循環器

非循環器医による非循環器医のための心不全診療④ーGDMT

ACE阻害薬を最大量まで上げてから、次にβ遮断薬を最大量まで――という「1剤ずつ目標用量に到達させてから次へ」という組み立て方は、もう最新版ではない。

このシリーズは、2025年3月に発行・同年12月に更新された「心不全診療ガイドライン」(日本循環器学会/日本心不全学会合同)をもとに、心不全の診療を組み立て直す全5回シリーズ。①ではクリニカルシナリオの相対化と3軸評価、②では急性期の薬物治療、③では診断(LVEFによる4分類、BNP、心エコー)を扱った。今回④は慢性期のGDMT(guideline-directed medical therapy)――HFrEFに対する4本柱、日本固有の用量・保険適用の事情――を扱う。

結論を先に言うと、4本柱は次の薬剤を始める前に目標用量まで上げきる必要はなく、できるだけ早期に導入するのが現在の原則であり、そのうえで慢性期の薬物治療に関わる範囲だけでも、推奨と保険適用がずれる箇所が4つあることを知っておく必要がある。

この記事でわかること

  • HFrEFの4本柱(ACE阻害薬/ARB/ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)をできるだけ早期に導入するという原則
  • 日本のβ遮断薬の維持量が海外試験の目標量より低いこと(MUCHA試験、J-CHF試験)
  • 慢性期の薬物治療に関わる範囲で、ガイドラインの推奨と日本の保険適用がずれている4か所
  • イバブラジンの日本の基準(心拍数75拍/分)が、SHIFT試験の登録基準(70回/分以上)と違う経緯
  • ベルイシグアト・ジゴキシン・経口強心薬など、GDMTでも症状が残る場合の二次治療薬

1「次の薬まで待つ」をやめる――GDMTは早期に

神経体液性因子の活性化が心筋リモデリングを進行させるという病態理解のもと、HFrEFの標準治療薬はACE阻害薬・ARBから始まり、ARNI、SGLT2阻害薬と対象が広がってきた。ガイドラインはこれらを「基本となる4種類の薬剤」としてまとめて扱っている(本記事ではこれを4本柱と呼ぶ)。

図1:4本柱の導入方法――「次に進む条件」がどう変わったか

従来:1剤が目標用量に到達してから、次の薬剤を開始ACE阻害薬/ARB/ARNIβ遮断薬MRASGLT2阻害薬時間 →現在:低用量で早期に開始し、並行して目標量まで増量していくACE阻害薬/ARB/ARNIβ遮断薬MRASGLT2阻害薬低用量で開始忍容性に応じて目標量まで増量時間 →推奨表19・図24を参考に作図。「次の薬剤を開始する前に目標用量を達成する必要はない」(本文)導入および至適用量への調整は、できるだけ早期に行う(クラスI・エビデンスレベルA)

ガイドラインの推奨表19は、「心不全患者において、GDMTの導入および至適用量への調整を、できるだけ早期に行う」ことを推奨クラスI・エビデンスレベルAとしている。さらに、退院時の移行期ケアの項でも「GDMTの導入をできるだけ早期に行い、至適用量への調整を退院後も継続して行う」ことが推奨クラスI・エビデンスレベルB-Rとされている。

変わったのは「次に進む条件」

ガイドラインの原文は、4剤を「慎重な注意を払いながら同時期に併用して、あるいは順次開始することができる。その順序は臨床的または他の要因によって決定されるが、次の薬剤を開始する前に目標用量を達成する必要はない」と書いている。つまり順次開始そのものが否定されたのではなく、「1剤目が目標用量に届くまで2剤目を始めない」という条件が外れたのが変化の中身である。低用量で開始し、そのうえで忍容性に応じて目標量まで増量していく。

根拠となったSTRONG-HF試験

推奨クラスI・Aの根拠の1つがSTRONG-HF試験である。高強度治療群では退院前2日以内に各薬剤を少なくとも推奨用量の半量まで増量し、退院後2週間以内に推奨用量まで増量、無作為化後1・2・3・6週にNT-proBNP測定を含むフォローアップ受診を行った。結果、180日後の心不全再入院と全死亡の複合エンドポイントが有意に低下し(特に再入院の減少が顕著)、重度の副作用の発生率は両群同等だった。

