ここまでの4回は、LVEFが下がった心不全の話が中心だった。しかし外来で実際に出会う心不全は、そちらばかりではない。
このシリーズは、2025年3月に発行・同年12月に更新された「心不全診療ガイドライン」(日本循環器学会/日本心不全学会合同)をもとに、心不全の診療を組み立て直す全5回シリーズ。①では急性心不全の初期対応、②では急性期の薬物治療、③では診断、④では慢性期のGDMTを扱った。最終回の今回は、HFpEF・HFmrEF・HFimpEFの薬物治療と、非薬物治療(心臓リハビリテーション・ICD・CRT)を扱う。
わが国の疫学研究では、ステージCの69%、ステージDの51%がHFpEFと報告されており、HFpEFは心不全の主要な表現型になっている。そしてもう一方の非薬物治療は、非専門医が自分で行うものではないが、「誰を、いつ専門医に送るか」を判断するために避けて通れない。
今回の見どころを先に言うと、①〜④で繰り返し出てきた「ガイドラインは推奨しているのに保険が追いつかない」という構図とは逆向きの場面が、非薬物治療には2か所ある。日本のデータを根拠に、ガイドラインが独自の判断を示している箇所である。
この記事でわかること
- HFpEFでクラスIが付いているのはSGLT2阻害薬だけ、という推奨の序列
- HFmrEFの推奨構成が、HFpEFよりHFrEFに近いこと
- HFimpEFの推奨表には1行しか項目がないこと
- 心臓リハビリはクラスI・Aなのに、日本の外来実施率が約7%にとどまること
- 一次予防ICDで、非虚血性をNSVTの有無で分けている理由
- CRTでLBBB型のQRS幅の下限が120 msecに設定され、女性ではクラスIになっている理由
1HFpEF:クラスIはSGLT2阻害薬だけ
HFpEFの薬物治療は、長らく予後を改善する薬剤が明らかでない領域だった。2021年のEMPEROR-Preserved試験と2022年のDELIVER試験でSGLT2阻害薬がHFpEF患者の予後を改善しうると報告され、この領域は大きく変わった。
図1:薬剤群ごとの推奨クラスを、LVEFの3群で比べる
推奨表23:HFpEFにおける薬物治療
| 推奨 | クラス | レベル |
|---|---|---|
| 合併疾患の適切な評価と治療を行う | I | C-LD |
| うっ血の改善を目的として利尿薬を投与する | I | C-LD |
| 心血管死または心不全入院の抑制を目的としてSGLT2阻害薬(エンパグリフロジンまたはダパグリフロジン)を投与する | I | A |
| 心血管死または心不全増悪イベントの抑制を目的としてMRA(フィネレノン)の投与を考慮する | IIa | B-R |
| 左室駆出率が正常以下のHFpEFに対して、心不全入院の抑制を目的としてARNIの投与を考慮してもよい | IIb | B-R |
| 同じく左室駆出率が正常以下のHFpEFに対して、ARNIの代替としてARBの投与を考慮してもよい | IIb | B-R |
| 心不全入院の抑制を目的として、MRA(スピロノラクトン、エプレレノン)の投与を考慮してもよい | IIb | B-R |
SGLT2阻害薬は、心不全入院または心血管死のイベント抑制を目的として、禁忌のないすべての症候性HFpEF患者に推奨される。投与時期については、EMPEROR-Preserved試験が外来患者を対象としていた一方、DELIVER試験には入院患者も含まれ、さらにEMPULSE試験で急性心不全入院の安定後早期の導入が検討されていることから、急性心不全入院の安定後から外来の安定期まで、幅広いタイミングで導入可能と考えられている。
β遮断薬とACE阻害薬は推奨表に項目がない
推奨表23には、HFrEFでは柱になっているβ遮断薬とACE阻害薬の項目がそもそも立っていない。ACE阻害薬はPEP-CHF試験で有意なリスク軽減が認められず、β遮断薬は研究により結果が一定せず、ガイドラインは「統一した推奨を提示するのが困難」としている。心房細動のレートコントロールや虚血性心疾患のコントロールなど、併存症の治療として用いることは必要だが、全例に一律に投与することは慎重に考える必要がある、という書き方になっている。
