ICU入室時、いつ経腸栄養を始めるか。昇圧薬を使っている患者に栄養を入れていいか。胃内残渣量が増えたら止めるべきか ― 重症患者の栄養療法は、知識としては知っていても、目の前の患者を前にすると小さな迷いが残る領域である。
2025年、日本集中治療医学会は「日本版重症患者の栄養療法ガイドライン2024(JCCNG2024)」を公表した。2016年版からの全面改訂で、GRADEシステムに基づき37のクリニカルクエスチョンに対して24の推奨が示されている。この記事は、その中身を場面別の動きに落とし込んだ実践ガイドである。
国際的な最新知見とJCCNG2024の間には、エネルギー投与量・タンパク質投与量・胃内残渣量の3点で差がある。その中身と、なぜ差が生まれたかは、姉妹記事「重症患者の栄養療法 2026」で詳しく扱う。この記事では、まずJCCNG2024が示す動きだけを押さえる。
この記事でわかること
- JCCNG2024で「強く推奨」されているのは、実は2つだけだということ
- 栄養を始める前に決めておくこと(栄養評価と、何kgで計算するか)
- ICU入室から48時間、いつ・どのルートで始めるか
- 循環動態が不安定なとき、経腸栄養をどうするか
- 経腸栄養が目標に届かないとき、経静脈栄養を足すべきか
- 下痢・嘔吐・胃内残渣量が引っかかったとき、止めるべきか続けるべきか
- リフィーディング症候群のリスクがある患者への、具体的な増量スケジュール
1まず結論:強く推奨されているのは2つだけ
日本集中治療医学会は2025年、日本版重症患者の栄養療法ガイドライン2024(JCCNG2024、日集中医誌 2025;32:S3)を公表した。2016年版からの改訂で、37のクリニカルクエスチョンに対して24の推奨がGRADEシステムで作られている。
まず知っておくとよいのは、成人に対する「強い推奨」が2つしかないという事実である。
JCCNG2024の「強い推奨」は、この2つだけ
・集中治療開始後48時間以内に経腸栄養を開始すること(CQ1-5、GRADE 1B)
・プレバイオティクスとシンバイオティクスを投与すること(CQ2-7-1がGRADE 1B、CQ2-7-3がGRADE 1C)
残りはすべて弱い推奨か、推奨を出さずに情報提示にとどまる背景疑問(BQ)である。
裏を返せば、この領域は「これをやれば正解」と言い切れることがきわめて少ない。だからこそ、どこまでが推奨で、どこからが各施設の裁量なのかを把握しておく価値がある。
日本の保険診療との関係
JCCNG2024は序文で、日本の保険診療における早期栄養介入管理加算が本ガイドラインに準拠した栄養療法を求めていることに触れ、それに見合う推奨を提示できるよう努めて作成した、と述べている。国際的なガイドラインとは、そもそも背負っているものが違う。
以下、場面ごとに見ていく。GRADEの読み方は、数字の1が強い推奨・強い非推奨、2が弱い推奨・弱い非推奨、アルファベットがエビデンスの確実性でAが高、Dが非常に低い、である。
2始める前に:栄養評価と、何kgで計算するか
栄養評価は必須
JCCNG2024は、重症患者の栄養療法を行う前に栄養評価を行うことは必要である、としている(CQ3-1)。これはGRADE推奨ではなくgood practice statement、つまり「介入の有益性が有害性を上回ることが極めて常識的で、RCTが倫理的に実施不可能であり、かつ強い推奨を出すべきと委員会が判断した」という位置づけである。
ここでいう栄養評価は、栄養スクリーニングと栄養アセスメントを合わせたものと定義されている。特定のツールは推奨されていないが、施設ごとに一定の評価方法を検討することが望ましい、とされている。重症患者では栄養状態を含む全身状態が日々変化するため、一度きりではなく繰り返し実施して随時計画に反映させる。
何kgで計算するか
意外と見落とされるのが、目標投与量を計算する体重である。JCCNG2024は、肥満や低体重を認める重症患者では、現体重・理想体重・調整体重を用いて目標投与量を設定するなど、個別に検討するとしている(CQ3-7)。
