前回(第3回)で、「何を飲んだか」に検査はほとんど答えない、と書いた。では何で当たりをつけるか。答えは、身体所見を“束”で読むこと ―― これが toxidrome(トキシドローム)である。意識・瞳孔・皮膚と分泌・体温・心拍・血圧・腸蠕動・神経筋を組み合わせると、原因物質が分からなくても「どの群か」まで絞るために、先人がわかりやすくまとめたものである。初期対応(何を避け、何を始めるか)が決まる。この回は6つの古典的toxidromeと、実務でいちばん紛らわしい鑑別を各論で扱う。
この記事(第4回)の芯
toxidromeは「皮膚(乾/湿)→瞳孔→腸蠕動→神経筋」の順で束ねると割れる。
紛らわしいのは2組。抗コリンと交感神経は発汗で、セロトニン症候群とNMSは発症時間とクローヌスで見分ける。
この記事でわかること
- 6つの古典的toxidromeを、バイタル・瞳孔・皮膚で束ねる比較表
- 抗コリンと交感神経の決め手は、発汗の有無と腸蠕動
- 有機リンは瞳孔・心拍で測らない。アトロピンは気道分泌の乾燥で滴定する
- セロトニン症候群のHunter基準と、NMS・悪性高熱との見分け方
- 三環系(Naチャネル遮断)は抗コリンに見えて、physostigmineが禁忌なこと
- その physostigmine が、そもそも日本に流通していないこと
1まず一覧 ― バイタルと瞳孔と皮膚で束ねる
原因物質を当てにいく前に、所見を束ねて「どの群か」を決める。6つの古典的toxidromeを、意識・瞳孔・皮膚・体温と循環・腸蠕動で並べた。皮膚の乾/湿で色を分けてあるのは、そこが束ね方の入口だからである。
図1:6つのtoxidrome比較表(皮膚の乾=橙/湿=青)
| toxidrome | 意識 | 瞳孔 | 皮膚・分泌 | 体温・循環 | 腸蠕動 | 代表薬 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 抗コリン | せん妄・興奮 | 散瞳 | 乾・紅潮(無汗) | 高体温・頻脈・やや高血圧 | 低下・尿閉 | 抗ヒスタミン薬、三環系、抗精神病薬、アトロピン |
| コリン作動(ムスカリン) | 傾眠〜混濁 | 縮瞳 | 湿・分泌過多 | 徐脈・低血圧 | 亢進 | 有機リン、カーバメート、神経剤 |
| 交感神経様 | 興奮・過覚醒 | 散瞳 | 湿(発汗) | 高体温・頻脈・高血圧 | 正常〜亢進 | コカイン、アンフェタミン類、MDMA |
| オピオイド | 傾眠〜昏睡 | 縮瞳(点状) | 乾 | 低体温・徐脈・低血圧 | 低下 | ヘロイン、モルヒネ、フェンタニル |
| 鎮静・睡眠薬 | 傾眠〜昏睡 | 正常 | 乾 | ほぼ正常(保たれる) | 低下 | ベンゾ、バルビツール、アルコール |
| セロトニン | 興奮・混濁 | 散瞳 | 湿(発汗) | 高体温・頻脈・高血圧 | 亢進 | SSRI/SNRI、MAOI、トラマドール |
束ね方の順番
①皮膚(乾か湿か)。乾=抗コリン/オピオイド/鎮静。湿=交感神経/セロトニン/コリン作動。
②瞳孔(散瞳か縮瞳か)→ ③腸蠕動 → ④神経筋。この順でたどると、共有所見の多い群も割れていく。
※ 幻覚惹起(LSD・PCP:知覚変容が前面、PCPは眼振・鎮痛・強い興奮)や離脱(アルコール/ベンゾ:頻脈・発汗・振戦、痙攣しうる)も同じ枠で拾える。
2抗コリン vs 交感神経 ― 決め手は皮膚と腸蠕動
この2つは、散瞳・頻脈・高血圧・高体温・興奮を共有するので、そこだけでは割れない。決め手は2つ。
図2:抗コリンと交感神経の見分け
| 皮膚と粘膜 | 抗コリンは「乾いて熱く紅潮」「口腔・腋窩が乾く」。交感神経は「汗ばむ」。発汗の有無が最も信頼できるベッドサイド所見 |
| 腸蠕動と排尿 | 抗コリンは腸蠕動が低下し尿閉(イレウス・尿貯留)。交感神経は保たれる |
抗コリンの語呂
mad as a hatter(せん妄)/blind as a bat(散瞳・調節麻痺)/red as a beet(紅潮)/hot as a hare(高体温)/dry as a bone(乾燥)。最後の「乾」が交感神経との分かれ目。
3コリン作動(有機リン)― 瞳孔・心拍で測らない。分泌で滴定する
コリン作動は二面性を持つ。ムスカリン様とニコチン様で所見が逆を向くことがある。
| ムスカリン様(DUMBELS) | Defecation排便/Urination排尿/Miosis縮瞳/Bradycardia徐脈・Bronchorrhea気道分泌・Bronchospasm気管支攣縮/Emesis嘔吐/Lacrimation流涙/Salivation流涎。命を奪うのは気道分泌と気管支攣縮 |
