ER-症候別

急性陰嚢症

急性陰嚢症は、救急外来で最も「見逃したときの代償が大きい」主訴のひとつである。精巣は失われても命に関わらない。だからこそ、初療で拾えなかったときに説明がつかない。米国の医療訴訟レビューでは、訴えられた精巣捻転例の61%が精巣上体炎と診断されていた。

この記事の芯を先に書いておく

「6時間」は、諦めるための数字ではない。

発症から6時間以内の救済率は97.2%。だが24〜48時間でも24.4%、48時間を超えてなお7.4%が救済されている。「もう12時間経っているから手遅れ」には、根拠がない。

そしてもうひとつ。手術で確認された捻転208例のうち、精巣内血流が消失していたのは76%にとどまる。「血流があったから捻転ではない」は成立しない。

この記事でわかること

  • 「6時間」を、諦める数字ではなく急ぐ数字として使う読み方
  • 日本のNDBデータで、発症のピークと精巣摘除率のピークがずれていること
  • Prehn徴候の向き(旧記事で逆に書いていたので訂正します)
  • TWISTの成績が、評価者によって感度100%から21%まで変わること
  • 手術確定捻転の24%で精巣内血流が消失していなかったこと
  • 超音波は血流ではなく精索の捻れを見にいくこと
  • 用手整復の「open book」が、46%の症例で逆方向であること
  • 精巣上体炎の抗菌薬が年齢と性行為歴で決まり、レボフロキサシン単剤が淋菌を外すこと
  • Fournier壊疽をLRINECで除外してはいけないこと

1急性陰嚢症という枠組み

急性陰嚢症は診断名ではなく、症候群の名前である。陰嚢内容またはその周囲の、急性の疼痛・腫脹・発赤を指す。

この枠組みで大事なのは、時間で結果が変わる診断が2つあることである

① 精巣捻転 精巣が時間で死ぬ
② Fournier壊疽 患者が時間で死ぬ

残りは、緊急性の桁がひとつ違う。つまり急性陰嚢症の初療とは、この2つを「否定しにいく」作業である。

頻度

小児の急性陰嚢痛のうち、精巣捻転は10〜15%。最も多いのは精巣付属器捻転で、19歳以下238例のコホートでは46%を占めたとされる。思春期では精巣上体炎が35〜71%という報告もある。

ただし、頻度の順番で診断を組み立てない

頻度で並べると精巣捻転は3番手だが、時間で並べると1番手になる。

2日本のデータで見る精巣捻転

日本のNDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)を用いた全国規模の解析がある(Hiramatsu 2024, PLoS One 19(3):e0297888)。

図1:日本の精巣捻転 ― 発症のピークと、精巣を失うピークはずれている

5,161例解析対象(NDB)14.46〜15.88/10万人・年(21歳未満男性)左:右 = 2:1左に多い冬季 OR 1.42季節性がある山が2つ、ずれている発症のピーク10〜14歳次に15〜19歳精巣摘除率のピーク0〜4歳20.22%全体では 7.1%0-45-910-1415-1920-2425-年齢(歳)発症が少ない年齢ほど、精巣を失う率が高い言葉で訴えられない年齢では、受診が遅れる。不機嫌・嘔吐・哺乳不良で来た乳幼児のオムツを開けているか、という話になるHiramatsu A ら 2024(PLoS One 19(3):e0297888)。年齢層ごとの症例数は原著に基づく作図ではなく、記載されている2つのピークのみを示している

対象 5,161例(2018〜2020年)
年間発症率 21歳未満男性10万人あたり 14.46〜15.88(年により変動、3年平均15.13)
好発 10〜14歳が最多、次いで15〜19歳
左右比 左が右の約2倍
季節 冬季にオッズ比 1.42
精巣摘除率 全体で7.1%。ただし0〜4歳では20.22%

この「山のずれ」が、この章で一番伝えたいことである

発症が最も多いのは10〜14歳だが、精巣を失う率が最も高いのは0〜4歳である。

言葉で訴えられない年齢では、受診が遅れる。不機嫌・嘔吐・哺乳不良で来た乳幼児のオムツを開けているか、という話になる。

海外のデータでは摘除率はもっと高い

米国のNIS 1998年データでは全体34%(1〜9歳18%、10〜17歳33%、18〜25歳41%、Mansbach 2005)。日本の7.1%という数字はレセプト病名の精度の問題を含んでいる可能性があり、額面どおりには受け取れない。

診断の遅れは、世界的な問題である

2026年のシステマティックレビュー・メタ解析(Sun 2026, Front Reprod Health)は、発症6時間以内に受診できた割合が国によって 14.29〜72.58% と大きく違うこと、誤診率が 3.66%(デンマーク)から 68.32%(ブラジル)まで開くことを示した。

