ER-症候別

大動脈解離 総論

大動脈解離は、疑えるかどうかで生死が分かれる。裂けるような胸背部痛は典型だが、痛みの移動・失神・対麻痺・腹痛・左右の血圧差など、入口は一つではない。この記事は、まず疑って除外する道具(ADD-RS+D-dimer)、造影CTで何を見るか、A型は緊急手術・B型はまず内科という初期方針、そして近年いちばん動いたB型の管理(NEJM 2025総説)を、日本の実臨床に寄せて並べ直す。

この記事の芯

大動脈解離は「疑えるか」で決まる。ADD-RS≦1かつD-dimer陰性でほぼ除外、それ以外は造影CT。

A型は緊急手術、B型は6割がまず内科。B型で破裂・灌流障害・高リスクがあるものだけ介入に回す。

この記事でわかること

  • 急性大動脈症候群(解離・IMH・PAU)の分類と、Stanford/DeBakey/SVS-STSの読み方
  • ADD-RS+D-dimerによる除外(≦1点かつ<500 ng/mLでほぼ除外)
  • 造影CTで見るもの(偽腔の造影欠損、hyperdense crescent、進展範囲)
  • 全型共通の初期管理(SBP 100〜120・HR 60〜80、まずβ遮断でdP/dtを抑える)
  • A型が「待てない」理由と、B型は6割がuncomplicatedであること
  • B型の高リスク所見・INSTEAD/ADSORB・up-front TEVARがClass 2bにとどまる理由
  • 灌流障害の動的/静的と、生涯サーベイランスの閾値

1定義と分類 ― 3層・真腔と偽腔、急性大動脈症候群の3つ

大動脈解離は、3層(内膜・中膜・外膜)のうち最も脆弱な中膜が裂け、血液が壁内に流れ込んで偽腔(false lumen)をつくる病態である。真腔(true lumen)との交通の有無で見え方が変わる。

急性大動脈症候群(AAS)=似た顔で機序が違う3つ

  • 大動脈解離(AAD):内膜の亀裂から始まり、フラップが順行性・逆行性に剥離する。
  • 壁内血腫(IMH):vasa vasorumの破綻で中膜内に出血。内膜亀裂を伴わない。虚血で内膜が破れれば解離に移行しうる。
  • 穿通性動脈硬化潰瘍(PAU):粥腫が内弾性板を貫いて潰瘍化したもの。

図1:急性大動脈症候群の3病態(AAD/IMH/PAU)

大動脈解離(AAD)真腔/偽腔内膜が裂け、フラップと真腔・偽腔ができる壁内血腫(IMH)三日月状の血腫中膜内に出血。内膜亀裂を伴わない穿通性潰瘍(PAU)潰瘍が壁外へ粥腫が内弾性板を貫き潰瘍化3つは似た顔で機序が違う。IMHは内膜が破れれば解離に移行しうる

偽腔の型

偽腔開存型 真腔と偽腔が交通し、造影で偽腔にも血流を認める
偽腔閉塞型(IMH) 交通せず、造影で偽腔に血流を認めない
ULP(潰瘍突出像) 閉塞した偽腔にできる、頭尾方向の広がりが15 mm未満の造影域。15 mm以上は偽腔開存型に分類する(JCS 2020の定義)

部位で分ける ― Stanford/DeBakey/SVS-STS

図2:分類の模式図(Stanford A/B・DeBakey・SVS-STS zone)

Stanford A型 ― 上行に及ぶDeBakey I(広範)/II(上行限局)Stanford B型 ― 左鎖骨下より遠位左鎖骨下動脈DeBakey IIIa(胸部)/IIIb(腹部まで)SVS-STSはentryのゾーンで記述:A=zone 0/B=zone 1以遠。内膜亀裂の約2/3は上行に生じる

臨床はStanford分類で十分に回る。上行に及べばA型、及ばなければB型。DeBakeyは併記程度でよい(I=広範、II=上行限局、IIIa=下行胸部、IIIb=腹部まで)。より正確な記述にはentryのゾーンで表すSVS-STS分類(A=zone 0、B=zone 1以遠)が使われる。

なぜB型は左鎖骨下の近くから始まるのか

内膜亀裂の約2/3は上行大動脈に生じ、残りの多くは左鎖骨下動脈の近傍から始まって遠位へ伸びる。ずり応力が高い部位に起きやすいためで、これが「B型はarch遠位から」という像の背景になる。

