ER-症候別

Ai(Autopsy imaging)②ー死後変化、蘇生術後変化

心肺蘇生を尽くして力及ばず、そのままAiを撮影する。CT画像を開くと、血管の中に空気の筋が走り、胃や腸がぱんぱんに膨らんでいる。「まさか処置中に何か起きたのでは」と血の気が引いた経験はないだろうか。

その所見の多くは、死という現象そのもの、あるいは蘇生処置そのものが作り出す死後変化・蘇生術後変化であり、病的意義のない「陰性所見」であることが大半である。しかし、これを知らずに読影すると、正常な死後変化を異常所見と誤読し、逆に本当の異常所見を見逃す。誤読は両方向に起こる。

第2回は、Aiの読影における最重要の基礎知識——死後変化・蘇生術後変化・病変の3分類、部位別の代表的な死後変化、そして死後CT読影の思考の型を扱う。

この記事でわかること

  • 死後変化はなぜ起こるのか(7つの機序)
  • 部位別に代表的な死後変化・蘇生術後変化を知る(脳、心大血管、肺、消化管など)
  • 死後CT読影の3分類「死後変化・蘇生術後変化・病変」と、系統的な読影の思考手順
  • 死後変化を死因と誤読する落とし穴と、逆に本物の病変を死後変化として捨てる落とし穴
  • 死後CTの死因推定力を、母集団ごとの数字で正しく押さえる

1なぜ死後画像は生体画像と違って見えるのか

死の直後から、非可逆的な心停止、酸素供給の途絶、代謝機能の喪失という経過をたどり、身体には生体では見られない物理的・化学的・生物学的変化が生じ始める。これが死後変化(死体現象)である。

死体現象は伝統的に、死亡直後から始まる早期死体現象(体温降下、死体の乾燥、死斑・血液就下、死体硬直、血液凝固と線溶現象)と、死後数日から始まる晩期死体現象(自家融解、腐敗、死体の損壊、白骨化)に分類される。ただし両者に明確な時間的境界はなく、死因・年齢・体格などの死体因子と、気温・湿度などの環境因子に強く影響される。

国際的な文献では、死後変化を「死後24時間以内に生じる早期変化」と「晩期変化」に分ける整理が一般的である。院内死亡例では死亡からCT撮影までが数時間から1日以内であることが多く、実際に目にするのはほぼ早期変化である。ただし自家融解と腐敗ガスは晩期変化に分類されながら、死後早期にも出現しうる。

死後CTで実際に観察される変化は、この枠組みに沿って次の7つの機序群に整理できる。

死後変化を生む7つの機序(長谷川巖先生の講演より)

  1. 重力による就下血液や体液が重力に従って沈む
  2. 静水圧による水の移動体液が濃度・圧較差に応じて移動する
  3. 自己融解による軟化無菌的に自己の酵素で組織が分解される
  4. 膜透過性の亢進細胞膜・血管壁の透過性が高まり、滲出液が生じる
  5. 腐敗ガスの産生腐敗菌が蛋白質・有機物を嫌気的に分解する
  6. アーチファクト蘇生治療、死後の保管(温度・体位)・搬送・体位変換の影響
  7. 筋肉の死後硬直と緩解による体動

読影の際にまず持つべき意識は一つ——生体画像と同じ読み方でよい所見と、そうでない所見を区別することである。この区別ができて初めて、死後画像は「読める」ようになる。

2死後CT読影の3分類——死後変化・蘇生術後変化・病変

東京医科大学・石田尚利先生は、死後CTで見られる所見を次の3つに分類することが、死後画像読影における最重要事項だと述べている。

  1. 死後変化死後画像にしか見られない所見。病的意義は乏しい
  2. 蘇生術後変化心肺蘇生(胸骨圧迫・人工換気)に伴って生じる所見。これも病的意義は乏しい
  3. 病変死因への関与を問わず、生前から存在した病的所見

このうち①と②を「陰性所見である」と判断できることが、死後画像の適切な読影に不可欠である。①と②を知らないまま読影すると、正常な変化を異常と誤診する。一方で、①と②に寄せすぎると本物の③を見逃す。次章から、部位別に①と②の代表的な所見を見ていく。