遅延のリスク因子として挙がっているのは次である。

発熱 RR 1.26-1.33
誤診 12時間超の遅延に RR 1.52(1.27-1.83)
最初に一次・二次医療機関を受診 RR 1.29-1.36
ただし95%信頼区間が1をまたいでおり、有意ではない
パンデミック期 RR 1.42-1.50

発熱があると遅れる、というのは示唆的である。発熱を見ると感染症のほうに舵を切ってしまう、という診療の癖が数字に出ている。

3時間 ―「6時間」の正しい使い方

Mellick 2019(Pediatr Emerg Care 35(12):821-825)は、30研究・2,116例をプールした。うち発症からの時間が6時間刻みで得られた症例について、区間別の精巣生存率を示している。

図2:発症からの時間と精巣救済率

97.2%0〜6時間79.3%7〜12時間61.3%13〜18時間42.5%19〜24時間24.4%25〜48時間48時間1000精巣救済率(%)発症からの時間 30研究・2,116例(Mellick 2019)累積12時間まで90.4%13〜24時間54.0%24時間超18.1%48時間を超えても 7.4%ゼロにはならない原著の結論 ― 精巣の生存は、一般に教えられている6〜8時間よりずっと長くなりうる「6時間で締め切り」ではなく、「何時間経っていても手術に持っていけ」と読む表である

原著の結論はこうである。

原著の結論(逐語)

Survival of the testicle irrespective of subsequent atrophy, decreased spermatogenesis or impaired endocrine function after TT can be much longer than the 6 to 8 hours that is commonly taught.

This information should encourage aggressive management of patients presenting with TT pain that has been ongoing for many hours.

つまりこの表は「6時間で締め切り」ではなく、「何時間経っていても手術に持っていけ」という方向に読む表である。

この表の限界も書いておく

Mellick 2019はメタ解析ではなく、症例集積のプールである。重み付けも異質性の評価もされていない。

  • 「発症からの時間」は患者の申告に依存する。間欠捻転があれば実際の虚血時間とはずれる
  • 「救済(survival)」の定義が研究間で不統一で、術中に摘除しなかったことを救済とする研究と、長期の萎縮まで追った研究が混ざっている
  • 長時間経過してなお手術に至った症例には、生存バイアスもかかる

それでもこの表を載せる理由は、「6時間で諦める」という運用のほうが、はるかに害が大きいからである。

捻転の度数と時間

EAUガイドラインの記載は、時間ではなく度数と時間の組み合わせで書かれている。

360度を超える捻転 わずか4時間でも高度の精巣萎縮が生じた
不完全捻転(180〜360度)で症状12時間以内 萎縮は認めなかった
360度超かつ症状24時間超 全例で精巣が消失または高度萎縮していた

これは「時間だけでは決まらない」ということでもある。6時間以内でも失う精巣があり、24時間でも残る精巣がある。

4病歴と身体所見 ― 何が使えて、何が使えないか

病歴で拾うべきもの

  • 突然発症(分単位で最大に達したか)
  • 夜間・睡眠中の発症
  • 同様のエピソードの既往(間欠捻転)
  • 悪心・嘔吐を伴うか
  • 外傷歴(外傷や激しい運動が先行することがある。頻度を示した一次文献は見つけられなかった)
  • 性行為歴(思春期以降)

腹痛だけを訴える例がある

米国の訴訟データベースのレビュー(Colaco 2015, J Emerg Med 49(6):849-854)では、31%が腹痛のみを主訴に受診していた。外性器の診察をしなかったことが訴訟の19%に関連していた。

「男児の腹痛では陰嚢を診る」は、標語ではなく手順である。

Prehn徴候は、方向を間違えて覚えられていることが多い

陰嚢を挙上して痛みが軽くなる
(Prehn徴候 陽性)
精巣上体炎を示唆
挙上しても軽くならない、あるいは増悪する 精巣捻転を示唆

旧記事で逆に書いていたので、訂正します

「挙上で軽快=捻転」と書いていました。正しくは上の表のとおりです。

そのうえで、方向を正しく覚えたところで、この徴候は捻転を除外できない。主観的で、再現性が低く、診断精度を検証した質の高い研究がない。「Prehn陽性だから精巣上体炎」で超音波を省略してはいけない。

精巣挙筋反射

大腿内側を上方向に擦って、同側の精巣が挙上するかを見る。消失していれば捻転を示唆する(旧記事に「晶質」とあったのは「消失」の誤変換です)。

ただし、どちらの方向にも使えない

  • 正常男児でも30か月未満では反射が出ないことがある(正常男児225名の検討で、新生児の52%、1〜30か月の55%で反射を認めなかった。Caesar & Kaplan 1994)
  • 捻転でも反射が残る例がある
  • 評価者間一致は κ 0.52 と中等度にとどまる

