心不全診療はCSです!という人は、多いはずだ。これで「非専門医が迷わず」事足りるように作ってくれたもの。実はこの分類、2025年改訂版の心不全診療ガイドラインでは、Killip分類などと並ぶ「数ある初期対応の分類の1つ」という扱いに後退している。
この記事は、2025年3月に発行・同年12月に更新された「心不全診療ガイドライン」(日本循環器学会/日本心不全学会合同)をもとに、急性心不全の初期対応を組み立て直す。全6回シリーズの1回目にあたる。
結論を先に言うと、CS分類自体を捨てる必要はない。ただし今のガイドラインが前面に出しているのは、CS分類のような「病歴からの推定」ではなく、うっ血と低心拍出を別々の軸で評価するという、もう一段具体的な枠組みである。
この記事でわかること
- クリニカルシナリオ分類が、2025年版ガイドラインでどう位置づけ直されたか
- 「肺うっ血・体うっ血・低心拍出/組織低灌流」という3軸評価の使い方
- 心原性ショックの見極めと、SCAIショックステージ(A〜E)
- 急性心不全の契機を探す視点(増悪因子の一覧)
- 右心不全と左心不全で、症状がどう変わるか
- IABPのルーチン使用がなぜ推奨されないか、根拠となった試験の正しい読み方
1クリニカルシナリオは「相対化」された
Mebazaaらが2008年に提唱したクリニカルシナリオ(CS)分類は、収縮期血圧を軸に急性心不全を初期対応向けに区分する考え方として、長く現場で使われてきた(Mebazaa A, et al. Crit Care Med 2008;36 Suppl:S129-S139)。
2025年版ガイドラインは、CS分類を否定してはいない。しかし本文の書きぶりは、この分類を数ある選択肢の1つとして相対化するものになっている。
ガイドラインの原文(第7章1.4「他の観点からの分類」)
「急性心不全としてさまざまな観点から分類がされており、急性非代償性心不全の分類としても利用できるが、それぞれには作成された意図があるため、それを十分理解したうえで利用することが重要である」
ここでCS分類はKillip分類(急性心筋梗塞後の肺聴診所見による分類、1967年提唱)と並べて紹介され、身体所見による血行動態的分類(Nohria-Stevenson分類)とスワン・ガンツカテーテルによる血行動態的分類(Forrester分類)については「詳しくは成書を参照されたい」と、本文での解説自体が省かれている。
つまり2025年版が前面に出しているのは、これらの病歴・身体所見ベースの「分類」ではなく、次の章で扱う「うっ血」と「低心拍出/組織低灌流」を別々の軸で継続的に評価するという、もう一段具体的なフレームである。CS分類やNohria-Stevenson分類で教わってきた人ほど、頭の中の地図を1つ書き換える必要がある。
この記事での扱い方
CS分類の「重症度の直感」自体は臨床的に有用なので、本記事でも増悪因子の章(5章)でCS1〜3との対応関係に触れる。ただし評価の骨格は、次章以降で説明する2025年版の3軸評価に置き換える。
2何が起きているかを分けて考える
急性心不全の病態を理解するうえで欠かせないのが、Frank-Starlingの法則とGuytonの静脈還流理論である。1911年頃、心拍出を規定する因子として提唱されたのがFrank-Starlingの法則だが、これだけでは「心臓に血液が還ってこなければ拍出もできない」という点を説明できない。Guytonは静脈側に注目し、静脈圧と還流量の関係を実験的に調べ、循環平衡という考え方を確立した。
ここで鍵になるのが「有効血液量」と「無効血液量」という整理である。循環している血管を1本のチューブとみなすと、内圧が上がり始める手前までが無効血液量、そこから先が有効血液量にあたる。交感神経が亢進すると、無効血液量から有効血液量へと血液がシフトし、静脈還流と心拍出が増える。
ガイドラインの整理:体液再分布型と体液貯留型
2025年版ガイドラインは、うっ血の生じ方を2パターンに分けて説明している(第7章3.2.1)。
体液再分布型:腹部臓器の静脈網には全血液量の20〜50%が貯留されており、通常は中心静脈圧に寄与しない(unstressed volume)。ここに交感神経系の異常な賦活化が加わると、腹部静脈が急激に収縮し、貯留していた血液が一気に循環静脈へ流れ込む(stressed volumeへの移行)。これが急性肺水腫を引き起こす。
体液貯留型:交感神経活性や神経体液性因子の亢進が持続すると、輸入細動脈収縮によるGFR低下やNa・水の再吸収亢進が起こり、全身的な体液貯留が緩徐に進む。胸腹水貯留や末梢浮腫として現れる。
この2パターンは、それぞれ「急に悪くなるタイプ」と「じわじわ悪くなるタイプ」に対応する。体液再分布型は数分〜数時間という速い経過で肺水腫に至りやすく、体液貯留型は数日〜数週間という緩徐な経過をたどることが多い。
治療の入り口も、この2つで変わってくる。体液再分布型で交感神経の急激な亢進が主体であれば、静脈還流量を減らす方向(NPPV、硝酸薬など静脈系を優位に拡張する薬剤)が選択される。体液貯留型で体液量そのものが増えている場合は、利尿薬による除水が中心になる。
