DICは、なんとなくわかったつもりで通り過ぎている人が一番多い病態かもしれません。「血小板が下がってFDPが上がったらDIC」——それは診断基準の話であって、DICそのものの話ではありません。
そして曖昧なのは、読者のせいではありません。診療ガイドライン自身がこう書いています。「日常臨床の現場では診断と治療において混乱を来してきた。診断基準は何を適応するのか?治療は何をするのか?抗凝固薬は使用するのかしないのか?使用する場合はいつまで使用するのか?など枚挙にいとまがない」
今回は基礎から積み上げます。診断基準の暗記ではなく、「なぜ曖昧になるのか」を一つずつ潰していく構成です。
この記事でわかること
- DICが「病名」ではないという話
- 凝固が亢進しているのに出血する理由
- 同じDICでも顔つきが変わる理由(線溶のバランス)← この記事の核
- 診断基準が5つもある理由と使い分け
- 血小板が下がった=DICではない
- 2025年に改訂されたJAAM-2診断基準
0DICは「病名」ではない
まず、ここが最初の躓きポイントです。
ガイドラインの定義はこうです。「DICはさまざまな基礎疾患の存在下に獲得された、局所制御あるいは代償制御を外れた全身性の血管内凝固活性をきたしたもの」
キーワードは「基礎疾患の存在下に獲得された」。つまり、基礎疾患なしにDICは存在しません。単独で発症する病気ではなく、何かの結果として起きる状態です。
だから「DICです」は診断の終わりではなく、始まりです。「DICです、で?何のDIC?」——ここまで言えて初めて診断になります。
DICの基礎疾患は思っているより広い
重症感染症 29〜61%、固形がん 7〜21%、造血器悪性腫瘍 11〜17%、産科 5〜66%、頭部外傷 36〜41%。
日本の1997年の全国調査では、症例数では敗血症・ショック・非ホジキンリンパ腫の順、頻度ではAPL(急性前骨髄球性白血病)・劇症肝炎・前置胎盤の順でした。ちなみにAPLのDIC合併率は約60%。APL以外の急性骨髄性白血病は16〜18%です。
DIC診療ガイドライン2024が基礎疾患別に章立てされているのは、この多様性のためです(造血器腫瘍/固形がん/敗血症/重症外傷/急性膵炎・肝不全/血管異常症/産科危機的出血/その他)。
1なぜ凝固が始まるのか——スイッチは「組織因子」ひとつ
複雑に見えるDICですが、入り口は実質2つだけです。どちらも行き着く先は組織因子(tissue factor: TF)です。
図1:DICの共通経路を示す模式図
入り口①:組織因子が直接、血中に流れ込む
細胞の中には組織因子が入っています。それが壊れて外に出てくるパターンです。
- 腫瘍細胞の崩壊白血病・悪性腫瘍。細胞に含まれる組織因子が血中へ流出する。
- 組織の破壊外傷、熱傷、羊水塞栓症。組織因子が直接血中へ流入する。
急性白血病の寛解導入療法中のDICは治療開始後4日以内に発症しやすく、APLでは寛解導入療法後1週以内の脳出血が多いと報告されています。抗がん剤を始めた瞬間がリスクの山、というのは覚えておく価値があります。
入り口②:サイトカインが組織因子を「作らせる」
こちらは敗血症のパターン。細胞が壊れるのではなく、炎症が細胞に組織因子を発現させます。
単球・マクロファージや好中球から出る炎症性サイトカインが、①組織因子の活性を増加させ、②同時に血管内皮細胞からのトロンボモジュリン(TM)産生を低下させ、③さらにPAI-1の産生を著しく亢進させる。
CAR-T療法やblinatumomab使用時のサイトカイン放出症候群(CRS)も、まったく同じ経路です。中国での100例の解析では、約50%の患者が細胞輸注後6〜20日に凝固異常を発症しています。
そこから先は共通
組織因子が引き金を引くと、トロンビンが大量に産生され、主として細小血管内に微小血栓が多発します。ここまでは全DIC共通です。
2なぜ出血するのか——「使い果たす」
さて、一番の違和感です。凝固が亢進しているなら、血が固まりやすいはずでは?
