血圧が保たれた肺うっ血に硝酸薬を落とす。血圧の低い低心拍出にドブタミンを足す。多くの人がこの組み合わせを反射的に選んでいるはずだ。実はこの反射、2025年版ガイドラインの推奨度で見ると温度差がかなり大きい。
このシリーズは、2025年3月に発行・同年12月に更新された「心不全診療ガイドライン」(日本循環器学会/日本心不全学会合同)をもとに、急性心不全の診療を組み立て直す全6回シリーズ。前回①では、うっ血・低心拍出をそれぞれ独立した軸で評価するという2025年版の骨格を扱った。今回②は、その評価に対応する急性期の薬物治療(血管拡張薬・カテコラミン・利尿薬戦略)を扱う。
結論を先に言うと、血管拡張薬はどれも「弱い推奨」にとどまる。カテコラミンは受容体薬理の理解抜きに選ぶと、血圧の低い患者にかえって不利な薬を選んでしまう。利尿薬は「初回投与のタイミング」と「反応性評価のタイムライン」を押さえるだけで、実務がだいぶ整理される。
この記事でわかること
- 血管拡張薬(硝酸薬・ニコランジル・カルペリチド)が「弱い推奨」にとどまる理由
- ドパミン・ドブタミン・ノルアドレナリン・PDE III阻害薬の受容体薬理と使い分け
- 利尿薬の実践的な使い方(初回投与のタイムライン、反応不良時の増量、新しいエビデンス)
- カルベジロール内服中はドブタミンの効きが変わる、という併存薬の影響
- トルバプタンは「入院時だけの薬」ではない
1血管拡張薬:硝酸薬・ニコランジル・カルペリチド
肺うっ血があり、かつ血圧が保たれている患者に対して、血管拡張薬を「効く治療」として反射的に使っていないか、まず確認したい。
ガイドライン推奨表44
「血圧の保たれた急性非代償性心不全に対するうっ血症状の改善のために投与を考慮してもよい」=クラスIIb、レベルB-NR。「血管拡張薬をルーチンに使用することが予後を改善させるエビデンスはない」と明記されている。硝酸薬・ニコランジル・カルペリチドのいずれも、この弱い推奨の枠内にある。
「弱い推奨」だが、使うべき症例像は示されている
推奨表44には注記があり、主に高度な肺うっ血(起座呼吸)の症例、著明な高血圧の症例、中等度以上の僧帽弁逆流を有する症例で考慮するとされている。「弱い推奨だから使わない」ではなく、この3つの症例像に当てはまるかで判断するほうが実務に近い。実際、急性心原性肺水腫の初期対応では、血管拡張薬は利尿薬治療に比較して有効な可能性があるとも記載されている。
使ってはいけない場面(クラスIII Harm)
推奨表44は、重篤な低血圧、心原性ショック、脱水症、急性右室梗塞の患者に対する血管拡張薬の投与を行うべきではない(クラスIII Harm・C-EO)としている。本文はさらに、重症大動脈弁狭窄症や閉塞性肥大型心筋症でも前負荷低下により著明な血圧低下をきたすため注意が必要としている。救急でこそ踏みやすい地雷なので、投与前にこの5つを外しておく。
硝酸薬
もっとも使い慣れた選択肢だが、24時間以上の使用で耐性が発現する。持続点滴で管理する際は、この時間経過を意識しておく必要がある。
ニコランジル
静脈系拡張作用に加えて動脈拡張作用・冠微小循環改善作用を持つ。硝酸薬に比べて過度の降圧をきたしにくく、耐性も生じにくいとされる。
カルペリチド
カルペリチドは、静脈系優位の血管拡張作用に加えて、ナトリウム利尿作用とレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の抑制作用を併せ持つ、日本で広く使われてきた薬剤である。ただしガイドラインの評価は、この多面的な作用から期待されるほど高くない。
LASCAR-AHF試験(日本、247例)
低用量カルペリチドは、2年以内の死亡・心不全増悪、72時間以内の自覚症状・尿量・腎機能・BNP値のいずれでも有益な効果が得られない可能性が示唆されている。院内死亡率上昇との関連を指摘した後ろ向き観察研究もあり、DPCデータを用いた検討でも予後改善効果や医療コスト軽減効果は明らかでないとされている。