2疑う ― ADD-RS + D-dimer

大動脈解離は「疑えるか」で決まる。CTを撮ろうと思えるかどうかが入口である。

病歴・症状・身体所見

突然発症・引き裂かれるような・移動する胸背部痛が典型。ただし「引き裂かれるような」痛みはみられるのは約半数(IRADで約51%)で、それだけでは拾えない(「移動する」痛みはさらに少なく2割弱)。むしろ突然発症(約85%)や、これまでにない強烈さ(約90%)のほうが高頻度である。失神・対麻痺・腹痛・四肢の冷感といった非典型の入口も多い。

脈拍欠損・血圧左右差 左右差≧20 mmHg目安。あると強いが、なくても否定できない
痛みを伴う局所神経脱落 頸動脈・脊髄への波及
拡張期雑音(AR) A型で大動脈弁逆流
ショック・低血圧 心タンポナーデ/破裂/重症灌流障害を示唆

除外の道具 ― ADD-RS + D-dimer

図3:ADD-RSの3カテゴリー(各カテゴリーに該当あり=1点、0〜3点)

① 高リスク素因・Marfan等の結合組織病・大動脈疾患の家族歴・大動脈弁疾患・最近の大動脈手技・既知の胸部大動脈瘤該当あり → 1点② 痛みの性状・突然発症・強烈(これまでにない)・引き裂かれる/移動する・(胸・背・腹のいずれか)該当あり → 1点③ 身体所見・脈拍欠損 or 血圧左右差・痛みを伴う局所神経脱落・大動脈弁逆流の雑音・低血圧・ショック該当あり → 1点3カテゴリーで 0〜3点。点数が高いほど大動脈症候群の確率が上がる

図4:ADD-RS+D-dimerによる除外フロー

急性大動脈症候群を疑うADD-RS を採点(0〜3点)2〜3点 / 灌流障害徴候ただちに造影CT0〜1点D-dimer を測る<500 ng/mLほぼ除外(NPV 約99.7%)≥500 ng/mL造影CTへ

除外のルール(ADvISED)

ADD-RS ≦1 かつ D-dimer <500 ng/mL なら、急性大動脈症候群をほぼ除外できる(陰性的中率 約99.7%)。

逆に、ADD-RSが2〜3点、あるいは灌流障害を思わせる徴候があれば、D-dimerを待たずに造影CTへ進む。

3画像 ― 造影CTを基本に

胸部X線は、上縦隔拡大・大動脈のcalcification sign(内膜石灰化の内方偏位)・胸水などを拾えるが、感度・特異度とも不十分で、正常でも否定できない。除外には使わない。

写真:胸部X線 ― 上縦隔の拡大(自験例)

胸部X線で上縦隔が拡大している大動脈解離の症例

診断の基本は造影CT(CTA)である。見るべきものは次のとおり。

  • 内膜フラップと、entry/re-entry
  • 偽腔の造影効果(開存型は造影され、閉塞型/IMHは造影を認めない=血流なし)
  • 単純CTでの hyperdense crescent sign(壁内の高吸収=壁内血腫。造影前に拾える)
  • 解離の進展範囲(上行への及びの有無=A/Bを分ける)、分枝への波及=灌流障害
  • 破裂・切迫破裂の徴候、心嚢液

写真:単純CTのhyperdense crescent sign(自験例)

単純CTで壁内血腫が高吸収の三日月として見える

写真:造影CT ― 解離の進展範囲(自験例)

造影CTで解離腔の進展範囲を評価している

読影の型 ― 「偽腔か・慢性か・アーチファクトか」で迷わないために

解離のCTは、これが偽腔なのか、慢性の血栓化・閉塞なのか、それともアーチファクトなのかで悩むことが多い。迷いを3つの問いに割ると詰めやすい。

  • 問1:2つの腔の、どちらが真腔でどちらが偽腔か
  • 問2:その濃染しない部分は、開存偽腔か・血栓化偽腔/IMHか・動脈硬化の壁在血栓(=解離ではない)か
  • 問3:そもそも本物のフラップか、拍動アーチファクトや正常構造の見誤りではないか