HFpEFで運動時の心拍応答が落ちている場合
HFpEFでは、運動に対する心拍応答が低下する変時不全(chronotropic incompetence)を有する症例が40〜80%と多いとされる。そうした症例でβ遮断薬を服用している場合、中止することで運動時の最大酸素摂取量が改善したという報告がある。息切れが取れないHFpEF患者でβ遮断薬が入っているとき、一度立ち止まって考える材料になる。
ARNIに付いている「左室駆出率が正常以下の」という限定
PARAGON-HF試験は、LVEF>40%の患者でサクビトリルバルサルタンとバルサルタンを比較し、主要評価項目を有意に改善できなかった。しかしPARAGON-HFとPARADIGM-HFの統合解析でLVEFが57%以下では有意な改善が見られ、米国FDAはLVEFが正常範囲以下のHFpEFへの使用を支持する声明を出した。推奨表23の「左室駆出率が正常以下の」という限定はこの経緯による。効果に性差があり、女性では有意だったが男性では有意でなかったという報告もある。なおこの限定が付いているのはARNIとARBの2項目だけで、フィネレノンやスピロノラクトン等の推奨文には付いていない。推奨表を読むときは、限定がどの薬にかかっているかを行ごとに確認したい。
肥満を合併したHFpEFという表現型
LVEF≧45%かつBMI≧30 kg/m²の症候性HFpEFを対象としたSTEP-HFpEF試験で、セマグルチドがQOLを有意に改善し体重を有意に減少させた。2型糖尿病を合併する例を対象としたSTEP-HFpEF DM試験でも同様の結果だった。GIP/GLP-1受容体作動薬のチルゼパチドについても、SUMMIT試験で心血管死または心不全増悪イベントの複合を有意に減少させQOLを改善している。肥満合併HFpEFという1つの表現型に対する治療選択肢が見えてきた領域である。
効果が否定されているもの
NO-cGMP経路への介入は、HFpEFでは軒並み否定的である。硝酸イソソルビド(NEAT-HFpEF試験)では活動量がむしろ低下する傾向、PDE5阻害薬シルデナフィル(RELAX研究)では運動耐容能が改善せず、ベルイシグアトもVITALITY-HFpEF試験・SOCRATES-PRESERVED試験で有意な効果を認めなかった。ガイドラインは硝酸薬・PDE5阻害薬・ベルイシグアトのHFpEF患者への投与は有益ではなく推奨されないと結論している。
2HFmrEF:「中間」ではなくHFrEF寄り
まず前提を押さえておきたい。HFmrEF(LVEF 40〜49%)のみを対象とした無作為化比較試験は存在しない。HFmrEFの治療薬に関するデータは、すべてHFmrEF患者を含む試験のサブ解析から来ている。そのうえで、それらの解析では一貫してHFrEFの治療薬が有効な傾向が認められている。
推奨表24:HFmrEFにおける薬物治療
| 推奨 | クラス | レベル |
|---|---|---|
| 合併疾患の適切な評価と治療を行う | I | C-LD |
| うっ血の改善を目的として利尿薬の投与を行う | I | C-LD |
| 心血管死または心不全入院の抑制を目的としてSGLT2阻害薬の投与を行う | I | A |
| 心血管死または心不全入院の抑制を目的としてARNIの投与を考慮する | IIa | B-NR |
| 心血管死または心不全増悪イベントの抑制を目的としてMRA(フィネレノン)の投与を考慮する | IIa | B-R |
| 心血管死または心不全入院の抑制を目的としてARBの投与を考慮してもよい | IIb | B-NR |
| 同じくACE阻害薬の投与を考慮してもよい | IIb | C-LD |
| 同じくMRA(スピロノラクトン、エプレレノン)の投与を考慮してもよい | IIb | B-NR |
| 同じくβ遮断薬の投与を考慮してもよい | IIb | B-NR |
