ER-症候別

血液ガスをしっかり読む

血液ガスの読み方は、たいてい5ステップで教わる。pH、代謝性か呼吸性か、代償、AG、補正HCO₃。これはBoston法と呼ばれる方法で、まずこれが土台になる。

ただ、この記事で書きたいのはその先である。

この記事の芯を先に書いておく

AG = 12 を「開大なし」と読んだとき、それが正しいかどうかは、あなたの施設の分析装置と、患者のアルブミン値で変わる。

5ステップを回したのに何も引っかからず、それでもpHが説明できない。そういう血液ガスに当たったときの手が、この記事の後半になる。

この記事でわかること

  • 乳酸が上がる理由は低灌流だけではなく、痙攣後と低心拍出量症候群を同じ欄に並べてはいけないこと
  • 「+15ルール」が使える範囲と、外れる場面
  • 正常AGが 12±2 とは限らず、イオン選択電極では 3〜10 とする文献が多いこと
  • アルブミン補正AGが「見落とさないための道具」であって確定の道具ではないこと
  • MUDPILESではなくGOLDMARKで覚え直す理由
  • 静脈PaCO₂ が 45 mmHg 以下なら高炭酸ガス血症を除外できること
  • BEを4つに割る「ベッドサイドStewart(SALT)」の手順
  • SALTの定数 35 が暗記する数字ではなく「自施設の正常Na − 正常Cl」であること
  • Stewart法に転帰を改善した証拠がないこと

1血液ガスで何を見ているのか

酸塩基平衡だけを見る検査ではない。血液ガスで確認しているのは5つある。

酸塩基平衡
電解質
Hb
血糖
乳酸

①〜④が安全なら、本来⑤は正常化するはずである。逆に言えば、乳酸が下がらないときは①〜④のどれかがまだ解決していないか、乳酸そのものが低灌流以外の理由で上がっている

乳酸が上がる理由は、低灌流だけではない

正常上限は文献により 1.3〜1.8 mmol/L と幅がある(自施設の基準値を確認したほうがよい)。2〜5 で高乳酸血症、5 を超えると重症乳酸アシドーシスと呼ぶ。

乳酸アシドーシスの分類

Type A
酸素供給が足りない
ショック、心停止、局所虚血(腸間膜梗塞)、低酸素血症、貧血、CO中毒、低心拍出量症候群(LOS)
Type B1
疾患
白血病・リンパ腫、チアミン欠乏、感染症、膵炎、肝不全、腎不全
Type B2
薬物
β₂刺激薬、アドレナリン、メトホルミン、サリチル酸、シアン、メタノール、抗レトロウイルス薬、アセトアミノフェン
Type B3 先天性酵素欠損

ここで押さえておきたいのは、乳酸は嫌気性代謝のマーカー「だけ」ではないことである。安静時でも皮膚・赤血球・脳・骨格筋・消化管から常時産生されている(皮膚25%、赤血球20%、脳20%、筋25%、腸10%という内訳がよく引かれるが、これはBrandisの教科書とLITFL由来で、一次論文は追えなかった)。激しい運動時は灌流が十分でも骨格筋が大量に作る。敗血症では、カテコラミンによるβ₂刺激、ミトコンドリア機能障害、内毒素によるピルビン酸脱水素酵素の阻害が寄与する。

痙攣後の乳酸と、低心拍出量症候群の乳酸を同じ欄に並べない

痙攣後の乳酸上昇は骨格筋の産生亢進であり、灌流は保たれている。

一方、低心拍出量症候群(LOS)はれっきとした低灌流であって、Type A である。旧記事では非低灌流性の欄に置いていたが、これは誤りだったので訂正しておく。

25ステップ ― Boston法

順番に回していく。

図1:血液ガスを読む5ステップ(Boston法)

pHアシデミアか、アルカレミアか7.40より酸性側か塩基性側かアシドーシスがあってもアルカレミアはありうるHCO₃ と PaCO₂代謝性か、呼吸性か見るのはこの2つだけ。4択で説明できる2つ以上あれば混合性代償予測式の範囲に収まるか代償は元の病態より強く戻すことはない逆に振れているなら、もう1つの病態があるAG = Na − Cl − HCO₃開大しているか「12だから開大なし」が二重に危うい装置の正常値と、アルブミン補正の2つ補正HCO₃ = HCO₃ + ΔAG他の病態が隠れていないか28超で代謝性アルカローシス合併22未満でAG正常アシドーシス合併5ステップを回して何も引っかからないのに、pHが説明できないそのときの手が、この記事の後半(7〜9章)になる

