GDMTを4本柱そろえ、デバイスも入れた。それでも良くならない患者がいる。このとき問題になるのは「次に何をするか」より前に、「いつ手放すか」である。
本記事は、2025年改訂版「心不全診療ガイドライン」(日本循環器学会/日本心不全学会合同)の第8章 治療抵抗性心不全を扱う。先に公開した「非循環器医のための心不全診療」全5回(初期対応・急性期薬物治療・診断・慢性期GDMT・非薬物治療)の続きにあたる内容だが、単独で読めるように書いている。
ステージDの1年死亡率は25〜75%と予後不良である。そしてこの領域には、紹介が遅れると、紹介先でも打つ手がなくなるという時間の問題がある。ガイドラインはその事情を、紹介基準が生まれた理由としてはっきり書いている。
この記事の出発点になるガイドラインの一文
「一見安定しているようにみえるステージD症例でも、予期せぬ経過で他臓器障害の進行や心原性ショックの併発により、それから植込型VAD施設や心臓移植実施施設へ紹介しても追加治療の適応外となる可能性がある。そのためステージDの判断や紹介時期が遅くなりすぎないよう、I-NEED-HELPが提唱された」
この記事でわかること
- ステージD(治療抵抗性心不全)の定義と、LVEFが保たれていても該当しうること
- 移植・補助人工心臓の施設へ紹介を検討する基準「I NEED HELP」の9項目と簡易版
- 強心薬の位置づけ――予後を悪化させうる薬を、それでも続ける場面があること
- INTERMACS/J-MACS分類とmodifier A、profileごとのデバイス選択
- BTT・BTC・BTD・BTB・BTR・DTという6つの治療戦略の使い分け
- 補助人工心臓の適応基準に、介護サポートや自己管理能力が明示的に入っていること
- 日本の心臓移植の実情(待機期間は5年に迫る)と、症状緩和がステージCから始まること
1ステージDとは何か
おおむね年間2回以上の心不全入院を繰り返し、有効性が確立しているすべての薬物治療・非薬物治療について治療された、ないしは治療が考慮されたにもかかわらず、NYHA心機能分類III度より改善せず、日常生活に支障をきたす重度の心不全症状を有する状態が「ステージD 治療抵抗性心不全ステージ」と定義される。
表31:治療抵抗性心不全(ステージD)の定義
ガイドラインで推奨されるすべての心不全治療が試みられた、ないしは検討されたにもかかわらず、以下を認める。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 1. 症状 | 高度に持続する心不全症状(NYHA III度またはIV度) |
| 2. 心機能低下 | 以下のうち1つ以上:LVEF≦30%/単独の右室機能障害/手術困難な重度の弁膜症/手術困難な重度の先天性心疾患/LVEF≧40%で拡張機能障害がありナトリウム利尿ペプチド高値 |
| 3. 入院・受診歴 | 以下のため過去12ヵ月以内に入院または予定外の受診歴を有する:高用量の静注利尿薬または利尿薬の併用を要するうっ血/強心薬・血管作動薬の投与を要する低心拍出/難治性不整脈 |
| 4. 運動耐容能 | 高度の低下:6分間歩行距離<300 m、またはpeak VO2<14 mL/kg/min |
LVEFが保たれていてもステージDになりうる
心機能低下の条件に「LVEF≧40%、拡張機能障害がありナトリウム利尿ペプチド高値」が明記されている。「EFが保たれているから重症ではない」という読み方は、この定義の時点で否定されている。単独の右室機能障害、手術困難な重度の弁膜症・先天性心疾患も同じ枠に入る。
1年死亡率は25〜75%と予後不良であり、これらの患者は補助人工心臓や心臓移植などを含む特別な治療や、緩和ケアが適応となる。
2I NEED HELP:紹介を検討する基準
ステージDでは、症状および生命予後の改善のために補助人工心臓(VAD)や心臓移植など特別な治療と緩和ケアが検討される。循環動態を維持するために強心薬の持続点滴や一時的機械的補助循環を要する例では、適切なタイミングで患者と家族に治療選択肢を説明し、治療目標の設定ができるよう、心臓移植施設や補助人工心臓実施施設への紹介が推奨される。
図1:I NEED HELP ―移植施設・補助人工心臓施設への紹介を検討する基準
簡易版(4項目)
ガイドラインで推奨されるすべての心不全治療が試みられた、ないしは検討されたにもかかわらず以下を認める。
| 1 | 心不全を代償させるために(一時的にでも)静注強心薬の使用を要する |
| 2 | 持続的なBNP高値(>740 pg/mL)を認める |