あれば捻転を否定する材料にはならないし、なければ捻転を確定する材料にもならない。

高位精巣・横位精巣

精索が捻れて短縮するため、患側の精巣が挙上し、水平位を取る。腫脹が強くなる前の早期にしか見えないことが多い。

所見の再現性

Frohlich 2017 が報告した評価者間一致(κ)はこうなっている。

悪心・嘔吐 κ 0.75
陰嚢腫脹 κ 0.74
精巣挙筋反射の消失 κ 0.52
硬い精巣 κ 0.25
TWIST合計スコア κ 0.39(fair)

「硬い精巣」が κ 0.25 というのは注意に値する。次章で見るとおり、TWISTで2点の配点を持つ項目が、実は最も一致しない所見である。

5TWIST ― 誰が使うかで、別のスコアになる

TWIST(Testicular Workup for Ischemia and Suspected Torsion)は5項目・7点のスコアである。

図3:TWISTの5項目と、評価者が変わったときの成績

TWIST ― 5項目・7点Testicular Workup for Ischemia and Suspected Torsion精巣腫脹2 点硬い精巣2 点挙筋反射の消失1 点悪心・嘔吐1 点高位精巣1 点配点2点の「硬い精巣」は、評価者間一致が κ 0.25 と最も低い所見でもある(Frohlich 2017)同じスコアでも、誰が使うかで成績が変わるBarbosa 2013泌尿器科医(小児)338例/捻転51カットオフ 2 と 5NPV 100%/PPV 100%全体は感度76%・特異度81%Sheth 2016訓練を受けたEMT128例/捻転44カットオフ 0 と 6NPV 100%/PPV 93.5%層別が原著と違う(0/1-5/6-7)Frohlich 2017小児救急医258例/捻転19カットオフ 7特異度100%/感度 21%未登録例233のうち36(15%)が捻転Barbosa 2021泌尿器科医(成人)68例/捻転34カットオフ 6PPV 100%(5点では90%)成人はカットオフを1点上げる高得点は「呼ぶ根拠」になる。低得点は「帰す根拠」にならないメタ解析(Qin 2022、小児前向き5研究1,060例)でも、満点7点の統合感度は0.276・特異度0.994。高得点は特異度の道具である

原著 ― Barbosa 2013

小児338例、捻転51例。泌尿器科医が全例を診察した。カットオフ2と5で、それぞれ陰性的中率100%・陽性的中率100%。スコア全体としての感度は76%、特異度81%。著者らは「80%の症例で捻転を診断または除外しうる」「超音波のオーダーを急性陰嚢症の20%にまで減らせる」と結論している。

ここは表現に気をつけたい

原著が100%と書いているのは NPVとPPV であって、感度・特異度ではない。感度76%・特異度81%のほうがスコア全体の値である。

旧記事に書いていた「感度76%、特異度81%」は原著の値なので誤りではないが、それを「カットオフ5点の性能」であるかのように読ませていた点は直します。

小児救急医が使うと ― Frohlich 2017

前向きコホート、生後3か月〜18歳、258例、捻転19例(7.4%)。小児救急医が評価した。

7点(満点)での特異度 100%(95%CI 98-100)
同 PPV 100%(95%CI 40-100)
AUC 0.82
7点での感度 21% 19例中4例しか7点にならなかった

この研究には無視できない限界がある

登録されなかった適格例が233例あり、そのうち36例(15%)が捻転だった。登録群の捻転率7.4%の2倍以上である。強い選択バイアスがかかっている。

訓練を受けたEMTが使うと ― Sheth 2016

泌尿器科コンサルトと画像検査の前に、訓練を受けた救急救命士が評価した。128例、捻転44例、平均11.3歳。ROC解析からカットオフを 0と6 に設定し、高リスク31例・中間57例・低リスク40例。PPV 93.5%、NPV 100%。

カットオフが原著と違う

Barbosa版の層別 0-2 / 3-4 / 5-7
Sheth版の層別 0 / 1-5 / 6-7

「TWIST 5点以上」と言ったとき、どちらの層別を指しているのかで意味が変わる。

成人では ― Barbosa 2021

成人68例、捻転34例(50%)、年齢中央値24.9歳。

2点以下 23例、捻転 0(NPV 100%)
3-4点 15例、捻転 7
5点以上 30例中27例が捻転(PPV 90%)
6点以上 18例は全例捻転(PPV 100%)