問1:真腔と偽腔を見分ける ― まず beak sign

図5:真腔と偽腔を見分けるサイン

CTで真腔と偽腔を見分ける ― まず beak sign真腔小・円・早く濃染偽腔(大きい)beak sign(鋭角)beak sign偽腔の外壁につく楔状の鋭角。断面積とともに最も有用断面積が大きい方が偽腔偽腔圧が高く真腔を圧排する。beakと並ぶ最有用cobweb sign偽腔内の細い索状線=残った中膜。特異的だが稀。あれば決め手内膜石灰化は真腔側偏心性のフラップ石灰化・内膜石灰化は真腔にある弓部で巻き込むなら内側が真腔一方が他方を包むとき、内側が必ず真腔

最も有用とされるのが beak sign(偽腔の外壁につく楔状の鋭角=フラップが壁を割って進んだ跡。この鋭角がある側が偽腔)と、断面積が大きい方が偽腔(偽腔圧が真腔を圧排する)の2つ(LePage 2001はこの2つを最有用としている)。cobweb sign(偽腔内を横切る細い索状線=ちぎれ残った中膜)は偽腔に特異的で、あれば決め手・なくても否定にはならない。内膜石灰化・偏心性のフラップ石灰化は真腔側にあり、弓部で一方が他方を包むときは内側が必ず真腔。補助として真腔は早く均一に濃染する。

問2:偽腔か・血栓化/IMHか・動脈硬化の壁在血栓か

ここがいちばん悩む。まず単純CT。三日月状(ときに全周性)の高吸収が壁にあれば血栓化偽腔/壁内血腫(IMH)を疑う。この高吸収は造影だけでは埋もれるので、急性大動脈症候群では単純+造影の両方を撮る。造影で濃染すれば開存偽腔、濃染しなければ血栓化偽腔/IMH

図6:石灰化の向きで「解離・IMH」と「動脈硬化の壁在血栓」を分ける

解離・壁内血腫(IMH)石灰化が内腔側へ押し込まれる血腫は内膜の外にたまる動脈硬化の壁在血栓(解離ではない)石灰化は外壁沿いのまま血栓は内膜の内側につく

IMHと動脈硬化の壁在血栓を分ける決め手は石灰化の向き。解離・IMHは血腫が内膜の外にたまるので内膜石灰化が内腔側へ押し込まれる。動脈硬化の壁在血栓は血栓が内膜の内側につくので石灰化は外壁沿いのまま。加えて、IMH/血栓化偽腔は内腔面が平滑で厚みが全周性に一定、壁在血栓は不整・限局で厚みがばらつく。

「血栓化に見えるが、急性か慢性か」の詰め

急性はフラップが薄く可動性があり、偽腔圧に押されて真腔側へ凸に張り出す。慢性はフラップが厚く直線的・硬く(6か月ほどで外壁と同じ厚みになる)、偽腔壁は平滑化し瘤化・器質化を伴う。

※ 画像所見に「何日以上で慢性」という数値の境界はない。臨床の急性(14日以内)・亜急性・慢性(3か月超)は発症からの時間の定義で、読影所見とは別物。混同しない。

問3:本物のフラップか、ニセモノか

フラップに見えて違うもの ― まず疑う型

  • 拍動アーチファクト(最頻・要注意)。非同期CTで上行大動脈〜基部に細いニセのフラップが出る。左右対称に見えやすく、大動脈壁を越えて外へはみ出す/壁が二重に見えるのが見分けの芯(本物は内腔内にとどまる)。ECG同期で消える。
  • ストリーク/ビームハードニング。SVC・左腕頭静脈の高濃度造影や腕を下げた撮影で、大動脈を横切る線状のニセ像が出る。生食後押し・腕挙上で軽減。
  • 大動脈周囲の正常構造の見誤り。左腕頭静脈・上心膜洞・左上肋間静脈(aortic nipple)・胸腺・無気肺などが偽腔や二重腔に見える。連続スライスで追えば、静脈は静脈相で濃染し既知の血管につながる=フラップとは別物。

TEEとMRIの位置づけ

経食道心エコー(TEE)は、不安定でCT室に運べない場合や手術室での評価に使う。MRIは時間とアクセスの点で急性期の主役ではなく、慢性期フォローの選択肢になる。

4全型に共通する初期管理 ― 血圧と「揺れ」を抑える

急性大動脈症候群では、まずanti-impulse療法(血圧と心拍、そして血圧の立ち上がりを抑える)を、動脈ラインでモニターしながらICUで始める(AHA/ACC 2022 Class I)。