理想体重・調整体重の算出方法
・理想体重:日本の標準体重として、BMI 22 kg/m²なら22×身長(m)²、BMI 25 kg/m²なら25×身長(m)²。ESPENの式では男性0.9×[身長(cm)−100]、女性0.9×[身長(cm)−106]
・調整体重(ESPEN):理想体重+[0.2〜0.25×(実体重−理想体重)]
重症肥満患者では、現体重を用いるとoverfeedingになりうるため、理想体重あるいは調整体重といった補正体重を用いて、現体重より低い体重で算出することが推奨されている。とくにBMI 30 kg/m²以上ではこの配慮が要る。低体重患者では、リフィーディング症候群の発症に注意しつつ、推定エネルギー必要量よりも少ない量から開始し、過度なエネルギー負荷を避ける。
日本の肥満基準はWHOと違う
本邦の肥満症診療ガイドライン2022ではBMI 25以上を肥満、35以上を高度肥満としており、WHOの基準(30以上を肥満)とは異なる。日本人ではBMI 25以上で肥満関連合併症が増えることが背景にある。
3ICU入室〜48時間:いつ、どのルートで始めるか
いつ
消化管が使える患者では、集中治療開始後48時間以内に経腸栄養を開始する(CQ1-5、強く推奨、GRADE 1B)。JCCNG2024で成人に対する強い推奨は2つしかなく、そのうちの1つがこれである。
ただし推奨には注記が付いている。対象とした研究には、経腸栄養が使用できる患者のみが組み入れられていた。つまりこの推奨は「経腸栄養が可能な患者では早く始めよ」という意味であって、「何が何でも経腸栄養で」という意味ではない。
どのルートで
経静脈栄養よりも経腸栄養を行うことが推奨されているが、これは弱い推奨にとどまる(CQ1-2、GRADE 2C)。
ここは推奨の中身を知っておくと判断しやすい。36件のRCT(n=6,908)のメタ解析で、経腸栄養は敗血症を減らす一方(RR 0.57、95%CI 0.43〜0.77)、腸管虚血はむしろ増える(3件のRCT、n=4,861、RR 2.34、95%CI 1.07〜5.13、1,000人あたり7人多い)。委員会はこれらが拮抗していると考え、効果のバランスは「介入も比較対照もいずれも支持しない」と判断している。
では何が決め手になったか。費用対効果と必要資源量である。経腸栄養剤は食事療養費負担額として1食あたり110〜490円、経静脈栄養の1日あたりの薬価は1,000〜2,000円程度、という比較まで書かれている。
実務的に大事なのは、この推奨が弱いということである。次のような場合、経静脈栄養で始めることをためらう必要はない。
- 消化管に禁忌がある、あるいは機能していない
- 循環動態が不安定(4章参照)
- 経腸栄養の実施そのものが困難な状況
避けるべきは「遅らせる」こと
避けるべきなのは、経腸栄養にできないことを理由に栄養療法自体を遅らせることである。JCCNG2024も、一定期間経腸栄養が行えない重症患者では、唯一の栄養療法の手段となる経静脈栄養を行わないことは予後を悪化させるという考え方がある、と述べている(CQ1-10)。
図1:ICU入室から経腸栄養開始までの判断フロー(JCCNG2024 CQ1-2・1-5・1-6・1-10に基づく著者作成の簡略図)
経腸栄養が目標に届かないとき、経静脈栄養を足すか
日常的に発生する問いだが、JCCNG2024の答えは「足さない」である。
24ある推奨の中で、唯一エビデンスの確実性がAの推奨
経腸栄養での栄養投与量が不足している重症患者に経静脈栄養を併用しないことを弱く推奨する(CQ1-7、GRADE 2A)。エビデンスの確実性がAなのは、24ある推奨のうちこれ1つだけである。
ただし注記があり、対象となった研究の介入期間は集中治療開始後7〜9日目までであって、それ以降の併用については本推奨の対象外とされている。つまり「最初の1週間は無理に足さなくてよい」という理解が実務に近い。
4循環動態が不安定なとき