| ニコチン様 | 散瞳・頻脈・高血圧・線維束攣縮・筋力低下(呼吸筋麻痺) |
瞳孔は当てにならない
有機リンはムスカリンとニコチンが混在し、「典型の縮瞳・徐脈」ではなく散瞳・頻脈で来ることがある。瞳孔や心拍で重症度や治療の指標を決めない。
治療の芯は前々回(第2回・第1回の初期対応)と重なるが、要点を再掲する。アトロピンは心拍でも瞳孔でもなく、気道分泌の乾燥(胸部聴診でラ音が消える)で滴定する。3〜5分ごとに倍量で増やし、肺がクリアになるまで。ニコチン症状(筋力低下・線維束攣縮)にはPAM(プラリドキシム)を、酵素の“aging”前にアトロピンと併用する。痙攣にはベンゾジアゼピン。
※ PAMの臨床的有効性は大規模試験で議論があるが、ガイドラインは併用を推奨している(Eddleston 2016)。
4オピオイド ― 三徴(意識・呼吸・縮瞳)
古典的三徴は、中枢抑制+呼吸抑制(呼吸数・一回換気量の低下)+縮瞳(点状)。加えて徐脈・低体温・腸蠕動低下。
「縮瞳がない=オピオイドでない」ではない
メペリジン・トラマドール・プロポキシフェンは縮瞳しないことがある。混合摂取でも像は崩れる。呼吸抑制の有無を軸に見る。
治療のナロキソンは完全覚醒ではなく“呼吸が戻るまで”滴定する(用量と国内の扱いは第3回に詳述)。長時間作用型(メサドン・フェンタニル)は再鎮静に注意し、観察・持続投与を考える。
5鎮静・睡眠薬 ― オピオイドとの差は「バイタルが保たれる」
中枢抑制だが、バイタル(とくに呼吸)が比較的保たれるのがオピオイドとの差。瞳孔は正常のことが多い。構音障害・失調・眼振(アルコール)を伴う。
単剤なら支持療法(気道・呼吸)が主。バルビツールや混合摂取では呼吸抑制が前面に出る。フルマゼニルは原則使わない(痙攣・離脱の誘発。禁忌の中身は第3回の図参照)。ベンゾ単剤とはっきりし、痙攣・不整脈のリスクがなく、挿管を避けたい場面に限る。
6セロトニン症候群 ― Hunter基準と、NMSとの鑑別
三徴は精神状態の変化+自律神経不安定+神経筋異常(クローヌス・反射亢進・振戦。下肢優位が特徴)。発汗・散瞳・腸蠕動亢進・高体温・頻脈・高血圧を伴う。
Hunter基準(Dunkley 2003)
セロトニン作動薬があり、次のいずれかを満たせばセロトニン症候群:
- 自発クローヌス
- 誘発クローヌス +(興奮 または 発汗)
- 眼クローヌス +(興奮 または 発汗)
- 振戦 + 反射亢進
- 筋緊張亢進 + 体温 38℃超 +(眼クローヌス または 誘発クローヌス)
感度 約84%・特異度 約97%(導出コホートの内部値)。クローヌスが最重要所見。
図3:セロトニン症候群 vs 悪性症候群(NMS)
鑑別の芯は発症時間と神経筋所見。クローヌス+下肢優位の反射亢進ならセロトニン、鉛管様固縮+反射低下+緩徐発症ならNMS。交感神経様は強い固縮・クローヌスを欠き、覚せい剤の曝露歴が手がかりになる。悪性高熱は吸入麻酔・スキサメトニウムの直後に起きる。
原因薬 ― 院内で組み合わさりうるもの
SSRI/SNRI、MAOI、三環系、トラマドール・メペリジン・フェンタニル・メサドン、デキストロメトルファン、リネゾリド(+SSRI)、メチレンブルー、リチウム、トリプタン、MDMA、オンダンセトロンなど。最高リスクはMAOI+セロトニン作動薬。リネゾリド+SSRIやメチレンブルーは、意図せず院内で起こりうる組み合わせである。
治療
原因薬を止め、ベンゾジアゼピン(興奮・自律神経)+積極的冷却。特異的にはシプロヘプタジン(5-HT2A拮抗)を使う。重症(体温41.1℃超)は非脱分極性筋弛緩+挿管。解熱薬は無効(熱源は筋)。
シプロヘプタジンは日本にある(ただし適応外)
シプロヘプタジン(ペリアクチン:錠4mg・散・シロップ)は国内にある。ただし承認された効能はそう痒・じん麻疹・アレルギー性鼻炎などで、セロトニン症候群は適応外使用。
用量は文献で初回12 mg→持続すれば2 mg 2時間ごと→維持8 mg 6時間ごと(Boyer & Shannon 2005)。経口のみで注射剤はない。施設プロトコルと中毒110番を併用する。
7Naチャネル遮断(三環系)― 抗コリンに見えて、扱いは逆
三環系抗うつ薬(TCA)は抗コリン所見も出すので§2と混同しやすい。だが扱いは正反対で、ここを取り違えると危ない。
| 所見 | wide QRS(QRS >100 ms=Naチャネル遮断)・痙攣・低血圧・不整脈 + 抗コリン所見 |
| 芯 | QRS延長を見たら炭酸水素ナトリウム。抗コリンせん妄に見えても、まず心電図 |
physostigmineは禁忌 ― そして日本にはそもそもない
