循環器

ECMO入門⑤ VV-ECMO ― 適応と管理

VV-ECMOは肺の代わりに酸素化とCO₂除去を担い、傷んだ肺を休ませる。難しいのは「いつ回すか」と「回した後どうするか」だ。EOLIAは60日死亡を35% vs 46%、P=0.09で有意差に届かなかった。ここを「効果なし」と読むか「効果はあるが試験が示しきれなかった」と読むかで、目の前の患者の行き先が変わる。本章(ECMO入門⑤)はEOLIAとCESARを解剖して適応を決め、そのままlung restの設定、酸素化不良への対処、日常管理までを一本で扱う。

この記事の芯

VV-ECMOは最善の人工呼吸管理――肺保護換気・腹臥位・神経筋遮断――を尽くしてなお改善しない重症ARDSに対する手段。ELSOのVVガイドラインは「P/F<80、または pH<7.25」を最低ラインとし、腹臥位を試したうえでと明記している。

EOLIAは名目上の有意差に届かなかった。だがベイズ再解析ではどの立場から見てもRRが1未満である確率は88%以上で、EOLIAとCESARを統合したメタ解析では90日死亡がRR 0.75(0.60〜0.94)で有意に低い「P=0.09だから効果なし」は誤読だ。

この記事でわかること

  • EOLIAの3つの登録基準(P/F<50が3h超/P/F<80が6h超/pH<7.25かつPaCO₂≥60が6h超)
  • EOLIAは対照群の28%がECMOへクロスオーバーした試験。しかも絶対差20%という無理な効果量で設計されていた
  • ベイズ再解析:RRが1未満である確率は88〜99%。一方で絶対差20%が真である確率は0〜4%
  • CESARが比較したのは「ECMO vs 従来治療」ではなく「ECMOセンターへ紹介するか否か」
  • EOLIA+CESARの個別患者データメタ解析では90日死亡 RR 0.75(0.60〜0.94)で有意
  • ELSOの絶対禁忌は「回復が見込めず、かつ離脱の道筋がない」の1つだけ
  • 腹臥位はECMOの代わりではない。ELSOは「ECMOの前に行うべき補完」と明記している
  • 回した後はlung rest。日本の三学会もELSOも、PCV・FiO₂0.4前後・PEEP10・上限圧20・回数10前後という同じ趣旨の数字を示している
  • ELSO v1.4はVV中のSpO₂を通常80〜85%としている。上がらないときはまずrecirculationを疑う
  • 日本は呼吸ECMOの症例が集まっていない。高ボリューム施設で死亡率が有意に低い

1VV-ECMOは何をするか ― 肺の代わりとlung rest

VV-ECMOは静脈から脱血して静脈へ返す。肺の代わりに酸素化とCO₂除去を担うだけで、循環は自分の心臓が保つ(→①)。だから血圧が上がるわけではないし、心不全は治らない。

ねらいは2つある。ひとつは致死的な低酸素・高CO₂からの離脱。もうひとつが、しばしば見落とされるほうで、傷んだ肺を過剰な人工呼吸から解放して休ませること(lung rest)だ。ECMOを回した後の人工呼吸設定を落とすところまでが治療であって、回すこと自体が目的ではない(→⑤)。

lung restの数字は日本も欧米も同じ

三学会・日本COVID-19対策ECMOnetの資料は「通常の強制換気(PCV、FIO₂ 0.4以下、PEEP 10 cmH₂O以下、上限圧 20 cmH₂O以下、換気回数 10回/分以下)以外の設定は基本的に使用しない」と書いている。ELSOのVVガイドライン(Tonna 2021)もPplat 25未満・PEEP 10以上・呼吸数4〜15・FiO₂ 30〜50%を推奨しており、数字はほぼ重なる。lung restの設定は国によって違わないと思っておいてよい(→s9)。

2回す前にやり切る ― 腹臥位はECMOの代わりではない

ECMOは最後の手段だ。肺保護換気(1回換気量4〜6 mL/kg予測体重)、腹臥位、神経筋遮断、適正なPEEPを尽くしてなお改善しないときに検討する。ここを飛ばすと、避けられた合併症を背負い込むだけになる。

「ECMOがあるから腹臥位はいい」は逆

ELSOのVVガイドライン(Tonna 2021)は珍しく強い言葉を使っている。「腹臥位はARDSに対して明確で強い死亡率の利益を示しており、ECMOは腹臥位の代替であってはならない。腹臥位はECMOの前に行うべき補完である」

同じ文書が「2017年の時点で、米国のECMO施設でECMO患者のうち経過中に一度でも腹臥位を受けたのはわずか11%だった」とも書いている。つまりこれは机上の注意ではなく、実際に起きている手抜きへの警告だ。