ガイドラインの結論
以上より、ガイドラインは急性非代償性心不全患者に対するカルペリチドのルーチン使用は推奨されないと明記している。一方で、わが国の少数例の無作為化比較試験では18ヵ月の経過観察で死亡・再入院がカルペリチド投与群で少なかったという報告もあり、結論が一方向に固まっているわけではない。いずれにせよ「とりあえずハンプ」という反射的な使い方が支持されるエビデンスはない、というのが現在の位置づけである。
具体的な投与量について
ニトログリセリン・硝酸イソソルビド・ニコランジル・カルペリチドの具体的な投与量(mL/hrやγ換算)は、今回のガイドライン精読だけでは確証が取れなかった。数値を書くと誤りを持ち込むリスクがあるため、本記事ではあえて具体的な投与量を明記しない。各施設のプロトコル・添付文書に従うこと。
2カテコラミン:受容体薬理と使い分け
カテコラミンの使い分けを誤ると、血圧の低い患者にかえって不利な薬を選んでしまう。まず受容体薬理を整理しておく。
ドパミンは「β1 only」ではない
ドパミンは用量依存性に作用が変わる。低用量ではドパミン受容体(腎血流増加)、中等量ではβ1受容体、高用量ではα1受容体が主体になる(この受容体プロファイル自体は薬理学の標準的な整理で、ガイドライン本文に記載があるわけではない)。「β1だけの薬」という理解は誤りである。
ただし低用量ドパミンの腎保護は否定されている
かつては利尿効果を期待して低用量ドパミンが多用されたが、ROSE試験など複数の無作為化試験で尿量増加効果や腎保護効果の有用性は示されなかった。さらにROSE試験のサブグループ解析では、LVEF>50%ではむしろドパミンの使用で尿量反応性が悪くなる可能性まで示されている。「腎保護のために少量流しておく」という使い方は現在支持されない。
図1:低心拍出/組織低灌流に対するカテコラミン・血管収縮薬の使い分け
速やかな昇圧が必要なとき:ノルアドレナリンが第一選択
ガイドラインは、速やかな昇圧が必要な患者に対してはノルアドレナリンが第一選択となると位置づけている(推奨表45では「適正な体液量下でもショック、低血圧を呈する患者へノルアドレナリンの投与を考慮する」=クラスIIa・B-R)。
用量が書かれている患者群に注意
ガイドラインが0.03〜0.3 μg/kg/分の持続点滴静注で開始すると記載しているのは、「第一選択となる」という位置づけの文とは別の文で、他の強心薬の使用ならびに循環血液量の補正によっても心原性ショックからの改善が困難な患者に対してである。位置づけと開始用量が同じ患者群に書かれているわけではない点は、読むときに分けておきたい。
「血圧が低いからドパミン」は逆
ショック患者を対象にノルアドレナリンとドパミンを比較したSOAP-II試験では、28日死亡率は全体では差を認めなかったものの、心原性ショック患者のサブ解析ではドパミン使用群で死亡率・不整脈イベントが有意に高かった。全体解析は陰性でサブ解析の所見である点は踏まえたうえで、速やかな昇圧が必要な患者に対しては、ドパミンではなくノルアドレナリンを選ぶ。
ノルアドレナリンも「単独使用は控える」
末梢血管抵抗の増加により平均動脈圧は上がるが、後負荷の増大や心筋酸素消費量の増加をきたし、腎・脳・内臓の血流量も減少させる。ガイドラインは強心薬としての単独使用は控え、できるだけ少量を短期間用いることを求めている。敗血症性ショックを合併している患者はよい適応とされる。
低心拍出・組織低灌流を有する肺うっ血のとき:ドブタミン
ドブタミンはβ1受容体が中心の強心薬である。推奨表45は「低心拍出、組織低灌流を有する肺うっ血患者へドブタミンの投与を考慮する」=クラスIIa・C-LDとしている。この推奨に血圧の条件は付いておらず、血圧維持が不十分な場合はドパミンまたはノルアドレナリンとの併用を検討するという書き方になっている。「血圧が低いからドブタミンは使えない」ではなく「昇圧薬を足す」という整理である。
