循環器

ECMO入門① 総論 ― 構成は2つ(VV・VA)、ECPRはVAの緊急適用

ECMO(体外式膜型人工肺)は、重症の心不全・呼吸不全で「このままでは助からない」患者の、心臓や肺の仕事を体の外で肩代わりし、回復(や次の一手)までの時間を稼ぐ機械だ。治す機械ではなく時間を買う機械――ここを外すと適応も撤退も見えなくなる。本章はECMO入門書の地図として、①これは何か(構成はVV・VAの2つ、ECPRはVAの緊急適応)、②何をしているのか(原理の要点)、③いつ回すか(適応・禁忌)、④どんな合併症があり、⑤どう離脱するか、を一望する。各論は続く章に譲り、ここでは全体像だけをつかむ。

この記事の芯

ECMOは心肺の機能を数日〜数か月、体外で肩代わりして時間を稼ぐ装置。治療そのものではなくbridge(回復・判断・次治療への橋渡し)

構成(回し方)はVV(肺の代わり)とVA(心+肺の代わり)の2つECPRは独立したモードではなく、VAを難治性心停止に緊急適用したもの(=緊急VA)。適応の芯は「可逆性があり、最善の治療でも死亡リスクが高い」こと(目安:死亡リスク50%で考慮、80%で適応)。だから回復の見込みがない=適応でない

この記事でわかること

  • ECMOは心肺を体外で肩代わりして時間を稼ぐ装置=bridge。治す機械ではない
  • 構成は2つ:VV(呼吸不全=肺の代わり)とVA(心原性ショック=心+肺)。ECPRは独立モードではなく、VAを難治性心停止に緊急適用したもの
  • 原理の要点:脱血→ポンプ→膜型人工肺→送血。酸素化は主に血流量、CO₂除去は主にsweep gas(掃気)で決まる
  • 適応の芯は「可逆性」と「死亡リスク」(目安:死亡リスク50%で考慮・80%で適応)
  • 禁忌の多くは相対的(回復しても生活が成り立たない・末期・重篤な出血リスク・futility)
  • VVとVAで血行動態も合併症も違う(VVはrecirculation、VAはdifferential hypoxia(Harlequin syndrome)・LV過膨張・下肢虚血)
  • 離脱は「原疾患が回復したか」を、支持を下げるトライアルで確認。回復も撤退も適応の裏返し
  • 呼称の整理:PCPSは日本独特の呼び方で、実体はVA-ECMO。英語圏の文献にはほぼ登場しない
  • 橋は4種類:回復・移植・補助人工心臓・判断。どれにも当てはまらなければbridge to nowhere
  • 成績はモードで大きく違う。ELSOレジストリで新生児呼吸68.5%、成人ECPR 29.5%
  • 日本の全ECMOのうち呼吸不全は約5%、心原性ショックが7割。呼吸ECMOはCOVID以降に体制が整った

図1:この入門書の地図(全10章)

扱う内容 位置づけ
① 総論 本章。構成はVVとVAの2つ、ECPRはVAの緊急適用。適応の芯は可逆性と死亡リスク 土台
② 生理学 2つのつまみ(酸素化=血流量、CO₂=sweep gas)、mixing zone、recirculation、differential hypoxia 土台
③ 回路 脱血→ポンプ→膜型人工肺→送血。回路圧をP1〜P3で読む。膜交換の目安、脱血不良の対処 土台
④ カニュレーション サイズ(日本のBSA表とELSO)、先端位置、下肢虚血と遠位灌流カテーテル 土台
⑤ VV-ECMO 適応(EOLIA/CESARの読み方)と管理(lung rest、酸素化不良への対処) 病態別
⑥ VA-ECMO 適応 ECLS-SHOCKで何が否定され、何が否定されていないか 病態別
⑦ VA-ECMO 管理 differential hypoxia、LV過膨張と減圧、下肢虚血、V-AVへの切替 病態別
⑧ ECPR ARREST/Prague/INCEPTION、時間とシステム、SAVE-J IIが映す日本 病態別
⑨ 抗凝固と合併症 ACT/aPTT/抗Xa、HIT、ナファモスタット、輸血、合併症の全体像、日常管理 横断
⑩ 離脱・撤退・体制 sweep offトライアル、VAの心エコー基準、抜去後DVT、bridge to nowhere、搬送、施設要件 横断

