循環器

肺塞栓

急性肺塞栓症 2026 AHA/ACC

肺塞栓症は、疑って、層別化して、詰まりを取るか支えるかを素早く決める病態である。2026年、初のAHA/ACC合同ガイドラインが出て、2つが大きく変わった。ひとつはリスク分類で、長年の「massive/submassive」を捨て、A〜Eの5段階に組み直された。もうひとつは再灌流で、「誰に溶かし、誰にカテーテル、誰に支持療法か」がcategory別に整理された。そして日本には、溶解薬・カテーテルデバイス・DOAC用量という3つの差がある。

この記事の芯

リスク分類はA〜Eへ。血圧が保たれた「正常血圧のショック(D2)」を拾うのが要。

再灌流は高リスク(E1)が軸。中リスクに全身溶解はしない。日本は溶解薬がモンテプラーゼ(アルテプラーゼはPE適応なし)で、カテーテルデバイスはまだ手が届きにくい。

この記事でわかること

  • massive/submassiveを置き換えたA〜Eリスク分類と、その狙い(正常血圧ショックD2)
  • 抗凝固の第一選択(ヘパリン系のLMWH、内服のDOAC)と、日本のDOAC事情(リバロキサバン維持15mg、ダビガトランはVTE適応なし)
  • 再灌流のcategory別マップ(高リスクE1が軸、中リスクへの溶解は害)
  • カテーテル/外科が「出血を避けたい高リスク」の選択肢に格上げされたこと
  • 日本の差 ― 溶解薬はモンテプラーゼのみ、カテーテルデバイスは導入評価段階
  • PERTはClass 1。ノルアド第一、深鎮静・挿管は避ける、抗凝固中のIVCフィルタは益がない

1リスク分類 ― A〜E(massive/submassiveは終わり)

2026 AHA/ACCは、重症度をA〜Eの5カテゴリーで表す(最も重い所見で決め、経過で移動しうる)。長年の「massive/submassive」や、ESCの4段階を、ひと続きの重症度として並べ直したものである。

図1:A〜Eリスク分類(旧分類・ESCとの対応つき)

分類 定義(2026 AHA/ACC) 旧分類・ESCとの対応 初期の方向
A 無症候・偶発(例:造影CTで偶然の亜区域枝PE) 外来・帰宅を検討
B 症候性・重症度スコア低(PESI I-II、sPESI 0、Hestia 0) 低リスク 外来治療を検討
C 症候性・スコア高(PESI III-V、sPESI≥1)。C3=バイオマーカー陽性+右室機能障害 submassive/ESC 中リスク(C3=中-高) 入院・抗凝固
D 切迫する心肺不全=“正常血圧のショック”。D2=一過性低血圧+低灌流 submassive〜massiveの境界 入院・監視・介入を検討
E 心肺不全。E1=心原性ショック/E2=難治性ショック・心停止 massive/ESC 高リスク 再灌流・循環補助

では、目の前の患者をどうA〜Eに振り分けるか。血圧 → 低灌流 → 右室とバイオマーカー → 重症度スコア、の順に上から見ていくと決まる。

図2:A〜Eへの振り分けフロー(上から順に判定する)

急性PEと診断血行動態が不安定?収縮期血圧 <90 mmHg か 40 mmHg超の低下が持続/ショック・心停止はいE(高リスク)E1=心原性ショック/E2=難治性・心停止いいえ血圧は正常だが、低灌流がある?乳酸 >2・尿量 <0.5 mL/kg/h・心係数 ≤2.2・平均血圧 <60 のいずれかはいD(正常血圧のショック)D2=低灌流あり/D1=一過性低血圧が輸液で戻るいいえ右室機能障害 + バイオマーカー陽性?心エコー/CTで右室負荷、かつ トロポニン・BNP 上昇はいC3(中〜高リスク)≒ESC intermediate-high。入院・PERT評価いいえ重症度スコアは低い?PESI I-II・sPESI 0・Hestia 0 なら低リスクはいB(症候性・低リスク)外来治療を検討。無症候・偶発なら A(帰宅可)いいえ(スコア高)=C(入院・抗凝固)

新分類のいちばんの狙い ― 正常血圧のショック(D2)