① アシデミアか、アルカレミアか

7.40を中央値として、酸性に寄るか塩基性に寄るかを見る。

アシデミアとアシドーシスは違う

アシデミア 血液が実際に酸性に傾いているという結果
アシドーシス 酸性に傾けようとする病態

だから、アシドーシスがあってもアルカレミアということはありうる。

② 代謝性か、呼吸性か

見るのはHCO₃とPaCO₂の2つだけである。

HCO₃ が増える アルカローシス側
HCO₃ が減る アシドーシス側
PaCO₂ が増える アシドーシス側
PaCO₂ が減る アルカローシス側

この4択で説明できる。2つ以上の病態が同時にあれば混合性になる。

調節の速さが違う

CO₂は呼吸で調節するので速い。息が上がれば下がるし、抑えれば上がる。HCO₃は腎で再吸収と排泄を調節するので遅い。すぐに尿へ大量に捨てるわけにはいかない。だから代償にも時間がかかる。

3代償 ― 元の病態より強く戻すことはない

恒常性のために、7.40へ戻そうとする代償が働く。ここで重要な原則が1つある。

代償は、元の病態より強く戻すことはない

acidemiaを戻すための代償でalkalemiaになることはない、ということである。

だから「代償のせいで逆に振れた」という説明が出てきたら、それは代償ではなくもう1つの病態である

図2:6つの代償予測式と、Winter式・+15ルールのずれ

6つの代償予測式代謝性アシドーシス予測PaCO₂ = 1.5 × HCO₃ + 8(±2)Winter式代謝性アルカローシス予測PaCO₂ = 0.7 × HCO₃ + 20(±5)/ 0.7 ×(HCO₃ − 24) + 40(±2)2つある急性 呼吸性アシドーシス予測HCO₃ = 24 + 1 ×(PaCO₂ − 40) / 10慢性 呼吸性アシドーシス予測HCO₃ = 24 + 4〜5 ×(PaCO₂ − 40) / 10急性 呼吸性アルカローシス予測HCO₃ = 24 − 2 ×(40 − PaCO₂) / 10慢性 呼吸性アルカローシス予測HCO₃ = 24 − 4〜5 ×(40 − PaCO₂) / 10Winter式と「+15ルール」は、HCO₃ = 14 のときだけ一致するHCO₃Winter+15515.520+4.5102325+21429290203835−3244439−5HCO₃ 10〜20 なら ±2〜3 mmHg 以内。一桁では過大評価510142024203040HCO₃ (mmol/L)予測PaCO₂一致点 HCO₃ 14Winter式+15ルール

代謝性アシドーシスの代償は最大に達するまで12〜24時間かかる。PaCO₂の下限はおおむね 8〜10 mmHg で、それ以上は下がらない。

「+15ルール」はどこまで使えるか

指導では簡便さから「HCO₃ + 15 = 予測PaCO₂ = pHの下2桁」で統一している人が多い。私もそうしている。ただし使える範囲がある。

Winter式と+15ルールが完全に一致するのは HCO₃ = 14 のときで、そこから離れると開いていく。図2の右下の折れ線がそれである。

使い分け

  • HCO₃ 10〜20 なら ±2〜3 mmHg 以内で使える
  • HCO₃ が一桁の重症アシドーシスでは過大評価になるので、Winter式に切り替える
  • +15ルールは代謝性アシドーシス専用である。代謝性アルカローシスに当てるとずれる

HCO₃ 36 なら+15ルールは51を予測するが、0.7系の式では 45(0.7 × HCO₃ + 20)〜48(0.7 ×(HCO₃ − 24) + 40)になる。アルカローシスにはこの0.7系を使う。

+15ルールの出典について

原典(誰が最初に言ったか)は特定できなかった。ただしBerendらのNEJM総説(2014)は代償の表でWinter式と並べて「or [HCO₃⁻] + 15 mm Hg」と明記している。出所不明のまま定着した経験則、というのが実態に近い。