EOLIA自身も、対照群が救済ECMOへ移る条件に「リクルートメント手技、一酸化窒素/プロスタサイクリン吸入、可能なら腹臥位を行ってもなおSaO₂<80%が6時間超」を置いている。腹臥位は前提条件だった。

3導入基準 ― 出典によって数字が違う理由

図1:VV-ECMO導入の閾値(出典別)

出典 閾値 性格
EOLIAの入口① P/F <50 mmHg が 3時間 RCTの登録基準
EOLIAの入口② P/F <80 mmHg が 6時間 RCTの登録基準
EOLIAの入口③ pH <7.25 かつ PaCO₂ ≥60 mmHg が 6時間 RCTの登録基準
ELSO v1.4(考慮) P/F <150(FiO₂>0.9)and/or Murray 2〜3 死亡リスク50%以上に相当
ELSO v1.4(適応) P/F <100(FiO₂>0.9)and/or Murray 3〜4 死亡リスク80%以上に相当
ELSO VV 2021 P/F <80、または pH <7.25(呼吸数35・Pplat≤30でも) 腹臥位を試したうえで
三学会・ECMOnet(日本) PEEP 10 cmH₂O、P/F <100 で進行性に悪化する場合 現場向けの簡便な目安

表:数字が微妙に違うのは、出典の目的が違うからだ。EOLIAの3つはRCTに登録するための基準であって「この値を切ったら回せ」という指示ではない。ELSOは死亡リスクで語り、ELSOのVVガイドライン(Tonna 2021)は「P/F<80、または pH<7.25」を最低ラインとして提示している。Tonna 2021もTable 1の脚注で「臨床試験は複数のカットオフを使っており、どれが優れるかを示す強いデータはない」と注記している。日本の三学会・ECMOnetの目安がいちばん早期側に立っている。

研修医がここで混乱するのは当然で、「EOLIAの基準」と「ELSOの適応」は別物だからだ。前者は試験に登録するための入口、後者は死亡リスクに基づく臨床判断の枠組み。どちらも「この数字を切った瞬間に回す」というスイッチではない。

実務で効くのは数字そのものよりトレンドだ。日本の三学会の目安が「P/F<100で進行性に悪化する場合」と書いているのはそこを突いている。同じP/F 90でも、改善しつつある90と、6時間で150から落ちてきた90では意味が違う。

ELSOは「早いほうがいい」と明言している

ELSO v1.4は「成人呼吸不全に対するECMOの成績が最も良いのは、発症後早期(1〜2日)に導入されたときである」と書いている。一方で高設定の人工呼吸を7日以上続けた後の導入は相対禁忌。日本の三学会も「高圧での人工呼吸を長期間(概ね7日間)行った後にECMOを導入した患者では非常に予後が悪い」と同じことを述べている。

EOLIAはランダム化前の人工呼吸7日以上を、CESARは高圧(最高気道内圧30 cmH₂O超)またはFiO₂ 0.8超の換気が7日を超えた例を除外していた。つまり我々が知っているVV-ECMOの成績は、すべて「7日以内に導入した患者」のものだ。

4EOLIAをどう読むか ― 「有意差なし」の中身

図2:VV-ECMOの主要試験

試験 デザイン 主要結果 読むときの注意
EOLIA
NEJM 2018
重症ARDS 249例。早期VV-ECMO vs 従来治療(救済ECMOあり) 60日死亡 35% vs 46%、RR 0.76(95%CI 0.55〜1.04)、P=0.09 有意差なし。ただし対照の28%がECMOへ移行
Goligher
JAMA 2018
EOLIAのベイズ再解析(事後解析) 事前分布によりRR 0.71〜0.88。RRが1未満である事後確率88〜99% 「効果がある確率」で表現し直したもの
CESAR
Lancet 2009
180例。ECMOセンターへの紹介方針 vs 従来治療 6か月の重度障害なし生存 63% vs 47%、P=0.03 ECMO群の75%しか実際にECMOを受けていない
Combes
ICM 2020
EOLIA+CESARの個別患者データメタ解析429例 90日死亡 36% vs 48%、RR 0.75(95%CI 0.60〜0.94)、P=0.013、I²=0% 2試験を統合すると有意になる

EOLIAの結果は60日死亡 35%(44/124)vs 46%(57/125)、RR 0.76、95%CI 0.55〜1.04、P=0.09。数字だけ見れば「有意差なし」で終わる。しかしこの試験には、そう読ませない事情が3つある。

