ER-症候別

敗血症 SSCガイドライン2026 ―変わらないこと・変わったこと・結局どう動くか

「培養とって、抗菌薬いって、輸液して、上がらなければ昇圧剤」——これで70点。悪くないです。ただ、その中身が2021→2026で微妙にズレてきています。構成は3本立て。【1】変わっていないコア → 【2】2026の変更点 → 【3】結局どう運用するか。差分だけ拾いたい人は【2】へどうぞ。

この記事でわかること
  • 2026で「本当に変わった」のはどこか
  • 抗菌薬タイミングが4段階に細分化された意味
  • 日本の実臨床を直撃する2つの変更(βラクタム持続投与とPMX)
  • 当直で回せる形への落とし込み

0まず前提を揃える

今回の改訂の規模

Surviving Sepsis Campaign 2026が2026年3月に公表されました(Prescott HC, et al. Crit Care Med / Intensive Care Med、両誌同時掲載)。

成人版の推奨は129項目、うち46が新規。内訳は条件付き推奨81(63%)、強い推奨17、good practice statement 19、エビデンス不十分11です。小児版は別に61項目。骨格は維持されたまま、分岐と注釈が大幅に増えた改訂という印象です。

用語も変わりました。従来の「weak recommendation(弱い推奨)」が「conditional recommendation(条件付き推奨)」に統一されています。

そして今回、地味ですが重要な注記が入りました。条件付き推奨は rigid performance metric(硬い評価指標)には向かない——つまり「条件付き推奨を病院の一律ルールや達成率評価に変換するな」と作成側が明言しています。この一文は【3】でもう一度効いてきます。

「in our practice」という新形式

2026版には「in our practice」という新形式のステートメントが13個あります。これは推奨ではなく、データが乏しい・文脈依存が強い場面で「パネリストが実際にどうしているか」を独立調査で記録したもの。推奨と混同しないよう注意してください。

定義のおさらい(Sepsis-3)

敗血症の定義は今もSepsis-3(JAMA 2016;315:801)です。

  • 敗血症感染に対する制御不能な宿主反応による、生命を脅かす臓器障害。臨床的には感染 + SOFA≧2点の急上昇。
  • 敗血症性ショック十分な輸液でもMAP≧65維持に昇圧剤を要し、かつ乳酸>2mmol/L。

この「循環+代謝」の二段構えは2026でも不変です。

1変わっていないコア

まず動いていないところを固めます。ここがブレると差分だけ覚えても現場で使えません。強い推奨のものだけ拾っても、骨格はほぼ完成します。

  • スクリーニングと質改善プログラム(強)ハイリスク患者にスクリーニングを回し、標準化手順(SOP)と質改善(QI)の仕組みを持つ。個人技ではなく体制で拾う。
  • 血液培養は抗菌薬の“前”に(強)原則、抗菌薬投与前に採取。ただし培養にこだわって抗菌薬が遅れるのは本末転倒。
  • ショックなら抗菌薬1時間以内(強)骨格は不変。ただし2026は“誰に急ぐか”の解像度が上がった(→【2】01)。
  • 初期輸液は晶質液(強)、≧30mL/kgを3時間以内(条)30mL/kgは残った。実体重ベースだがBMI>30では adjusted / ideal body weight も可。頻回の再評価とセット。
  • MAP目標はまず65mmHg(強)灌流圧の下限として65。数字自体は据え置き(高齢者だけ変更あり→【2】08)。
  • 輸液反応性は動的指標で(条)CVP単発など静的指標より、PLR・SVV/PPV・輸液チャレンジ後のSV変化・エコーで評価。
  • 乳酸は経時的に追う(条)初期値だけでなくシリアルに。
  • 第一選択昇圧剤はノルアドレナリン(強)2026でも強い推奨のまま。ここは後で詳しく(→【2】08)。
  • その他の“強い推奨”starchは使わない/原因菌と感受性が判明したらde-escalation/ARDSでは6mL/kg・プラトー圧30cmH2O以下/制限的輸血/血糖180mg/dL以上でインスリン開始/VTE予防はLMWH優先。
ここが要点

