夜間の救急外来。「ゼーゼーしています」と1歳児が連れてこられる。
喘息か、細気管支炎か——と考え始めた時点で、実は順番が違います。小児のwheezeで最初にやるべきは、診断をつけることではなく、緊急疾患を外すこと。そのうえで年齢別のcommonに落とし込む。この順番を固定しておくと、夜中でも判断がぶれません。
この記事では、外す → 絞る → 診るの順で、小児の呼気性喘鳴を整理します。
1歳2か月の男児。3日前から鼻汁と咳嗽。本日夕方からゼーゼーが目立ち、夜になって哺乳量が半分に減ったため受診。
体温37.8℃、呼吸数56回/分、SpO₂ 93%(室内気)、心拍数148。陥没呼吸あり。両側にwheezeとcrackles。哺乳はできるが途中で疲れる様子。
さて、何から考えますか。
この記事でわかること
- stridorとwheezeの違い、そして「喘鳴が消えた」ときの意味
- まず外すべき5つのRed flags
- 年齢別のcommon、気道異物と縦隔腫瘍の落とし穴
- 喘息の治療と帰宅基準、細気管支炎は「病日」で読む
1まず「どこが狭いか」を決める
呼気で強く聞こえる理由は単純で、呼気時は胸腔内圧が上がって気道がさらに狭くなるから。だから呼気性喘鳴は末梢気道の狭窄を意味します。
図1:狭窄部位と喘鳴の種類
上気道〜頸部気管→ stridor(吸気性)クループ、喉頭軟化症、喉頭浮腫、上気道異物胸郭内気管〜主気管支→ 両相性になりやすい気管軟化症、血管輪、縦隔腫瘍、気管異物末梢気道(細気管支)→ wheeze(呼気性)気管支喘息、細気管支炎呼気は胸腔内圧が上がり、末梢気道がさらに狭くなる
喘鳴が「聞こえなくなった」ときが最も危険です。気流そのものが減れば、音は消える。静かになった=よくなった、ではありません。
呼吸数、陥没呼吸、意識、SpO₂を必ずセットで見る。音ではなく、換気を見る——これが小児の呼吸評価の原則です。
2Red flags ―まずこれを外す
以下は緊急対応を要する疾患です。診断の前に、まずこれらを外しにいく。
突然発症、上気道感染症状がない、蕁麻疹・嘔吐・血圧低下を伴う。食物・薬剤・蜂刺傷の曝露エピソードを必ず聴取する。
迷ったらアドレナリン筋注(0.01mg/kg、大腿前外側)。β2吸入では代用できません。
突然発症、片側性、感染症状の欠如。ただし所見で除外できないのが厄介なところ(→【4】)。
「喘息発作」として紹介されてくる心不全がある。β2吸入に反応しないのが最初のヒント。
肝腫大、頸静脈怒張(乳児では分かりにくい)、哺乳不良、体重増加不良、発汗。心拍数が呼吸状態に不釣り合いに速い、心雑音、ギャロップ。
心筋炎は先行感染後の全身状態不良+消化器症状で来ることがあり、見逃されやすい。
体位依存性の呼吸困難、SVC症候群。仰臥位にした瞬間に悪化しうる(→【5】)。
喀血・血性分泌物、貧血、びまん性浸潤影。乳児では喀血として現れず、原因不明の貧血+呼吸障害のことがある。
3年齢で絞る
Red flagsを外したら、年齢で考えます。小児は年齢がそのまま鑑別リストになるのが強みです。
図2:年齢別のcommonな疾患
1歳未満細気管支炎肺炎誤嚥性肺炎胃食道逆流(GER)CLD(慢性肺疾患)嚥下障害※安易に「喘息」としない1〜3歳細気管支炎(2歳未満)気管支喘息肺炎誤嚥性肺炎CLD※両者が重なる移行期4歳以上気管支喘息肺炎CLD※喘息が主役になる
ポイントは、1歳未満で「喘息」と即断しないこと。この年齢帯では細気管支炎、そして誤嚥・GER・嚥下障害といった「繰り返す背景」を持つ病態が上位に来ます。
「何度もゼーゼーする乳児」を見たら、喘息の前にこれらを考えます。
4気道異物
異物の73%は気管分岐部に存在(日本小児呼吸器学会雑誌 2018;29:114-121)。そしてwheezeの出現は40〜73%(『こどもの外科救急』2019, pp177-184)。
つまりwheezeがあってもなくても否定できない。「所見で除外できない疾患だ」という認識が第一です。
Holzknecht sign
片側の気管支に異物が入ると、逆止弁効果(check valve)で患側が過膨張します。呼気時に健側の縦隔が患側と反対へ移動する所見で、呼気相の胸部X線で捉えます。
吸気相だけの1枚では分かりません。呼気相を追加する、あるいは側臥位撮影を使うのが実践的です。
聞くべき情報
- 誤飲エピソードピーナッツ、豆類、玩具。「むせた」瞬間の目撃があるか。
