挿管した。さて、設定をどうするか。
研修医が最初に固まるのがここです。モード、一回換気量、呼吸数、PEEP、FiO₂——数字は多いのに、教わるのはたいてい「先生が決めた設定」だけ。
この記事では初期設定 → 見るべき数字 → 患者と合わない時の対処までを、理由込みで通します。ARDS編(駆動圧)と鎮静編の“あいだ”を埋める回です。
この記事でわかること
- 初期設定の決め方(予測体重・PEEP・FiO₂)と、なぜその値か
- 毎日見るべき数字——プラトー圧・駆動圧・auto-PEEP
- 非同調の型と対処、急変時の DOPES
0前提:人工呼吸は時間稼ぎ
この視点が設定のすべてを決めます。数字を正常化しにいくほど、肺を痛める——これが人工呼吸管理のいちばん重要なパラドックスです。
肺を傷つける機序(VILI)は主に3つ。過伸展(volutrauma)、虚脱と再開通の繰り返し(atelectrauma)、そして炎症の全身波及(biotrauma)。設定は、この3つを避けるための妥協点として決めます。
1設定する
① モード:まずはA/C(補助/調節)
急性期の初手はA/Cで構いません。量規定(VCV)でも圧規定(PCV)でも予後の差は示されていないので、自施設で慣れている方を選ぶのが実際的です。
VCVは換気量が保証され、圧が変動する。PCVは圧が保証され、換気量が変動する。どちらを固定してどちらを監視するか、の違いと理解すれば混乱しません。自発呼吸が安定してきたらPSVへ移行し、SBTにつなげます(→鎮静・ウィーニング編)。
② 一回換気量:実体重ではなく予測体重
肺の大きさは身長で決まります。体重が増えても肺は大きくなりません。だから必ず予測体重を使います。
男性:50 + 0.91 ×(身長cm − 152.4)
女性:45.5 + 0.91 ×(身長cm − 152.4)
設定はARDSなら6mL/kg(PBW)、肺傷害がなければ6〜8mL/kgで十分(SSC2026も同様の立場)。実体重で計算すると、肥満患者で致命的な過大換気になります——最も多い初期設定ミスです。
③ 呼吸数:分時換気量とauto-PEEPの綱引き
初期は12〜20回/分あたりから。一回換気量を小さくした分、呼吸数で分時換気量を補います。
ただし上げすぎると呼気時間が足りず、息が吐ききれない(auto-PEEP)。とくに閉塞性疾患(COPD・喘息)では呼吸数を抑え、呼気時間を長く(I:E を 1:3〜1:5)とるのが原則です。「CO₂が高いから呼吸数を上げる」が裏目に出る典型がここ。
④ PEEPとFiO₂:表から始める
初期はPEEP 5前後、FiO₂は1.0から開始して速やかに下げる。目標はSpO₂ 88〜95%程度(PaO₂ 55〜80mmHg)で、100%を目指さないこと。
ARDSではARDSNetのPEEP/FiO₂表を出発点にします。ARDS編で見たとおり、これを上回るPEEP設定戦略は確立していません。表で始め、コンプライアンス・酸素化・血行動態を見て微調整する、が現実解です。
肺を守るために換気量を絞れば、当然CO₂は上がります。pHが保てる範囲(おおむね7.20以上)なら、高CO₂は許容するのが現代の standard。血ガスを正常化するために肺を壊さない。ただし頭蓋内圧上昇、重度の肺高血圧、右心不全では許容できないので、その場合は別の妥協点を探します。
2見る(3つの数字)
設定したら終わりではありません。毎日この3つを確認します。
- プラトー圧 ≦ 30 cmH₂O吸気ポーズをかけて測る、肺胞にかかる圧の代表値。ピーク圧ではないことに注意(ピーク圧は気道抵抗の影響を受ける)。30を超えるなら換気量を下げる。
- 駆動圧(ΔP)= プラトー圧 − PEEP、目安 <15「使える肺の大きさで規格化した換気量」。予後と強く相関する。ただしARDS編のとおり“下げにいく戦略”はまだ勝っていないので、アラームとして使う。
- auto-PEEP(内因性PEEP)呼気ポーズで測る。呼気フロー波形が基線に戻る前に次の吸気が来ていれば疑う。トリガー困難・血圧低下の原因になる。
ピーク圧だけ上がってプラトー圧は変わらない → 気道の問題(分泌物・気管支攣縮・チューブの屈曲や閉塞)。
両方上がっている → 肺・胸郭の問題(気胸・肺水腫・無気肺・腹腔内圧上昇)。
アラームが鳴った時、この2つを見比べるだけで鑑別が半分終わります。
3合わせる(非同調と急変)
非同調:まず「なぜ闘っているか」を問う
