循環器

心不全advanced②ー肥大型心筋症/心アミロイドーシス

心エコーで左室壁が厚い。肥大型心筋症かなぁ、で止まらないために。

本記事は、2025年改訂版「心不全診療ガイドライン」(日本循環器学会/日本心不全学会合同)の第9章 特別な病態・疾患から、左室肥厚をきたす疾患群を扱う。骨シンチグラフィが診断目的で保険収載され、疾患修飾療法が出そろったことで、心アミロイドーシスは「希少疾患」から「診断されるべき疾患」に移った。ガイドラインも診断数の増加を明記している。

この章の実務上の要点は、鑑別のための血液検査が推奨クラス付きで指定されていることにある。肥厚を見たら反射的に走らせるべき検査が決まっている、という設計になっている。

この記事でわかること

  • 肥大型心筋症の診断では、二次性心筋症の否定そのものが診断経路に組み込まれていること
  • 肥厚を見たときに走らせるべき血液検査(ファブリー病・ALアミロイドーシス)がクラスIであること
  • 心アミロイドーシスのRed-flag所見に、整形外科的な既往が含まれていること
  • 診断は「骨シンチ」と「M蛋白」の2軸を組み合わせること、DefiniteとProbableの違い
  • ATTRの疾患修飾療法(タファミジス・アコラミジス・ブトリシラン)と、1つある保険適用外
  • 心アミロイドーシスにGDMTの予後改善効果が確立していない理由
  • 心臓サルコイドーシスで、完全房室ブロックとVT/VFが別の機序から来ていること

1肥大型心筋症の定義と表現型

肥大型心筋症(HCM)は「①左室ないしは右室心筋の肥大と、②心肥大に基づく左室拡張能低下を特徴とする疾患群」と定義される。心エコー検査もしくは心血管MRI検査(CMR)で、最大左室壁厚15 mm以上(肥大型心筋症の家族歴がある場合は13 mm以上)を認める場合に本症を疑う。

図1:左室肥厚をみたときの鑑別の流れ

心エコーまたはCMRで最大左室壁厚15 mm以上(肥大型心筋症の家族歴があれば13 mm以上)肥大型心筋症を疑う二次性心筋症の否定が、診断の一部になっている3つの診断経路のうち2つが「二次性心筋症が否定されている場合」を条件にしているファブリー病男性患者はα-galactosidase活性を測定(クラスI・B-NR)ALアミロイドーシス血清免疫グロブリン/血清・尿免疫固定法/FLC(I・B-NR)ATTRアミロイドーシス骨シンチ 99mTc-PYP/HMDP(I・B-NR)心臓サルコイドーシス房室ブロックやVT/VFを伴えば本症も鑑別に入れるアミロイドーシスは「骨シンチ」と「M蛋白」を組み合わせて評価する骨シンチだけではALを取りこぼす。M蛋白はFLC・血清免疫固定法・尿免疫固定法の3点第9章1節・2節と推奨表55・推奨表57をもとに著者作成の判断フロー

「疑う」から「診断する」までに何が要るか

ガイドラインは、疑ったあとの診断を3つの経路で書いている。①サルコメア関連遺伝子などに病因変異が同定されている場合(Sarcomeric HCM)、②病因変異が同定されないが、二次性心筋症が否定されている場合(Sarcomere-negative HCM)、③遺伝子検査は施行できていないが、二次性心筋症が否定されている場合。3経路のうち2つが「二次性心筋症の否定」を条件にしている。つまり鑑別作業を飛ばすと、そもそも診断が完成しない構造になっている。

表39:肥大型心筋症の表現型の分類

分類 定義
閉塞性(HOCM, basal obstruction) 安静時に30 mmHg以上の左室流出路圧較差を認める
閉塞性(labile/provocable) 安静時の圧較差は30 mmHg未満だが、運動などの生理的な誘発で30 mmHg以上の圧較差を認める
非閉塞性(non-obstructive HCM) 安静時および誘発時に30 mmHg以上の圧較差を認めない
心室中部閉塞性(MVO) 肥大に伴う心室中部での30 mmHg以上の圧較差を認める
心尖部肥大型(apical HCM) 心尖部に限局して肥大を認める
拡張相肥大型(D-HCM) 経過中に肥大した心室壁厚が減少・菲薄化し、心室内腔の拡大を伴う左室収縮力低下(LVEF 50%未満)をきたし、拡張型心筋症様の病態を呈する

