中毒の患者が来たとき、最初に頭に浮かぶのは「何を、どれだけ、いつ飲んだか」だと思う。だがその3つは、たいてい最後まで分からない。分かったころには山を越えている。
このシリーズの最初の3本は、原因物質が分からないまま進める話に充てる。①初期対応、②診断、③解毒・拮抗薬である。
この記事(第1回)の芯
「GCS 8以下だから挿管」を、中毒に持ち込まない。
外傷から輸入されたこのルールを中毒で直接検証したRCTが2023年に出て、2024年にメタ解析が、2025年に英国救急医学会のガイダンスが続いた。方向はすべて同じである。
この記事でわかること
- 急性中毒はICU入室例でも死亡率3%前後で、「支えれば帰れる」が全判断の土台であること
- NICO試験が示した「挿管を控える4基準」と、それが除外していた患者
- 心停止のナロキソンより質の高いCPRが先であること(AHA 2023)
- SpO₂が85%で張り付く物理的な理由とメトヘモグロビン血症
- HIETを「疑った時点で」始める理由(効くまで15〜30分)
- 中毒の痙攣にフェニトインを使わない理由
- 高体温をきたす4疾患(セロトニン症候群・抗コリン・悪性症候群・悪性高熱)の分け方
- 脂肪乳剤の確立した適応がLASTだけであること
1数字で見る急性中毒 ― 日本には全国疫学がない
まず海外の数字から。ESICMの2025年の総説(Hüser 2025)がまとめている。
| ICU入室に占める割合 | 3〜10% |
| 死亡率 | 2.6〜4.5% |
| 単剤/多剤 | 約半数ずつ |
| 原因物質 | 医薬品が約67%。うち向精神薬49%、鎮痛薬23% |
| ICU特有の介入を要する割合 | 40〜70%(人工呼吸・昇圧薬など) |
死亡率の低さに注目してほしい。ICUに入る集団に限っても3%前後である。つまり中毒は「適切に支えれば、ほぼ全員が生きて帰る病態」であり、このことがこの後のすべての判断(挿管を急がない、介入を足しすぎない)の土台になる。
では日本はどうか
正直に書いておく ― 日本には急性中毒の全国疫学がない
- 消防庁「救急・救助の現況」の事故種別は12区分あるが、「中毒」という区分そのものが存在しない。近いのは「自損行為」で、令和5年は42,977人=全搬送の0.6%。うち中毒が何件かは分からない
- JIPAD(日本ICU患者データベース)の疾患分類11群にも、中毒は独立した区分として置かれていない
「日本のICUの何%が中毒か」を示す公表値は、私が探した範囲では存在しない。書く側として気持ちの悪い話だが、無いものを有るように書くよりましである。
使えるのは、日本中毒情報センターの受信報告
2024年の1年間で、ヒトの急性中毒に関する受信は22,475件。
| 医療機関からの照会の起因物質 | 医薬品49%、家庭用品34% |
| 一般市民からの照会の起因物質 | 家庭用品53%、医薬品36% |
| 患者の年齢層 | 全体では5歳以下が65%。ただし医療機関からの照会では成人が53% |
| 自殺企図の起因物質 | 医療用医薬品の中枢神経系用薬42%、一般用の中枢神経系用薬16% |
小児の誤飲が数の上では圧倒的で、医療機関が困るのは成人の医薬品、という構図が読める。自殺企図では中枢神経系用薬が6割近い。つまり救急外来が日常的に相手にするのは、鎮静系の薬を大量に飲んだ、意識の悪い成人である。だからこそ、次の章の話(意識障害と挿管)が中毒診療の入口になる。
2ABCDEで立て直す ― 原因物質が分かる前に
Hüser 2025 の骨格はシンプルで、「原因物質が分かる前に、ABCDEで立て直せ」に尽きる。
図1:ABCDEの中毒版 ― 各項目で「中毒だとここが違う」
原著のTake home message
In critically ill patients with pharmaceutical poisoning, outcomes are usually favorable when vital functions are rapidly stabilized using the ABCDE approach.
