「早く始める」ことと「たくさん入れる」ことは、同じ話のように聞こえて、実はまったく別の変数である。この10年の重症患者栄養療法の議論は、この2つを分けて考えられるかどうかにかかっている。
2026年、NEJMに重症患者の栄養療法に関する総説が載った(Patel JJ, McClave SA. Nutrition Therapy in Critically Ill Adults. N Engl J Med 2026;395:162-174)。急性期の代謝生理から、経腸栄養と経静脈栄養の選択、エネルギー・タンパク質の投与量、モニタリングの考え方まで、この10年で積み重なった大規模RCTを踏まえて整理した内容である。
この記事では原著の内容を詳しく追いながら、日本版重症患者の栄養療法ガイドライン2024(JCCNG2024)と読み比べる。読み比べると、一致するところだけでなく、同じ数値を挟んで正反対を向いている論点があり、しかもその理由がかなり明快であることがわかる。
先に今日からの動き方だけ知りたい方は、姉妹記事「重症患者の栄養、結局どう動くか」へ。この記事はその「なぜ」の部分を担当する。
この記事でわかること
- 「早く始める」ことと「たくさん入れる」ことが、まったく別の話だという理由
- 経腸栄養が経静脈栄養より優先される根拠と、経静脈栄養が安全な代替になる場面
- 循環動態が不安定なときに栄養を入れるかどうかの、現時点でわかっていることと、わかっていないこと
- タンパク質1.2 g/kg/dayという線をめぐって、国際的な総説と日本のガイドラインが逆を向いている理由
- 胃内残渣量を測ることの位置づけが、この20年でどう変わったか
- リフィーディング症候群に対して、日本のガイドラインが持っている具体的な数値
1重症病態の急性期に何が起きているか
ESPEN(欧州臨床栄養代謝学会)は重症病態を急性期(acute phase)と後期(late phase)に分け、急性期をさらに早期急性期と後期急性期に分けている。急性期は、おおむねICU入室から最初の1週間の期間にあたる。
この時期には、敗血症、外傷、大手術、熱傷、ARDSといった侵襲が引き金となり、交感神経系、視床下部―下垂体―副腎系、消化管ホルモン、脂肪組織由来ホルモン、免疫・炎症系が連鎖的に活性化する複雑な代謝ストレス反応が起こる。この反応は3つの中核的な代謝異常に集約される。
3つの中核的な代謝異常
①加速した異化:筋タンパクの崩壊、脂肪組織の脂肪分解、負のタンパク(窒素)バランス、タンパク分解の亢進、安静時エネルギー消費量の増加。ストレスホルモンと炎症性サイトカインの影響下でユビキチン・プロテアソーム系が過剰に活性化し、筋タンパク由来のアミノ酸プールは糖新生と酸化的エネルギー源へと振り向けられる。
②同化シグナルへの抵抗性:インスリン抵抗性、筋タンパク合成の障害、成長ホルモンおよびIGF-1への抵抗性、栄養素利用の低下。
③持続する炎症と細胞機能不全:サイトカイン過剰、酸化ストレス、ミトコンドリア機能不全、基質利用の変化、アロスタティック負荷。
臨床的な帰結は明確だ。重症患者は最初の1週間で骨格筋量を1日あたり2%失う。そして48%近くが筋力低下をきたし、これはICU滞在の長期化と関連する。この時期の筋組織では、ミオシンフィラメントの消失、アクチン・ミオシン比の変化、筋小胞体の破綻、電気的な興奮性の消失、そしてミトコンドリア機能不全と酸化的代謝障害によって代謝需要に見合うATPを産生・利用できなくなる状態(bioenergetic failure)、炎症細胞の浸潤が観察される。
腸管も標的になる。タイトジャンクションタンパクの発現低下、腸上皮細胞のアポトーシス亢進、粘膜萎縮によりバリア機能が破綻する。腸内細菌叢は共生状態からdysbiosisへ傾き、その背景には経口摂取の減少、腸管の低灌流、粘膜免疫の障害に加えて、胃酸分泌抑制薬や広域抗菌薬というICUで日常的に使う介入がある。
図1:侵襲から代謝ストレス反応、3つの代謝異常、臓器別・臨床的帰結に至るカスケード
腸―肺軸 ― 肺は無菌ではなかった
近年注目されているのが腸―肺軸である。敗血症やARDS患者の肺内細菌叢は、Enterococcus、Bacteroides、Prevotellaなど、本来は腸管に典型的な菌に占拠されることが示されており、肺は無菌であるという長年の前提が覆された。重要なのは、細菌が物理的に移行しなくてもよいという点である。病原性を持つ細菌は通常のクリアランス機構を迂回し、クロストーク・シグナルを介して樹状細胞を介した反応を活性化することで、全身性炎症を駆動し、多臓器不全に寄与しうる。
2経腸栄養か経静脈栄養か ― ルートとタイミング
経静脈栄養や絶食は、上皮細胞の増殖を低下させ、アポトーシスを増加させ、粘膜の完全性を損なうことで腸管の健全性を損なう。これに対して経腸栄養は、タイトジャンクションタンパクの発現を高め、腸上皮細胞のアポトーシスを減らし、絨毛と陰窩の構造を保ち、Paneth細胞の機能を維持し、腸管関連リンパ組織を支持し、常在細菌叢の維持を助けることで、腸管機能を守る。
21件のRCTを総合したエビデンスは、ICU入室後24〜36時間以内に開始する早期経腸栄養が、遅延投与や非投与よりも良好な転帰につながることを示している。消化管が機能していて禁忌がなければ、主要なクリティカルケア栄養ガイドラインは腸管の完全性と腸内細菌叢を守るために経静脈栄養より早期経腸栄養を推奨する。
