2023年、VA-ECMOをめぐる風景が変わった。ECLS-SHOCKは心筋梗塞による心原性ショックで30日死亡 47.8% vs 49.0%、RR 0.98と差を示せず、4試験を統合したメタ解析も同じ結論に至った。一方で出血は2.4倍、血管合併症は3.5倍に増えていた。では研修医は「VA-ECMOは効かない」と覚えればいいのか。そうではない。本章(ECMO入門⑥)は何が否定されて、何が否定されていないのかを、一次資料の数字で切り分ける。
この記事の芯
否定されたのは「AMIによる心原性ショックに対する、早期・非選択的なルーチン導入」という一点だ。ECLS-SHOCKは機械的合併症も非心臓性ショックも45分超のCPRも80歳超も除外している。
否定されていないのは、劇症型心筋炎・広範型肺塞栓・中毒・低体温・術後・移植へのブリッジ。共通するのは「短期間で可逆」か「出口がある」という条件を満たすことで、これはELSOが禁忌リストの第1項に「回復が見込めず、移植も植込型補助人工心臓の適応もない」を置いていることの裏返しでもある。
この記事でわかること
- ECLS-SHOCK:30日死亡 47.8% vs 49.0%、RR 0.98(0.80〜1.19)、P=0.81。差はつかなかった
- ECMO-CSは「入れるか否か」ではなく「今か悪化してからか」の試験。対照群の39%がECMOを受けている
- Zeymerの個別患者データメタ解析(4試験567例):30日死亡 OR 0.93(0.66〜1.29)
- 一貫して有意なのは害のほう。出血 OR 2.44、末梢血管合併症 OR 3.53
- 2024年の6か月メタ解析では、低酸素性脳障害リスクのないSTEMIショックでハザード比0.77という探索的シグナル
- 否定されていない適応:劇症型心筋炎(レジストリで院内死亡34.9%)、肺塞栓、中毒、低体温、術後、移植へのブリッジ
- ELSOの禁忌リストの第1項は「回復が見込めず移植もVADも適応がない」=出口のなさ
- ELSO 2021もJCS 2023もECLS-SHOCKより前の文書。JCSは推奨クラスをあえて付けていない
1VAは循環の代わり ― 何を期待して回すのか
VV-ECMOが肺の代わりだったのに対し、VA-ECMOは心臓と肺の両方を肩代わりする。静脈から脱血し、酸素化して動脈へ返すので、心拍出量がゼロでも全身に血が回る(→①)。
ここで大事なのは、VA-ECMOは心臓を治さないということだ。冠動脈を開けるのはPCIであり、心筋炎を治すのは時間である。VA-ECMOがやっているのは「治療が効くまでの間、臓器を死なせない」ことだけで、しかもその間ずっと出血と下肢虚血のリスクを払い続けている。
VAはむしろ心臓の負担を増やす
直感に反するが、末梢VA-ECMOは左室の後負荷を上げる。大腿動脈から逆行性に血液を押し込むので、弱った左室はその圧に逆らって駆出しなければならない。結果として左室が拡張し、肺水腫を招く。
つまりVA-ECMOは「循環を保つ」代わりに「左室にとっては悪化させる」という二面性を持つ。だから左室減圧という話が必ずついてくる(→⑦)。ここが理解できると、なぜVA-ECMOが単純な救命装置ではないのかが見えてくる。
2ECLS-SHOCK ― 何が否定されたのか
図1:VA-ECMOのランダム化比較試験と統合解析
| 試験 | 対象・規模 | 主要結果 | 読むときの注意 |
|---|---|---|---|
| ECLS-SHOCK NEJM 2023 |
AMIによる心原性ショック、早期血行再建予定。417例 | 30日全死亡 47.8% vs 49.0% RR 0.98(95%CI 0.80〜1.19)、P=0.81 |
機械的合併症・非心臓性ショック・45分超のCPR・80歳超は除外 |
| ECMO-CS Circulation 2023 |
急速に悪化するショック/重症ショック。AMIに限らない。117例 | 複合エンドポイント 63.8% vs 71.2% ハザード比 0.72(0.46〜1.12)、P=0.21 |
対照群の39%がECMOへ移行。「今すぐ入れるか、悪化したら入れるか」の試験 |
| EURO SHOCK EuroIntervention 2023 |
AMIによる心原性ショック。予定428例に対し35例で中止 | 30日死亡 43.8% vs 61.1% ハザード比 0.56(0.21〜1.45)、P=0.22 |