AUC 0.95。成人ではPPV 100%を得るのに6点が要る、というのがこの研究の結論である。

メタ解析 ― Qin 2022

13研究。主解析は前向き小児5研究(1,060例、捻転199例)である。

スコア 統合感度 統合特異度
0点 0.993 0.069
7点 0.276 0.994

層別ごとの成績も出ている。

Barbosa版(0-2/3-4/5-7) AUC 0.924。低リスクの感度 0.984、高リスクの特異度 0.975
Sheth版(0/1-5/6-7) AUC 0.863。低リスクの感度 0.994、高リスクの特異度 0.984

これを見ると、高得点は特異度の道具であって、感度の道具ではないと分かる。逆に低リスク層は感度が 0.98〜0.99 と高く、除外に使えそうに見える。ただしそれは泌尿器科医や訓練を受けた評価者が採点した前向き研究をまとめた値であって、救急医が使った Frohlich の成績とは別物である。

結局どう使うか

  • 高得点(小児5点以上、成人6点以上)は、画像を待たずに泌尿器科を呼ぶ根拠になる
  • 低得点は、除外の根拠にはならない。少なくとも救急医が使ったときの成績はそれを支えていない
  • 中間層は超音波へ

6超音波 ― 血流があっても捻転は否定できない

数字から入る。Kalfa 2007(J Urol 177(1):297-301)は欧州11施設・急性陰嚢症919例の多施設研究である。手術で捻転が確定した208例のうち、精巣内血流が消失していたのは158例(76%)のみだった。

裏を返せば、24%は血流が消失していなかった。EAUガイドラインはこれを「24%が正常または増加した血管化を示した」と記述している。

図4:超音波の見どころ ― 血流ではなく精索

208例手術で確定した精巣捻転血流が消失 158例(76%)血流が消失していない 24%Kalfa 2007(欧州11施設・急性陰嚢症919例)外鼠径輪から入る精索whirlpool signsnail shell 状の腫瘤、径 7〜33 mm精索は外鼠径輪から全長を走査する何を見るかで、感度が変わる精巣内血流の消失感度 76%Kalfa 2007精索の捻れの検出感度 96%/特異度 99%Kalfa 2007whirlpool sign感度 0.73/特異度 0.99McDowall 2018同(新生児を除く)感度 0.92/特異度 0.99McDowall 2018血流があることは、捻転を否定しない捻転の度数から血流の残存を予測することもできない。90度でも消え、720度でも残った症例が報告されている

同じ研究で、高分解能超音波による精索の捻れ(snail shell状の腫瘤、7〜33 mm)は208例中199例(96%)で検出された。他の急性陰嚢症711例では精索は直線状で、特異度は99%だった。

つまりこの研究の主張は

血流を見るのをやめて、精索を見ろ、ということである。

EAUガイドラインの書き方はもっと直接的で、Of key importance, persistent arterial flow does not exclude testicular torsion. そして A comparison with the other side should always be done. と続く。

whirlpool sign の診断精度

McDowall 2018(Emerg Radiol 25(3):281-292)のシステマティックレビュー・メタ解析。723例、捻転226例(31.3%)。

全対象 感度 0.73(0.65-0.79)/特異度 0.99(0.92-0.99)
新生児を除外 感度 0.92(0.70-0.98)/特異度 0.99(0.95-1.00)

異質性は大きい(I² 88.27%)。著者らの結論は「小児・成人では確定的な所見となりうるが、新生児では役割が限られる」である。なおEAUは高分解能超音波による精索捻れの直接描出について、感度97.3%・特異度99%という値を挙げている。

特異度0.99というのは、見えたら捻転と考えてよいということである。感度0.73(新生児を除けば0.92)というのは、見えなくても否定できないということである。

撮り方の話

ACR-AIUM-SPR-SRUの実施基準と、小児放射線科からの総説(Bandarkar & Blask 2018)を合わせると、手技の要点は次になる。

  • 12 MHz以上のリニアプローブ
  • 健側と患側を、デュアル画面で並べて同一設定で比較する
  • カラードプラのパラメータは、まず健側で最適化してから患側に移る
  • 低流速検出設定(PRFを下げる)を使う
  • 動脈血流と静脈血流の両方を記録する
  • 精索を、外鼠径輪から陰嚢内まで全長にわたって走査する

「まず健側で設定を合わせる」が実務的に一番効く

患側から始めて血流が拾えなかったとき、それが病気なのか設定なのかが分からなくなる。

power Dopplerはカラードプラより精巣内血流の検出感度がわずかに高い(小児68精巣で97% vs 88%、Barth & Shortliffe 1997)。併用すると100%だった。