JCCNG2024は、循環動態不安定な重症患者において経腸栄養を行わないことを弱く推奨している(CQ1-6、GRADE 2D)。根拠は2件のRCTのメタ解析で、経腸栄養群では腸管虚血が増えていた。
ここで参考になるのが、根拠となった試験の患者背景である。NUTRIREA-2をはじめとするこれらの試験では、患者はノルアドレナリンを0.5 μg/kg/分を超える用量で使用していた。高用量の昇圧薬を要している時期に経腸栄養を進めることが、腸管虚血のリスクを高めるという構図である。
実務としての落とし所
昇圧薬を高用量で要している間は経腸栄養を無理に進めず、栄養が必要なら経静脈栄養を選ぶ、という判断でよい。昇圧薬が減量できてきた段階で経腸栄養へ移行する。
なお、どの程度の昇圧薬量までなら経腸栄養が可能かという閾値は、JCCNG2024には示されていない。国際的にはこの閾値をめぐる議論が進んでおり、そちらは姉妹記事で扱う。
5エネルギーとタンパク質の目標をどう決めるか
エネルギー
JCCNG2024の推奨はこうである。重症患者の治療初期において、エネルギー投与量は消費エネルギー量よりも意図的に少なくしないことを弱く推奨する(CQ1-3、GRADE 2B)。つまり、意図的に絞りにいくことは勧められていない。
この推奨には長い注記が付いている
対象とした研究では介入群・比較対照群ともに目標投与量よりも総じて少なく栄養が投与されたものを検討した結果であり、初期から消費エネルギーを目標とした量の栄養投与を推奨するものではない、と明記されている。本文でも、対照群でも初期から投与量が消費エネルギー量を超えている研究はない、と念を押している。
要するに、JCCNG2024が否定しているのは「意図的にさらに削ること」であって、「初期からフルドーズで満たすこと」を勧めているわけではない。
では具体的に何kcal/kgを目指すか。JCCNG2024自身は推奨として数値を示していない。ガイドライン内で参考として紹介されているのは次の2つである。
- ASPENガイドライン2016:間接熱量計が使えない施設では、体重をもとにした推算式で25〜30 kcal/kg/day
- ESPENガイドライン2023:推算式を使用する場合、最初の1週間は推定値の70%を超えない栄養投与が好ましい
間接熱量測定は弱く推奨、ただし国内の制約は大きい
消費エネルギー量の推定については、間接熱量測定を行うことが弱く推奨されている(CQ3-2、GRADE 2B)。ただしJCCNG2024自身が、国内で使用できる施設が限られること、間接熱量計の導入には数百万円を要し、1患者1回の測定ごとにランニングコストがかかり、現時点で保険収載がないため減価償却も期待できないこと、ECMOや高濃度酸素、気胸では精度が低下または測定困難なことを、率直に書いている。使える施設で使う、というのが現実的な落としどころだろう。
なお、初期のエネルギー投与量については、国際的にはJCCNG2024よりも制限的な方向の議論が進んでいる。この差については姉妹記事で扱う。
タンパク質
ここが今いちばん実務が揺れているところである。JCCNG2024は、標準を超えるタンパク質量(1.2 g/kg/day超)を投与することを弱く推奨している(CQ1-4、GRADE 2D)。エビデンスの確実性は非常に低い。
根拠は10件のRCTのメタ解析で、ICU滞在日数、感染性合併症、握力などで望ましい効果が「中」と判断された一方、短期死亡や人工呼吸期間への望ましくない効果は「小さい」と判断されている。
早く到達しすぎることへの懸念は、JCCNG2024自身も書いている
対象となったRCTでは、標準を超えるタンパク質投与群で2日目にはすでに目標投与量に達していた。この早い目標到達によって腎機能障害がある患者の予後を悪化させた可能性も考えられるため、投与量の設定に加えて至適な到達時期についても考慮する必要がある、とされている。あわせて、本CQでは腎機能障害がある患者のサブグループ解析は行っていない、とも明記されている。
実務上は、1.2 g/kg/dayを超える投与を目指すにしても、初日・2日目で一気に到達させにいく必要はない。とくに腎機能障害がある患者では慎重に扱いたい。