ただしこの推奨は、複数の大規模多施設RCTによって相対化されてきた。
3つの大規模RCT
・Early PN試験(2013年、n=1372):早期経腸栄養に短期的な禁忌がある患者を対象に、早期経静脈栄養と標準治療(経腸栄養の遅延)を比較。60日死亡率22.8%対21.5%で有意差なし(P=0.60)
・CALORIES試験(2015年、n=2400):早期経静脈栄養と早期経腸栄養を比較。30日死亡率33.1%対34.2%で有意差なし(P=0.57)
・NUTRIREA-2試験(2018年、n=2410):同様の比較。28日死亡率35%対37%で有意差なし(P=0.33)。ただし早期経腸栄養群のほうが消化器合併症が多く、臨床的に問題となる腸管虚血の発生率が高かった(2%対1%未満、P=0.007)
これら3試験を通じて、早期の短期的な経静脈栄養は感染性合併症の増加とは関連しなかった。CALORIES・NUTRIREA-2を含む14試験の2024年のメタ解析では、早期経腸栄養は血流感染が少なくICU・入院期間が短い一方、嘔吐や下痢といった消化器合併症は多いという結果だった。
現時点の結論
総合すると、早期経腸栄養が禁忌または実施困難な場合には、早期経静脈栄養が合理的な代替になる、というのが現時点の結論である。
3エネルギー投与量 ― full-dose神話の崩壊
高栄養状態(hyperalimentation)、正の窒素バランス、カロリー負債という長年の概念から、推定エネルギー必要量の80〜100%を早期に満たすフルドーズ栄養が実践されてきた。必要量は間接熱量測定で測ることもできるが、この方法は世界的に見て臨床現場ではあまり使われておらず、より一般的には体重ベースまたは予測式で見積もられる。EAT-ICU試験は、間接熱量測定でエネルギー必要量を測定する早期目標指向栄養と標準的な栄養管理を比較したが、6か月時点のQOLを含め臨床転帰に群間差はなかった。
ここで用語を整理しておきたい。原著は投与戦略を次のように定義している。
| 戦略 | 定義 |
|---|---|
| Trophic(微量栄養) | 腸粘膜を養う目的の10〜20 mL/時の持続投与 |
| Hypocaloric(低カロリー) | 必要カロリーの70%未満、ただしタンパク質は全量 |
| Permissive underfeeding(許容的過小栄養) | カロリー・タンパク質とも必要量の40〜60% |
| Full dose(フルドーズ) | カロリー・タンパク質とも必要量の70〜100% |
表1:フィーディング戦略の定義(原著Table 2に基づく)
急性期にフルドーズ栄養を行うという実践そのものに、13件のRCTが疑問を投げかけた。比較されたのは低カロリー栄養、許容的過小栄養、微量栄養といった制限的戦略である。
- 9試験:死亡率に有意な群間差なし
- 4試験:制限的な経腸栄養のほうが転帰良好(死亡率、人工呼吸期間、ICU退室準備が整うまでの時間)
- 6試験:フルドーズ群のほうが経腸栄養による有害事象(enteral feeding intolerance)を起こした患者の割合が高い
- 3試験:フルドーズ群のほうが必要インスリン量が多い
- 大規模多施設試験5件のうち4件で、フルドーズ群に合併症が多い
フルドーズの潜在的な利点は、医原性のストレスで相殺されうる
これらは、フルドーズ経腸栄養の潜在的な利点が、炎症、血行動態不安定、燃料利用の障害、腸管運動異常といった医原性のストレス因子によって相殺されうることを示唆する。早期の積極的なフルドーズ栄養は、腸管虚血、リフィーディング症候群、過剰栄養(外因性の栄養素と肝糖新生の合算)、オートファジーの抑制、機能不全に陥ったミトコンドリアへの負荷増大、過剰な輸液量、消化器有害事象を通じて、正味では害になりうる。
より慎重で制限的なアプローチ、たとえば腸管の完全性を保つために10〜20 mL/時で投与する微量栄養が、急性期にはより妥当と考えられるようになり、最近のガイドラインでもこの戦略が推奨されている。最近のメタ解析では、栄養不良がある、あるいはそのリスクがある重症患者、つまり生理的予備能が限られ低栄養の悪影響を受けやすい集団においてすら、高エネルギー投与が生存期間を延ばさないことが示された。
図2:病期ごとの栄養投与量の漸増(原著Figure 2に基づく著者作成の簡略図)
| 試験 | 比較 | 主な結果 |
|---|---|---|
| EDEN 2012, n=1000, 急性肺傷害 |
10 mL/時(微量) 対 25 kcal/kg/日 |
人工呼吸器非装着日数に差なし。 25 kcal/kg/日群で消化器合併症が多い |
| PERMIT 2015, n=894 |
必要カロリーの40〜60% 対 70〜100% |
死亡率、消化器合併症とも差なし |
| REFEEDING 2015, n=339 |
20 kcal/時×2日+リン値に基づく 緩徐増量 対 標準治療 |
60・90日生存日数はカロリー制限群で多い。 標準治療群で感染・高血糖・インスリン使用が多い |
| TARGET 2019, n=3957 |
1 kcal/mL製剤 対 1.5 kcal/mL製剤 |
死亡率に差なし。 1.5 kcal/mL群で消化器合併症が多い |
| NUTRIREA-3 2023, n=3044 |
6 kcal/kg/日 対 25 kcal/kg/日 |
ICU退室準備が整うまでの時間は6 kcal/kg/日群で短い。 25 kcal/kg/日群で重度消化器合併症が多い |