血圧が保たれていても、低灌流があれば“ショック”として扱う。これがD分類の核。

低灌流の指標=乳酸>2 mmol/L、尿量<0.5 mL/kg/h、Cr上昇、心係数≤2.2、平均血圧<60のいずれか。血行動態不安定は収縮期<90 mmHg または 40 mmHg超の低下。

層別化の道具(COR):低リスク(A・B)の同定にHestia/PESI/sPESI(Class 1)。Cで心筋トロポニン/BNPを1つ以上(Class 1)、C〜Eで乳酸(Class 1)。CTPAではRV/LV比を主観でなく数値で報告(Class 1)。

数字の細分(C1〜C3など)― これが再灌流グリッドの行になる

フローで文字(A〜E)まで決めたら、数字の細分をつける。とくにC1・C2・C3の線引き(右室機能障害とバイオマーカーが、両方なし/片方/両方)は、§4の再灌流の可否を分けるので重要。

細分 決め方
A 無症候・偶発(例:がん病期CTで偶然の亜区域枝PE)
B1/B2 症候性・スコア低。B1=亜区域枝/B2=区域枝以上
C1 スコア高、かつ 右室機能障害なし・バイオマーカー陰性(どちらも陰性)
C2 スコア高+ 右室機能障害 か バイオマーカー陽性 の どちらか一方
C3 スコア高+ 右室機能障害 かつ バイオマーカー陽性(両方)=ESC 中-高
D1/D2 D1=一過性/反復の低血圧が輸液で戻る(低灌流マーカーなし)/D2=低灌流マーカーあり
E1/E2 E1=心原性ショック(SCAI C)/E2=難治性ショック(SCAI D-E)・心停止
R(修飾) 低酸素・頻呼吸・酸素需要があれば末尾に付す(例:C3R、D2R)

※ 重症度スコアの目安:低リスク=PESI ≤85/sPESI 0/Bova ≤4。高リスク=PESI >85/sPESI ≥1/Bova >4。

2診断 ― 確定を待たずに抗凝固してよい

臨床確率が高い、またはD-dimer上昇なら画像で確定/除外(Class 1)。基本は造影CT(CTPA)。低〜中確率では年齢調整D-dimer(年齢×10 µg/L, FEU)やYEARSで画像を減らす(Class 2a)。

画像が遅れるなら、先に抗凝固

C2以上を疑い、出血リスクが低ければ、確定画像を待たずに治療量の抗凝固を先行してよい(Class 2a)。「疑って、待たずに抗凝固」が明文化された。

3抗凝固 ― ヘパリン(LMWH)と内服薬(DOAC)を軸に

抗凝固の略語(先に整理)

UFH=未分画ヘパリン(点滴のヘパリン)。LMWH=低分子ヘパリン(皮下注。効果が読みやすく調整が楽)。VKA=ビタミンK拮抗薬=ワルファリン(内服。INRで調整)。DOAC=直接経口抗凝固薬(Xa阻害薬〔リバーロキサバン等〕やトロンビン阻害薬。内服で効果が安定)。

禁忌がなければ抗凝固を開始する(Class 1)。点滴・皮下注が要るときはUFH(未分画ヘパリン)より LMWH(低分子ヘパリン)を優先(Class 1)。内服できるならVKA(ワルファリン)より DOAC(直接経口抗凝固薬)を優先(Class 1)。

導入の型 内容
アピキサバン・リバーロキサバン 単剤で開始できる(非経口の前投与が要らない)
エドキサバン・ダビガトラン 5日以上の非経口抗凝固を先行してから切替
VKA(ワルファリン) LMWHでブリッジし、INR≥2まで重ねる

特殊集団

抗リン脂質抗体症候群(血栓性) DOACでなくVKA(Class 1)
妊娠 LMWH/UFH(Class 1)。DOAC・ワルファリンは有害(Class 3: Harm)
がん 延長期はDOACまたはLMWH>VKA(Class 1)
CKD stage2-3 DOAC>VKA(Class 1)。透析・末期は不確実(Class 2b)

日本のDOAC事情

VTE(DVT/PE)に承認されたDOACはリバーロキサバン・アピキサバン・エドキサバンの3剤ダビガトランはVTE適応がない

用量の国内固有点:リバーロキサバンは初期3週 15mg×2/日 →維持15mg×1/日(国際の維持20mgと違い、日本は低用量)。アピキサバンは初期7日 10mg×2→5mg×2で急性期から単剤内服可。エドキサバンはヘパリン等の初期治療後に、体重で30 or 60mg×1/日。