  • クロスオーバー:対照群125例のうち35例(28%)が、平均6.5±9.7日後に救済ECMOへ移った。そのうち20例(57%)が死亡している。「ECMOを受けなかった群」ではなく「ECMOを遅らせた群」との比較だった。
  • 途中で止まっている:60例ごとの群逐次解析で、240例登録時点の4回目の中間解析で、事前規定のルールに従って登録が中止された(最終登録249例)。予定は最大331例。
  • 設計の効果量が大きすぎた:死亡率60%→40%、つまり絶対差20%を検出する設計だった。ECMOに限らず、集中治療でこの大きさの効果を示せた治療はほとんどない。

クロスオーバーを補正するとどうなるか

EOLIAには、クロスオーバーを考慮したRPSFT(rank preserving structural failure time)解析が事後解析として報告されている。60日死亡のハザード比 0.51(0.24〜1.02)、p=0.055。副次評価項目の「治療失敗」(ECMO群は死亡、対照群は死亡またはECMOへの移行)では35% vs 58%、RR 0.62(0.47〜0.82)、P<0.001と明確に差がついている。

ただしこれらは事後解析・副次評価項目であり、主要評価項目の陰性結果を打ち消すものではない。「効果がある証明」ではなく「陰性結果をそのまま効果なしと読むのは無理がある」という材料として扱うのが正確だ。

ECMO群では出血が増えている

利益ばかり見てはいけない。EOLIAで輸血を要する出血は46% vs 28%(絶対差18ポイント、95%CI 6〜30)重症血小板減少は27% vs 16%とECMO群で多かった。一方で虚血性脳卒中はECMO群0%、対照群5%と逆になっている。

この非対称は覚えておく価値がある。ECMOが増やすのは出血で、減らすのは低酸素由来の臓器障害。天秤の両側がどちらもゼロではない。

5ベイズ再解析 ― 「効果がある確率」で見る

P値は「効果がないと仮定したとき、これくらいの差が出る確率」を答える。臨床で本当に知りたいのは逆向きの問い――「この結果を見た後で、効果がある確率はどれくらいか」だ。Goligher 2018(JAMA)はEOLIAのデータをその形に翻訳した。

図3:EOLIAのベイズ再解析(Goligher 2018)

事前分布 RR(95%信用区間) RR<1 の確率 絶対差2%以上 絶対差20%以上
弱い情報のみ(中立) 0.78(0.56〜1.04) 96% 92% 2%
やや期待的 0.78(0.63〜0.96) 99% 97% 0%
強く懐疑的 0.88(0.71〜1.09) 88% 78% 0%
過去の研究に基づく 0.71(0.55〜0.94) 99% 98% 4%

表:Goligher 2018(JAMA)のベイズ再解析。抄録に示された4つの事前分布のどれから見ても「RRが1未満である確率」は88%以上ある。一方で右端に注目してほしい――EOLIAが検出しようとした「絶対差20%」が真である確率は、どの事前分布でも0〜4%しかない。つまりこの試験の本当の失敗は「効果がなかった」ことではなく、あり得ないほど大きな効果を見込んで症例数を設計したことだった。

読みどころは2つある。ひとつは「強く懐疑的」な立場に立ってさえ、RRが1未満である確率は88%だということ。もうひとつが、右端の列だ。

EOLIAが失敗したのは設計であって治療ではない

EOLIAは絶対差20%を検出する設計だった。ところがベイズ再解析では、絶対差20%以上が真である確率はどの事前分布でも0〜4%。逆に絶対差2%以上ある確率は78〜98%ある。

つまり「小さいが実在する効果」を、「大きな効果」を前提にした症例数で探した。有意差に届かなかったのは自然な帰結で、これを「効果がない証拠」と読むのは統計の使い方として誤っている。研修医が最初に踏む地雷はここだ。

6CESARが比較したのはECMOではない

CESAR(Lancet 2009)は6か月時点の死亡または重度障害を主要評価項目として、63%(57/90)vs 47%(41/87)が障害なく生存、P=0.03という有意な結果を出した。VV-ECMOの根拠としてよく引かれるが、この試験の構造は誤解されやすい。

  • ランダム化されたのは「ECMOセンターへ紹介して治療を検討してもらう」という方針であって、ECMOそのものではない。
  • ECMO群に割り付けられた90例のうち、実際にECMOを受けたのは68例(75%)。改善した例、搬送前後に死亡した例が含まれる。
  • 対照群には肺保護換気がプロトコル化されていなかった。低容量・低圧換気の実施率は紹介群93%に対し従来群70%。
  • 主要評価項目の「重度障害」はまれで、実質的には死亡が支配していた。