表2:エネルギー投与量を検討した主要RCT(原著Table 1のenergy doseの部分に基づく)。ここに出てくるTARGET試験は栄養剤のエネルギー密度を比較した試験で、5章のTARGET Protein試験(タンパク質濃度を比較)とは別の試験である
4循環動態が不安定な患者・昇圧薬使用中の栄養
循環性ショックがあり昇圧薬を使用している重症患者に対して、経腸栄養をいつ、どれだけ投与するのが適切かは、依然として不確実である。
早期経腸栄養と遅延投与を比較したRCTの多くは、循環性ショックの患者を除外している。しかしNUTRIREA-2とNUTRIREA-3は、人工呼吸中で循環性ショックを合併した患者を組み入れた。いずれの試験でも、腸管虚血を含む経腸栄養関連の有害事象が生じた患者の割合は、早期フルドーズ経腸栄養のほうが、早期経静脈栄養(NUTRIREA-2)や制限的用量の経腸栄養(NUTRIREA-3)よりも高かった。
ノルアドレナリン0.5 μg/kg/分超
注目すべきは、これらの患者がノルアドレナリンを0.5 μg/kg/分を超える用量で使用していたことである。原著はここから、高用量の昇圧薬を使用している患者に早期フルドーズ経腸栄養を開始することは有害である、と結論している。
一方で、経腸栄養を開始あるいは差し控えるべき昇圧薬の適切な閾値そのものは、依然として不明確である。ただし中等量の昇圧薬(ノルアドレナリン換算で0.3 μg/kg/分未満)を使用している患者では、早期の低用量経腸栄養が安全である可能性を示唆するエビデンスが出てきている。原著は、より質の高い有効性データが必要である、と付け加えている。
ここは日本のガイドラインとスタンスが違うところなので、9章で改めて取り上げる。
5タンパク質投与量 ― 1.2 g/kg/dayという線
重症病態の初期に著しいタンパク質喪失が起こることから、観察データと小規模試験に支えられて、高タンパク質摂取が窒素バランスを改善し、同化抵抗性を軽減し、筋合成を促進するという理論が生まれた。これを踏まえて2016年のASPEN/SCCMクリティカルケア栄養ガイドラインは、1.2〜2.0 g/kg/dayという幅広いタンパク質投与量を推奨した。
ところが187のICUを対象にした国際調査では、ガイドライン推奨量である1.3 g/kg/dayが処方されていた患者に、実際に投与されていたのはその55%、0.7 g/kg/dayにとどまっていた。
投与不足に加えて、高齢者と重症患者に共通する同化抵抗性が、タンパク質を筋肉づくりに使う効率をさらに損なう。放射性標識フェニルアラニンを用いたChappleらの研究では、健常者と重症患者でタンパク質の吸収率と全身での利用可能性は同程度だったにもかかわらず、重症患者は吸収したアミノ酸のうち60%しか筋タンパクに取り込めなかった。
質の低い研究で観察された高用量タンパク質の恩恵は、より大規模で設計の良い試験では再現されなかった。
3つの大規模RCT
・EFFORT Protein試験(2023年、n=1301):人工呼吸中の重症患者を、ICU入室後96時間以内に高用量タンパク質(2.2 g/kg/day以上)または通常量(1.2 g/kg/day以下)に割り付け。実際の群間差は平均0.7 g/kg/day。60日時点の生存退院までの時間に群間差なし。重症度がより高い患者、および腎代替療法を受けていない急性腎障害の患者では害のシグナル
・PRECISe試験(2024年、n=935):標準量タンパク質(1.3 g/kg/day)または高用量(2.0 g/kg/day)に割り付け。高タンパク質群は経腸栄養による有害事象のエピソードが多く、ICU退室6か月後の健康関連QOLスコアが低かった
・TARGET Protein試験(2025年):オーストラリア・ニュージーランドの8 ICUのクラスター無作為化ダブルクロスオーバー試験。3,411例登録・3,397例解析。高タンパク質製剤(100 g/L)と標準タンパク質製剤(63 g/L)を比較。90日時点で生存かつ退院していた日数は中央値62日対64日(中央値差−1.97日、95%CI −7.24〜3.30、P=0.46)で群間差なし。新規に腎代替療法を要した患者のサブグループでは中央値差−13.19日、交互作用P<0.001と害の可能性
記事作成時の注意
原著のTable 1はPRECISe試験について、本文と正反対に「高タンパク質のほうが健康効用値が高い」と記載している。実際の試験報告では高タンパク質群のQOLが低いという結果であり、本文の記述が正しい。この記事では本文側の記述を採用している。
図3:タンパク質投与量を検討した3試験(EFFORT Protein、PRECISe、TARGET Protein)の用量設定と主要アウトカム
2件のメタ解析も、高用量タンパク質が低用量より良い転帰をもたらさないことを示した。さらに、重症度が高い患者と急性腎障害の患者では高用量タンパク質が有害である可能性がある。これを受けて、ESPENの2023年改訂版クリティカルケア栄養ガイドラインは、ICU入室後の最初の1週間をかけて1.3 g/kg/dayまで段階的に増量する、という方針に転換した。
原著Key Pointsの結論
高用量タンパク質(2.0 g/kg/day超)は標準用量(1.2 g/kg/day以下)を上回る転帰上の利益をもたらさず、急性腎障害の患者では有害な可能性がある。この「1.2 g/kg/day以下が標準用量」という位置づけが、日本のガイドラインと正面からぶつかる。9章で詳しく見る。