血圧 収縮期 <120 mmHg(目安100〜120。臓器灌流を保てる最低値)〔Class I〕
心拍 60〜80/分〔Class I〕
第一選択 静注β遮断薬〔Class I〕。心拍・血圧に加え、壁にかかる dP/dt(血圧の立ち上がり)を抑える。β遮断が使えなければ非DHP系Ca拮抗薬〔Class 2a〕

血管拡張薬を「単独で先に」使わない

血管拡張薬の単独投与は反射性頻脈でdP/dtをむしろ上げる。AHA/ACC 2022でも、血管拡張薬はβ遮断でBPが下がりきらないときに追加する順(Class I)。疼痛はオピオイドで抑える(Class I。疼痛コントロール自体が血圧を下げる)。

長期は二次予防を継続する(降圧、ACE阻害薬/ARBが長期のイベント抑制に有用)。

5A型 ― 何があろうと緊急手術

Stanford A型(上行に及ぶ)は、疑い/確定の時点で緊急外科相談・即手術である(AHA/ACC 2022 Class I)。内科管理だけの死亡率は手術の2〜3倍とされる。放置すれば心タンポナーデ・大動脈弁逆流・冠動脈解離・破裂で急速に死亡する。救急初療での芯は、A型と分かった時点で直ちに心臓血管外科へつなぐこと。

術式の芯は上行大動脈置換(必要に応じ弓部・基部・弁へ拡大)。弁は温存可能なら再懸吊、根部破壊・根部瘤・遺伝性疾患なら基部置換となる。脳梗塞を合併したA型でも、内科より手術が妥当とされる(Class 2a)。

6B型 ― 6割はまず内科。合併症と高リスクだけ介入へ

B型(下行。起始が左鎖骨下動脈より遠位)の約6割は来院時 uncomplicated(破裂も灌流障害もない)である。まず内科で立て直し、合併症が出た/高リスクなものだけを介入に回す、という順番が芯になる。

図5:B型大動脈解離の管理アルゴリズム

B型大動脈解離破裂 or 灌流障害があるか?ありTEVAR(安定化後、緊急)なし(=uncomplicated、6割)内科療法SBP100-120・HR60-80フォロー中に合併症・拡大?(55mm/6か月+5mm/1年+10mm)あり介入(TEVAR/適応なら開胸)なし内科継続+生涯サーベイランス超早期(<48時間)のTEVARは逆行性A型解離を増やすため避け、亜急性期に寄せる

complicated ― 破裂 または 灌流障害

complicatedは破裂(外膜を越えた血液の漏出)または灌流障害(malperfusion)を指す。血行動態を安定化させたうえで介入する(AHA/ACC 2022:合併症を伴うB型への介入は Class I)。TEVAR(胸部ステントグラフト)が開胸手術に取って代わったのがこの領域で、解剖学的に適せば、破裂ではTEVARを開胸より優先(Class I)、その他の合併症(灌流障害など)でもTEVARが妥当(Class 2a)とされる。

場面 AHA/ACC 2022 の推奨(COR)
uncomplicated B型 内科療法を初期治療に ― Class I(B-NR)
complicated B型(破裂・灌流障害) 介入を推奨 ― Class I。破裂ならTEVARを開胸より優先(Class I)、その他合併症はTEVARが妥当(Class 2a)
uncomplicated+高リスク所見 up-front(先制)TEVARを考慮してもよい ― Class 2b(B-R)
退院後サーベイランス CT/MRIを1・6・12か月→年1回 ― Class I(B-NR)

図6:灌流障害の2つの機序(動的/静的)

動的(dynamic・約80%)分枝可動フラップが分枝入口を間欠的に塞ぐ。症状が変動静的(static)偽腔が分枝内に張り出し、分枝が血栓化する腎が最多。まず灌流障害の解除を優先した方が予後がよいとされる

TEVARの手技メモ

entry tearを覆う。近位端が zone 2 になることが多く、左鎖骨下動脈の血流確保に carotid-subclavianバイパスや branched endograft を要する。持続する灌流障害には分枝ステントや逆行性iliac-SMAバイパスを足すことがある。PETTICOAT(近位ステント+遠位bare stent)やSTABILISE(内膜圧着=検証中)といった術式もある。開胸手術は、解剖学的にTEVAR不適、またはTEVAR後も灌流障害が残る例に限られる。

uncomplicated ― 原則、内科。ただし「高リスク所見」を拾う

uncomplicatedはB型の約6割で、内科療法が Class I。ただし将来complicatedになりやすいhigh-risk features(SVS-STS 2020)を持つ群がある。