3部位別に見る代表的な死後変化

図1:早期死後変化の代表例(a, b:上矢状静脈洞の高吸収化、脳浮腫(背側優位)、灰白質・白質のコントラスト低下/c:左心室壁の肥厚、重力側の高吸収化、右心系の拡大/d:両側主気管支の液体貯留と肺重力側のすりガラス濃度上昇(水平面形成を伴う)/e:大動脈短径の狭小化と大動脈壁の高吸収化・肥厚/f:肝内門脈ガス(死後8時間、蘇生非施行例)/g:膵の腫大と辺縁不明瞭化)

早期死後変化の代表的CT画像

出典:Ishida M, et al. Essence of postmortem computed tomography for in-hospital deaths. Jpn J Radiol. 2023;41:1039-1050. https://doi.org/10.1007/s11604-023-01443-w(CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)Fig.1より転載、改変なし

3-1. 心大血管・心臓

  1. 血液就下一定の姿勢下で血液が重力に従って沈む。沈降した赤血球のヘモグロビンにより、心大血管の背側部や下側の血管で高吸収域として描出され、しばしば水平面(fluid-fluid level)を形成する。胸部大動脈で最も目立ち、心腔内や下大静脈でも見られる
  2. 血球と血漿の二層化同じく重力による分離
  3. 大動脈壁の肥厚・高吸収化、大動脈短径の狭小化と長円形化死後硬直による平滑筋収縮を反映する。大動脈や肺動脈といった大血管で最も顕著。壁全周に均一な濃度上昇を示すため、大動脈解離との鑑別はさほど難しくない
  4. 心室壁の肥厚・高吸収化これも死後硬直による
  5. 動静脈の凝血循環停止により血液が自然に凝固する。頭蓋内の細い動静脈で特に認められやすく、血管走行に一致し左右対称性を示す
  6. 鋳型状凝血塊(軟凝血塊・豚脂様凝血塊)緩慢な死や慢性疾患の苦悶期では血液凝固が進みやすく、肺動脈や胸部大動脈に鋳型状の高吸収域として現れる。逆に急性死では、血管内皮からのプラスミノーゲンアクチベータ放出により線溶が亢進して血液の流動性が保たれ、明瞭な水平面形成を伴う血液就下として現れる
  7. 右心系拡大循環停止後、血管系は平均循環充満圧(静水圧、約7mmHg)に落ち着く。この圧が生前の右心系拡張期圧よりわずかに高いため、死後に血液量が右心系へシフトし、右心系と上大静脈が拡大する。同じ理由で大動脈は細くなる

図2:終末期・苦悶期にみられる肺動脈(矢頭)・胸部大動脈(矢印)の鋳型様高吸収域

肺動脈・胸部大動脈の鋳型様高吸収域

出典:Ishida M, et al. Jpn J Radiol. 2023;41:1039-1050(CC BY 4.0)Fig.2より転載、改変なし

3-2. 頭蓋腔

  1. 静脈洞の血液就下上矢状静脈洞、横静脈洞などの高吸収化。硬膜下血腫やくも膜下出血と紛らわしい
  2. 脳溝の狭小化、脳回の扁平化、側脳室の狭小化循環停止に伴う浮腫性変化。血管性浮腫が目立つ場合に脳腫脹として現れる
  3. 皮髄コントラストの低下灰白質の含水量増加による濃度低下が主機序。白質側の濃度上昇も寄与しうる
  4. 死亡直後の脳浮腫はごく軽度死亡直後の脳は超急性期脳梗塞に似た状態にある。細胞性浮腫では個々の細胞が腫脹し細胞間隙が狭小化するため、脳全体の容積は変化しにくい。心拍停止により脳腫大の原因となる血管性浮腫が起こらないことも大きい。したがって臨床で見るような強い脳腫脹は、死亡直後には通常認めない
  5. 脳室・脳脊髄液のCT値の上昇死後経過時間と正の相関を示すが、死因・生前病態・環境条件で変動幅が大きい
  6. 血管内ガスの出現腐敗・蘇生術後変化・アーチファクトによる

逆方向の誤読に注意

ごく早期の死後CTで著明なびまん性脳腫脹と皮髄境界不明瞭化を認めた場合は、生前の低酸素性虚血性脳症(HIE)を示唆する。「脳が腫れている=死後変化」と機械的に処理すると、蘇生後脳症という重要な病態を取り落とす。基底核の濃度変化が死後変化との鑑別に役立つとされる。死後変化を病変と誤るのと同じくらい、病変を死後変化と誤ることが起こりうる。