それでもCESARには固有の価値がある

「ECMOの効果を示した試験ではない」という批判は正しい。しかし「重症呼吸不全をECMOセンターに集約すると転帰が良くなる」ことを示した試験としては、いまも代替がない。CESARの結論文自体が「最適な従来治療下でMurray scoreが3.0を超える、あるいはpHが7.20未満の、重症だが回復しうる呼吸不全の成人患者を、ECMOを含む管理プロトコルを持つセンターへ搬送することを推奨する」と、搬送の話として書かれている。

日本で読むときはこちらの含意のほうが重い(→s9)。

72つを合わせると有意になる ― そして現行ガイドライン

Combes 2020(Intensive Care Med)は、EOLIAとCESARの個別患者データ429例を統合した。結果は90日死亡 36%(77/214)vs 48%(103/215)、RR 0.75(95%CI 0.60〜0.94)、P=0.013、I²=0%

  • per-protocol解析でもRR 0.75。ただしas-treated解析ではRR 0.86(0.68〜1.09)と有意でなくなる。
  • 治療失敗(ECMO群は死亡、対照群は死亡またはECMOへの移行)はRR 0.65(0.52〜0.80)
  • サブグループで唯一の有意な交互作用は「ランダム化時点の臓器不全が2つ以下」の患者でECMOの死亡低下が大きいというもの。手遅れになる前に、が数字で出ている

この流れを受けて、ガイドラインの推奨も動いた。

  • ESICM 2023(ARDSガイドライン):「EOLIAの適格基準で定義される、COVID-19以外の重症ARDS患者は、専門施設でECMOによる治療を受けることを推奨する」。強い推奨・中等度のエビデンス。COVID-19によるARDSについては、間接性を理由に確実性を下げたうえで同様の推奨を拡張している、と複数の解説が伝えている(本稿では該当節の原文を直接確認できていないので、引用する際は原文で確認してほしい)。
  • ATS 2024(ARDSガイドライン改訂):「重症ARDSの選択された患者にVV-ECMOを使用することを提案する」(条件付き推奨・エビデンスの確実性は低い)。2017年版(ATS/ESICM/SCCM合同)が「推奨の可否を判断できない」だったので、方向が変わった。

予後予測スコアの使いどころ

RESPスコアはELSOレジストリ2,355例から作られた院内生存の予測モデルで、識別能はc=0.74(95%CI 0.72〜0.76)、外部検証140例ではc=0.92。PRESERVEスコアはフランス3施設140例から作られた6か月死亡の予測で、クラス別の6か月生存率は97%/79%/54%/16%(0-2点、3-4点、5-6点、7点以上、P<0.001)と報告されている。

注意点は識別能の水準だ。c=0.74は「集団を層別化できる」水準であって、目の前の1人の適応可否を決められる精度ではない。施設間比較や研究の層別化に使うもので、スコアで断るための道具ではない。

8誰に回さないか

図4:禁忌 ― 絶対は1つだけ

項目 内容 強さ
絶対禁忌(ELSO VV 2021) 回復が見込めず、かつ離脱の道筋(移植を含む)がない ELSOが絶対禁忌として挙げるのはこの1つだけ
中枢神経 頭蓋内出血、重大な中枢神経障害、不可逆で回復不能な中枢神経病変 相対
出血・抗凝固 全身性の出血、抗凝固の禁忌 相対
免疫抑制 高度な免疫抑制(ELSO v1.4は好中球数400/mm³未満を例示) 相対
人工呼吸期間 Pplat>30・FiO₂>0.9 の高設定で7日以上 相対。ELSO v1.4は「多くの施設は期間を禁忌とみなしていない」と付記
年齢 年齢が上がるほどリスクは増えるが閾値は定められていない 相対
日本の適応外(三学会) 不可逆性の基礎疾患/末期癌/慢性心不全・慢性呼吸不全など重度の慢性臓器不全の合併 日本の学会提言

ELSOのVVガイドラインが絶対禁忌として挙げるのは「回復が見込めず、かつ離脱の道筋がない(移植の選択肢もない)」の1つだけだ。これは重要な設計思想で、ECMOは病気を治さないから、必ず”向こう岸”が要るということを言っている。自己肺の回復か、移植か。どちらもなければ、それは治療ではなく延命装置になる(→⑩)。

残りはすべて相対禁忌で、ELSO v1.4は冒頭に「ECLSに絶対禁忌はない。患者ごとにリスクと利益を個別に検討する」と書いている。年齢についても「特定の年齢による禁忌はないが、加齢に伴いリスクが増すことを考慮せよ」という書き方だ。

9回した後 ― lung restを数字にする

ここから管理の話に入る。VV-ECMOを回す最大の意義のひとつは、酸素化そのものより傷んだ肺を過剰な人工呼吸から解放することだ。ECMOが酸素化とCO₂除去を引き受けている間、人工呼吸器は肺を動かさない設定にする。これがlung restで、ここを緩めるとECMOを回した意味が半分消える。

