ここまで初期設定・波形・メカニクスと積み上げてきました。今回は実践編。実際の症例で、波形を見て、手を動かす回です。
その前に、私はPCV派です。これはどちらでもよく、育った環境に左右されるでしょう。どちらも理解した上で好きな方を選択してください。
この記事でわかること
- なぜPCVを選ぶのか(と、その弱点をどう補うか)
- 5症例:COPD・ARDS・ファイティング・急変・ウィーニング
- 波形を見て「次の一手」を決める思考の流れ
0前置き:私がPCV派である理由
エビデンス上、VCVとPCVの優劣は決着していません。だからこれは科学ではなく運用哲学の話。それを承知のうえで、私が最初にPCVを選ぶ理由は3つです。
- 漸減波が患者の欲しがり方に近いPCVの流量は、吸気の頭で最も速く、その後なだらかに落ちる。これは自発呼吸の生理に近い形。VCVの固定流量で起きがちな「吸いたいのに吸わせてもらえない」(flow starvation)が起きにくく、結果として非同調が減り、鎮静を上乗せせずに済むことが多い。
- 圧に天井があるという安心感設定圧を超えないので、痰づまりや咳、体位変換で気道抵抗が急変しても、圧が青天井に上がらない。肺保護の観点で「越えてはいけない線」をハード面で担保できるのは、夜間や人手の薄い時間帯で効いてくる。
- 駆動圧を“設定できる”受動的な患者で吸気終末流量がゼロになっていれば、設定した吸気圧(PEEPからの上乗せ分)がほぼそのまま駆動圧になる。ΔPを見張るのではなく最初から決めに行ける、という考え方が私には合っている。
ただし、PCVの弱点は明確
一回換気量が保証されません。コンプライアンスが悪化すれば(肺水腫の進行、無気肺、腹圧上昇、気胸)、同じ設定のままVtだけが静かに減っていく。気づかなければ換気不全になります。逆に患者の努力が強まればVtは増え、肺保護を破ることもある。
だからPCVを選ぶなら、Vtの下限・上限アラームを必ず設定し、分時換気量のトレンドを見る——これが対価です。この“見張り”を引き受けられないなら、VCVの方が安全です。
要するに、VCVは「量を守り、圧を見張る」、PCVは「圧を守り、量を見張る」。どちらを固定してどちらを監視するかの選択にすぎません。大事なのはどちらを選ぶかではなく、選んだ方の“見張るべきもの”を本当に見張っているか。以下の症例は、その視点で読んでください。
1症例1:吐けないCOPD
症例
72歳男性、COPD急性増悪で挿管。PCV(吸気圧14、PEEP 5、呼吸数22、I:E 1:2)で管理中。
挿管30分後、血圧が90/50から70/40へ低下。輸液を全開にしたが反応が乏しい。SpO₂ 93%、心拍118。「敗血症の合併か」と昇圧剤を準備しようとしている——。
波形:流量-時間
何が起きているか
auto-PEEPによる閉塞性ショックです。肺に空気が溜まり続け、胸腔内圧が上がって静脈還流が落ちている。輸液に反応しにくいのはそのため。ここで昇圧剤を足すのは対症療法にすらならない——原因は循環ではなく換気設定にあります。
対応
①まず回路を外す。診断と治療を兼ねます。溜まった空気が抜けて血圧が戻れば、それが答え。
②呼気時間を稼ぐ。呼吸数を22→14へ、I:Eを1:2→1:4へ。CO₂は上がりますがpermissive hypercapnia(pH 7.20程度まで)で許容。
③気道抵抗を下げる。気管支拡張薬、分泌物の除去。
④確認。呼気ホールドで内因性PEEPを実測し、流量波形が基線に戻るようになったかを見る。
学び:挿管患者の血圧低下を見たら、循環の前に換気設定を疑う。「輸液に反応しない低血圧+COPD+頻呼吸」は、まずauto-PEEPです。
2症例2:ARDSでVtが減っていく
症例
58歳女性、肺炎による中等症ARDS。身長158cm(PBW 50kg)。PCV(吸気圧14、PEEP 10)で開始し、Vtは約300mL(6mL/kg)だった。
