吐血・タール便は救急の頻出主訴で、研修医が最初に一人で向き合わされる出血でもある。ところが現場の「反射」――夜間でも高リスクなら緊急で内視鏡、止血目的にトランサミン、Hbが下がってきたから早めに輸血――は、この10年の質の高い試験でことごとく「しなくていい・むしろ避ける」に置き換わった。この記事は、非静脈瘤性の上部消化管出血について、ERでの初期対応をエビデンスで整理する。芯は3つ、急がない・止血薬に頼らない・帰せる人は帰す。
この記事の芯
高リスクでも「緊急」内視鏡(6時間以内)は要らない。血行動態を立て直して24時間以内でいい――これがLau(NEJM 2020)の答え。
もう一つの芯は薬で、止血目的のトランサミンはやめる。HALT-ITで死亡は減らず、高用量では血栓と痙攣が増えた。日本の添付文書にも消化管出血の適応はない。
この記事でわかること
- 高リスク(GBS高値)でも緊急内視鏡(6時間以内)は死亡・再出血を減らさない。24時間以内でよい
- 初期蘇生に反応しない持続ショックだけは別枠(緊急止血・IVR)
- 止血目的のトランサミンはルーチンで使わない(HALT-IT:死亡不変、高用量で血栓・痙攣増)
- 輸血は制限的に。Hb 7で開始し目標7〜9(日本の内視鏡GLは目標Hb 8)
- 低リスク(GBS 0〜1)は外来フォローで帰宅を検討できる
- アドレナリン局注は単独で打たない。止血後は高用量PPIを持続でも間欠でも3日
- タケキャブ(ボノプラザン)は注射剤がない → 急性期は静注PPI、その後経口P-CABへ
- 肝硬変の消化管出血には抗菌薬(セフトリアキソン)を併用。死亡・感染・再出血を減らす
1タイミング ― 高リスクでも「緊急」内視鏡は要らない
Lau(NEJM 2020)は、Glasgow-Blatchford score(GBS)12以上の高リスク516例を、緊急内視鏡(6時間以内)と早期内視鏡(6〜24時間)に無作為化した。
結果は、30日死亡が8.9%対6.6%(有意差なし)、再出血も差なし。緊急群のほうが活動性の病変を多く見つけ止血処置も多かったが、それが予後改善にはつながらなかった。むしろ早期群は一晩の酸分泌抑制を受け、活動性病変が減っていた。
図1:初期対応の「する/しない」判定(緑=してよい・黄=弱い・灰=No Benefit・赤=避ける)
| 場面 | 判定と根拠 |
|---|---|
| 蘇生・気道確保を最優先 | してよいまず輸液・輸血で血行動態を立て直す。初期蘇生に反応しない持続ショックは緊急止血・IVRへ |
| 緊急内視鏡(6時間以内) | No Benefit高リスクでも死亡・再出血を減らさない(Lau NEJM 2020) |
| 内視鏡は24時間以内 | してよい血行動態を安定させてから。夜間の無理な緊急は不要 |
| 制限的輸血(Hb 7で開始) | してよい目標7〜9。自由輸血より生存改善(Villanueva)。日本の内視鏡GLは目標Hb 8 |
| トランサミン(止血目的) | 避ける死亡を減らさず、高用量で血栓・痙攣が増える(HALT-IT)。日本でも消化管出血は適応外 |
| エリスロマイシン前投与 | 弱い胃内をクリアし視野改善(国際は推奨)。日本は保険適応外で一般的でない |
国際も日本も「24時間以内」で一致
ACG 2021も、日本の非静脈瘤性UGIB内視鏡ガイドライン(第2版)も、そろって「血行動態を安定させたうえで24時間以内」を推奨している。緊急でやる根拠はない。
例外は、初期蘇生に反応しない持続的な低血圧・出血。これはこの試験の対象外で、緊急内視鏡・IVR・外科を待たない。実務の合言葉は「高リスクだから今すぐ夜間に」ではなく、まず蘇生、そして24時間以内。
2蘇生と輸血 ― 下げ止まるまで待つのは輸血も同じ