ただしガイドライン自身が留保を付けている

ガイドラインは続けて「STRONG-HF試験で用いられたプロトコールが日本の臨床現場でどの程度実践可能かは今後の検証が必要である」と書いている。退院前2日以内に半量、退院後2週間以内に目標量、その間に4回の外来受診というスケジュールは、日本の外来体制でそのまま再現できるとは限らない。「早期に」という方向性は動かないが、この密度をそのまま持ち込む話ではない。

2ACE阻害薬/ARB/ARNI

ACE阻害薬は禁忌に該当しないかぎりすべてのHFrEF患者に用いられるべき標準治療薬で、忍容性があるかぎり増量を試みる。ARBはACE阻害薬に忍容性がない場合の代替であり、両者の併用に付加的な有効性は確認されていない。

まず押さえるべきは「切り替え」がクラスI

ARNIはPARADIGM-HF試験でACE阻害薬(エナラプリル)を上回る生命予後改善効果を示した薬剤である。推奨表22は「ACE阻害薬(またはARB)が投与されている、NYHA心機能分類II-IIIの症候性心不全に対して、死亡や心不全リスクの低減を目的としてACE阻害薬(ARB)からARNIへ切り替えを行う」をクラスI・B-Rとしている。日常診療で出番が多いのはこちらで、後述の保険の話は「未使用例への新規導入」という別の場面の話である。

新規導入は添付文書上できない

わが国の添付文書の効能・効果に関連する注意には「本剤は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬から切り替えて投与すること」と明記されている。つまりACE阻害薬・ARB未使用の患者に最初からARNIを使う新規導入は保険適用外である。

一方でガイドラインは、海外ガイドラインの推奨をふまえ、急性非代償性心不全かつLVEF40%以下で血行動態が安定した後の退院前、NYHA心機能分類II〜III度の患者に対して、心不全再入院予防を目的とした第一選択薬としてARNIを投与することを推奨クラスIIa・B-Rとしている。背景にはPIONEER-HF試験があり、この試験の登録患者の約半数は、登録時点でACE阻害薬もARBも服用していなかった

「保険適用外」と書いてあるのはどこか

推奨表22のARNIの推奨に付いている「*」は保険適用の話ではなく、効能効果の範囲(成人は慢性心不全のうち標準的な治療を受けている患者に限る)を説明した注釈である。保険適用外であることを明示しているのは、心不全治療のアルゴリズム(図24)の脚注*3で、「ACE阻害薬/ARB未使用で入院例への導入も考慮(ただし、保険適用外)」と書かれている。推奨と保険のずれを確認したいときは、推奨表ではなく図24の脚注を見るのが早い。

3β遮断薬:日本の用量は海外試験の目標量より低い

β遮断薬は禁忌がないかぎり全例に導入する(推奨クラスI・エビデンスレベルA)。ただし効果はクラスエフェクトではないとされ、ガイドラインが挙げるのはカルベジロールとビソプロロールである。

表19:β遮断薬の用量・用法(日本)

薬剤名 開始用量 維持量・用法
カルベジロール 2.5 mg/日(重症例1.25 mg/日) 5〜20 mg/日、1日2回投与
ビソプロロール 0.625 mg/日(重症例0.3125 mg/日) 1.25〜5 mg/日、1日1回投与

わが国の保険適用上の最大用量はカルベジロール20 mg/日、ビソプロロール5 mg/日で、ガイドラインは「これ以上の用量についてはデータがない」としている。一方、海外の主要試験であるCOPERNICUS試験のプロトコルは、カルベジロールを1回25 mg・1日2回(50 mg/日)まで漸増するものだった(この用量はガイドライン本文には記載がなく、原著による)。日本の維持量の上限は、海外試験の目標量の半分以下にとどまることになる。

日本人では低用量でも効果が確認されている

日本人を対象としたMUCHA試験では、カルベジロール投与が左室の逆リモデリング効果をもたらし、5 mg/日でも死亡または心血管イベントによる入院の複合イベントを有意に抑制した。ガイドラインはこの結果を、β遮断薬を禁忌がないかぎり全例に導入する(クラスI・A)根拠の1つとして挙げている。なお、日本の保険上限がなぜこの値なのかという理由そのものは、ガイドラインには書かれていない。ここで言えるのは「日本人を対象とした試験では低用量でも有効性が示されている」ということまでである。