4AG ―「12だから開大なし」を疑う2つの理由

AG = Na − Cl − HCO₃。主要な陽イオンから主要な陰イオンを引く。カリウムは無視する。

AGが開大していれば、ほぼ必ず代謝性アシドーシスがある。だからpHがアシデミアでなくても、まずAGは計算しておく。

ここまでは教科書どおりである。問題はそこから先で、「AG = 12 だから開大なし」という判断が二重に危うい

図3:AGには2つの落とし穴がある

AG = 12「開大なし」と読んでよいか落とし穴 1 装置が変われば正常値が変わる12±2 は、Clを炎光光度法・比色法で測っていた時代の値1990年前後のイオン選択電極(ISE)への移行で正常AGは下がった現代の文献では正常AG 3〜10 mmol/L(平均6前後)が多い健常者データで9機種の平均AGは 5.9〜12.4(Paulson 1998)日本救急医学会の用語解説はいまも 12±2 と記載している落とし穴 2 アルブミンが低いとAGは沈む補正AG = AG + 2.5 ×(4.4 − Alb g/dL)アルブミンが 1 g/dL 下がるごとに AG は 2.5 下がるAlb 2.4 なら 12 + 2.5 ×(4.4 − 2.4) = 17基準を 4.0 g/dL とする流儀なら 16感度は上がるが特異度は崩れる(80%→29%)両方を当てると、「AG 12」は開大なしではなく、開大ありうる自施設の分析装置がISEなら 12 はすでに上限〜軽度開大。そこへ低アルブミン血症があれば、実質はさらに上である自施設のAG基準範囲を臨床検査部門に確認しておくと、この先ずっと迷わなくなる

落とし穴その1 ― 正常AGは 12±2 ではないかもしれない

12±2 という値は、クロールを炎光光度法や比色法で測っていた時代に決まったものである。1990年前後にイオン選択電極(ISE)へ移行して以降、正常AGは下がった。

  • 現代の文献では正常AG 3〜10 mmol/L(平均6前後)とするものが多い。NEJMの総説はもう少し広く「3.0〜12.0 から 8.5〜15.0 まで」と書いている
  • 健常者のデータで9機種(1970年代の装置1機種+当時の現行8機種)の平均AGが 5.9〜12.4 mEq/L に分布したという報告がある(Paulson 1998)

つまり装置によって正常上限が変わる。一方、日本救急医学会の医学用語解説集はいまも「AGは12±2 mEq/l」と記載している。

だから「AG 12」は、施設によって意味が違う

施設によっては正常上限そのものであり、施設によってはすでに開大している。

ここは記事として断定できないところなので、正直に書いておく。自施設の臨床検査部門にAGの基準範囲を確認しておくと、この先ずっと迷わなくなる。

落とし穴その2 ― アルブミンが低いとAGは沈む

アルブミンは血中の主要な陰イオンである。低アルブミン血症があると、その分だけ見かけのAGが下がる。

アルブミン補正AG

補正AG = AG + 2.5 ×(4.4 − Alb g/dL)

アルブミンが 1 g/dL 下がるごとにAGは 2.5 mmol/L 下がる、という覚え方でよい。Alb 2.4 なら、補正AG = 12 + 2.5 ×(4.4 − 2.4) = 17 となる。基準アルブミンを 4.0 とする流儀もあり、その場合は 16 になる。

補正AGがどれだけ効くかを調べた研究がある。ICU患者を対象にした検討で、次のようになった。

検出したいもの AG 補正AG
乳酸 > 2.5 mmol/L 感度63%/特異度80.0% 感度94.4%/特異度29.2%
乳酸 > 4.0 mmol/L 感度88.9%/特異度80.4% 感度100%/特異度29.8%

補正AGは「見落とさないための道具」である

感度は大きく上がるが、特異度は崩れる。これで確定する道具ではない。

公平を期すために反対側も書いておく。判別能(ROC曲線下面積)で見ると、補正AGはAGをほとんど改善しない。同じChawlaの報告でも、高乳酸血症を診断するAUCはAG 0.70に対して補正AG 0.72でしかない(ちなみにbase deficitは0.79)。

別の639検体の検討(Dinh 2006)でも、補正で感度39%→75%・特異度89%→59%と動くだけで、著者らは「AGも補正AGも高乳酸血症の予測には不十分」と結論している。感度は上がるが、全体の見分ける力は変わらない、というのが正確な要約になる。

⑤ 補正HCO₃(デルタ比)

AGが開大していたら、次に「他にも代謝性の異常が隠れていないか」を見る。

補正HCO₃

補正HCO₃ = 実測HCO₃ + ΔAG (ΔAG = AG − 12)

補正HCO₃ > 28 代謝性アルカローシスの合併
補正HCO₃ < 22 AG正常代謝性アシドーシスの合併

同じことをデルタ比で書くこともできる。デルタ比 = ΔAG / ΔHCO₃ = (AG − 12) / (24 − HCO₃)

< 0.4 高Cl性(AG正常)アシドーシス
0.4〜0.8 AG開大とAG正常の合併を考える
1〜2 単純なAG開大性アシドーシス(乳酸アシドーシスの平均は1.6、DKAは1に近い)
> 2 もともとHCO₃が高かった。代謝性アルカローシスの合併、または呼吸性アシドーシスの代償

