「暴れるのでプロポフォール上げときました」——気持ちは分かりますが、深い鎮静は“休ませている”のではなく、人工呼吸期間・せん妄・死亡を増やす介入です。
この記事は、鎮静を測る → 選ぶ → 抜くの順で整理します。2025年に出たPADISのfocused updateでデクスメデトミジンの位置づけが変わった点も反映しました。
この記事でわかること
- RASS・CAM-ICUの使い方と「浅い鎮静」の目標値
- PADIS 2025の変更点(デクスメデトミジン、抗精神病薬の扱い)
- SAT→SBTの回し方と、抜管を決める視点
0前提:深く眠らせない
かつては大量オピオイド+ベンゾジアゼピンで深く沈める管理が主流でした。しかしその後、深い鎮静は人工呼吸期間・ICU在室日数を延ばし、死亡やPICS(集中治療後症候群)を増やすことが繰り返し示されました。
現在の原則は明快です。鎮静は“少ないほどよい”。ただし痛みは別で、しっかり取る。この非対称性が全体を貫きます。
暴れている患者を見たら、鎮静薬に手を伸ばす前に問うこと——痛くないか。呼吸が苦しくないか。尿が溜まっていないか。低酸素・低血糖・離脱症状は?
不穏の多くは「鎮静不足」ではなく「原因未対応」です。まず鎮痛と原因検索、それでも必要なら鎮静。順番を逆にすると、深い鎮静とせん妄の悪循環に入ります。
1測る(RASS・痛み・せん妄)
「なんとなく落ち着いている」では管理できません。スケールで数値化し、目標を決めて、そこへ合わせるのが基本動作です。
RASS:鎮静深度
| スコア | 状態 | 評価 |
|---|---|---|
| +4 〜 +1 | 好戦的・非常に興奮〜落ち着きがない | 過少鎮静/原因検索を |
| 0 | 意識清明・落ち着いている | 目標域 |
| −1 〜 −2 | 呼びかけで10秒以上/10秒未満の開眼 | 目標域(浅い鎮静) |
| −3 | 呼びかけで動くが開眼せず | やや深い |
| −4 〜 −5 | 身体刺激でのみ反応/無反応 | 深鎮静。適応を要再検討 |
多くの患者で目標は RASS 0 〜 −2。深鎮静(−4〜−5)が正当化されるのは、重症ARDSでの筋弛緩併用、頭蓋内圧管理、難治性の呼吸器非同調、痙攣重積など限られた場面で、しかも「いつ浅くするか」を毎日問い直すことが前提です。評価は最低でも4時間ごと。
痛み:話せない患者をどう測るか
意思疎通できるならNRSで自己申告。できない場合はCPOTやBPSといった行動観察スケールを使います。表情、筋緊張、人工呼吸器との同調——これらが痛みのサインです。バイタル(頻脈・高血圧)だけで痛みを判断しないのがポイント。
せん妄:CAM-ICU
CAM-ICUは①急性発症・変動する経過 + ②注意力低下 +(③意識レベルの変化 or ④思考の混乱)で陽性。RASS −3以上なら評価可能です。
重要なのは、せん妄の多くは“暴れる型”ではなく“低活動型”だということ。静かに寝ているように見える患者こそ見逃されます。だから毎日スケールで拾う必要があります。
2選ぶ(PADIS 2025の変更点)
2025年、SCCMのPADISガイドラインにfocused updateが出ました(Crit Care Med 2025)。研修医が知っておくべき点は3つです。
浅い鎮静やせん妄の低減を優先する場面では、プロポフォールよりデクスメデトミジンを提案(条件付き)。
ただし深い鎮静が必要な場面ではプロポフォール——デクスメデトミジンでは深鎮静に到達しにくいためです。「どちらが優れているか」ではなく「何を優先するか」で選びます。
せん妄の増加、人工呼吸期間の延長と関連。原則として第一選択にしない。例外はアルコール離脱、痙攣など明確な適応がある場合です。
PADIS 2025のタスクフォースは、ICUせん妄の治療に抗精神病薬を「推奨する/しない、いずれの結論も出せなかった」としました。MIND-USA等で在室日数などへの効果が乏しかったためです。
つまり薬で治すのではなく、非薬物的予防が主戦場——見当識づけ、睡眠環境、早期離床、せん妄惹起薬(ベンゾ・抗コリン薬)の見直し。あわせて睡眠にはメラトニン、強化した離床・リハビリが提案されています。
3抜く(SAT → SBT)
鎮静と離脱は一体です。毎朝、鎮静を切って、呼吸を試す——この2つを組み合わせるのが“Wake Up and Breathe”。