COVID-19で登録中止。予定の8%で、有意差検出は原理的に不可能 |
| Zeymer Lancet 2023 |
4試験567例の個別患者データメタ解析 | 30日死亡 OR 0.93(95%CI 0.66〜1.29) | サブグループも一貫して利益なし(交互作用のP≥0.079) |
| Thiele Lancet 2024 |
一時的機械補助9試験1,114例。うちVA-ECMOは4試験611例。6か月 | 6か月死亡 ハザード比 0.87(0.74〜1.03)、P=0.10 | 低酸素性脳障害リスクのないSTEMIショックでは0.77(0.61〜0.97)という探索的シグナル |
表:この4つが否定したのは「AMIによる心原性ショックへの、早期・非選択的なルーチン導入」であって、VA-ECMOという治療そのものではない。ECLS-SHOCKは機械的合併症も非心臓性ショックも45分を超えるCPRも80歳超も除外している。ECMO-CSに至っては対照群の39%がECMOを受けており、「入れるか入れないか」ではなく「今か、悪化してからか」を比べた試験だ。
ECLS-SHOCK(NEJM 2023)は、早期の血行再建が予定された心筋梗塞による心原性ショックの患者を、早期ECLS+通常治療と通常治療のみに割り付けた。420例が無作為化され417例が解析された。
結果は30日全死亡 100/209(47.8%)vs 102/208(49.0%)、RR 0.98(95%CI 0.80〜1.19)、P=0.81。結論文はそっけない――「早期血行再建が予定された心筋梗塞による心原性ショックの患者において、30日時点の全死亡リスクはECLS療法を受けた患者のほうが低くはなかった」。
誰が入っていて、誰が入っていないか
この試験の解釈は除外基準を読まないと始まらない。除外されたのは登録前に45分を超えるCPRを受けた例、ショックの機械的原因、非心臓性のショック、発症から12時間を超えたショック、ECMO挿入を妨げる高度の末梢動脈疾患、80歳超、余命6か月未満の疾患を持つ患者だ。
つまりECPRの症例も、機械的合併症も、高齢者も入っていない。この試験の結果を「VA-ECMOは効かない」と一般化すると、試験が扱っていない集団まで巻き込むことになる。
3ECMO-CSとEURO SHOCK ― 対照群を見る
ECMO-CS(Circulation 2023)は少し性格が違う。対象は「急速に悪化するショック」または「重症ショック」で、心筋梗塞に限っていない。122例が無作為化され、同意が得られなかった5例を除く117例(即時VA-ECMO 58例、初期保存的治療59例)が解析された。
重要なのは保存的治療群でも、血行動態が悪化すればVA-ECMOを使ってよい設計だったことだ。結果として対照群59例のうち23例(39%)がVA-ECMOを受けている。
主要複合エンドポイント(全死亡・蘇生された心停止・別の機械的循環補助の導入)は63.8% vs 71.2%、ハザード比 0.72(95%CI 0.46〜1.12)、P=0.21。結論文は「即時導入は、悪化時にECMOを使うことを許した早期保存的戦略と比べて、臨床転帰を改善しなかった」。
これは「ECMOは無効」ではない
対照群の39%がECMOを受けている試験で差がつかなかった、ということが意味するのは「全員に前倒しで入れる必要はない」であって、「ECMOは要らない」ではない。
言い換えれば、悪化したら入れる、という戦略が、最初から全員に入れる戦略に負けなかった。これは臨床的にはむしろ扱いやすい結論で、「迷ったら様子を見て、本当に必要になったら入れる」を支持する。
EURO SHOCKは予定428例に対して35例で登録中止になった。COVID-19の影響である。30日死亡は43.8% vs 61.1%とECMO側に振れているが、予定症例数の8%では有意差の検出は原理的に不可能で、点推定を根拠に語ってはいけない試験だ。
4統合すると ― そして2024年の続報
Zeymerら(Lancet 2023)は4つのRCTの個別患者データ567例を統合した。30日死亡はOR 0.93(95%CI 0.66〜1.29)で、事前に規定されたサブグループ解析もすべて一貫して利益を示さなかった(交互作用のP値はいずれも0.079以上)。抄録の結論は「この状況におけるVA-ECMOの適応を慎重に見直すことが必要である」。