研修医が最初に体に入れるべき骨格は、実はほとんど動いていません。安心して土台を固めてください。変わったのは「例外と分岐」です。

22026の変更点

差分を11個。A. 感染症まわり / B. 循環 / C. 呼吸 / D. やらないことに分けます。太字だけ拾えば当直前の復習になります。

A. 感染症まわり

01抗菌薬は「早く、でも全員にではなく」

一番の思想転換。「早期抗菌薬」一辺倒からリスク層別へ。ここが2026最大のポイントです。

図1:抗菌薬投与タイミングの4段階を示す模式図

抗菌薬投与タイミング:SSC 2026の4段階待てる① septic shock(possible / probable / definite)直ちに、理想的には 1時間以内強い推奨② probable / definite sepsis(ショックなし)直ちに、理想的には 1時間以内強い推奨③ possible sepsis(ショックなし)迅速評価 → 感染の懸念が残れば 3時間以内条件付き④ 感染の可能性が低い + ショックなし抗菌薬は保留し、厳重に観察する条件付き※ ③が救急外来で最も多い層。ここを②に寄せると「1時間」の対象が際限なく広がる。

対象 タイミング 強さ
possible / probable / definite septic shock 直ちに、理想的には1時間以内
probable / definite sepsis without shock 直ちに、理想的には1時間以内
possible sepsis without shock 迅速評価のうえ、懸念が残れば疑った時点から3時間以内
感染の可能性が低く shock なし 保留しつつ厳重観察

つまり「敗血症っぽい全員に即broad」ではありません。“possible sepsis without shock” に3時間の評価ウィンドウが用意された——これが救急外来で一番使う層です。

possibleとprobableの線引き、現場でできます?
そこが弱点。possibleをprobableに寄せた瞬間、1時間の対象がどんどん広がる。自分がどちらに寄せたかを言語化できるかが試される

病院前抗菌薬も新設されましたが、かなり限定的です。対象は definite / probable sepsis + 低血圧で、院内評価まで60分超が見込まれる場合のみ。しかも救急搬送段階でのスクリーニング体制が構造化されている施設に限る、という条件つきです。

02βラクタムは「初回loading後は持続投与」に格上げ格上げ

2021 weak → 2026 strong。地味ですが、実臨床を一番変える項目かもしれません。

初回のloading doseを終えたあとの維持投与は、bolusよりprolonged infusion(延長投与/持続投与)を強く推奨——ここまで踏み込みました。ピペラシリン・タゾバクタムやメロペネムを「1日3回30分で落とす」運用をしている施設は、投与設計の見直しが必要です。

抗菌薬適正使用まわりも記載が厚くなりました。TDMを症例選択して行う(条・新規)、rapid pathogen testsもcase-by-case(条・新規)、培養陰性でもde-escalation寄りで考える(条・新規)、Candida biomarkerで抗真菌薬の開始判断をしない(条・新規)。

03スペクトラムは「リスクベース」で決める

「とりあえず広く」から「足す根拠を説明できるか」へ。

  • MDR病原体リスクが高ければカバーする/低ければカバーしない(両方向で条件付き推奨)。
  • 嫌気性菌リスクがなければカバーなしのレジメン、あればカバーを含める(両方向・新規)。ただしピペラシリン・タゾバクタムやカルバペネムをMDR目的で使った結果として嫌気性もカバーされるのは許容。
  • 抗真菌薬ルーチンの経験的投与はしない(条)。免疫抑制・長期抗菌薬・長期入院・腹腔内感染源などは個別判断。

嫌気性カバーのリスクとして挙がっているのは、腹腔内感染、深部婦人科・産科感染、壊死性軟部組織感染、頭頸部感染、中枢神経膿瘍・膿胸です。

04スクリーニングは「使うな」から「これを使え」へ

2021のメッセージは「qSOFA単独に依存するな」でした。2026は一歩進んで、院内の急性期患者では qSOFA単独より NEWS / NEWS2 / MEWS / SIRS を用いる(強い推奨)と、推奨先を名指ししています。

