ごと(国内添付文書上限は1日4g、2〜4回分割)
+ ミノサイクリン塩酸塩 点滴静注:初回100〜200mg、以後100mgを12時間ごと、30分〜2時間かけて点滴
代替:シプロフロキサシン または レボフロキサシン(日本感染症学会が挙げる代替薬)
日本の実務上の注意
・原文の患者はセフトリアキソン+ドキシサイクリンで治療されているが、ドキシサイクリンは日本では経口薬(錠剤)しかない。静注できるテトラサイクリン系はミノサイクリンになる。
・ミノサイクリン点滴静注の適応症には「敗血症」「深在性皮膚感染症」が含まれる。
・セフォタキシムはIDSAガイドラインでは2g 8時間ごと(1日6g)が挙げられているが、国内添付文書上の上限は1日4g。用量設計はここで海外文献とずれる。
・起因菌が未確定のNSTIとしての初期治療なら、広域β-ラクタム(メロペネム、タゾバクタム/ピペラシリン等)+クリンダマイシン(毒素産生抑制)+MRSAカバーが標準的な組み方。そこに海水曝露があれば、テトラサイクリン系を足すことを忘れない。
抗菌薬のエビデンスの位置づけ
IDSA 皮膚軟部組織感染症ガイドライン(2014)Table 4 は、V. vulnificus に対してドキシサイクリン+セフトリアキソンまたはセフォタキシムの併用を挙げている。基礎的なデータとしては、in vitro でセフォタキシムとミノサイクリンの相乗効果が示され(Chuang YC, et al. AAC 1997)、マウスモデルでも同じ組み合わせの有効性が確認されている(AAC 1998)。
マウスの経口感染モデルでは、単剤より併用が明確に優れた(Trinh SA, et al. AAC 2017)。単剤の生存率は対照0%、セフトリアキソン50%、セフェピム20%、ドキシサイクリン79%、シプロフロキサシン80%だったのに対し、併用ではセフトリアキソン+ドキシサイクリン91%、セフトリアキソン+シプロフロキサシン100%、セフェピム+ドキシサイクリン96%、セフェピム+シプロフロキサシン90%であった。
投与のタイミングも効く。原発性敗血症では、24時間以内の抗菌薬投与で致死率が50%から33%程度に下がる一方、72時間を超えると100%近くに達すると報告されている。
実務的な結論
ヒトでのRCTは存在しない。だが「併用する」という判断のコストはほぼゼロなので、疑ったら併用でよい。
初回デブリドマンまでの時間
図4:初回デブリドマンまでの時間と死亡率
Nawijn らのシステマティックレビュー・メタ解析(World J Emerg Surg 2020;15:4)によれば、6時間以内 vs 6時間超で死亡 19% vs 32%(OR 0.43、95%CI 0.26–0.70)、12時間以内 vs 12時間超で 19% vs 34%(OR 0.41、95%CI 0.27–0.61)。24時間の閾値では有意差がなかった(OR 0.79、95%CI 0.52–1.20)。
著者らの結論は「12時間以内が最低限のgolden time frameであり、6時間以内が強く望ましい」。早期デブリドマンは死亡率をおよそ半減させる。EASTの Practice Management Guideline(2018)も「診断から12時間以内の初回デブリドマン」を推奨している(エビデンスの質はvery low、効果の大きさはvery large と記載)。IDSAガイドライン(2014)は、全身性の毒素症状を伴う侵襲的感染や壊死性筋膜炎・ガス壊疽が疑われる患者に対する速やかな外科コンサルトを推奨している(strong, low)。
24時間の壁ではなく、6〜12時間の壁
「明日の朝一番でオペ」はこの疾患では遅い。そして今回の症例が示すとおり、四肢切断が必要になることがある。この患者は膝上切断に至ったが、6か月後には切断部も植皮部も良好に治癒している。切断は敗北ではなく、救命の手段である。
手術は一回で終わらない。24〜48時間ごとの再評価と再デブリドマンを前提にプランを組む。
8やりがちな失敗
今回の症例そのもの。基礎疾患なしは10〜20%を占め、それでも脚を失う。宿主要因は疑いを上げるためだけに使う。
セファゾリンは V. vulnificus をカバーしない。夏+海水曝露の組み合わせで第1世代セフェム単剤に入れた瞬間、勝負がついてしまう。
血性水疱の感度25.2%、発熱の感度46%。「出てから動く」では間に合わない。
外傷部位以外の病変は菌血症のサイン。血液培養を取り、全身疾患として動く。
カットオフ6以上での感度68.2%。3例に1例を見逃す。
並列で動く。コールとCTは同時。手術室確保を先に走らせる。
夏の四肢の痛みでは、水曝露歴・生食歴・宿主要因を定型質問にする。「どんな水だったか」まで踏み込む。
広域β-ラクタム単剤では足りない。ミノサイクリンを足す。
肝疾患・鉄過剰・免疫低下のある患者には、生の魚介類を避けること、皮膚に傷があるときは海水・汽水に入らないことを退院時に伝える。