ドブタミンの3つの注意点
・カルベジロール内服中の患者では心拍出量増加効果が減弱し、血行動態への影響が変化する
・急激な減量・中止は血行動態悪化のリスクとなるため、段階的に減量する
・FIRST試験のサブ解析でドブタミン投与が長期予後を悪化させる可能性が示されており、必要最少量・最短期間にとどめる
重症例:肺うっ血+sBP<70mmHg
肺うっ血と同時にsBP 70mmHg未満という重症例では、ドパミン+ノルアドレナリンまたはドブタミン+ノルアドレナリンの併用を検討し、さらに必要に応じて機械的循環補助を考える。ただしIABPについては、心原性ショックを合併した急性心筋梗塞患者で有効性が認められなかったとするIABP-SHOCK II試験があり、ルーチンでの使用は推奨されないとされている点は押さえておく。
逆に、ショックがない患者にルーチンで強心薬を使わない
推奨表45は「低心拍出、組織低灌流、ショックを伴わない患者に対して、ルーチンに強心薬を使用すべきでない(クラスIII Harm・C-EO)」としている。国内のKCHFレジストリでは、収縮期血圧90 mmHg以上かつwarm profileの患者で強心薬・昇圧薬を使用した群は、調整死亡リスクが1.36倍に有意上昇していた。米国のADHEREでも強心薬の使用は高い院内死亡リスクと関連していた。「なんとなく心収縮を助ける」という使い方が最も危ない。
3PDE III阻害薬という選択肢
「心不全に対するエビデンスがないので基本的に使わない」という理解は、現在のガイドラインとは合わない。
ガイドライン推奨表45
非虚血性の低心拍出・組織低灌流を有する肺うっ血患者へのPDE III阻害薬:推奨クラスIIa、エビデンスレベルB-R。虚血性の同患者:IIb、B-R。「エビデンスなし」の薬剤ではない。
β遮断薬を内服中の急性増悪では、β受容体が遮断されているためドパミン・ドブタミンの強心効果が制限される。一方でPDE III阻害薬はβ受容体を介さずに作用するため、優れた心拍出量増加と肺毛細管圧低下を発揮すると位置づけられている。β遮断薬内服中の急性増悪は、PDE III阻害薬が選択肢に上がる典型的な場面である。
DOREMI試験・ADHERE
DOREMI試験(ミルリノン vs ドブタミン)では主要複合アウトカムに有意差はなかった。ただしこれは心原性ショック患者を対象とした単施設・小規模の二重盲検試験である。ADHERE(レジストリ解析)では、ミルリノン投与例の院内予後がドブタミンより良好だったと報告されている。
ただし予後を改善する薬ではない
プラセボ対照のOPTIME-CHF試験では、60日以内の心血管疾患による再入院または死亡に差はなく、ミルリノン投与群で血圧低下・新規の心房性不整脈が多かった。病因別では虚血性心疾患患者でむしろイベントが多い傾向との報告があり、これが虚血性でIIbにとどまる背景である。ガイドラインは「急性心不全患者におけるPDE III阻害薬投与は必ずしも予後を改善するとはいえず、必要最少量を最短期間で使用する必要がある」と結んでいる。なお腎排泄型であり、腎機能低下患者では注意を要する。
4利尿薬①:初回投与から反応性評価まで
うっ血が主体の患者では、利尿薬の実務がそのまま治療の中心になる。ガイドラインは初回投与から反応性評価までのタイムラインを具体的に示している。
ここだけがクラスI
この記事で扱う薬剤のうち、体液貯留のある急性非代償性心不全患者へのループ利尿薬静脈内投与だけが推奨クラスI(C-EO)である。血管拡張薬はIIb、PDE III阻害薬はIIa〜IIb、カテコラミンもIIa〜IIb。急性期の薬物治療でクラスIが付いているのはうっ血に対するループ利尿薬だけ、という力関係をまず押さえておきたい。