6モニタリング① 腸管不耐・血糖・リフィーディング症候群
経腸栄養に伴う有害事象は頻度が高く、重症病態の初期にしばしば生じる消化管運動異常と密接に関連する。適切なモニタリング体制があれば、経腸栄養をより安全に届けられる。
ベッドサイドで観察できる徴候には、腸雑音の低下、腹部膨満、悪心、嘔吐、排便困難・便秘がある。欧州集中治療医学会(ESICM)の消化管機能ワーキンググループは、これに下痢、消化管出血、腹腔内高血圧、腹部コンパートメント症候群、腸管虚血・梗塞を加えて、重症度の連続体として分類している。
実務上は、低リスク(定型的な徴候)と高リスク(腹腔内高血圧、腹部コンパートメント症候群、腸管虚血)に分けて考えられる。低リスクの所見では、有害な影響が落ち着くまで経腸栄養の投与速度を一時停止または維持する。ただし重症度の高い患者では、低リスクの徴候が高リスク合併症への進行を示している場合がある点に注意が必要である。高リスクの所見では、直ちに経腸栄養を中止し、臨床的に再評価する。
下痢と消化管出血は独立して評価する
これらのために経腸栄養を中止する必要はまれだからである。下痢の原因は多因子性で、薬剤、感染、吸収不良などが関係する。一方、臨床的に明らかな出血(黒色便、低血圧、ヘモグロビン低下)は内科系ICU患者の1.3%に発生し、経腸栄養の中止と十分な精査を要する。なお、人工呼吸中の成人でプロトンポンプ阻害薬とプラセボを比較したREVISE試験では、経腸栄養そのものが上部消化管出血(主要評価項目)に対して保護的に働くことが示されている。
急性期の代謝的な不安定性、すなわち内因性の肝糖新生は、栄養療法による外因性のカロリー、とくにフルドーズと組み合わさると相対的な過剰栄養となり、高血糖を悪化させ、インスリン必要量を増やしうる。複数のRCTの結果を踏まえて、2024年のSCCM血糖管理ガイドライン(小児・成人の重症患者対象)は、血糖値を180 mg/dL(10 mmol/L)未満に保つことで高血糖に対処するよう推奨している。
重症患者では、入院前からの栄養状態の悪化と低栄養についてもモニタリングすべきである。指標となるのは栄養摂取量の低下、体重減少、BMI 18.5未満といった所見で、こうした患者はリフィーディング症候群のリスクを抱える。至適な栄養増量戦略は依然として不確実だが、リスクのある患者で急速に増量することが有害であることは示されている。
REFEEDING試験(多施設、栄養開始後の低リン血症例)
栄養開始に伴って低リン血症を発症した重症患者を、カロリー制限を伴う緩徐な増量と、標準カロリーによる急速な増量に無作為に割り付けた。カロリー制限に割り付けられた患者のほうが転帰が良く、60日生存率が高く(91%対78%、P=0.002)、入院期間が短く(21.7日対27.9日、P=0.003)、感染も少なかった(21%対32%、P=0.03)。
リフィーディング症候群のリスク因子を持つ重症患者では、経験的なチアミン補充と慎重な栄養増量、そして血清リン・マグネシウム・カリウム値の密なモニタリングが推奨される。原著が示すのはここまでで、具体的な用量やスケジュールには踏み込んでいない。この部分は日本のガイドラインのほうが具体的なので、9章で表として示す。
7モニタリング② 胃内残渣量(GRV)
胃内残渣量を胃排出の正確な指標、あるいは誤嚥・肺炎リスクの予測因子として用いる根拠は乏しい。それにもかかわらず、GRVの測定はICUにおける経腸栄養の有害事象の評価項目として組み込まれ続けてきた。しかしその価値は、この20年で複数の試験によって繰り返し疑問視されている。
人工呼吸中の重症患者を対象に、比色定量顕微鏡と質量分析で誤嚥を評価した試験では、GRVと誤嚥に関連はみられなかった。誤嚥の発生率は、GRVが50 mL未満でも400 mL超でも同程度だった。
3つのRCT・メタ解析
・REGANE試験(多施設、n=329):GRVの閾値を高値(500 mL)と低値(200 mL)に無作為に割り付け、高閾値群のほうが消化器合併症の発生率が低く、栄養投与も良好
・NUTRIREA-1試験(多施設、n=452):ルーチンのGRVモニタリングを行う患者と行わない患者で、人工呼吸器関連肺炎、死亡率、ICU在室期間に差なし
・7試験1240例のメタ解析:GRVをモニタリングしないことで不要な栄養中断が減り、人工呼吸器関連肺炎の発生率、ICU在室期間、死亡率に群間差なし
現時点のエビデンスは、誤嚥や肺炎のリスクを減らす目的でGRVを用いることを支持していない。GRVモニタリングは経腸栄養の投与を妨げうるうえ、内科系ICU集団と比べて外科系ICU集団で追加的な利益が示されたわけでもない。経腸栄養の有害事象のマーカーとしてのルーチンのGRVモニタリングは強く推奨しない、というのが原著の立場である。
日本のガイドラインも同じ方向を向いているが、踏み込みの度合いが違う。9章で扱う。
8残された課題 ― precision nutritionとリハビリテーション
重症患者は、生理学的・代謝学的・臨床的プロファイルの点でも、代謝的な治療反応の点でも、きわめて不均一な集団である。
現代のRCTは急性期における「少ないほうがよい(less is more)」アプローチを支持する。しかしICUを出た後、とくに退院後の栄養療法の効果は依然として不明である。またこれらの試験の中に、より積極的な栄養戦略から利益を得ていた別個のサブグループが存在した可能性も否定できない。