HFpEFの推奨表と見比べると違いがはっきりする。HFmrEFにはβ遮断薬とACE阻害薬の項目が立っている(いずれもIIbだが)。ARNIもHFpEFのIIbに対してHFmrEFはIIaで、一段上がっている。③で触れたとおり、HFmrEFは基礎心疾患の分布がHFrEFに近く虚血性心疾患の割合が高い。推奨の構成もそれに沿っている。
β遮断薬がHFmrEFでIIbになっている根拠
11の心不全臨床試験の統合メタ解析で、洞調律でLVEFが40〜49%の集団において、全死亡および心血管死のリスク減少が認められた。HFpEFでは推奨表に項目が立たなかったβ遮断薬が、HFmrEFではIIbとして残っているのはこの解析による。
HFmrEFで最も重要なのは「繰り返し測ること」
ガイドラインは、HFmrEFではHFrEFから移行したのか、HFpEFから移行したのか、また今後どうLVEFが変化するのか、という経過の把握が治療を検討するうえできわめて重要であるとし、繰り返しLVEFを評価する必要があると明記している。HFmrEFは静止した分類ではなく、通過点として見るべき区分である。
3HFimpEF:推奨表は1行しかない
LVEFが改善した心不全(HFimpEF)については、推奨表25に項目が1つしかない。
推奨表25:HFimpEFにおける薬物治療
拡張型心筋症に関しては左室駆出率改善後も短期間での心不全治療薬の減量、中止をすべきではない(クラスIII Harm・エビデンスレベルB-R)――これが唯一の項目である。
根拠はTRED-HF試験で、無症候でLVEFが40%未満から50%以上に改善した拡張型心筋症患者でGDMTを中止したところ、44%で心不全指標の悪化が見られた。ただしこの試験のプロトコルは、ループ利尿薬・MRA・β遮断薬・ACE阻害薬/ARBの順に減量または中止し、6ヵ月間ですべての心保護薬を中止するという極端なものだった。
ガイドライン自身の留保
ガイドラインは続けて、①薬剤別の中止・減量の可能性、またはより緩徐な減量・中止については明確な答えがない、②GDMTの推奨用量が日本とは異なるため、わが国の臨床感覚とは異なることにも留意が必要、③本試験は拡張型心筋症を対象としており、病態が異なるHFimpEFについては明確な答えはない、と3点の留保を付けている。周産期心筋症では心保護薬の中止が心不全入院やLVEFの低下に至らないことを示すデータもある。
つまり「HFimpEFなら一律に継続」ではなく、拡張型心筋症では短期間での中止・減量が明確に非推奨、それ以外は個別判断というのが現在の到達点である。今後、安全に中止・減量可能な患者群の同定やプロトコルの検討が必要とされている。
4心臓リハビリ:クラスI・Aなのに外来実施率7%
ここから非薬物治療に移る。運動療法は、非薬物治療のなかでも重要かつ原理的な位置づけを持つとされる。
推奨表81から(抜粋)
| 推奨 | クラス | レベル |
|---|---|---|
| EFによる分類に拠らず、運動耐容能・QOLの改善を目的とした回復期の運動療法を行う | I | A |
| 入院中の身体機能/ADL低下予防、合併症および再入院予防を目的とした早期離床・個別的運動療法・多職種介入を行う | I | B-NR |
| ADLの改善や予後改善を目的とした急性期(急性非代償性心不全の入院中かつ代償後)からの運動療法の実施を考慮する | IIa | B-R |
LVEFの分類によらず、運動療法による運動耐容能やQOLの改善効果は確立しており、すべての心不全患者での実施が推奨される。急性期でも、血行動態の悪化や不整脈等に留意したうえで、入院後48時間以内からの早期離床が推奨されている。
推奨されているのに、届いていない
日本の心不全患者での心リハ実施率は、入院中でも40%、外来心リハの実施率は約7%と極めて低い。しかも非実施と関連するのは、高齢・女性・低BMI・複数の併存症・低ADLやフレイル・移動手段の問題である。最も必要と思われる患者ほど届いていないという構図になっている。施設要因としては、循環器専門医の在籍数や病院規模が大きいほど実施率が高い。
心リハ=運動療法ではない