図6:ECMO中の人工呼吸設定(日本の三学会・ECMOnetの目安)

項目 日本の三学会・ECMOnetが示す設定 意味
モード PCV(従圧式) ELSO v1.4も「Pressure controlled vent at 20/10」、Tonna 2021も歴史的な典型設定としてPCVを記載
FiO₂ 0.4以下 酸素毒性を避ける。酸素化はECMO側で担う
PEEP 10 cmH₂O以下 虚脱を防ぐ最低限。高PEEPで攻めない
上限圧 20 cmH₂O以下 駆動圧を最小にする。ここがlung restの本体
換気回数 10回/分以下 CO₂はsweepが担うので、肺は動かさない

表:三学会・日本COVID-19対策ECMOnetの資料は「通常の強制換気(PCV、FIO₂ 0.4以下、PEEP 10 cmH₂O以下、上限圧 20 cmH₂O以下、換気回数 10回/分以下)以外の設定は基本的に使用しない」と書いている。ELSOも同じ趣旨の数字を示している。ELSO v1.4(2017)は24〜48時間以降の設定として「Pressure controlled vent at 20/10, I:E 2:1, rate 5 plus spontaneous breaths, FiO2 .2-.4(rest settings)」、Tonna 2021はTable 3でPplat 25 cmH₂O未満、PEEP 10以上、呼吸数4〜15回/分、FiO₂ 30〜50%を推奨し、歴史的な典型設定としてPCV・FiO₂ 0.3・Pplat 20・PEEP 10・呼吸数10・I:E 1:1を挙げている。つまり日本と欧米で言っていることはほぼ同じで、三学会資料の価値は日本語で簡潔にまとまっている点にある。COVID-19の文脈で書かれたものなので、他の原因のARDSにそのまま当てはめるかは施設の判断になる。

ELSOも数字を出している。ELSO v1.4(2017)は24〜48時間以降の「rest settings」として「圧規定換気20/10、I:E 2:1、呼吸数5+自発呼吸、FiO₂ 0.2〜0.4」を、Tonna 2021はTable 3でPplat 25 cmH₂O未満(上限30)、PEEP 10 cmH₂O以上、呼吸数4〜15回/分または自発呼吸、FiO₂ 30〜50%を示し、「歴史的に典型的な設定はPCV、FiO₂ 0.3、Pplat 20、PEEP 10、呼吸数10、I:E 1:1」と書いている。日本の三学会の数字と見比べれば、言っていることはほぼ同じだと分かる。

lung restは「肺を治す」わけではない

ECMOは原疾患を治さない。肺炎は抗菌薬で治り、ARDSは原因が去って初めて治る。lung restがやっているのは「治るまでの間、こちらから追加で傷つけない」ことだけだ。

だからlung restを完璧にしても、原疾患が可逆でなければ肺は戻らない。「向こう岸」がないECMOになる(→⑩)。

10酸素化が上がらないとき

VV-ECMO中にSpO₂が伸びない。研修医が最初に手を伸ばすのが「流量を上げる」なのだが、これが逆効果になる場面がある。順番を決めておくといい。

図7:VVで酸素化が上がらないときの順番

順番 見るもの 打ち手
① recirculationを疑う 膜前(脱血側)の酸素飽和度が高い。流量を上げてもSpO₂が伸びない カニューレ先端の位置と向き、脱血-送血の距離(→④)。循環血液量と胸腔内圧も是正
② 酸素供給と消費の比を見る SpO₂の絶対値ではなくDO₂:VO₂ >3が保てているか Hbを上げる、体温・鎮静で酸素消費を下げる、という別の打ち手が見える
③ 自己肺の寄与を思い出す 自己肺が完全にシャントなら、動脈血の酸素化はECMOの流量で決まる 自己肺が少しでも働けば上がる。人工呼吸器を落としすぎていないか
④ 心拍出量が増えていないか 敗血症などで心拍出量が上がると、ECMOが担う割合が相対的に落ちる 発熱・不穏・過大な心拍出の是正
⑤ 膜の劣化 膜後PaO₂の低下、圧較差の上昇トレンド 膜/回路交換を検討(→③)

表:SpO₂が低いこと自体を治そうとしないのがVV-ECMO管理の勘所。ELSO v1.4は低めのSpO₂を前提とし、酸素運搬と消費の比(DO₂:VO₂)が3を超えていれば十分とする立場をとる。「SpO₂を上げるために流量を上げる」は、recirculationを増やして逆効果になりうる。