33軸評価:肺うっ血・体うっ血・低心拍出
2025年版ガイドラインが提示する評価の骨格は、表22「ADHFにおけるうっ血と低心拍出の評価」に集約されている。うっ血を肺うっ血と体うっ血に分け、低心拍出/組織低灌流を別軸として並べる、という構造である。
図1:急性非代償性心不全における3軸評価(肺うっ血・体うっ血・低心拍出/組織低灌流、ガイドライン表22に基づく著者作成の簡略図)
この3つは1人の患者で重なり合うことが多い。「肺うっ血だけ」「低心拍出だけ」という患者ばかりではなく、うっ血と低心拍出が同時に存在する患者も珍しくない。だからこそ、CS1/2/3のような単一の分類に押し込めるより、3つの軸をそれぞれ独立に評価するほうが実態に近い。
肺うっ血の見方
起坐呼吸は肺うっ血の評価として最も感度の高い症状の1つである。III音は特異度が高い一方、肺のラ音や頻呼吸は感度・特異度とも高くない。これは、左房圧が上昇していても肺胞腔への漏出が起きない症例や、肺炎・ARDSが原因で肺胞内に液体が貯留している症例が混じるためである。
体うっ血の見方
体うっ血で特異度が高いのは頸静脈怒張である。評価法としては、45度程度の座位で右内頸静脈拍動の頂点を観察する。基準点は胸骨角であり、右心房から胸骨角までの垂直距離は体位によらず一定と考えられている。胸骨角から垂直方向に3 cm以上高い位置に拍動の頂点があれば、頸静脈怒張ととらえる。
基準点を間違えやすい
「胸骨上縁(頸切痕)から測る」という覚え方をしている場合は要注意で、ガイドラインが示す基準点は胸骨角である。3 cmという数値に、体表から右心房までの高さの補正分(おおむね5 cm)を足すことで、右房圧(cmH2O換算)のおおよその見積もりに使われる。
低心拍出/組織低灌流の見方
末梢冷感、脈圧狭小、乏尿・腎機能悪化、傾眠傾向などが指標になる。組織低灌流の評価には乳酸値の測定を行う。心原性ショックでは動脈血ガス分析も併せて行う。
4ABC評価と心原性ショックの見極め
急性非代償性心不全は生命に関わる循環器救急疾患であり、通常のABC評価に沿って、循環(C)・呼吸(B)の安定化を並行して進めながら、うっ血・低心拍出の評価と原因診断を進める。
Cの評価
循環の評価では、血圧が保たれているかを確認する。ここは草稿段階で「sBP>90、MAP>65mmHg」という基準を使っていたが、これは敗血症性ショックの蘇生目標の数字が混入したもので、心原性ショックの基準ではない。ガイドラインおよびSCAI基準が定める心原性ショックの低血圧基準は次の通りである。
SCAI基準における低血圧の定義
・収縮期血圧<90 mmHgまたは平均血圧<60 mmHgが30分以上持続
・または基礎値より30 mmHg以上の低下
・または収縮期血圧≧90 mmHgの維持に昇圧薬を要する状態
これに、意識障害・四肢冷感/網状皮斑・尿量減少(<30 mL/h)・血中乳酸値上昇(>2 mmol/L)といった低灌流所見を組み合わせて心原性ショックと診断する。
低血圧・低灌流のいずれかに引っかかれば、原因の究明と並行して、補液・強心薬の検討、必要なら補助循環(IABP、ECMOなど)の適応を考える段階に入る。
心原性ショックの重症度:SCAIショックステージ
心原性ショックと一括りにしても、重症度には幅がある。それを段階づけるのがSCAI(米国心血管インターベンション学会)のショックステージ分類で、ステージA(At risk)からE(Extremis)までの5段階があり、段階が進むごとに院内死亡率が跳ね上がる。
図2:SCAIショックステージ(A〜E)と院内死亡率
血圧は組織低灌流に対する代償として血管収縮で保たれている場合があること、慢性心不全の有無や感染などの併存症により心係数・乳酸値の絶対値と臨床所見の関連が症例ごとに異なることから、これらの基準は絶対的なものではなく、臓器の低灌流所見とあわせて総合的に評価することが重要だとされている。
IABPをルーチンで使わない理由
心原性ショックに対する補助循環の適応を検討する際、IABPのルーチン使用については明確な立場が示されている。
根拠となった試験を正しく引用する
急性心筋梗塞に合併した心原性ショックに対するIABPの有効性が認められなかったとする報告として、IABP-SHOCK II試験が引かれている(結果論文:Thiele H, et al. N Engl J Med 2012;367:1287-1296)。n=600規模のRCTで、安全性の面では問題がなかったが、死亡抑制には寄与しなかった。
この試験のデザイン・根拠を述べた別稿(Am Heart J 2012;163(6):938-45)を結果論文と取り違えないよう注意したい。ガイドラインの結論は明快で、「IABPのルーチンでの使用は推奨されない」である。
初期薬物治療で改善が乏しい場合には、患者の年齢・高次脳神経機能・合併症・社会的要因を考慮したうえで補助循環装置の使用を検討する。これは集学的チームアプローチが望ましいとされている。