ガイドラインは、DICの主たる臨床症状を「出血傾向と臓器障害」と並べて書いています。一見矛盾したこの並記が、DICの本質です。
答えは単純で、使い切ってしまうからです。
全身の細小血管で微小血栓を作り続ければ、血小板も凝固因子も消費されます。工場がフル稼働して在庫を吐き出し切った状態。だから検査では血小板が下がり、PTが延び、フィブリノゲンが下がる。「凝固が亢進した結果として、凝固できなくなる」——これが消費性凝固障害です。
そして微小血栓ができれば線溶系が働くので、FDPやD-ダイマーが上がります。
・微小血栓が多発 → 臓器障害(虚血)+ FDP/D-ダイマー上昇
・血小板・凝固因子を消費 → 出血傾向+ 血小板減少・PT延長・フィブリノゲン低下
DICが「血栓症の顔」と「出血症の顔」を両方持つのは、この2本立てのためです。
3核心:同じDICでも「顔つき」が違う
ここからが本題です。多くの人がDICを曖昧にしか理解できていない最大の理由が、ここにあります。
ガイドラインもこう書いています。「その病態、特に凝固能に対する線溶能の差異が報告されており、基礎疾患の差異により診ている病態(出血傾向や臓器障害)が大きく異なる」
図2:線溶抑制型と線溶亢進型の対比を示す模式図
線溶抑制型——臓器障害が前面に出るDIC
代表:敗血症、CAR-T後のCRS
敗血症では、炎症性サイトカインによって、血管内皮細胞からのトロンボモジュリン産生が低下し(=ブレーキが外れる)、同時にPAI-1の産生が著しく亢進します(=線溶にもブレーキがかかる)。
結果として何が起きるか。ガイドラインの表現をそのまま引くと、「線溶活性抑制による難溶性血栓が多発し、虚血性臓器障害が顕著になる」。
できた血栓が溶けない。だから臓器が虚血に陥る。一方、線溶が動いていないので出血症状は目立ちにくい。敗血症性DICで「出血しないから軽症だろう」と思うのは、まったく逆ということになります。
ガイドラインに重要な注意書きがあります。「超重症例ではトロンビン産生量と相関せずD-ダイマーが著増しない症例を認めるので注意が必要である」
線溶が徹底的に抑え込まれると、血栓ができてもD-ダイマーが上がってきません。一番重症の患者で、一番検査値が大人しく見えるという逆転が起こりえます。D-ダイマーが低いことを安心材料にしないでください。
線溶亢進型——出血が前面に出るDIC
代表:APL、前立腺がん、大動脈瘤・大動脈解離、常位胎盤早期剝離、羊水塞栓症、分娩後異常出血
こちらは、基礎疾患そのものが一次線溶を上乗せしてくるタイプです。機序が面白いので少し詳しく見ます。
- APLの場合:アネキシンII腫瘍細胞の表面にアネキシンIIが高発現する。アネキシンIIはtPAとプラスミノゲンの膜表面の共受容体——つまり、線溶の材料を細胞表面に呼び集めて効率よくプラスミンを作らせる装置。腫瘍細胞が「プラスミン製造工場」になってしまう。
- 前立腺がんの場合:uPA細胞表面でuPA(ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子)が産生される。
この一次線溶亢進が、DICによる二次線溶亢進に上乗せされます。ガイドラインの言葉では「過剰なプラスミンによる一次線溶活性がDICによる二次線溶亢進に加わるため、線溶亢進型DIC、すなわち出血しやすいDICの病態を呈する」。
血栓が溶けすぎる。だから出血する。臓器障害は相対的に目立ちにくい。
線溶亢進型では、抗凝固療法に加えて注意深く抗線溶療法を加えることで、出血症状を改善させる場合がある——ガイドラインにこう書かれています。線溶抑制型では絶対にやらない治療が、こちらでは選択肢に入ります。
ただし、ここに極めて重要な例外があります。
【最重要】ATRA投与中のAPLに抗線溶薬は禁忌