初回投与とタイムライン
・うっ血症状を確認次第、ER到着から1時間以内にループ利尿薬の初回投与
・可能なら1〜2時間以内、遅くとも6時間以内の尿量で反応性を評価する
ボーラスか持続点滴か(DOSE試験)
ボーラス投与と持続点滴とで、呼吸困難の改善・腎機能に有意差はなかった。ガイドラインは「症例や個々の施設の状況に合わせて最適な投与法を選択する」としている。なお同試験の副次評価項目では、高用量群は低用量群より体液量・体重が減った一方、血清クレアチニンが0.3 mg/dLを超えて上昇する頻度は高率だった。
5利尿薬②:反応不良時にどうするか
初回投与だけで反応が得られない患者も少なくない。反応不良時の対応は段階的に考える。
図2:利尿薬の初回投与から反応不良時の対応
反応が不十分なら、初回投与量の2〜4倍まで増量する。それでも足りなければ、利尿薬抵抗性の原因検索と、併用療法・血液浄化療法を検討する段階に入る。なお推奨表43は「ループ利尿薬の投与量増量あるいは他利尿薬(トルバプタン、サイアザイド系利尿薬など)の併用投与を考慮する」(IIa・B-R)と並列で書いており、増量が先で併用が後、と順序が決まっているわけではない。
原因検索は「増量してから」ではなく「増量と同時に」
ガイドラインは、利尿薬強化とともに、腎臓以外の利尿薬抵抗性の原因(低心拍出/組織低灌流、低血圧、貧血、感染、低アルブミン血症、低ナトリウム血症など)の検索と適切な治療を行う、と書いている。増量して待ってから考えるのではなく、並行して原因を潰しにいく。
増量に伴う副作用、特に低カリウム血症
高用量のループ利尿薬投与では、低血圧・腎機能障害・血中尿素窒素上昇・低ナトリウム血症・低カリウム血症に注意する。とくに低カリウム血症は致死性心室性不整脈、心房細動、筋痙攣の誘因となるため、適宜カリウムを補充するとともに、低〜正常カリウム血症の患者では早期からMRAの併用を考慮するとされている。
反応が良好だったとき
十分な尿量が得られた場合は、同量のループ利尿薬を1日2〜3回投与、または併用療法の投与量を維持して、至適体液量(Euvolemia)まで継続する。その後は必要最低限の維持量の経口利尿薬へ切り替え、退院後も継続する。
ADVOR試験のアセタゾラミドは、日本では保険適用外
ADVOR試験:フロセミド静注にアセタゾラミド500mg点滴静注を追加し、尿量増加・3日間での臨床的うっ血改善・入院期間短縮が示された。一方で複合腎イベントはアセタゾラミド群で多い傾向だった。そして日本では、静注アセタゾラミドは心不全に保険適用外である。ガイドラインが有用な選択肢と認めながら保険が追いついていない、という構図はこのシリーズで繰り返し出てくる(次回④でまとめて扱う)。
その他の新しい利尿薬エビデンス
・CLOROTIC試験:ヒドロクロロチアジド追加で有意に体重減少するが、腎機能障害・低カリウム血症が高頻度
・TRANSFORM-HF試験:フロセミドに対するトラセミドの優位性は示されなかった
慢性・代償期の話になるが、国内で行われたアゾセミドとフロセミドの比較試験では、心血管死あるいは心不全増悪による入院件数がアゾセミド群で少なかったと報告されている。ただしガイドラインは「フロセミドからアゾセミドへ切り替える」という指示は書いておらず、切り替えの基準も示していない。切り替えという発想自体がガイドライン由来ではない点は正直に断っておく。同じ段落でガイドラインが述べているのは、むしろ次の注意である。
ループ利尿薬の単剤投与に注意
ループ利尿薬の単独使用は、RAS阻害薬・MRA・β遮断薬の併用と比較して用量依存性に予後不良と関連していたことが報告されている。利尿薬だけで押し切る形になっていないか、GDMTが乗っているかを確認する。
6トルバプタンと退院後の継続