目標は「用量」ではなく「心拍数」

β遮断薬の無作為化試験をまとめたメタ解析では、用量ではなく投与後の心拍数減少が死亡率の減少と関連していた。わが国のJ-CHF試験でも、カルベジロールの目標用量(2.5 mg、5 mg、20 mg/日)の3群間でリバースリモデリングや臨床イベントに有意差はなく、追加解析では目標用量ではなく投与後の心拍数減少がイベント減少と関連していた。目標心拍数として確立したものはないが、心拍数<60拍/分が一つの目安とされている。

実務上の2点

急性増悪で入院してもβ遮断薬はなるべく継続する。継続群と中止群を比較した無作為化試験では入院後の症状・BNP改善に有意差はなく、むしろ中止群では3ヵ月後のβ遮断薬投与率が低率だったと報告されている
COPD合併例ではβ1選択性が高いビソプロロールが優先される。腎機能障害・糖尿病・COPDのいずれもメタ解析では生命予後の改善に有用で、懸念だけで避けない

4MRAとSGLT2阻害薬

MRA:スピロノラクトン・エプレレノン

MRAは軽症心不全(EMPHASIS-HF)から重症心不全(RALES、EPHESUS)まで有効性が示されている標準治療薬で、心不全死のみならず突然死も減少させる。eGFR<30 mL/分/1.73m²または血清カリウム値5.0 mEq/L以上の場合は投与開始にあたって慎重を要する。

表19:MRAの用量・用法

薬剤名 開始用量 維持量・用法
スピロノラクトン 12.5〜25 mg/日 25〜50 mg/日、1日1回投与
エプレレノン 25 mg/日 50 mg/日、1日1回投与

K 5.0で開始を躊躇しても、5.5までは有効性が保たれる

投与開始にあたって慎重を要するのはK 5.0 mEq/L以上だが、ガイドラインはRALES試験のサブ解析から「血清カリウム値5.5 mEq/LまではHFrEF患者に対するスピロノラクトンの有効性は維持される」ことが示唆されるとしている。カリウムが少し高いという理由だけで反射的に切らない。

SGLT2阻害薬:ダパグリフロジン・エンパグリフロジン

DAPA-HF試験、EMPEROR-Reduced試験により、糖尿病の有無にかかわらないHFrEF患者への予後改善効果が示された。HFrEFに対する用量はダパグリフロジン10 mg/日、エンパグリフロジン10 mg/日で、いずれも1日1回投与である。

低用量は心不全での保険適用外

ダパグリフロジン5 mg、エンパグリフロジン25 mgは、心不全での保険適用外である(表19の脚注に明記)。糖尿病治療で使い慣れた用量とHFrEFの承認用量が異なる薬剤であることに注意する。

5慢性期の薬物治療で、推奨と保険がずれる4か所

ここまで見てきたように、2025年版ガイドラインには「有効性は認めつつ、日本では保険適用外」と自ら注記している箇所がある。慢性期の薬物治療とうっ血管理に関わる範囲で拾うと、代表的なものが4つある。注記の置き場所はそれぞれ違っていて、図24の脚注に2つ、表19の脚注に1つ、第7章の本文に1つという分かれ方をしている。

項目 ガイドラインの記載 日本の保険と、注記の場所
ARNIの新規導入 ACE阻害薬/ARB未使用で入院例への導入も考慮 保険適用外。添付文書上「ACE阻害薬又はARBから切り替えて投与すること」
【図24の脚注*3】
フィネレノン(HFmrEF・HFpEF) 心血管死・心不全増悪イベントの抑制を目的として投与を考慮する(クラスIIa・B-R) 2025年3月時点で保険適用外(2型糖尿病合併CKDの適応とは別)
【図24の脚注*4】
SGLT2阻害薬の低用量 心不全での用量はダパグリフロジン10 mg、エンパグリフロジン10 mg ダパグリフロジン5 mg、エンパグリフロジン25 mgは心不全で保険適用外
【表19の脚注】
アセタゾラミド静注 ADVOR試験で有効性。うっ血治療に有用な選択肢と考えられる 静注薬は心不全では保険適用外
【第7章 急性非代償性心不全の本文】