右心カテーテルはルーチンでは使わない、ただし
循環器のローテーションで一度は聞く問い、「ガンツカテーテルは入れるべきか」についても、ガイドラインは明確な立場を取っている。ESCAPE試験(Binanay C, et al. JAMA 2005;294:1625-1633)やメタ解析では、心不全に対するルーチンの右心カテーテル検査の有用性は否定的と結論づけられており、ルーチンに行うことは推奨されない。
ただし、ここで終わりではない。「観察研究ではあるが、メタ解析を含めた最近のデータでは、ショック症例のうち右心カテーテル併用が低い院内死亡率と関連していたことも報告されている」と続く。左室拡張末期圧や体液量評価が不十分なときや、ARDSが疑われるとき、あるいは治療反応不良例では、依然として右心カテーテル検査が推奨される場面がある。
5増悪因子を探す
循環動態の安定化と並行して、急性非代償性心不全に陥った原因を診断することを絶えず念頭に置く必要がある。怠薬や塩分摂取過多といった患者側の因子以外にも、心筋虚血・不整脈・感染症などさまざまな病態が心不全の非代償化に関与する。
| 分類 | 契機となる因子(ガイドライン表23) |
|---|---|
| 心臓由来 | 心筋虚血(急性冠症候群)/不整脈(心房粗動・細動、心室頻拍、完全房室ブロック、洞不全症候群など)/新規の心疾患合併(弁膜症、感染性心内膜炎など) |
| 肺・血管由来 | 急性肺血栓塞栓症/血圧の過剰な上昇 |
| 全身性 | 感染症(肺炎、尿路感染症など)/貧血(消化管出血、腎性貧血など)/慢性腎臓病の悪化/代謝異常(甲状腺機能亢進・低下、副腎機能低下、脚気など) |
| 患者側・薬剤性 | 治療アドヒアランス不良(怠薬・塩分摂取過多・過活動)/薬剤(NSAIDsによる塩分貯留、抗不整脈薬による陰性変力作用、癌化学療法による心毒性) |
語呂合わせは「MR. CHAMP」や「FAILURE」でもよい
現場で使われている語呂合わせ(MR. CHAMP:Myocarditis/Right-sided HF/aCS/Hypertension emergency・High output HF/Arrhythmia/acute Mechanical cause/acute Pulmonary thromboembolism、あるいはFAILURE:Forget drug/Anemia・Arrhythmia/Infection・Ischemia/Life style change/Uremia・Up regulation/Regurgitation/Embolizationなど)は、ガイドライン表23の項目とおおむね対応している。覚え方として使うぶんには問題ないが、一次資料としてはガイドライン表23を参照する。
6右心不全と左心不全
我々が出会う心不全患者の多くは左心不全だが、右心不全の症状・所見も押さえておきたい。右心不全の病因として最も頻度が高いのは、左心不全による後方障害(左心不全に伴う肺高血圧)である。それ以外にも、右室の構造的・機能的障害のみを原因とする右心不全など、原因は多岐にわたる。
| 機序 | 症状・所見 |
|---|---|
| 前方障害(低灌流) | 全身倦怠感、運動耐容能の低下 |
| 後方障害(体うっ血) | 四肢の浮腫、腹部膨満感、頸静脈怒張、肝腫大 |
左心不全は呼吸困難・喘鳴・水泡音・ピンク色泡沫喀痰といった、肺うっ血由来の症状が主体になる。右心不全は静脈系のうっ滞を反映した症状が主体になる。両者は最終的に重なり合うことも多いが、初診時にどちらの要素が強いかを意識しておくと、原因検索の方向づけがしやすい。
7やりがちな失敗
CS分類は「初期対応のために提唱された」分類の1つであって、2025年版ガイドラインが前面に出しているのは表22の3軸評価である。CS分類で大枠をつかんだら、うっ血と低心拍出をそれぞれ評価する段階に進む。
MAP 65mmHgは敗血症性ショックの蘇生目標であり、心原性ショック(SCAI基準)の低血圧はsBP<90 mmHgまたはMAP<60 mmHg。似た数字だけに混同しやすい。
ガイドラインが定める基準点は胸骨角。体位によらず右心房までの垂直距離が一定という前提がここにある。
IABP-SHOCK II試験(結果論文:N Engl J Med 2012;367:1287-1296)で死亡抑制への寄与が示されておらず、ルーチン使用は推奨されない。ただし安全性自体は問題ないとされているため、絶対的な禁忌ではない。
ルーチン使用は推奨されないが、観察研究ではショック症例での右心カテーテル併用が低い院内死亡率と関連していたというデータも続けて紹介されている。反応不良例や病態把握が不十分な例では選択肢に残る。
8早見表とTake home
| 場面 | 押さえること |
|---|---|
| 全体の枠組み | CS分類は相対化された。前面に出すのは表22の3軸評価(肺うっ血・体うっ血・低心拍出/組織低灌流) |
