消化器

下部消化管出血の対応

血便でERに来る患者は多い。だが上部消化管出血とは「別の病気」として構えたほうがいい。原因の6割は大腸憩室出血で、致死率は上部よりずっと低い一方、再出血が多く、しかも多くは自然に止まる。そして――ここが日本の見せどころ――「急いで大腸内視鏡をしても予後は変わらない」ことを、49病院・1万人超の日本のデータ(CODE BLUE-J)が世界に示した。この記事は、急性下部消化管出血のERでの初期対応を、その日本発エビデンスを軸に整理する。

この記事の芯

安定していれば大腸内視鏡を急がない。早期(24時間以内)は活動性所見を多く見つけ在院を縮めるが、30日再出血をむしろ増やし、死亡・IVR・手術は変わらない(CODE BLUE-J/Niikura)。国際(ACG 2023・ESGE・BSG)も同じ方向。

もう一つの芯は「不安定なら内視鏡より先に造影CT」。血管外漏出をとらえてIVR(塞栓)や内視鏡につなぐ。

この記事でわかること

  • 下部消化管出血の6割は憩室出血。上部より致死率は低いが、再出血が多く自然止血も多い
  • 安定例では大腸内視鏡を急がない(早期24時間以内は再出血を減らさない=CODE BLUE-J/Niikura)
  • 早期が有益なのは不安定例(ショック指数1以上・全身状態不良)に限られる
  • 不安定・活動性なら、内視鏡より先に造影CT → 血管外漏出をとらえIVR/内視鏡へ
  • 造影CTは0.3〜0.5 mL/min以上の活動性出血がないと写らない。造影を頑張る基準は腎機能より「今出ているか+IVRにつなぐか」
  • 憩室出血の止血はクリップ(直達法)や内視鏡的バンド結紮(EBL)
  • 輸血は上部と同じく制限的(Hb 7)。トランサミンは下部でも使わない
  • 抗血栓薬は「二次予防のアスピリンは続ける/一次予防は止める」。低リスク(Oakland ≤8)は帰宅を検討

1まず全体像 ― 下部は「上部と別の病気」

CODE BLUE-J(日本49病院・10,342例)では、原因の筆頭は大腸憩室出血で63.6%。以下、虚血性大腸炎・直腸潰瘍・腸炎/IBD・痔核などが続く。

図1:急性下部消化管出血の原因(CODE BLUE-J)

原因 頻度 ERで押さえる点
大腸憩室出血 63.6% 自然止血が多いが再出血も多い。責任憩室を造影CT・内視鏡で探す
虚血性大腸炎 次点 腹痛のあと血便。左側結腸に多く、多くは保存的に軽快
直腸潰瘍 臥床高齢者に多い。直腸診・直腸鏡で届く範囲
腸炎・IBD 感染性・薬剤性・炎症性腸疾患。経過と背景で絞る
痔核・肛門病変 鮮血。まず肛門をきちんと見る
小腸出血 大腸で見つからないとき。原因不明出血の一角

上部と違い致死率は低い。院内死亡は0.9%で、その多くは出血そのものが直接死因ではない。一方で再出血は多く、院内15.2%・退院後25.6%。憩室出血は「自然に止まりやすいが、また出やすい」(自然止血70〜90%、再出血20〜40%)。

致死率が低いからこそ

下部消化管出血は、「急ぐ」より「見極めて、帰せる人は帰す」が効く領域。以下はその見極めの話。

2診断 ― 不安定なら内視鏡より先に造影CT

CODE BLUE-Jでは造影CTが69%で施行され、中央値は到着から1時間。血管外漏出(extravasation)の同定は上行結腸が最多だった。

図2:初期対応の分岐(安定 vs 不安定)

場面 対応
不安定・活動性出血(ショック指数1以上) 内視鏡より先に造影CT → 血管外漏出をとらえIVR、または責任部位を絞って内視鏡
大量血便+ショック 上部の大量出血を除外(NG吸引・上部内視鏡の閾値を下げる)
安定・自然止血 大腸内視鏡は急がない(翌日以降の前処置を整えてから)
低リスク(Oakland ≤8) 外来精査で帰宅を検討

国際(ACG 2023・ESGE・BSG)も、血行動態が不安定・活動性出血が疑われる例はまず造影CT。陽性なら速やかにIVR(塞栓)、あるいは責任部位を絞って内視鏡へ進む。

 

大量血便は上部を疑う

ショックを伴う大量血便は、上部の大量出血のことがある。NG吸引や上部内視鏡の閾値を下げて除外する。

ここで押さえたいのが造影の「写る条件」。造影CTは0.3〜0.5 mL/min以上の活動性出血がないと血管外漏出を写せない。裏を返すと、止まっている出血に造影を打っても陰性になりやすい。なお新鮮血や凝血塊は単純CTでも高吸収に写り、出血部位の当たりはつく。ただし感度は低く、しかも単純で当たりがつくのは”今出ている”時=造影が最も活きる場面と重なる。だから単純陽性は造影を打つ後押しにはなっても、造影を省く根拠にはしにくい。