抗コリンせん妄にはphysostigmineが使われることがあるが、三環系/wide QRSでは asystole・痙攣のリスクがあり禁忌(Pentel 1980の2例)。抗コリンに見えても、心電図でQRS延長やNaチャネル遮断があればphysostigmineを使わない。
さらに日本では、physostigmine(フィゾスチグミン)が医療用として流通していない(国内未承認)。ネオスチグミン等は第四級アンモニウムで中枢に移行せず、代替にならない。つまり日本では、この禁忌論争の前に「そもそも手元にない」。抗コリン中毒はベンゾジアゼピンでの鎮静と支持療法が現実的な軸になる。
※ 近年は「physostigmineがTCAで致死的」は併用摂取例に基づく誇張との議論もある(Arens 2019ほか)。ただしwide QRSでの回避は標準のまま。
8やりがちな失敗とTake home
| 1 皮膚を見ずに抗コリンと交感神経を混同する | 発汗の有無と腸蠕動で割る。乾=抗コリン、湿=交感神経。 |
| 2 有機リンで瞳孔・心拍を治療指標にする | アトロピンは気道分泌の乾燥(肺のラ音が消える)で滴定する。 |
| 3 「縮瞳がない」でオピオイドを外す | トラマドール等は縮瞳しないことがある。呼吸抑制で見る。 |
| 4 セロトニン症候群を「発熱+興奮」で止める | クローヌス(とくに下肢)と反射亢進を必ず取る。 |
| 5 抗コリンせん妄に見えて心電図を見ずにphysostigmineを考える | まずQRS。三環系/wide QRSでは禁忌(かつ国内に薬がない)。 |
| 6 鎮静薬過量にとりあえずフルマゼニル | 痙攣・離脱。ベンゾ単剤・低リスクの場面に限る。 |
Take home
- toxidromeは「皮膚(乾/湿)→瞳孔→腸蠕動→神経筋」の順で束ねると割れる
- 抗コリンvs交感神経は発汗、セロトニンvsNMSは発症時間とクローヌス/反射で見分ける
- 有機リンのアトロピンは分泌の乾燥で滴定。瞳孔・心拍で測らない
- Naチャネル遮断(三環系)はQRSを見て炭酸水素Na。physostigmineは避ける(かつ国内になし)
次回(第5回)は、消化管除染と排泄促進を扱う。活性炭の「1時間ルール」が更新された話、全腸洗浄・血液浄化・尿アルカリ化が「効くのはどれか」を、物質別に並べ直す。
参考文献
- Boyer EW, Shannon M. The Serotonin Syndrome. N Engl J Med. 2005;352(11):1112-1120. PMID: 15784664.
- Dunkley EJC, Isbister GK, Sibbritt D, Dawson AH, Whyte IM. The Hunter Serotonin Toxicity Criteria: simple and accurate diagnostic decision rules for serotonin toxicity. QJM. 2003;96(9):635-642. PMID: 12925718.
- Eddleston M. Pharmacological treatment of organophosphorus insecticide poisoning: the old and the (possible) new. Br J Clin Pharmacol. 2016;81(3):462-470. PMID: 26366467.
- Pentel P, Peterson CD. Asystole complicating physostigmine treatment of tricyclic antidepressant overdose. Ann Emerg Med. 1980;9(11):588-590. PMID: 7001962.
- Vodovar D, Gosselin S, Wiener SW. Using toxidromes in the ICU. Intensive Care Med. 2025;51(2):404-408.
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA). 医療用医薬品 情報検索(フィゾスチグミンの承認情報).
- ペリアクチン錠4mg/散1%/シロップ0.04% 電子添文(効能・効果、用法・用量).
急性薬物中毒シリーズ
- 急性薬物中毒①初期対応
- 急性薬物中毒②診断
- 急性薬物中毒③拮抗薬、治療薬
- 急性薬物中毒④ーtoxidrome(この記事)
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