「4か所」はこの記事の切り取り方

念のため補足すると、ガイドライン全体では「保険適用外」という注記は他にもある(頻脈性心房細動に対する静注アミオダロン、急性非代償性心不全のVTE予防に用いる低分子量ヘパリン、貧血のない症例への静注鉄剤など)。上の4つは慢性期の薬物治療とうっ血管理という、この記事が扱う範囲で拾ったものであって、ガイドライン全体の網羅ではない。

フィネレノンは「腎臓の適応」と「心不全の適応」が別

フィネレノンは非ステロイド型のMRAで、2型糖尿病を合併するCKD患者に対しては保険適用承認されている(心不全発症予防を目的とした投与が推奨クラスI・エビデンスレベルA)。一方、HFmrEF・HFpEFに対する心不全そのものの適応(推奨クラスIIa・エビデンスレベルB-R、FINEARTS-HF試験)は、2025年3月時点で保険適用外である。同じ薬剤でも、適応によって保険の扱いが違う点に注意がいる。

21本目(抗凝固薬リバーサル)と同型の構図

推奨クラスがついていても保険適用が追いついていない、という構図は、このブログで以前扱ったアンデキサネット アルファ(緊急手術時の適応外)とも重なる。ガイドラインのエビデンスレベルと、日本で実際に処方できる範囲は、必ずしも一致しない。

6二次治療薬:それでも症状が残る場合

4本柱を最大耐用量まで導入しても症状が残る場合に検討する薬剤がある。いずれも「4本柱の代わり」ではなく「4本柱に追加する」位置づけである。

イバブラジン:洞調律・心拍数>75拍/分

HCNチャネル遮断薬であるイバブラジンは、最大耐用量のβ遮断薬を含むガイドラインに基づく至適薬物治療を行ってもNYHA心機能分類II度以上の症状が残るHFrEF(EF≦35%)で、かつ洞調律・心拍数>75拍/分の患者に対して、心不全入院および心血管死のリスク低減を目的として投与を考慮する(推奨クラスIIa・エビデンスレベルB-R)。

図2:イバブラジンの心拍数基準――国際試験と日本の推奨・保険適用の比較

556065707580859095安静時心拍数(拍/分)SHIFT試験の登録基準洞調律・心拍数70回/分以上SHIFT事後解析/J-SHIFT/日本の保険適用心拍数75拍/分(推奨は>75、保険は75以上)SHIFT試験の事後解析(>75で全死亡・心血管死も有意に抑制)→ 同じ集団を対象にJ-SHIFT試験 → 傾向が一貫し75拍/分以上で保険収載、という経緯

国際的なSHIFT試験の登録基準は洞調律・心拍数70回/分以上だった。日本の基準が75になっている経緯は、J-SHIFT試験の結果が振るわなかったからではなく、SHIFT試験の事後解析まで遡る

75という数字がどこから来たか

SHIFT試験では、ベースライン心拍数>75拍/分の集団に対して行われた事後解析で、全死亡・心血管死までイバブラジンにより有意に抑制された。これを受けて、わが国では心拍数>75拍/分の患者を対象としてJ-SHIFT試験が行われた。J-SHIFT試験では心血管死と心不全入院の複合エンドポイントは有意差はないものの減少傾向を示し、SHIFT試験と傾向が一貫していた結果を受けて、洞調律かつ投与開始時の安静時心拍数75拍/分以上の慢性心不全が保険適用として収載された。つまり75はJ-SHIFTの登録基準であり、その大元はSHIFTの事後解析である。

厳密には推奨と保険で不等号が違う

細かいが、ガイドライン本文と推奨表22は「心拍数75拍/分」、保険適用は「安静時心拍数が75拍/分以上」、図24の脚注*5は「心拍数75bpm」と、ガイドライン内部でも表記が揺れている。実務上は75前後の症例で問題になるだけだが、算定根拠を書くときは保険側の「75拍/分以上」に合わせておく。

用量と目標心拍数、副作用

表19では5 mg/日より開始、維持量5・10または15 mg/日、目標安静時心拍数50〜60回/分に用量調節、1日2回投与とされている。SHIFT試験も心拍数50〜60拍/分を目標に漸増するプロトコルで、28日時点の心拍数<60拍/分の群が最もイベントが低率だった。β遮断薬と異なり血圧低下・心抑制作用が少なく、β遮断薬の導入や増量が困難な状況でも投与できるのが特徴で、β遮断薬と相補的な役割を果たす。副作用として光視症のほか、心房細動が増加する可能性が指摘されている。