翌2024年、Thieleらは対象を広げて一時的機械的循環補助9試験1,114例(うちVA-ECMOは4試験611例)を6か月まで追った。全体では6か月死亡に有意差なし(ハザード比 0.87、95%CI 0.74〜1.03、P=0.10)。
ひとつだけ光っているサブグループ
この2024年のメタ解析には、無視しにくい所見がひとつある。「低酸素性脳障害のリスクがないST上昇型心筋梗塞による心原性ショック」のサブグループでは、機械的補助の使用が死亡を減らしていた(ハザード比 0.77、95%CI 0.61〜0.97、P=0.024)。
ただしこれは探索的なサブグループ解析であり、しかも「機械的補助全体」であってVA-ECMO単独ではない。仮説を立てる材料であって、明日の判断を変える根拠ではない。それでも、「心停止後の脳障害が予後を決めてしまう患者を除けば、まだ見込みがあるかもしれない」という方向を示しているのは確かだ。
5一貫して有意なのは害のほう
図2:VA-ECMOで確実に増えるもの
| 項目 | 頻度 | 効果量 |
|---|---|---|
| 中等度〜重度の出血(ECLS-SHOCK) | 23.4% vs 9.6% | RR 2.44(95%CI 1.50〜3.95) |
| 介入を要した末梢血管合併症(ECLS-SHOCK) | 11.0% vs 3.8% | RR 2.86(95%CI 1.31〜6.25) |
| 大出血(Zeymer IPDメタ解析) | ― | OR 2.44(95%CI 1.55〜3.84) |
| 末梢の虚血性血管合併症(同) | ― | OR 3.53(95%CI 1.70〜7.34) |
| 大出血(Thiele 2024、機械補助全体) | ― | OR 2.64(95%CI 1.91〜3.65) |
| 血管合併症(同) | ― | OR 4.43(95%CI 2.37〜8.26) |
| 人工呼吸期間(ECLS-SHOCK) | 中央値 7日 vs 5日 | 差の中央値 1日(95%CI 0〜2) |
表:死亡については一貫して差がつかず、害については一貫して有意。これがECLS-SHOCK以降のVA-ECMOをめぐる数字の全体像だ。出血がおよそ2.4〜2.6倍、血管合併症が2.9〜4.4倍。天秤の片方は空でも、もう片方には確実に重りが乗っている。
死亡率の議論は解釈の余地があるが、害の側は解釈の余地がない。ECLS-SHOCKでは中等度〜重度の出血が23.4% vs 9.6%(RR 2.44)、介入を要した末梢血管合併症が11.0% vs 3.8%(RR 2.86)。統合解析でも同じ方向で、しかも信頼区間は1を大きく離れている。
研修医が持っておくべき感覚はこうだ。VA-ECMOを回すという決断は、「死亡率を下げるかもしれない不確かな利益」と「出血と血管合併症が2〜4倍になる確実な害」を天秤にかける決断である。だからこそ、天秤の利益側に何を載せられるかを言語化できないなら、回してはいけない。
6ガイドラインはどう動いたか
- 2025年 ACC/AHA 急性冠症候群ガイドライン:ACC自身の解説記事(Safiullah, Hollenberg 2026)によれば、ルーチンのIABPは「利益なし」のClass 3に格下げされ、VA-ECMOも「ECLS-SHOCKの結果と整合する形で同様に格下げ」された。微小軸流ポンプ(Impella等)は選択されたAMI心原性ショックでClass 2aに格上げ。ガイドライン本体の推奨文は本稿では直接確認できていない。なお同記事は「実臨床でのVA-ECMOの使用は増え続けている」とも書いている。
- 2023年 ESC 急性冠症候群ガイドライン:難治性ショックへの短期機械的循環補助をClass IIb・エビデンスレベルCとしている、というのが複数の総説の記載。ただし推奨文そのものの原文は本稿では確認できなかったので、断定は避ける。またこのガイドラインは2023年8月25日公表で、ECLS-SHOCKと同じESC 2023で発表された関係上、結果の反映は限定的である。
- ELSO VA-ECMO暫定ガイドライン(2021):「心原性ショックに対しては、通常の薬物・輸液療法に抵抗性であれば発症から6時間以内にVA-ECMOを考慮すべき」と書いている。これはECLS-SHOCKより2年前の文書であり、後続のRCTと正面から食い違う部分がある。