どこから読んでもいいが、②だけは飛ばさない

この連載は①〜④が土台、⑤〜⑧が病態別、⑨⑩が横断的な管理という構成になっている。現場で困っている項目から読んでもらって構わないが、②の生理学だけは先に通しておいてほしい

理由は単純で、ECMOのトラブルシューティングはほぼすべて②の内容に還元されるからだ。酸素化が上がらない、CO₂が下がらない、上下で飽和度が違う――どれも「2つのつまみ」と「mixing zone」が分かっていれば筋道が立つし、分かっていなければ丸暗記になる。

1ECMOとは何か ― 時間を稼ぐ機械

ELSOの定義では、ECLS(ECMO)は機械的装置を用いて心肺不全の間、心または肺の機能を一時的(数日〜数か月)に、部分的または全面的に支え、臓器の回復または置換へ導くもの。ここでいう置換が、移植や補助人工心臓にあたる。

大原則は、ECMOは診断でも治療でもなく支持(サポート)だということ。原疾患を治す何かが別にある前提で、その効果が出るまでの時間を稼ぐ。歴史的には新生児の呼吸不全で確立され、成人呼吸不全(CESAR/EOLIA)、心原性ショック、心停止(ECPR)へと適用が広がってきたと言われる。ELSOレジストリでは近年、施設あたりの成人症例数が増え続けている。

この「支持」という言葉が、研修医にとっての最初の関門だと思う。人工呼吸器も昇圧薬も支持療法だが、それらは臓器の働きを助けるのに対し、ECMOは臓器の働きを代わりにやってしまう。だから肺が完全に潰れていても酸素化できるし、心臓が止まっていても血が回る。

その強さがそのまま危うさになる。臓器がまったく動かなくても患者は生き続けられるので、「もう治らない」という自然な終わりが来なくなる。ECMOを止めるという判断が必要になるのはそのためで、⑩で扱う撤退の議論は、この章の内容から論理的に導かれるものだ。

2ECMOは何を買っているのか

「時間を稼ぐ機械」と言われても、ではその時間で何が起きるのかが見えないと適応の判断ができない。病態ごとに、買った時間の使い道は違う。

  • 重症ARDS:買った時間で肺を休ませる(lung rest)。人工呼吸器による追加の傷害を止めて、原因(肺炎なら抗菌薬、原疾患の治療)が効くのを待つ(→⑤)。
  • 心筋梗塞による心原性ショック:買った時間でPCIを行い、スタニングした心筋が戻るのを待つ。ただしこの使い方はランダム化試験で否定されている(→⑥)。
  • 劇症型心筋炎:買った時間で炎症が去るのを待つ。数日から2週間で心機能がほぼ元に戻ることがあり、ECMOの設計思想が最もきれいに当てはまる(→⑥)。
  • 難治性心停止(ECPR):買った時間で冠動脈を開け、体温を管理し、原因を治す。ここでは時間そのものが失われていくので、買うのが間に合うかが勝負になる(→⑧)。
  • 肺移植待機:買った時間で臓器が来るのを待つ。ここだけは自己臓器の回復を前提にしない(→⑩)。

使い道を言えないなら回さない

上の一覧を裏返すと、「この患者に対して、買った時間で何をするのか」を一文で言えないなら適応がないということになる。

研修医が上級医に「なぜECMOを回すのか」と聞かれたとき、正しい答えは「酸素化が悪いから」ではない。「◯◯が効くまでの間、臓器を死なせないため」という形になっているはずだ。この文の◯◯が埋まらなければ、回す理由がない。