包括的心臓リハビリテーションは「単独プログラムの集合体ではなく、多職種チームが協調して実践する長期にわたる多面的・包括的プログラム」と定義されている。目的も運動耐容能・身体機能の改善だけでなく、QOLとWell-beingの向上、再入院防止・フレイル予防・抑うつ改善まで含む。ガイドラインは、日本では運動療法が中心の心リハとなり、疾病管理支援などの多職種による介入が十分提供されない場合も多く、十分に有効性の高いプログラムとなっていない懸念があると指摘している。
5ICD:非虚血性をNSVTの有無で分ける
突然死の予防を目的とした植込み型除細動器(ICD)は、二次予防と一次予防で位置づけが大きく違う。
二次予防
可逆的要因(電解質異常や解除可能な心筋虚血など)がなく、かつ血行動態の破綻をきたした持続性心室頻拍もしくは心室細動、心停止からの蘇生後に対しては、ICDの植込みが推奨される(クラスI・エビデンスレベルA)。ただし急性心筋梗塞後48時間以内は除く。
一次予防
図2:突然死の一次予防を目的としたICDの適応判断
共通の前提は、GDMTが3ヵ月以上適切に実施されていて、NYHA心機能分類II度以上かつLVEF 35%以下であること。④で扱ったGDMTを回しきることが、デバイスの適応判断の前提条件になっている。虚血性心不全患者に対してはクラスI・エビデンスレベルA。なおDINAMIT試験の結果から、急性心筋梗塞発症40日以降に植込みを検討する。
非虚血性で判断が分かれた経緯
2016年に発表されたDANISH試験では、非虚血性心筋症患者における一次予防ICDについて、心血管死と突然死のリスクは低下したものの、主要エンドポイントである全死亡では効果が認められなかった。これを受けて非虚血性の一次予防ICDの位置づけには議論がある。本ガイドラインは、非虚血性心筋症患者に対する一次予防でのICDの有効性がわが国から報告されていることを根拠に、NSVT(非持続性心室頻拍)をもつ患者への適応は従来どおり推奨クラスI、NSVTをもたない患者への適応は推奨クラスIIaと位置づけている。
LVEFだけでは突然死リスクを予測しきれない
心不全患者における突然死の割合は継続的に減少しており、ICDの適切作動そのものも減少傾向にある。ガイドラインは、虚血性・非虚血性を問わず、致死性不整脈発生リスクをLVEFだけで予測することの限界を指摘し、スコアリングシステム(MADIT-ICD Benefit Score、Seattle Proportional Risk Model)やMRI画像検査の使用を考慮することをクラスIIa・B-NRとしている。非虚血性心筋症のメタ解析では、心臓MRIの遅延造影がある群の致死性不整脈の年間発生率は17.2%、ない群は2.1%(ハザード比7.8)で、遅延造影とLVEFには相関がなかった。
適応があっても植え込まない場合
突然死一次予防のICD植込みの適応に該当していても、末期の心不全や慢性疾患による身体機能制限がある場合、余命が1年未満の患者に対してICD植込みは推奨されない(クラスIII No benefit・C-LD)。二次予防でも同様の項目が立っている。デバイスは「基準を満たすかどうか」だけで決まるものではない。
ブリッジとしてのWCD
着用型自動除細動器(WCD)は、一次予防のためのICD植込み適応が確定するまでのブリッジとして用いられる。LVEF≦35%で急性心筋梗塞発症後40日以内、あるいはCABG/PCI後90日以内の症例(IIb・B-R)、LVEF≦35%で非虚血性急性心不全発症後90日以内で突然死リスクが高いと判断される症例(IIb・B-NR)、急性心筋炎・たこつぼ心筋症・周産期心筋症で心機能低下が一過性と考えられ回復までの突然死リスクが高い場合(IIb・C-LD)、が対象になる。
6CRT:QRS幅の下限が120 msecである理由
心臓再同期療法(CRT)の適応は、NYHA心機能分類・LVEF・QRS波形・QRS幅・調律の組み合わせで決まる。表21がその一覧である。
表21:HFrEFに対するCRTの適応(洞調律の主な組み合わせ)
| NYHA | LVEF | QRS波形 | QRS幅 | 推奨クラス |
|---|---|---|---|---|