| 3 | 低血圧(収縮期血圧≦90 mmHg)や腎機能障害(Cre>1.8 mg/dL、またはBUN>43 mg/dL)が出現する、またはそのために心保護薬の減量を要する |
| 4 | 年に2回以上の心不全入院がある |
BNP>740 pg/mLという数字の出どころ
やや高めに感じるカットオフだが、根拠がある。ステージD心不全と診断されBNP高値でも、静注強心薬の持続投与やVADの植込みを要さずに外来通院できていた心臓移植登録症例のうち、BNP>740 pg/mLの症例では、その後に繰り返すICD適正作動・心室細動・突然死、緊急補助人工心臓装着に至った例が多く、4年生存率が有意に不良だったという報告による。「外来に来られているから大丈夫」という見た目を、数値で裏切りにくる指標である。
基準を満たしたら何をするか
基準を満たし、希望する患者には、心臓移植実施施設や植込型VAD実施施設へ紹介し、治療の見直しや、心臓移植またはDT(後述)の適応評価検討を受けることが推奨される。あわせて、症状緩和を目的とした強心薬の使用なども考慮される。紹介=手術に進む、ということではなく、選択肢を並べ直す機会と考えるとよい。推奨表50では、紹介の検討がクラスI・C-LD、予後の伝達と意思決定の支援がクラスI・C-LD、緩和ケアチームへのコンサルトがクラスIIa・B-Rとされている。
意思決定支援は「レディネス」に合わせる
病状や予後の伝達、治療目標の設定を含めアドバンス・ケア・プランニングを進める際は、患者の準備状態(レディネス)に合わせて行うとされている。また意思決定能力の中核要素として、①各選択肢のリスクとベネフィットを理解する能力、②自分のことと認識し治療が有益であることを認識する能力、③治療効果や他の治療との比較、結果もたらされる日常生活への影響を論理的に考える能力、④自分の考えや結論を伝える能力、の4つが挙げられている。
3強心薬をどう位置づけるか
強心作用を有する薬剤(カテコラミン、PDE III阻害薬)は、短期的には循環動態を改善させうるため、うっ血や臓器障害を伴う重症心不全患者にも適応となる。しかしステージDでの評価は、そう単純ではない。
エビデンスは確立しておらず、予後を悪化させるリスクがある
治療抵抗性心不全治療における強心薬の有効性に関するエビデンスは確立しておらず、むしろ心筋酸素需要の増大、心筋カルシウム負荷により、不整脈、心筋虚血、心筋障害をきたし、生命予後を悪化させるリスクがある。このため強心薬は必要最少量および最短期間での使用にとどめるのが望ましい、というのが原則である。
それでも続ける場面がある
一方で、治療抵抗性心不全、特に心臓移植や補助人工心臓治療の適応にならない例では、生命予後の改善のみが治療の最終目的ではなく、QOL維持や症状緩和も重要になる。こうした例で強心薬が心不全症状の緩和に欠かせない場合には、継続投与も選択肢となりうる。個々の症例で、病態や状況に応じた適応の判断が必要、とされている。
推奨表51:強心薬・カテコラミンの使用
| 推奨 | クラス | レベル |
|---|---|---|
| DTまたは心臓移植の適応となる患者におけるブリッジとして、強心薬・カテコラミンの使用を考慮する | IIa | C-LD |
| DTまたは心臓移植の適応とならない患者における症状や身体機能、QOLの改善を目的とした強心薬・カテコラミンの使用を考慮してもよい | IIb | C-LD |
適応となる状況としては、①GDMTや利尿薬治療では循環動態の改善が得られない、②移植・DTの適応とならない患者における症状の改善・緩和、③機械的補助循環や心臓移植のブリッジ、④機械的補助循環によるサポート中もしくは離脱時の血行動態維持、⑤移植・DTの適応を検討する際の臓器障害の可逆性の評価、の5つが挙げられている。
在宅静注強心薬という選択肢
静注強心薬に依存状態で移植・DTの適応とならない例では、QOLの維持・改善を目的とした外来や在宅での静注強心薬継続も検討される。66研究のシステマティックレビューでは74%でドブタミンが使用されており、間欠的もしくは持続強心薬使用群でNYHA心機能分類の改善を認め、死亡率に差はなかったとされる(ただしほとんどが小規模観察研究で、解釈には注意を要する)。実施には、介護者による支援、公的・自費サービスによる支援、患者と介護者が急変時の対応方針や人生の最終段階の医療・ケアについて理解・承諾していること、多職種間での事前共有が要件になる。原則としてPICCやCVポートを含む中心静脈カテーテルから輸液ポンプを用いて行う。