3呼び方の整理 ― ECLS・ECMO・PCPS

日本語の文献と英語の文献を行き来していると、同じものが違う名前で出てくる。ここを最初に整理しておくと、あとの章が読みやすくなる。

図2:ECMOまわりの呼称

呼称 正式名 意味・注意
ECLS extracorporeal life support 体外循環による生命維持全般の総称。ELSO(Extracorporeal Life Support Organization)の名もここから
ECMO extracorporeal membrane oxygenation 膜型人工肺を用いた体外循環。実務ではECLSとほぼ同義に使われる
PCPS percutaneous cardiopulmonary support 経皮的心肺補助。日本で広く使われる呼称で、実体はVA-ECMO。診療報酬の項目名も「K602 経皮的心肺補助法」。日本独自の呼称で、英語圏の文献にはほぼ登場しない
V-V/V-A 脱血と送血をどこに置くかの構成表記。静脈→静脈、静脈→動脈
V-AV VAに静脈側の送血を追加した混合構成。VAの酸素化問題とVVの循環問題の合流点(→⑦)
ECPR extracorporeal CPR VAを難治性心停止に緊急適用したもの。独立した構成ではない(→⑧)
ECCO₂R extracorporeal CO₂ removal CO₂除去に特化した低流量の体外循環。ELSOは心拍出量の10〜25%程度の血流と記載

表:日本で研修する上でいちばん厄介なのがPCPSだ。実体はVA-ECMOなのに別の名前で呼ばれ、しかも診療報酬上も別項目(K602)として存在する。文献を読むときは「PCPS=VA-ECMO」と読み替える必要があり、逆に英語で書くときにPCPSと書くと通じない。

PCPSとECMOは「同じもの」だが「同じ機材」とは限らない

PCPSは実体としてはVA-ECMOだが、日本では機材の系譜が少し違うという指摘がある。青景・竹田らは、逐語で「日本のPCPSのシステムをECMOで使用する場合は、カニューレおよび回路チューブ径が細いため、低流量でリサーキュレーションの少ない大腿静脈経由下大静脈脱血-右内頚静脈送血が選択されることが多い」と書いている。

心臓外科の短時間補助を想定したPCPSと、数日から数週間のfull supportを想定したECMOでは、必要な流量が違う。「うちのECMOは流量が出ない」と感じたら、患者の体格ではなく機材の仕様を先に確認するという含意になる(→④)。

4何をしているのか ― 原理の要点(詳細は②③へ)

回路は一本道――脱血(静脈)→遠心ポンプ→膜型人工肺→送血。膜型人工肺で酸素化とCO₂除去を行う。

2つのつまみ ― 酸素化とCO₂は別物

酸素化は主に血流量(と膜の能力・Hb・脱血側の酸素飽和度)で、CO₂除去は主にsweep gas(掃気ガス流量)で決まる。この分離が管理の肝で、「酸素化が悪い→血流量とrecirculation」「CO₂が高い→sweepを上げる」と切り分けられる。

十分な灌流の指標は混合静脈血酸素飽和度SvO₂>70%(VA)。膜型肺の能力は”rated flow”で表す(→②③)。

5構成の地図 ― VV・VAと、VAの緊急適応ECPR

ECMOの構成は、脱血・送血をどこに置くかでVVとVAの2つに分かれる。代わりになる臓器も固有の合併症も違う。ECPRは3つ目の構成ではなく、VAを心停止に緊急適用した“使い方”だ。

図3:VV・VA と、VAの緊急適応としてのECPR

項目 VV
静脈→静脈
VA(静脈→動脈)
本来のVA
心原性ショック
└ ECPR
VAを心停止に緊急適用
脱血→送血 静脈→静脈 静脈→動脈 静脈→動脈(緊急VA)
代わりになる臓器 心+肺 心+肺(心停止)
循環は誰が担う 自分の心臓 ECMO ECMO
主な適応 重症呼吸不全(ARDS) 心原性ショック 難治性心停止
固有の敵 recirculation differential hypoxia・LV過膨張・下肢虚血 時間(no-flow/low-flow)
代表エビデンス CESAR・EOLIA ECMO-CS・ECLS-SHOCK ARREST・Prague・INCEPTION
SAVE-J II(日本)
  • VV(静脈→静脈)=肺の代わり。重症呼吸不全。循環は自分の心臓が担う。代表:CESAR・EOLIA(→⑤)
  • VA(静脈→動脈)=心+肺の代わり。心原性ショック。代表:ECMO-CS・ECLS-SHOCK(→⑥⑦)
  • ECPRはVAの一適応=別モードではなく、VAを難治性心停止に緊急適用したもの。時間軸・エビデンス・体制が特殊なので章を分けて扱う。代表:ARREST・Prague・INCEPTION・日本のSAVE-J II(→⑧)

