「プラトー圧は30以下、駆動圧も15以下。それでも良くならない」——あるいは逆に「プラトー圧が35あるが、この患者は本当に危ないのか」。標準管理を守っているのに判断に迷う場面が、上級編の入り口です。
人工呼吸器シリーズの3回目は、気道内圧という間接的な指標から一歩踏み込みます。肺が実際に受けている圧(経肺圧)、患者自身が出している力(呼吸ドライブと努力)、肺に注ぎ込まれている総エネルギー(mechanical power)。いずれも数値で捉えられます。
先に断っておくと、ここで扱う道具は「全例に適用するプロトコル」としてはRCTで勝てていません。それでも学ぶ価値がある理由は、最後に書きます。
この記事でわかること
- 経肺圧=肺にかかる本当の圧。stress と strain の考え方
- 呼吸ドライブの定量(P0.1・ΔPocc)と lung and diaphragm protective ventilation
- mechanical power とリクルータビリティ(R/I比・EIT)
- 式を使うときの前提条件——単位と換気モードで答えが変わる
0前提:気道内圧の限界
プラトー圧は「肺+胸壁」を膨らませるのに要した圧。肺だけにかかる圧ではありません。ここを分けられると、管理の解像度が一段上がります。
呼吸器系は肺と胸壁が直列につながったバネです。気道内圧はその両方を押し広げるのに使われる。したがって、
PL = 気道内圧 − 胸腔内圧(胸腔内圧の代用として食道内圧 Pes を測る)
これが肺胞壁が実際に受けている張力=stressです。
だから、腹腔内圧上昇・肥満・胸水・胸郭コンプライアンス低下がある患者では、プラトー圧が高くてもPLは低い(=肺は無事)ことがある。逆に、強い自発呼吸で胸腔内圧が大きく陰圧になると、気道内圧が同じでもPLは跳ね上がります。
図1:同じ気道内圧でも肺が受ける圧(PL)は変わることを示す模式図
もう一つの概念:strain
strain(ひずみ)= 一回換気量 ÷ 呼気終末肺気量。同じ換気量でも、使える肺(baby lung)が小さいほどstrainは大きくなります。
stressとstrainは表裏一体で、ΔPが優れた指標である理由もここにあります(ΔP=VT/C は strain の代理)。
strainの分母は「機能的残気量」と説明されることが多いのですが、正確にはその時点の呼気終末肺気量(EELV)です。またstrainには、PEEPによって押し広げられている分(static strain)と、一回換気で伸び縮みする分(dynamic strain)があります。臨床では後者が主役ですが、高PEEPをかけているときは前者も無視できません。
1経肺圧を使う
2つの目標値
- 吸気終末 PL < 20〜25 cmH₂O過伸展(volutrauma)を避けるための上限。プラトー圧30の壁を、胸壁の影響を除いて評価し直す。
- 呼気終末 PL ≧ 0 cmH₂O虚脱と再開通の繰り返し(atelectrauma)を避ける下限。ここを満たすPEEPを探す、というのが食道内圧ガイド戦略の発想。
EPVent-2 の教訓
中等症〜重症ARDSで、食道内圧ガイドのPEEP設定と経験的な高PEEP-FiO₂戦略を比較した北米14施設・200例のphase 2ランダム化試験です(JAMA 2019)。死亡・人工呼吸器離脱日数を組み合わせた主要評価項目に差はありませんでした。
ただしレスキュー治療を要した患者は有意に少なかった——4/102(3.9%)vs 12/98(12.2%)、リスク差 −8.3%(95%CI −15.8〜−0.8)、P=0.04。
EPVent-2は第2相試験です。死亡を検出するための検出力で設計されていません。「差がなかった」を「効果がないことの証明」と読むのは、検出力の足りない陰性試験でよくある誤りです。
post hoc解析が示したもの
2021年の再解析(Sarge T, et al.)は、この試験の見方を変えました。
| 層 | 食道内圧ガイドPEEPの効果 |
|---|---|
| APACHE-II が中央値未満 | 死亡率が低い(HR 0.43、95%CI 0.20–0.92) |
| APACHE-II が中央値以上 | 逆の効果があった可能性(HR 1.69、95%CI 0.93–3.05) |
さらに、治療群や多臓器不全の重症度とは独立して、PEEP調整によって呼気終末経肺圧が0 cmH₂O付近になったときに死亡率が最も低かったと報告されています。
