ER-症候別

外傷性凝固障害(TIC)と対応策

外傷における出血は依然として防ぎうる死因の筆頭であり、その中核にあるのが外傷性凝固障害(trauma-induced coagulopathy: TIC)である。TICは単なる「血が止まりにくくなる病態」ではなく、時間とともに性質を変える動的な病態で、対応もプレホスピタルから病院内まで一貫した戦略が求められる。

本稿では2026年2月に発表されたnarrative review(Kwon J, Kang BH. Acute Crit Care 2026;41(1):47-57)をもとにTICと止血蘇生の全体像を整理し、そのうえで日本輸血・細胞治療学会ほか計9学会による「大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用のガイドライン(第2版)」(2025年12月)が何をどう推奨しているかを重ねる。海外の総説の記述をそのまま持ち込むと、日本では保険適用外どころか適応外投与を非推奨としている箇所があるため、この突き合わせは実務上ほぼ必須の作業になる。

なお、プレホスピタル全血輸血をめぐる2026年の2本の大規模RCT(米国TOWAR試験、英国SWiFT試験)は本稿では扱わない。姉妹記事「プレホスピタル全血輸血は成分輸血に勝てなかった――TOWAR試験(NEJM 2026)」で詳しく扱う。

この記事でわかること

  • TICが「早期の低凝固相」と「後期の過凝固相」を持つ動的な病態だということ
  • プレホスピタルでの止血蘇生の考え方(圧迫止血・ターニケット・TXA・血液製剤)
  • 病院内でのdamage control resuscitationと、固定比率輸血 vs goal-directed therapy
  • 日本のガイドライン第2版が第1版から何を変えたか
  • フィブリノゲン濃縮製剤・PCC・TEG/ROTEMの日本での適応の実情
  • 海外総説の補充プロトコルをそのまま使えない理由

1TICとは何か

TICは受傷早期の低凝固相(early TIC、出血傾向)と、時間経過後の過凝固相(late TIC、血栓傾向)という二相性の病態を持つ。ただし原著は、この相転換が分単位から日単位まで大きく幅を持つことを明記しており、6時間・24時間といった時間で機械的に区切れるものではない。

機序は単一ではなく、蛋白C経路の活性化、組織因子、内皮障害、トロンビン産生障害、フィブリノゲン欠乏、血小板機能異常、線溶調節障害が複合する。同じような出血傾向でも背景の機序が異なりうることが、診断と標的治療を難しくしている。

図1:受傷からの時間経過とTICの相転換

時間過凝固(血栓傾向)低凝固(出血傾向)受傷早期TIC(出血傾向)転換時期:6〜24時間(幅あり)後期TIC(血栓傾向)Kwon & Kang. Acute Crit Care 2026;41(1):47-57 Figure 1に基づく著者作成の簡略図。分単位から日単位まで幅があり、機械的に時間で区切れるものではない

項目 過去の理解 現在の理解
用語 重度出血傾向・defibrination syndrome・acute traumatic coagulopathy trauma-induced coagulopathy(TIC)
原因 出血そのもの 組織損傷とショック
機序 凝固因子の消費性喪失、輸液・輸血による希釈 蛋白C経路の活性化、トロンビン産生障害、フィブリノゲン欠乏、血小板機能異常、線溶調節障害
表現型 死の三徴(低体温・アシドーシス・凝固障害) 早期TIC=低凝固、後期TIC=過凝固

表1:TICの概念の変遷(Kwon & Kang Table 1に基づく)

古典的な死の三徴(低体温・アシドーシス・凝固障害)に、大量輸血中に見落とされやすい低カルシウム血症を加えた「diamond of death(死のダイヤモンド)」という捉え方も定着しつつある。血清カルシウムの迅速な評価と早期補正は、大量輸血症例では特に意識したい。

2プレホスピタルでの止血蘇生

圧迫止血とターニケットが最も基本かつ効果の確立した手段である。米国では市民による早期止血を狙い、AEDの隣に止血キットを設置する Stop the Bleed キャンペーンが進んでいる。