あわせて新設されたのが以下です。

  • 救急搬送中のスクリーニング搬送中の成人にも標準化されたスクリーニングツールを使う(条・新規)。
  • code sepsis / sepsis huddle陽性スクリーン後に多職種でベッドサイドに集まり、診断と治療を加速する仕組み(条・新規)。
  • 単一検査に頼らない単一のバイオマーカーや単一検査だけで敗血症をrule in / rule outしない(GPS・新規)。

qSOFAは「陽性なら怖がる」道具であって、「陰性なら安心する」道具ではない——この理解は引き続き有効です。

05source controlとICU入室に時間の目安がついた

source controlが必要なら、早期、理想的には6時間以内(条)。2021の“as soon as practical”より具体化しました。ICU適応があれば、6時間以内のICU入室を目指す(条)。

B. 循環

06アルブミンが後退、バランス晶質液は“整理”

アルブミンの立場がかなり変わりました。2021では大量晶質液投与後のアルブミン追加も提案されていましたが、2026は「晶質液単独を、晶質液+アルブミン併用より優先する」(条)。例外として大量晶質液投与後や肝硬変では適切なことがある、という余地は残していますが、基本的に使わない世界になっています。

一方、バランス晶質液については推奨度は上がっていません。「初期蘇生では0.9%生食よりバランス晶質液を優先する(条)」で、2021と方向は同じ、より整理されて示されたという位置づけです(SMART / BaSICS / PLUS)。

例外に注意

外傷性脳損傷では0.9%生食を使う。アルブミンは避ける。バランス晶質液・アルブミンの話は、この例外とセットで覚えてください。

なお starch は使わない(強)、gelatin も使わない(条)は据え置きです。

0730mL/kgの“その後”を個別化、そして「抜く」フェーズへ

30mL/kg入れても灌流不良が残る場合、liberal(積極追加)と restrictive(絞る)のどちらでもよい(条)。2021は推奨不能でしたが、2026は「どちらでもよい、ただし患者要因と医療システム要因で決める」に進みました(CLASSIC / CLOVERS)。判断材料は現病態、心不全などの慢性疾患、監視体制やモニタ可能ベッドの有無です。

そして2026の目玉。急性蘇生相を過ぎたら、能動的に水を抜く(active fluid removal、条・新規)。

  • 「急性蘇生相」とは昇圧薬を増量中・高用量使用中・持続的な容量負荷が必要な段階を指す。
  • 手段利尿薬が中心。不十分なら限外濾過や体外除水まで含む。
  • 開始判断心肺機能、臨床経過、浮腫、体重、累積水分バランスをみる。

SSCが「入れる」だけでなく「抜く」段階を独立して扱ったのは大きな変化です。溢水は明確な予後悪化因子。de-resuscitationまでが循環管理、という時代になりました。

乳酸の落とし穴

2026は乳酸について明確なブレーキをかけています。「乳酸正常化まで輸液を続ける」という運用は避ける。初期輸液後は乳酸の変化を見ながら個別化する、が正しい使い方です。

08MAPは高齢者で低め、昇圧薬は末梢から

MAP 65は強い推奨のまま(概ね維持)。ただし注記で「実際にMAPをぴったり65に保つのは難しいので、数mmHgの幅をもったレンジで運用する」とされました。

そして新設が1つ。65歳以上の敗血症性ショックでは、初期MAP 60–65mmHgを、高めのMAP目標より優先する(条・新規)。高齢者では一律に高めを狙わない、という方向性が明示されました。血圧が上がってくるとつい「もう少し上へ」となりがちですが、そこにブレーキがかかります。

ノルアドの推奨が格下げされたって聞いたんですが
それ、誤読が広まってるやつです。第一選択がノルアドという推奨は“強い推奨”のまま。新しく別建てになった「バソプレシンやアンジオテンシンIIよりノルアドを優先」という比較のstatementが条件付きなので、そこと混ざったんだと思います