SAT(自発覚醒トライアル)とSBT(自発呼吸トライアル)をペアで実施した群は、SBT単独より人工呼吸器装着期間が約3日短く、1年後の生存も改善しました。「起こしてから、吸わせる」——この順番に意味があるということです。
SAT:まず起こす
安全スクリーンを確認してから鎮静を中止します。除外は痙攣、アルコール離脱、筋弛緩薬使用中、頭蓋内圧上昇、活動性の心筋虚血、高用量昇圧剤など。
中止後、不穏・頻呼吸・努力呼吸・低酸素・不整脈が出れば失敗とみなし、直前量の半分から再開して調整します(元の量に戻さないのがコツ)。耐えられればそのままSBTへ。
SBT:呼吸を試す
安全スクリーンは、低酸素がないこと(FiO₂・PEEPが低め)、自発呼吸があること、昇圧剤が高用量でないこと、頭蓋内圧が安定していること。
方法は低圧のPSV(例:PS 5〜8、PEEP 5)またはTピースで30〜120分。評価は呼吸数、一回換気量、酸素化、循環、努力呼吸・不穏の有無。RSBI(呼吸数÷一回換気量[L])を参考にすることもありますが、単独の数値で決めないこと。
抜管:SBT成功=抜管ではない
SBTが見ているのは“呼吸ができるか”だけ。抜管の可否は“気道を守れるか”という別の問いです。確認するのは意識レベル(指示に従えるか)、咳嗽力、分泌物の量と吸引の頻度、上気道浮腫(カフリークテスト)。
再挿管リスクが高い症例では、抜管後にHFNCやNIVを予防的に使うことで再挿管を減らせます。抜管して終わり、ではありません。
1日の流れ
- 朝:痛みを評価CPOT/BPSまたはNRS。まず鎮痛を最適化する(analgesia first)。
- SATの安全スクリーン → 鎮静中止痙攣・離脱・筋弛緩・ICP上昇などがなければ切る。失敗したら半量で再開。
- 耐えられたらSBTへ低圧PSVかTピースで30〜120分。呼吸数・換気量・酸素化・努力呼吸を観察。
- 成功なら“気道”を評価意識・咳嗽・分泌物・カフリーク。問題なければ抜管、リスクがあればHFNC/NIVを準備。
- 日中:起こして動かす早期離床、見当識づけ、家族の関与。夜は睡眠環境を整える(ABCDEFバンドル)。
A=痛みの評価と対応/B=SATとSBTの両方/C=鎮痛・鎮静薬の選択/D=せん妄の評価と予防/E=早期離床/F=家族の関与。
個々の要素より「全部そろえて回すほど成績がよい」ことが示されている点が重要です。これは個人技ではなくチームの仕組みの話——敗血症のスクリーニング体制と同じ構図です。
=まとめ:一段落で言うと
Take home
鎮痛はしっかり、鎮静は最小限。目標はRASS 0〜−2で、深鎮静は適応を毎日問い直す。不穏を見たらまず原因を探す——鎮静薬は最後の手段です。
PADIS 2025では浅い鎮静・せん妄低減を優先する場面でデクスメデトミジンが推される一方、せん妄への抗精神病薬は推奨できない(=非薬物的予防が主戦場)。そして毎朝SATを回し、成功したらSBT、SBTが成功したら“気道”を別途評価して抜管。この型を回し続けることが、患者を早くICUから出す最短経路です。
参考文献
- Lewis K, Balas MC, Stollings JL, et al. A Focused Update to the PADIS Clinical Practice Guidelines. Crit Care Med 2025;53:e711.
- Devlin JW, et al. PADIS Clinical Practice Guidelines. Crit Care Med 2018;46:e825.
- Girard TD, et al. Paired sedation and ventilator weaning protocol(ABC trial). Lancet 2008;371:126.
- Girard TD, et al. Haloperidol and Ziprasidone for Delirium(MIND-USA). NEJM 2018;379:2506.
- Ely EW, et al. CAM-ICU. JAMA 2001;286:2703./Sessler CN, et al. RASS. AJRCCM 2002;166:1338.
- Pun BT, et al. ABCDEF bundle performance and outcomes. Crit Care Med 2019;47:3.
※本稿は要点整理であり、個々の症例判断に代わるものではありません。薬剤の用量・プロトコルは添付文書と自施設の基準をご確認ください。