6いつ回すか ― 適応と禁忌(可逆性と時間)

ELSOの適応文は「最善の従来治療にもかかわらず死亡リスクの高い、急性重症の心または肺不全」。ここに本章では「可逆的であること」を加えて読む。ELSOの目安では死亡リスク50%で考慮、80%で適応

最初に問うのは「可逆性があるか」「橋の“向こう岸”があるか(回復・移植・補助人工心臓)」。ここが無ければ、ECMOは延命でしかない。

禁忌の多くは相対的 ― 鍵はfutility

絶対的禁忌は少なく、多くは相対的:回復しても通常の生活に戻れない状態、末期悪性腫瘍などQOLを損なう既往、抗凝固での重篤な出血リスク、患者の年齢・体格、そしてfutility(すでに手遅れ・従来治療が長すぎ・致死的診断)。「誰に回すか」は資源配分と倫理の問題でもある(→⑩)。

ELSOのVVガイドラインは、絶対禁忌をひとつだけ挙げている。「離脱の実行可能な計画を伴わない、回復の見込みのなさ」――つまり出口がないことだ。VAガイドラインの絶対禁忌の第1項も「心機能の回復が見込めず、心移植の適応も植込型補助人工心臓の適応もない」で、同じことを言っている。

年齢についてはどの文書も慎重で、ELSOの成人呼吸不全ガイドライン(v1.4)は「特定の年齢による禁忌はないが、加齢に伴いリスクが増すことを考慮せよ」、VVガイドライン(Tonna 2021)は「加齢とともに死亡リスクは上がるが閾値は確立していない」、VAガイドラインは「年齢そのものを絶対禁忌として使うべきではない」としている。「高齢だから」は理由にならず、「回復して家に帰れる見込みがあるか」で問うのが筋になる。

74つの橋 ― bridge to what

「向こう岸」という言い方をしてきたが、これには標準的な整理がある。Abramsら(Chest 2014)が4つに分けたもので、いまも議論の土台になっている。

図4:ECMOが架けうる4つの橋

橋の種類 前提 典型例 意味
回復への橋
bridge to recovery
急性かつ可逆的な病態 重症ARDS、劇症型心筋炎、広範型肺塞栓、中毒、低体温 原疾患が去れば臓器は戻る。ECMOの本来の姿
移植への橋
bridge to transplantation
不可逆な心不全・呼吸不全 肺移植待機、心移植待機 臓器が戻らなくても、替えがあるなら橋は架かる
補助人工心臓への橋
bridge to VAD
選ばれた心不全 植込型左室補助人工心臓へ移行 短期補助から長期補助への乗り換え
判断への橋
bridge to decision
予後が不確かなとき 移植適応が導入時点で判断できない場合など ELSOは「多職種で離脱の選択肢を議論し続けること」「提供する支持期間を明確に話し合うこと」を条件に挙げる

表:Abramsら(Chest 2014)が整理した4分類。逐語では「急性の可逆的疾患における回復への橋、不可逆的な心または呼吸不全の状況における移植への橋、選択された心不全症例における心室補助装置治療への橋、あるいは予後が不確かなままの場合の判断への橋」この4つのどれにも当てはまらないなら、それはbridge to nowhereである(→⑩)。

bridge to decision は逃げ道ではない

4つ目の「判断への橋」は便利な概念だが、「とりあえず回して考える」の言い訳にもなりうる。ELSOはここに歯止めをかけている。

逐語で「ECMOを開始するかどうかの判断が必要な時点で、患者が移植の候補かどうか分からないことがある。こうした状況では、bridge to decision という適応のもとでECMOを開始しうる」。ただし続けて「重要なこととして、これは『ECMOからの離脱』の選択肢に関する多職種の議論が継続している文脈においてのみ、かつ提供されるECMO支持の期間についての明確な話し合いを伴って行われるべきである」