低めのSpO₂を許容する ― これがVVの作法

ELSO v1.4(2017)はVV-ECMO中の動脈血飽和度について「通常80〜85%であり、75〜80%(PaO₂ 45〜55 mmHg)のこともある」としたうえで、心拍出量とHbが保たれて酸素運搬量が酸素消費量の3倍(DO₂:VO₂ >3)あれば十分という立場をとっている。Tonna 2021は「典型的には80〜90%」と書くのみで、数値目標は示していない。

人工呼吸管理の感覚のままSpO₂ 95%を目指すと、流量を上げてrecirculationを増やし、FiO₂を上げて酸素毒性を足し、いいことがない。見るべきはSpO₂の数字ではなく、乳酸・SvO₂・臓器機能だ。

recirculationそのものの理屈――なぜ起きるか、どう推定するか――は②で扱った。ここでは「酸素化不良を見たらまずrecirculationを疑う」という順番だけ持っておけばいい。カニューレの位置と脱血-送血の距離が原因なら、流量をいじっても解決しない。

11CO₂は下げすぎない

CO₂はsweep gasで動く。効きすぎるほど効くので、ここは下げる速度のほうが問題になる。

ELSO v1.4(2017)は「開始時のPaCO₂が50を超えている場合は、sweepをゆっくり上げて、PaCO₂を1時間あたり10〜20 mmHgのペースで下げる」と具体的に書いている。Tonna 2021は「急速なCO₂低下は神経障害と関連する」「ゆっくり調整する」と述べるだけで、数値のペースは示していない。高CO₂が長く続いた患者では脳血管が拡張して順応しているので、一気に下げると脳血流が落ちる。

ECMO導入直後がいちばん危ない

導入前に高度の高CO₂とアシドーシスがあった患者ほど、回路をつないだ瞬間にCO₂が落ちる。sweepを血流量と同じ(1:1)から始めるというELSO v1.4の標準設定は、そのままだと下がりすぎることがある

導入直後の血液ガスは、酸素化よりCO₂の下がり方を見る。ここは意識して減速させる場面だ。

12鎮静・リハビリ・栄養

ECMOは日単位から週単位で続く。その間の廃用・せん妄・低栄養は、原疾患が治った後の転帰を決める。ここを「ECMOが落ち着いてから」と後回しにしないほうがいい。

図8:VV-ECMO中の日常管理

項目 要点 補足
鎮静 安定したら浅くする。積極的リハに参加できる鎮静深度の目安としてRASS −1〜+1が挙げられている 深鎮静の継続は廃用とせん妄を招く
リハビリ ELSOは2024年に成人ECMOの早期リハ/離床のガイドラインを出した 167例・607回の理学療法で有害事象は軽微3件のみという報告がある
離床の実績 ある報告では78%が離床、61%が歩行 有害事象は積極的リハのセッションの2%(54/2,700)
栄養 経腸栄養を早期に。ただし最初の3日は目標の70%未満にとどめる ELSO 2025のコンセンサス。蛋白は1.3 g/kg/日を超えない
エネルギー目標 25 kcal/kg/日の体重換算式を使う ECMO患者で検証された間接熱量計のプロトコルがないため
輸液 過剰輸液を避け、安定後は除水へ VVでも溢水は酸素化を悪くする

表:栄養のコンセンサスは2025年のELSO文書で、「ECMO開始後3日間はエネルギー・蛋白とも目標の70%未満を目指し、その後段階的に上げる」「蛋白は1.3 g/kg/日を超えない」という、一般のICU栄養より抑制的な内容になっている。リハビリの安全性データは観察研究であって、離床が予後を良くすると示したRCTではない。

awake ECMOはどこまで根拠があるか

鎮静を浅くして自発呼吸・離床へ進める「awake ECMO」は、鎮静に伴う合併症を避け早期離床を可能にする戦略として広く語られている。ただしawake ECMOが死亡率を下げることを示したランダム化試験は見つからない

あるのは安全性の観察データで、167例・607回の理学療法セッションで有害事象は不整脈2件と一過性の低血圧1件のみ、重大な有害事象はなかったという報告や、78%が離床し61%が歩行できた(有害事象はセッションの2%)という報告がある。「やっても安全らしい」までが確認されていることで、「やれば助かる」ではない

栄養は2025年にELSOがコンセンサスを出した。特徴的なのは抑制的なことで、経腸栄養は早期に始めつつ、最初の3日はエネルギーも蛋白も目標の70%未満にとどめ、その後段階的に上げる。蛋白は1.3 g/kg/日を超えない、とくに急性腎障害や重症度の高い患者では、としている。

13日本の事情 ― 症例が集まっていない

ここが日本で読むときにいちばん効く話だと思う。

図5:施設の症例数と呼吸ECMOの死亡率(日本の全国DPCデータ)