輸血も「急がない」。Villanueva(NEJM 2013)は急性上部消化管出血921例で、制限的(Hb 7で開始・目標7〜9)と自由(Hb 9で開始・目標9〜11)を比較した。
6週死亡は制限群5%対自由群9%、再出血は10%対16%。いずれも制限的のほうが良い。ACG 2021は閾値Hb 7を推奨し、日本の内視鏡ガイドラインも「心血管疾患のないUGIBは目標Hb 8」と、実質同じ制限的戦略をとる。
ただし個別化
これは「開始閾値7・目標7〜9」の話。活動性の大量出血や虚血性心疾患がある例は、この限りではなく個別に上げる。
もう一点。静脈瘤を疑ったら別ルート。既知の肝硬変・肝硬変所見・静脈瘤出血歴があれば、内視鏡を待たずに血管作動薬と予防的抗菌薬を先行する(詳細は静脈瘤の回で扱う)。
肝硬変の消化管出血には抗菌薬(CTRX)を忘れない
肝硬変+消化管出血では、予防的抗菌薬が全死亡(RR 0.79)・細菌感染(RR 0.36)・再出血(RR 0.53)を減らす。血管作動薬とセットで、来院早期から始める。
第一選択はセフトリアキソン(CTRX)1 g/日 静注、最大7日(進行肝硬変・キノロン耐性地域で優先。代替はノルフロキサシン経口)。研修医がいちばん抜かしやすい”3点セット”の3つ目が、この抗菌薬。
3薬 ― トランサミンをやめる、PPIとP-CAB
トランサミンは「止血薬」ではない
HALT-IT(12,009例)で、トラネキサム酸は5日以内の出血死を減らさず(差なし)、高用量では静脈血栓塞栓症と痙攣が増えた。
日本の注射剤の添付文書にも「消化管出血」の適応はない(局所線溶の異常出血は肺・鼻・性器・腎・前立腺のみ)。止血目的のルーチン投与はしない。肝硬変の静脈瘤出血で止血失敗を減らすという単施設RCTはあるが、死亡は変わらず、一般化はできない。
図2:止血後の酸分泌抑制の流れ
| タイミング | 薬剤 | ポイント |
|---|---|---|
| 内視鏡前 | PPI(任意) | 病変を軽くしうるが必須ではない(ACGは態度保留) |
| 止血直後〜3日 | 高用量PPI(静注) | 持続でも間欠でも可(例:80 mgボーラス→8 mg/時) |
| 以後2週間まで | PPI 1日2回 | 高リスク潰瘍の再出血予防 |
| 経口が入るようになったら | P-CAB(ボノプラザン)へ | タケキャブは注射剤がない。急性期は静注PPI→経口はP-CABが選択肢 |
PPIの使い方は図2のとおり。内視鏡前のPPIは病変を軽くしうるが必須ではない(ACGは態度保留)。止血後は高用量PPIを持続でも間欠でも3日、その後は1日2回を2週間まで。
日本発のP-CABであるボノプラザン(タケキャブ)は注射剤がなく経口のみ。だから急性期の絶食中は静注PPIで、経口が入るようになったらP-CABへ切り替えるのが現実的。止血後の再出血予防で経口ボノプラザンが静注PPIに非劣性というアジア発RCTもある。
エリスロマイシン前投与は、胃内の血液を送り出して視野を良くする目的で国際(ACG)は推奨するが、日本では消化管出血への保険適応がなく一般的でない。知識として知っておく。
4内視鏡止血 ― 適応とアドレナリン単独禁止
止血処置の適応はForrest分類で決まる(図3)。噴出性(Ⅰa)・湧出性(Ⅰb)・非出血性露出血管(Ⅱa)は止血、付着血餅(Ⅱb)は洗浄して高リスクなら処置、きれいな潰瘍底(Ⅱc/Ⅲ)は処置不要。
図3:内視鏡止血のForrest別マップ(緑=止血・黄=洗浄し評価・灰=不要・赤=避ける)
| Forrest分類・局注 | 所見 | 処置 |
|---|---|---|
| Ⅰa 噴出性出血 | 動脈性に噴き出す | 止血する |
| Ⅰb 湧出性出血 | じわじわ湧き出す | 止血する |
| Ⅱa 非出血性露出血管 | 血管が露出(NBVV) | 止血する |