「ABCDEで速やかに安定化できれば、転帰はたいてい良好」。この前提を置いてから、各論に入る。
3A ―「GCS 8以下だから挿管」を検証したRCT
「GCS 8以下は挿管」は外傷のプロトコルから来ている。中毒の昏睡は外傷の昏睡と違い、原因物質が抜ければ数時間で覚める。そこに同じルールを当ててよいのか。直接調べたのがNICO試験である。
NICO試験(Freund 2023, JAMA 330:2267-2274)
フランスの20救急部+1 ICU、2021年5月〜2023年4月。急性中毒が疑われGCS 9未満の成人237例をランダム化し、225例を解析した。平均33歳、女性38%、GCSの中央値は6。
介入群は「緊急挿管基準を満たさないかぎり挿管しない」。基準は4つだけである。
挿管する4基準
- 痙攣
- 呼吸不全(経鼻酸素でもSpO₂ 90%未満が持続)
- 嘔吐
- ショック(晶質液1L後も収縮期血圧90 mmHg未満が持続)
観察は4時間、またはGCSが8を超えるまで。
図2:NICO試験 ― 挿管を控えるとどうなったか(+除外基準)
主要評価項目は院内死亡・ICU在室・在院日数の階層的複合エンドポイントで、win ratio 1.85(95%CI 1.33-2.58)と挿管を控えた側が有利だった。
| 気管挿管 | 16.4% 対 57.8% |
| ICU入室 | 39.7% 対 66.1% |
| ICU在室時間の中央値 | 0時間 対 24.0時間 |
| 有害事象(挿管周辺の低酸素・低血圧・食道挿管など) | 6.0% 対 14.7% |
| 初回挿管失敗 | 0.9% 対 13.1% |
| 院内死亡 | 0 対 0 |
肺炎(48時間以内)は6.9%対14.7%で半分になっているが、95%CIは −15.9〜+0.3%とゼロをまたいでおり、有意差はない。ここは正確に書いておく。
原著自身が認めている弱点
原著のLimitationsは率直で、死亡がゼロだったため、複合エンドポイントの差は事実上ICU在室時間の短縮で駆動されている。「挿管を控えたら死ななかった」ではなく「挿管を控えても死なず、ICUと合併症が減った」という試験である。
除外基準を読まないと、この試験は使えない
NICO試験は最初からこういう患者を除いている。
- すぐに挿管が必要な人(呼吸不全、頭部外傷の疑い、痙攣、ショック)
- 循環作動薬の中毒が疑われる人(β遮断薬、Ca拮抗薬、ACE阻害薬)
- 拮抗薬で戻せる単剤中毒(オピオイド、ベンゾジアゼピン)
つまりこの試験が言っているのは「昏睡の中毒患者を挿管するな」ではない。「意識障害以外に何も問題がない中毒患者を、GCSの数字だけで挿管するな」である。この2つを取り違えると危ない。
メタ解析とガイダンスも同じ方向を向いている
39研究15,959例のメタ解析(Nanah 2025, J Intensive Care Med 40:1143-1154)では、GCS 8以下で実際に挿管されていたのは30.0%にすぎず(I² 92%と施設差が大きい)、GCS 8以下の死亡は1.0%だった。結論はこうである。
Nanah 2025 の結論
The conventional “less than 8, intubate” approach may not be directly applicable to acute poisoning patients due to heterogeneity in patient presentation, intubation practices, and low mortality.
英国救急医学会(RCEM)の2025年のガイダンスは、さらに踏み込む。
RCEM 2025
The Glasgow coma score (GCS), although useful as a shorthand for the degree of altered mental status, must never be used for prognostic purposes in the acutely poisoned patient.
GCSを中毒の予後予測に使ってはならない、と断言している。
日本でどう運用するか
NICOの4基準は、当直帯の判断にそのまま落とせる。痙攣・呼吸不全・嘔吐・ショックのどれかがあれば挿管する。どれもなく意識だけが悪いなら、4時間見る。
私が付け加えるとすれば2つ
第一に、「4時間見る」には人手が要る。モニタと吸引と、誰かの目が要る。それが確保できない環境で「挿管しない」だけを真似すると、試験と違う結果になりうる。
第二に、飲んだ薬に循環作動薬や遅効性の毒物(徐放剤、アセトアミノフェン大量など)が混ざっている可能性が残るうちは、この試験の外にいると考えたほうがよい。
挿管を活性炭のために行わない
気道の話なのでここに置く。2026年のCTRC活性炭勧告に、こういう推奨がある。
CTRC 2026
We make a strong recommendation against the administration of AC in patients with absent airway protective reflexes who are not endotracheally intubated (1D).
Endotracheal intubation should not be performed solely for the purpose of administration of AC.