ベルイシグアト:NT-proBNPが非常に高い症例では効果に留保

sGC刺激薬のベルイシグアトは、VICTORIA試験でLVEF≦45%のHFrEF患者において心血管死・心不全入院の複合エンドポイントを有意に改善した。ただし有効性は心不全入院の抑制が主である。GDMTがなされている状況下で心不全増悪をきたしたNYHA心機能分類II〜IV度の患者に投与を考慮する(推奨クラスIIa・エビデンスレベルB-R)。NT-proBNPが5,314 pg/mLを超える患者では有効性が示されなかったため、同程度に値が高い患者への投与は慎重に検討すべきとされている。用法は2.5 mg/日・1日1回から開始し、2週間間隔で5 mg、10 mgへ段階的に増量する。

ジゴキシンは血中濃度0.5〜0.9 ng/mLを目標に0.125〜0.25 mg/日で投与する。推奨表22では洞調律患者への投与がクラスIIb・B-R(ただし低用量での使用を推奨)、心房細動合併患者への投与がクラスIIb・C-EOとされている。

経口強心薬は「短期」ならIIa、「長期」はIII

経口強心薬(ピモベンダン等)は、推奨表22でQOL改善や経静脈的強心薬からの離脱、β遮断薬導入の補助としての短期投与はクラスIIa・B-Rとされている。一方で無症状の患者に対する長期投与はクラスIII No benefit・B-R。「予後改善のエビデンスがない薬」と一括りにするより、短期の目的を決めて使うかどうかで分かれている、と理解するほうが実態に近い。

7やりがちな失敗

11剤が目標用量に届くまで次の薬を始めない

ガイドラインは「次の薬剤を開始する前に目標用量を達成する必要はない」と明記している。順次開始でもよいが、低用量のまま次に着手してよい。

2逆に、低用量でそろえて満足してしまう

同じ本文が「投薬量は忍容性に応じて目標量まで増量すべきである」とも書いている。早期に4剤そろえることと、目標量を目指すことは両方必要。

3β遮断薬を海外試験の目標量まで増やそうとしてしまう

カルベジロール20 mg/日、ビソプロロール5 mg/日が日本の保険適用上の上限で、それ以上のデータはない。用量より投与後の心拍数減少がイベント減少と関連する。

4ARNIを「新規導入できないから使いにくい薬」と捉えてしまう

ACE阻害薬/ARBからの切り替えはクラスI・B-Rで、日常診療で出番が多いのはこちら。保険適用外なのは未使用例への新規導入という別の場面。

5フィネレノンを心不全の適応で処方できると思い込んでしまう

2型糖尿病合併CKDの適応(クラスI・A)とは別で、HFmrEF・HFpEFに対する心不全の適応は2025年3月時点で保険適用外。

6イバブラジンをSHIFT試験の基準(70回/分以上)で考えてしまう

日本の基準は心拍数75拍/分。SHIFT試験の事後解析で>75の集団に死亡抑制が示され、J-SHIFT試験がその集団で行われたという経緯がある。

7MRAをカリウム5.0で反射的に切ってしまう

開始に慎重を要するのは5.0以上だが、RALES試験のサブ解析では5.5 mEq/Lまで有効性が維持されると示唆されている。

8早見表とTake home

領域 押さえること
4本柱の導入方針 できるだけ早期に導入し、忍容性に応じて目標量まで増量する。次の薬を始める前に目標用量まで上げきる必要はない(クラスI・A)
β遮断薬の用量 カルベジロール2.5→5〜20 mg/日(1日2回)、ビソプロロール0.625→1.25〜5 mg/日(1日1回)。用量より投与後の心拍数減少が予後と関連
ARNI 切り替えはクラスI・B-R。ACE阻害薬/ARB未使用例への新規導入は添付文書上できない(図24脚注*3)
フィネレノン 2型糖尿病合併CKDの適応(クラスI・A、保険適用)と、HFmrEF・HFpEFの心不全適応(クラスIIa・B-R、保険適用外)は別
SGLT2阻害薬の用量 心不全での承認用量はダパグリフロジン10 mg、エンパグリフロジン10 mg。ダパ5 mg・エンパ25 mgは保険適用外(表19脚注)
イバブラジンの基準 洞調律・心拍数75拍/分(推奨は>75、保険は75以上)。目標安静時心拍数50〜60回/分に調節。副作用は光視症と心房細動
ベルイシグアト 効果は心不全入院抑制が主。NT-proBNP>5,314 pg/mLでは有効性が示されず、投与は慎重に検討
経口強心薬 短期投与(離脱・β遮断薬導入の補助)はIIa・B-R、無症状患者への長期投与はIII No benefit

