外傷性出血に対する全血輸血は、軍事領域での使用実績(兵站におけるメリット=赤血球・血漿・血小板を1製剤で補える)から、市民救急への展開が進んできた。観察研究では良好な結果が繰り返し報告され、「日本は周回遅れではないか」という空気すらあった。しかし2026年、この期待を検証する大規模ランダム化比較試験が相次いで2本発表され、いずれも全血の優越性を示せなかった。
本稿では米国のTOWAR試験(Sperry JL, Guyette FX, et al. N Engl J Med. 2026;394(23):2317-2328)を軸に、何が示され、何が示されなかったのかを整理する。日本で全血輸血を始めるべきかという問いには、最後にまとめて答える。
TICの病態生理や、プレホスピタルから病院内までの止血蘇生の全体像については、姉妹記事「外傷性凝固障害と止血蘇生――プレホスピタルから病院内まで」で扱っている。あわせて読むと理解しやすい。
この記事でわかること
- TOWAR試験のデザインと結果(全血vs成分輸血、30日死亡率)
- 「有意差なし」の中身――どこが動いてどこが動かなかったか
- 本文とフォレストプロットの食い違いなど、原著を読むときの注意点
- 英国SWiFT試験との関係――なぜ2本のRCTが必要だったか
- 日本で全血輸血を実装する基盤がどこまで整っているか
1背景:なぜこの試験が必要だったか
海外においてO型全血のプレホスピタル使用は近年急速に広がっているが、このtrialの著者ら自身が「有効性・安全性を裏付ける高いレベルのエビデンスは限られている」と書いている。同じ研究グループが約10年前に実施したPAMPer試験(空路搬送での血漿投与)では標準治療群の死亡率が33.0%だったのに対し、今回の同様の集団での全体死亡率は24.3%まで下がっている。晶質液の削減、早期輸血、止血の重視といった外傷診療全体の底上げが進んだ環境で、全血が上乗せの利益を出せるかが問われた。
2試験デザイン(PICO)
- P:現場または搬送元救急外来から参加11外傷センターへ搬送された外傷患者。収縮期血圧90mmHg以下かつ心拍数108/分以上の低血圧エピソードが1回以上、または頻脈を伴わない収縮期血圧70mmHg以下。18歳以上90歳以下。除外は単独の平面からの転倒・転落、溺水、縊頸、熱傷、妊娠、拘留中、外傷性心停止(5分を超えるCPR)、穿通性脳損傷、静脈路・骨髄路確保不能など
- I:低力価O型全血(抗A・抗B抗体価256未満、有効期間21日以内)最大2単位
- C:赤血球および血漿による成分輸血(プロトコル規定の比率・下限なし、臨床判断)
- O:主要評価項目は30日死亡率。副次は3・6・24時間死亡率、院内死亡率、出血死・脳損傷死、24時間輸血必要量、止血達成と所要時間、多臓器不全、院内感染、ARDS、アレルギー/輸血反応、凝固能・血小板機能
デザイン:プラグマティック・多施設・クラスターランダム化第3相試験。44の航空医療基地が1か月ブロック単位で全血月と成分月を切り替え、その配分を2対1、ブロック開始時の割当をランダム化。介入は非盲検だがアウトカム評価者は盲検化。FDAのIND下で同意免除(地域住民への事前説明を伴うexception from informed consent)により実施。米国防衛保健局の資金。2022年5月から2025年6月に登録。
図1:スクリーニングからランダム化・解析までのフローチャート
検出力の設定
この試験は30日死亡率を26%から16%へ、絶対10ポイント下げる効果を検出する前提で症例数を算出している。かなり大きな効果を仮定した設計であり、これより小さい差を検出する力はない。
3結果
修正ITTコホートは1020例(全血群715例、成分群305例)、主要評価項目の解析対象は993例(全血群695例、成分群298例)。プロトコル遵守率は94.5%だった。
背景因子はおおむね揃っていたが、外傷性脳損傷(全血群41.4% vs 成分群35.7%)とプレホスピタル挿管(54.4% vs 48.4%)に差があり、著者らはこの2項目を事前規定の補正変数に入れている。全血群のほうがやや重症寄りだった点は、粗な死亡率を読むときに意識しておきたい。
主要評価項目:30日死亡率
全血群25.9%(180/695)vs 成分群20.5%(61/298)、補正後オッズ比1.24(95%CI 0.87-1.76、P=0.24)――統計学的有意差なし。事前規定の主要検定であるDonner-Klar検定では群間差0.082(P=0.08)だった。Kaplan-Meier曲線もほぼ重なる(log-rank P=0.13)。