拡張相肥大型という呼び方

経過中にLVEF 50%未満の収縮不全を認める状態を、わが国では拡張相肥大型心筋症(dilated phase of HCM)と呼んできた。ただし収縮不全はあるが左室拡張を認めない症例もあり、諸外国ではEnd-stage HCMBurned-out phase of HCMという用語が使われることも多い、とガイドラインは補足している。

2鑑別の血液検査はクラスIで指定されている

ここがこの章のいちばん実務的な部分である。ガイドラインは、肥大型心筋症の臨床的評価としてどの血液検査を行うかを、推奨クラス付きで指定している。

推奨表55:肥大型心筋症における血液検査による臨床的評価

推奨 クラス レベル
病態の把握や鑑別診断のためのルーチン採血/検尿検査を行う I B-NR
鑑別として、男性患者においてファブリー病診断のためα-galactosidase活性の測定を行う I B-NR
鑑別として、ALアミロイドーシス診断のための血清免疫グロブリン、血清および尿免疫固定法(または電気泳動)、血清遊離軽鎖(FLC)の測定を行う I B-NR
鑑別として、アミロイドーシス診断補助のための高感度トロポニンの測定を考慮する* IIa B-NR
全死亡の予測や治療のモニタリングとしてのBNP/NT-proBNPの測定を考慮する IIa B-NR

*高感度トロポニンは、アミロイドーシスの補助診断や肥大型心筋症の予後の推測という目的では保険適用外

「肥厚を見たら3セット」と覚える

クラスIは3項目。ルーチン採血・検尿に加えて、鑑別のための検査が2つ――男性ならα-galactosidase活性、そしてALのための免疫グロブリン・免疫固定法・FLCである。ファブリー病もALアミロイドーシスも、放置すれば進行するが治療の手立てがある疾患である。「肥大型心筋症らしい」と思った時点でこの3セットを走らせる、という運用に落とすと漏れにくい。なお高感度トロポニン(IIa・B-NR)は、アミロイドーシスの補助診断や肥大型心筋症の予後推測という目的では保険適用外である点に注意が要る。

3心アミロイドーシスのRed-flag

心アミロイドーシスは、心臓の間質にアミロイド線維が沈着し、形態的かつ/または機能的な異常をきたす疾患群である。主要な病型は免疫グロブリン軽鎖(AL)アミロイドーシストランスサイレチン(ATTR)アミロイドーシス

ガイドラインは診断の前提として、心アミロイドーシスを疑うRed-flag所見を理解することを挙げている。

図2:心アミロイドーシスを疑うRed-flag所見

整形外科の既往手根管症候群脊柱管狭窄症心電図低電位前胸部誘導のR波増高不良心エコー左室肥大を伴う高齢の心不全弁膜症大動脈弁狭窄症循環器のカルテだけを見ていると、いちばん左は拾えない第9章2.2に挙げられているRed-flag所見をもとに作成

整形外科的な既往がRed-flagに入っている

手根管症候群と脊柱管狭窄症の既往が並んでいる点に注目したい。いずれもアミロイド沈着による症状が心症状より先行して出ることがあるためだが、循環器のカルテだけを見ていると拾えない情報である。「手根管症候群の手術歴」は、患者にとっては心臓と関係のある話だと思われていないことも多い。問診で取りにいく必要がある。

診断数は増えている

心アミロイドーシス診療ガイドライン(2020年版)の発表以降、診断目的としての骨シンチグラフィが保険収載され、新たな疾患修飾療法の有効性が報告された。画像診断法の進歩と疾患修飾療法の出現、疾患概念の認知とともに、希少疾患とされてきた心アミロイドーシスの診断数が増加している、とガイドラインは書いている。「めったにない病気」という前提を更新する必要がある。

4診断は「骨シンチ」と「M蛋白」の2軸

Red-flagを理解したうえで、「骨シンチ(99mTcピロリン酸またはHMDP)による評価」「M蛋白の評価」を組み合わせることが重要、というのがガイドラインの書き方である。