| Ⅱb 付着血餅 | 血餅が付く。洗い流して評価 | 洗浄→高リスクなら処置 |
| Ⅱc/Ⅲ | 黒色底・きれいな潰瘍底 | 処置は不要 |
| アドレナリン局注 単独 | 単独では再出血が多い | 避ける(クリップ・熱凝固を必ず併用) |
アドレナリン局注は「単独では打たない」
アドレナリン局注は単独だと再出血が多い。必ずクリップや熱凝固(ヒータープローブ・バイポーラ)などを併用する(ACG強い推奨、日本の内視鏡GLも同旨)。
止血後は高用量PPIを3日、以後2週間は1日2回(s3)。ルーチンのsecond-look(計画的二次内視鏡)は国際的に非推奨で、日本のガイドラインも明示的には推奨していない。再出血の兆候が出たら再内視鏡を行う。粉末止血剤(TC-325)やover-the-scope clipは、活動性出血や再出血例の選択肢になる。
5低リスクは帰す ― GBSで入院を決める
Glasgow-Blatchford score(GBS)が0〜1なら、介入・輸血・死亡のリスクが極めて低く、外来フォローで帰宅を検討できる(ACG)。日本の内視鏡GLもGBS 0(または2以下)を低リスクの目安として挙げている。
GBSは尿素(BUN)・Hb・収縮期血圧・脈拍・黒色便・失神・肝疾患・心不全の8項目から計算する。特別な検査は要らず、来院時のバイタルと採血だけで出せるのが利点。内視鏡所見は使わないので、内視鏡の前に「帰せるか」を判断できる。
図4:Glasgow-Blatchford score の配点(0〜1点で低リスク=帰宅を検討)
| 項目・基準 | 点 |
|---|---|
| 血中尿素 BUN(mg/dL) 18〜22 / 22〜28 / 28〜70 / 70超 | 2 / 3 / 4 / 6 |
| Hb 男(g/dL) 12〜13 / 10〜12 / 10未満 | 1 / 3 / 6 |
| Hb 女(g/dL) 10〜12 / 10未満 | 1 / 6 |
| 収縮期血圧(mmHg) 100〜109 / 90〜99 / 90未満 | 1 / 2 / 3 |
| 脈拍 100以上 | 1 |
| 黒色便あり | 1 |
| 失神あり | 2 |
| 肝疾患あり | 2 |
| 心不全あり | 2 |
| 合計0〜1点=低リスク(外来フォローで帰宅を検討) | 0–1 |
GBSは「帰せるか/入院か」の道具
高値は「今すぐ緊急内視鏡」ではなく「入院して24時間以内」の意味。GBSは帰宅の可否と入院の要否を分ける道具であって、何時に内視鏡をするかを決める道具ではない。
6止血できないとき ― 再内視鏡から塞栓へ
再出血したら、まず再内視鏡と止血処置(外科やTAEより先、ACG)。それも失敗したら経カテーテル動脈塞栓術(TAE)を外科手術より先に選ぶ。外科は最終手段。
この順番――再内視鏡 → IVR(塞栓) → 外科――を、最初のオーダーの時点で頭に置いておくと動きが速い。
内視鏡で出血源が同定できない・大量で視野が取れないときは、IVRに進む前に造影CT(多相)で漏出を同定すると塞栓が狙いやすい。造影CTは0.3〜0.5 mL/min以上の活動性出血がないと血管外漏出を写せないので、出ているうちに撮るのが鍵。各相で見にいくものはこう。
図5:多相造影CTで各相が見にいくもの
| 相 | 見にいくもの |
|---|---|
| 単純 | もともとの高吸収(石灰化・クリップ・残留造影剤)を把握し”引き算の基準”に。凝血塊が高吸収に写れば責任部位の当たり(感度は低い) |
| 動脈相 | 活動性の血管外漏出(extravasation)=いま出ている点。責任血管・血管性病変(Dieulafoy など) |
| 遅延相(門脈相) | 漏出が消化管内で増える/移動するのを確認。動脈相で写らない遅い(静脈性)出血を拾う |