気道反射のない未挿管の患者に活性炭を入れるな(強い推奨)、そして活性炭を入れるためだけに挿管するな。挿管の適応は患者の状態で決めるのであって、薬剤側の都合で決めない。消化管除染そのものは第5回で扱う。
4B ― 呼吸で、中毒に特有のもの
ナロキソン ― 滴定の哲学
オピオイド中毒の呼吸抑制には、ナロキソンが診断と治療を兼ねる。Hüser 2025 の推奨は 0.05〜0.1 mg を2分ごと、2 mg まで。狙いは「呼吸が戻る」ところであって、完全覚醒ではない。一気に戻すと離脱(興奮、嘔吐、肺水腫)を起こす。心停止直前なら初回 0.2〜0.4 mg、重症では総量 10 mg までの記載がある。
AHA 2023 ― 心停止では優先順位が明確
For patients known or suspected to be in cardiac arrest, in the absence of a proven benefit from the use of naloxone, standard resuscitative measures should take priority over naloxone administration, with a focus on high-quality CPR.(COR 1)
心停止になってしまったら、ナロキソンより質の高いCPRである。ナロキソンが効くのは「脈はあるが呼吸がない・浅い」段階(COR 2a)で、この線引きは覚えておく価値がある。
日本の添付文書は総量 0.6 mg まで(0.2 mg を2〜3分間隔で1〜2回追加)で、適応も「麻薬による呼吸抑制ならびに覚醒遅延の改善」である。国際的な用量との差は第3回(解毒・拮抗薬)でまとめて扱う。
SpO₂が85%で動かないとき ― メトヘモグロビン血症
酸素を上げてもSpO₂が85%前後から動かず、中心性チアノーゼがある。このときに疑うのがメトヘモグロビン血症である。ベンゾカイン、リドカイン、プリロカイン、ニトロプルシド、スルホンアミド、ダプソン。
「85%で止まる」のには理由がある
メトヘモグロビンは赤色光と赤外光を同程度に吸収するため、パルスオキシメータの比が1に収束し、真の値と無関係にSpO₂が85%付近に張り付く。つまり85%という数字そのものが診断のヒントになる。
治療はメチレンブルー 1〜2 mg/kg を5分以上かけて静注(メトヘモグロビン20%超、または症状があるとき)。日本でも「中毒性メトヘモグロビン血症」の適応がある。G6PD欠損症は禁忌。
パルスCOオキシメータの限界
CO中毒用のパルスCOオキシメータ(COHb/MetHbを測る多波長型)は、検査室測定の代わりにはならないという報告が複数あり、ACEPも診断への使用を推奨していない。スクリーニングにとどめる。
5C ― 循環で、中毒に特有のもの
ショックの型を3つに分ける
| 体液喪失 | リチウム、利尿薬 |
| 血管拡張 | 降圧薬、Ca拮抗薬 |
| 心原性 | 陰性変力、不整脈、その両方 |
晶質液から始めて、昇圧が要るならノルアドレナリンが第一選択。心原性ならドブタミン、イソプレナリン、アドレナリン。α遮断が主体の中毒(非定型抗精神病薬など)にはフェニレフリンやバソプレシンが効くという報告がある。
心電図が治療を決める3パターン
| ワイドQRSの頻拍 | Naチャネル遮断(三環系、ジフェンヒドラミン、フレカイニドなど)を疑い、NaHCO₃ 8.4% 1〜2 mL/kg を静注。反復可。目標は血液pH約7.5で、QRSの完全な正常化ではない。三環系の致死的心毒性にAHAはCOR 1 |
| 発作性心房頻拍や心室性不整脈が房室ブロックと交代 | ジギタリス中毒を疑い、抗ジゴキシン抗体(日本は未承認。第3回で扱う) |
| 徐脈+低血圧+(CCBなら)高血糖 | CCB/BB中毒を疑い、HIETへ |
HIET(高用量インスリン正常血糖療法)は「早く始める」が全て
CCB・BB中毒の心原性ショックでは、陰性変力が主体でペーシングは効かない。HIETは速効型インスリン 1 U/kg をボーラス後、1 U/kg/h で開始し、反応を見ながら最大 10 U/kg/h まで上げる。ブドウ糖 0.5 g/kg を併用し、血糖 100 mg/dL 超を維持。カリウムを頻回に確認する。
効き始めるまで15〜30分かかる
だから疑った時点で始めて、昇圧薬と並走させる。AHA 2023はCCB・BBいずれの低血圧にもHIETをCOR 1で推奨している。カテコラミンより血行動態の改善が良いというデータもある(特にベラパミル・ジルチアゼム)。