ガイドラインの発行年を必ず見る
この分野は2022年11月から2024年にかけて景色が変わった。ELSO 2021もJCS 2023(3月発行)も、ECLS-SHOCK(2023年8月)とZeymerのメタ解析(2023年8月)より前の文書だ。
「ガイドラインにこう書いてある」を根拠にするときは、その文書がどのRCTを見た上で書かれたのかを確認する。これはVA-ECMOに限らず、動きの速い領域すべてに当てはまる作法だ。
7否定されていない適応
図3:RCTが扱わなかった適応と、その根拠の強さ
| 病態 | 数字と根拠 | エビデンスの型 |
|---|---|---|
| 劇症型心筋炎 | ELSOレジストリ850例(2011-2020)で院内死亡34.9%。同期間にVA-ECMOを受けた全症例(all-comers)の58.3%より明らかに良い | レジストリ。RCTなし |
| 急性広範型肺血栓塞栓症 | ELSOの適応リストに明記。日本のJCS 2023も適応となり得る病態として挙げる | ガイドライン記載+症例集積 |
| 薬物中毒・心毒性薬物 | ELSOの適応リストに明記。ドイツ全国データ49例で生存率63.6% | レジストリ(小規模) |
| 偶発性低体温 | ELSOの適応リストに明記。HOPEスコアの外的検証122例で生存42%(51/122)、C統計量0.825 | 予測スコアの外的検証(観察研究) |
| 心臓術後(post-cardiotomy) | PELS-1研究2,058例で院内死亡60.5%。退院できた人の2/3は10年生存 | 多施設レジストリ。使用は増えたが死亡率は下がっていない |
| 移植・植込型VADへのブリッジ | ELSOは離脱の道筋として明記。逆に出口がないことがELSOの禁忌リストの第1項 | ガイドライン記載 |
表:ここに並ぶものにRCTは1つもない。それでも適応として生き残っているのは、いずれも「短期間で可逆」か「移植という出口がある」という条件を満たすからだ。ECLS-SHOCKが否定したのは、その条件を確かめないまま反射的に回すことである。
ELSOの適応リストには急性心筋梗塞、劇症型心筋炎、心毒性薬物による中毒、末期の拡張型/虚血性心筋症、難治性の循環不安定を伴う低体温、広範型肺血栓塞栓症、術後(移植後を含む)の急性心原性ショックが並ぶ。このうちRCTで検証されたのは最初の1つだけで、残りは検証されていない。
劇症型心筋炎が特別な理由
ELSOレジストリの850例(2011-2020年、急性心筋炎疑いで末梢VA-ECMOを受けた症例)では院内死亡34.9%で、同期間にVA-ECMOを受けた全症例(all-comers)の58.3%より明らかに良い。
理由は単純で、劇症型心筋炎は「短期間で完全に回復しうる」数少ない心原性ショックだからだ。数日から2週間持ちこたえれば、心機能がほぼ元に戻ることがある。VA-ECMOの設計思想――時間を稼ぐ装置――がいちばんきれいに当てはまる病態と言っていい。
同レジストリはECPRを要したことが死亡の主要な修正可能リスク因子だったとも報告している。心停止に至る前に回せるかどうかが分かれ目になる。
術後(post-cardiotomy)は事情が違う。PELS-1研究(34施設2,058例、2000-2020年)では院内死亡60.5%で、著者らは「術後心原性ショックへのECMOの使用は増えてきたが、それに伴う院内死亡の低下は見られていない」と書いている。ただし退院できた患者の2/3は10年生存するという数字もあり、生き延びた場合の見返りは大きい。
ELSOの禁忌リストが語っていること
ELSO VA-ECMOガイドラインの禁忌リストの第1項は「心機能の回復が見込めず、心移植の適応も植込型補助人工心臓の適応もない」だ。他には余命不良、重症の大動脈弁逆流、大動脈と末梢血管に広範な病変を伴う高度の血管疾患、分枝に広く及ぶ急性大動脈解離、重度の神経学的障害、重度の免疫疾患、Child-Pugh分類BまたはCの肝硬変が並ぶ。なおELSOはこのリストを「絶対/相対」に分類していない。
つまりELSOは「回復か、移植か、VADか。出口のないECMOは禁忌である」と最初に宣言している。年齢については適応の項に「年齢そのものを絶対禁忌として使うべきではない」と書かれている。