なお、JCCNG2024が参照しているESPENガイドライン2023は1.3 g/kg/day、ASPENガイドライン2022は1.2〜2.0 g/kg/dayを推奨している。JCCNG2024自身が、いずれのガイドラインにおいても明確な推奨を示す根拠は乏しく、どの程度に設定するかはさらなるRCTが必要である、と書いている。
タンパク質投与量は、JCCNG2024と2026年時点の国際的知見の差がもっとも大きい論点である。ここは姉妹記事で詳しく扱う。
6投与の実務:プロトコル・投与経路・投与方法・誤嚥対策
栄養投与プロトコルを用いた栄養療法を行うことが弱く推奨されている(CQ1-1、GRADE 2B)。開始・中止基準、栄養設計、合併症管理に関わる手順を事前にまとめておくことで、目標栄養量の達成率が上がる。JCCNG2024は、これが現行の早期栄養介入管理加算の要件にも含まれる介入であり、現行の診療体制において許容できると述べている。
投与経路については、経胃投与よりも幽門後投与をすることが弱く推奨されている(CQ1-8、GRADE 2D)。ただしエビデンスの確実性は非常に低く、全例で幽門後を目指すという話ではない。誤嚥リスクが高い症例で検討する、という位置づけが現実的である。
投与方法については、間欠投与よりも持続投与を行うことが弱く推奨されている(CQ1-9、GRADE 2D)。
誤嚥のリスクを下げる方法(CQ3-5)
持続投与、チューブ先端の位置を幽門後とすること、体位の工夫、薬物療法などが挙げられている。本文ではさらに具体的に、頭位挙上30〜45度、RASS −1〜1程度の浅鎮静、クロルヘキシジンによる口腔衛生の保持、カフ圧20〜30 mmHg、回路交換を必要以上にしないことが挙げられている。
やらなくてよいとされていること
1つは、誤嚥を防ぐ目的でルーチンに胃残量を計測すること。もう1つは、メチレンブルーなどの色素を用いて誤嚥の有無を確かめる方法で、これは感度が低く、誤嚥ハイリスク症例にとって検査による害が益を上回るため行わないほうがよい、とされている。処置時の経腸栄養中断も必須ではない。
7栄養素の選び方:シンバイオティクスと微量元素
シンバイオティクスは強い推奨
JCCNG2024で成人に対する強い推奨の2つ目がここにある。
- プレバイオティクスを投与することを強く推奨する(CQ2-7-1、GRADE 1B)
- シンバイオティクスを投与することを強く推奨する(CQ2-7-3、GRADE 1C)
- プロバイオティクスを投与することを弱く推奨する(CQ2-7-2、GRADE 2C)
日本の重症患者栄養で、もっとも明確に「やったほうがよい」介入
シンバイオティクスのメタ解析では、院内死亡率の減少、ICU滞在日数の短縮、人工呼吸期間の短縮、感染性合併症の減少が認められ、すべての有害事象は減少した。
一方で、投与しないことが弱く推奨されている栄養素もある。グルタミン強化経腸栄養(CQ2-2)、窒素源を意図した消化態栄養剤・成分栄養剤(CQ2-3)、アルギニン強化経腸栄養剤(CQ2-4)、高脂質・低糖質の経腸栄養剤(CQ2-5)、経静脈栄養中の脂肪乳剤の静脈投与(CQ2-6)である。いずれもGRADE 2Cまたは2Dで、確実性は高くない。ω-3系脂肪酸を強化した経腸栄養は、逆に行うことが弱く推奨されている(CQ2-1、GRADE 2C)。
微量元素は日本固有の事情がある
重症患者ではビタミン・微量元素欠乏のリスクが高く、適切に測定・補充を検討する。ただし深刻な欠乏が疑われない限り、1日必要量を大きく超えるような積極的な補充には注意を要する、とされている(CQ2-8)。
製剤事情の話は、日本で実務に効く
・本邦の高カロリー輸液用の複合微量元素製剤にはセレンが含まれていない。2019年から低セレン血症治療用のセレン注射薬が使えるようになった
・本邦には、銅欠乏に対して銅を単独で補充できる内服薬・静注薬が存在しない。補充が難しい
・亜鉛欠乏症には内服薬による補充が行われており、2024年に1日1回投与の治療薬が承認された