4INTERMACS/J-MACS分類とデバイス選択
機械的補助循環の適応は、通常NYHA心機能分類III〜IV度の心不全患者を状態と経過により細分化したINTERMACS profile分類に基づいて決定される。わが国では同様の分類としてJ-MACS分類が用いられている。
表33:INTERMACS/J-MACS分類とデバイス選択
| Profile | J-MACS | 状態 | デバイス選択 |
|---|---|---|---|
| 1 | 重度の心原性ショック | 静注強心薬の増量や機械的補助循環を行っても血行動態の破綻と末梢循環不全をきたしている | IABP、V-A ECMO、Impella、体外設置型VAD |
| 2 | 進行性の衰弱 | 静注強心薬の投与によっても腎機能や栄養状態、うっ血徴候が増悪しつつあり、強心薬の増量を余儀なくされる | IABP、V-A ECMO、体外循環用遠心ポンプ、Impella、体外設置型VAD、植込型LVAD |
| 3 | 安定した強心薬依存 | 比較的低用量の静注強心薬で血行動態は維持されているが、血圧低下・心不全症状の増悪・腎機能増悪の懸念があり、静注強心薬を中止できない | 植込型LVAD |
| 4 | 安静時症状 | 一時的に静注強心薬から離脱でき退院もできるが、心不全の増悪で容易に再入院を繰り返す | 植込型LVADを検討(特にmodifier Aの場合) |
| 5 | 運動不耐容 | 身の回りのことは自ら可能だが、日常生活制限が高度で外出困難 | modifier Aの場合は植込型LVADを検討 |
| 6 | 軽労作可能状態 | 外出可能だが、ごく軽い労作以上は困難で100 m程度の歩行で症状が生じる | modifier Aの場合は植込型LVADを検討 |
| 7 | 安定状態 | 100 m程度の歩行は倦怠感なく可能で、最近6ヵ月以内に心不全入院がない | modifier Aの場合は植込型LVADを検討 |
modifier Aという修飾因子
致死性心室不整脈によりICDの適正作動を頻回に繰り返す場合(おおむね1週間に2回以上の作動)をmodifier Aと呼び、profile 4Aのように記述する。ここでいう作動はショック治療のみで、抗頻拍ペーシングは含まれない。表33を見るとわかるとおり、profile 5〜7という比較的落ち着いて見える患者でも、modifier Aが付けば植込型LVADの検討対象になる。「歩けているから大丈夫」で止まらないための修飾因子である。
5補助人工心臓の6つの治療戦略と適応基準
補助人工心臓(VAD)を用いた治療戦略には名前が付いていて、略語が6つ並ぶ。紹介先とのやりとりで出てくるので、対応を知っておくと話が早い。
表34:補助人工心臓による治療戦略
| 略語 | 正式名 | 意味 |
|---|---|---|
| BTT | Bridge to transplantation | 心臓移植登録が完了した後の、心臓移植までの橋渡し |
| BTC | Bridge to candidacy | 循環動態改善により他臓器障害や併存症の問題が解決し、心臓移植の適応になることを期待して植込型LVADを植込むこと(保険上はDTに含まれる) |
| BTD | Bridge to decision | 重度の心原性ショック例に救命のために体外設置型VADやcentral ECMOの装着、あるいはImpellaの留置を行うこと |
| BTB | Bridge to bridge | BTCやBTDでVAD装着後、あるいはImpella挿入後に心臓移植適応を取得し、植込型LVADへブリッジすること |
| BTR | Bridge to recovery | VAD装着により自己心機能が回復し、VADを離脱できること |
| DT | Destination therapy | 心臓移植の適応がない患者への、恒久的な植込型LVAD治療 |
図2:重症心不全におけるVAD治療のアルゴリズム
適応基準に何が書かれているか
BTTとDTでは適応基準の性格が違う。BTTは心臓移植適応基準に準じた末期重症心不全で年齢は65歳未満、重症度はINTERMACS profile 2または3の静注強心薬依存状態、IABP・Impella・体外設置型VAD依存状態、あるいはmodifier A(特にprofile 4の場合)が対象になる。
表36:植込型LVADのDT適応基準(抜粋)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 重症心不全であるが、心臓移植の不適応となる条件がある患者 |