患者が呼吸器と闘っている(ファイティング)時、鎮静を足す前に原因を探します。非同調は予後悪化と関連し、しかも多くは設定で解決できます。
ineffective effort(無効努力):患者は吸おうとしているのに送気されない。最多の原因はauto-PEEP(吸うためにまず内因性PEEPを打ち消す必要がある)と深すぎる鎮静。→ 呼気時間を延ばす、外因性PEEPを足してauto-PEEPを相殺、トリガー感度を上げる。
auto-triggering:回路内の水滴や心拍動で誤作動。→ 水抜き、感度調整。
患者の求める流量に器械が追いつかず、圧波形が吸気時にへこむ。息を吸いたいのに吸わせてもらえない状態で、患者はとても苦しい。→ 吸気流量を上げる、流量波形を変える、PCVやPSVへ変更を検討。
double triggering(二段呼吸):器械の吸気時間が患者より短く、1回の努力で2回送気されてしまう。結果として実質的な一回換気量が倍になり、肺傷害につながる。→ 吸気時間を延ばす、換気量・流量の見直し、必要なら鎮静調整。
遅いサイクリング:呼気に移るのが遅く、呼気努力が生じる。→ PSVならサイクルオフ基準(%)を調整。
強い自発呼吸そのものが肺を傷つけうる(patient self-inflicted lung injury)という考え方があります。呼吸ドライブが亢進した患者では、大きな胸腔内陰圧が生じ、局所の過伸展を招く。
だからこそ「非同調=鎮静を増やす」ではなく、まず設定と原因(発熱・アシドーシス・疼痛・不安・低酸素)を潰す。それでも収まらない強いドライブに対しては、鎮静や(重症ARDSでは)筋弛緩の適応を検討します。
急変時:DOPES
Displacement(チューブの位置異常・片肺挿管・抜けかけ)/Obstruction(分泌物・屈曲・閉塞)/Pneumothorax(気胸、とくに緊張性)/Equipment(回路外れ・機器不具合)/Stacking(息が吐けずauto-PEEPが蓄積)。
迷ったら回路を外してバッグ換気に切り替える——器械の問題か患者の問題かが即座に切り分けられ、stackingなら外した瞬間に血圧が戻ります。
初期設定の実際
- 身長からPBWを計算実体重ではない。ここを間違えるとすべてが狂う。
- A/Cで、6〜8mL/kg(ARDSは6)呼吸数12〜20、PEEP 5、FiO₂ 1.0から速やかに漸減。
- 15〜30分後に血ガスと圧を確認プラトー圧≦30、ΔP<15、auto-PEEPの有無。SpO₂は88〜95%狙い。
- 閉塞性なら呼気時間を優先呼吸数を抑え、I:Eを1:3〜1:5に。CO₂は許容する。
- 毎日、抜く算段をする鎮静を浅く保ち、SAT→SBT。人工呼吸は短いほどよい。
=まとめ:一段落で言うと
Take home
人工呼吸器は肺を治さない。壊さずに時間を稼ぐ装置。だから予測体重で6〜8mL/kg、プラトー圧≦30、ΔP<15、SpO₂は88〜95%で満足する。血ガスの正常化を目指して肺を壊さないこと。
患者が闘い始めたら、鎮静を足す前にauto-PEEP・流量不足・吸気時間を疑う。急変したらDOPES、迷えばバッグ換気へ。そして毎日「今日抜けるか」を問う——これが最良の肺保護です。
参考文献
- ARDS Network. Ventilation with Lower Tidal Volumes. NEJM 2000;342:1301.
- Amato MBP, et al. Driving Pressure and Survival in ARDS. NEJM 2015;372:747.
- Brochard L, et al. Mechanical Ventilation to Minimize Progression of Lung Injury(P-SILI). Am J Respir Crit Care Med 2017;195:438.
- Blanch L, et al. Asynchronies during mechanical ventilation and outcomes. Intensive Care Med 2015;41:633.
- Grasselli G, et al. ESICM guidelines on ARDS. Intensive Care Med 2023;49:727.
- Surviving Sepsis Campaign 2026(Respiratory support). Crit Care Med / Intensive Care Med 2026.