6時間後、設定は何も変えていないのにVtが230mLに低下。PaCO₂ 62mmHg、pH 7.24。当直帯で「換気が足りないので吸気圧を上げますか」と相談が来た——。
トレンド:同じ圧設定でVtが減っていく(=コンプライアンス低下)
何が起きているか
これがPCVの弱点そのもの。圧が固定されているので、コンプライアンスの悪化がVtの低下として現れます。つまりVtの低下は「問題」ではなく「肺が悪化しているという情報」。
ここで反射的に吸気圧を上げるのは、駆動圧を上げることに等しい。数字(PaCO₂)は改善しても、肺への負荷は増えます。
対応の順番
①なぜ悪化したかを探す——胸部X線・エコーで、肺水腫の進行、無気肺、気胸、胸水、腹部膨満(腹圧上昇)を確認。原因が取れるなら取るのが先。
②pHで判断する。pH 7.24なら、まだ許容範囲内。呼吸数を上げて分時換気量を稼ぐ方が、圧を上げるより肺には優しい(ただしauto-PEEPとmechanical powerに注意)。
③どうしても足りなければ、駆動圧の余裕を見て吸気圧を上げる。その際もΔP<15を意識する。
④重症なら腹臥位を検討する段階かどうかを判断。
学び:PCVではVtは「守るもの」ではなく「読むもの」。Vtが減ったら、まず肺に何が起きたかを考える。設定で数字を取り繕う前に、原因を見に行く。
3症例3:ファイティングと呼ばれた患者
症例
45歳男性、外傷後。VCV(Vt 450mL、固定流量40L/min、呼吸数16)で管理。
夜間、「呼吸器と合わずファイティングしている、鎮静を上げてよいか」とコール。訪室すると、患者は苦悶様で、頸部の補助呼吸筋を使って吸っている。RASS +1。プロポフォールを増量しようと手が伸びる——。
波形:圧-時間(VCV)
何が起きているか
flow starvation(流量不足)。患者が求める流量に器械が追いつかず、圧波形が中央でへこんでいます。これは「暴れている」のではなく「吸わせてもらえずに苦しんでいる」。ここで鎮静を足すのは、口を塞いだ人を黙らせる行為に近い。
対応
①なぜドライブが上がっているかを潰す——発熱、疼痛、不安、代謝性アシドーシス、低酸素。ここが本丸。
②流量を患者に合わせる——VCVなら吸気流量を上げる(40→60L/min)、漸減波に変える。あるいはPCV/PSVへ切り替える。PCVは頭で流量が出るので、この不一致が起きにくい。
③それでも収まらなければ鎮静を調整。順番として最後です。
実際、この症例はPCVへ変更した時点で補助呼吸筋の使用が消え、鎮静は増やさずに済みました。
学び:「ファイティング」は診断名ではない。波形を見れば、それが流量不足なのか、非同調なのか、本当の不穏なのかが分かれます。私がPCVから入る最大の実利は、ここです。
4症例4:突然の圧上昇
症例
66歳男性、敗血症性ショックで人工呼吸中。VCVで管理していたところ、気道内圧上限アラームが連続。SpO₂ 91%へ低下、血圧も下がり気味。
——さて、痰づまりか、気胸か。
鑑別:吸気ホールドでプラトー圧を見る(VCV)
何が起きているか
吸気ホールドを1回かければ、鑑別は半分終わります。
A:ピークだけ上昇、プラトーは不変 → 気道抵抗の問題。痰づまり、チューブの屈曲・閉塞、気管支攣縮。まず吸引、次にチューブを疑う。
B:ピークもプラトーも上昇 → 肺・胸郭の問題。気胸(とくに緊張性)、肺水腫、無気肺、腹腔内圧上昇。血圧低下と片側呼吸音減弱を伴うなら緊張性気胸を最優先で否定する。
急変時の型:DOPES
Displacement(位置異常)/Obstruction(閉塞)/Pneumothorax(気胸)/Equipment(機器)/Stacking(auto-PEEP)。