4再灌流 ― 詰まりを取る4つの手と、分類別の使い分け

再灌流=詰まった肺動脈の血栓を取り除く治療のこと。手段は4つあり、まずそれぞれが何をするのかを押さえる。

手段 何をするか
全身血栓溶解 点滴で血栓溶解薬(tPA等)を全身に流し、血栓を溶かす。効果は高いが出血、とくに頭蓋内出血が最大の弱点
カテーテル溶解(CDT/CDL) カテーテルを肺動脈まで進め、血栓の場所に直接、少量の溶解薬を流す。全身に流すより出血を減らす狙い
機械的血栓摘除(MT) カテーテルで血栓を物理的に吸引・回収する(溶解薬を使わない)。FlowTriever・INDIGO等のデバイス
外科的血栓摘除 開胸・人工心肺下に外科的に血栓を取り出す。カテーテルが不適/失敗の例など

この改訂の山場は、「どの分類に、どの手を、どれだけ強く勧めるか」を1枚のマスで決めたことである(TABLE 7)。縦の行は§1の細分(A〜C1はひとまとまり、C2から介入の余地が出て、E1で本命になる)。表は推奨の強さ(COR)とエビデンスの質(LOE)で色分けしてある。

表の読み方 ― 推奨クラス(COR)とエビデンス(LOE)

COR=推奨の強さ。2a(緑)=行うのは妥当/2b(黄)=考慮してよい・弱い/3:Harm(赤)=害があり行わない、3:NB(赤)=益がなく行わない。

LOE=根拠の質。A>B>Cの順で、Rは無作為化試験、NRは非無作為化、LDはデータ限定、EOは専門家意見。例:「2a/B-NR」=やってよい・根拠は非無作為化。

つまり緑ならこの分類でやってよい、黄は弱い選択肢、赤はやらない。重症(表の下)ほど緑が増える、と読む。

図3:再灌流の推奨マップ(縦=A〜E分類、横=4つの手技。色=推奨の強さ)

分類 全身溶解 カテーテル溶解 血栓摘除(MT) 外科
A〜C1 3:Harm/A 3:NB/C-EO 3:NB/C-EO 3:NB/C-EO
C2 3:Harm/B-R 2b/C-LD 2b/C-LD 3:NB/C-EO
C3 2b/C-LD 2b/C-LD 2b/C-LD 3:NB/C-EO
D1-2 2b/C-LD 2b/B-NR 2b/B-NR 2b/C-LD
E1 2a/C-LD 2a/C-LD 2a/B-NR 2a/B-NR
E2 2a/C-LD 3:NB/B-NR

読み方の芯は3つ。

  • 中リスクに全身溶解はしない。A〜C2への全身溶解は害(Class 3: Harm)。ルーチンの溶解が正当化されるのは、事実上E1-2だけ(Class 2a)。
  • 高リスク(E1)では、カテーテル/外科のエビデンスが全身溶解より上。全身溶解はC-LD、機械的血栓摘除・外科はB-NR(いずれもClass 2a)。
  • D1-E1で、出血を避けたいなら全身溶解よりカテーテル/外科を考慮してよい。カテーテルが「出血を避けたい高リスク」の選択肢に格上げされた。

日本の差 ①:溶解薬 / ②:カテーテル

日本でPEに使える全身溶解薬はモンテプラーゼ(クリアクター)のみ(13,750〜27,500 IU/kgを短時間静注。出血リスク高値は低用量)。アルテプラーゼはPE適応がなく、国際標準の「アルテプラーゼ100 mgを2時間」はそのまま再現できない。

機械的血栓摘除デバイス(FlowTriever・INDIGO等)は、PE適応の薬事承認・保険適用が本稿執筆時点で確認できない(導入評価段階)。国際で格上げされた選択肢が、日本ではまだ手が届きにくい。

遊離血栓(clot-in-transit)

右房・右室に遊離血栓があるC3-E2では、抗凝固単独より高度治療(溶解・カテーテル・外科)が妥当(Class 2a)。

5PERT・支持療法・ECMO ― 右室を殺さない

PE response team(PERT)は、カテゴリーC〜Eで多職種評価を推奨(Class 1)。code stroke/STEMIと同じ発想で、抗凝固までの時間とIVCフィルタ使用を減らす。