整理すると、以下のようになります。

  • 第一選択はノルアドレナリン(強)不変。2021でもNE firstだったが、比較相手を整理してより明示化された。
  • ノルアド > バソプレシン/アンジオテンシンII(条・新規)薬剤比較として独立したstatementになった。ここだけが条件付き。
  • 末梢から開始してよい(条)中心静脈路の確保を待つより末梢からの開始を優先。2021より“遅らせないこと”が前面に。なお2021で意識されていた「短時間だけ」「肘窩より近位で」といった縛りは、2026では“その詳細を推奨する十分なエビデンスはない”という整理に変わった。
  • 輸液と昇圧薬の同時開始(条・新規)著しく不安定なショックでは妥当なことがある。不安定性は身体所見で判断する。
  • 追加の順序(条)ノルアド増量中ならバソプレシンを追加。それでも不十分ならアドレナリンを追加。
  • 心機能障害を伴うショック(条・新規)第一選択がノルアド“または”アドレナリン。頻脈や高度洞性頻脈ならノルアド寄り、徐脈や高度洞性徐脈ならアドレナリン寄りで考える。
  • inotrope(条・新規)心機能障害+低灌流が持続するなら追加。昇圧薬の“代わり”ではなく“追加”として使う。ドブタミン+ノルアド、またはアドレナリン単独。
  • 使わない/推奨不能terlipressin、levosimendanは使わない(条)。midodrine、methylene blueは推奨不能(IE)。
09モニタリングは柔軟化

ここは2021から方向が変わったので注意してください。

2021は侵襲的動脈圧測定を早期に、という立場でしたが、2026は「侵襲的でも非侵襲的でもよい」(条)に軟化しました。そのうえでAラインを重視するのは、中〜高用量の昇圧薬使用・多剤併用・昇圧薬増量中・頻回の動脈採血が必要・非侵襲測定が繰り返し一致しない、といった場面です。

一方、通常ケアに上乗せする低侵襲/非侵襲の心拍出量モニタは推奨不能(IE)。ただし通常ケアに含まれる critical care ultrasound はこの検討対象外です。

CRT(毛細血管再充満時間)は「他の灌流指標のadjunctとして用いる」(条)で、2021から概ね維持。「2026で初めて推奨に入った」という解説を見かけますが、それは誤りです。

C. 呼吸

10HFNCが主役に

敗血症というと輸液・昇圧薬・抗菌薬に目が行きますが、呼吸管理にも動きがありました。

  • 通常酸素療法よりHFNC(条・新規)急性低酸素性呼吸不全で優先。適用範囲は PaO2/FiO2 200以下、または SpO2/FiO2 235以下。
  • 初期治療はNPPVよりHFNC(条・改訂)HFNCとNPPVの交互使用より、HFNC単独を優先する(条・新規)。
  • awake proning(条・新規)非挿管患者では試みる。時間や頻度は患者の耐容性で決める。ただし、腹臥位に耐えさせる目的で鎮静は用いない。
  • 酸素目標(条)高めでも低めでもよい。多くの試験で低め群でもSpO2約90–93%、高め群でも約96%。パネリストの実臨床では SpO2 90–96% を目安。
  • ARDSがない場合の換気(条)4–6mL/kg未満の超低容量より 6–8mL/kg IBW(理想体重)を優先。ただし「ARDSは見逃し・診断遅れが多いので定期的にスクリーニングせよ」という注記つき。
  • ARDSの場合6mL/kg(強)、プラトー圧30cmH2O以下(強)、中等度〜重度で高めPEEP(条)だが段階的にPEEPを上げ続ける戦略はしない(強)、腹臥位12時間超(条)、筋弛緩薬は持続投与より間欠投与を優先(条)。