既存の栄養不良がある患者は、クリティカルケア栄養の試験からしばしば除外されており、このハイリスク集団をどう支えるべきかの理解を制限している。最近のガイダンスは、ICU入室時に栄養不良を同定し、ICU滞在を通じてその進行をモニタリングすることの重要性を強調している。将来の試験に栄養不良患者を含めることは重要である。積極的な栄養介入から最も利益を得る可能性があるのは、まさにこの集団かもしれないからである。
個々の患者特性と生物学的反応に合わせて介入を調整する精密栄養(precision nutrition)のアプローチ、すなわち機械学習を用いた予測モデリング、バイオマーカーに基づく戦略、病期特異的な戦略の統合が求められている。これらは多職種の枠組みの中で実装され、多様なICU集団で検証されるべきであり、その有効性は機能的回復、QOL、長期生存といった意味のある臨床アウトカムで評価されるべきである。
除脂肪体重の喪失は最大5年残る
この40年間で重症病態からの生存率は改善した。しかしその成果は、除脂肪体重(lean body mass)の著しい喪失という、生存者にとって主要な長期的帰結によって影を落とされている。除脂肪体重の喪失は後天性の筋力低下と機能障害の一因となり、初回ICU入室後最大5年間持続しうる。
健常者では、レジスタンス運動とタンパク質補充の組み合わせが、タンパク質補充単独より大きな同化反応をもたらすことが示されている。ある小規模RCTでは、高タンパク質摂取とレジスタンス運動の組み合わせが、標準栄養と通常の理学療法に比べて、身体機能の改善、ICU・入院期間の短縮、6か月死亡率の低下と関連していた。ただし、これを確認するにはより大規模で検出力の高い試験が必要である。
ICU退室後の回復期における医学的栄養療法、個別化された栄養カウンセリングを含めた役割は、依然として十分に定義されていない。
9日本の実情 ― JCCNG2024と読み比べる
日本集中治療医学会は2025年、「日本版重症患者の栄養療法ガイドライン2024(JCCNG2024)」を日本集中治療医学会雑誌の増刊号(日集中医誌 2025;32:S3)として公表した。2016年版からの改訂で、GRADEシステムに基づき、37のクリニカルクエスチョンに対して24の推奨が作られている。
原著と読み比べると、一致するところ、温度差があるところ、はっきり逆を向いているところがあり、しかもその「逆を向いている理由」がかなり明快である。順に見ていきたい。
9-1 まず押さえるべき前提が2つある
一つ目は文献検索の時期である。JCCNG2024は2023年4月に文献検索を行い、検索期間は検索日までのすべてとしている。つまりこのガイドラインが参照できた証拠は、2023年4月までに発表されたものに限られる。改訂は4〜6年後の予定だが、改訂前に重要な知見が公表され至急改訂の必要が生じた場合には統括委員会で審議のうえ改訂を行う、という規定も置かれている。
二つ目は制度との関係である。JCCNG2024は序文で、日本では保険診療の早期栄養介入管理加算が本ガイドラインに準拠した栄養療法を実施することを求めており、それに見合う推奨を提示できるよう努めて作成する必要があった、と明記している。さらに、早期栄養介入管理加算と周術期栄養管理実施加算の導入がガイドラインの臨床適用を促進する因子である一方、医療機関に勤務する管理栄養士の不足が推奨の適用を阻害する可能性があり、管理栄養士の全国的な配置も取り組むべき課題である、とも述べている。
設計思想の違い
国際誌に載る総説は「今わかっている最良の証拠は何か」を書く。日本のガイドラインはそれに加えて「日本の診療報酬制度と人員配置の中で実行できる推奨は何か」まで背負っている。この設計思想の違いを頭に置いておくと、以下の食い違いがずっと読みやすくなる。
なお、JCCNG2024は基本アウトカムに死亡率・ICU滞在期間・人工呼吸期間・感染症合併症・すべての有害事象に加えて、退院時または退院後1年までの身体機能評価と、入院期間中または退院後の筋肉量変化を採用している。PICS(post intensive care syndrome)を意識し、身体アウトカムを主要アウトカムに添えた点でこれまでになかった推奨を提示する、と自ら述べている。原著の8章が除脂肪体重とリハビリテーションを研究ギャップとして挙げていることを思うと、この2つは同じ方向を向いている。
9-2 タイミングとルートは、ほぼ一致する
CQ1-5は、集中治療開始後48時間以内に経腸栄養を開始することを強く推奨している(GRADE 1B、エビデンスの確実性は中)。ただし対象とした研究には経腸栄養が使用できる患者のみが組み入れられていた、という注記が付いている。原著の「24〜36時間以内」とは時間の刻みが違うが、早期に始めるという方向は同じである。
CQ1-2は、経静脈栄養よりも経腸栄養を行うことを弱く推奨している(GRADE 2C、エビデンスの確実性は低)。ここで注目したいのは、その推奨に至った理屈である。
36件のRCT(n=6,908)のメタ解析で、経腸栄養の望ましい効果は敗血症の減少(15 RCT、RR 0.57、95%CI 0.43〜0.77)と肺炎の減少(18 RCT、RR 0.93、95%CI 0.75〜1.15)などだが、望ましくない効果として腸管虚血の増加(3 RCT、n=4,861、RR 2.34、95%CI 1.07〜5.13、1,000人あたり7人多い)が挙がっている。委員会はこれらが拮抗していると考え、効果のバランスは「介入も比較対照もいずれも支持しない」と判断した。
