呼吸器

人工呼吸器②-グラフィックス-

人工呼吸器のグラフィック、ちゃんと見ていますか。
初期設定編で「数字」を、メカニクス編で「経肺圧やドライブ」を扱いました。そのちょうど中間にあるのが、モニターに常時流れている3本の波形です。ここには、食道バルーンを入れなくても、計算しなくても読み取れる情報が詰まっています。
この記事は、圧・流量・換気量の波形から「今この患者に何が起きているか」を目で読むための一本です。


この記事でわかること

  • 3つの波形(圧・流量・換気量)が何を表しているか
  • 波形だけで拾える異常——auto-PEEP、努力、非同調
  • 圧-量ループ・流量-量ループの見どころ

0前提:波形は“もう一つのバイタル”



数字(プラトー圧やΔP)は「点」の情報。波形は「動き」の情報です。アラームが鳴る前に、波形はもう変化しています。

グラフィックスの強みは非侵襲・リアルタイム・追加コストゼロであること。心電図モニターを常に見るのと同じ感覚で、換気の波形を“もう一つのバイタル”として眺める習慣をつけると、非同調や気道トラブルをアラームより早く捉えられます。
読むコツは一つだけ——「器械が送っている呼吸」と「患者が求めている呼吸」がズレていないかを常に問うことです。

13つの基本波形

時間を横軸に、圧・流量・換気量の3本が縦に並びます。まずそれぞれが何を語るかを押さえます(図1)。

1圧-時間波形(Paw)

気道内圧の時間変化。VCV(量規定)では圧が変動し、PCV(圧規定)では四角い台形になります。
VCVで吸気ホールドをかけると、ピーク圧からストンと落ちてプラトー圧で平らになる。このピークとプラトーの差=気道抵抗成分、プラトー−PEEP=駆動圧。波形上でこの2点を見るだけで、抵抗の問題かコンプライアンスの問題かが見えます。

2流量-時間波形(Flow)

最も情報量が多い波形。基線より上が吸気、下が呼気。吸気の形(矩形波か漸減波か)はモードを反映し、呼気の形は肺から息が抜けていく様子を映します。
ここで一番大事なのは「次の吸気が始まる前に、呼気フローが基線(ゼロ)まで戻っているか」。戻りきる前に次が来ていれば、息を吐ききれていない=auto-PEEPのサインです(→【2】)。

3換気量-時間波形(Volume)

吸気で上がり、呼気で基線に戻る山型。ここで見るのは「吸気量と呼気量が一致して基線まで戻るか」
呼気側が基線まで戻らないなら、リーク(カフ漏れ・回路の緩み・気管支胸膜瘻)を疑います。逆に基線より下に落ち込むなら、能動的な呼気やauto-triggeringの手がかりになることも。

図1:3つの基本波形(正常・VCV)

圧 Paw (cmH₂O)ピークプラトー(吸気ホールド)流量 Flow (L/min)0吸気呼気(基線に戻る)換気量 Volume (mL)吸気で上昇 → 呼気で基線へ

吸気ホールドをかけると、ピーク圧からプラトー圧へ落ちて平らになる。ピーク−プラトー=気道抵抗成分プラトー−PEEP=駆動圧。流量波形は呼気が基線(0)まで戻りきっているのが正常。

2波形で異常を拾う

ここが実践の中心です。波形の“形”と“ズレ”から、代表的な異常を拾っていきます。以下、実際の波形(図2〜図5)と並べて見てください。

① auto-PEEP(息が吐けていない)


見つけ方

流量波形の呼気側が、基線に戻る前に途中でぶつ切りにされて次の吸気が始まる——これがauto-PEEPの典型像です(図2)。COPD・喘息、あるいは呼吸数が速すぎる時に起きます。
確認は呼気ホールド:その間の気道内圧の上昇分が内因性PEEPの実測値。
対応は呼気時間を延ばす(呼吸数↓・吸気時間↓)、気管支拡張、分泌物除去。血圧低下やトリガー困難の隠れた原因として、常に候補に入れておきます。

図2:auto-PEEP(息が吐けていない)

流量 Flow0呼気フローが0に戻る前に次の吸気が始まっている

赤丸:呼気フローが基線(0)に戻りきる前に次の吸気が来ている=吐ききれていない。COPD・喘息や頻呼吸で。呼気ホールドで内因性PEEPを実測し、呼気時間を延ばす。

② 吸気努力(flow starvation)

患者の求める流量に器械が追いつかないと、圧波形の吸気部分が中央でへこみ、下にえぐれた形になります(図3/本来なめらかな山が、吸われて凹む)。VCVで固定流量にしている時に起きやすい。
患者は「吸いたいのに吸わせてもらえない」状態で非常に苦しく、見た目の“ファイティング”の正体がこれであることは多い。対応は吸気流量を上げる、漸減波に変える、PCV/PSVへ変更。鎮静を足す前に、まず波形を見て流量不足を疑うのが上級者の順序です。

図3:流量不足(flow starvation)

圧 Paw本来の形中央がえぐれる

患者の求める流量に器械が追いつかず、吸気の圧波形が中央でへこむ(点線=本来の形)。「吸いたいのに吸えない」苦しさで、ファイティングの正体はこれが多い。吸気流量↑・漸減波・PCV/PSV化で対応。鎮静を足す前に波形を見る。