副次評価項目はいずれも95%信頼区間が1をまたいだが、方向性には注目したい。3時間死亡率は9.4% vs 5.4%(オッズ比1.72、95%CI 0.96-3.08)と早期死亡が全血群で多い方向に振れている。一方、到着1時間以内のINR>1.5は20.3% vs 26.4%(オッズ比0.69、95%CI 0.46-1.02)で、凝固障害は全血群のほうが軽い傾向だった。止血達成率は89.2% vs 93.6%(オッズ比0.61、95%CI 0.35-1.04)。凝固の指標は期待通りに動いたが、生存には結びつかなかったという構図である。
図2:30日死亡率・INR上昇割合・止血達成率(非達成割合)の比較
| 評価項目 | 全血群 | 成分群 | 効果推定値(95%CI) |
|---|---|---|---|
| 30日死亡率(主要) | 25.9%(180/695) | 20.5%(61/298) | aOR 1.24(0.87-1.76)P=0.24 |
| 3時間死亡率 | 9.4%(64/695) | 5.4%(16/298) | OR 1.72(0.96-3.08) |
| 院内死亡率 | 24.8%(171/695) | 19.5%(58/298) | OR 1.25(0.87-1.78) |
| 到着1時間以内INR>1.5 | 20.3% | 26.4% | OR 0.69(0.46-1.02) |
| 止血達成 | 89.2% | 93.6% | OR 0.61(0.35-1.04) |
| 多臓器不全 | 14.1%(98/695) | 12.4%(37/298) | OR 1.12(0.74-1.69) |
| 院内感染 | 8.2%(57/695) | 8.7%(26/298) | OR 0.92(0.55-1.54) |
| ARDS | 39.3%(273/695) | 40.6%(121/298) | OR 0.87(0.66-1.17) |
表1:主要・副次アウトカムの比較(Sperry et al. Table 2に基づく)。信頼区間はすべて1をまたぐ
事前規定の7サブグループでは、本文は「差は見られなかった」としている。ただしフォレストプロット上、重度低血圧(収縮期血圧70mmHg以下)のサブグループは34.5%(130/377)vs 24.1%(40/166)、オッズ比1.59(95%CI 1.02-2.47)と信頼区間が1を含んでいない。本文の記述と図に食い違いがあり、この記事では両方をそのまま示す。
観察サブスタディでは、全血の保存期間による差もなかった。保存期間1-14日が26.4%、15-21日が27.1%、補正後オッズ比0.99(95%CI 0.74-1.32)。有害事象に群間差はなかった。
4この試験の強みと限界
強みは、プラグマティックデザインによる一般化可能性、大規模サンプルサイズ、保存期間の観察サブスタディを組み込んだ点である。
著者らが挙げる限界は、クラスターランダム化ゆえに第II種過誤のリスクが上がること、ランダム化前の輸血が除外基準に入っていなかったこと、成分群の59.1%が赤血球と血漿の両方を受け全血群の31.6%が追加で成分輸血を受けていたこと(両群の実際の治療内容が近づいた可能性)、プレホスピタル相で投与された輸血量が院内投与量に比べて少なかったこと、介入が非盲検であることである。
この試験が示したこと・示さなかったこと
「全血が劣る」ことを示した試験ではない。「今回の規模・デザインでは、成分輸血に対する優越性を示せなかった」試験である。non-inferiority(同等性)を検証した試験でもない点にも注意したい。
5もう1本のRCT:英国SWiFT試験
重要なのは、TOWARが単独の結果ではない点である。英国のSWiFT試験(Smith JE, Cardigan R, Sanderson E, et al. Prehospital Whole Blood in Traumatic Hemorrhage. N Engl J Med. 2026年3月17日)は、イングランドの10のエアアンビュランスと19病院で942例を登録し、主解析616例(全血群314例、標準治療群302例)で24時間以内の死亡または大量輸血の複合転帰を検討した。
結果は全血群48.7%(153/314)vs 標準治療群47.7%(144/302)、相対リスク1.02(95%CI 0.80-1.31、P=0.84)。デザインも主要評価項目も異なる2試験が、3か月違いで同じ方向の結論に達した。
| 項目 | TOWAR(米国) | SWiFT(英国) |
|---|---|---|
| 掲載 | N Engl J Med 2026年6月18日 | N Engl J Med 2026年3月17日 |
| 症例数(解析対象) | 993例 | 616例 |
| デザイン | クラスターランダム化 | 個人単位ランダム化・非盲検優越性試験 |
| 主要評価項目 | 30日死亡率 | 24時間以内の死亡または大量輸血の複合 |