トルバプタンは、ループ利尿薬への反応が不十分な例での体液管理に有用な add-on として位置づけられている(推奨表43で他利尿薬との併用投与がIIa・B-R)。単独で使う薬ではないという理解は添付文書上も正しい。ただし「入院時だけの薬」ではない。
退院後の継続を検討する
ガイドラインは、至適体液量を達成した後、退院後の継続の必要性を検討するとしている。入院中だけに限定される薬という位置づけではない。
高齢者での注意点
口渇感を感じにくい高齢者では、高ナトリウム血症の発現に注意し、より低用量から開始する。
7やりがちな失敗
血管拡張薬(硝酸薬・ニコランジル・カルペリチド)はいずれもクラスIIb・B-NRの弱い推奨で、ルーチン使用が予後を改善するエビデンスはない。
重篤な低血圧・心原性ショック・脱水症・急性右室梗塞はクラスIII Harm。重症大動脈弁狭窄症と閉塞性肥大型心筋症も著明な血圧低下をきたす。投与前にこの5つを確認する。
低心拍出・組織低灌流・ショックを伴わない患者へのルーチン使用はクラスIII Harm。KCHFレジストリでは、sBP 90mmHg以上かつwarm profileでの使用は調整死亡リスク1.36倍と関連していた。
速やかな昇圧が必要な患者の第一選択はノルアドレナリン。SOAP-II試験は全体では28日死亡率に差がなかったが、心原性ショックのサブ解析ではドパミン群の死亡率・不整脈イベントが有意に高かった。
ROSE試験など複数の無作為化試験で尿量増加・腎保護の有用性は示されなかった。LVEF>50%ではむしろ尿量反応性が悪くなる可能性も示されている。
推奨クラスIIa(非虚血性)〜IIb(虚血性)が付いている。ただし予後を改善する薬ではなく、必要最少量を最短期間で。腎排泄型である点にも注意。
心不全では保険適用外。試験の結果と国内の保険適用は別に確認する。
至適体液量を達成した後、退院後の継続の必要性を検討するとされている。
8早見表とTake home
| 薬剤群 | 位置づけ | 注意点 |
|---|---|---|
| 硝酸薬・ニコランジル・カルペリチド | クラスIIb・B-NR。高度な肺うっ血・著明な高血圧・中等度以上のMRで考慮 | 重篤な低血圧・心原性ショック・脱水症・急性右室梗塞はIII Harm。硝酸薬は24時間以上で耐性 |
| ノルアドレナリン | 速やかな昇圧が必要なときの第一選択(IIa・B-R) | 強心薬としての単独使用は控え、少量を短期間。用量0.03〜0.3 μg/kg/分は「他の強心薬・輸液でも改善困難な心原性ショック」への記載 |
| ドブタミン | 低心拍出・組織低灌流を有する肺うっ血(IIa・C-LD) | 血圧維持が不十分なら昇圧薬を併用。カルベジロール内服中は効果減弱。必要最少量・最短期間 |
| 強心薬全般 | ショック・低灌流のない患者へのルーチン使用はIII Harm | KCHFレジストリでwarm profileへの使用は調整死亡リスク1.36倍 |
| PDE III阻害薬 | 推奨クラスIIa(非虚血性)〜IIb(虚血性) | β遮断薬内服中の急性増悪で選択肢。予後改善薬ではなく、腎排泄型で必要最少量・最短期間 |
| ループ利尿薬(初回) | この記事で唯一のクラスI。ER到着1時間以内に投与、1〜2h(遅くとも6h)で反応性評価 | ボーラスと持続点滴に有意差なし。症例・施設の状況に合わせて選ぶ |
| ループ利尿薬(反応不良時) | 初回量の2〜4倍まで増量、あるいは他利尿薬を併用 | 原因検索は増量と同時に。低カリウム血症に注意しMRA併用も考慮。アセタゾラミド静注は保険適用外 |
| トルバプタン | ループ利尿薬への反応不十分例へのadd-on(IIa・B-R) | 入院時限定ではなく退院後の継続を検討。高齢者は低用量から |
Take home
- 急性期の薬物治療でクラスIが付いているのは、うっ血に対するループ利尿薬の静脈内投与だけ。血管拡張薬はIIb、カテコラミンとPDE III阻害薬はIIa〜IIb