決め手は臨床アウトカムではなく費用対効果だった
では何が決め手になったか。費用対効果と必要資源量である。経腸栄養剤は食事療養費負担額として1食あたり110〜490円、経静脈栄養の1日あたりの薬価は1,000〜2,000円程度、という具体的な比較まで書かれている。CALORIES試験の費用対効果分析(1 QALYを2万ポンドとした場合、経腸栄養の1年間の純便益はマイナス1,320ポンド)も引用したうえで、これは英国の研究であり栄養剤の価格や診療報酬が本邦と異なるため同様のことが言えるかは不明、と正直に注記している。
つまりJCCNG2024において、経腸栄養が経静脈栄養より推奨されたのは、臨床アウトカムで勝ったからではなく、費用と資源で勝ったからである。これは原著が「早期経腸栄養が禁忌または実施困難なら早期経静脈栄養は合理的な代替」と述べていることと、驚くほど整合的だ。
一方で、経腸栄養が足りないときに経静脈栄養を足すかどうか(補助的経静脈栄養)については、JCCNG2024はCQ1-7で「併用しないことを弱く推奨する」としている(GRADE 2A、エビデンスの確実性は高)。24ある推奨の中で、エビデンスの確実性がAなのはこれ1つだけである。原著が扱っているのは「経腸栄養が禁忌のときに経静脈栄養でよいか」という問いで、CQ1-7が扱っているのは「経腸栄養が不足しているときに足すか」という別の問いなので、ここは混同しないよう書き分けたい。
9-3 循環動態が不安定なとき ― 方向は同じ、踏み込みは日本のほうが慎重
CQ1-6は、循環動態不安定な重症患者において経腸栄養を行わないことを弱く推奨している(GRADE 2D、エビデンスの確実性は非常に低い)。根拠は2件のRCTのメタ解析である。
原著も高用量昇圧薬下でのフルドーズ経腸栄養は有害だと述べている点では同じ方向だが、原著はさらに「ノルアドレナリン換算0.3 μg/kg/分未満の中等量であれば早期低用量の経腸栄養は安全かもしれない」というところまで踏み込んでいる。JCCNG2024にはこの但し書きはない。方向は同じだが、温度差がある。
9-4 エネルギー投与量 ― 推奨文は逆向きに見えるが、中身は近い
CQ1-3の推奨文はこうである。重症患者の治療初期において、エネルギー投与量は消費エネルギー量よりも意図的に少なくしないことを弱く推奨する(GRADE 2B、エビデンスの確実性は中)。
原著が「早期のフルドーズは害になりうる、急性期は目標の25%程度から」と言っているのに対して、こちらは「意図的に少なくするな」である。字面だけ見ると正反対に読める。
ところが根拠を読むと印象が変わる。27件のRCTのメタ解析で、エネルギーを少なく設定すること(介入)の望ましい効果として挙げられているのは、90日死亡が1,000人あたり6人少ない、ICU滞在日数が0.04日短い、すべての感染性合併症が1,000人あたり8人少ない、すべての有害事象が3人少ない、嘔吐が5人少ない、という結果である。委員会はこれを「わずか」と判断した。一方、望ましくない効果として挙げられているのは、28日死亡が1,000人あたり14人多い、人工呼吸期間が0.2日長い、という結果で、これを「小さい」と判断した。総合して「比較対照が優れている」となった。
つまり28日死亡では制限が不利、90日死亡では制限が有利という、時点によって向きが変わる混在した結果である。しかも費用対効果の評価では介入(制限)のほうが優れると判断されており、患者アウトカムを優先して比較対照を選んだ、という経緯まで書かれている。
推奨文の見た目ほど、両者は対立していない
決定的なのは、推奨文そのものに付いている注記である。対象とした研究では介入・比較対照群ともに目標投与量よりも総じて少なく栄養が投与されたものを検討した結果であり、初期から消費エネルギーを目標とした量の栄養投与を推奨するものではない、と明記されている。本文でも、対照群でも初期から投与量が消費エネルギー量を超えている研究はない、と念を押している。
要するにJCCNG2024が否定しているのは「意図的にさらに削ること」であって、「初期からフルドーズにすること」を勧めているわけではない。原著が支持する制限的〜微量栄養の実際の投与量レンジと、そこまで遠くない。
9-5 タンパク質投与量 ― 1.2 g/kg/dayを挟んで、はっきり逆を向いている
ここがこの記事でいちばん書きたいところである。
原著のKey Pointsは、標準用量を1.2 g/kg/day以下と位置づけ、それを超える高用量には転帰上の利益がなく、急性腎障害の患者では有害な可能性があるとする。
JCCNG2024のCQ1-4は、重症患者において標準を超えるタンパク質量(1.2 g/kg/day超)を投与することを弱く推奨する、としている(GRADE 2D、エビデンスの確実性は非常に低い)。
まったく同じ1.2 g/kg/dayという線を挟んで、二つの文書が逆を向いている。そして、その理由は解釈の違いではない。
理由は解釈の違いではなく、文献検索の締め切りだった
CQ1-4の根拠となった10件のRCTの文献リストを確認すると、EFFORT Protein試験(Lancet 2023)は含まれている。しかしPRECISe試験(Lancet 2024)と、5章で紹介したTARGET Protein本試験(JAMA 2025)は含まれていない。文献リストにあるTARGET関連の論文は、Chappleらによる2021年のfeasibility trial(JPEN)で、これは本試験の前段階にあたる小規模試験である。