| III〜IV度 | ≦35% | LBBB | ≧120 msec | I |
| III〜IV度 | ≦35% | 非LBBB | ≧150 msec | IIa |
| III〜IV度 | ≦35% | 非LBBB | 120〜149 msec | IIb |
| II度 | ≦30% | LBBB | ≧150 msec | I |
| II度 | ≦35% | LBBB | 120〜149 msec(女性) | I |
| II度 | ≦35% | LBBB | 120〜149 msec | IIa |
| II度 | ≦30% | 非LBBB | ≧150 msec | IIa |
| II度 | ≦30% | 非LBBB | 120〜149 msec | IIb |
心房細動例では、高頻度で両心室ペーシングが可能な場合という条件が付いたうえで、NYHA III〜IV度・LVEF≦35%・LBBBでQRS≧120 msec、または非LBBBでQRS≧150 msecがいずれもIIa・B-NRとされている。またNYHA I〜IV度を通じて、慢性疾患による身体制限がある、または1年以上の余命が期待できない場合はクラスIII No benefitである。
表21と推奨表29でLVEFの基準が食い違う
上の表はガイドラインの表21をそのまま引いたものだが、同じ内容を文章で示した推奨表29と突き合わせると、NYHA II度でQRS≧150 msecの2行(LBBB=クラスI、非LBBB=クラスIIa)のLVEF基準が、表21では≦30%、推奨表29では≦35%になっている。ガイドライン内部の不一致で、どちらが正なのかは本文からは判断できない。LVEFが30〜35%のNYHA II度・QRS≧150 msecという該当しうる症例に出会ったら、この差を認識したうえで専門医に相談するのが安全である。
欧米の試験では150 msecが目安だった
CRTの臨床試験のメタ解析では、QRS幅150 msec以上の完全左脚ブロック波形でCRTの効果があることが示された。一方、右脚ブロックを含む非左脚ブロック波形ではCRT効果は十分でないと結論づけられている。さらにEchoCRT試験では、LVEF≦35%・QRS幅≦130 msecかつ心エコーで左室同期不全を認めた症例で、心不全入院および死亡の発生率に有意差がないばかりか、死亡率はCRT-on群で有意に高かった。QRS幅が短い症例へのCRTは、単に効かないだけでなく害になりうる、という結果である。
日本のデータが下限を動かした
しかしわが国からの多施設共同データベース研究では、120 msec≦QRS幅<150 msecであっても、半数以上に良好な反応が得られている。アジア人心不全症例を対象としたAdvanced CRT研究でもmid-range QRS群でCRTの有用性が示され、身長で修正したQRS幅がCRTの有効性と強く相関することが認められた。CRTの有効性を示す心エコー指標であるSeptal flashがQRS幅120〜130 msecで出ることもあり、欧米と比較して体格が小さいわが国を含むアジアの心不全患者(特に女性)については、mid-rangeのQRS幅でもCRTの効果が十分に期待できると判断された。この結果、LBBB型のQRS幅の下限を120 msecとし、女性では推奨クラスIとなっている。
女性がクラスIになった直接の根拠
RAFT、MADIT-CRT、REVERSEのメタ解析で、LBBB症例における心不全入院または死亡に対するCRTの有益性をQRS幅で層別化して性差を検討したところ、女性では130 msec≦QRS幅<150 msecでCRTの有益性が有意に高かった。一方、mid-range QRSの非LBBB型については十分なエビデンスがなく、NYHA III度以上ではLVEF 35%以下、II度ではLVEF 30%以下でクラスIIbにとどまる。
7やりがちな失敗
HFpEFでクラスIが付いているのは、合併疾患の評価と治療、うっ血に対する利尿薬、SGLT2阻害薬の3つだけ。β遮断薬とACE阻害薬は推奨表に項目すら立っていない。