長期の中心静脈栄養や持続的腎代替療法を行っている患者では、これらの欠乏を意識しておきたい。
8うまくいかないとき
腸管不耐と胃内残渣量
経腸栄養がうまく進まないとき、まず知っておきたいのは、胃内残渣量(GRV)だけで判断してはいけないということである。
JCCNG2024は、腸管不耐の評価方法として、胃残量や胃残渣の性状、腹部理学所見、腹部超音波検査・腹部X線検査などの画像所見、乳酸値などを組み合わせて評価する方法がある、としている(CQ3-4)。これは推奨ではなく情報提示である。
本文では、GRVのモニタリング単独では腸管不耐を評価するには根拠が不十分であること、GRVのモニタリングは嘔吐のリスクを減らす可能性はあるものの死亡率・入院日数・肺炎の発症率との関係は現時点では示されていないこと、経腸栄養の中断による投与エネルギー不足とそれに伴う感染性合併症リスクの上昇、主に看護師の業務量増加に伴うケアコストの増加が懸念されること、が述べられている。
500 mLという一つの目安
GRVが極端に多い場合は経腸栄養を中止する理由として考慮されるべきである、としている。閾値については、2016年版が「GRVが500 mL未満であれば経腸栄養を中止しない」、ESPENガイドライン2023が「GRVが500 mL/6時間を越える場合は経腸栄養の開始を遅らせるべき」としており、500 mLという比較的高い閾値が一つのカットオフとして設定されている、と紹介されている。
実務としては、GRVが500 mLに届かない範囲であれば、その数字だけを理由に経腸栄養を止めない。GRVが増えている場合も、少なくとも上部消化管の蠕動障害を示唆しているので、増量できないなら幽門後投与や他の投与経路を考慮する。
なお、GRVモニタリングそのものをルーチンで行うべきかについては、国際的にはJCCNG2024より踏み込んだ議論がある。姉妹記事で扱う。
下痢と便秘
下痢は経腸栄養の中止理由になりにくい。JCCNG2024は、下痢への対策として栄養製剤や投与方法の選択、薬物療法、排便管理システムを用いた方法などを挙げている(CQ3-6)。
本文では、重症病態の下痢は薬剤性が多く、原因薬剤の中止・変更、シンバイオティクスの使用、消化態経腸栄養剤の使用、経腸栄養の持続投与などの対策が有効だとする報告があり、必ずしも経腸栄養を中断する必要はない、とされている。下痢の原因は多岐にわたるため、包括的な対処とプロトコルを用いた対応が望ましい。
便秘については、予防的下剤の使用で予後を改善する効果はみられなかった一方、下剤の使用が下痢を来すことがあり注意が必要、とされている。
消化管出血は別扱い
明らかな消化管出血、すなわち黒色便・低血圧・ヘモグロビン低下を伴うものは、経腸栄養を中止し、十分な精査を行う対象になる。下痢や軽度の消化器症状と同じ扱いにしてはいけない。
リフィーディング症候群
栄養開始前からの低栄養、体重減少、BMI 18.5未満などがある患者では、リフィーディング症候群のリスクを評価する。JCCNG2024は、リフィーディング症候群特有のリスク評価を行い、発症リスクや発症後の症状、電解質異常の程度に応じたエネルギー制限、電解質のモニタリングおよび補正を検討する、としている(CQ3-8)。NICE基準などをもとにした4段階のリスク層別化と、それぞれのエネルギー増量スケジュールが示されている。
| リスク | エネルギー投与量(kcal/kg/day)の推移 |
|---|---|
| リスクなし | 制限なし |
| 低リスク | 1〜3日目 15〜25 → 4日目 30 → 5日目以降 制限なし |
| 高リスク | 1〜3日目 10〜15 → 4〜5日目 15〜25 → 6日目 30 → 7日目以降 制限なし |
| 超高リスク | 1〜3日目 5〜10 → 4〜6日目 10〜20 → 7〜9日目 20〜30 → 10日目以降 制限なし |
あわせて行うこと(低リスク以上のすべてに共通)
・ビタミンB1を200〜300 mg、5日間投与する
・マルチビタミンを10日間投与する