- 血管拡張薬は「高度な肺うっ血・著明な高血圧・中等度以上のMR」で考慮する。逆に重篤な低血圧・心原性ショック・脱水症・急性右室梗塞はクラスIII Harmで、重症ASと閉塞性HCMも要注意
- ショックや低灌流を伴わない患者への強心薬のルーチン使用はクラスIII Harm。日本のKCHFレジストリでは、warm profileへの使用は調整死亡リスク1.36倍と関連していた
- ドパミンは用量依存性に作用が変わり「β1 only」ではないが、低用量ドパミンの腎保護はROSE試験などで否定されている。速やかな昇圧が必要な患者の第一選択はノルアドレナリン
- ノルアドレナリンの0.03〜0.3 μg/kg/分という用量は、「他の強心薬・輸液でも改善困難な心原性ショック」に対する記載。第一選択という位置づけとは別の文であることに注意
- PDE III阻害薬は「エビデンスなし」ではなく推奨クラスIIa〜IIbが付いているが、予後を改善する薬でもない。β遮断薬内服中の急性増悪で選択肢になり、腎排泄型である
- 利尿薬はER到着1時間以内に初回投与、1〜2時間(遅くとも6時間)以内に尿量で反応性を評価する。反応不良なら2〜4倍への増量あるいは他利尿薬の併用を、原因検索と同時に進める
- トルバプタンは入院時限定の薬ではなく、退院後の継続を検討する。高齢者は高ナトリウム血症に注意し低用量から
次回③は、診断編(BNP/NT-proBNPのカットオフ、HFrEF/HFmrEF/HFpEF/HFimpEFの4分類、心エコーの評価点)を扱う。
参考文献
- 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン. 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン(JCS/JHFS 2025 Guideline on Diagnosis and Treatment of Heart Failure). 2025年3月28日発行・2025年12月19日更新.
- De Backer D, Biston P, Devriendt J, et al. Comparison of dopamine and norepinephrine in the treatment of shock(SOAP-II試験). N Engl J Med. 2010;362:779-89.
- Felker GM, Lee KL, Bull DA, et al. Diuretic strategies in patients with acute decompensated heart failure(DOSE試験). N Engl J Med. 2011;364:797-805.
- Mullens W, Dauw J, Martens P, et al. Acetazolamide in acute decompensated heart failure with volume overload(ADVOR試験). N Engl J Med. 2022;387:1185-95.
- Trullàs JC, Morales-Rull JL, Casado J, et al. Combining loop with thiazide diuretics for decompensated heart failure(CLOROTIC試験). Eur Heart J. 2023;44:411-21.
- Mentz RJ, Anstrom KJ, Eisenstein EL, et al. Effect of torsemide vs furosemide on patient global assessment of symptoms(TRANSFORM-HF試験). JAMA. 2023;329:214-23.