グルカゴンはBB中毒でCOR 2a。ただし必要量が大きく、在庫の壁がある。そして日本のグルカゴンに中毒の適応はない(第3回)。
抗不整脈薬には、中毒特有の禁忌がある
日本の急性中毒標準診療ガイドが表にしている内容で、ここは実務に直結する。
| リドカイン | コカイン中毒に有用。ただし過量で自身が中毒作用 |
| プロプラノロール | コカインなど交感神経作動薬中毒には禁忌 |
| プロカインアミド | QRSが広がる三環系中毒などには禁忌 |
| アミオダロン | 薬剤性低血圧の悪化と催不整脈に注意 |
| マグネシウム | ジギタリス・三環系のVT、torsadesに有効 |
| NaHCO₃ | ワイドQRSの頻拍に有効 |
「普段の不整脈の一手」が中毒では逆手になる、というのがこの表の意味である。交感神経刺激薬中毒の興奮・頻脈には、抗不整脈薬より先に鎮静が来る(AHAは「重度の興奮に対する鎮静」をCOR 1とし、ベンゾジアゼピンをその主軸に挙げる)。
6D ― 痙攣と興奮
中毒の痙攣は、てんかんの痙攣と治療が違う
起こしやすいのは、抗うつ薬(特にブプロピオンなどのDNRI、三環系)、抗精神病薬、第一世代抗ヒスタミン薬、テオフィリン・カフェイン、トラマドール、ニューキノロン・カルバペネム、イソニアジド、有機リン、アルコールやベンゾジアゼピンの離脱。
図3:中毒の痙攣の診療アルゴリズム(フェニトインは使わない)
外せないポイントが2つ
第一に、フェニトイン・ホスフェニトインは使うべきでない。Naチャネル遮断作用が三環系などの心毒性を悪化させうるからで、てんかん診療の第二選択をそのまま持ち込めない。第二選択はフェノバルビタールかプロポフォール、副作用と相互作用の少なさからレベチラセタムも選択肢になる。
第二に、予防投与はしない。中毒時は代謝が落ちており、抗てんかん薬の副作用と相互作用のほうが問題になる。例外は4つだけ(てんかんの既往、アルコール・ベンゾ離脱、神経毒性が著しく高い物質、非痙攣性てんかんを否定できない遷延性意識障害)。
興奮
第一選択はベンゾジアゼピン(ミダゾラム 2〜10 mg 筋注または 2.5〜5 mg 静注、ロラゼパム 1〜2 mg)。抗精神病薬(ドロペリドール、ハロペリドール、オランザピン筋注)が続き、極端な場合はプロポフォールやケタミン。鎮静・拘束した患者は必ずモニタ下に置く。ここで手を抜くと、「興奮が収まった」と「呼吸が止まりかけている」の区別がつかなくなる。
7E ― 体温。トキシドロームの一部として読む
体温はトキシドロームの一部である。高体温なら抗コリン・交感神経刺激・セロトニン・サリチル酸・悪性症候群。低体温ならCO・アルコール・血糖降下薬・オピオイド・鎮静薬。
測るのは深部体温(膀胱温・直腸温)で、腋窩は当てにならない。
| 高体温 | 39℃以下まで積極的に冷やし、そこで止める(冷やしすぎとシバリングを避ける) |
| 低体温 | 30℃以上まで積極的に復温する |
シバリングにはベンゾジアゼピンを使う。それでも制御できないときのクロルプロマジン 25〜50 mg 静注は、抗コリン作用で発汗を止め、かえって熱がこもる可能性を知ったうえで使う。
図4:高体温をきたす4疾患の鑑別
セロトニン症候群の診断はHunter基準(感度84%・特異度97%)。自発性・誘発性・眼球クローヌスが軸で、発症が速い(74%が開始・増量から6〜24時間以内)。原因薬中止とベンゾジアゼピンで多くは24時間以内に軽快し、シプロヘプタジン(初回12 mg、胃管可)を併用する。悪性症候群は発症が日単位で、クローヌスがなく、鉛管様固縮。この対比は第4回(toxidrome)でもう一度使う。
そして「倒れているところを発見された」患者では、隠れた外傷、横紋筋融解、低体温を必ず一度は探す。
8レスキュー ― 脂肪乳剤とECMOの正直な位置づけ
静注脂肪乳剤(ILE)は「万能の解毒薬」ではない
AHA 2023の格付けが、物質ごとにきれいに割れている。
| 局所麻酔薬中毒(LAST) | COR 1。ここだけが確立した適応 |
| Naチャネル遮断薬の難治例 | COR 2b(考慮してもよい) |
| β遮断薬 | COR 3: No Benefit |
| Ca拮抗薬のルーチン使用 | COR 3: No Benefit |
Hüser 2025 も同じで、LAST以外は「最終手段としてのレスキュー」であり、ARDS、脂肪過負荷、ECMO回路の目詰まりという実害を併記している。「脂溶性の薬ならとりあえずILE」は、もう通らない。
用量(LAST):20%製剤 1.5 mL/kg(最大100 mL)を2〜3分でボーラス、続けて 0.25 mL/kg/min を15〜20分。累積上限 10〜12.5 mL/kg。