だから出血を狙うなら、単純+動脈相+遅延相の多相で撮るのが望ましい。門脈相1相だけだと、動脈相で一瞬写る漏出を撮り逃す。各相で見にいくものはこう。

図3:多相造影CTで各相が見にいくもの

見にいくもの
単純 もともとの高吸収(石灰化・便・クリップ・残留造影剤)を把握し”引き算の基準”に。凝血塊が高吸収に写れば責任部位の当たり(感度は低い)
動脈相 活動性の血管外漏出(extravasation)=いま出ている点。責任血管・血管性病変(angiodysplasia・Dieulafoy など)
遅延相(門脈相) 漏出が消化管内で増える/移動するのを確認。動脈相で写らない遅い(静脈性)出血を拾う

造影をどこまで頑張るか ― 腎機能を理由に迷ったとき

判断軸は腎機能そのものではなく「今も出ているか+陽性ならIVR/内視鏡につなぐか」

活動性が明らかで不安定でも、eGFRが保たれていれば(30以上)造影をためらわない。造影腎症のリスクは近年「過大評価だった」とされ(ACR/NKF 2020合意)、予防的補液を考えるのはeGFR 30未満(ごく一部の高リスクで30〜44)。透析中(無尿)なら守る腎機能がなく、ためらう理由もない。

ただしeGFR 30未満で「IVR前提か」を内視鏡前に決めるのは難しい。下部消化管出血の多くは内視鏡で止まる(CODE BLUE-JでもIVRは2.1%)ので、迷えばまず単純CT+内視鏡でよく、造影は本当にIVRに踏み切るときに取っておくのが現実的。

逆に、出血が落ち着いている・軽症で安定なら、造影を打っても陰性になりやすく腎臓に負担をかけるだけ。無理に造影しない

※ この頑張りどころの線引きは質の高いエビデンスがある領域ではなく、experienced based。とくにeGFR 30未満で単純CT+内視鏡に寄せる判断は筆者の実務感覚による。造影剤リスクの過大評価(ACR/NKF)と造影CTの検出条件という事実の上に、現場判断を重ねたもの。

図4:造影をどこまで頑張るか(緑=打つ・黄=まず単純+内視鏡・灰=控える)

状況 造影CTの判断 判定
活動性+不安定・eGFR≥30 ためらわず造影する(必要なら生食で補液) 打つ
活動性+不安定・eGFR<30 まず単純CT+内視鏡でよい(多くは内視鏡で止まる)。造影は本当にIVRに踏み切るときだけ 単純で可
透析中(無尿) 遠慮不要。守る腎機能がない 打つ
出血が止まっている/軽症で安定 陰性になりやすい。無理に造影しない 控える

安定例では造影CTを必須にはしない。落ち着いていれば大腸内視鏡で診断・止血する(s3)。

3大腸内視鏡は急がない ― 早期でも再出血は減らない

CODE BLUE-Jのタイミング解析(6270例、早期24時間以内/待機24〜48時間/晩期48〜120時間)では、早期は活動性所見を多く見つけ在院を短縮したが、30日再出血はむしろ増え(早期対待機 OR 1.35)、死亡・IVR・手術は変わらなかった

図5:早期(24時間以内)大腸内視鏡の功罪(緑=+・灰=不変・赤=マイナス)

アウトカム 早期(24時間以内)で 判定
活動性所見(SRH)の検出 増える
在院日数 短くなる
30日再出血 むしろ増える
死亡・IVR・手術 変わらない 不変
不安定例(ショック指数1以上) IVR・手術が減る 早期が有益

無作為化試験でも同じ。Niikura RCT(Gastroenterology 2020、170例)は、早期(24時間以内)と待機で、活動性所見の同定率も30日再出血も差がなかった。

国際も一致、例外は不安定例

ACG 2023は「安定例は緊急内視鏡不要(自然止血後14日以内でよい)」、ESGE/BSGも安定例への早期ルーチンは推奨しない。

早期が効くのは不安定例だけ。CODE BLUE-Jのサブ解析で、ショック指数1以上・全身状態不良の群では早期がIVR・手術を減らした。

実務メッセージは、安定していれば翌日以降の内視鏡でよい。夜間に無理して大腸内視鏡をしても、前処置が不十分で視野も得にくい。

4蘇生・輸血・抗血栓薬

輸血は上部と同じく制限的。Hb 7で開始し目標7〜9(心血管疾患があれば8を考慮)。下部消化管出血のガイドライン(ACG/ESGE/BSG)も明記している。

トランサミンは下部でも使わない。ACG 2023は抗線溶薬を血栓・痙攣リスクから回避と明記しており、上部のHALT-ITと同じ立場。

抗血栓薬は「続ける/止める」を分ける

二次予防のアスピリン(確立した心血管疾患)は続ける。一次予防のアスピリンや憩室出血後のNSAIDsは止める。VTE・脳梗塞後の抗凝固は止血後に再開する。P2Y12阻害薬は循環器と相談(ACG 2023)。