| INTERMACS profile | 2〜4(65歳以上の場合profile 2は原則除外。ただし安定しているIABPやImpellaは、リスクスコアがlowの場合は可) |
| 年齢 | 65歳以上は血行動態・他臓器機能・栄養状態・高次機能などをより慎重に考慮 |
| 介護サポート | 初回退院後6ヵ月程度の同居によるサポートが可能なケアギバーがいること(6ヵ月以降も介護の継続が可能であることが望ましい) |
| 自己管理能力 | 65歳以上の場合、術前にMMSE 24点以上かつTMT-B 300秒以下であること |
| 終末期医療に対する理解 | 患者と家族がDTの終末期医療について理解・承諾をしていること |
| 主な除外基準 | 術後右心不全のため退院困難が予想される症例/デバイスの自己管理困難が予想される脳障害・精神疾患・神経筋疾患/維持透析中、肝硬変など/著しい肥満、低用量ステロイド以外の免疫抑制剤投与中、抗がん剤投与中 |
適応基準に社会的・認知的条件が明示されている
薬剤の適応基準では普通、こういう項目は出てこない。DTの適応基準には「介護サポート」「自己管理能力」「終末期医療に対する理解」が正式な項目として並んでいる。植込型LVADは退院後も自己管理が続く治療なので、当然といえば当然なのだが、非専門医の側から見ると紹介を考える段階で家族背景と生活状況を把握しておく意味があるということになる。BTTでも「社会的適応」として、服薬アドヒアランス、禁酒禁煙の継続、患者の協力とともに家族の理解と支援が得られること、が選択基準に入っている。
DTの併存症は「予後5年以上」が目安
MOMENTUM 3試験で示された5年生存率を鑑み、併存症に関しては予後がおおむね5年以上見込まれる例がDTの適応となる。低用量ステロイド(おおむねプレドニゾロン10 mg/day以下)以外の免疫抑制剤を必要とする例は原則除外だが、原病がコントロールされ免疫抑制による感染リスクが制御可能と考えられる場合は適応となる可能性がある。また代理意思決定者を設定する事前指示書を、なるべくは術前に、遅くとも術後6ヵ月までを目途に取得しておくことが望ましいとされている。
6日本の心臓移植の実情
対象となる基礎疾患には拡張型心筋症、拡張相肥大型心筋症、虚血性心疾患、心筋炎後心筋症、心サルコイドーシス、先天性心疾患などが含まれる。適応基準は、最大限の内科的治療が試みられた/十分に検討されたにもかかわらず長期間あるいは繰り返し入院治療を要する非可逆性の心機能障害、年齢は65歳未満が望ましい、患者本人の理解と家族のサポート、免疫抑制療法や心筋生検を生涯継続できること、などである。
数字で見る日本の心臓移植
| 実施数 | 1999年2月に法律下で心臓移植が行われて以来、2023年12月までに819人 |
| 近年の年間実施数 | 2010年7月の改正臓器移植法施行後に増加し、年間80〜100例 |
| 待機期間 | ドナー不足は続いており、移植待機期間は5年を超えようとしている |
| 予後(国内) | 2022年12月までに移植を受けた704人で、5年生存92.9%、10年生存88.8% |
| 予後(国際) | 国際心肺移植学会登録データで、成人レシピエントの平均生存期間中央値は12年超 |
待機5年という数字が意味すること
移植後の成績は非常に良好である。一方で待機期間が5年を超えようとしているという現実がある。この2つを並べると、「移植の適応がある=移植を待てる」ではないことが見えてくる。DTやBTCという戦略が用意されているのは、この待機期間の長さと無関係ではないと考えられる(ガイドラインが両者を因果として結んで述べているわけではないが、選択肢の構造としてはそう読める)。絶対的除外条件は、肝硬変や維持透析など不可逆的な臓器障害、活動性の感染症、重症肺高血圧症、喫煙・飲酒を含む薬物依存症、悪性疾患。推奨表53では、適応のある患者への心臓移植がクラスI・C-LDとされている。
7症状緩和はステージCから始まっている
緩和ケアを終末期のものと捉えていると、この章は読み違える。ガイドラインは心不全における緩和ケアはステージCの段階から予後改善治療と並行して提供されるべきものであり、終末期でも心不全治療は継続されると書いている。
表38:人生の最終段階の身体・精神症状(頻度の範囲、%)
| 症状 | がん | 心不全 |
|---|---|---|
| 倦怠感 | 23〜100 | 42〜82 |
| 痛み | 30〜94 | 14〜78 |
