神経

急性期脳梗塞ーAHAガイドライン2026

急性期脳梗塞のガイドラインが、2026年、初のAHA/ASA単独版として全面改訂された(2018年版と2019年アップデートを置換)。ERの初期対応に効く変更が多い ― 血栓溶解薬の選択と用量、血圧、血糖、そして血栓回収の適応拡大。しかもこの改訂は、日本発のエビデンス(large coreのRESCUE-Japan LIMIT、テネクテプラーゼのT-FLAVOR)にも支えられている。一方で、日本の現場は薬も用量もアメリカと違う。その差を軸に読み解く。

この記事の芯

日本が引っ張った領域(large core EVT)と、日本がまだ届かない領域(テネクテプラーゼ・アルテプラーゼ用量)が、同じガイドラインに同居している。

もう一つの芯は血圧で、「再灌流が成功したら下げすぎるな」がHarmになった

この記事でわかること

  • テネクテプラーゼ(TNK 0.25 mg/kg)がアルテプラーゼと同格に。日本は未承認で審査中
  • 日本のアルテプラーゼは0.6 mg/kg(国際0.9 mg/kg)という用量差
  • EVT成功後の強化降圧(<140)はHarm、rt-PA後の<140はNo Benefit
  • 強化血糖管理(80-130)はNo Benefit。140-180で十分
  • EVTがlarge core(ASPECTS 3-5)と脳底動脈(NIHSS≥10)に拡大、中小血管はNo Benefit
  • 非障害性軽症はrt-PAより早期DAPT

1血栓溶解 ― テネクテプラーゼが同格へ。日本は薬も用量も違う

2026 AHA/ASAの目玉のひとつ。発症/最終健常確認から4.5時間以内でrt-PA適応なら、テネクテプラーゼ(TNK)0.25 mg/kg(最大25 mg)単回ボーラス、または アルテプラーゼ 0.9 mg/kgを推奨(COR 1, LOE A)。本文は「TNK 0.25はアルテプラーゼに代わる第一選択になりうる」とまで書いた(2019年は弱い推奨止まりだった)。TNK 0.4 mg/kgは非推奨(No Benefit)。

速さ優先で、4.5時間以内ならCTA/MRAや灌流画像を待たずに単純CTで開始してよい(COR 1)。時刻不明例は、灌流ミスマッチ(4.5〜9時間、COR 2a)やDWI-FLAILミスマッチ(COR 2a)で枠が広がった。

図1:血栓溶解の日米差

項目 日本(GL2025・添付文書) 2026 AHA/ASA
薬剤の選択 アルテプラーゼのみ。テネクテプラーゼは未承認(T-FLAVOR成功→厚労省審査中) TNK 0.25 mg/kg と アルテプラーゼ 0.9 mg/kg が同格(COR 1)
アルテプラーゼ用量 0.6 mg/kg(上限60 mg)=低用量 0.9 mg/kg(上限90 mg)
時間枠 発症4.5時間以内。時刻不明はDWI-FLAIRミスマッチで判断 4.5時間以内。wake-up/遅発は灌流 or DWI-FLAILミスマッチで拡大(COR 2a)
軽症・非障害性 軽症(NIHSS≤5)は抗血小板を考慮し得る(2025追記) 非障害性軽症はrt-PA非推奨(COR 3: No Benefit)→ DAPTへ

日本の差 ①:薬と用量 ― ここが最大

テネクテプラーゼは日本では未承認(2026年8月時点)。国内で脳梗塞に承認された静注血栓溶解薬はアルテプラーゼのみ。ただし国内主導のT-FLAVOR試験(0.25 mg/kg)が成功し、早期再開通率10.3%対3.6%(対アルテプラーゼ)で有効性を確認、JAMA Neurology(2026年6月)に掲載。現在、厚労省が承認を検討中である。「効くと分かったが、まだ日本では使えない」段階。

さらにアルテプラーゼの国内承認用量は0.6 mg/kg(上限60 mg)で、国際標準の0.9 mg/kgより低い。日本はJ-ACT試験に基づき低用量で承認された歴史がある。薬も用量も違う、という前提を持っておく。

2血圧 ― 再灌流が成功したら、下げすぎるな

場面ごとに目標が違う。そして今回、「下げすぎるな」が2つ、はっきり否定になった

図2:場面別の血圧管理(色=してよい/No Benefit/Harm)