昇圧・強心 心原性ショック(D2-E2)に昇圧薬(Class 1)。第一選択はノルアドレナリン、強心はドブタミン。輸液は控えめ(≤500 mLボーラス)
酸素・気道 中等度〜重度低酸素にHFNC(Class 2a)。臨床的に必要でなければ深鎮静・挿管は避ける(Class 3: Harm)。挿管時の血行動態虚脱に強く注意し、昇圧薬・ECMOを即使える体制で
VA-ECMO 難治性ショック/E2で導入は妥当(Class 2a)。ECMO中は非経口抗凝固を継続(Class 1)

抗凝固中のIVCフィルタ

IVCフィルタは抗凝固ができない例に(回収可能型を優先、Class 1)。抗凝固できる患者へのルーチン留置は益がない。入れたら回収を忘れない。

※ 日本でもJCS 2025が「心停止例では早急なV-A ECMO導入を検討」と明記。ECMOと循環補助の方向は国内外で一致する。

6disposition と 抗凝固の期間

低リスク(A・B)は、決定ツール(Hestia/PESI/sPESI)で選び外来治療してよい(Class 2a)。即時に抗凝固が手に入り、確実にフォローできることが条件。早期離床>安静(Class 2a)。日本でもJCS 2025が低リスク外来治療を国内で初めて明記した。

状況 抗凝固の期間
大きな可逆性誘因(手術など) 3〜6か月で終了(Class 1)
誘因なし/持続性誘因 延長期へ継続(Class 1)
小さな可逆性誘因 共同意思決定で判断(Class 2a)

延長期は「半量」

延長期はDOAC>VKA(Class 1)。しかも延長期は半量のアピキサバン(2.5mg×2)またはリバーロキサバン(10mg×1)を、出血を減らす目的で推奨(Class 1)。抗凝固が使えない/拒否なら低用量アスピリン>無治療(Class 2a)。

7やりがちな失敗とTake home

1 血圧が保たれているから安心する D2「正常血圧のショック」を、乳酸・尿量・心係数で拾う。
2 中リスク(C)にとりあえず全身溶解 A〜C2は害(Class 3: Harm)。ルーチンの溶解はE1-2が軸。
3 高リスクで挿管を急ぐ 深鎮静・挿管で虚脱しうる(Class 3: Harm)。昇圧・ECMOを先に用意。
4 過剰輸液で右室を追い込む 控えめに(≤500 mL)。昇圧はノルアドレナリン。
5 抗凝固できる患者にIVCフィルタをルーチンで 益がない。フィルタは抗凝固ができない例に。
6 日本でアルテプラーゼ100mg/2hを再現しようとする PE適応はモンテプラーゼ。用量・薬剤が別。

Take home

  1. リスク分類はA〜Eへ。血圧が保たれた「正常血圧のショック(D2)」を拾うのが要
  2. 抗凝固はLMWH>UFH、DOAC>VKA。日本はリバロキサバン維持15mg、ダビガトランはVTE適応なし
  3. 再灌流は高リスク(E1)が軸。中リスクに全身溶解はしない。カテーテル/外科が出血回避の選択肢に格上げ
  4. 日本の差 ― 溶解薬はモンテプラーゼ(アルテプラーゼ不可)、カテーテルデバイスは導入評価段階
  5. PERTはClass 1。ノルアド第一、深鎮静・挿管は避ける、延長期は半量DOAC
参考文献
  • Creager MA, et al. 2026 AHA/ACC Guideline for the Management of Acute Pulmonary Embolism in Adults. J Am Coll Cardiol. 2026;87(13):1626-1710.
  • 日本循環器学会ほか. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)/2025年改訂の解説.
  • クリアクター注(モンテプラーゼ)電子添文(不安定な血行動態を伴う急性肺塞栓症).
  • イグザレルト(リバーロキサバン)/エリキュース(アピキサバン)/リクシアナ(エドキサバン)電子添文(VTE).
  • 厚生労働省. 医療機器の評価(経皮的機械的血栓除去システムの導入評価).

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aas
野戦寄りの病院で救急医をしております。

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