なぜ含まれていないかは、9-1で述べた通りはっきりしている。JCCNG2024の文献検索は2023年4月に行われた。PRECISeもTARGET Protein本試験も、その後の発表である。委員会が見落としたのではなく、検索期間の外にあるのだ。EFFORT Proteinが2023年2月の発表で滑り込んでいるのも、これで筋が通る。
つまり、原著が高タンパク質を否定する根拠として挙げる3本の大規模RCTのうち、JCCNG2024が参照できたのは1本だけだった。その1本(EFFORT Protein)は主要評価項目が陰性でサブグループに害のシグナルが出た試験であり、これだけでは推奨を反転させるには弱い。10件のメタ解析の結果、ICU滞在日数、感染性合併症、握力などで望ましい効果が「中」と判断され、弱い推奨になった、という流れは、2023年4月時点の証拠に立てば理解できる判断である。
委員会が高タンパク質のリスクに無自覚だったわけでもない。CQ1-4の考察には、対象となったRCT(EFFORT Protein)において標準を超えるタンパク質投与群で2日目にはすでに目標投与量に達していたこと、この早い目標到達によって腎機能障害がある患者の予後を悪化させた可能性も考えられること、したがって投与量の設定に加えて至適な到達時期も考慮する必要があること、が書かれている。そのうえで、本CQでは腎機能障害がある患者のサブグループ解析は行っていない、と明記している。原著が害を指摘しているまさにその部分が、日本側では解析されていない、ということになる。
ちなみにJCCNG2024自身も、ESPENガイドライン2023の1.3 g/kg/day、ASPENガイドライン2022の1.2〜2.0 g/kg/dayを紹介したうえで、いずれのガイドラインにおいても明確な推奨を示す根拠は乏しく(ESPEN2023はGRADE 0、ASPEN2022はエビデンスの質が低い)、どの程度に設定するかはさらなるRCTが必要である、と書いている。
この章で伝えたいこと
読者に伝えたいのは「日本のガイドラインが間違っている」ではない。「同じ問いに対して、参照している証拠の締め切りが違うと、推奨は逆を向きうる」ということ、そして「だから2026年時点でタンパク質量を決めるなら、JCCNG2024だけでなく、その後に出た2本の大規模RCTも併せて見る必要がある」ということである。
9-6 胃内残渣量 ― 方向は同じ、しかし日本はまだ一歩手前
JCCNG2024のCQ3-4は推奨(GRADE推奨)ではなく背景疑問(BQ)に対する情報提示という位置づけで、胃残量や胃残渣の性状、腹部理学所見、腹部超音波検査・腹部X線検査などの画像所見、乳酸値などを組み合わせて評価する方法がある、としている。
本文では、GRVのモニタリング単独では腸管不耐を十分に評価する根拠が不十分であること、GRVモニタリングは嘔吐のリスクを減らす可能性はあるものの死亡率・入院日数・肺炎の発症率との関係は現時点では示されていないこと、経腸栄養の中断による投与エネルギー不足とそれに伴う感染性合併症リスクの上昇、主に看護師の業務量増加に伴うケアコストの増加が懸念されること、が述べられている。
そのうえで、GRVが極端に多い場合は経腸栄養を中止する理由として考慮されるべきである、としている。閾値については、2016年版が「GRVが500 mL未満であれば経腸栄養を中止しない」、ESPENガイドライン2023が「GRVが500 mL/6時間を越える場合は経腸栄養の開始を遅らせるべき」としており、500 mLという比較的高い閾値が一つのカットオフとして設定されている、と紹介している。またESPEN2023が、経腸栄養が確立された後のモニタリングとしてGRVの確認は必須ではないとも述べていることに触れている。
安易に中止するなという方向は原著と同じである。ただし原著の「ルーチンのGRVモニタリングは強く推奨しない」という踏み込みまでは、日本のガイドラインはまだ到達していない、という整理になる。
9-7 リフィーディング症候群 ― ここは日本のほうが具体的で実務的
原著は「経験的なチアミン補充と慎重な増量、血清リン・マグネシウム・カリウムの密なモニタリング」までしか書いていない。これに対してJCCNG2024のCQ3-8(これもBQに対する情報提示)は、NICE基準などをもとにした4段階のリスク層別化と、リスクごとの具体的な数値を示している。
| リスク | エネルギー投与量(kcal/kg/day)の推移 |
|---|---|
| リスクなし | 制限なし |
| 低リスク | 1〜3日目 15〜25 → 4日目 30 → 5日目以降 制限なし |
| 高リスク | 1〜3日目 10〜15 → 4〜5日目 15〜25 → 6日目 30 → 7日目以降 制限なし |
| 超高リスク | 1〜3日目 5〜10 → 4〜6日目 10〜20 → 7〜9日目 20〜30 → 10日目以降 制限なし |
表3:リフィーディング症候群のリスク層別化と栄養増量の目安(JCCNG2024 Table 3-8-4に基づく簡略版)
予防措置(低リスク以上のすべてに共通)
・5日間はビタミンB1を200〜300 mg、10日間はマルチビタミンを投与する
・3日目までは毎日電解質を測定し、その後は2〜3日ごとに測定する