カテゴリー high-risk features(SVS-STS 2020)
大動脈・偽腔の形態 最大径 >40 mm、偽腔径 >22 mm、entry tear >10 mm、entryが小弯側
経過の徴候 入院中の連続画像で総径が >5 mm増大、血性胸水、画像上のみの灌流障害
難治性の症候 3系統以上の降圧薬でも難治の高血圧、最大量の鎮痛でも12時間超の疼痛、再入院を要した

※ これらの高リスク所見の根拠は、後ろ向き・小規模・単施設の研究に基づき限定的、と総説は明記している。

uncomplicated に TEVAR を足すか ― INSTEAD と ADSORB

試験 要点
INSTEAD/INSTEAD-XL 亜急性後期〜慢性の140例。2年生存は同等だが、5年で解離関連死 6.9% 対 19.3%(HR 0.35)、疾患進行 27% 対 46%。長期のリモデリング・解離関連死でTEVARが勝つ
ADSORB 発症14日以内の急性61例。1年の大動脈リモデリングは 57% 対 3%

それでも up-front TEVAR は Class 2b

エビデンスは長期リモデリングでTEVAR有利を示すが、ガイドラインでのuncomplicatedへの先制TEVARはClass 2bにとどまる。十分な検出力のRCTがまだなく、TEVARの手技合併症(脳卒中・対麻痺・破裂・逆行性A型解離・新たな遠位tear)を最小にできて初めて意味を持つからである。現在 IMPROVE-AD・SUNDAY・EARNEST が進行中。

タイミングは、超早期(<48時間)は逆行性A型解離を増やすため避け、亜急性期に寄せるのが一般的コンセンサス。

日本のガイドライン(JCS 2020)との対比

日本の JCS 2020(大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン) でもB型の芯は同じで、合併症のないB型は降圧・安静の内科治療、破裂・灌流障害の complicated はTEVAR/外科である。ただし推奨クラスを並べると、先制TEVARで日本の方が一段踏み込むなど、実務に効く違いが見えてくる。

場面 JCS 2020(推奨クラス/レベル) AHA/ACC 2022(COR/LOE)
初期の血圧・心拍管理 収縮期100〜120 mmHg・心拍 <60/分 ― クラスI(C) 収縮期 <120 mmHg・心拍 60〜80/分 ― Class I
第一選択の降圧薬 β遮断薬 ― クラスIIa(C) β遮断薬 ― Class I
complicated(破裂・灌流障害)にTEVAR 急性・亜急性例にTEVAR ― クラスI(C) Class I(B-NR)。破裂はTEVAR>開胸(I)、他合併症はTEVAR妥当(2a)
灌流障害への血管内治療(開窓・分枝ステント) クラスIIa(C) TEVARに包含し、必要に応じ分枝処置を追加
high-risk uncomplicated への先制TEVAR 亜急性〜慢性早期に考慮 ― クラスIIa(B)/急性期は クラスIIb(B) up-front TEVAR ― Class 2b(B-R)
uncomplicated 急性期の外科手術 推奨されない ― クラスIII(C) (特段の言及なし)

対比の読みどころ

  • 先制TEVARは日本がやや前向き。将来偽腔が拡大しそうな high-risk uncomplicated への亜急性〜慢性早期の先制TEVARを、JCSは クラスIIa(B)と位置づける。AHA/ACCの Class 2b より一段強い。最適タイミングは発症6か月以内とされ、超早期は逆行性A型解離を避けるため外す。
  • 心拍目標はJCSがより低い。JCSは心拍 <60/分、AHA/ACCは 60〜80/分。dP/dt(血圧の立ち上がり)を抑える狙いは共通で、いずれもβ遮断が土台。
  • complicatedの中身は日本(IRAD準拠)の方が広い。JCSは破裂・灌流障害に加え、持続/再発する痛み・コントロール不能の高血圧・急速拡大/真性瘤合併も complicated に含める。救急では「難治性の痛み・血圧・拡大」も介入検討のサインになる。