場面 推奨(色=してよい/No Benefit/Harm)
rt-PA前 収縮期 <185 / 拡張期 <110 まで下げてから開始(COR 1)
rt-PA後(24時間) <180/105 を維持(COR 1)。目安 収縮期140〜180
rt-PA後の強化降圧(<140) No Benefit(COR 3)。出血は減るが機能予後は不変
EVT中〜後(24時間) ≤180/105 を維持(COR 2a)
EVT成功後の強化降圧(<140を72時間) Harm(COR 3)。早期神経悪化・障害が増える。<120は死亡増
再灌流なし・BP <220/120 48〜72時間は降圧を始めない(COR 3: No Benefit)。約75%は自然低下
再灌流なし・BP ≥220/120 下げるなら初回は約15%減に留める(COR 2b)

最も強い変更 ― EVT成功後の強化降圧はHarm

EVTで再灌流が成功(mTICI 2b/2c/3)した後、収縮期<140を72時間続けるのはHarm(COR 3: Harm, LOE A)。早期の神経学的悪化・障害が増える(<120はさらに死亡増)。再灌流後の血圧管理で初めて明確に「Harm」がついた

rt-PA後の強化降圧(<140)も、頭蓋内出血は減るが機能予後は良くならずNo Benefit

日本では

日本も血栓回収後は「収縮期<140への過度な降圧は避け、180以下で管理」で方向は同じ。ただしAHA/ASAのように「成功再灌流後の<140はHarm」と踏み込んだ表現まではしていない。方向は一致、踏み込みは米国が上。

3血糖 ― 強化管理はもう推奨されない

低血糖(<60 mg/dL)は治療する(COR 1)。持続する高血糖は140〜180 mg/dLを目標にする(COR 2a)。

強化血糖管理(80-130)はNo Benefit

IVインスリンで80〜130 mg/dLに厳格管理するのはNo Benefit(COR 3, LOE A)。SHINE試験で機能予後は改善せず、重症低血糖が増えた。強化管理はしない。

※ 日本でも強化血糖管理は一般化しておらず、高血糖の是正と低血糖回避が実務。脳卒中治療GL2025の血糖目標の数値は本稿執筆時点で原本確認できておらず、断定は避ける。

4血栓回収(EVT)― large coreと脳底動脈に拡大、中小血管はしない

前方循環・近位LVO(内頸/M1)、NIHSS≥6を基本に、適応がlarge coreと脳底動脈へ広がり、逆に中小血管には「しない」という否定が入った。

図3:EVTの適応マップ(時間×ASPECTS×部位でCOR)

適応 条件 推奨
前方 近位LVO(内頸/M1) 0〜6時間、mRS 0-1、ASPECTS 3-10 COR 1
前方 近位LVO 6〜24時間、ASPECTS ≥6、臨床/灌流ミスマッチ COR 1
large core 6〜24時間、80歳未満、ASPECTS 3-5、mass effectなし COR 1
very large core 0〜6時間、80歳未満、ASPECTS 0-2 COR 2a
脳底動脈閉塞 24時間以内、NIHSS ≥10、PC-ASPECTS ≥6 COR 1
脳底動脈閉塞(軽症) 24時間以内、NIHSS 6-9 COR 2b
中小血管(非優位M2・遠位MCA・ACA・PCA) No Benefit(COR 3)

日本発 ― large coreは日本が牽引した

large coreのエビデンスは日本主導のRESCUE-Japan LIMIT(ASPECTS 3-5でEVTが機能予後を改善)が世界を牽引した。脳卒中治療GL2025もDWI-ASPECTS 3-5・24時間以内で適応考慮。この領域は日本が国際を引っ張った側で、適応もほぼ国際水準にある。

手技は、ステント/吸引/併用いずれもCOR 1、目標はeTICI 2b/2c/3、麻酔は全身/鎮静どちらも可。術前tirofibanはNo Benefit、IV abciximabはHarm。

5軽症・TIA ― 非障害性軽症はtPAよりDAPT

アスピリンは48時間以内に開始(COR 1)。ただしrt-PA/EVTの代わりにはしない(COR 3: Harm)。

軽症(NIHSS≤3)/高リスクTIA(ABCD2≥4)・rt-PAなし DAPT(アスピリン+クロピドグレル、負荷投与)を24時間以内→21日で単剤(COR 1, A。CHANCE/POINT)
窓の拡大(新規) NIHSS≤5または高リスクTIAで24〜72時間、あるいはNIHSS 4-5で24時間以内・動脈硬化性 → クロピドグレル+アスピリン21日(COR 2a。INSPIRES)
非障害性の軽症欠損 rt-PAはNo Benefit(DAPTに勝らない)→ 抗血小板へ