8予後予測 ― SAVEスコアで適応を切ってはいけない
図4:SAVEスコアのリスククラスと院内生存率
| SAVEスコアのリスククラス | 院内生存率 |
|---|---|
| クラスI(5点超) | 75% |
| クラスII(1〜5点) | 58% |
| クラスIII(−4〜0点) | 42% |
| クラスIV(−9〜−5点) | 30% |
| クラスV(−10点以下) | 18% |
表:SAVEスコアは難治性心原性ショックに対するVA-ECMO後の院内生存を予測するモデルで、ELSOレジストリ3,846例(うち42%が生存退院)から作られた。識別能はAUROC 0.68(95%CI 0.64〜0.71)で、オーストラリアの161例による外的検証では0.90。導出コホートはECPR症例を含んでおらず、ECPRへの適用可能性は不明と著者が明記している。生存に有利な因子は若年・低体重・急性心筋炎・心移植・難治性心室頻拍/細動、不利な因子は慢性腎不全・ECMO前の人工呼吸期間の長さ・ECMO前の臓器不全・ECMO前の心停止。
AUROC 0.68 が意味すること
SAVEスコアの導出コホートにおける識別能はAUROC 0.68(95%CI 0.64〜0.71)。これは「集団を層別化できる」水準であって、目の前の一人の適応可否を決められる精度ではない。外的検証の0.90は豪州の単一施設(Alfred Hospital)161例の値で、そのまま日本に持ってこられる保証はない。
スコアは施設間比較、研究の層別化、家族への説明の材料に使うもので、「クラスVだから回さない」という使い方をしてはいけない。適応を切るのはスコアではなく、可逆性と出口の有無である。
9日本のガイドラインと実情
日本には2023年 JCS/JSCVS/JCC/CVIT ガイドライン フォーカスアップデート版 PCPS/ECMO/循環補助用心内留置型ポンプカテーテルの適応・操作がある。11学会の合同研究班によるもので、2023年3月11日発行、2024年7月17日更新。
日本のガイドラインは推奨クラスを付けていない
この文書には、読む前に知っておくべき断り書きがある。逐語で「本フォーカスアップデートでは推奨クラスやエビデンスレベルを無理に記載することはせず,あくまでエキスパートコンセンサスとして提示することとする。」
つまり「日本のガイドラインではClass IIa」といった書き方は成立しない。ネット記事でそう書いてあったら、それは書いた人が確認していない。
適応についての記載は「あらゆる内科的治療抵抗性の心原性ショック,難治性不整脈,および急性広範型肺血栓塞栓症などが適応となり得る」(V-A ECMOとIMPELLAをまとめた「適応疾患と病態」の節)「血行動態が不安定でIABPでは対応できない場合には,まずV-A ECMO/IMPELLAを導入し,循環の安定を図ることが重要である」。ELSOと同じく、この文書の初版はECLS-SHOCKより前に書かれていることは押さえておきたい(2024年7月の更新でこの部分の推奨が変わったかは本稿では確認できていない)。
劇症型心筋炎については踏み込んでいて、「劇症型心筋炎では病状が急激に進行することがあり,ポンプ失調や致死的不整脈(心静止を含む)にV-A ECMOやIMPELLAを用いて速やかに対応することが救命率の向上につながる」としつつ、「心機能が回復しない症例も一定数含まれることがわかっており,より長期的なMCSへの切り替えも念頭に管理していく必要がある」と出口の話まで書いている。
日本の実診療は欧米と少し違う形をしている
日本の特徴はImpellaとVA-ECMOの併用(ECPELLA)の比重が大きいことだ。J-PVADレジストリの報告では、2020年2月〜2023年12月にImpellaで治療された心筋梗塞に伴う心原性ショック3,975例のうち1,747例(43.9%)でVA-ECMOが併用されており、院外心停止例では622例(62.7%)にのぼる。
別のJ-PVADの報告(AMI心原性ショック593例)では30日生存率が Impella単独で80.9%、ECMO併用で45.7%。単純比較はできない(併用群のほうが重症)が、日本のAMI心原性ショック診療がどういう形をしているかは見える。