APLは出血するから抗線溶薬を、というのは自然な発想です。しかしガイドラインの推奨は「ATRA投与中のAPLに伴うDICに対して抗線溶薬を投与することを推奨しない(強い推奨/GRADE 1C)」。DIC診療ガイドライン2024の中で、数少ない「強い推奨」の一つです。
理由は、ATRA自体に線溶抑制作用があるため。そこに抗線溶薬を重ねると、線溶が止まりすぎます。
根拠として引かれているのは31例のAPLを登録した観察研究で、ATRAとトラネキサム酸で治療された4例のうち3例が血栓症を発症して死亡しました。投票は「強く推奨しない」92%。
APLのDICは出血で死ぬ一方、約9%の頻度で血栓症も起きることが知られています。出血の顔をしていても、水面下には非常に強い過凝固が併存している。ここを見誤ると患者を殺します。
線溶均衡型、そして慢性DIC
実際にはきれいに二分されるわけではなく、線溶均衡型が中間に存在します。
もう一つ、慢性DICという病型があります。膠原病に伴う血管炎、Kasabach-Merritt症候群に代表される血管腫、大動脈瘤など。血管内皮細胞の慢性炎症や奇形による血流動態変化により、持続性の血栓形成を呈するタイプです。急性の派手さがないぶん、見逃されやすい。
この3つを押さえると何が変わるか
・「DICなのに出血しない」が説明できる(線溶抑制型)
・「DICなのにD-ダイマーが上がらない」が説明できる(線溶抑制型の超重症例)
・「出血しているのに抗凝固薬を使う」が理解できる(線溶亢進型でも凝固は亢進している)
・抗線溶薬を足す/足さないの判断軸ができる
・どの診断基準を使うかの判断にもつながる
治療の話を先取りすると、トロンボモジュリン製剤が日本で広く使われている理由の一つがここにあります。rTMはプロテインC活性化による抗凝固作用に加え、TAFI活性化を介した抗線溶活性も持つため、線溶抑制型・線溶均衡型・線溶亢進型のすべての病態に対する治療効果が期待できるとされています。APLではアネキシンIIの発現低下によるプラスミン産生抑制も期待される。病型を選ばない、という位置づけです。
4検査値は「何を見ている」のか
病態がわかったので、検査値に意味を与えていきます。丸暗記が要らなくなります。
| 検査 | 何を映しているか | 注意点 |
|---|---|---|
| 血小板数 | 消費(+産生障害) | 造血器腫瘍・化学療法後は産生障害が混じる |
| FDP | フィブリノゲンとフィブリンの分解産物 | 一次線溶でも上がる |
| D-ダイマー | 安定化フィブリンの分解産物のみ | 二次線溶を反映。線溶抑制型の超重症例では上がらないことも |
| PT | 凝固因子の消費 | — |
| フィブリノゲン | 消費で低下 | 炎症では急性期蛋白として上昇するため、敗血症では当てにならない |
| AT | 消費・分解で低下 | 敗血症では低下するが、血液疾患では合併症がない限り低下しない |
| TAT/SF/F1+2 | トロンビン産生そのもの(過凝固マーカー) | 鋭敏だが院内検査化されていない施設が多い |
FDPとD-ダイマーの違いは押さえておく価値があります。FDPはフィブリノゲンの分解産物も拾うので一次線溶でも上昇し、D-ダイマーは架橋されたフィブリンが溶けたときだけ上がる。だからFDPだけが突出して高いときは、線溶亢進型を疑う手がかりになります。
ATについても一言。ガイドラインは「敗血症のDICではアンチトロンビンが低下するが、血液疾患のDICでは感染症や肝疾患の合併がない限りアンチトロンビン活性は低下しないのでアンチトロンビン製剤を使用する機会は限定される」と明記しています。AT製剤の保険適用はAT活性70%以下なので、そもそも適応にならないことが多い。
5診断基準が5つもある理由
ここまで来ると、診断基準の乱立が「混乱」ではなく「必然」に見えてきます。
理由①:ゴールドスタンダードが存在しない