| 悪心・嘔吐 | 2〜78 | 2〜48 |
| 呼吸困難感 | 16〜77 | 18〜88 |
| 不眠 | 3〜67 | 36〜48 |
| せん妄・認知機能障害 | 2〜68 | 15〜48 |
| 抑うつ | 4〜80 | 6〜59 |
| 不安 | 3〜74 | 2〜49 |
約7割が症状緩和の不足を認識している
心不全患者は呼吸困難、疼痛、倦怠感、抑うつ、不安、睡眠障害、認知障害、食欲不振、るい痩など多彩な症状を示し、終末期には平均で6〜7種類の身体・精神症状を有すると報告されている。がん患者と比しても少なくない。さらに終末期では半数以上が腎不全やCOPD、糖尿病などの併存症を持つため薬剤使用量の制限があり、その結果、約7割の患者が症状緩和の不足を認識している。上の表で、呼吸困難感と不眠は心不全のほうが高い範囲を示している点も目を引く。
推奨表54:症状緩和
| 推奨 | クラス | レベル |
|---|---|---|
| 心不全患者に随伴する様々な身体および精神的症状に対して、症状緩和のための治療を行う | I | C-LD |
| 治療抵抗性の呼吸困難を有する心不全患者に、自覚症状の改善を目的として心不全治療と並行してオピオイドの使用を考慮する | IIa | C-LD |
| オピオイドの使用に際しては、腎機能障害の程度、嘔気、低換気などの副作用の出現に注意し、用量調節を考慮する | IIa | C-LD |
症状緩和につながる治療を継続しながら、治療抵抗性の症状が存在する場合はオピオイドなどの追加薬物治療や非薬物治療を検討する。そのうえで耐えがたい苦痛が残存する場合には、妥当性を判断したうえで鎮静薬の使用を検討する、という段階になる。また、コントロール困難な心不全症状を有する治療抵抗性心不全患者に、通常の心不全ケアに緩和ケアチームによる介入を加えることでQOLの改善が得られたことが報告されている。
8やりがちな失敗
ガイドライン自身が、紹介が遅れると他臓器障害の進行や心原性ショックの併発によって「紹介しても追加治療の適応外となる可能性がある」と書いている。I NEED HELPはそのために提唱された基準である。
低用量の静注強心薬で血行動態が維持されていて中止できない状態はINTERMACS profile 3であり、それ自体がI NEED HELPの「I」に該当する。安定ではなく依存と読む。
表31の心機能低下の条件には「LVEF≧40%、拡張機能障害がありナトリウム利尿ペプチド高値」が入っている。単独の右室機能障害や手術困難な弁膜症も同様。
profile 5〜7でもmodifier A(おおむね1週間に2回以上のICDショック作動)が付けば植込型LVADの検討対象。BNP>740 pg/mLというカットオフも、外来通院できている患者の予後不良を捉えるために設定されている。
心臓移植とBTTは65歳未満が目安だが、DTは65歳以上も対象で「より慎重に考慮する」という枠組みがある。年齢で切らず、まず紹介して評価してもらう。
DTの適応基準には介護サポート(初回退院後6ヵ月程度の同居ケアギバー)、自己管理能力(65歳以上はMMSE 24点以上かつTMT-B 300秒以下)、終末期医療への理解が正式な項目として入っている。
ガイドラインは緩和ケアをステージCから予後改善治療と並行して提供されるべきものと位置づけている。緩和ケアチームへのコンサルトはクラスIIa・B-R。
9早見表とTake home
| 領域 | 押さえること |
|---|---|
| ステージDの定義 | 年2回以上の入院を繰り返しNYHA III度より改善しない。LVEF≦30%だけでなく、LVEF≧40%+拡張機能障害+NP高値も該当。1年死亡率25〜75% |
| 紹介を検討する基準 | I NEED HELP。簡易版は①静注強心薬を要する ②BNP>740 pg/mL ③sBP≦90またはCre>1.8/BUN>43、あるいはそのための減薬 ④年2回以上の入院 |
| 強心薬 | 有効性のエビデンスは確立せず予後を悪化させるリスク。必要最少量・最短期間が原則。ただし移植・DTの適応外例では症状緩和目的の継続も選択肢(IIb・C-LD) |
| INTERMACS/J-MACS | profile 1(破綻)〜7(安定)。profile 3は強心薬依存、4は再入院を繰り返す。modifier A(1週間に2回以上のICDショック)が付けばprofile 5〜7でもLVADを検討 |