D. やらないこと

11補助療法は軒並みバッサリ——ステロイド以外
2026で「使わない」とされたもの

血液浄化(hemoperfusion、高用量hemofiltration、血漿交換)(条)——2021は推奨不能だったが、2026はより否定的に踏み込んだ
ポリミキシンB血液吸着(PMX)(条)
・IVビタミンC(条)/IVIG(条)
ビタミンD(条・新規)
プロバイオティクス(条・新規)
予後改善目的だけの解熱薬・体表冷却(条・新規)
敗血症性ショック治療としてのβ遮断薬(条・新規)
・血清製剤XueBiJing:承認地域外では使わない(条・新規)

日本の臨床にどう響くか

このリストで日本の読者が一番向き合うべきはPMXと血液浄化です。日本ではPMX(トレミキシン)に保険適用があり、実際に使われています。SSC 2026は明確に「使わない」側に立った——この事実は知っておく必要があります。

もちろんガイドラインは診療を縛るルールではなく、施設の方針や個別症例の判断まで否定するものではありません。ただ、「なぜ使うのか」を説明できる状態にしておくことは必要になったと思います。

解熱薬については誤解のないように。否定されているのは「予後改善目的での」ルーチン使用であって、疼痛緩和・症状緩和・心停止後管理など別の適応があればこの限りではありません。

一方でステロイドは緩くなりました。2021は「ongoing vasopressor requirement」やノルアド閾値を意識した表現でしたが、2026は「敗血症性ショックではIVコルチコステロイドを用いる」(条)とシンプルに。現場感覚に近づいた印象です。

その他の据え置き:制限的輸血(強)、72時間以内の早期経腸栄養(条)、血糖180mg/dL以上でインスリン開始(強)、AKIでも決定的適応がなければRRTしない(条)、ルーチンの重炭酸は使わない(条)だがpH≦7.2かつAKIN 2/3では考慮(条)、消化管出血リスクがあればPPIで予防(条)。

2021 → 2026 早見表

項目 2021 2026
院内スクリーニング qSOFA単独に依存するな NEWS/NEWS2/MEWS/SIRSを使え(強)
抗菌薬タイミング 疑えば早期に 4段階に細分化。possible sepsis without shockは3時間
βラクタム投与法 持続投与を弱く提案 持続投与を強く推奨(格上げ)
スペクトラム 広域カバー中心 MDR・嫌気性菌のリスク別に足し引き
晶質液 バランス晶質液を弱く提案 同方向(条件付きのまま)。外傷性脳損傷は生食
アルブミン 大量晶質液後の追加を提案 晶質液単独を優先(大きく後退)
30mL/kg後 推奨不能 liberal/restrictiveどちらでも(患者・施設要因で)
蘇生後 明確な言及少 active fluid removal(抜く)を新設
MAP目標 一律 ≧65 65は強い推奨のまま/65歳以上は60–65(新設)
昇圧剤 ノルアド第一選択(強) ノルアド第一選択(強)のまま/末梢開始/心機能障害でAd併記
血圧モニタ 侵襲的動脈圧を早期に 侵襲的でも非侵襲的でもよい(柔軟化)
呼吸 HFNC>NIVの言及あり HFNCを前面に/awake proning新設/非ARDSは6–8mL/kg IBW
ステロイド 昇圧薬継続要件を意識 よりシンプルに「使う」
補助療法 ビタミンC・IVIG等に否定的 血液浄化・PMX・ビタミンD・プロバイオ・β遮断薬も否定

cf. 賛否がある、ということ

最後に触れておきたいことがあります。ACEP(米国救急医学会)は、このSSCG 2026を支持しないという立場をとりました。

理由として挙げられているのは、救急外来の現実が十分に反映されていないこと、成人と小児で考え方が揃っていないこと、そして広い患者集団に対して時間を優先するあまり輸液や抗菌薬が過剰になりすぎる懸念です。