M蛋白の評価は3点セット

ガイドラインが「M蛋白の評価」として括弧内に列挙しているのは、①遊離軽鎖測定(free light-chain, FLC)、②血清免疫固定法、③尿免疫固定法の3つである。なお推奨表55のクラスI項目は、これに血清免疫グロブリンを加えた形で書かれており(「血清免疫グロブリン、血清および尿免疫固定法(または電気泳動)、血清遊離軽鎖(FLC)の測定」)、両者は完全に同じ並びではない。オーダーする側としては、推奨表55のほうを基準にしておけば取りこぼしがない。骨シンチだけで済ませるとALを取りこぼす。骨シンチグラフィ自体は、心不全の原因としてATTR心アミロイドーシスが疑われる場合にクラスI・B-NRで推奨されている。

DefiniteとProbable

アミロイドーシスの診断基準には2段階がある。Definite診断は、生検組織でアミロイド沈着を同定し、免疫組織染色にてALあるいはTTRのアミロイドタイピングを確認したもの。Probable診断は、生検組織以外の骨シンチ、M蛋白の評価を組み合わせたもの。生検を経ずに到達できる診断カテゴリが定義されている、というのが実務上の意味になる。

5ATTRは遺伝性か野生型か

ATTRアミロイドーシスは、前駆蛋白TTRをコードする遺伝子に変異がある遺伝性ATTR(ATTRv)と、遺伝子変異を伴わない野生型ATTR(ATTRwt)に分類される。鑑別のためにTTR遺伝子検査を実施する。

「高齢だから野生型」「非集積地だから遺伝性ではない」は危ない

高齢ATTRアミロイドーシス患者の多くは野生型である。ただしガイドラインは続けてこう書いている。特定の集積地(熊本県、長野県)から報告されてきた末梢神経障害を主徴とする若年発症の遺伝性(Val30Met変異)に加えて、50歳以上で発症する高齢発症の遺伝性が非集積地にも存在することが報告され、孤発例も多く注意が必要である。年齢と地域で遺伝性を除外できない、ということである。遺伝学的検査は、血縁者への早期診断・早期治療介入につながる可能性の観点からも重要とされている。

6治療薬は出そろった。ただし1つ保険適用外

ATTR心アミロイドーシスの疾患修飾療法は、TTR四量体安定化薬と低分子干渉RNA製剤の2系統がある。

表40:心アミロイドーシスの疾患修飾療法(心症状に対して)

病型 疾患修飾療法
遺伝性ATTR タファミジス内服(ビンダケル 80 mg/ビンマック 61 mg)/アコラミジス(ビヨントラ 1回800 mgを1日2回)/ブトリシラン皮下注(アムヴトラ)*
野生型ATTR タファミジス内服(ビンダケル 80 mg/ビンマック 61 mg)/アコラミジス(ビヨントラ 1回800 mgを1日2回)/ブトリシラン皮下注(アムヴトラ)*
AL Dara-CyBorD(ダラツムマブ皮下注併用)

*ブトリシランの適応症はトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーであり、ATTR心アミロイドーシスに関しては日本では保険適用外(2025年3月時点)

推奨表57:ATTR心アミロイドーシスの治療

推奨 クラス レベル
心不全の原因としてATTR心アミロイドーシスが疑われる場合に骨シンチグラフィ(99mTc-PYP, HMDP)を行う I B-NR
NYHA I/II度のATTR心アミロイドーシス患者(遺伝性・野生型ともに)に対して、TTR四量体安定化薬(タファミジスまたはアコラミジス)を投与する I A
NYHA III度の患者(遺伝性・野生型ともに)に対して、TTR四量体安定化薬の投与を考慮する IIa B-R
NYHA I〜III度の患者(遺伝性・野生型ともに)に対して、低分子干渉RNA製剤(ブトリシラン)の投与を考慮する* IIa B-R

*同上。ATTR心アミロイドーシスに関しては保険適用外(2025年3月時点)

推奨クラスIIaが付いた薬が保険適用外

ブトリシラン(アムヴトラ)は、ATTR心アミロイドーシス655例(遺伝性12%、野生型88%)を対象としたHELIOS-B試験で、主要評価項目である36ヵ月間の全死亡・心血管事象に関連する入院頻度で有意な抑制効果が報告され、副次評価項目の全死亡単独でも有効性を認めた。それを受けて推奨クラスIIa・B-Rが付いている。しかし適応症はトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーであり、ATTR心アミロイドーシスに対しては2025年3月時点で保険適用外である。ガイドラインは表40と推奨表57の両方に注釈を付けてこれを明示している。