日本の事情
日本の標準診療ガイドは局所麻酔薬に加えて有機リンへの有用性に言及しており、国際的な格付けより一歩広い。ここは食い違いとして把握しておく。なお日本の脂肪乳剤製剤に中毒の適応はない(第3回)。
VA-ECMO ― 「時間を買う」道具としては最強
中毒の心停止・難治性心原性ショックの多くは、原因物質が代謝・排泄されるまでの時間勝負である。心臓が数時間〜数日動かなくても、そこを機械で支えれば回復しうる。この「可逆性の高さ」が、中毒でECMOが特に理が通る理由である。
AHA 2023 の締めくくり
Venoarterial extracorporeal membrane oxygenation can be lifesaving for patients with cardiogenic shock or dysrhythmias that are refractory to other treatment measures.
CCB・BB中毒の難治性ショックにはCOR 2aで置かれている。
日本の標準診療ガイドも「中毒原因物質にかかわらず、中毒症状が制御されるまで積極的に導入することが推奨される」と、むしろ強気である。ただし出血合併症が10〜36%、頭蓋内出血が6%程度という代償も併記されている。効き始めに時間のかかるHIETと、時間を買うECMO。この2つを「早く」つなぐのが、循環作動薬中毒の設計図になる。
9やりがちな失敗
| 1 GCS 8以下だから挿管する | 痙攣・呼吸不全・嘔吐・ショックのどれもなければ、4時間見る選択肢がある。ただしNICO試験は循環作動薬中毒とオピオイド・ベンゾ単剤中毒を除外している。 |
| 2 NICO試験を「昏睡でも挿管しなくてよい」と読む | 除外基準を読まずに一般化しない。「GCSの数字だけで決めるな」であって「挿管するな」ではない。 |
| 3 観察する人手がないのに「挿管しない」だけ真似る | 4時間の観察には、モニタと吸引と誰かの目が要る。 |
| 4 活性炭を入れるために挿管する | 挿管の適応は患者の状態で決める。CTRC 2026の強い推奨。 |
| 5 心停止でナロキソンを探しに行く | 心停止になったら質の高いCPRが先(AHA COR 1)。ナロキソンの出番は「脈はあるが呼吸がない」段階。 |
| 6 酸素を上げてもSpO₂ 85%のまま、を「測定エラー」で流す | 85%収束はメトヘモグロビン血症のサインでもある。 |
| 7 CCB/BB中毒で、HIETを「昇圧薬が効かなくなってから」始める | 効き始めまで15〜30分かかる。疑った時点で並走開始。 |
| 8 中毒の痙攣にフェニトインを使う | Naチャネル遮断が心毒性を悪化させうる。第二選択はフェノバルビタール・プロポフォール、またはレベチラセタム。 |
| 9 痙攣を起こしそうな物質だから、と抗てんかん薬を予防投与する | 原則しない。例外は4つだけ。 |
| 10 高体温を「感染症の発熱」として精査だけ進める | 39℃を超える高体温は、まず冷やす。そしてセロトニン症候群・抗コリン・悪性症候群・悪性高熱の4つを所見で分ける。 |
| 11 「脂溶性だからILE」で最終手段を先に使う | 確立した適応はLASTだけ。BB・CCBではCOR 3。 |
| 12 ECMOの相談を、心停止してから始める | 中毒のショックは可逆性が高く、ECMOが最も報われる領域のひとつ。難治性の徴候が見えた時点で、搬送・導入の相談を先に動かす。 |
10早見表とTake home
| 項目 | 押さえること |
|---|---|
| 挿管の判断 | 痙攣・呼吸不全(酸素下SpO₂<90%)・嘔吐・ショックの4つで決める。意識だけなら4時間観察(人手があること) |
| ナロキソン | 0.05〜0.1 mgずつ滴定。狙いは呼吸、完全覚醒ではない。心停止ならCPRが先 |
| SpO₂ 85%固定 | メトヘモグロビン血症 → メチレンブルー 1〜2 mg/kg |
| ワイドQRS | NaHCO₃ 8.4% 1〜2 mL/kg。目標pH約7.5 |
| CCB/BB | HIET 1 U/kgボーラス→1〜10 U/kg/h+ブドウ糖。疑った時点で開始 |
| 抗不整脈薬 | プロプラノロールはコカインに禁忌、プロカインアミドは三環系に禁忌 |
| 痙攣 | ベンゾ第一選択。フェニトイン・ホスフェニトインは使わない。予防投与しない |
| 高体温 | 深部体温で39℃以下まで冷却。4疾患(セロトニン・抗コリン・NMS・悪性高熱)を所見で分ける |