DICには確定診断となる検査が存在しません。病理学的に微小血栓を証明するしかないが、生きている患者ではできない。だからすべての基準がスコアリングによる「推定」です。
理由②:基礎疾患によって「使えない項目」が違う
これが本質です。【4】の表を思い出してください。
- 炎症があるとフィブリノゲンが上がる→ だからJAAM基準はフィブリノゲンを評価しない。
- 造血器腫瘍・化学療法後は血小板が産生障害で下がる→ だから旧厚生省基準は血小板数を評価しない。
つまり、どの基準も「特定の基礎疾患で嘘をつく項目」を外して作られている。だから万能な基準が作れないのです。
旧厚生省基準:最も広く認知され使用されている。作成時に解析されたDIC症例の約40%が固形がん。血小板を評価しない設計 → 造血器腫瘍・固形がん向き
ISTH overt DIC基準:海外の標準。血小板数も評価する。ただしFDPのカットオフ値が「中等度増加」「著明増加」と明確化されておらず、スコアリングに客観性を欠く
JAAM DIC基準:敗血症・救急領域のDICを高感度で診断できる。ただしSIRS以外の基礎疾患には適応できない
JSTH DIC基準2017年版:旧基準の感度・特異度を改善する目的で作成。TAT・SF・F1+2などの過凝固マーカー、AT、血小板減少率を追加し、基礎疾患ごとに評価項目を切り替える(基本型/造血障害型/感染症型)。多施設前向き研究ではISTH overtより診断率が高かった。課題は分子マーカーが院内で測れない施設が多いこと
SIC(sepsis-induced coagulopathy)基準:ISTHが2019年に発表。SIC → overt DIC の2段階で診断を進めることを提唱
現場はどう思っているか
2010年の調査が示唆的です。今後望まれる診断基準として、「従来のままでよい」15%、「従来の基準を改良したもの」21%に対して、68%の医師が「基礎疾患別の診断基準」を要望していました。病院の規模による差はなく、ガイドラインはこれを「わが国の臨床医のある程度の総意」と評しています。
DIC診療ガイドライン2024が基礎疾患別の構成をとっているのは、この声への回答です。
DICは代償期(non-overt DIC)と非代償期(overt DIC)に分けられます。日本では非代償期の診断にISTH overt DIC基準、代償期の診断にJAAM DIC基準が広く用いられてきました。「まだ検査値が動ききっていない段階で拾えるか」が、基準ごとの思想の違いです。
6血小板が下がった=DICではない
ここは救急・集中治療で最も実害が出るところなので、独立させます。
DICの診断は検査値異常に基づいて行われるため、類似する検査値を呈する病態が誤って診断されてしまうリスクがあります。ガイドラインは特に「JAAM基準やSIC基準のように検査項目が少ない診断基準を用いる際にはこの点に注意が必要」と警告しています。項目が少ない=拾いやすい=間違えやすい。
図3:敗血症に伴う血小板減少の鑑別フローチャート
- まずPT比とFDPを見る敗血症に伴う血小板減少を見たら、凝固系が動いているかを確認する。
- 凝固異常があればDICでよいPT比≧1.2 かつ FDP≧10 μg/mL なら、敗血症性DICと考えてよい。
- なければ溶血を探す微小血管障害性溶血性貧血の所見——LD上昇、ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下、破砕赤血球。
- 溶血あり → TMA群TTP、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、STEC-HUS、二次性TMA(妊娠、膠原病、抗リン脂質抗体症候群、移植後、悪性腫瘍、薬剤性)。
- 溶血なし → その他HIT、ITP、血球貪食症候群、急性電撃性紫斑病、重症熱性血小板減少症候群など。