3-3. 咽喉頭・気道・胸腔

  1. 気道の液体貯留肺間質から肺胞・気道へ滲出液が移動し、気管・主気管支の含気が失われる。膜透過性亢進が機序の一つとされる。胸水貯留、肺浸潤影、無気肺があるときに見られやすい
  2. 肺の血液就下両肺背側部の水平面形成を伴うすりガラス濃度上昇。死後経過時間とともに目立つようになる
  3. 死後の胸水死後早期は変化に乏しく、死後30時間ごろから増加し、40時間ごろまで増え続ける
  4. 皮下浮腫・皮膚の肥厚通常は左右対称性

3-4. 腹腔・骨盤腔

  1. 腐敗・ガス産生菌による血管内ガス・臓器内ガス血管内や腸管内のガス産生菌によって生じ、心肺蘇生を行っていない症例でも出現する。死後24時間以降に多くなるが死後早期にも認められ、ガスの有無は死後経過時間と相関しない
  2. 自家融解死後に自己の酵素で組織が消化され、臓器の輪郭が不明瞭化し容積が変化する。死後早期には膵、脾、副腎で起こりやすく、膵の腫大や辺縁不明瞭化として描出される。脳の灰白質濃度低下は死後24時間以降
  3. 胃軟化症(gastromalacia)による腹腔内遊離ガス胃液による自己融解性の胃穿孔。血管内ガスや臓器内ガスといった他の死後変化を伴わないのに腹腔内free airがある場合に疑う。生前の胃穿孔との鑑別が必要になる

メモ

死後変化の程度は死後経過時間だけでなく、生前の病態、死亡原因、そして遺体の保管環境(気温・湿度・体位)によっても左右される。夏季、浴槽内、暖房の効いた室内などでは腐敗が速く進む。「この時間ならこの所見」と機械的に当てはめず、臨床情報とあわせて解釈する。

4蘇生術後変化——処置の痕跡を「異常」と誤読しない

心肺蘇生を受けた遺体では、処置に由来する特有の所見が加わる。ER医にとって最も身近で、かつ最も誤読されやすいカテゴリである。

図3:蘇生術後変化の代表例(a:消化管の広範な拡張と腸管壁・腸間膜血管内ガス/b:側脳室近傍の髄質静脈の拡張/c:肝・腹部大動脈・椎体・脊柱管の臓器内・血管内ガス(死後10時間で撮影。自家融解によると思われる腹腔内遊離ガスも認めるが、解剖では穿孔部位を同定できず)/d:脳動静脈内ガス(cと同一症例)/e:前胸部の肋骨骨折/f:心破裂による心嚢内血腫と左血胸(左前胸部の肋骨骨折も認める)/g:原因不明の右後腹膜出血(fと同一症例、解剖で確認))

蘇生術後変化の代表的CT画像

出典:Ishida M, et al. Jpn J Radiol. 2023;41:1039-1050(CC BY 4.0)Fig.3より転載、改変なし

  1. 血管・臓器内ガス(脳・腹部)胸骨圧迫による血中溶存ガスの気化、輸液ルートからの空気混入、人工換気との組み合わせによる気管支血管瘻(圧外傷)の形成。胸骨圧迫により動脈は順行性に、静脈は逆行性にガスが広がる。心肺蘇生の時間が長いほど、多臓器でガスを認める頻度が高い
  2. 消化管拡張バッグバルブマスク等による人工換気で胃・小腸を中心に空気が入る。循環停止で虚血に陥った腸管壁は内腔のガスを取り込みやすく、拡張とガスで内圧が上がるとガスが腸管壁を越えて腸間膜へ、さらに門脈へと移行する
  3. 白質CT値の上昇による皮髄境界不明瞭化心停止下の低酸素脳で拡張した髄質静脈が、胸骨圧迫によりさらにうっ滞するためと考えられる。ただし心肺蘇生を行っていなくても白質CT値の上昇は起こりうる
  4. 肋骨骨折胸骨圧迫による多発肋骨骨折。前胸部・側胸部に多く、背側にはほぼ生じない。皮質骨の内側のみが折れる不全骨折(buckle rib fracture)をしばしば認める。背側の肋骨骨折を見たら胸骨圧迫以外の原因を考える
  5. 心嚢内血腫心肺蘇生により死後に生じた血液漏出。心膜腔に液面形成(fluid-fluid level)を伴う背側の高吸収域として現れる。胸骨圧迫は気胸、血胸、肺挫傷、心破裂も合併しうる
  6. 機械的圧迫装置に特有の所見胸骨骨折、前胸部の皮下血腫、中位胸椎の非典型骨折
  7. 腹腔内出血肝周囲、脾周囲、後腹膜の出血が胸骨圧迫の合併症として起こりうる。生前病態で説明できない場合に蘇生後変化と判断する