9日本の事情と、温暖化
鑑別 ― 聞くべきは「どの水か」
| 項目 | Vibrio vulnificus | Aeromonas hydrophila | 劇症型GAS |
|---|---|---|---|
| 水の種類 | 海水・汽水(河口) | 淡水・汽水 | 水曝露は不要 |
| 典型的な曝露 | 遊泳、飛び込み、磯釣り、漁、潮干狩り、生牡蠣・刺身 | 川・池・田んぼ、洪水、淡水魚 | 咽頭炎後、微小外傷、産後、水痘後 |
| 宿主 | 肝硬変・鉄過剰でリスク増。ただし基礎疾患なしも10〜20% | 肝疾患・悪性腫瘍・免疫低下 | 健常者にも起こる |
| 季節 | 夏(日本では5〜11月、7〜9月ピーク) | 夏〜秋、洪水後 | 通年 |
| 皮膚所見 | 血性水疱、急速な壊死、遠隔部位病変 | 血性水疱、ガス産生あり | 疼痛が先行、紅斑から壊死へ |
| 抗菌薬の要点 | 第3世代セフェム+ミノサイクリン | 第3世代セフェム+ミノサイクリン(またはFQ) | ペニシリン+クリンダマイシン |
実務的には
Vibrio と Aeromonas は同じ組み方でカバーできると覚えると楽である。第3世代セフェム+ミノサイクリンで両方に乗る。区別が要るのは疫学的な問診と、退院時の患者指導のとき。劇症型GASを疑うなら、そこにペニシリン系とクリンダマイシンの組み合わせが加わる。
日本ではどこで、いつ起きるか
図5:日本におけるビブリオ・バルニフィカス感染症の季節性を示す模式図(実数ではなく相対的な分布)
発生地域は関東以南の太平洋岸、瀬戸内海沿岸、東シナ海沿岸地域が多く、国内で200例以上の報告がある。1975〜2005年の全国36市町村185例の集計では、都道府県別に愛知27例、大阪20例、福岡20例が多い。男女比はおよそ6:1で、50〜60代男性が女性の約6倍とされる。185例のうち77%が海での感染だった。
日本版に置き換えると
今回のフロリダ湾岸を、瀬戸内海や有明海、東京湾の河口域に置き換えればそのまま成立する。7月下旬、海で遊んで下腿を切った高齢男性が、3日後に「傷が痛い」と歩いて来る。基礎疾患は特にない。これが日本のERで起こる形である。
温暖化 ― NEJMがこの症例を選んだ理由
冒頭で触れたとおり、NEJMのこの号のImages in Clinical Medicineは「気候危機が臨床にもたらす影響」を特集する企画で、本症例はその1本である。原文も、V. vulnificus の生息量と分布域が、水温上昇・高潮・塩分変化・藻類ブルームなど気候変動に関連する要因によって拡大すると予測されている、と述べている。
米国東海岸のデータが具体的である(Archer EJ, et al. Sci Rep 2023;13:3893)。1988年から2018年の30年間で創傷感染例は8倍に増加した(年間10例から80例)。症例発生の北限は年あたり0.43度(約48km)北上し、かつてジョージア州(北緯32度)より北は稀だったものが、フィラデルフィア(北緯40度)付近まで日常的に報告されるようになった。2041〜2060年には分布が1,000km以上北に広がり、気候変動と人口高齢化の相乗で年間症例数が倍になる可能性があるという。高排出シナリオでは、2081〜2100年に米国東海岸の全州で症例が発生し得ると予測されている。
日本でも海水温は上昇している。菌は水温15℃以上で活発化するため、「発生地域は関東以南」「発生は夏だけ」という既存の枠組みは緩む方向にある。
研修医への伝え方
「教科書に書いてある発生地域と季節は、10年後には広がっている前提で読む」くらいでよい。地域と季節を理由に、疑う閾値を必要以上に上げないこと。
10Take home
Take home
- 肝疾患がなくても V. vulnificus は起こる。基礎疾患なしが10〜20%を占める。宿主要因は疑いを上げるためだけに使い、下げるためには使わない。
- 夏の四肢の痛みでは、まず「どんな水に入ったか」を聞く。海水・汽水なら Vibrio、淡水なら Aeromonas。生食歴も忘れない。
- 外傷部位から離れた場所に皮膚病変があれば、それは菌血症である。血液培養を取り、局所感染ではなく全身疾患として動く。
- 所見やスコアの不在に除外能力はない。血性水疱の感度25.2%、発熱46%、LRINEC≧6で68.2%。
- 疑ったら3つを並列で走らせる。血液培養+抗菌薬、外科コール、蘇生。外科コンサルトをCTの結果待ちにしない。
- 抗菌薬は第3世代セフェム+テトラサイクリン系。日本にドキシサイクリン静注はないので、ミノサイクリン点滴静注に置き換える。
- 予後を決めるのは手術までの時間。初回デブリドマンは12時間以内、できれば6時間以内。四肢切断が必要になることがあるが、それは救命の手段である。
参考文献
- Rosseau N, Beatty NL. Vibrio vulnificus Necrotizing Soft-Tissue Infection. N Engl J Med. 2026;394(16):e31. DOI: 10.1056/NEJMicm2600207