つまり——軽症では有益、重症ではむしろ有害かもしれない。そして目標(PL≒0)に到達できたかどうかが、群の割り付けよりも重要だったかもしれない。仮説生成的な解析ではありますが、「誰に測るか」を考えるうえで示唆的です。
「全例に食道バルーンを入れてPEEPを決める」戦略は支持されませんでした。しかし経肺圧という概念が無効になったわけではない。
実務的な落とし所は、気道内圧の解釈に困る症例を選んで測ることです——高度肥満、腹部コンパートメント症候群、大量腹水、胸郭損傷、そしてプラトー圧が高いが本当に危険か判断できない時。全例スクリーニングではなく、鑑別のための検査として使う。
2呼吸ドライブと努力を測る
前回触れたP-SILIを、ここでは数値で捉えます。「強い自発呼吸が肺を壊す」と言われても、どこからが“強い”のかが分からなければ手が出せません。
図2:呼吸ドライブ・努力の指標と「両側の崖」を示す模式図
P0.1:ドライブの指標
気道を閉塞して最初の0.1秒間に生じる陰圧。0.1秒という短さゆえ、患者の意識的な反応や呼吸筋力の影響を受けにくく、呼吸中枢の出力(ドライブ)をよく反映します。多くの人工呼吸器でボタン一つで測定可能です。
| P0.1 | 解釈 | 対応 |
|---|---|---|
| < 1.0 cmH₂O | 低努力の検出閾値(感度100%・特異度92%) | 過鎮静・過剰サポート → 横隔膜萎縮のリスク |
| 1.0 〜 1.5 | グレーゾーン | 他の指標と併せて判断 |
| 1.5 〜 3.5 | 提案されている目標域 | 維持 |
| > 3.5〜4.0 cmH₂O | 高ドライブ(>3.5で感度80%・特異度77%) | P-SILIリスク → 原因検索と介入 |
「<1.0」は低努力を検出するための閾値であって、目標域の下限ではありません。目標として提案されているのは1.5〜3.5です。混同しやすいので分けて覚えてください。
ΔPocc:努力(effort)の指標
呼気ホールド中に患者が吸おうとした際の、気道内圧の落ち込み(ΔPocc)。食道内圧を入れなくても吸気努力の大きさを推定できるのが利点です。
目安としてΔPoccが −15 cmH₂O より陰性が強いなら、過大な吸気努力を疑います。ΔPesとの換算は予測Pmus ≒ −0.75 × ΔPocc。
過大な努力の検出ではP0.1より優れるとされます。実際、P0.1が0.9 cmH₂Oと大人しいのにΔPoccが−21 cmH₂Oだった、という乖離例が報告されています。ドライブ(P0.1)と努力(ΔPocc)は別物なので、両方見るのが安全です。
関連してPMI(pressure muscle index)は、吸気ホールドで吸気筋が発生した圧を推定する指標。安定したプラトーが取れる症例で有用です。
lung and diaphragm protective ventilation
ここから出てくるのが、この10年の重要な概念転換です。守るべきは肺だけではない。
- 努力が強すぎる大きな胸腔内陰圧、局所の過伸展、pendelluft、肺水腫(P-SILI)、そして横隔膜の負荷障害。
- 努力が弱すぎるわずか数日で横隔膜が萎縮し、離脱困難(VIDD)。
つまり鎮静で完全に黙らせるのも、放置して闘わせるのも間違い。中庸の努力を維持する——これが lung and diaphragm protective ventilation の考え方です。P0.1やΔPoccは、その「中庸」を数値で確認するための道具にほかなりません。
①原因を潰す(発熱・疼痛・不安・代謝性アシドーシス・低酸素・不適切な設定)→ ②サポート設定の調整(流量・吸気時間・PEEP)→ ③鎮静 → ④重症ARDSでは筋弛緩を検討。
いきなり③④に飛ばないのが要点です。
3mechanical power とリクルータビリティ
mechanical power:圧ではなく“総エネルギー”で見る
VILIは圧だけの関数ではありません。同じΔPでも、呼吸数が倍なら肺が受ける仕打ちも倍——この「時間あたりのエネルギー」をまとめたのがmechanical power(MP、J/min)です。
MP ≒ 0.098 × 呼吸数 × VT × {ピーク圧 −(プラトー圧 − PEEP)/ 2}
おおむね17 J/min前後が閾値として議論されます。
① VT の単位は「リットル」。0.098 は L・cmH₂O をジュールに換算する係数です。VT 450 mL の患者なら、式に入れるのは 0.45。うっかり 450 と入れると答えが1000倍になります。圧はすべて cmH₂O、呼吸数は 回/分。