心嚢内血腫は「蘇生のせい」と即断しない

心嚢内血腫は蘇生に伴う医原性所見にも、生前の病態(大動脈解離など)による所見にもなりうる。鑑別の手がかりは層構造の有無である。
・蘇生後(死後)の血腫:心停止後の血液は流動性を保つため、上層が低吸収・下層が高吸収に分かれる液面形成を示す。
・生前の血腫:心拍のあるうちに出血して凝固するため、心臓周囲を取り巻く層状の高吸収凝血(pericardial hyperdense ring)を示す。
Yamaguchiらの検討では、液面形成による死後性血腫の判別は感度86%、特異度96%、陽性適中率86%、陰性適中率100%であった(Yamaguchi R, et al. AJR. 2015;205:W568-577)。急性大動脈解離による心嚢液貯留のPMCT所見はShiotaniらが報告している(Shiotani S, et al. Radiat Med. 2004;22:405-407)。心嚢内血腫を見たら、大動脈解離の合併を除外する視点を持ちたい。

5死後CT読影の思考過程

死後CT読影における現実的な手順を、系統的な思考過程として整理する(石田先生の講演をもとに構成)。

  1. 臨床情報を収集する死亡日時、CT撮影日時、既往歴、臨床経過。ただし振り回されすぎないよう注意する
  2. 死後経過時間と心肺蘇生の有無・内容を確認する死後変化・蘇生術後変化の解釈の前提になる
  3. 頭部、体幹部、四肢を系統的に読影する部位を漏らさず確認する
  4. 所見を死後変化・蘇生術後変化・病変に分類する前章で示した3分類に当てはめる
  5. 臨床経過や死亡時の状況とあわせて病態・死因を推定する画像単独で死因を決め打ちしない

画像でわからないことは多く、無理な意味づけをしない姿勢が重要である。病変が見つかっても、それが本当に死因かどうかは臨床的重要性を含めて慎重に検討する(overdiagnosisへの注意)。原著も、死因判定の中心はあくまで病理医であり、CTはその補助であると明記している。解剖が続く場合は、陰性所見であっても解剖医に伝えておくとよい。

新潟大学・高橋直也先生らは、新潟市民病院での多数例の経験をもとに、死後CTの所見を「死後変化」「心肺蘇生術後変化」「死因」「その他の所見」の4つに分類してチェックできる死後CT読影用チェックシートを開発している。Ai経験の乏しい医師でも所見の拾い上げと判断が向上することが示されており、Ai学会のウェブサイトからダウンロードできる。自施設で読影体制を整える際は、こうした既存のチェックシートを土台にするのが実務的である。

6死後CT読影のピットフォール

死後CT読影で起こりやすい誤りは、Yoshidaらが解剖で判明した5つの誤診例として整理している。

誤読の5パターン(Yoshida M, et al. J Forensic Sci. 2022;67(1):395-403)

  1. 死後変化を死因と解釈する
  2. 蘇生術後変化を死因と解釈する
  3. 不完全な調査のまま死因が決定される
  4. 外因性の致死的所見を内因性と解釈する
  5. 非致死的所見を致死的所見と解釈する

対策として提唱されているのは、死後変化・蘇生術後変化の所見を知り、読影トレーニングを積み、入手可能な病歴・検査所見・死亡時の状況を必ず確認することである。

特に注意したいのが、正常死後変化・蘇生術後変化が「偽病変」として別の死因を疑わせてしまうケースである。以下は代表的な対応関係である(槇野陽介. 死後画像診断による死因究明. Precision Medicine 2022;5:242-245 より改変)。

死後CT所見 誤診されうる死因例
血管内ガス/腹腔内遊離ガス(正常死後変化) 腸管虚血や空気塞栓、消化管穿孔
肺動脈内の就下・凝血(正常死後変化) 肺血栓塞栓症
大動脈内の就下・凝血(正常死後変化) 大動脈解離
気管内の液体貯留(正常死後変化) 誤嚥、窒息、溺水
肺重力側の濃度上昇(正常死後変化) 間質性肺炎や肺炎
髄液腔・静脈洞の濃度上昇、脳腫脹、皮髄境界不明瞭化(正常死後変化) くも膜下出血や硬膜下血腫、低酸素性虚血性脳症
血管内ガス・消化管拡張(蘇生術後変化) 腸管虚血や空気塞栓、イレウス
心嚢内血腫(蘇生術後変化) 心タンポナーデ
肋骨・胸骨骨折(蘇生術後変化) 外傷や胸郭圧迫による窒息
胸腔・腹腔内出血(蘇生術後変化) 外傷や腹部動脈瘤破裂など
咽頭内異物(死後の処置=エンゼルケア等によるもの) 誤嚥による窒息