タファミジスとアコラミジスの根拠

タファミジスはATTR-ACT試験で有効性が示された。ただしサブグループ解析ではNYHA III度の患者で心血管事象関連による入院への有効性は確認できなかった(延長試験では有効性が示唆されている)。推奨がNYHA I/IIでクラスI・A、NYHA IIIでIIa・B-Rと分かれているのはこの経緯による。アコラミジスはATTRibute-CM試験で、全死亡・心血管事象関連入院頻度・NT-proBNP変化・6分間歩行距離変化を組み合わせた階層的主要評価項目で有意な心血管イベント抑制効果が報告されている。

ALの治療

AL アミロイドーシスでは、全身性ALアミロイドーシスに対するヒト型抗CD38モノクローナル抗体ダラツムマブ皮下注射製剤の、CyBorD(シクロフォスファミド・ボルテゾミブ・デキサメタゾン)療法への上乗せ効果を検討した第3相試験(ANDROMEDA)で、Dara-CyBorD群に高い血液学的完全奏功と臓器効果(心・腎ともに)が示され、2021年8月にDara-CyBorD療法が認可された。ALは血液内科との連携が前提になる。

7心不全の標準治療をそのまま当てはめてよいか

ここは短いが、この記事でいちばん実務に効く一文かもしれない。

GDMTのRCTから、心アミロイドーシス患者は除外されている

ガイドラインは明記している。心不全標準治療薬の無作為化比較試験では既知の心アミロイドーシス患者は除外されており、左室駆出率にかかわらず、心アミロイドーシス患者に対するSGLT2阻害薬やARNIを含めたGDMTによる予後改善効果は定かではない。「心不全だからGDMT」という反射が、この疾患では素直に効かない。

疾患修飾療法とともに、支持療法として心不全管理・不整脈管理・血栓管理が重要という位置づけになっている。GDMTを漫然と最適化することより、病型を確定して疾患修飾療法にたどり着くことのほうが先にある、という順序で考えたい。

8心臓サルコイドーシス

左室肥厚の鑑別として並ぶもう1つが心臓サルコイドーシスである。臨床像は、左室機能障害による心不全、高度房室ブロック、致死性心室性不整脈(VT/VF)による心臓突然死に特徴づけられる。

房室ブロックとVT/VFは別の機序から来ている

ガイドラインは機序を分けて書いている。完全房室ブロックは肉芽腫炎症、VT/VFは組織線維化による瘢痕形成に起因することが多い(炎症が直接関連する可能性も示唆されている)。炎症が主体なのか瘢痕が主体なのかで、ステロイドに期待できるものが変わってくる。近年の疫学調査では、主要有害事象のなかでもVT/VFや突然死の発生率が高いことが明らかになっており、一次予防ICD植込み例の検討でも、拡張型心筋症と比較してVT/VFが多いとされる。

診断の難しさをガイドライン自身が書いている

診断は2016年版の心臓サルコイドーシス診療ガイドラインの診断基準に基づく。ここでガイドラインは、日本の基準が欧米の基準と整合性に欠く部分があることを認めたうえで、組織診断の有無にかかわらず予後に大きな差がないことも報告されており、臨床診断を早期に得ることが重要としている。

心臓限局性は、診断漏れと過剰診断が両方起きている

心臓限局性サルコイドーシスでは、診断主項目のうち67Gaあるいは18F-FDG-PETによる活動性炎症の証明を必須としている。そのため、他の項目をすべて満たし本症である可能性が極めて高いにもかかわらず診断に至らない症例と、他臓器の検索を十分に行うことなく診断に至っている症例が散見される、とガイドライン自身が問題を指摘している。心臓限局性を診断する場合は、他科コンサルトのうえ他臓器の検索を十分行い、他臓器で組織診断が得られない場合は、過剰診断を避けるため心筋生検の施行も考慮することが必要、とされている。

FDG-PETは前処置が要る

18F-FDG-PETは生理的集積を可能なかぎり避ける必要があり、日本心臓核医学会「心臓サルコイドーシスに対する18F-FDG-PET検査の手引き 2018年改訂版」のプロトコルに基づき、心筋への生理的集積を抑制する前処置を行ったうえで実施する。前処置なしの撮像は判定に使えない。