- Fernando SM, Tran A, Cheng W, et al. Necrotizing Soft Tissue Infection: Diagnostic Accuracy of Physical Examination, Imaging, and LRINEC Score: A Systematic Review and Meta-Analysis. Ann Surg. 2019;269(1):58-65.
- Nawijn F, Smeeing DPJ, Houwert RM, Leenen LPH, Hietbrink F. Time is of the essence when treating necrotizing soft tissue infections: a systematic review and meta-analysis. World J Emerg Surg. 2020;15:4.
- Gelbard RB, et al. Optimal timing of initial debridement for necrotizing soft tissue infection: A Practice Management Guideline from the Eastern Association for the Surgery of Trauma. J Trauma Acute Care Surg. 2018.
- Stevens DL, Bisno AL, Chambers HF, et al. Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Skin and Soft Tissue Infections: 2014 Update by the IDSA. Clin Infect Dis. 2014;59(2):e10-52.
- Chuang PY, Yang TY, Huang TW, Tsai YH, Huang KC, Weng HH. Hepatic disease and the risk of mortality of Vibrio vulnificus necrotizing skin and soft tissue infections: A systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2019;14(10):e0223513.
- Pignataro G, Candelli M, Sacco Fernandez M, et al. Vibrio vulnificus — A Review with a Special Focus on Sepsis. Microorganisms. 2025;13(1):128.
- Trinh SA, Gavin HE, Satchell KJF. Efficacy of Ceftriaxone, Cefepime, Doxycycline, Ciprofloxacin, and Combination Therapy for Vibrio vulnificus Foodborne Septicemia. Antimicrob Agents Chemother. 2017;61(12):e01106-17.
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- Chuang YC, et al. Minocycline and Cefotaxime in the Treatment of Experimental Murine Vibrio vulnificus Infection. Antimicrob Agents Chemother. 1998;42(6):1319-22.
- Archer EJ, Baker-Austin C, Osborn TJ, et al. Climate warming and increasing Vibrio vulnificus infections in North America. Sci Rep. 2023;13:3893.
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- Vibrio vulnificus Infection. StatPearls. NCBI Bookshelf.
- 日本感染症学会. 感染症クイック・リファレンス「ビブリオ・バルニフィカス感染症」
- 愛知県衛生研究所. ビブリオ・バルニフィカス感染症
- 栄研化学 モダンメディア. 食水系感染症病原体の検査法-5 ビブリオ・バルニフィカス
- ミノマイシン点滴静注用100mg 電子添文/ロセフィン静注用 電子添文/セフォタックス注射用 電子添文