推奨の構成はHFrEF寄りで、β遮断薬・ACE阻害薬の項目が立ち、ARNIもHFpEFのIIbに対してIIa。「中間だから中間の治療」ではない。
HFpEFでは変時不全を有する症例が40〜80%と多く、β遮断薬の中止で運動時の最大酸素摂取量が改善したという報告がある。併存症治療としての必要性を再確認する。
クラスIII Harmが明記されているのは拡張型心筋症の短期間での減量・中止。それ以外のHFimpEFについてはガイドライン自身が「明確な答えはない」としている。
包括的心臓リハビリは多職種チームによる多面的プログラム。日本では外来実施率が約7%で、高齢・フレイル・移動手段の問題を抱えた患者ほど届いていない。
GDMT 3ヵ月以上・NYHA II度以上・LVEF 35%以下を満たし、NSVTを認めるならクラスI。NSVTがなくてもIIa。
一次予防ICDの前提は「GDMTが3ヵ月以上適切に実施されていること」。薬を詰めきる前の低いLVEFで判断しない。
LBBB型なら下限は120 msec。とくに女性はNYHA II度・LVEF≦35%・QRS 120〜149 msecでクラスIになる。
8早見表とシリーズのまとめ
| 領域 | 押さえること |
|---|---|
| HFpEF | クラスIは合併疾患の評価と治療/利尿薬/SGLT2阻害薬の3つ。フィネレノンIIa、ARNI・ARB・スピロノラクトン等はIIb。硝酸薬・PDE5阻害薬・ベルイシグアトは推奨されない |
| HFmrEF | SGLT2阻害薬がクラスI・A。ARNIとフィネレノンがIIa、ARB・ACE阻害薬・スピロノラクトン等・β遮断薬がIIb。単独のRCTは存在せずすべてサブ解析 |
| HFimpEF | 推奨表の項目は1つだけ。拡張型心筋症の短期間での減量・中止がクラスIII Harm。それ以外は「明確な答えはない」 |
| 心臓リハビリ | EFによらず回復期の運動療法はクラスI・A。入院48時間以内からの早期離床もクラスI・B-NR。日本の外来実施率は約7% |
| ICD二次予防 | 可逆的要因によらない持続性VT/VF・心停止からの蘇生後はクラスI・A(急性心筋梗塞後48時間以内を除く) |
| ICD一次予防 | 前提はGDMT 3ヵ月以上+NYHA II度以上+LVEF 35%以下。虚血性はI、非虚血性はNSVTありでI・なしでIIa。余命1年未満等はIII |
| CRT | NYHA III〜IV度・LVEF≦35%・LBBB・QRS≧120 msecでI。NYHA II度でも女性はLVEF≦35%・LBBB・QRS 120〜149 msecでI |
シリーズ5回のまとめ
| 回 | 扱ったこと |
|---|---|
| ① 初期対応 | クリニカルシナリオ分類の相対化と、うっ血・低心拍出を別軸で見る3軸評価。増悪因子とSCAIショックステージ |
| ② 急性期薬物治療 | クラスIはうっ血に対するループ利尿薬静注だけ。血管拡張薬はIIb、強心薬はショックのない患者ではIII Harm |
| ③ 診断 | LVEFの4分類は経時的に変わる。BNPは外来と入院でカットオフが違い、肥満で低く腎機能低下で高く出る |
| ④ 慢性期GDMT | 4本柱はできるだけ早期に。次の薬を始める前に目標用量まで上げきる必要はない。推奨と保険がずれる4か所 |
| ⑤ HFpEF/非薬物治療 | HFpEFのクラスIはSGLT2阻害薬だけ。心リハ・ICD・CRTは「誰をいつ送るか」で押さえる |
Take home
- わが国ではステージCの69%、ステージDの51%がHFpEFで、すでに心不全の主要な表現型になっている。そのHFpEFでクラスIが付いているのは、合併疾患の評価と治療・うっ血に対する利尿薬・SGLT2阻害薬の3つだけ
- HFmrEFは単独のRCTが存在せずすべてサブ解析だが、推奨の構成はHFpEFよりHFrEFに近い。β遮断薬とACE阻害薬の項目が立ち、ARNIも一段上のIIaになる
- HFimpEFの推奨表は1行だけで、対象は拡張型心筋症の短期間での減量・中止(クラスIII Harm)。それ以外についてはガイドライン自身が「明確な答えはない」としている