施設の年間ECMO症例数 呼吸ECMOの院内死亡率 低ボリュームを基準とした比較
低ボリューム(年8例未満) 62.5% 基準
中ボリューム(年8〜16例) 54.7% 調整オッズ比 0.72(0.50〜1.04)、P=0.082
高ボリューム(年17例以上) 50.4% 調整オッズ比 0.65(0.45〜0.95)、P=0.024

表:全国DPCデータベース(2010年7月〜2018年3月)による。この期間の全ECMO 25,384例のうち、呼吸ECMOはわずか1,227例(5.0%)で、心原性ショックが70.5%を占めていた。つまり日本では、呼吸ECMOを年に何例も経験しない施設が多数を占める。CESARが示した「集約すると成績が上がる」という構図は、日本でも同じ形で観察されている。

CESARが示したのは「ECMOという治療」ではなく「集約」の効果だった。そして日本の全国DPCデータでも、年17例以上を扱う施設の呼吸ECMO院内死亡率50.4%に対し、年8例未満の施設では62.5%、調整オッズ比 0.65(0.45〜0.95)、P=0.024という差が出ている。

成績は変わってきている

日本の呼吸ECMOには苦い記憶がある。2010年度の重症インフルエンザ肺炎に対するECMOの生存率は36%で、当時報告されていた諸外国の50〜70%と比べて明らかに悪かった。ここから日本の呼吸ECMOの立て直しが始まった。

COVID-19の時期には、日本COVID-19対策ECMOnetの集計で1,162例のECMO患者の救命率64%(同時期のELSOデータでは49%)と報告されている。全国レベルで電話コンサルトと症例登録(CRISIS)を回す仕組みは日本固有のもので、ここは素直に評価していい部分だ。

ただしこの64%はECMOnetの自己報告であり、ELSOの49%とは登録基準も患者背景も揃っていない。単純比較はできない。

保険の話 ― 2022年に構造が変わった

日本では2022年度改定でK601-2 体外式膜型人工肺(初日30,150点、2日目以降3,000点)とK916 体外式膜型人工肺管理料(7日目まで4,500点、8〜14日目4,000点、15日目以降3,000点、導入時加算5,000点)が新設された。それ以前からあるK602 経皮的心肺補助法(初日11,100点、2日目以降3,120点)とは別建てだ。

K601-2とK916のいずれにも専任の臨床工学技士を常時1名以上配置していることなどの施設基準がかかる。呼吸ECMOに対して「体制を持つ施設が算定する」という方向が、点数表の構造として入ったことになる。

実務的な結論は単純だ。自施設で回しきれないなら、基準を満たした時点で相談する。三学会・ECMOnetの資料も「ECMO導入に際しては、日本COVID-19対策ECMOnetへコンサルトし、助言を求めることが望ましい」と書いている。搬送の話は⑮で扱う。

14やりがちな失敗とTake home

1 EOLIAのP=0.09を「効果なし」と読む クロスオーバー28%、絶対差20%という無理な設計。ベイズでもメタ解析でも効果の方向は一貫している。
2 腹臥位を飛ばしてECMOへ ELSOは「ECMOは腹臥位の代替であってはならない」と明記。米国でも実施率11%という現実がある。
3 数字が閾値を切った瞬間に回す 同じP/F 90でも改善中と悪化中では別物。トレンドと可逆性を見る。
4 高設定の人工呼吸を1週間続けてから相談 7日以上は相対禁忌。既存のRCTはすべて7日以内の患者のデータ。
5 回復も移植も見込めない肺に導入 ELSOの唯一の絶対禁忌。”向こう岸”がなければ延命装置になる。
6 予後スコアで適応を切る RESPのc統計量は0.74。集団の層別化用であって個人の可否を決める精度はない。
7 自施設で抱え込む 日本のデータで高ボリューム施設のほうが死亡率が有意に低い。早めに相談する。
8 ECMO中も普通の換気を続ける lung restにならない。上限圧20・PEEP 10・回数10以下まで落とす。
9 SpO₂が低いから流量を上げる recirculationを増やすだけのことがある。DO₂:VO₂で見る。
10 導入直後にCO₂を一気に下げる ELSOは10〜20 mmHg/時のペースを指示している。脳血流が落ちる。
11 鎮静とリハを「落ち着いてから」にする 廃用とせん妄は原疾患が治った後に効いてくる。