この計算に読み込みすぎない

4つの電解質を使い、それぞれに測定誤差がある。そして「正常AG 12」「正常HCO₃ 24」という標準値を前提にしている。つまりこの章の落とし穴を両方引きずっている。方向を掴む道具として使い、細かい数値を追わないほうがよい。

5酸塩基平衡が分かったら、原因を想起する

AG開大性代謝性アシドーシス ― MUDPILESではなくGOLDMARK

昔ながらのMUDPILESは、いま覚えるものとしては勧められない。パラアルデヒドはほぼ絶滅し、鉄とイソニアジドだけを名指しするのも恣意的だからである。

Glycols エチレングリコール、プロピレングリコール
Oxoproline 5-オキソプロリン(慢性のアセトアミノフェン常用)
L-lactate L-乳酸
D-lactate D-乳酸(短腸症候群)
Methanol メタノール
Aspirin サリチル酸
Renal failure 腎不全
Ketoacidosis ケトアシドーシス(糖尿病性・アルコール性・飢餓)

MUDPILESから増えた3つが、そのままICUで見落とされやすい3つである

  • プロピレングリコール:ロラゼパムやジアゼパムの持続静注の溶媒。ICUで最も見落とされる
  • 5-オキソプロリン:慢性のアセトアミノフェン常用者
  • D-乳酸:短腸症候群。通常の乳酸測定では検出されない

AG正常(高Cl性)代謝性アシドーシス

消化管からのHCO₃喪失 下痢、小腸・膵・胆道ドレナージや瘻孔、回腸導管
腎からの喪失・酸排泄障害 近位尿細管性アシドーシス(II型)、遠位(I型)、IV型、アセタゾラミド、早期腎不全
医原性 生理食塩水の大量投与、TPN、HCl・NH₄Cl投与
副腎不全・薬剤性 スピロノラクトン、ACE阻害薬、ARB、ST合剤、NSAIDs(これらは高カリウム血症を伴う)

ICUで実際に多いのは、下痢と生理食塩水の大量投与である。特に後者は40本目で書いたとおり、SIDがゼロの液を入れているのだから当然そうなる。

尿AGは、近年かなり評判が悪い

腎性か腸管性かを分けるために尿AGを使う、と教わることがある。

尿AG =(尿Na + 尿K)− 尿Cl。負(陰性)ならNH₄排泄が保たれている=腸管性(下痢)、正(陽性)ならNH₄排泄障害=腎性(RTA、早期腎不全)と読む。

ただし健常者では尿NH₄排泄と尿AGが相関せず(Uribarri & Oh 2021)、食事のK摂取やNa塩の種類に強く影響される。慢性腎臓病では、硫酸やリン酸を式に加えないと尿NH₄をうまく予測できない(Raphael 2018)。NH₄排泄を直接反映する尿浸透圧ギャップのほうが妥当とされる。

ただし「腎障害では一切使えない」とまでは言えない。同じ号の論説は、NH₄が測れない環境では急性期のベッドサイドで依然有用としている。

代謝性アルカローシス

尿中Clで2つに分ける。

Cl反応性(生食反応性) 嘔吐、経鼻胃管吸引、利尿薬、contraction alkalosis、高炭酸ガス血症後、下剤乱用
Cl抵抗性 原発性アルドステロン症、Cushing症候群、腎動脈狭窄、Bartter症候群、Gitelman症候群、低K血症、低Mg血症、甘草

尿Cl < 20〜25 mEq/L でCl反応性、> 40 mEq/L でCl抵抗性(NEJMの総説は25、教科書によっては20を使う)。その間は判定保留とする。利尿薬を使った直後は尿Clが高く出るので、偽陽性になる。ここだけ注意する。

呼吸性

アシドーシス COPD、気道閉塞、意識障害による徐呼吸、高度肥満、拘束性障害
アルカローシス パニック障害、低酸素血症、敗血症、疼痛、サリチル酸中毒、甲状腺機能亢進症

6静脈血ガスで代用できるか

O₂以外の項目を静脈血で済ませられないか、という話である。系統的レビュー(Bloom 2014)の集計値はこうなっている。バイアスは静脈 − 動脈なので、正なら静脈のほうが高い。