数値で書けないところは、正直に書いておく

「PRFを何Hzにするか」「wall filterをどの段階にするか」を数値で示した査読論文は見つけられなかった。実施基準も “low-flow detection settings” という定性的な記載にとどまる。ここは原理で書くしかない領域である。

捻転の度数から血流を予測することはできない

思春期男児81例の検討(Howe 2017)では、救済された精巣の捻転度は平均375度(90〜1,800度)、救済されなかった精巣は平均529度(180〜1,080度)。著者らは「360〜540度のどこかに、動脈血流が有意に閉塞する点がある」としている。

一方で、実際に血流が保たれていた症例の内訳を見ると、90度が2例、180度が2例、360度が1例、540度が2例(Xu 2022、捻転57例中7例)。別の報告では、720度捻転していたのに血流は良好で、術中にも虚血所見がなかった症例がある(Scheier 2024)。

したがって「軽い捻転だから血流が残った」とは言えない。度数と血流残存の関係は単調ではない。

画像で手術を遅らせない

EAUガイドライン(強い推奨)

Base the clinical diagnosis on physical examination. The use of Doppler US to evaluate acute scrotum is useful, but this should not delay the intervention.

Perform urgent surgical exploration in all cases of testicular torsion as soon as possible.

AUAの医学生向けカリキュラムの表現も同じ方向である。Imaging studies should complement, but not replace, sound clinical judgment.

なお、シンチグラフィと造影MRIは、ACR Appropriateness Criteria 2024でいずれも Usually Not Appropriate に分類されている。EAUの急性陰嚢症の章はこの2つに一切言及していない。時間がかかるモダリティを議論すること自体が、この疾患では選択肢から外れている。

7用手整復 ―「開く方向」は半分近く外れる

教科書は「open book」と教える。右精巣なら反時計回り、左精巣なら時計回りに、外側へ開く。これが正しいのは、内側回旋が多数派だからである。

だが「多数派」の中身を見ると、話は微妙になる。

Sessions 2003
200例中、回旋方向が判明した162例
内側回旋 108例(67%)/外側回旋 54例(33%)
Yecies 2018
104例中、方向の記録がある81例
外側回旋 38例(46%)

Yeciesらは方向を予測する因子を探したが、同定できなかった

結論の逐語はこうである。Testicular rotation occurs in a lateral direction in 46% of cases. Lateral manual detorsion should be performed only with awareness of the potential for increasing the degree of testicular rotation.

つまり、機械的に「open book」を回すと、3〜4割強の症例で捻転を悪化させる

だから実務では、方向を先に決めるのではなく、反応で決める

  • 回してみて、痛みが軽くなり、ドプラで血流が戻れば、その方向で続ける
  • 痛みが増悪するか血流が戻らなければ、逆方向を試す

EAUガイドラインの書き方も同じである。It should initially be done by outwards rotation of the testis unless the pain increases or if there is obvious resistance.「まず外側へ。ただし痛みが増すか明らかな抵抗があればその限りではない」。

整復が成功しても、手術はなくならない

Sessions 2003 整復を試みた53例中17例(32%)に、手術時に残存捻転
Dias Filho 2022 残存捻転 29%
Vasconcelos-Castro 2020 試行58例中、臨床的成功15例(26%)、手術時の残存索捻転16例(27.5%)

なお Vasconcelos-Castro の27.5%は、分母を試行58例として読んだ値である(16/58=27.6%)。原著本文が「不成功例のうち」としている可能性は、今回排除できていない。

3つの研究がそろって約3割である。用手整復は手術の代替ではなく、手術までの虚血時間を短くする手段である。EAUも「手術を待つ間にERで試みてよいが、手術を遅らせてはならない」と書いている。

8精巣捻転でなかったとき ― 鑑別を年齢で並べる

図5:急性陰嚢症の鑑別 ― 緊急度と好発年齢

① 時間で結果が変わる ― まずこの2つを否定しにいく精巣捻転 発症は10〜14歳がピーク、精巣を失う率は0〜4歳が最も高いFournier壊疽 糖尿病・免疫抑制・肥満が背景② 手術になりうる ― 拾い忘れると精巣を失う新生児捻転鼠径ヘルニア嵌頓精巣外傷・精巣破裂(白膜の途絶/実質の不均一/輪郭の異常)そして「痛みが引いても硬結が残る」なら精巣腫瘍を思い出す③ 保存的に管理できる ― ただし①②を否定してから精巣付属器捻転(7〜12歳、小児の急性陰嚢症の約半数)精巣上体炎(思春期前・感染後)精巣上体炎(性活動期・性感染症)IgA血管炎特発性陰嚢浮腫外傷後の血腫・単純な陰嚢水腫新生児乳幼児学童思春期成人横軸は好発年齢のおおよその位置。縦軸は緊急度