治療

治療の軸はステロイドである。ただしここで見落としたくないのは、推奨表59の最後に置かれた一文で、心不全を合併する症例には一般的な心不全患者と同様の基準でGDMTや心臓再同期療法を行うことがクラスI・Aとされている点である。心アミロイドーシスではGDMTの効果が定かでないという話を前節で書いたが、心臓サルコイドーシスでは扱いが逆で、標準治療をそのまま乗せることが明確に推奨されている。

推奨表59:心臓サルコイドーシスの薬物治療・非薬物治療(抜粋)

推奨 クラス レベル
免疫抑制療法の第一選択として、診断時からステロイドの投与を開始する I B-NR
ステロイド投与開始後は、臨床所見の推移を軸として、画像診断を含めて総合的に判断してステロイドの増量や減量を決定する I C-LD
ステロイドは維持量を長期にわたり継続することを考慮する IIa C-LD
ステロイドの効果が不十分な症例や、副作用で使用できない・増量できない症例に、単独あるいはステロイドとの併用で少量のメトトレキサートを用いることを考慮する IIa C-EO
心不全を合併する症例では、一般的な心不全患者と同様の基準でGDMTや心臓再同期療法を行う I A

ガイドラインは、18F-FDG-PET陰性例で心筋組織に肉芽腫が証明された報告もあることから、確定診断が得られた段階で、原則全例に対し、禁忌のないかぎり投与を開始すべきとしている。一方で、ステロイド開始後のルーチンでの18F-FDG-PETによる活動性評価の繰り返しは、生存率やQOLの改善とは関連しておらず、むしろ患者に累積されるイオン化放射線の曝露をもたらす可能性があるとも書かれている。

予後

一次予防を目的としたICD植込みによる突然死予防の普及により、日本およびフィンランドの5年生存率は90〜96%、10年生存率は81〜86%と報告されている。

9やりがちな失敗

1左室肥厚を見て「肥大型心筋症」で止める

診断の3経路のうち2つが「二次性心筋症が否定されている場合」を条件にしている。鑑別を飛ばすと診断が完成しない。

2ファブリー病を思い出さない

男性患者におけるα-galactosidase活性の測定はクラスI・B-NR。治療の手立てがある疾患を、測っていないという理由だけで見落とす。

3骨シンチだけで済ませる

アミロイドーシスの評価は「骨シンチ」と「M蛋白(FLC・血清免疫固定法・尿免疫固定法)」の2軸。骨シンチだけではALを取りこぼす。ALの検査もクラスI。

4整形外科的既往を聞かない

手根管症候群と脊柱管狭窄症の既往がRed-flagに入っている。患者は心臓と関係のある話だと思っていないので、こちらから取りにいく。

5高齢だから野生型、非集積地だから遺伝性ではないと考える

50歳以上で発症する高齢発症の遺伝性が非集積地にも存在し、孤発例も多いとガイドラインが明記している。血縁者の早期診断にもつながるためTTR遺伝子検査を行う。

6心アミロイドーシスに反射的にGDMTを当てて満足する

心不全標準治療薬のRCTから既知の心アミロイドーシス患者は除外されており、LVEFにかかわらずGDMTの予後改善効果は定かでない。病型確定と疾患修飾療法が先。

7ブトリシランを心アミロイドーシスに使えると思い込む

推奨クラスIIa・B-Rが付いているが、適応症はトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーで、ATTR心アミロイドーシスには2025年3月時点で保険適用外。

8心臓限局性サルコイドーシスを他臓器検索なしに診断する

過剰診断を避けるため、他科コンサルトのうえ他臓器の検索を十分に行い、組織診断が得られない場合は心筋生検も考慮する。逆に、FDG-PETが撮れないために診断に至らない例もある。