ポイント

右側の列はいずれも臨床的にインパクトの大きい診断である。左側の正常所見を知らないまま読影すると、「窒息だ」「解離だ」「タンポナーデだ」と過大評価してしまう。ただしこの表は一方向の注意にすぎない。3-2で述べたとおり、本物のHIEを死後変化として捨てる、生前の心嚢内血腫を蘇生のせいにする、といった逆方向の誤りも同じ頻度で起こりうる。

なお、生前と死後で見え方が変わる病変もある。成人の急性硬膜下血腫は、循環停止により血腫量と正中偏位が減少し、CT値は上昇する。生前CTと死後CTを並べて比較する院内死亡例では、この点を知らないと「血腫が縮小した」と解釈を誤る。

7死後CTの死因推定力——数字は母集団ごとに押さえる

死後CTがどの程度死因を言い当てられるかについては、いくつもの数字が流通している。しかしそれぞれ母集団が違うため、並べて足し引きしてはいけない。

母集団 死因推定の指標 出典
救急外来の非外傷性死(494例) 致死的所見の検出 38.1%(うちdefinite 24.7%)。おおむね3割 Takahashi N, et al. Eur Radiol. 2012;22:152-160
院内死亡(剖検との対照) 直接死因の一致率・感度ともおよそ60〜70% Ishida M, et al. Jpn J Radiol. 2023 のレビュー(Takahashi 2012, Inai 2016, Westphal 2012, Sonnemans 2018)
院内死亡のうち小児(3歳未満) 直接死因に関連する主病変の検出率およそ30% Arthurs 2016、Ishida 2020
外傷死(15研究244例のSR) 死因一致率46〜100%、損傷検出率53〜100%。「解剖の信頼できる代替となる一貫したエビデンスはない」 Scholing M, et al. Eur Radiol. 2009;19(10):2333-2341

「非外傷性は3割」という数字がしばしば引かれるのは、死後CT単独で脳出血、くも膜下出血、大動脈解離、大動脈瘤破裂といった致死的出血性病変を診断できる割合を指している。言い換えれば、これは非外傷性死因のうち致死的出血性病変が占める割合そのものである。死因がすべて致死的出血性病変であれば、死後CTの死因確定率は10割になる。

「外傷は8割以上」という要約も国内の総説では広く用いられているが、根拠となるシステマティックレビューが報告しているのは上記のとおり幅の広いレンジであり、2020年版の死後画像読影ガイドラインも外傷性死亡の指摘率を「53〜100%と文献によりばらつきが大きい」と記載している。「外傷なら8割見つかる」ではなく、外傷では非外傷性より格段に見つかるが、致死的外傷でも指摘できないことがあると理解するのが正確である。

Robertsらの検証研究(Lancet. 2012;379:136-142)は、成人の法医学的死亡において死後CTが死後MRIより死因判定の精度が高く、法医学的目的には許容しうると報告した。一方で、通常解剖を基準にしたときに死因判定を誤りやすかったのは虚血性心疾患、肺塞栓、肺炎、腹腔内病変であり、突然死の代表的な原因の一部は死後CT・MRIでは拾えず、通常解剖を置き換えることはできないと結論している。

死後画像読影ガイドラインでは、次のクリニカルクエスチョンが死因判定の実務指針として参考になる。

  • 2020年版CQ11(2025年版ではCQ10):死後CT・MRIは死因推定に有用か?
  • 2020年版CQ21:死後画像で内因死の判定に有用な所見は何か
  • 2020年版CQ32:死後CTで外因死を示唆する有用な所見は何か

なお本ガイドラインは2025年3月に2025年版(第3版)へ改訂され、CQ数が47から55に増えるとともにCQ番号が動いている。現行版を参照する際は番号の対応に注意されたい。