| VADの治療戦略 | BTT(移植までの橋渡し)/BTC(適応取得を期待、保険上はDT)/BTD(救命)/BTB(LVADへ移行)/BTR(離脱)/DT(恒久的) |
| DTの適応基準 | profile 2〜4。65歳以上は慎重に考慮。同居ケアギバー6ヵ月、65歳以上はMMSE 24点以上かつTMT-B 300秒以下、終末期医療への理解が正式項目 |
| 心臓移植 | 65歳未満が望ましい。年間80〜100例だが待機期間は5年を超えようとしている。国内の5年生存92.9%、10年88.8%(クラスI・C-LD) |
| 症状緩和 | ステージCから予後改善治療と並行。終末期は平均6〜7症状で約7割が緩和不足を認識。オピオイドはIIa・C-LD、緩和ケアチームへのコンサルトはIIa・B-R |
Take home
- ステージDの1年死亡率は25〜75%。そして紹介が遅れると、他臓器障害の進行や心原性ショックの併発によって「紹介しても適応外」になりうる。I NEED HELPはそのために提唱された基準である
- LVEFが保たれていてもステージDになりうる。表31の心機能低下の条件には「LVEF≧40%、拡張機能障害がありナトリウム利尿ペプチド高値」が明記されている
- BNP>740 pg/mLというカットオフは、外来通院できていた心臓移植登録症例で4年生存率が有意に不良だった群を捉えるために設定されている。見た目の安定を数値で裏切りにくる指標
- 強心薬は予後を悪化させるリスクがあり必要最少量・最短期間が原則。ただし移植・DTの適応にならない例では、症状緩和のための継続が選択肢になる(IIb・C-LD)
- modifier A(おおむね1週間に2回以上のICDショック作動、抗頻拍ペーシングは含まない)が付けば、profile 5〜7の比較的落ち着いて見える患者でも植込型LVADの検討対象になる
- 補助人工心臓の適応基準には、介護サポート・自己管理能力・終末期医療への理解が正式な項目として入っている。紹介を考える段階で家族背景と生活状況を把握しておく意味がある
- 心臓移植の成績は良好(国内5年92.9%、10年88.8%)だが、待機期間は5年を超えようとしている。「適応がある」と「待てる」は別の話で、DTやBTCという選択肢の構造はそこにつながっている
- 緩和ケアはステージCから予後改善治療と並行して提供されるもの。終末期でも心不全治療は継続される
この記事は「非専門医のための心不全診療」全5回の続きにあたる内容として書いた。①〜⑤では診断から薬物治療、デバイス治療までを扱ったが、そのすべてを尽くしたあとに残るのが本記事の領域である。自分の手で治すことより、適切なタイミングで手放すことのほうが難しい場面がある。
参考文献
- 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン. 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン(JCS/JHFS 2025 Guideline on Diagnosis and Treatment of Heart Failure). 2025年3月28日発行・2025年12月19日更新. 第8章 治療抵抗性心不全.
- Yancy CW, Jessup M, Bozkurt B, et al. 2017 ACC Expert Consensus Decision Pathway for Optimization of Heart Failure Treatment(I NEED HELPの原典). J Am Coll Cardiol. 2018;71(2):201-230.
- Stevenson LW, Pagani FD, Young JB, et al. INTERMACS profiles of advanced heart failure: the current picture. J Heart Lung Transplant. 2009;28(6):535-541.
- Mehra MR, Uriel N, Naka Y, et al. A Fully Magnetically Levitated Left Ventricular Assist Device — Final Report(MOMENTUM 3試験). N Engl J Med. 2019;380(17):1618-1627.
- 日本循環器学会. 2025年改訂版 心臓移植に関するガイドライン.
心不全 advanced シリーズ
- 心不全advanced①ー治療抵抗性心不全(この記事)