TTPとHITでは、濃厚血小板輸血により予後が悪化することが知られています。血小板が下がっているから輸血、という反射が最も危険な場面です。
「臨床経過が典型的でない場合は適宜見直すこと」——ガイドラインの図にも、この一文が添えられています。
7治療——基礎疾患が9割
治療は4本柱です。①基礎疾患の治療 ②抗凝固療法 ③補充療法 ④その他。
そして「基礎疾患の治療は何よりも優先される」。ガイドラインの表現はここだけ断定調です。抗凝固薬をどれにするかで悩む前に、感染源を叩けているか、腫瘍の治療が始まっているか、出血が止まっているか。
ここでは救急で遭遇する頻度の高い敗血症・外傷・産科の3つに絞ります。
敗血症性DIC——日本では「強い推奨」が2つある
5つのRCT・391例が解析対象。全原因死亡はRR 0.67(95%CI 0.52–0.85)、1,000人あたり147人の減少。出血性合併症は増加せず(RR 1.18)、DIC離脱はRR 4.08。
投票は1回目で「強く推奨」64%と割れ、2回目で83%に達しています。用量はヘパリン併用のもと1,500単位(または30単位/kg)、産科的・外科的DIC等の緊急処置時は40〜60単位/kg。半減期は約60〜70時間と長く、投与開始後48時間以内に効果を評価して追加の要否を検討するのが望ましいとされます。
コストは添付文書どおりで約181,200円(1,500単位を3日間)。
4つのRCT・1,527例。全原因死亡はRR 0.85(95%CI 0.71–1.01)、1,000人あたり39人の減少。信頼区間が1をまたいでいる点は正直に読む必要がありますが、DIC離脱はRR 1.33(1.01–1.75)で有意。出血性合併症はRR 1.31で悪化なしと判断されています。
用量は380 U/kg(重篤な腎機能障害では130 U/kg)を1日1回、約30分で点滴静注。コストは約236,400円(6日間)。投票は1回目で「強く推奨」91%。
2019年の多国籍第III相試験SCARLETは、rTMの死亡改善を証明できませんでした。ガイドライン自身も「決定的な結論を得ることはできなかった」「現時点で国内の診療現場においてその使用については議論が続いているところ」と書いています。
そのうえで4試験を統合すると死亡が減る方向に振れ、DIC離脱では有意差がつく。単一の陰性試験ではなくエビデンス総体で判断した結果、強い推奨になった——という読み方が正確です。
一方で、はっきり「わからない」とされたものもあります。AT製剤とrTMの併用療法(有用性は明らかでない)、どちらを先に使うか(明らかでない)、ヘパリン類(明らかでない)、蛋白分解酵素阻害剤(明らかでない)。併用は日本の現場でよく行われていますが、RCTは一つも実施されていません。
外傷——まず「抗凝固しない」
外傷は敗血症と真逆の顔をしています。
ISTHの2020年共同声明が整理しています。trauma-induced coagulopathy(TIC)とtrauma-induced DICは独立した病態ではない。TICはtrauma-induced DICに加えて、希釈・低体温・アシドーシス等に起因する二次性凝固障害を含み、TICが重症化した病態がtrauma-induced DICである。
敗血症性DICでは線溶系が高度に抑制されているため出血傾向は比較的軽度で、臓器不全が主たる表現型でした。外傷では逆に、受傷後早期には線溶系反応が抑制されておらず、出血傾向が臨床症状の中心になります。時間経過とともに線溶は抑制されていきますが、出血リスクは一定期間残ります。
外傷によるDICの合併にかかわらず、十分な止血が確認できていない外傷患者に対して抗凝固療法を行わない。
やることは補充と抗線溶です。
- 新鮮凍結血漿を早期に(GRADE 1B・強く推奨)受傷直後にDICを含む凝固線溶異常を発症している、もしくは発症が予測される患者に。