「いつまで」を決めずに始めるbridge to decisionは、bridge to nowhereと区別がつかない(→⑩)。

8数字で見るECMO ― 世界と日本

全体像をつかむために、レジストリの数字をいくつか置いておく。個々の数字を覚える必要はないが、「ECMOの成績」を一言で言えないことだけは掴んでほしい。

図5:ECMOの規模と成績

項目 数字 補足
ELSOレジストリの総登録数 154,568件(2009〜2022年) 合併症はECMO 1,000時間あたりで報告される
生存退院率がいちばん高いのは 新生児の呼吸ECMO 68.5% 成人ECMOより長い歴史がある領域
いちばん低いのは 成人のECPR 29.5% 同じ装置でも、適用する状況で成績はここまで違う
成人VA-ECMO(ELSOレジストリ2014-2018) 14,580ランで全体生存44% 下肢虚血5.3%、下肢切断0.7%、刺入部出血12.5%(→④⑦)
成人VV-ECMO(ELSOレジストリ2010-2017) 7,579例で院内死亡34.9% 40.2%が出血または血栓イベントを1回以上経験(→⑨)
日本のECMO総数 2010年7月〜2018年3月で25,384例 うち呼吸不全は約5.0%(抄録1,227例、本文1,277例)、心原性ショックが70.5%。成人(18歳以上)のみ
日本のECPR実施割合 院外心停止217,907例のうち5,612例(2.6%) 2010年の2.1%から2016年の3.0%へ増加(→⑧)

表:新生児呼吸68.5%と成人ECPR 29.5%――同じELSOレジストリの中でこれだけ開く。ECMOの成績を「何%」と一言で語れないのはこのためで、どのモードを、どの病態に、どのタイミングで使ったかで別の治療になる。日本の内訳(呼吸不全が約5%、心原性ショックが7割)も、日本のECMO文化がPCPS=循環補助から出発したことを映している。

日本のECMOは循環補助から始まった

表の下から2行目が、日本の特徴をよく表している。全国のDPCデータ(18歳以上)で2010年7月〜2018年3月の全ECMO 25,384例のうち、呼吸不全は約5.0%、心原性ショックが70.5%だった。開心術後を加えると8割超が循環補助である。

欧米ではECMOといえばまず呼吸ECMOを指すのに対し、日本ではPCPS=循環補助が主流だった。呼称の話(→s3)が実態を映しているわけだ。

この構図が変わり始めたのがCOVID-19で、日本COVID-19対策ECMOnetが全国の電話コンサルトや転院調整などを担い、呼吸ECMOの体制整備が一気に進んだ。いま研修医が学ぶECMOは、この転換のあとのECMOだと思っておくといい。

9回路とモニタリングの概観(→③へ)

回路の構成は血液ポンプ+膜型人工肺+チューブ(+熱交換器・モニタ・アラーム)。安全の勘どころは、脱血側の過度な陰圧(chattering)と膜型肺での空気引き込みを避けること。

溶血の指標は血漿遊離Hb(通常<10 mg/dL、>50で原因検索)。カニューレ選択・穿刺・回路の物理は③④で詳しく扱う。

10主な合併症の地図(→⑨へ)

合併症は「モード共通」と「VV/VA固有」に分けると整理できる。

図6:ECMO合併症マップ(共通/VV固有/VA固有)

区分 主な合併症(詳細は⑨へ)
モード共通
出血(最重症=頭蓋内) 抗凝固に伴う。刺入部・気道・消化管・頭蓋内
血栓(回路/膜・患者側) 膜前後の圧較差↑・D-dimer↑・酸素化低下・溶血で拾う
溶血 血漿遊離Hb(通常<10 mg/dL、>50で精査)
感染/神経合併症 カニューレ・人工呼吸器関連/脳出血・梗塞・けいれん
VV固有
recirculation 送った酸素化血を再び脱血=効率低下
VA固有
differential hypoxia(Harlequin syndrome) 自己心の低酸素血が上半身へ。右上肢SpO₂・右橈骨動脈ガスで監視
LV過膨張→肺水腫 逆行性送血で後負荷↑。unloading(IABP/Impella/ベント)
送血側の下肢虚血 遠位灌流カテーテルで予防

11離脱と撤退の概観(→⑩へ)