- 咳嗽の有無や性状突然の咳嗽発作から始まったか。持続するのか、いったん治まったのか。
- 発症の様式突然か、感染症状が先行したか。ここが最大の分岐点。
エピソードが取れれば話は早い。しかし保護者が見ていないことも多いので、「突然発症・片側性・感染症状の欠如」の3つが揃えば、目撃がなくても疑います。
5縦隔腫瘍
前縦隔腫瘍では仰臥位で気管が圧迫され、呼吸困難・喘鳴が出ます。SVC症候群(顔面や上肢の浮腫)を併発しうる。
ここは強調しておきます——「検査のために寝かせた瞬間に止まる」。成人の頸部腫瘍による気道緊急とまったく同じ構図です。
体位依存性の呼吸困難、つまり「座っていないと苦しい」「寝かせると泣いて嫌がる」は、それ自体が重大なサイン。CTを撮る前に、その体位に耐えられるかを考える。必要なら座位のまま撮る、あるいは麻酔科と気道確保の相談を先にします。
6気管支喘息
① 聴取すべき情報
- 発作の日内変動と直近の発作夜間・早朝に悪化するか。前回はいつ、どの程度だったか。
- 服薬状況・アレルギー歴長期管理薬を実際に使えているか。吸入手技はどうか。
- 家族歴喘息・アトピー素因。
- トリガー運動、感染、アレルゲン、天候の変化。
- 生活環境ペット、喫煙者、空調。帰宅後に同じ環境へ戻ることを踏まえて聞く。
② 重症度判定
小児気管支喘息治療・管理ガイドライン(JPGL2023、2023年11月発刊の第8版)を参照します。発作強度は小発作・中発作・大発作・呼吸不全の4段階で、喘鳴の程度、陥没呼吸、起坐呼吸・チアノーゼの有無、呼吸数に加え、動作・会話・食欲・睡眠といった生活状態で判定します。
小児では自覚症状が取れません。だから「哺乳できるか」「一文しゃべれるか」「横になれるか」が実質的な重症度指標になります。
数字より、目の前の子が飲めているか・話せているか・眠れているかを見る。これは保護者にも説明しやすい指標です。
③ 治療
メプチン0.3ml + 生食5〜10ml(±インタール1A/2ml)。最大3回まで反復吸入可(20〜30分間隔)。
中〜大発作、またはβ2吸入で反応不十分なときに使用。
効果発現まで約4時間——だから「効かないから追加」ではなく、早めに入れるのが要点です。
経口でも静注でもよい(バイオアベイラビリティが高いため)。飲めるなら内服で十分。
・静注:プレドニン or ソルメドロール 0.5〜1mg/kg
・内服:デカドロン 0.3mg/kg/day(分1〜2)
※ソルメドロールには乳糖含有 → 牛乳アレルギーに注意
0.2〜0.5mEq/kg(硫酸マグネシウムとして約25〜60mg/kg)を30分以上かけてゆっくり投与。血圧低下に注意。
大発作でβ2+ステロイドに反応しないときの一手。
④ 帰宅基準
- SpO₂ > 97%室内気で。
- 喘鳴なし、呼吸様式・呼吸数が正常陥没呼吸が消えていること。
- 肺炎などの合併症がない発熱や局所性所見があれば再考。
- トリガーの除去が可能帰る家の環境まで含めて考える。
一つでも満たさなければ、入院観察が望ましい。とくに最後の項目は見落とされがちで、「家に帰ったら同じ環境に戻る」なら、その場の改善は意味を持ちません。
7細気管支炎
経過を知っておく
主に2歳未満。初期は上気道症状(咳・鼻水)から始まり、2〜3病日で下気道症状(wheeze/crackles/努力呼吸)へ進行。3〜5病日がピークで、1か月以内に改善します。
図3:細気管支炎の経過 ―「今、何病日か」を必ず聞く
症状の強さ0〜1病日咳・鼻水のみ2〜3病日下気道症状へ進行3〜5病日ピーク以降〜1か月徐々に改善ピーク2病日の受診ならこれから悪化する5病日を越えていれば峠は越えている可能性
この経過を知っていること自体が最大の武器です。2病日に受診した児は、これから悪化する。逆に5病日を越えていれば、峠は越えている可能性が高い。「今、何病日か」を必ず確認します。
検査
血液検査やX線は必須ではありません。重視するのはバイタルサインと全身状態。
X線は、細菌性肺炎の合併を疑うときや、経過が非典型のときに限ります。ルーチンで撮ると、無気肺を肺炎と読んで不要な抗菌薬につながります。
無呼吸のリスクファクター
生後8週以内(早産なら修正8週以内)/低出生体重児/保護者による無呼吸の目撃/頻呼吸(>70)・徐呼吸(<30)/SpO₂ < 90%。
これらがあれば、見た目が元気でも入院・モニタリングを考えます。
治療