項目 バイアス(静脈−動脈) 95%一致限界
pH −0.033(95%CI −0.039〜−0.027) 原著は「狭い」とのみ。別の集計では ±0.04
PCO₂ +4.41 mmHg(2.55〜6.27) −20.4 〜 +25.8 mmHg
HCO₃ +1.03 mmol/L(0.56〜1.50) −7.1 〜 +10.0 mmol/L
乳酸 +0.25 mmol/L(0.15〜0.35) −2.0 〜 +2.3 mmol/L
K +0.03 〜 +0.1 mmol/L 約 ±0.5 mmol/L

別の系統的レビュー(Kelly 2013)はPCO₂の差を +6.2 mmHg としており、集計によって 4.4〜6.2 mmHg のあいだで動く。方向(静脈のほうが高い)は一致しているが、値は一つに定まらない。

読み方

  • pHは臨床的に置換可能
  • HCO₃と乳酸は「高い/正常/低い」の分類には使える
  • PCO₂は一致限界が40 mmHg幅に及び、個々の患者では予測できない
  • Kはバイアスこそ小さいが一致限界が約 ±0.5 mmol/L ある。治療域の境界(3.0や6.0の近く)では血清値で確認する

CO₂について、1つ使える運用がある

静脈血PCO₂ が 45 mmHg 未満なら、動脈血の高炭酸ガス血症を除外できる(感度100%、陰性的中率100%、529例。Kelly 2013)。

つまり静脈で45未満なら動脈を刺さなくてよい。45以上なら動脈で確認する。これは実務上かなり効く。

旧記事の「4.41 mmHg」について

旧記事では「CO₂は動脈血ガスのほうが 4.41 mmHg 低く出る」と書いていた。この数字の出所は Bloom 2014 の統合平均差そのもので、値としては正しかった。

ただし、この書き方には問題がある

同じ論文の95%一致限界は −20.4 〜 +25.8 mmHg である。個々の患者では静脈が動脈より20下がることも25上がることもある。

バイアスだけを引いて「4.41足せばいい」と読ませる書き方が誤りだったので、この記事では一致限界を併記した。同じことが乳酸にも言える。バイアス0.25は正しいが、一致限界は −2.0 〜 +2.3 と極めて広い。

ショックのときはどうか

ここは証拠が一様ではない。

中心静脈血・混合静脈血は、重度の循環不全で動脈血から大きく乖離する。これは1989年から知られている。一方、末梢静脈血については、外傷性の循環血液量減少性ショックで低血圧群と正常血圧群のあいだに動脈−末梢静脈差の有意な違いがなかった、という2020年の報告もある。末梢血管収縮と中枢シャントのためと説明されている。

ただしpHの一致が未蘇生患者で悪化するという指摘はある。まとめると、ショックではVBGを鵜呑みにしない、というのが安全な運用になる。

7Boston法の限界と、Stewart法

ここまでが5ステップ、つまりBoston法である。デメリットが2つある。

  • 乳酸アシドーシスを見つけるときの、AGの感度が悪い
  • AGが弱酸(アルブミン、リン)を無視している

4章の落とし穴は、要するに2つ目である。代謝性アシドーシスを詰めるならStewart法が望ましい、という話になる。

Stewartの3つの独立変数

pHを決めているのは3つだけだ、というのがStewartの主張である。

① PaCO₂ 呼吸性の寄与
② SID(apparent SID)
strong ion difference
[Na + K + 2Ca + 2Mg] − [Cl + 乳酸]
上がればアルカローシス側、下がればアシドーシス側
③ Atot
total weak acid
主にアルブミン、次いで無機リンとグロブリン
上がればアシドーシス側、下がればアルカローシス側

正常SIDは文献により 40〜42 mEq/L とされる。測定するイオンの範囲と施設の基準値で変わるので、単一の値を覚えても意味がない。

ただし、厳密に計算しようとすると実務では回らない

SIDを正しく求めようとすると、測れない強陰イオン(ケトン、サリチル酸など)が残り、リンの計算も要り、単位も揃えなければならない。ベッドサイドで毎回やる作業ではない。

そこを簡便にしたのが次章である。

8ベッドサイドStewart ― BEを4つに割る

考え方はこうである。Atotが上がりSIDが下がるとアシドーシスなのだから、「Atotの逆」と「SID」の和はアルカレミア側を示す。それはだいたい BE(base excess)ではないか。

だからBEを4つに割ればいい。

SALT ― BEの4分割

S Sodium-chloride effect Na − Cl − 35
A Albumin effect 0.25 ×(42 − Alb g/L)= 2.5 ×(4.2 − Alb g/dL)
L Lactate effect 1 − 乳酸
T その他のイオン BE −(S + A + L)