迷ったら回路を外してバッグ換気。手で揉めば抵抗が伝わり、器械の問題か患者の問題かも一瞬で切り分けられます。エコーがあれば肺エコーでlung slidingを確認するのが最速。
学び:アラームの数字(ピーク圧)に飛びつかない。ピークとプラトーを分けて見るだけで、行き先が変わります。なおPCVでは圧が頭打ちになるぶん、同じ異変がVtの急減として現れます——見る場所が違うだけで、やることは同じです。
5症例5:抜けそうで抜けない
症例
70歳女性、肺炎後。全身状態は改善し、PSV(PS 8、PEEP 5)でSBT中。
呼吸数は24とやや速く、呼気の始まりで患者が「フッ」と力むのが目立つ。モニターでは圧波形の呼気移行部に鋭い突出がある。SpO₂は保たれているが、担当医は「まだ抜けないかも」と判断しかけている——。
波形:PSVでのサイクル遅れ(呼気努力)
何が起きているか
サイクル遅れ(delayed cycling)。器械の吸気が患者の吸気より長く、患者は吐きたいのに送り込まれている状態。呼気筋を使って押し返すので、圧波形の終末に鋭い突出が出ます。
これを「呼吸仕事量が高い=離脱困難」と読み違えると、抜管できる患者を抜管しないことになります。実際には設定の問題であることが少なくありません。
対応
①サイクルオフ基準を上げる(例:25%→40%)。吸気を早く終わらせ、患者のタイミングに合わせる。COPDのように時定数が長い患者では特に有効。
②PSを下げる——過剰サポート自体がサイクル遅れの原因になる。
③そのうえで改めてSBTを評価する。非同調が消えて呼吸数が落ち着くなら、離脱の障害は肺ではなく設定だった、ということ。
④抜管の可否は別問題——意識、咳嗽力、分泌物、カフリーク。「呼吸できるか」と「気道を守れるか」は別々に評価します。
学び:ウィーニングが進まない時、患者のせいにする前に設定を疑う。SBTが評価しているのは患者であって、非同調のある回路ではありません。
=まとめ
5症例に共通する思考
症例1:低血圧 → 循環の前に換気設定(auto-PEEP)。
症例2:Vt低下 → 圧を上げる前に原因検索。
症例3:ファイティング → 鎮静の前に流量。
症例4:圧上昇 → ピークとプラトーを分ける。
症例5:離脱難 → 患者を疑う前に設定。
——つまり全部同じ形です。「目の前の数字に反応する」のではなく「なぜその数字になったかを説明する」。波形は、その説明を最短で与えてくれます。
Take home
私はPCV派ですが、それは「圧を守り、量を見張る」という約束を引き受けたということ。VCVを選ぶなら「量を守り、圧を見張る」。どちらでもよいが、見張るべきものを見張らないのは論外——これが前置きの結論です。
そして5症例が示すとおり、人工呼吸管理でやることは常に一つ。異変を見たら、まず波形を見て、原因を説明してから設定に触る。鎮静も昇圧剤も、その後です。
参考文献
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- Blanch L, et al. Asynchronies during mechanical ventilation and outcomes. Intensive Care Med 2015;41:633.
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- Amato MBP, et al. Driving Pressure and Survival in ARDS. NEJM 2015;372:747.
- Girard TD, et al. Paired sedation and ventilator weaning protocol(ABC trial). Lancet 2008;371:126.
- Dexter AM, Clark K. Ventilator Graphics. Respir Care 2020;65:739.