離脱(weaning)は、原疾患の回復を、支持を下げるトライアルで確認する。VVはsweep gasを絞り、VAは流量を下げて自己心を評価する。トライアルを通ればデカニュレーションへ。

回復しなければ撤退(futility)の判断になる――これも適応の裏返しで、最初に「向こう岸」を定めておくほど楽になる。

12やりがちな失敗とTake home

最後にひとつだけ、この連載を通じて何度も出てくる話を先に置いておく。ECMOは「どこでやるか」で結果が変わる治療だということだ。

⑤では重症ARDSをECMOセンターへ集約すると転帰が良くなったCESARを扱い、日本の全国データでも全適応を合わせて年17例以上のECMOを扱う施設で呼吸ECMOの死亡率が有意に低いことを見る。⑧ではECPRのメタ解析が「施設の年間症例数が倍になるごとに死亡オッズが下がる」と示していることを扱う。⑩ではELSOレジストリ290施設の解析で、成人で年30例超の施設が年6例未満に比べ死亡オッズ0.61だったことを見る。3つとも別の研究だが、同じことを言っている

研修医にとっての実務的な含意はひとつで、自施設で抱え込まないこと。日本には日本ECMOnetという全国の相談・搬送支援の仕組みがあり、三学会の資料も「ECMO導入に際しては、日本COVID-19対策ECMOnetへコンサルトし、助言を求めることが望ましい」と書いている(→⑩)。

1 ECMOを「治療」と考える 支持=時間稼ぎ。原疾患を治す一手と“向こう岸”を先に決める。
2 可逆性を問わず適応にする 回復の見込みがなければ適応でない(futility)。
3 VVとVAを同じ感覚で管理する 血行動態も合併症も別物(recirculation vs differential hypoxia/LV過膨張)。
4 酸素化が悪いとすぐsweep gasを上げる 酸素化は血流量、sweepはCO₂。つまみを取り違えない。
5 下肢や脳を診ずに回路だけ見る 下肢虚血・神経合併症は“患者側”で起こる。全身を診る。

Take home

  1. ECMOは心肺を体外で肩代わりして時間を稼ぐbridge。治す機械ではない
  2. 構成は2つ:VV(肺)とVA(心+肺)。ECPRはVAを心停止に緊急適用したもので、独立モードではない
  3. 適応の芯は可逆性と死亡リスク(目安50%考慮・80%適応)。禁忌の多くは相対的でfutilityが鍵
  4. 原理は「酸素化=血流量、CO₂=sweep gas」。この分離が管理の土台
  5. 日本はECPRが盛ん。回復も撤退も、最初に“向こう岸”を決めておくほど明快になる
参考文献
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  • Ostadal P, et al. (ECMO-CS) Circulation. 2023;147:454-464. / Thiele H, et al. (ECLS-SHOCK) N Engl J Med. 2023;389:1286-1297.
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  • Tonna JE, et al. Extracorporeal Life Support Organization Registry International Report 2022: 100,000 Survivors. ASAIO J. 2024.(2009-2022、154,568ラン、モード別の生存退院率)
  • ELSO Guidelines for Adult Respiratory Failure, v1.4. August 2017.(死亡リスク50%/80%、ECCO₂Rの血流10〜25%、rated flow、年齢)
  • Nunez JI, et al. Bleeding and thrombotic events in adults supported with venovenous ECMO: an ELSO registry analysis. Intensive Care Med. 2022;48:213-224.
  • Barbaro RP, et al. Association of hospital-level volume of extracorporeal membrane oxygenation cases and mortality. Am J Respir Crit Care Med. 2015;191:894-901.
  • 青景聡之, 竹田晋浩. ECMO. 日本呼吸療法医学会 ECMOプロジェクト テキスト.(PCPSの呼称、PCPS用システムの径)
  • Muguruma K, et al. Acute Med Surg. 2020.(日本の全国DPC、全ECMO 25,384例中 呼吸ECMOは1,227例)
  • Nakajima M, et al. Resuscitation Plus. 2020.(院外心停止217,907例中ECPR 5,612例=2.6%)
  • 日本COVID-19対策ECMOnet(三学会):COVID-19急性呼吸不全への人工呼吸管理とECMO管理 基本的考え方. 人工呼吸. 2020;37(2):124-129.
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