7日本 vs 国際 まとめ
この記事の芯を1枚に。多くは日本と国際で方向が一致しているが、トランサミンとエリスロマイシンは実務にズレが残る。
図6:日本 vs 国際(非静脈瘤性UGIB)
| 項目 | 日本(内視鏡GL・添付文書) | 国際(ACG 2021 ほか) |
|---|---|---|
| 緊急内視鏡 | 血行動態安定後24時間以内 | 24時間以内(緊急6時間以内は死亡を減らさず=Lau) |
| トランサミン | 消化管出血は適応外(現場では使われがち) | 非推奨(HALT-IT:死亡不変・血栓増) |
| エリスロマイシン前投与 | 保険適応外・一般的でない | 推奨(視野改善) |
| 輸血 | 目標Hb 8(制限的) | 閾値Hb 7・目標7〜9(制限的) |
| 止血後の酸分泌抑制 | 静注PPI→経口P-CAB(ボノプラザン、注射なし) | 高用量PPI 3日(持続/間欠) |
| アドレナリン局注 | 単独不可・他法を併用 | 単独不可・他法を併用 |
8やりがちな失敗とTake home
| 1 高リスクだからと夜間に緊急内視鏡 | 蘇生を優先し24時間以内でよい。緊急(6時間以内)は死亡・再出血を減らさない。 |
| 2 止血目的にトランサミンを投与 | ルーチンでは使わない。死亡は不変で、高用量は血栓・痙攣増。日本でも適応外。 |
| 3 Hbが下がってきたから早めに輸血 | 活動性でなければHb 7まで待つ。目標7〜9(日本は目標8)。 |
| 4 アドレナリン局注だけで止血 | 単独は再出血が多い。クリップ・熱凝固を必ず併用。 |
| 5 低リスクなのに全例入院 | GBS 0〜1は外来フォローで帰宅を検討。 |
| 6 止血できずすぐ外科コール | 再出血は再内視鏡、ダメならTAE、外科は最後。 |
| 7 肝硬変の出血で抗菌薬を忘れる | CTRX 1g/日を血管作動薬とセットで。死亡・感染・再出血が減る。 |
Take home
- 急がない:蘇生を立て直し、緊急(6時間以内)ではなく24時間以内の内視鏡。持続ショックだけは別枠
- 止血薬に頼らない:トランサミンはルーチンで使わない(HALT-IT、日本でも適応外)
- 帰せる人は帰す:GBS 0〜1は外来フォロー
- 輸血は制限的(Hb 7で開始・目標7〜9、日本は目標8)
- 止血はアドレナリン単独禁止+高用量PPI 3日。止血後はP-CABへ、再出血は再内視鏡→TAE
参考文献
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- Villanueva C, Colomo A, Bosch A, et al. Transfusion Strategies for Acute Upper Gastrointestinal Bleeding. N Engl J Med. 2013;368:11-21.
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- 日本消化器病学会. 消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版).
- トランサミン注(トラネキサム酸)電子添文(効能・効果).
- Chavez-Tapia NC, et al. Antibiotic prophylaxis for cirrhotic patients with upper gastrointestinal bleeding (Cochrane review). 抗菌薬で全死亡RR 0.79・感染RR 0.36・再出血RR 0.53。セフトリアキソン1g/日 静注 最大7日。
消化管出血シリーズ
- 上部消化管出血の対応(この記事)