② この簡易式は VCV(定常流)専用です。Gattinoniの計算法はVCVの矩形波を前提とした近似で、PCVでは流量が漸減性のため圧-容量ループの形が変わり、そのままでは使えません。PCVで算出するなら、van der Meijden や Becher の式を用います。
その代用指標が、Costaらの提案した「4×ΔP + 呼吸数」です。ARDS患者を対象とした解析で、この単純な足し算がmechanical powerと同等に死亡リスクを捉えたと報告されています。駆動圧と呼吸数さえ読めれば暗算できるのが利点です。
臨床的な含意はシンプルです——換気量を下げた代償に呼吸数を上げ続ければ、肺への総負荷は減っていないかもしれない。permissive hypercapniaが正当化される理由の一つがここにあります。
リクルータビリティ:開く肺か、開かない肺か
PEEPを上げるべきか下げるべきかは、その肺が開くか否かに依存します。ARTトライアル以降、無差別な高圧リクルートメントは推奨されません(気圧外傷と死亡増加)。そこで「開きやすさ」を測る試みが出てきました。
- R/I 比(recruitment-to-inflation ratio)高いPEEP(標準は15 cmH₂O)から低いPEEP(同5 cmH₂O)へ、1呼吸だけ下げる。その1回で余分に吐き出された量から、リクルートされていた肺容量を推定し、低PEEP時のコンプライアンスとの比をとる簡便法。特別な機器が要らず、ベッドサイドで実施可能。おおむね0.5を境に、高リクルータビリティ/低リクルータビリティと分けて考える。開かない肺に高いPEEPをかけても、開いている部分を過伸展させるだけ。
- EIT(電気インピーダンストモグラフィ)換気分布をリアルタイムに可視化し、過伸展と虚脱のバランスが最良のPEEPを探す。EITガイドのPEEP設定でmechanical powerが低下したとする報告もある。ただし普及度・コストの問題があり、現時点では「使える施設で、難渋例に」という位置づけ。
4結局どう使うか
- まず標準管理を外さない一回換気量 4〜8 mL/kg(予測体重/目標は6)、プラトー圧 <30、ΔP <15、PEEP表、重症なら早期腹臥位。上級の道具は“土台の上”に乗せるもの。
- 気道内圧の解釈に困ったら食道内圧高度肥満・腹圧上昇・大量腹水・胸郭異常。PL(吸気終末 <20〜25、呼気終末 ≧0)で判断し直す。全例には入れない。重症度が高い症例では有害の可能性も示唆されている点に留意。
- 自発呼吸があるならドライブと努力を測るP0.1(<1.0で低努力、1.5〜3.5が目標域、>3.5〜4.0で過剰ドライブ)と ΔPocc(−15 cmH₂Oより陰性が強ければ過大努力)。強すぎも弱すぎも避ける。
- 呼吸数を上げる時はMPを意識4×ΔP+RR を暗算して、総負荷が増えていないか確認。厳密なMP計算はVCVで、VTはリットルで。CO₂は許容範囲で妥協する。
- PEEPで迷ったらリクルータビリティR/I比を測る(15→5へ1呼吸だけ下げる)、あるいはEITが使えるなら可視化する。開かない肺に高PEEPを重ねない。
上級編を学ぶ意味
これらの指標は、いずれも「全例に適用するプロトコル」としてはRCTで勝てていません(食道内圧しかり、駆動圧しかり)。それでも学ぶ価値があるのは、目の前の一人が標準管理から外れた時に、何が起きているかを説明できるようになるからです。
プロトコルは平均的な患者のためにあり、生理学は例外の患者のためにある——上級編の本質はここだと思います。
1. 気道内圧は肺にかかる圧ではない。肺が受ける本当の圧は経肺圧(PL=気道内圧−胸腔内圧)で、胸壁が硬い患者では高いプラトー圧が必ずしも危険を意味しない。食道内圧は全例ではなく、解釈に困る症例で測る。
2. 自発呼吸下ではP0.1(目標 1.5〜3.5)とΔPocc(−15より陰性で過大)でドライブと努力を数値化し、強すぎ(P-SILI)と弱すぎ(横隔膜萎縮)の両方の崖を避ける。
3. VILIは圧の問題であると同時にエネルギー(mechanical power)の問題で、呼吸数もその一部。ただし簡易式はVCV専用、VTはリットル。
4. PEEPの是非は、その肺が開くかどうかで決まる。
参考文献
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