輸液は晶質液が基本で、ヒドロキシエチルデンプンは使用しない。ただしプレホスピタルでの晶質液大量投与は予後不良と関連しており、近年その使用量は減っている。

トラネキサム酸(TXA)

CRASH-2試験は外傷性出血患者の死亡を減らし血栓性合併症を増やさなかった。一方CRASH-3試験は、主要評価項目である頭部外傷関連死ではリスク比0.94(95%CI 0.86-1.02)と全体としては有意差を示せず、有意な効果はGCS 9-15の軽症〜中等症サブグループ(リスク比0.78、95%CI 0.64-0.95)で認められたものである。さらにPATCH-Trauma試験(NEJM 2023;389:127-36)は6か月時点の機能予後を改善しなかったが、24時間および28日の生存は改善したと報告している。「TBIに効く」と一括りにできる話ではない。

日本のガイドラインとEMSの実情

日本輸血・細胞治療学会ほか9学会のガイドライン第2版は、外傷性出血を伴う成人に対して重症度に関係なく可能な限り早期(受傷後3時間以内が望ましい)の静脈内投与を弱く推奨している(2B)。

ただし日本の救急救命士の処置範囲(現行33行為)に薬剤投与として含まれるのはエピネフリン(心肺停止症例)、ブドウ糖溶液(低血糖)、乳酸リンゲル液(静脈路確保・輸液)のみで、トラネキサム酸は現行にも規制改革推進会議での拡大検討項目(アナフィラキシーへのアドレナリン筋注、超音波検査)にも入っていない。原著が韓国のEMSでも未導入と指摘しているのと同じ状況である。日本でTXAを「早く」投与するとは、病院到着後いかに早く投与するかという話になる。

血液製剤の位置づけ

プレホスピタルの血液製剤投与は、実は一貫した結果が出ていない分野である。プレホスピタル赤血球単独投与は2017年のシステマティックレビューで生存benefitを示せず、その後の後ろ向き研究でも院外死亡や貧血は改善しうるが全体の生存は改善しないとされている。血漿については、空路搬送で生存benefitを示したPAMPer試験(NEJM 2018;379:315-26)がある一方、陸路搬送で行われたCOMBAT試験(Lancet 2018;392:283-91)では同様の結果が得られていない。搬送時間が20分を超える場合に有益かもしれないという事後解析もある。フィブリノゲンの早期投与も、凝固塊の安定性は改善するがメタ解析では臨床的benefitを示せていない。

全血輸血について、本総説は「臨床的利点が次第に認識され、院外だけでなく院内蘇生への応用研究も進んでいる」と前向きに評価している。ただしこの総説は2025年10月受理・2026年2月掲載で、その後に発表された英国SWiFT試験(2026年3月)と米国TOWAR試験(2026年6月)を反映していない。この2本はいずれも成分輸血に対する優越性を示せなかった。詳細は姉妹記事「プレホスピタル全血輸血は成分輸血に勝てなかった――TOWAR試験(NEJM 2026)」を参照されたい。

3病院到着後:damage control resuscitation

ATLS第11版(2025年)に沿って、外部の致死的出血の制御を最優先に据えたうえで気道・呼吸・循環へ進む。damage control resuscitationの骨格は、permissive hypotension(許容的低血圧)、damage control surgery(損傷制御手術)、晶質液を抑えた早期輸血の3つである。

permissive hypotensionは、高い血圧を得るために大量輸液が必要になること、血圧上昇が形成された血栓を剥がしうることを根拠とする。ATLS第11版は根治的止血までは収縮期血圧90mmHg前後を目安としているが、頭部外傷・脊髄損傷・高血圧既往の患者ではより高い血圧が適切な場合がある。低血圧を許容している間は、バイタルだけでなく検査値・尿量・皮膚灌流(毛細血管再充満時間)で臓器灌流を繰り返し評価する。

図2:プレホスピタルから病院到着後、粘弾性検査の可否による止血戦略の分岐

プレホスピタル(圧迫止血・TXA)病院到着(xABCDE)粘弾性検査(TEG/ROTEM)は使えるか使えない使える固定比率輸血(MTP)FFP:PC:RBC=1:1:1を目標迅速だが過剰輸血のリスクgoal-directed therapy個別化した標的補充日本では普及が一部施設のみKwon & Kang Figure 2、および日本輸血・細胞治療学会ガイドライン第2版に基づく著者作成の簡略図