精巣付属器捻転

小児の急性陰嚢症で最も多い。19歳以下238例のコホートで46%(精巣上体炎35%、精巣捻転16%)とされる。好発は7〜12歳だが、精巣捻転より年齢の幅は広い。

blue dot sign(陰嚢上極の青黒い点)は、EAUが「付属器捻転患者の10〜23%にしか見られなかった」とし、StatPearlsは感度約21%(報告幅0〜52%)としている。つまりないほうが多い。しかも精巣捻転で偽陽性となった報告がある。

旧記事の「精巣上体垂34%」を訂正します

これは有病率の話と混同していました。精巣垂(Morgagni水滴)が精巣の76〜83%に存在し、精巣上体垂は22〜28%、が正しい数字です。

治療は保存的でよい。安静、挙上、冷罨法、NSAIDs。疼痛と腫脹は通常1週間以内に軽快し、10〜14日で完全に消える。EAUの推奨(Strong)は Manage torsion of the appendix testis conservatively. Perform surgical exploration in equivocal cases and in patients with persistent pain. ―「保存的に管理せよ。ただし判断に迷う例と、疼痛が遷延する例では手術的に精査せよ」である。

精巣上体炎 ― 年齢で起因菌がまったく違う

思春期前。細菌もウイルスも検出率が低い。2〜14歳の男児44名の前向き研究(Somekh 2004)では、咽頭・尿・便からの病原体検出は20.4%のみ。一方で次のような抗体上昇が見られた。

Mycoplasma pneumoniae 53%(対照20%)
エンテロウイルス 62.5%(対照10%)
アデノウイルス 20%(対照0%)

著者らは「感染後の炎症現象」と結論している。大半が1〜7日で鎮痛薬のみで軽快し、抗菌薬の上乗せ効果は乏しかった。

EAUの記載

思春期前男児では病因は通常不明で、尿培養は通常陰性。性感染症は非常に稀。尿検査・尿培養で細菌感染が示されない限り、多くの症例で抗菌薬は適応にならない。

ただし基礎に泌尿生殖器の形態異常がある割合が29.1%という報告があり、反復例では画像評価が要る。

性活動期以降。CDCのSTI治療ガイドラインは、かつての「35歳未満/以上」という年齢区分ではなく、起因菌と性行為様式による分類で書かれている(2015年版ですでにこの形で、2021年版はセフトリアキソンを250 mgから500 mgに増量した)。

クラミジアまたは淋菌が最も疑われる場合 セフトリアキソン 500 mg 筋注 単回 + ドキシサイクリン 100 mg 1日2回 10日間
クラミジア・淋菌・腸内細菌のいずれもありうる場合
(挿入側の肛門性交あり)
セフトリアキソン 500 mg 筋注 単回 + レボフロキサシン 500 mg 1日1回 10日間
腸内細菌のみが疑われる場合 レボフロキサシン 500 mg 1日1回 10日間

体重150 kg以上ではセフトリアキソン 1 g。

ここが日本の実務で最も外しやすい

レボフロキサシン単剤で済ませてよいのは、淋菌がグラム染色などで否定され、腸内細菌のみが疑われる場合に限られる。前立腺生検後、精管切除後、尿路への器具操作後などが該当する。

日本の淋菌はキノロン耐性率が高い。関東地方の2017〜2023年のサーベイランス(349株、Kanesaka 2026)では、シプロフロキサシン耐性率は年により 70〜100% で推移していた。著者らは「現在の感受性率は、淋菌感染症の経験的治療にシプロフロキサシンを用いることを正当化しない」と結論している。

若年男性の精巣上体炎にレボフロキサシン単剤を出すのは、淋菌に無治療を選ぶのとほぼ同じである。

CDC 2021は、発症前60日以内の全性的パートナーの評価・検査・推定治療も求めている。また「3日以内に症状が改善しなければ診断と治療を見直せ」「抗菌薬終了後も腫脹・圧痛が残るなら、腫瘍・膿瘍・梗塞・精巣癌・結核・真菌性精巣上体炎を評価せよ」と書いている。補助療法は安静、陰嚢挙上、NSAIDs。

鼠径ヘルニア嵌頓

乳児の陰嚢腫脹+不機嫌では、鼠径部を必ず触る。ヘルニア手術785件の検討では、嵌頓が44例(5.9%)、そのうち還納困難が16例(36.3%)で、その16例中9例(56.2%)に精巣虚血を認めた(Özdamar 2017)。保存的管理とドプラ追跡で萎縮に至ったのは9例中2例(22.2%)である。捻転がなくても、絞扼で精巣が虚血に陥る。