保険上はK602 経皮的心肺補助法(初日11,100点、2日目以降3,120点)という独立した項目があり、算定のハードルは高くない。使われやすい制度になっている、とは言える。
もうひとつ日本固有の記載として、「中等度以上のAIは,IABP,V-A ECMO,IMPELLAの使用が困難となる」がある。なお同資料の「大動脈弁位機械弁置換術後では挿入不可」はIMPELLAの挿入手技についての記載で、VA-ECMOそのものには当てはまらない。いずれにせよ導入前のエコーで大動脈弁を見る、という具体的な作法として覚えておきたい。
10やりがちな失敗とTake home
| 1 ECLS-SHOCKを「VA-ECMOは効かない」と一般化する | 否定されたのはAMIショックへの早期ルーチン導入のみ。ECPR・機械的合併症・80歳超・非心臓性ショックは試験に入っていない。 |
| 2 ECMO-CSを「ECMO不要」と読む | 対照群の39%がECMOを受けている。「今か、悪化してからか」の比較であって、使うか否かではない。 |
| 3 EURO SHOCKの点推定を根拠にする | 予定428例に対し35例で中止。有意差の検出は原理的に不可能な規模。 |
| 4 害の側を数えない | 出血 OR 2.44、末梢血管合併症 OR 3.53。利益が不確かでも害は確実に増える。 |
| 5 出口を決めずに回す | ELSOの禁忌リストの第1項が「回復も移植もVADも見込めない」。出口がなければ延命装置になる(→⑩)。 |
| 6 SAVEスコアで適応を切る | AUROC 0.68は集団の層別化用。個人の可否を決める精度はない。 |
| 7 ガイドラインの発行年を見ない | ELSO 2021もJCS 2023もECLS-SHOCK以前の文書。 |
| 8 大動脈弁を見ずに導入する | 中等度以上のAIではIABP・V-A ECMO・IMPELLAとも使用が困難(JCS 2023)。機械弁置換後の「挿入不可」はIMPELLAの話。 |
Take home
- VAは心臓と肺の両方の代わり。ただし左室の後負荷は上げるので、減圧の話が必ずついてくる(→⑦)
- ECLS-SHOCK:30日死亡 47.8% vs 49.0%、RR 0.98。否定されたのはAMIショックへの早期ルーチン導入
- ECMO-CSは対照群の39%がECMOを受けた試験。「悪化してから入れる」戦略が負けなかった、と読む
- 統合すると30日死亡 OR 0.93。一方で出血 OR 2.44、末梢血管合併症 OR 3.53と害は確実
- 2024年の6か月解析で、低酸素性脳障害リスクのないSTEMIショックにハザード比0.77の探索的シグナル
- 否定されていないのは劇症型心筋炎・肺塞栓・中毒・低体温・術後・移植へのブリッジ。RCTはどれにもない
- ELSOの禁忌リストの第1項は「出口がないこと」。可逆性か移植か、どちらかを言語化できないなら回さない
- 日本のJCS 2023は推奨クラスを意図的に付けていないエキスパートコンセンサス。しかもECLS-SHOCK以前の文書
参考文献
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- Schmidt M, et al. Predicting survival after ECMO for refractory cardiogenic shock: the survival after veno-arterial-ECMO (SAVE)-score. Eur Heart J. 2015;36:2246-2256.
- 2023年 JCS/JSCVS/JCC/CVIT ガイドライン フォーカスアップデート版 PCPS/ECMO/循環補助用心内留置型ポンプカテーテルの適応・操作.(推奨クラスを付けないエキスパートコンセンサス)
- Arai R, et al. DanGer shock criteria and outcomes in acute myocardial infarction-related cardiogenic shock treated with Impella: the J-PVAD registry. Eur Heart J. 2026;47:472-486.(VA-ECMO併用率43.9%)
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