BE = S + A + L + T 頭文字を取ってSALTと呼ばれる(T は oTher ions の T)。

SALTという語呂を作ったのはStoryではない

インドの麻酔科医 Anitha Nileshwar が2020年に考案したもので、Storyが2023年の論文でそうクレジットしている。2016年のベッドサイド版にはこの語呂は出てこない。

Nileshwarらのグループは後にこれを検証した論文も出している(Seshadri 2024, J Emerg Trauma Shock)。

「35」なのか「38」なのか

ここは私自身が引っかかったので書いておく。

原著(Story DA, Morimatsu H, Bellomo R. Br J Anaesth 2004;92:54-60)は Na − Cl − 38 である。ところがStory本人が2016年にベッドサイド版を書き直したとき、Na − Cl − 35 に変えている。

この定数は、魔法の数字ではない

Storyは2023年の論文で「正常点」を Na 140/Cl 105/乳酸 1.0/アルブミン 42 g/L と明示している。140 − 105 = 35 である。

Cl 105 を正常とする 140 − 105 = 35(2016年のベッドサイド版、2023年の正常点)
2004年の原著 38。逆算すればCl 102 だが、原著がそう書いているわけではない
小児 32 を使う英国の小児集中治療の診療ガイダンスがある。ただし査読論文ではない

イオン選択電極への移行でClの中央値が上がったことを反映していると読める。とすればこの定数は「正常Na − 正常Cl」であり、自施設の基準値が大きく違うなら読み替える余地がある、というのが私の理解である。

ただしここは私の解釈で、Story自身が「自施設の値で読み替えよ」と書いているわけではない。同じ理屈で、アルブミンの 42 g/L も「自施設の正常アルブミン」と読める。

限界も書いておく

原著自身がBland-Altman解析をしている。Na-Cl効果の一致は良好だった(バイアスなし、一致限界 −0.5 〜 +0.5 mEq/L)が、アルブミン効果の簡易式は複雑式の平均90%(一致限界82〜98%)にしか達しなかった。つまりアルブミン項は系統的に約10%過小評価する。

またリンや微量陽イオン(K、Ca、Mg)を無視している。pH 7.3〜7.5 の外ではBEの分割そのものの成績が落ちるという指摘もあり、ICU 5,976例の検討では pH 0.1 あたり ±1.5 mEq/L で基準値を補正するとSIGとの一致が改善したと報告されている(Krbec 2026)。

9症例で、BostonとSALTを並べる

症例:敗血症性ショック

pH 7.10 PaCO₂ 40 mmHg HCO₃ 12 mmol/L BE −15.7
Na 134 Cl 110 Alb 2.4 g/dL 乳酸 6.5 mmol/L

図4:同じ血液ガスを、BostonとSALTで読む

敗血症性ショック pH 7.10/PaCO₂ 40/HCO₃ 12/BE −15.7/Na 134/Cl 110/Alb 2.4/乳酸 6.5Boston法(5ステップ)pH 7.10アシデミアHCO₃ 12代謝性アシドーシス予測PaCO₂ = 1.5×12+8 = 26実測40 → 代償されていないAG = 134 − 110 − 12 = 12「開大なし」と読んでしまうAG正常なので補正HCO₃はスキップ補正AGを当てれば 12 + 2.5×(4.4−2.4) = 17 → 開大ありベッドサイドStewart(SALT)0A +4.5 低アルブミンS −11 Na 134 − Cl 110 − 35L −5.5 1 − 乳酸6.5T −3.7 未測定イオンBE −15.7 の内訳S + A + L + T = −11 + 4.5 − 5.5 − 3.7 = −15.7この患者のアシデミアに最も効いているのは、乳酸ではなくNaとClである乳酸6.5に目を奪われるが、寄与は −5.5。Na-Cl効果の −11 はその2倍にあたるそして低アルブミンは +4.5、つまりアルカローシス側に効いている。アルブミン製剤を入れれば、その分がアシドーシス側へ動く

Boston法で読む

pH 7.10 → アシデミア
HCO₃ 12 → 代謝性アシドーシス
予測PaCO₂ = 1.5 × 12 + 8 = 26。実測40 → 代償されていない
AG = 134 − 110 − 12 = 12 →「開大なし」
AG正常なので補正HCO₃はスキップ

結論は「AG正常の代謝性アシドーシスが代償できていない」になる。

ここで4章を思い出す

④の判断が二重に危うい。

  • 装置がISEなら、正常AGは 3〜10 前後で、12 はすでに上限〜軽度開大である
  • アルブミン 2.4 なので、補正AG = 12 + 2.5 ×(4.4 − 2.4) = 17