IgA血管炎(Henoch-Schönlein紫斑病)

男児のIgA血管炎150例のうち、陰嚢病変は28例(18.7%)。診断時年齢の中央値は4.0歳。そして28例中27例(96%)は病初期に出現していた(Buscatti 2018)。文献上の報告幅は2〜32%。

つまり、紫斑より先に陰嚢症状が出ることがある。陰嚢痛の男児では下肢の皮疹と関節痛を確認する。

特発性陰嚢浮腫

システマティックレビュー(Santi 2017、37研究)では、急性陰嚢症3,403例中413例(12%)。好発は5〜8歳で、10歳未満が大半を占める。2〜3日で自然軽快する良性疾患で、約10%が再発する。超音波の fountain sign(陰嚢皮下組織の血流増加が噴水状に見える)が特徴的である。

両側性の割合は、文献が割れている

Santi 2017(311例)は両側性が約2/3、片側性が約1/3としている。一方で「約1/3が両側性」と書いている総説もある。

この記事ではシステマティックレビューのほうを採るが、断定できるほど揃っていない。

「痛みの割に精巣そのものは触れて痛くない」「発赤が陰嚢の皮膚全体に及ぶ」というのが臨床像だが、これだけで捻転を否定はできない。

精巣外傷・精巣破裂

超音波所見は3つ。白膜の連続性の途絶、精巣実質のエコー不均一、精巣輪郭の異常。

Buckley 2006(n=65) 感度100%/特異度93.5%
Guichard 2008(n=33) 感度100%/特異度65%

AUA Urotrauma Guidelineは、鈍的陰嚢外傷で破裂を示唆する所見があれば超音波を、破裂が疑われれば陰嚢内精査とデブリドマン+白膜縫合(不能なら精巣摘除)を求めている。鈍的外傷で受診した症例の50%に白膜破裂があり、穿通性外傷では50%超が破裂を伴う。

「72時間以内なら温存率90%超」の出典について

広く引用されている数字ですが、原典(Cass & Luxenberg 1991)の数値そのものは今回確認できませんでした。方向性は確かですが、二次引用である点を書き添えておきます。

新生児(周産期)精巣捻転

思春期以降の鞘膜内捻転とは別物で、大半が鞘膜外捻転である。EAUは「大半は出生前に起こる」と書いている(「70%が出生前、30%が出生後」という数字が広く流布しているが、一次文献を特定できなかった)。両側性は全周産期例の11〜21%である。

救済率は低い。手術例268例のシステマティックレビューで全体8.96%、緊急手術と明記された群でも最大21.7%(Nandi 2011)。

それでも同じ論文は緊急手術+対側固定を推奨している

理由は、両側捻転が片側の所見だけで現れることがあるからである。EAUも新生児捻転では対側の精巣固定術を行うことを推奨している(Weak)。

精巣腫瘍

急性発症で受診することがある。「精巣腫瘍の何%が急性陰嚢症として発症するか」という分母のあるデータは今回見つけられなかった。実務上は、抗菌薬を終えても腫脹が引かない例、疼痛が引いた後も硬結が残る例で思い出す診断である。

9Fournier壊疽 ― もうひとつの、時間で結果が変わる診断

会陰・肛門周囲・外性器の壊死性軟部組織感染症である。糖尿病、アルコール多飲、免疫抑制、肥満、局所の外傷や手術が背景にある。

拾い方は、他の壊死性軟部組織感染症と同じである。

  • 所見に不釣り合いな強い痛み(pain out of proportion)
  • 皮膚所見が追いついていない時期がある
  • 急速に進行する
  • 全身状態が局所所見より悪い

身体所見の診断能は、メタ解析(Fernando 2019, Ann Surg 269(1):58-65)で次のとおりだった。

所見 感度 特異度
発熱 46.0% 77.0%
出血性水疱 25.2% 95.8%
低血圧 21.0% 97.7%

いずれも感度が低い。あれば強いが、なくても否定できない典型である。

LRINEC scoreを除外に使ってはいけない

LRINEC 感度 特異度 LR+ LR−
≥6点 68.2% 84.8% 4.49 0.38
≥8点 40.8% 94.9% 7.94 0.62

LR− 0.38 は、除外の道具として使うには弱すぎる

6点未満で否定すると、3人に1人を見逃す計算になる。

原著の結論も同じ方向である。Given the poor sensitivity of these tests, a high clinical suspicion warrants early surgical consultation for definitive diagnosis and management.