β2刺激薬吸入、アドレナリン吸入、ステロイド全身投与などが試みられてきましたが、基本的には不要なケースが多い。中心は支持療法——鼻汁吸引、哺乳・水分の確保、酸素化の維持です。呼吸仕事量が多ければHFNCを検討します。
これがこの疾患で最も難しく、最も大事なところです。
JPGL2023でも新たに「乳幼児のウイルス感染による初回喘鳴の治療に、ステロイド薬は有用か?」というクリニカルクエスチョンが立てられており、この領域が今なお議論の対象であることを示しています。
アップデート:RSV予防が変わった
細気管支炎の最大の原因であるRSVについて、予防の選択肢が大きく変わりました。
- ニルセビマブ(ベイフォータス)従来のパリビズマブ(シナジス)が月1回投与でハイリスク児に限られていたのに対し、ニルセビマブは投与頻度が少なく、リスクのない児を含めて対象にできる。
- 日本小児科学会のコンセンサスガイドライン2024年5月発出、2025年8月改訂(Q&Aは2025年10月に第3版)。早産・CLD・CHD・免疫不全・ダウン症候群などのハイリスク児には保険適用で投与を推奨。合併症のない在胎36週以上の出生児にも、自費診療にはなるが投与を考慮するとしている。
- 母子免疫ワクチン(アブリスボ)妊娠中の接種も選択肢に加わった。接種歴を母子健康手帳で確認する。
救急外来で直接使う場面は少ないものの、「予防されている児かどうか」を問診で拾う時代になった、という認識は必要です。
8結局どう動くか
- 音を確定するstridorかwheezeか。そして喘鳴が消えたら悪化を疑う(silent chest)。音ではなく換気を見る。
- Red flagsを外すアナフィラキシー、気道異物、心疾患、縦隔腫瘍、肺出血。診断より先に、これらの否定。
- 年齢で絞る1歳未満は細気管支炎と誤嚥・GER、4歳以上は喘息が主役。乳児で安易に喘息としない。
- 喘息なら早めにステロイド効果発現に4時間かかる。飲めるなら内服でよい。反応不十分なら硫酸マグネシウム。
- 細気管支炎なら病日を聞くピークは3〜5病日。若い月齢は無呼吸に注意。薬より支持療法。
- 帰宅は基準で決めるSpO₂、喘鳴、呼吸様式、合併症、そして「トリガーを除去できるか」まで。
喘鳴が消えたのを「改善」と読む(silent chest)/1歳未満で安易に「喘息」と診断する/β2吸入に反応しないのに心疾患を考えない/気道異物を、wheezeがないことで除外する(出現は40〜73%)/前縦隔腫瘍を疑わずにCTのため仰臥位にする/細気管支炎にルーチンでX線を撮り、無気肺を肺炎として抗菌薬を出す/ステロイドを「効かないから」と遅らせる(効果発現は4時間)。
=まとめ
Take home
小児のwheezeは、診断をつける前に「外す」。アナフィラキシー、気道異物、心疾患、縦隔腫瘍、肺出血——この5つを外してから、年齢別のcommonに落とす。この順番が安全域を作ります。
外した後は、年齢がそのまま鑑別リストになる。1歳未満なら細気管支炎と誤嚥・GER、4歳以上なら喘息。そして細気管支炎は病日で、喘息は生活状態(哺乳・会話・睡眠)で重症度を測る。
最後に、帰宅させる基準を言語化しておくこと。SpO₂と喘鳴だけでなく、トリガーを除去できるかまで含めて判断する——それが再受診を防ぎます。
参考文献
- 日本小児アレルギー学会. 小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023(JPGL2023). 協和企画, 2023.
- 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会. 日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン. 2024年5月22日発出/2025年8月31日改訂.
- 同 Q&A(第3版). 2025年10月.
- 気管支異物の検討. 日本小児呼吸器学会雑誌 2018;29:114-121.
- 『こどもの外科救急』2019, pp177-184.
- 乳幼児喘鳴の鑑別と治療. 小児耳 2017;38(3):326-329.
- 国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所. RSウイルス母子免疫ワクチンと抗体製剤 ファクトシート. 2025年10月22日.