③ 非同調を波形で見分ける

波形所見 考えられる非同調 対応の方向
圧波形に小さなくぼみ/流量に切れ込み、でも送気されない 無効努力(ineffective effort) auto-PEEP解消・鎮静を浅く・感度↑
1回の呼気を挟まず2連続で送気 二段呼吸(double trigger) 吸気時間↑・換気量/流量見直し
明らかな努力がないのに送気される auto-triggering 回路の水抜き・感度↓
吸気の圧波形が中央でへこむ 流量非同調(flow starvation) 吸気流量↑・波形変更・PCV化
呼気初めに圧の急な突出 遅いサイクリング(呼気努力) PSVのサイクルオフ%↑・吸気時間↓

図5:無効努力(ineffective effort)

流量 Flow0圧 Paw努力(くぼみ)はあるのに送気されない

呼気中に患者の吸う努力(流量のこぶ・圧のくぼみ)が出るのに、送気されない。最多原因はauto-PEEPと深すぎる鎮静。呼気時間を延ばす・PEEPで相殺・鎮静を浅く・感度↑。

図4:二段呼吸(double triggering)

換気量 Volume2回分が積み重なる(実質Vₜ倍増)

呼気を挟まず2回連続で送気され、1回の努力で換気量が倍に。地味だが肺傷害につながる。吸気時間↑・換気量/流量の見直し。「波形が2つずつ組になっている」と気づいたら要対応。


二段呼吸を軽視しない

double triggeringは見た目が地味ですが、1回の努力で2回分の換気量が積み重なるため、実質的な一回換気量が倍増し肺傷害につながります。「なんとなく波形が2つずつ組になっている」と気づいたら、放置せず設定を見直してください。

32つのループ

時間波形に加えて、2つの軸を組み合わせたループ表示も強力です。慣れると一目で状態が読めます(図6・図7)。

圧-量ループ(P-V loop)

  • 上端のくちばし(beaking)吸気の終盤で圧だけ上がり量が増えない=過伸展のサイン。一回換気量かPEEPを下げる検討を。
  • 下端の変曲点(lower inflection point)ここより下では肺胞が虚脱している可能性。かつてPEEP設定の指標とされたが、実際の設定への応用は限定的。
  • ループが寝てくる(傾き低下)コンプライアンス低下。肺水腫の悪化・無気肺・腹圧上昇など。経時比較で気づける。

図7:圧-量ループ(beaking=過伸展)

上端のくちばし(beaking)=圧だけ上がり量が増えない=過伸展傾き=コンプライアンス(寝れば悪化)

吸気終盤で圧だけ増えて量が増えない“くちばし”が出たら過伸展のサイン。一回換気量かPEEPを下げる。ループ全体の傾きはコンプライアンスで、寝てくれば悪化(肺水腫・無気肺・腹圧上昇)。

流量-量ループ(F-V loop)


2つの実用サイン

呼気側がギザギザ(のこぎり歯状)気道分泌物のサイン。吸引で消えることが多く、吸引すべきかの客観的な手がかりになります。
呼気側が基線に戻る前にループが閉じてしまう呼気フロー制限/auto-PEEP。気管支拡張薬への反応を、ループの形の変化で評価することもできます。

図6:流量-量ループ(のこぎり歯=分泌物)

吸気呼気呼気側がギザギザ=気道分泌物 → 吸引

呼気側ののこぎり歯状の振動は分泌物のサイン。吸引で消えることが多く、「吸引すべきか」の客観的手がかりになる。上側の吸気ループは通常なめらか。

読む順番

  1. まず流量波形の呼気側基線に戻りきっているか。戻っていなければauto-PEEPを疑い、呼気ホールドで実測。
  2. 圧波形の吸気の形中央がへこんでいれば流量不足。四角がきれいに保たれているか。
  3. 努力と送気のズレくぼみがあるのに送気されない=無効努力。2連続=二段呼吸。
  4. 換気量波形の呼気の戻り基線に戻らなければリークを疑う。
  5. ループで仕上げP-Vループでbeaking(過伸展)、F-Vループでのこぎり歯(分泌物)をチェック。

やりがちな失敗

アラームが鳴ってから初めて画面を見るファイティング=鎮静不足と即断して波形を見ない/ピーク圧の上昇だけで換気量を下げる(プラトーを確認していない)/auto-PEEPを見逃して昇圧剤を足す。波形を“もう一つのバイタル”として日常的に眺めていれば、いずれも避けられます。

まとめ:一段落で言うと



Take home

波形は非侵襲・リアルタイム・タダの“もう一つのバイタル”。圧・流量・換気量の3本と、P-V/F-Vの2ループで、食道バルーンも計算もなしに多くのことが読める。

合言葉は「器械の呼吸と患者の呼吸がズレていないか」。呼気フローが基線に戻るか(auto-PEEP)、吸気の圧がへこまないか(流量不足)、努力と送気が一致しているか(非同調)——この3点を毎回見るだけで、アラームより早く動けます。次の【上級編】では、この波形の裏にある経肺圧・ドライブ・mechanical powerへ進みます。

参考文献
  • Dexter AM, Clark K. Ventilator Graphics: Scalars, Loops, & Secondary Measures. Respir Care 2020;65:739.
  • Mireles-Cabodevila E, et al. Ventilator waveform interpretation. Cleve Clin J Med.
  • Georgopoulos D, et al. Bedside waveforms interpretation as a tool to identify patient-ventilator asynchronies. Intensive Care Med 2006;32:34.
  • Blanch L, et al. Asynchronies during mechanical ventilation and outcomes. Intensive Care Med 2015;41:633.
  • Nilsestuen JO, Hargett KD. Using ventilator graphics to identify patient-ventilator asynchrony. Respir Care 2005;50:202.
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野戦寄りの病院で救急医をしております。

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