4固定比率輸血とgoal-directed therapy

大量輸血は24時間以内に赤血球10単位を超える投与と定義される。MTP(大量輸血プロトコル)は製剤を一定比率のパックとして迅速に届けるための仕組みで、検査結果を待たずに動ける点が最大の利点である。反面、過剰輸血のリスクを伴う。

PROPPR試験は1:1:1と1:1:2を比較し、全体死亡に差はなかったものの1:1:1で出血による死亡が少なかった。ここが日本のガイドライン第2版で動いた点である。第1版(2019年)はFFP:PC:RBC=1:1:1を目標とし少なくとも1:1:2以上を維持することを強く推奨(1C)していたが、第2版は「FFP:PC:RBC=1:1:1を早期の目標とし、少なくともFFP/RBC比≧0.5、PC/RBC比≧0.5を維持できるように投与する」として推奨度を弱い推奨(2C)に変更している。

第1版から第2版への変化

推奨度:1C(強い推奨)→ 2C(弱い推奨)
比率の下限の表現:「1:1:2以上を維持」→「FFP/RBC比≧0.5、PC/RBC比≧0.5」

数値の意味は近いが、より個別化の余地を残す表現に変わっている。

これに対し、TEGやROTEMなどの粘弾性検査に基づくgoal-directed therapyは、個々の凝固プロファイルに応じた個別化を可能にする。従来の凝固検査は結果までに最大60分かかり、凝固塊の質や血小板機能を評価できないため、初期蘇生の局面では使いにくい。粘弾性検査は線溶亢進の検出や標的を絞った補充に向く一方、専用機器が必要で治療開始が遅れる可能性がある。

エビデンスは割れている。Gonzalezらの単施設RCT(Ann Surg 2016;263:1051-9)は生存改善と輸血量減少を報告したが、多施設のITACTIC試験(Intensive Care Med 2021;47:49-59)は28日死亡率の有意な減少を示せなかった。ただしその二次解析(Anesthesiology 2024;141:904-12)で、指示されたgoal-directed治療を実際には受けていなかった患者が多く、受けた患者では死亡率が低かったことが判明している。2025年のCochraneレビュー(CD012635)は、粘弾性検査ガイド輸血と従来法で死亡率・血栓塞栓症に有意差なしと結論した。

日本のガイドライン第2版は、外傷性大量出血に対して血液粘弾性検査の使用を弱く推奨(2C)しつつ、日本では普及が一部の医療機関にとどまると明記している。

項目 固定比率輸血 goal-directed therapy
アプローチ empiric(経験的) individualized(個別化)
利点 迅速、標準化しやすい、出血時の血液組成を模倣 過剰輸血の抑制、線溶亢進の検出、標的を絞った補充
欠点 過剰輸血のリスク 専用機器が必要、治療開始が遅れる可能性

表2:固定比率輸血とgoal-directed therapyの比較(Kwon & Kang Table 3に基づく)

5日本で使える手札を確認する

海外の総説には、TEG/ROTEMの数値に応じた具体的な補充プロトコルが示されている。ただしそのまま日本に持ち込めない部分がある。

フィブリノゲン濃縮製剤

日本の保険適用は先天性低フィブリノゲン血症産科危機的出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症に限られ、外傷は適用外である。それでもガイドライン第2版は、血漿フィブリノゲン濃度150mg/dL以下、またはそのリスクが高いと判断される外傷症例に対して、フィブリノゲン濃縮製剤またはクリオプレシピテートの投与を弱く推奨している(2C、適応外投与という前提での推奨)。クリオプレシピテートは各施設の院内調製によってのみ使用可能という制約もある。

プロトロンビン複合体製剤(PCC)

海外の総説はTEGのCK-R延長やROTEMのEXTEM CT延長に対してPCC 20-25 IU/kgを挙げているが、日本のガイドライン第2版は「外傷性大量出血症例に対して、適応外でのPCC投与をしないことを弱く推奨する(2C)」としている。抗凝固薬内服中の患者への拮抗という文脈(こちらは強く推奨)とは切り分けて考える必要がある。

