今年も、あの季節が来ました。
熱中症は「よくある夏の病態」でありながら、重症例は数時間で多臓器不全に至る救急疾患です。日本では毎年1,000人を超える死者が出続けています。
そして2024年7月、日本救急医学会の『熱中症診療ガイドライン』が10年ぶりに改訂されました(G2024)。目玉は3つ。最重症の「Ⅳ度」新設、現場判定用の「qⅣ度」、そして冷却をActive/Passiveに整理し直したことです。この記事では、何が変わり、現場でどう動くかを、新しい判定プロトコルに沿って整理します。
症例
18歳の男性。夏の午後、屋外の部活動中に倒れた。
意識レベルはJCS 100、体は熱く乾いている。搬送した救急隊は「熱中症です」と言う。
最初にすべきことは何か。点滴? 採血? CT?――違います。まず冷やす。それも、できるだけ速く。
この記事でわかること
- G2024で新設された「Ⅳ度」と、現場判定用の「qⅣ度」の定義
- qⅣ度からⅢ度/Ⅳ度へ振り分ける判定プロトコル
- Active Cooling/Passive Coolingの区別と、目標38.0℃・0.15℃/分という数字
- 労作性と非労作性のちがい、そして熱中症を増悪させる薬剤
1重症度分類 ―Ⅲ度が細分化され、Ⅳ度が生まれた
G2024では、2015年版のⅢ度が細分化され、その最重症部分がⅣ度として独立しました。
図1:熱中症の重症度分類(G2024)
Ⅳ度の定義は、膀胱温や直腸温などの深部体温40.0℃以上、かつGCS 8以下(意識障害)。この2つを満たすものです。
数字が、その重みを裏づけています。Heatstroke STUDYのデータで、Ⅳ度の院内死亡率は23.5%。Ⅲ度に対する死亡オッズ比は4.5(95%CI 3.24–6.30)。つまり「Ⅲ度の中に紛れていた、桁違いに危ない一群」を拾い上げたのがⅣ度です。
2qⅣ度 ―「深部体温が測れない現場」のための概念
そのとおりで、現場や搬送中、来院直後には深部体温がすぐ測れないことが多い。そこで導入されたのがqⅣ度(quick Ⅳ)です。
qⅣ度の判定(深部体温の測定不要)
表面体温40.0℃以上(もしくは皮膚に明らかな熱感あり)
かつ
GCS 8以下(もしくはJCS 100以上)
つまり、「明らかに熱くて、意識がしっかり落ちている」なら、深部体温を待たずにqⅣ度と判定し、直ちに動く。これがqⅣ度の思想です。
3qⅣ度からの判定プロトコル ―Ⅲ度 or Ⅳ度へ
qⅣ度は「暫定」であり、そこから深部体温を測って確定させます。この流れが、G2024で明文化されました。
図2:qⅣ度からの判定プロトコル
ポイントは、確定を待って冷却を遅らせないこと。qⅣ度と思ったら、深部体温の結果が出る前から冷やし始める。順序が命です。
4Active Cooling と Passive Cooling ―冷却の再定義
G2024は、冷却を2つに明確に分けました。
- Active Cooling(積極的冷却)― 重症例(Ⅲ〜Ⅳ度)向け冷水浸漬、蒸散冷却、胃洗浄・膀胱洗浄などの局所冷却、血管内冷却(サーモガードなど)、そしてECMO。能動的な手段で積極的に体温を下げる。
- Passive Cooling(受動的冷却)― 軽症例(Ⅰ〜Ⅱ度)向け涼しい環境での休息、水分・電解質補給など。冷却輸液もここに含まれる(能動的に見えるが、有効性のエビデンスが乏しく推奨度が低いため)。
重症はActive、軽症はPassive――この対応づけが、新しい共通言語になりました。
5どう冷やすか ―目標体温と冷却速度が明示された
G2024は、具体的な数字を出しました(いずれも弱い推奨だが、明示された意義は大きい)。
2つの数字
目標体温:38.0℃ ここまで下げたら積極的冷却を中止する。冷やしすぎ(低体温)を防ぐための終点。
冷却速度:0.15℃/分以上 これを下回る手段では、重症例には速度が足りない。
図3:主な冷却法と冷却速度の目安
国際的にも数字が揃ってきています。冷水浸漬(CWI)の冷却速度は約0.20℃/分(報告により0.20〜0.35℃/分)とされ、労作性熱中症のゴールドスタンダードです。マラソンの医療記録では、CWIで治療された労作性熱中症の生存率100%という報告もあります(Falmouth Road Race、n=274)。
CWIが人手・設備の関係で難しい現場では、氷水に浸したタオル/シーツを回転させる方法(ice sheets)が代替として使えます。冷却速度はCWIに劣る(約0.12℃/分程度)ものの、少人数で展開でき、モニタリングもしやすい。近年の観察研究でも実用性が支持されています。
6cool first, transport second ―冷やしてから運ぶ
国際的に確立しつつある原則が、「冷やしてから運ぶ」です。