- クリオプレシピテート/フィブリノゲン濃縮製剤を併用(GRADE 2B・弱く推奨)FFPとともに用いる。
- 活性型第VII因子製剤は推奨しない(GRADE 2D)死亡増加・血栓性合併症増加の可能性がある。
- トラネキサム酸を速やかに(GRADE 1B・強く推奨)CRASH-2の投与法は1gを10分で投与後、さらに1gを8時間かけて持続静注。受傷後3時間以内。
なお、フィブリノゲン濃縮製剤と活性型第VII因子製剤の外傷への投与は保険適応外です。
産科——病型が二手に分かれる
産科DICは、【3】の線溶の話がそのまま診療に直結する領域です。
| 病型 | 基礎疾患 |
|---|---|
| 線溶亢進型(=産科DIC) | 常位胎盤早期剝離、羊水塞栓症、分娩後異常出血 |
| 線溶抑制型 | 敗血症、妊娠高血圧腎症、HELLP症候群 |
線溶亢進型は改訂版産科DIC診断基準で診断します。JAAM基準でもISTH基準でもありません。
治療の推奨は、フィブリノゲン製剤(低フィブリノゲン血症を伴う大量出血)が弱く推奨(GRADE 2D)、トラネキサム酸(分娩後異常出血に早期)が弱く推奨(GRADE 2C)、AT製剤が弱く推奨(GRADE 2C)。rTMは補充療法で止血しない場合に考慮してもよい、活性型第VII因子製剤は補充療法もDIC治療薬も効かず生命の危機にある場合に血栓症へ留意して考慮してもよい、とされています。
補充療法のトリガーと目標
| 項目 | トリガー | 目標 |
|---|---|---|
| 血小板 | 3万/μL | 5万/μL以上(少なくとも3万以上) |
| フィブリノゲン | 100〜150 mg/dL | 150 mg/dL |
| PT-INR | 2.0 | 1.5 |
根拠は「30%ルール」——生理的な止血効果を期待するための凝固因子の最少の血中活性値は正常値の30%程度、という考え方です。FFPは8〜12 mL/kgで血中レベルが約20〜30%上昇します。
「補充は火に油では」という懸念は昔からありますが、ガイドラインは「臨床的には証明されていない」としています。ただしTTPやHITでは血小板輸血で予後が悪化するので、【6】の鑑別が前提です。
8JAAM-2診断基準(2025年改訂)
ここまで読んだ後だと、この改訂の意味がよく分かります。
2025年6月9日、日本救急医学会が改訂版急性期DIC診断基準(JAAM-2 DIC診断基準)を公開しました。理由は明快で、策定から18年が経過し、SIRSスコアが臨床使用されなくなったことです。
| 項目 | 点 | 旧JAAM | JAAM-2 |
|---|---|---|---|
| 血小板数 | 3 | < 80×10⁹/L または24hで>50%減少 | 同じ |
| 血小板数 | 1 | ≧80, <120×10⁹/L または24hで30–50%減少 | 同じ |
| FDP または D-ダイマー | 3 | ≧25 μg/mL | 同じ |
| FDP または D-ダイマー | 1 | ≧10, <25 μg/mL | 同じ |
| PT比 | 1 | ≧1.2 | 同じ |
| SIRSスコア | 1 | ≧3 | 評価しない |
| DIC陽性の基準点 | — | 4点以上 | 3点以上 |
やったことは2つだけ。SIRSを外し、カットオフを4点から3点に下げた。残った3項目——血小板・FDP/D-ダイマー・PT比——は、【2】で見た「消費」と「線溶」をそのまま測っています。
DPCにおけるDICコーディングルールで使用する診断基準をJAAM-2へ差し替える件は、厚労省と協議中とされています。診断基準の変更が保険請求に直結する話なので、続報は追っておく価値があります。
原著は Yamakawa K, Umemura Y, Mochizuki K, et al. Thromb Haemost. 2024;124(11):1003-1012.