粘弾性検査の所見 海外総説が挙げる対応 日本での適応・位置づけ
TEG CK-R延長 / ROTEM EXTEM CT延長 FFP 10-15mL/kg、PCC 20-25 IU/kg FFPは可。PCCは外傷での適応外投与を弱く非推奨(2C)
TEG CFF-MA低下 / ROTEM FIBTEM CA10低下 フィブリノゲン濃縮製剤3-6g、クリオ2-4単位 外傷は保険適用外。ガイドラインは適応外投与を弱く推奨(2C)
TEG CRT-MA低下 / ROTEM EXTEM CA10低下 血小板アフェレーシス1-2単位 保険診療内で投与可能
TEG CK LY30高値 / ROTEM APTEM CT短縮 トラネキサム酸15-20mg/kg 保険診療内で投与可能。受傷3時間以内が望ましい(2B)

表3:粘弾性検査に基づく補充の目安と、日本での実施可否(Kwon & Kang Table 2、および日本輸血・細胞治療学会ガイドライン第2版に基づく著者作成)

6結局どう動くか

  • プレホスピタルでは圧迫止血とターニケットを核とする。TXAは受傷3時間以内の投与が望ましいが、日本では病院到着後にいかに早く投与するかという設計になる
  • 病院内では、まず自施設のMTPの比率設定を確認する。第2版はFFP/RBC比≧0.5・PC/RBC比≧0.5という下限の表現に変わっており、パックの設計を見直す機会になる
  • 粘弾性検査が使える施設では、固定比率で走りながら並行して評価し、次のパックの前に補充内容を調整する。使えない施設では固定比率と従来の凝固検査で進める形になるが、第2版が粘弾性検査を弱い推奨にとどめている以上、機器がないことを過度に不利と考える必要はない
  • フィブリノゲン濃縮製剤とPCCは、日本での適応と院内の運用ルールを事前に確認しておく。特にPCCは国内ガイドラインが外傷での適応外投与を非推奨としている点を、チームで共有しておきたい
  • 大量輸血中は死の三徴に加えて血清カルシウムを測り、早期に補正する

7やりがちな失敗とTake home

1TICを単一の病態と捉える

早期の低凝固と後期の過凝固で対応が変わるという視点が抜け落ちると、経過中の凝固管理を誤りやすい。

2海外総説の補充プロトコルをそのまま持ち込む

特にPCCとフィブリノゲン濃縮製剤は、日本での適応(適応外・保険適用外)を確認せずに使うと、国内ガイドラインの非推奨と矛盾する対応になる。

3固定比率で走り続けたまま検査結果を反映しない

粘弾性検査や凝固検査の結果を無視して過剰輸血に気づかないことがある。

4カルシウム補正を後回しにする

大量輸血中のdiamond of death(死のダイヤモンド)の一角であり、見落とされやすい。

Take home

  1. TICは早期の低凝固相と後期の過凝固相を持つ動的な病態で、相転換の時期には大きな個人差がある。死の三徴に低カルシウム血症を加えたdiamond of deathを意識する
  2. 日本のガイドライン第2版(2025年12月)は、固定比率輸血の推奨度を1Cから2Cへ下げ、比率の下限をFFP/RBC比≧0.5・PC/RBC比≧0.5という表現に変えた
  3. 粘弾性検査は弱い推奨(2C)で、日本では普及が限定的であることも明記されている
  4. フィブリノゲン濃縮製剤は外傷で保険適用外、PCCは外傷での適応外投与が非推奨(2C)。海外総説の補充プロトコルをそのまま使わない

プレホスピタル全血輸血をめぐる2026年の大規模RCTについては、姉妹記事「プレホスピタル全血輸血は成分輸血に勝てなかった――TOWAR試験(NEJM 2026)」で扱う。

参考文献
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  • 厚生労働省医政局. 救急救命処置の範囲の拡大について(規制改革推進会議提出資料).
  • American College of Surgeons. Advanced Trauma Life Support (ATLS). 11th ed. 2025.
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