10早見表とTake home

領域 押さえること
HCMを疑う基準 心エコーまたはCMRで最大左室壁厚15 mm以上(家族歴があれば13 mm以上)。診断の3経路のうち2つが二次性心筋症の否定を条件にしている
肥厚を見たら走らせる検査 ルーチン採血・検尿(I)/男性はα-galactosidase活性=ファブリー病(I)/血清免疫グロブリン・血清尿免疫固定法・FLC=AL(I)/高感度トロポニン(IIa、ただしこの目的では保険適用外)
アミロイドーシスのRed-flag 手根管症候群・脊柱管狭窄症の既往/心電図の低電位・前胸部誘導R波増高不良/左室肥大を伴う高齢心不全/大動脈弁狭窄症
アミロイドーシスの診断 「骨シンチ(99mTc-PYP/HMDP)」と「M蛋白」の2軸。生検+タイピングでDefinite、生検以外の組み合わせでProbable
ATTRの病型 遺伝性(ATTRv)と野生型(ATTRwt)をTTR遺伝子検査で鑑別。高齢発症の遺伝性が非集積地にも存在し孤発例も多い
ATTRの治療 NYHA I/IIでタファミジスまたはアコラミジスがクラスI・A、NYHA IIIでIIa・B-R。ブトリシランはIIa・B-Rだが心アミロイドーシスには保険適用外
GDMTとの関係 心不全標準治療薬のRCTから除外されており、SGLT2阻害薬・ARNIを含むGDMTの予後改善効果は定かでない
心臓サルコイドーシス 完全房室ブロックは肉芽腫炎症、VT/VFは線維化。ステロイドは確定診断時から禁忌のないかぎり原則全例(I・B-NR)。心不全合併例にはGDMT・CRTを通常どおり行う(I・A)。5年生存90〜96%

Take home

  1. 肥大型心筋症の診断は、3つの経路のうち2つが「二次性心筋症が否定されている場合」を条件にしている。鑑別作業を飛ばすと、そもそも診断が完成しない
  2. 肥厚を見たときにクラスIで指定されている血液検査が2つある。男性のα-galactosidase活性(ファブリー病)と、血清免疫グロブリン・血清尿免疫固定法・FLC(ALアミロイドーシス)
  3. 心アミロイドーシスのRed-flagには手根管症候群・脊柱管狭窄症の既往が含まれる。心症状より先行しうるが、循環器のカルテだけでは拾えない
  4. 診断は「骨シンチ」と「M蛋白」の2軸を組み合わせる。骨シンチだけではALを取りこぼす
  5. 高齢だから野生型、非集積地だから遺伝性ではない、とは言えない。50歳以上で発症する高齢発症の遺伝性が非集積地にも存在し、孤発例も多い
  6. ブトリシランは推奨クラスIIa・B-Rが付いているが、適応症がFAPのためATTR心アミロイドーシスには2025年3月時点で保険適用外
  7. 心不全標準治療薬のRCTから心アミロイドーシス患者は除外されている。「心不全だからGDMT」という反射が効かない領域がある
  8. 心臓サルコイドーシスでは完全房室ブロックが肉芽腫炎症、VT/VFが線維化に由来する。ステロイドは確定診断が得られた段階で、禁忌のないかぎり原則全例に開始する

左室が厚いという所見は、それ自体が診断ではなく問いの始まりである。ガイドラインが血液検査に推奨クラスを付けているのは、その問いを個人の記憶力に任せないためだと読める。

参考文献
  • 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン. 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン. 2025年3月28日発行・2025年12月19日更新. 第9章 特別な病態・疾患.
  • 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン. 心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版).
  • 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン. 心アミロイドーシス診療ガイドライン(2020年版).
  • 日本循環器学会. 2016年版 心臓サルコイドーシスの診療ガイドライン.
  • Maurer MS, Schwartz JH, Gundapaneni B, et al. Tafamidis Treatment for Patients with Transthyretin Amyloid Cardiomyopathy(ATTR-ACT試験). N Engl J Med. 2018;379(11):1007-1016.
  • Gillmore JD, Judge DP, Cappelli F, et al. Efficacy and Safety of Acoramidis in Transthyretin Amyloid Cardiomyopathy(ATTRibute-CM試験). N Engl J Med. 2024;390(2):132-142.
  • Fontana M, Berk JL, Gillmore JD, et al. Vutrisiran in Patients with Transthyretin Amyloidosis with Cardiomyopathy(HELIOS-B試験). N Engl J Med. 2025;392(1):33-44.
  • Kastritis E, Palladini G, Minnema MC, et al. Daratumumab-Based Treatment for Immunoglobulin Light-Chain Amyloidosis(ANDROMEDA試験). N Engl J Med. 2021;385(1):46-58.

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