労作性熱中症では、深部体温が高いまま搬送に時間をかけると予後が悪化します。だから「とにかく早く病院へ」ではなく、現場で冷却を始め・続け、深部体温を下げてから搬送する。直感に反しますが、ここが労作性熱中症の勝負どころです。
G2024でも搬送前の冷却は「有用」とされています(明確な強い推奨には至っていないものの、方向性は同じ)。
7労作性 vs 非労作性 ―まったく違う二つの顔
同じ「熱中症」でも、背景がまるで異なる2タイプがあります。
| 項目 | 労作性(exertional) | 非労作性(classic) |
|---|---|---|
| 典型例 | 若年・スポーツ・炎天下労働 | 高齢者・基礎疾患・エアコンなし室内 |
| 主因 | 内因性の熱産生 | 環境からの受動的熱負荷 |
| 発汗 | 保たれることが多い | 乏しい |
| 随伴 | 横紋筋融解・急性腎障害 | 脱水・電解質異常 |
| 冷却 | CWIが最優先 | 蒸散冷却+全身管理 |
| 特徴 | cool first, transport second | 熱波で多発・死亡率が高い |
日本の死亡例の大半は非労作性です。発症に気づかれにくく、基礎疾患・常用薬が悪化因子になります。
8熱中症を増悪させる薬剤
高齢者の非労作性熱中症では、常用薬が発症・重症化の隠れた要因になります。機序ごとに整理します。
注意すべき常用薬
- 抗コリン薬(第一世代抗ヒスタミン薬、三環系抗うつ薬、過活動膀胱治療薬など)… 発汗抑制で熱放散を妨げる
- 利尿薬… 脱水・電解質異常を助長
- β遮断薬… 皮膚血流・心拍応答を抑制し、熱放散と代償を妨げる
- 抗精神病薬… 体温調節中枢への影響、発汗抑制
- SGLT2阻害薬… 浸透圧利尿による脱水リスク
- リチウム… 脱水で血中濃度が上昇し中毒リスク(熱中症と相互に悪化)
- 交感神経刺激薬・カフェイン・アルコール… 熱産生増加や利尿
「その高齢者、何を飲んでいますか」――お薬手帳の確認が、熱中症診療の一部になります。
9やりがちな失敗
やりがちな失敗
点滴・採血を優先して冷却が後回し(最優先は冷却)/受動的冷却だけで満足(重症例では0.15℃/分に届かない)/腋窩温で軽症と誤認(深部体温で評価。qⅣ度なら深部体温測定へ)/38.0℃を通り越して冷やしすぎる(低体温に振れる)/労作性で「早く搬送」を優先し、現場で冷やさない(cool first)/常用薬を確認しない(抗コリン薬・利尿薬などの増悪因子を見逃す)。
=まとめ
Take home
Ⅳ度は「深部体温40℃以上 × GCS 8以下」。院内死亡率23.5%の、最重症群。現場では深部体温が測れないので、qⅣ度(表面体温40℃以上/熱感 × GCS8以下 or JCS100以上)で拾い、確定を待たずに冷やし始める。
冷却はActive(重症)とPassive(軽症)に整理され、目標38.0℃、速度0.15℃/分以上という数字が明示されました。労作性ではCWIで、cool first, transport second。一方、日本で命を奪うのは高齢者の非労作性で、こちらは常用薬まで含めた全身管理が要ります。
「熱中症」の一語に、部活の高校生と独居の高齢者という二つの顔がある。見分けて、最初の一手を「冷却」に置けるか。それがこの疾患の分かれ目です。
参考文献
- 日本救急医学会 熱中症および低体温症に関する委員会. 熱中症診療ガイドライン2024. 2024.
- 熱中症診療ガイドライン2024の作成経緯とその特徴. 保健医療科学. 2025;74(2):112-.
- Casa DJ, et al. Cold-water immersion in the treatment of exertional heat stroke at the Falmouth Road Race. Med Sci Sports Exerc. 2015;47:240-245.
- Stearns RL, et al. Cooling modality effectiveness and mortality associated with prehospital care of exertional heat stroke. J Emerg Med. 2024;66:e397-e399.
- Exertional Heat Stroke: Are We Cool Enough? J Emerg Med. 2025;71:44-53.
- Eifling KP, et al. Wilderness Medical Society Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Treatment of Heat Illness: 2024 Update. Wilderness Environ Med. 2024;35(1_suppl):112S-127S.