正確に言うと、こうなる

補正AGを当てれば、Boston法の枠内でも「AG開大あり」と読める。「Boston法では拾えない」のではなく、「補正を当てなければ拾えない」が正確である。

ただし補正AGで分かるのはそこまでで、「何がどれだけ効いているか」までは分解できない。そこがSALTの出番になる。

SALTで読む

pH 7.10 → アシデミア
PaCO₂ 40 → 数値としては正常だが、この代謝性アシドーシスに対する予測値26から見れば高い。呼吸性アシドーシスの合併がある
BE −15.7 → 代謝性アシドーシスは必ず存在する
S 134 − 110 − 35 = −11
A 2.5 ×(4.2 − 2.4) = +4.5
L 1 − 6.5 = −5.5
T −15.7 −(−11 + 4.5 − 5.5) = −3.7

読むとこうなる。

低Na・高Clによる代謝性アシドーシス −11
乳酸アシドーシス −5.5
低アルブミンによる代謝性アルカローシス +4.5
未測定イオン −3.7

Tに呼吸は入らない

BE(SBE)は定義上すでに呼吸性成分を除いた指標なので、T = BE −(S+A+L) に呼吸の寄与は最初から入らない。Tは Story のいう other ions、つまり未測定イオンだけである。

この患者のアシデミアに最も効いているのは、乳酸ではなくNaとClである

乳酸 6.5 に目を奪われるが、寄与としては2倍の差がある。乳酸を追いかける前に、生理食塩水を止めるほうが先になる。

そしてもう1つ

低アルブミンが +4.5、つまりアルカローシス側に効いている。

ここでアルブミン製剤を入れると、この +4.5 が消える方向に動く。Stewartの言葉で言えばAtotが上がる。つまりBEはアシドーシス側へ動く。

ただしこれは「悪化した」という意味ではない。弱酸が正常濃度に戻っただけの物理化学的な帰結であって、灌流が改善していてもBEは下がりうる。数字が動いた理由を取り違えないこと。

40本目でアルブミン製剤の話を書いたが、血液ガスの側から見るとこういう形で見える、ということになる。

ここで使っているBEについて

standard base excess(SBE)である。血液内の緩衝作用は血管内だけを考えているが、水と電解質は間質と行き来する。間質まで含めて補正したものがSBEになる。

10Stewartは、患者の転帰を変えるのか

ここは正直に書いておきたい。

Stewart法を使うことで患者管理や転帰が改善したことを示すRCTは存在しない

比較研究17件をまとめた総説(Kimura S, Shabsigh M, Morimatsu H. SAGE Open Med 2018)では、10件がStewart有利、4件が差なし、3件が従来法有利で、著者らはこれを「inconsistent evidence(一貫しないエビデンス)」と表現している。

なおこの総説の著者には、SALTの原著の共著者である森松が入っている。

予後予測でも分が悪い。ICU患者の院内死亡の判別能を比べた研究では、次のようになった。

乳酸 AUROC 0.701
AG AUROC 0.660
SIG(乳酸を含む) AUROC 0.631
SIG(乳酸を除く) AUROC 0.521

多変量解析での説明分散は乳酸11%に対して、SIG 0.6%・SIDe 0.9%だった。結論は「SIGの予後的意義はささやかで、動脈血乳酸値に劣る」である。

Story本人も2023年の論文(Anesthesiology)でこう書いている

「ベッドサイドStewartは代謝性の酸塩基変化を確定的に記述するものではなく、臨床実践で有用な道具となることを意図している」

「重炭酸アプローチとStewartアプローチのどちらが臨床的により妥当かを決定的に判定できる研究は、まだ誰も考案していない」

同じ論文にはこうもある。「酸塩基異常を診断するどの現代的アプローチについても、他より患者転帰の改善に優れているという証拠はない」

つまりStewartは説明の道具であって、治療を変える証拠はまだない。

それでも私がこれを書いているのは、「何がどれだけ効いているか」が見えると、次の一手が変わることがあるからである。上の症例なら、乳酸を追いかける前に生理食塩水を止めることになる。