なお、ネット上の解説記事に「4点以上でDIC」と書いているものを見かけますが、公式文書の基準点は3点以上です。
9結局どう動くか
- 「何のDICか」を先に決める基礎疾患が特定できていなければ、DICの診断も治療も始まりません。敗血症か、腫瘍か、外傷か、産科か。
- 病型を当てる臓器障害が前面(線溶抑制型)か、出血が前面(線溶亢進型)か。ここで治療の向きが決まります。敗血症→抑制型、APL・大動脈・常位胎盤早期剝離→亢進型、が入口の目安。
- 基礎疾患に合った診断基準を選ぶ救急・敗血症ならJAAM-2やSIC。造血器腫瘍・固形がんなら旧厚生省基準やJSTH基準。産科の線溶亢進型なら改訂版産科DIC診断基準。
- DIC以外を除外する血小板減少=DICではありません。破砕赤血球・LD・ハプトグロビンを見る。TTP/HITに血小板を入れない。
- 基礎疾患を叩く何よりも優先。感染源、腫瘍、止血。
- 抗凝固を足すか決める敗血症性DIC → AT(AT活性70%以下)とrTMがともに強い推奨。外傷で止血未確認 → 抗凝固しない。産科は病型と出血の程度で。
- 補充する血小板3万、フィブリノゲン100〜150、PT-INR 2.0をトリガーに。
- 評価するATは投与開始後48時間以内に効果を評価。漫然と続けない。
やりがちな失敗
・「血小板が下がった=DIC」で走る——TTP/HITを見逃すと、血小板輸血で悪化させる
・敗血症性DICでD-ダイマーが低いから軽い、と判断する——超重症例ほど上がらないことがある
・敗血症でフィブリノゲンが正常だから否定する——炎症で上がる急性期蛋白。JAAM基準が評価項目から外している理由がそれ
・止血が確認できていない外傷にDIC治療として抗凝固する——明確に「行わない」とされている
・APLの出血に反射的にトラネキサム酸——ATRA併用中は禁忌。致死的血栓症の報告あり(GRADE 1C・強く推奨しない)
・血液疾患のDICにAT製剤——感染症や肝疾患の合併がなければAT活性は下がらず、保険適用にもならないことが多い
・DICと診断して満足する——DICは病名ではない。基礎疾患が9割
1. DICは病名ではなく、基礎疾患があって初めて成立する状態。「DICです」は診断の始まり。
2. 入り口は組織因子ひとつ。細胞が壊れて出るか、サイトカインが作らせるか。
3. 凝固亢進の結果として凝固できなくなる(消費性凝固障害)。だから臓器障害と出血が同居する。
4. 顔つきを決めるのは線溶。抑制型(敗血症)は臓器障害、亢進型(APL・産科・大動脈)は出血。ここが分かるとDICの曖昧さは大半が消える。
5. 診断基準が5つあるのは、基礎疾患ごとに嘘をつく検査項目が違うから。万能な基準は作れない。
6. 血小板減少=DICではない。TTP/HITに血小板を入れない。
7. 日本は敗血症性DICにATとrTMをともに強く推奨(GRADE 1B)。ただし併用も投与順もエビデンスはない。
8. 外傷は真逆。止血が確認できるまで抗凝固しない。
9. JAAM-2はSIRSを外して3点に。DPCのコーディングルール差し替えは協議中。
参考文献
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- 日本救急医学会:急性期DIC診断基準の改訂(JAAM-2 DIC診断基準)に関するお知らせ. 2025年6月9日.
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