背景には、米国のSEP-1という質指標の存在があります。1項目でも外すと全体が未達成になる硬い制度で、「敗血症診療の型」として機能してきました。ERには未分化のショックとして患者が来ます。そこに「1時間以内に抗菌薬」「まず30mL/kg」という形だけが強く働くと、型にハマった治療に流れやすくなる——これがACEP側の懸念です。

一方でSSC 2026自身は、条件付き推奨は患者の状況・臨床の文脈・使える資源で判断が変わるものであり、硬い評価指標には向かないと明記しています。作る側も「機械的に回してほしい」とは言っていない。

争点は、注意書きが制度化の過程で消え、「強めのワード」だけが独り歩きすることへの警戒にあります。どちらの立場も理解できる話で、日本で読むときにも「ガイドラインは救急外来を縛るルールではない」という前提は共有しておきたいところです。

3結局どう運用するか

差分を全部覚える必要はありません。当直で回せる形に落とします。

図2:初期対応を時間軸で整理した模式図

時間軸でみる初期対応0 – 1時間・スクリーニングで拾う・血液培養を採取・ショック / probableなら抗菌薬 1時間以内・バランス晶質液を開始・上がらなければノルアド(末梢から開始可)〜 3時間・possible sepsis は迅速評価 → 3時間以内・晶質液 ≧30mL/kg 完了・動的指標で反応性を再評価・MAP は 65前後65歳以上は 60–65〜 6時間・source control・ICU 入室・心機能が悪ければアドレナリン / inotrope・呼吸不全なら HFNC(P/F≦200 が目安)蘇生相を過ぎたら・昇圧薬の増量が止まったら転換・active fluid removal利尿薬 → 限外濾過・浮腫・体重・水分バランスを見る・退院後まで見据える※ 時間はあくまで目安。possible / probable の判断を言語化することが前提になる。

最初の1時間

  • 拾うスクリーニング陽性、または「なんか変」で敗血症を疑ったらスイッチを入れる。院内ならNEWS/NEWS2/MEWS/SIRS。qSOFA単独で拾おうとしない。
  • 培養 → 抗菌薬(ここで一度考える)血培を採る。そのうえで自分の患者が4段階のどこかを言語化する。ショックまたはprobable/definiteなら1時間以内。「感染かも・でも安定・possible」なら、迅速評価をして3時間以内という選択肢がある。感染の可能性が低くショックもなければ、保留して厳重観察でよい。
  • 抗菌薬を選ぶMDRリスク、嫌気性菌リスクを言語化してから足す。真菌はルーチンでは足さない。初回loadingが終わったら、維持は持続投与に切り替える。
  • 輸液バランス晶質液で≧30mL/kgを3時間以内。BMI>30なら調整/理想体重で計算。入れっぱなしにせず動的指標で反応性を都度確認。心不全・高齢は特に慎重に。外傷性脳損傷が絡むなら生食。
  • 上がらなければ昇圧剤ノルアドを末梢から開始してよい。ライン待ちでMAPを放置しない。著しく不安定なら輸液と同時併走。
  • 心機能が悪そうならノルアド or アドレナリン。頻脈ならノルアド、徐脈ならアドレナリンを目安に。エコーで左室を一度見る癖を。
  • 呼吸が悪ければまずHFNC(P/F 200以下、S/F 235以下が目安)。挿管していなければawake proningも。ただしそのために鎮静はしない。
  • 行き先を決めるICU適応があるなら6時間以内の入室を目指す。source controlが要るなら6時間以内。

目標設定

ここだけは

MAPは数mmHgの幅をもって65前後。65歳以上は60–65で十分。臓器(尿量・意識・皮膚・乳酸クリアランス)が動いていればOK。乳酸とCRTを両輪で——数字(乳酸)と指先(CRT)、どちらも見る。

蘇生が済んだら

「抜く」に切り替える。昇圧薬の増量が止まり、持続的な容量負荷が要らなくなったら急性蘇生相の終わりです。利尿薬から始めて、必要なら限外濾過まで。浮腫・体重・累積水分バランスを見る。溢水を放置しない。de-resuscitationまでが循環管理です。