死因判定が可能な場合があるのは、頭蓋内出血・脳梗塞、大動脈解離・大動脈瘤破裂、心嚢内血腫(心タンポナーデ)、腹腔内出血、悪性腫瘍、そして一部の外傷(骨折、出血、気胸など)である。

一方で、中毒(薬物、一酸化炭素など)、焼死、熱中症、感電、敗血症・多臓器不全、急性心筋梗塞・致死性不整脈・心筋炎、肺血栓塞栓症、電解質異常・代謝異常、乳幼児突然死症候群は、死後CT単独での判定が一般に難しい

肺炎と肺水腫は中間に位置する。死後肺水腫と血液就下が高頻度に生じるため、びまん性の肺濃度上昇の評価は難しく、炎症や腫瘍といった生前病変が覆い隠される。臨床情報と組み合わせてはじめて意味を持つ所見と考えたほうがよい。

ポイント

Aiは「死因を確定する検査」ではなく、「死因を絞り込み、除外し、記録として保全する検査」と捉えるほうが実務に即している。次回(第3回)で扱う外傷死では、この検出力は非外傷性より明確に高くなる。

8やりがちな失敗

1血管内ガスを見て空気塞栓・腸管虚血と即断する

正常死後変化としても蘇生術後変化としても血管内ガスは高頻度に出現し、その有無は死後経過時間と相関しない。死後経過時間と蘇生の有無を確認せずに病的意義を判断しない。

2肋骨骨折を見て、胸骨圧迫の既往を確認する前に虐待や外傷を疑う

蘇生術後変化としての肋骨骨折は前胸部・側胸部が主体で、背側の骨折は原則として生じない。この分布の特徴を踏まえて判断する。

3気道内の液体貯留だけで溺水・誤嚥と診断する

死後変化としての気道内液体貯留はごくありふれた所見であり、単独では溺水・誤嚥の根拠にならない。

4脳が腫れていれば全部「死後変化」で片づける

ごく早期の死後CTで著明な脳腫脹と皮髄境界不明瞭化があれば、生前の低酸素性虚血性脳症を疑う。死後変化への習熟は、逆方向の見逃しを生みうる。

5心嚢内血腫を見てすべて蘇生のせいにする

液面形成なら死後性、心臓周囲の層状高吸収凝血なら生前性を示唆する。大動脈解離の除外を忘れない。

6画像に写った病変をすべて死因と結びつけようとする

overdiagnosisに注意し、「画像でわからないことは多い」という前提を持つ。

7死後経過時間や蘇生の有無を確認せずに読影を始める

3分類はこの2点の情報の上にしか成り立たない。

9Take home

Take home

  1. 死後CT所見は「死後変化」「蘇生術後変化」「病変」の3つに分類して読む。①と②を陰性所見と判断できることが、適切な読影の前提になる
  2. 死後変化は7つの機序(就下、水移動、自己融解、膜透過性亢進、腐敗ガス、アーチファクト、死後硬直と緩解)に整理でき、部位ごとに代表的な所見が知られている
  3. 蘇生術後変化(血管・臓器内ガス、消化管拡張、肋骨骨折、心嚢内血腫)は心肺蘇生を受けた遺体で広く起こりうる。ただし心嚢内血腫は生前の病態でも生じるため、層構造の有無で鑑別し、機械的に「蘇生のせい」と片づけない
  4. 誤読は両方向に起こる。死後変化を病変と誤るのと同じくらい、本物の病変(HIE、生前の心嚢内血腫など)を死後変化として捨てる誤りに注意する
  5. 読影の思考手順は「臨床情報の収集→死後経過時間・蘇生の有無の確認→系統的な部位別読影→3分類への振り分け→臨床情報とあわせた死因推定」の5段階
  6. 死因推定力の数字は母集団ごとに分けて理解する。救急外来の非外傷性死でおよそ3割、院内死亡の剖検対照でおよそ6〜7割、外傷では報告により幅が大きい。Aiを「死因確定検査」ではなく「絞り込み・除外・記録保全の検査」として位置づける

次回(第3回)は、外傷性病変の読影と、窒息・溺水・縊死という画像診断が特に難しい死因群を扱う。

参考文献
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  • 日本医学放射線学会・死後画像読影ガイドライン作成委員会 編. 死後画像読影ガイドライン 2025年版(第3版). 金原出版, 2025
  • 日本医学放射線学会・北海道大学大学院医学研究院死因究明教育研究センター 編. 死後画像読影ガイドライン 2020年版. 金原出版, 2020(CQ11・CQ21・CQ32)
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