特殊な状況

遺伝性大動脈疾患 Marfan・Loeys-Dietz・血管型EDSは壁が脆く逆行性A型解離のリスクが高いため、TEVARは相対的禁忌。uncomplicatedは内科、complicatedは開胸を基本に(TEVARは救命の一時しのぎとして使うことはある)
妊娠 uncomplicated B型はラベタロールで内科的に、complicatedは非妊娠時と同様に緊急介入。多職種で管理

7合併症 ― 灌流障害と、A型特有の致死的合併症

合併症は、分枝の灌流障害(malperfusion)と、A型特有の致死的合併症に整理すると見通しがよい。

灌流障害(malperfusion)

腎(最多)、腸間膜、脊髄(対麻痺)、下肢、脳など、あらゆる分枝に起こりうる。機序は動的(フラップが分枝入口を間欠閉塞、約80%)と静的(偽腔が分枝内に張り出し血栓化)。近年は「大動脈の修復より、まず灌流障害の解除を優先した方が予後がよい」とされる。

A型特有の、待てない合併症

心タンポナーデ 偽腔・破裂による心嚢内出血。ショック・閉塞性
大動脈弁逆流(AR) 弁尖の支持が破綻し急性AR
心筋梗塞 冠動脈(特に右冠動脈)への波及
脳梗塞 腕頭・頸動脈への波及
破裂 外膜を越えた血液の漏出。胸腔・縦隔・心嚢へ

これらがA型を「待てない」病態にしている。だからA型は、合併症の有無にかかわらず緊急手術になる。

8経過観察 ― 一生ものとして診る

B型は偽腔の瘤化・拡大が25〜40%に起きる。退院後は 1・6・12か月、以後は年1回のCT/MRI+臨床フォローを組む(AHA/ACC 2022 Class I。内科管理例・修復後のいずれも同じ)。

介入を考える閾値

総径が 6か月で5 mm増大/1年で10 mm増大/55 mmに到達 したら介入を検討する(NEJM 2025総説)。なおAHA/ACC 2022は下行大動脈瘤の修復閾値を55 mm(5.5 cm)、急速拡大を1年で5 mm以上としており、大枠は一致する。

血圧管理と画像フォローを続けられるか(アドヒアランス)が、長期予後を左右する。

9やりがちな失敗とTake home

1 胸部X線が正常だから解離を否定する 除外には使えない。疑ったら造影CTへ。
2 D-dimerだけ/ADD-RSだけで判断する 併用ではじめて除外できる。ADD-RS 2〜3点や灌流障害徴候は、待たずにCT。
3 単純CTなしで「血栓化=慢性・否定」と決める 単純CTの三日月状高吸収でIMH/血栓化偽腔を拾う。石灰化が内へ押し込まれていれば解離/IMH、外壁沿いなら壁在血栓。
4 上行の「フラップ」をそのまま解離と読む まず拍動アーチファクトを疑う。壁を越えて外へはみ出す/左右対称ならニセもの。ECG同期や連続スライスで確認。
5 血管拡張薬を単独で先に使う 反射性頻脈でdP/dtが上がる。まずβ遮断で心拍を抑えてから足す。
6 A型で心臓血管外科への連絡を遅らせる A型は合併症の有無を問わず緊急手術。分かった時点で直ちにつなぐ。
7 B型を全部「保存」か全部「TEVAR」で二分する 6割はまず内科。破裂・灌流障害・高リスクで介入、という順番。
8 uncomplicated B型に超早期TEVAR <48時間は逆行性A型解離を増やす。急がなければ亜急性期に寄せる。
9 退院後フォローを組まない B型は瘤化25〜40%。1・6・12か月→年1回で追う。

Take home

  1. 大動脈解離は「疑えるか」。ADD-RS≦1かつD-dimer<500でほぼ除外、それ以外は造影CT
  2. 初期は全型共通で SBP 100〜120・HR 60〜80、まずβ遮断(dP/dtを抑える)。血管拡張薬は単独で先に使わない
  3. A型は合併症の有無を問わず緊急手術。B型は6割がuncomplicatedでまず内科
  4. B型は破裂・灌流障害・高リスク所見で介入。up-front TEVARは長期リモデリングに利益だがガイドラインはClass 2b。超早期は避け亜急性期に
  5. 灌流障害は動的(約80%)/静的。まず灌流の解除を優先した方が予後がよい
  6. B型は一生もの。1・6・12か月→年1回、55mm・6か月+5mm・1年+10mmで介入を考える
参考文献
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