やりがちな失敗(2026版)

やりがちな失敗

possibleをprobableに寄せて、反射的に1時間broadへ——3時間の評価ウィンドウを自分から捨てている
βラクタムを従来どおり30分で落とし続ける——強い推奨が変わったのに運用が変わっていない
乳酸が正常化するまで輸液を続ける——ガイドラインが明確に「避けよ」としている運用
MAPが65を超えたのに、さらに上を狙う——特に65歳以上では60–65で十分
awake proningに耐えさせるために鎮静する——明確に否定されている
アルブミンをルーチンで上乗せする——2026では晶質液単独が優先
蘇生が終わったのに水を抜かない——2026の新設項目

退院まで見据える

生き延びさせて終わり、ではありません。2026は transitions of care と long-term outcomes に22項目を割いています。

  • 移行期のケアICUから病棟への移行では transition program と handoff プロセスを使う(条)。
  • 薬剤調整移行時に包括的な medication reconciliation を。薬剤師主導アプローチも考慮(条・新規)。
  • 退院サマリー入院経過・敗血症関連診断・治療・敗血症後によくある障害を、文書と口頭の両方で伝える(GPS)。
  • フォローアップ新たな障害が生じたら、長期後遺症を診られる臨床家へのフォローアップを退院計画に含める(GPS)。人工呼吸が48時間を超えた生存者には退院後のリハビリテーションサービスを(条)。
  • メンタルヘルス退院後の mental health support services を提供する(条・新規)。精神症状があれば専門職へ紹介し、評価・治療につなぐ(GPS)。

post-sepsis syndromeを見越して本人・家族に説明し、サマリーに残す。ここも診療の一部、というのが2026のメッセージです。

Take home

1. 骨格は変わっていない。培養→抗菌薬→輸液→昇圧薬の順序も、MAP 65も、ノルアド第一選択(強い推奨)も不変。

2. 変わったのは「分岐」。抗菌薬は4段階、MAPは高齢者で低め、輸液は入れた後の出口まで。

3. 今日から変えられるのは2つ。βラクタムの持続投与と、蘇生後のde-resuscitation。

4. 日本で向き合うべきは血液浄化・PMX。SSC 2026は明確に「使わない」側。

5. 条件付き推奨は施設ルールにしない。ガイドライン自身がそう書いている。

参考文献
  • Prescott HC, et al. Surviving Sepsis Campaign: international guidelines for management of sepsis and septic shock 2026. Crit Care Med / Intensive Care Med. 2026.
  • Singer M, et al. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA. 2016;315(8):801-810.
  • American College of Emergency Physicians. ACEP Will Not Endorse New Sepsis Guidelines from the Surviving Sepsis Campaign. 2026.
  • Semler MW, et al. Balanced Crystalloids versus Saline in Critically Ill Adults (SMART). N Engl J Med. 2018;378(9):829-839.
  • Zampieri FG, et al. Effect of Intravenous Fluid Treatment With a Balanced Solution vs 0.9% Saline Solution on Mortality in Critically Ill Patients (BaSICS). JAMA. 2021;326(9):1-12.
  • Finfer S, et al. Balanced Multielectrolyte Solution versus Saline in Critically Ill Adults (PLUS). N Engl J Med. 2022;386(9):815-826.
  • Meyhoff TS, et al. Restriction of Intravenous Fluid in ICU Patients with Septic Shock (CLASSIC). N Engl J Med. 2022;386(26):2459-2470.
  • National Heart, Lung, and Blood Institute PETAL Clinical Trials Network. Early Restrictive or Liberal Fluid Management for Sepsis-Induced Hypotension (CLOVERS). N Engl J Med. 2023;388(6):499-510.
  • Hernández G, et al. Effect of a Resuscitation Strategy Targeting Peripheral Perfusion Status vs Serum Lactate Levels on 28-Day Mortality Among Patients With Septic Shock (ANDROMEDA-SHOCK). JAMA. 2019;321(7):654-664.

敗血症シリーズ

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