5憩室出血の止血 ― 責任憩室を見つけて

まず責任憩室の同定。造影CTの血管外漏出や、内視鏡での活動性出血・露出血管・付着血餅を手がかりにする。

内視鏡的止血(日本の大腸憩室症ガイドライン2017)は、クリップは出血点を直接はさむ「直達法」が、憩室口をふさぐ「縫縮法」より再出血が少ない傾向。内視鏡的バンド結紮術(EBL)はIVR・外科への移行が少ない有効な選択肢(まれに遅発性穿孔の報告)。

止まっている憩室を無理に攻めない

多くは自然に止まる。見つからない・止血済みの憩室を無理に処置しない。再出血が多い点は患者・家族にもあらかじめ説明しておく。

6難治・再出血 ― 塞栓へ、外科は最後

内視鏡で止まらない・責任部位が同定できない大量出血はIVR(経カテーテル動脈塞栓術)へ。CODE BLUE-JでもIVRは2.1%、外科は1.4%と少ないが、必要な場面はある。

順番は上部と同じ発想で、内視鏡 → IVR → 外科。外科(結腸切除)は最終手段。

7帰せる人は帰す ― Oaklandスコア

Oaklandスコア(年齢・性別・下部消化管出血の既往・直腸診での血液・心拍数・収縮期血圧・Hbの7項目)が8点以下なら、安全に退院・外来精査を検討できる(ACG 2023・BSG)。

上部のGBSと同じ発想

低リスクを見極めて帰す。下部は致死率が低いぶん、この「帰す」判断がとくに効く

8やりがちな失敗とTake home

1 血便でとりあえず夜間に緊急大腸内視鏡 安定なら急がない。早期でも再出血は減らず、前処置も不十分。
2 不安定なのに内視鏡にこだわる まず造影CT。血管外漏出をとらえてIVRへ。
3 腎機能が悪いから造影を一律に避ける/逆に止まっているのに造影 軸は腎機能より「今出ているか」。eGFR≥30や透析はためらわず、eGFR<30や停止例は単純+内視鏡で可。
4 大量血便を下部と決めつける ショックを伴う大量血便は上部大量出血のことがある。上部を除外。
5 止血目的にトランサミン 下部でも使わない(ACGも回避)。
6 出血後だからと抗血小板薬を一律中止 二次予防のアスピリンは続ける。
7 低リスクも全例入院 Oakland ≤8は外来を検討。

Take home

  1. 下部の6割は憩室出血。致死率は低いが再出血が多く、多くは自然止血
  2. 安定なら大腸内視鏡を急がない(早期でも再出血は減らない=CODE BLUE-J/Niikura)。急ぐのは不安定例だけ
  3. 不安定・活動性は内視鏡より先に造影CT → IVR/内視鏡へ
  4. 輸血は制限的(Hb 7)、トランサミンは使わない、二次予防アスピリンは続ける
  5. 低リスク(Oakland ≤8)は帰宅を検討
参考文献
  • Nagata N, Kobayashi K, Yamauchi A, et al. Nationwide large-scale data of acute lower gastrointestinal bleeding in Japan: CODE BLUE-J Study.(日本49病院10,342例)
  • Shiratori Y, Ishii N, Aoki T, et al. Timing of colonoscopy in acute lower GI bleeding: a multicenter retrospective cohort study. Gastrointest Endosc. 2023;97:89-99.
  • Niikura R, Nagata N, Yamada A, et al. Efficacy and Safety of Early vs Elective Colonoscopy for Acute Lower Gastrointestinal Bleeding. Gastroenterology. 2020;158:168-175.
  • Sengupta N, Feuerstein JD, Jairath V, et al. ACG Clinical Guideline: Management of Patients With Acute Lower Gastrointestinal Bleeding. Am J Gastroenterol. 2023;118:208-231.
  • 日本消化管学会. 大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン2017.
  • Oakland K, et al. Derivation and validation of a novel risk score for safe discharge after acute lower gastrointestinal bleeding (Oakland score). Lancet Gastroenterol Hepatol. 2017.
  • Davenport MS, et al. Use of Intravenous Iodinated Contrast Media in Patients With Kidney Disease: Consensus Statements from the ACR and the National Kidney Foundation. Radiology. 2020;294:660-668.

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aas
野戦寄りの病院で救急医をしております。

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