11やりがちな失敗

1 AG 12 を機械的に「開大なし」とする 自施設の分析装置がISEなら、正常AGは 3〜10 前後かもしれない。そして低アルブミン血症があれば実質はさらに上である。自施設のAG基準範囲を検査部門に確認しておく。
2 アルブミン補正AGで確定しようとする 感度は上がるが特異度は崩れる(乳酸 2.5 超の検出で特異度80%→29%)。見落とさないための道具であって、確定の道具ではない。
3 +15ルールを代謝性アルカローシスに当てる +15ルールは代謝性アシドーシス専用。アルカローシスには 0.7 × HCO₃ + 20 を使う。またHCO₃が一桁のときは+15ルールが過大評価するので、Winter式に切り替える。
4 代償で逆側に振れたと説明する 代償は元の病態より強く戻すことはない。逆に振れているなら、もう1つの病態がある。
5 MUDPILESで止まっている プロピレングリコール(ICUの持続静注の溶媒)、5-オキソプロリン、D-乳酸が抜ける。GOLDMARKで覚え直す。
6 静脈血ガスのCO₂を動脈値として扱う バイアスは 4.4〜6.2 mmHg だが、一致限界は −20.4 〜 +25.8 mmHg で個々の患者では予測できない。ただし静脈血PCO₂ が 45 未満なら高炭酸ガス血症は除外してよい(陰性的中率100%)。
7 静脈血ガスの乳酸にバイアスを足して使う バイアスは 0.25 mmol/L だが、一致限界は −2.0 〜 +2.3 と極めて広い。
8 痙攣後の乳酸と低心拍出量症候群の乳酸を同じ欄に並べる 前者は灌流が保たれた産生亢進、後者は低灌流(Type A)である。
9 SALTの定数 35 を暗記する Storyが示す正常点 Na 140 − Cl 105 から出た数字である。2004年の原著は38、2016年版以降は35。自施設の基準値が大きく違うなら読み替える余地がある。
10 Stewartで読めたことを、治療が変わる根拠だと思う 転帰を改善した証拠はない。説明の道具である。

12早見表とTake home

項目 押さえること
5ステップ pH → 代謝性か呼吸性か → 代償 → AG → 補正HCO₃
代償の原則 元の病態より強く戻すことはない
Winter式 予測PaCO₂ = 1.5 × HCO₃ + 8(±2)
+15ルール HCO₃ 10〜20 なら ±2〜3 で使える。一桁では外れる。アルカローシスには使わない
AG Na − Cl − HCO₃。日本救急医学会は 12±2 だが、ISE装置では 3〜10 とする文献が多い(9機種で平均5.9〜12.4)
補正AG AG + 2.5 ×(4.4 − Alb g/dL)。感度は上がるが特異度は崩れる
補正HCO₃ 実測HCO₃ + ΔAG。28超で代謝性アルカローシス合併、22未満でAG正常アシドーシス合併
GOLDMARK グリコール、5-オキソプロリン、L-乳酸、D-乳酸、メタノール、サリチル酸、腎不全、ケトアシドーシス
尿Cl 20〜25未満でCl反応性、40超でCl抵抗性。利尿薬直後は偽陽性
VBG pHは置換可能、HCO₃と乳酸は分類に使える、CO₂は不可、Kは治療域の境界では血清値で確認。静脈血PCO₂ 45未満で高炭酸ガス血症を除外できる(NPV 100%)
SALT S = Na − Cl − 35/A = 2.5 ×(4.2 − Alb)/L = 1 − 乳酸/T = BE −(S+A+L)
定数の意味 35 は Story の正常点 Na 140 − Cl 105 から出た数字。2004年の原著は38
Stewart 説明の道具。転帰を改善した証拠はない。予後予測でも乳酸に劣る

Take home

  1. 「AG 12 だから開大なし」は、装置とアルブミンの2つで危うくなる
  2. 補正AGは見落とさないための道具で、確定の道具ではない
  3. +15ルールは代謝性アシドーシス専用。HCO₃が一桁なら外れる
  4. 乳酸は嫌気性代謝のマーカーだけではない。痙攣後と低心拍出量症候群を同じ欄に並べない
  5. 静脈血PCO₂が 45 未満なら高炭酸ガス血症は除外できる。それ以外のCO₂は動脈で
  6. SALTの定数 35 は「正常Na − 正常Cl」であって、暗記する数字ではない
  7. BEを4つに割ると、何がどれだけ効いているかが見える。上の症例でアシデミアに最も効いていたのは乳酸(−5.5)ではなくNaとCl(−11)だった
  8. 低アルブミンはアルカローシス側に効いている。アルブミン製剤を入れると、その分がアシドーシス側へ動く
  9. Stewartは説明の道具である。転帰を変える証拠はまだない

40本目で輸液そのものを扱ったので、この記事はその隣に置くつもりで書いた。生理食塩水を入れると何が起きるかは40本目に、それが血液ガスにどう映るかはこの記事にある。

参考文献
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  • 日本救急医学会. 医学用語解説集「アニオン・ギャップ」.
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