Take home

  1. VV-ECMOは肺の代わり。循環は自己心。目的は低酸素からの離脱とlung rest
  2. 入口はP/F<80またはpH<7.25(ELSO VV 2021)。ただし腹臥位を試したうえで
  3. EOLIAの”有意差なし”は誤読。RRが1未満の事後確率は88〜99%、統合メタ解析ではRR 0.75で有意
  4. EOLIAの本当の問題は絶対差20%という設計。その効果量が真である確率は0〜4%
  5. CESARが示したのはECMOの効果ではなく集約の効果
  6. 絶対禁忌は「回復が見込めず離脱の道筋もない」の1つだけ。年齢に閾値はない
  7. 臓器不全が2つ以下のうちに導入したほうが利益が大きい(メタ解析の唯一の有意な交互作用)
  8. 回したらlung rest。三学会もELSOも上限圧20・PEEP 10・FiO₂ 0.3〜0.4・回数10前後と同じ趣旨の数字を示している
  9. 酸素化不良はまずrecirculation。SpO₂は80〜85%が通常(ELSO v1.4)。DO₂:VO₂ >3で判断する
  10. CO₂は1時間あたり10〜20 mmHgのペースでゆっくり下げる(ELSO v1.4)
  11. 日本は呼吸ECMOの症例が分散している。高ボリューム施設のほうが死亡率が低い
参考文献
  • Combes A, et al. Extracorporeal Membrane Oxygenation for Severe Acute Respiratory Distress Syndrome (EOLIA). N Engl J Med. 2018;378:1965-1975.
  • Goligher EC, et al. Extracorporeal Membrane Oxygenation for Severe Acute Respiratory Distress Syndrome and Posterior Probability of Mortality Benefit in a Post Hoc Bayesian Analysis of a Randomized Clinical Trial. JAMA. 2018;320:2251-2259.
  • Peek GJ, et al. Efficacy and economic assessment of conventional ventilatory support versus extracorporeal membrane oxygenation for severe adult respiratory failure (CESAR). Lancet. 2009;374:1351-1363.
  • Combes A, et al. ECMO for severe ARDS: systematic review and individual patient data meta-analysis. Intensive Care Med. 2020;46:2048-2057.
  • ELSO Guidelines for Adult Respiratory Failure, v1.4. August 2017.(死亡リスク50%/80%の閾値、相対禁忌、早期導入、SpO₂ 80〜85%とDO₂:VO₂ >3、CO₂を10〜20 mmHg/時で下げる、sweep 1:1、rest settings 20/10)
  • Tonna JE, et al. Management of Adult Patients Supported with Venovenous Extracorporeal Membrane Oxygenation: ELSO Guideline. ASAIO J. 2021;67:601-610.(P/F<80・pH<7.25、腹臥位、絶対禁忌は1つ、Table 3のECMO中換気設定)
  • Grasselli G, et al. ESICM guidelines on acute respiratory distress syndrome. Intensive Care Med. 2023;49:727-759.(強い推奨・中等度のエビデンス)
  • Qadir N, et al. An Update on Management of Adult Patients with Acute Respiratory Distress Syndrome: An Official ATS Clinical Practice Guideline. Am J Respir Crit Care Med. 2024;209:24-36.(条件付き推奨)
  • Schmidt M, et al. Predicting survival after extracorporeal membrane oxygenation for severe acute respiratory failure. The RESP score. Am J Respir Crit Care Med. 2014;189:1374-1382.
  • Schmidt M, et al. The PRESERVE mortality risk score and analysis of long-term outcomes after extracorporeal membrane oxygenation for severe acute respiratory distress syndrome. Intensive Care Med. 2013;39:1704-1713.
  • 日本COVID-19対策ECMOnet(日本集中治療医学会・日本呼吸療法医学会・日本救急医学会):COVID-19急性呼吸不全への人工呼吸管理とECMO管理 基本的考え方. 人工呼吸. 2020;37(2):124-129.(P/F<100の目安、7日、適応外、ECMO中の換気設定)
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  • 竹田晋浩, 青景聡之. 再評価の経緯と本邦における臨床-適応症例とは. 日本呼吸療法医学会 ECMOプロジェクト テキスト.(2010年度インフルエンザ肺炎の生存率36%)
  • Jang JH, et al. Rehabilitation during ECMO: review. Acute Crit Care. 2026.(607セッション、離床78%・歩行61%、RASS −1〜+1)
  • 厚生労働省 医科診療報酬点数表 K601-2/K916/K602.
  • ELSO 2024 Guideline for Early Rehabilitation or Mobilization of Adult Patients on ECMO. ASAIO J.(早期離床)
  • Bear DE, et al. 2025 ELSO Consensus Statement for the Provision and Management of Nutrition Therapy in Critically Ill Adult Patients Requiring ECMO. ASAIO J. 2026.(開始3日は目標の70%未満、蛋白1.3 g/kg/日まで)
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