| 低体温 | 30℃以上まで復温 |
| ILE | 確立した適応はLASTのみ |
| VA-ECMO | 難治性なら早めに相談。中毒は可逆性が高い |
Take home
- 中毒はICU入室例でも死亡率3%前後。「支えれば帰れる」が全判断の土台
- 「GCS 8以下だから挿管」を中毒に持ち込まない。決めるのは痙攣・呼吸不全・嘔吐・ショックの4つ
- ただしNICO試験の除外基準(循環作動薬、オピオイド・ベンゾ単剤)まで含めて覚える
- 心停止のナロキソンより、質の高いCPR
- HIETは疑った時点で開始。効くまで15〜30分かかる
- 中毒の痙攣にフェニトインは使わない
- 高体温は測って、冷やして、4疾患を分ける
- ILEの確立した適応はLASTだけ。ECMOは中毒で最も報われる
- 迷ったら中毒110番(詳細は第2回)
第2回は診断を扱う。「何を飲んだか」に、検査がほとんど答えない理由と、それでも心電図と3剤の血中濃度だけは治療を変える話を書く。
参考文献
- Hüser C, Bethlehem C, Dünser MW, et al. Critical care management of the patient with pharmaceutical poisoning. Intensive Care Med. 2025;51(12):2378-2391. DOI: 10.1007/s00134-025-08176-6. PMID: 41222651.
- Freund Y, Viglino D, Cachanado M, et al. Effect of noninvasive airway management of comatose patients with acute poisoning: a randomized clinical trial. JAMA. 2023;330(23):2267-2274. PMID: 38019968.
- Nanah A, Abdeljaleel F, Matsubara JK, Garcia MVF. Outcomes and practices of endotracheal intubation using the Glasgow Coma Scale in acute non-traumatic poisoning: a systematic review and meta-analysis of proportions. J Intensive Care Med. 2025;40(11):1143-1154. PMID: 39150325.
- Welby-Everard P, Pucci M, Elamin M. Management of Patients with Suspected but Unidentified Poisoning in the Emergency Department. Royal College of Emergency Medicine, April 2025.
- Lavonas EJ, Akpunonu PD, Arens AM, et al. 2023 American Heart Association Focused Update on the Management of Patients With Cardiac Arrest or Life-Threatening Toxicity Due to Poisoning. Circulation. 2023;148(16):e149-e184. PMID: 37721023.
- Hoegberg LCG, Gosselin S, Buckley NA, et al. Recommendations from the Clinical Toxicology Recommendations Collaborative on the administration of activated charcoal in acute oral overdose. Clin Toxicol (Phila). 2026;64(6):419-475. PMID: 41906697.
- 日本中毒学会 監修. 新版 急性中毒標準診療ガイド. へるす出版, 2023.
- 日本中毒情報センター. 2024年受信報告.
- 総務省消防庁. 令和6年版 救急・救助の現況.
- ナロキソン塩酸塩静注0.2mg「AFP」電子添文.
- メチレンブルー静注50mg「第一三共」電子添文.
急性薬物中毒シリーズ
- 急性薬物中毒①初期対応(この記事)