Take home

  1. 4本柱(ACE阻害薬/ARB/ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)は、できるだけ早期に導入する(クラスI・A)。変わったのは「次の薬剤を開始する前に目標用量を達成する必要はない」という点で、順次開始そのものが否定されたわけではない
  2. 早期導入の根拠であるSTRONG-HF試験は、退院前2日以内に半量・退院後2週間以内に目標量というプロトコルだった。ガイドライン自身が「日本の臨床現場でどの程度実践可能かは今後の検証が必要」と留保している
  3. β遮断薬は用量そのものより投与後の心拍数減少が予後と関連する。日本の保険上限(カルベジロール20 mg/日、ビソプロロール5 mg/日)は、COPERNICUS試験の目標量50 mg/日の半分以下にとどまる
  4. ARNIは切り替えがクラスI・B-R。保険適用外なのはACE阻害薬/ARB未使用例への新規導入で、この注記は推奨表ではなく図24の脚注にある
  5. 慢性期の薬物治療とうっ血管理に関わる範囲で、推奨と保険がずれる箇所が4つある(ARNIの新規導入、フィネレノンの心不全適応、SGLT2阻害薬の低用量、アセタゾラミド静注)。注記の置き場所は図24の脚注・表19の脚注・第7章本文に分かれている
  6. イバブラジンの75拍/分という基準は、SHIFT試験の事後解析(>75で全死亡・心血管死も有意に抑制)を受けてJ-SHIFT試験がその集団で行われ、傾向が一貫したことから保険収載された経緯による
  7. ベルイシグアトは効果が心不全入院の抑制主体で、NT-proBNPが非常に高い症例では有効性が示されていない

次回⑤は、非薬物治療(デバイス治療・心臓リハビリ)とHFmrEF/HFpEFの薬物治療を扱う。

参考文献
  • 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン. 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン(JCS/JHFS 2025 Guideline on Diagnosis and Treatment of Heart Failure). 2025年3月28日発行・2025年12月19日更新.
  • McMurray JJV, Packer M, Desai AS, et al. Angiotensin-neprilysin inhibition versus enalapril in heart failure(PARADIGM-HF試験). N Engl J Med. 2014;371(11):993-1004.
  • Packer M, Fowler MB, Roecker EB, et al. Effect of carvedilol on the morbidity of patients with severe chronic heart failure: results of the carvedilol prospective randomized cumulative survival (COPERNICUS) study. Circulation. 2002;106(17):2194-2199.(目標用量25 mg 1日2回の出典)
  • Hori M, Sasayama S, Kitabatake A, et al. Low-dose carvedilol improves left ventricular function and reduces cardiovascular hospitalization in Japanese patients with chronic heart failure(MUCHA試験). Am Heart J. 2004;147(2):324-330.
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  • Swedberg K, Komajda M, Böhm M, et al. Ivabradine and outcomes in chronic heart failure(SHIFT試験). Lancet. 2010;376(9744):875-885.
  • Tsutsui H, Momomura SI, Yamashina A, et al. Efficacy and safety of ivabradine in Japanese patients with chronic heart failure(J-SHIFT試験). Circ J. 2019;83(10):2049-2060.
  • Armstrong PW, Pieske B, Anstrom KJ, et al. Vericiguat in Patients with Heart Failure and Reduced Ejection Fraction(VICTORIA試験). N Engl J Med. 2020;382(20):1883-1893.
  • Mebazaa A, Davison B, Chioncel O, et al. Safety, tolerability and efficacy of up-titration of guideline-directed medical therapies for acute heart failure(STRONG-HF試験). Lancet. 2022;400(10367):1938-1952.
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