深夜の救急外来。「妊娠8週で、出血しています」——この一報で身構える先生は多いと思います。
妊婦の診察に不慣れなとき、抱える疑問は結局2つに集約されます。
①「流産」でいいのか? ②今この瞬間、緊急で産婦人科につなぐ必要があるか?
この記事は、外来初療医としてこの2つに答えを出すための道筋です。
32歳女性。近医産婦人科クリニックかかりつけ。週数は8週0日。
不正性器出血と下腹部痛を主訴に、深夜の救急外来を受診した。
この記事でわかること
- 経腹エコーで何を見て、何が見えなくても慌てないか
- 出血量の聞き方——「月経2日目より多いか」という共通言語
- いつ深夜に産婦人科を呼び、いつ朝まで待てるか
1なにはなくとも経腹エコー
まず、かかりつけで「子宮内の胎嚢」「児の心拍」を確認されているかを、あらかじめ確認する必要があります。ここが分かっているかどうかで、その後の解釈がまるで変わります。
その上で、子宮内の胎芽・胎児、および心拍の有無を確認します。本症例のように8週であれば経腹エコーでの観察は容易です(おおむね6週くらいから可能)。
もちろん腸管ガスやその他検者の技量にも依るため、「角度によって、また超音波検査の限界によって見えない、もあり得ること」を、あらかじめ患者へ伝えておく必要があります。
これは責任逃れではなく、“見えなかった”という結果を、後の再診の動機づけに変えるための説明です。
逆にいえば、子宮内に胎嚢と心拍が確認できれば、異所性妊娠の可能性は大きく下がります(稀な内外同時妊娠を除く)。
一方で「見えない」は「流産」ではなく「未確定」です。週数が早い、出血で見づらい、あるいは子宮の外にある——どれも同じ見え方をします。ここを取り違えないことが最大の勘所です。
2出血量は?
妊婦であろうがなかろうが、不正性器出血の患者への問診でかならず聞くべきは、「○G△P」と「出血の量」です。
前者は流産歴などが多いことや子宮頸がんのリスクとして考慮されます。
特に後者が重要ですが、その出血が「月経2日目より多いですか?」が問題です。当然のことながら、ある程度患者によって月経量の個人差はあります。しかしながら、2日目を大きく超える量は「異常」です。
また「夜用のナプキンをどれくらいで交換しますか?」などは、実際の量を測定しているわけではないので、異常性として各々の医師の共通言語になりやすいため、いい聞き方です。
そのレベルであれば、異所性妊娠による出血や週数が経った状態での不全流産を想起するため、産婦人科へのその時点での診察依頼を要します。
ここは自覚しておくべきところですが、我々の武器は、経腹エコーと問診だけです。この時点で、「異所性妊娠」や「絨毛性疾患」を診断しきることはほとんど不可能です。
だからこそ、診断ではなく“振り分け”に徹する。これが外来初療医の役割だと考えています。
3エコーで診断し切れない場合
例えば妊婦の虫垂炎などはどうでしょうか。
成人例での虫垂炎は、エコーで描出することは相当慣れていないと難しい。診断はMRIになりますが、実際のところMRIの検査に踏み切るにはある程度の根拠がいります。
まずは急性腹症を想起するかどうかでしょう。
※腹膜刺激徴候が明確にある。
ある程度週数が進んだ場合は難しいですが、板状硬である、tapping pain / pain of percussion など、急性腹症を想起するかは一番重要な部分です。
エコーにて虫垂の描出や腹水、腹腔内の出血の有無を丹念に検索します。
「妊婦」の場合の急性腹症は、虫垂炎、異所性妊娠/出血/破裂です。この2つを念頭に置いて診察すれば、大きく外しません。
被曝を気にして必要な検査を避けるのは、かえって危険です。エコーとMRIは被曝がなく、妊娠中も第一選択になりえます。母体が不安定なら、必要な検査は妊娠を理由に遅らせない——母体を守ることが胎児を守ることです。