| 肺うっ血 | 起坐呼吸が最も感度が高い。III音は特異度が高い。ラ音・頻呼吸は感度特異度とも高くない |
| 体うっ血 | 頸静脈怒張が特異度が高い。基準点は胸骨角、+3cm以上で怒張ととらえる |
| 低心拍出/組織低灌流 | 末梢冷感、脈圧狭小、乳酸>2mmol/L、尿量<30mL/h、意識障害 |
| 心原性ショックの定義 | sBP<90mmHgまたはMAP<60mmHgが30分以上、あるいは昇圧薬を要する状態+低灌流所見 |
| 重症度評価 | SCAIショックステージA〜E(死亡率3.0%→67.0%) |
| IABP | ルーチン使用は推奨されない(IABP-SHOCK II試験)。安全性自体は問題なし |
| 右心カテーテル | ルーチンは推奨しないが、反応不良・病態不明の症例では選択肢に残る |
| 増悪因子の検索 | 表23を参照。心筋虚血・不整脈・感染症・貧血・アドヒアランス不良など |
Take home
- クリニカルシナリオ分類は、2025年版ガイドラインでは「初期対応のために提唱された分類の1つ」として相対化されている。前面に出ているのは、肺うっ血・体うっ血・低心拍出/組織低灌流を別々の軸で評価する枠組みである
- うっ血には体液再分布型(急激な血管内うっ血、急性肺水腫)と体液貯留型(緩徐な体液貯留)の2パターンがあり、経過の速さと治療の入り口が変わる
- 心原性ショックの低血圧基準はsBP<90mmHgまたはMAP<60mmHg。敗血症性ショックのMAP 65mmHgと混同しない
- SCAIショックステージでA〜Eの重症度を層別化する。段階が進むごとに院内死亡率が跳ね上がる(A 3.0%→E 67.0%)
- IABPのルーチン使用は推奨されない。根拠はIABP-SHOCK II試験(結果論文はNEJM 2012;367:1287-1296)で、安全性は問題ないが死亡抑制には寄与しなかった
- 右心カテーテルもルーチンでは推奨されないが、ショック症例での併用が低い院内死亡率と関連していたという観察研究データもあり、反応不良例では選択肢に残る
- 増悪因子の検索は、うっ血・低灌流の評価と並行して常に進める。表23の一覧(心筋虚血・不整脈・感染症・貧血・アドヒアランス不良など)が土台になる
次回は、うっ血・低心拍出それぞれに対する急性期の薬物治療(血管拡張薬・カテコラミン・利尿薬戦略)を扱う。
参考文献
- 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン. 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン(JCS/JHFS 2025 Guideline on Diagnosis and Treatment of Heart Failure). 2025年3月28日発行・2025年12月19日更新.
- Mebazaa A, Gheorghiade M, Piña IL, et al. Practical recommendations for prehospital and early in-hospital management of patients presenting with acute heart failure syndromes. Crit Care Med 2008;36 Suppl:S129-S139. PMID: 18158472.
- Binanay C, Califf RM, Hasselblad V, et al. Evaluation study of congestive heart failure and pulmonary artery catheterization effectiveness: the ESCAPE trial. JAMA 2005;294:1625-1633. PMID: 16204662.
- Thiele H, Zeymer U, Neumann FJ, et al. Intraaortic balloon support for myocardial infarction with cardiogenic shock. N Engl J Med 2012;367:1287-1296. PMID: 22920912.
- Baran DA, Grines CL, Bailey S, et al. SCAI clinical expert consensus statement on the classification of cardiogenic shock. 2019.
- Jentzer JC, van Diepen S, Barsness GW, et al. Cardiogenic Shock Classification to Predict Mortality in the Cardiac Intensive Care Unit. J Am Coll Cardiol 2019;74:2117-2128. PMID: 31548097.