・水分バランスの評価を中心とした1日1〜2回の臨床検査を行う
・鉄は、鉄欠乏がある場合でも最初の7日間は補充しない
・高リスク以上ではナトリウムを1 mmol/kg/day未満に制限する
・超高リスクでは心拍または心電図を毎日継続してモニタリングする
原著の記述より具体的で、そのままベッドサイドで使える。
9-8 日本にしかない強い推奨 ― プレバイオティクスとシンバイオティクス
JCCNG2024で成人に対する強い推奨は2つしかない。48時間以内の早期経腸栄養(CQ1-5、GRADE 1B)と、もう一つがプレバイオティクス・シンバイオティクスの投与である。
内訳はこうなっている。プレバイオティクスの投与を強く推奨(CQ2-7-1、GRADE 1B)、シンバイオティクスの投与を強く推奨(CQ2-7-3、GRADE 1C)、プロバイオティクスの投与を弱く推奨(CQ2-7-2、GRADE 2C)。
国際的な総説では議題にすら上がっていない
原著はシンバイオティクスにもプレバイオティクスにも一切触れていない。日本の数少ない強い推奨の一角が、国際的な総説では議題にすら上がっていない、という対比になる。1章で見た腸内細菌叢と腸―肺軸の話を踏まえると、ここは今後の焦点になりうる領域だと思う。
9-9 間接熱量測定 ― 日本固有の実務的制約
CQ3-2は、消費エネルギー量の推定に間接熱量測定を行うことを弱く推奨している(GRADE 2B、エビデンスの確実性は中)。9件のRCT(n=1,178)のメタ解析が根拠である。
国内で使える施設は限られる
本文には、国内で使用できる施設が限られること、間接熱量計の導入には数百万円を要し、1患者1回の測定ごとにランニングコストがかかり、現時点で検査測定処置に見合った保険収載もないため減価償却も期待できないこと、ECMO、高濃度酸素、気胸などでは精度が低下または測定困難な可能性があることが、率直に書かれている。原著は間接熱量測定について「世界的に見て臨床現場ではあまり使われていない」と一言触れるだけである。日本で実際に導入を検討するなら、こちらの記述のほうが役に立つ。
10やりがちな失敗とTake home
早期開始(タイミング)と早期のフルドーズ化(用量)は別の変数で、前者は支持され、後者は否定されている。ここを分けないと、この10年の議論はまったく読めない。
ノルアドレナリン0.5 μg/kg/分超で早期フルドーズ経腸栄養を始めるのは有害と考えられている。
とくに腎代替療法を受けていない急性腎障害患者では、複数の試験で害のシグナルが出ている。
JCCNG2024の文献検索は2023年4月で、その後に出た2本の大規模RCTは反映されていない。
GRV単独では腸管不耐を評価しきれない。
カロリー制限に割り付けられた群のほうが60日生存率が高かった(91%対78%)。
これらは独立して評価すべきで、経腸栄養を中止する必要はまれである。
試験の多くはこの集団を除外している。
Take home
- 急性期の栄養は「早期に開始する」ことと「フルドーズで満たす」ことを分けて考える。前者は腸管保護のために支持され、後者は複数の大規模RCTで害が示されている
- エネルギーは、早期急性期は目標の25%程度の制限的〜微量栄養から始め、炎症と異化が落ち着く後期急性期に50〜80%、後期に80〜100%へ漸増する。微量栄養は10〜20 mL/時が目安
- タンパク質は、1.2〜2.0 g/kg/dayという古い幅ではなく、1週間かけて1.3 g/kg/day程度まで緩徐に増やす方向へ、国際的には転換している。2.0 g/kg/day超の高用量は、とくに急性腎障害患者で有害の可能性がある
- ただし日本のJCCNG2024は1.2 g/kg/day超を弱く推奨しており、国際的総説とは逆を向いている。理由は解釈の違いではなく、文献検索が2023年4月で、その後の2本の大規模RCTが入っていないこと。2026年に判断するなら両方を見る
- 循環性ショックでは、ノルアドレナリン0.5 μg/kg/分超でのフルドーズ経腸栄養は避ける。0.3 μg/kg/分未満の中等量なら早期低用量が安全かもしれないが、日本のガイドラインはそこまで踏み込んでいない
- GRVのルーチンモニタリングを有害事象のマーカーとして使うことは、原著は強く推奨していない。下痢と消化管出血は独立して評価し、低リスクの徴候で安易に中止しない
- リフィーディング症候群のリスクがある患者では、緩徐な増量、ビタミンB1補充、電解質モニタリングを徹底する。JCCNG2024のリスク層別化とランプアップ表がそのまま使える
- 除脂肪体重の喪失はICU退室後最大5年残る。タンパク質補充とレジスタンス運動の組み合わせが鍵になりうるが、エビデンスはまだ発展途上である
今どう動くかを先に知りたい方は、姉妹記事「重症患者の栄養、結局どう動くか」を参照してほしい。
参考文献
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- Deane AM, et al. REVISE trial: proton pump inhibitors vs placebo in mechanically ventilated adults.
- Casaer MP, Van den Berghe G, et al. EAT-ICU trial.
- 日本糖尿病・内分泌代謝内科学会/SCCM. 2024年重症患者血糖管理ガイドライン.