| 結果 | 25.9% vs 20.5%、aOR 1.24(0.87-1.76)P=0.24 | 48.7% vs 47.7%、RR 1.02(0.80-1.31)P=0.84 |
| 結論 | 成分輸血に対する優越性を示せず | 標準治療に対する優越性を示せず |
表2:TOWAR試験とSWiFT試験の比較
6日本ではどう受け止めるか
そもそも日本でTOWARと同じことができるのか、という前提から確認しておきたい。人全血液-LR「日赤」は薬価収載されており、効能・効果は「一般の輸血適応症に用いる」、有効期間は採血後21日間とTOWARで使われた全血と同じである。しかし防衛省の有識者検討会資料(令和5年10月)は、全血献血について「大量出血などすべての成分不足状態で使用」としつつ「使用実績少」と記載している。米国で使われる低力価O型全血、すなわち抗A・抗B抗体価をスクリーニングした規格の製剤に相当するものは、国内では確認できなかった。
病院前輸血そのものは一部のドクターヘリで実施されており、順天堂大学静岡病院からは輸血によりショックインデックスが改善した一方で要請から病院到着までの遅延が生じたとする報告がある(日本航空医療学会雑誌2023年)。ただし全国的な制度ではない。
まとめると
日本でプレホスピタル全血輸血を実装する基盤は現時点でほぼ整っていない。そして2026年の2本のRCTは、その整備を急ぐ強い根拠を与えなかった。「周回遅れではないか」という焦りに対しては、少なくとも生存率を理由に急ぐ必要はなさそうだ、というのが今のところの答えになる。
7結局どう動くか
- プレホスピタル全血輸血が成分輸血より生存を改善するとは、現時点で言えない。逆に明確な害が証明されたわけでもないが、早期死亡と重度低血圧サブグループで数値上は全血群が不利な方向に振れており、「安全性は確認された」と言い切るのも早い
- 全血を導入済みの施設では、生存benefitではなく兵站上の利点(1製剤で赤血球・血漿・血小板を補える、血液バンク外での管理が単純)を理由に継続する判断はあり得る
- 新規導入を検討する場合、根拠は運用の簡便さと血液製剤の供給体制であって、生存率ではない
- 日本の実務としては、全血の導入可否より、プレホスピタルで血液製剤を届ける体制そのもの(どの施設で、どの製剤を、誰の指示で)を先に整理するほうが順序として自然である
8やりがちな失敗とTake home
軍事領域・観察研究のデータは選択バイアスの影響を受けやすい。今回の2本のRCTはその前提を覆した。
TOWARもSWiFTも優越性試験であり、non-inferiority試験ではない。
本試験のように本文と図(フォレストプロット)が食い違う例がある。
Take home
- TOWAR試験(NEJM 2026、n=993)は、プレホスピタル全血輸血が成分輸血に対して30日死亡率を改善しないと報告した(25.9% vs 20.5%、補正後オッズ比1.24、P=0.24)
- 英国のSWiFT試験も同方向の結論で、2026年に2本のRCTが揃った
- 凝固の指標(到着時INR)は全血群で改善したが、生存には結びつかなかった
- 日本には低力価O型全血に相当する製剤が確認できず、実装の前提がまだない。急ぐ根拠も現時点では乏しい
外傷性凝固障害の病態生理と、プレホスピタルから病院内までの止血蘇生の全体像は、姉妹記事「外傷性凝固障害と止血蘇生――プレホスピタルから病院内まで」で扱っている。
参考文献
- Sperry JL, Guyette FX, Cotton BA, et al. Type O Whole Blood Prehospital Resuscitation for Trauma and Hemorrhage. N Engl J Med. 2026;394(23):2317-2328.
- Smith JE, Cardigan R, Sanderson E, et al. Prehospital Whole Blood in Traumatic Hemorrhage — a Randomized Controlled Trial. N Engl J Med. 2026 Mar 17.
- 防衛省 血液製剤等に関する有識者検討会. 国内における現状の血液製剤等の概要. 令和5年10月.
- 石川浩平, 柳川洋一, 長澤宏樹ほか. 当施設のドクターヘリ活動における病院前輸血投与の検証. 日本航空医療学会雑誌 2023;24(1).
- 日本赤十字社. 人全血液-LR「日赤」添付文書.
- Sperry JL, Guyette FX, Brown JB, et al. Prehospital plasma during air medical transport in trauma patients at risk for hemorrhagic shock (PAMPer). N Engl J Med. 2018;379:315-26.