Fournier壊疽に特化したレビュー(Bowen 2024)はもっと踏み込んでいる。LRINECはそもそも壊死性筋膜炎一般のために開発されたスコアであり、Fournier壊疽の診断への応用を検討した研究は publish されていないと明記している。死亡や人工呼吸の必要性を予測しうるという症例研究があるだけである。

CTは補助になる

CT(筋膜内ガス) 感度 88.5%/特異度 93.3%
単純X線 感度 48.9%/特異度 94.0%
MRI 研究数不足で統合できなかった

CTは「疑ったときに補強する」検査であって、CTが陰性だから手術をやめる、という使い方をする検査ではない

10やりがちな失敗

1 「6時間を過ぎているから、もう手遅れ」と判断する 24〜48時間で24.4%、48時間超で7.4%が救済されている。時間は手術を諦める理由にならない。
2 ドプラで血流が見えたので捻転を否定する 手術確定捻転208例中、血流が消失していたのは76%だけ。血流ではなく精索の捻れ(whirlpool sign)を見にいく。
3 患側から超音波を当て始める 健側で設定を合わせてから患側へ。左右をデュアル画面で並べる。
4 TWISTの低得点を除外に使う 小児救急医が使った研究では、7点での感度は21%だった。高得点は「呼ぶ根拠」になるが、低得点は「帰す根拠」にならない。
5 Prehn徴候を逆に覚えている、あるいは除外に使う 挙上で軽快=精巣上体炎の示唆。ただし捻転は除外できない。
6 精巣挙筋反射があるから捻転ではない、とする 捻転でも残る例がある。30か月未満では正常でも出ないことがある。
7 男児の腹痛で陰嚢を診ない 訴訟例の31%が腹痛を主訴に受診していた。
8 乳幼児の不機嫌・嘔吐でオムツを開けない 日本のデータでは0〜4歳の摘除率が20.22%と突出している。
9 若年男性の精巣上体炎にレボフロキサシン単剤を出す 関東地方のサーベイランスでシプロフロキサシン耐性率は70〜100%。CDC 2021はセフトリアキソン 500 mg 筋注+ドキシサイクリン10日間。
10 思春期前の男児の精巣上体炎に反射的に抗菌薬を出す 尿検査・尿培養が陰性なら、多くは感染後の炎症で自然軽快する。
11 用手整復を「open book」で機械的に回す 46%は外側回旋であり、逆に回すと悪化する。反応を見て方向を決める。
12 用手整復が成功したので手術を取り下げる 約3割に残存捻転が残る。整復は時間稼ぎであって代替ではない。
13 LRINEC 6点未満でFournier壊疽を否定する 感度68.2%、LR− 0.38。除外には使えない。
14 陰嚢痛の男児で下肢の皮疹を見ない IgA血管炎では96%の陰嚢病変が病初期に出る。紫斑より先に出ることがある。
15 乳児の陰嚢腫脹で鼠径部を触らない 嵌頓ヘルニアは、捻転がなくても精巣を虚血にする。

11早見表とTake home

段階 やること
最初の30秒 発症様式(突然か)、発症からの時間、悪心・嘔吐、外傷歴、性行為歴
診察 高位・横位精巣、精巣挙筋反射、Prehn、鼠径部、下肢の皮疹、会陰の視診
ここで呼ぶ TWIST高得点(小児5点以上/成人6点以上)→ 画像を待たず泌尿器科
超音波 健側で設定 → デュアル画面 → 精索を全長走査 → whirlpool signを探す
血流が残っていても 捻転を否定しない(手術確定捻転の24%)
用手整復 手術を待つ間に。反応で方向を決める。成功しても手術は要る
見落としやすい Fournier壊疽(pain out of proportion、会陰まで視診)、嵌頓ヘルニア
抗菌薬 思春期前は多くが不要。性活動期はセフトリアキソン500 mg 筋注+ドキシサイクリン10日間(挿入側の肛門性交ありならレボフロキサシン併用)

Take home

  1. 「6時間」は諦める数字ではない。48時間を超えてなお7.4%が救済されている
  2. 血流があっても捻転は否定できない。血流消失は捻転の76%にしか見られない。見るべきは精索の捻れである
  3. TWISTは「呼ぶための道具」であって「帰すための道具」ではない。誰が使うかで感度が21%まで落ちる
  4. 用手整復の方向は、教科書ではなく患者の反応で決める。46%は外側回旋である
  5. 整復が成功しても、約3割に残存捻転がある。手術の代替にはならない
  6. 精巣上体炎の抗菌薬は年齢と性行為歴で決まる。思春期前は多くが不要、性活動期にレボフロキサシン単剤は淋菌を外す
  7. 会陰まで視診する。Fournier壊疽はLRINECでは除外できない
  8. 男児の腹痛では陰嚢を診る。乳幼児の不機嫌ではオムツを開ける
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