ただし前述のとおり、深夜にMRIへ踏み切るには根拠が要ります。その根拠をつくるのが、身体所見とエコーです。
4緊急のコンサルトは必要か
実際に「流産でよいだろう」となったら、緊急のコンサルトは必要か。
基本的に不要です。
先述したとおり、出血量如何では、異所性妊娠などの別途疾患も考慮されるため緊急です。しかし、現在出血が落ち着いており、子宮内に胎嚢と心拍が確認でき、バイタルが安定し、腹膜刺激徴候がないのであれば、深夜に産婦人科医を起こす必要はありません。翌日以降にかかりつけを受診してもらう方針で問題ないと考えます。
バイタルが不安定(頻脈・低血圧・ショック指数の上昇)/失神・気分不良を伴う/月経2日目を大きく超える出血、凝血塊の持続/腹膜刺激徴候、板状硬/強い片側性の下腹部痛/肩の痛み(横隔膜刺激=腹腔内出血を示唆)/子宮内に胎嚢が確認できない/エコーで腹腔内出血・多量の腹水。
ひとつでもあれば、診断がつかなくても呼んでよい。これは「診断のための相談」ではなく「振り分けの結果」です。
判断の流れ
妊娠反応陽性 + 性器出血/下腹部痛
まずバイタル・ショック指数
不安定・腹膜刺激・失神
→ 即コンサルト
経腹エコー:子宮内に胎嚢+心拍は?
かかりつけでの確認歴も聴取
あり
なし/不明
子宮内妊娠が確認できた
→ 次は「出血量」を評価
月経2日目より多い
凝血塊が続く
→ コンサルト
少量・落ち着いている
腹膜刺激なし
→ 翌日かかりつけ
異所性妊娠を否定できない
「見えない」=「流産」ではない
→ 産婦人科へ相談
どの経路でも、帰宅時は再診基準を必ず伝える
出血が増える/痛みが強くなる/めまい・失神/発熱
→ 時間帯を問わず再受診
5帰宅させるときに伝えること
初療医の仕事は、帰宅させて終わりではなく、次につなぐところまでです。とくに深夜の外来では、この説明の質が転帰を左右します。
- 「流産」と言い切らない現時点で分かったこと(子宮内に胎嚢と心拍があること)と、分からないこと(今後の経過、超音波の限界)を分けて説明する。断定は、後から覆ったときに患者を深く傷つける。
- 再診基準を具体的に出血が増える(ナプキンの交換頻度で伝える)、痛みが強くなる、めまい・失神、発熱。ひとつでもあれば時間帯を問わず再受診、と明確に。
- かかりつけ受診のタイミングを指定「落ち着いたら」ではなく「翌日(または翌診療日)に受診を」と具体的に。紹介状やエコー所見の記録を渡せると、なおよい。
- 言葉を選ぶ切迫流産の多くは妊娠が継続する一方、経過中に流産となることもある。「あなたのせいではない」と伝えることは、医学的説明と同じくらい重要。
もしどろっとした凝血塊があれば、必ず持参して産婦人科を受診することを指示します。
理由は明確で、流産である確定証明は病理でしかありません。排出物が絨毛組織であることが確認できて初めて、子宮内妊娠の流産と確定できる——裏を返せば、それがなければ異所性妊娠の可能性は最後まで消えないということです。
「捨てないでください」と一言添えるだけで、後の診断が変わります。
妊娠中の出血では血液型(Rh(D))の確認を忘れずに。Rh(D)陰性であれば抗D人免疫グロブリンの適応を検討する必要があり、これは産婦人科と共有すべき情報です。
日本人ではRh陰性は少数ですが、「確認しなかった」が後で問題になる項目なので、採血のついでに押さえておくのが安全です。
=まとめ
Take home
①子宮内に胎嚢と心拍があるか(なければ「未確定」であって「流産」ではない)、②出血は月経2日目より多いか、③急性腹症を想起するか(妊婦なら虫垂炎と異所性妊娠/出血/破裂)。この3点が揃って安全側なら、深夜に呼ばず翌日のかかりつけ受診でよい。ひとつでも崩れるなら、診断がつかなくても呼ぶ。
そして帰宅時の再診基準を具体的に伝えるところまでが、初療医の仕事です。