※ 日本の脳卒中治療GL2025も軽症(NIHSS≤5)で抗血小板を考慮し得る旨を追記しており、方向は同じ。

6その他の実務変更

嚥下スクリーニング 経口摂取(水分含む)の前にベッドサイド嚥下評価(COR 1)
搬送 door-in-door-out(DIDO)短縮のプロトコル整備(COR 1)。Mobile Stroke Unitは可能なら通常EMSより優先(COR 1)。ただしLVO疑いの遠方TSC直送は、二次搬送体制が整えばNo Benefit(RACECAT)
心房細動合併の軽症脳梗塞 早期の経口抗凝固開始が妥当(COR 2a。ELAN/OPTIMAS)
小児 ≥6歳・LVO・6時間以内でEVT妥当(COR 2a)ほか、小児の項が新設

7日本 vs 国際 まとめ

この記事の芯を1枚に。日本が引っ張った領域(large core)と、まだ届かない領域(TNK・アルテプラーゼ用量)が同居している。

図4:日本 vs 国際(2026 AHA/ASA)

項目 日本(GL2025・添付文書) 2026 AHA/ASA
テネクテプラーゼ 未承認(T-FLAVOR成功・審査中) アルテプラーゼと同格(4.5h、0.25 mg/kg)
アルテプラーゼ用量 0.6 mg/kg 0.9 mg/kg
再灌流成功後の強化降圧 <140の過度降圧は避ける(180以下管理) <140を72時間は Harm
rt-PA後の強化降圧 <140は No Benefit
強化血糖管理(80-130) 一般化せず(数値目標は要確認) No Benefit
large core EVT DWI-ASPECTS 3-5・24hで考慮(日本発LIMIT) ASPECTS 3-5で COR 1/0-2で COR 2a
脳底動脈EVT 24時間以内で考慮 NIHSS ≥10・24hで COR 1
中小血管EVT No Benefit

8やりがちな失敗とTake home

1 軽症・非障害性欠損にとりあえずtPA 非推奨(No Benefit)。DAPTを考える。
2 4.5時間以内なのに灌流画像を待って開始が遅れる 単純CTで開始してよい(COR 1)。
3 EVTで再灌流に成功した後、血圧を<140に下げる Harm。下げすぎない。
4 高血糖を強化インスリンで80-130に管理 No Benefit・低血糖増。140-180で十分。
5 large coreだからとEVTを一律に諦める ASPECTS 3-5は24hでCOR 1、0-2でも2a。
6 脳底動脈閉塞を前方循環と同じ感覚で見送る NIHSS≥10・24hでCOR 1。
7 日本でTNKや0.9 mg/kgをそのまま使おうとする 国内はアルテプラーゼ0.6 mg/kgのみ、TNKは未承認。

Take home

  1. 4.5時間以内はTNK 0.25 or アルテプラーゼ0.9(米国)。日本はアルテプラーゼ0.6 mg/kgのみ、TNKは未承認だがT-FLAVORで審査中
  2. 血圧は「再灌流が成功したら下げすぎるな」。EVT成功後の<140はHarm、rt-PA後の<140はNo Benefit
  3. 強化血糖管理(80-130)はNo Benefit。140-180・低血糖回避で十分
  4. EVTはlarge core(ASPECTS 3-5でCOR 1)と脳底動脈(NIHSS≥10でCOR 1)に拡大。中小血管はNo Benefit
  5. 軽症・高リスクTIAは早期DAPT。非障害性軽症はtPAより抗血小板
参考文献
  • Prabhakaran S, et al. 2026 Guideline for the Early Management of Patients With Acute Ischemic Stroke: A Guideline From the American Heart Association/American Stroke Association. Stroke. 2026;57(8):e316-e436.
  • 国立循環器病研究センター. 医師主導T-FLAVOR試験の成果をもとに新規血栓溶解薬(テネクテプラーゼ)の国内承認へ前進(プレスリリース).
  • Toyoda K, et al. T-FLAVOR(tenecteplase 0.25 mg/kg). JAMA Neurol. 2026(オンライン).
  • アクチバシン注/グルトパ注(アルテプラーゼ)電子添文(0.6 mg/kg、発症4.5時間以内).
  • 日本脳卒中学会. rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法 適正治療指針 第三版(追補含む).
  • 日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕.
  • Yoshimura S, et al. RESCUE-Japan LIMIT(large core への血栓回収). N Engl J Med. 2022;386:1303-1313.
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野戦寄りの病院で救急医をしております。

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