- 心臓リハビリはEFによらず回復期の運動療法がクラスI・Aだが、日本の外来実施率は約7%。高齢・フレイル・移動手段の問題を抱えた患者ほど届いていない
- 一次予防ICDの前提はGDMTを3ヵ月以上適切に実施していること。非虚血性はDANISH試験を受けて議論があるが、本ガイドラインは日本からの報告を根拠にNSVTありでクラスI、なしでIIaと分けている
- CRTはLBBB型ならQRS 120 msecから適応に入る。アジア人は体格が小さくmid-rangeのQRS幅でも効果が期待できると判断された結果で、女性はNYHA II度でもクラスIになる
- ①〜④では「推奨に保険が追いつかない」場面が続いたが、ICDとCRTでは日本のデータを根拠にガイドラインが独自の判断を示している。日本のエビデンスが推奨を動かしている領域もある
全5回にわたってお付き合いいただき、ありがとうございました。ガイドラインは1本の通読だけで終わる資料ではなく、「推奨クラスと保険適用が食い違う場所」「日本のデータが推奨を動かした場所」を拾い直すたびに読み方が変わる。そういう読み方の入口になれば幸いである。
参考文献
- 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン. 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン(JCS/JHFS 2025 Guideline on Diagnosis and Treatment of Heart Failure). 2025年3月28日発行・2025年12月19日更新.
- Anker SD, Butler J, Filippatos G, et al. Empagliflozin in Heart Failure with a Preserved Ejection Fraction(EMPEROR-Preserved試験). N Engl J Med. 2021;385(16):1451-1461.
- Solomon SD, McMurray JJV, Claggett B, et al. Dapagliflozin in Heart Failure with Mildly Reduced or Preserved Ejection Fraction(DELIVER試験). N Engl J Med. 2022;387(12):1089-1098.
- Solomon SD, McMurray JJV, Anand IS, et al. Angiotensin-Neprilysin Inhibition in Heart Failure with Preserved Ejection Fraction(PARAGON-HF試験). N Engl J Med. 2019;381(17):1609-1620.
- Halliday BP, Wassall R, Lota AS, et al. Withdrawal of pharmacological treatment for heart failure in patients with recovered dilated cardiomyopathy(TRED-HF試験). Lancet. 2019;393(10166):61-73.
- Køber L, Thune JJ, Nielsen JC, et al. Defibrillator Implantation in Patients with Nonischemic Systolic Heart Failure(DANISH試験). N Engl J Med. 2016;375(13):1221-1230.
- Ruschitzka F, Abraham WT, Singh JP, et al. Cardiac-resynchronization therapy in heart failure with a narrow QRS complex(EchoCRT試験). N Engl J Med. 2013;369(15):1395-1405.