・3日目までは毎日電解質(リン・マグネシウム・カリウム)を測定し、その後は2〜3日ごとに測定する
・水分バランスの評価を中心とした臨床検査を1日1〜2回行う
・鉄は、鉄欠乏がある場合でも最初の7日間は補充しない
・高リスク以上ではナトリウムを1 mmol/kg/day未満に制限する(高リスクは1〜7日目、超高リスクは1〜10日目)
・超高リスクでは心拍または心電図を毎日継続してモニタリングする
急ぐ理由はない、という点は強調しておきたい。栄養開始後に低リン血症を発症した重症患者を対象にした試験でも、カロリー制限を行った群のほうが60日生存率が高く(91%対78%)、入院期間が短く、感染も少なかった。この試験はここに示した4段階のスケジュールそのものを検証したものではないが、リフィーディング症候群のリスクがある状況で急がないことの妥当性を支持する結果である。
特別な治療を行っているとき
ECMO、腹臥位療法、腹部開放管理を行っている重症患者でも、病態や病期、消化管の状態を考慮したうえで、可能であれば早期経腸栄養を行う、とされている(CQ3-9)。これらの治療を行っていること自体は、経腸栄養を諦める理由にはならない。
9早見表とTake home
場面別・早見表
| 場面 | JCCNG2024が言っていること |
|---|---|
| 栄養療法を始める前 | 栄養評価を行う(CQ3-1、必須) |
| 肥満・低体重 | 理想体重・調整体重で目標量を計算する(CQ3-7) |
| 消化管が使える | 48時間以内に経腸栄養開始(CQ1-5、強く推奨) |
| 消化管が使えない | 経静脈栄養で始めてよい。栄養療法自体を遅らせない(CQ1-2、CQ1-10) |
| 循環動態が不安定 | 経腸栄養を行わない(CQ1-6、弱く推奨) |
| 経腸栄養が目標に届かない | 最初の1週間は経静脈栄養を足さない(CQ1-7、GRADE 2A) |
| エネルギー量 | 意図的に少なくしない。ただし初期からフルドーズを目指すものでもない(CQ1-3) |
| タンパク質量 | 1.2 g/kg/day超を弱く推奨。ただし初日・2日目で一気に到達させない(CQ1-4) |
| 投与方法 | 持続投与、誤嚥リスクが高ければ幽門後投与(CQ1-8、CQ1-9) |
| 誤嚥対策 | 頭位挙上30〜45度、浅鎮静、口腔衛生、カフ圧20〜30 mmHg(CQ3-5) |
| 栄養素 | シンバイオティクス・プレバイオティクスを投与(CQ2-7-1、CQ2-7-3、強く推奨) |
| 下痢 | 中止理由にしない。原因薬剤の見直しから(CQ3-6) |
| GRVが多い | 単独では中止根拠にしない。500 mLが一つの目安(CQ3-4) |
| 明らかな消化管出血 | 経腸栄養を中止し精査する |
| リフィーディング症候群リスク | 4段階のリスク別スケジュールで緩徐に増量、B1とマルチビタミン(CQ3-8) |
| ECMO・腹臥位・腹部開放 | 可能なら早期経腸栄養を行う(CQ3-9) |
Take home
- JCCNG2024で成人に強く推奨されているのは、48時間以内の早期経腸栄養と、プレバイオティクス・シンバイオティクスの2つだけである。残りは弱い推奨か情報提示で、施設の裁量が大きい
- 栄養療法を始める前に栄養評価を行い、肥満・低体重では計算に使う体重を決める。ここを飛ばすと以降の目標量がすべてずれる
- 経腸栄養を優先する推奨は弱い。消化管が使えないなら経静脈栄養でよく、避けるべきは栄養療法自体を遅らせることである
- 経腸栄養が目標に届かないとき、最初の1週間は経静脈栄養を足さない。これはガイドラインで唯一エビデンスの確実性が高い推奨である
- エネルギーは意図的に絞らない。ただし初期からフルドーズを目指すものでもない、という但し書きまでを含めて理解する
- タンパク質は1.2 g/kg/day超が弱く推奨されているが、初日・2日目で一気に到達させる必要はない。腎機能障害がある患者ではとくに慎重に
- GRVの数字だけで経腸栄養を止めない。下痢も中止理由にしない。ただし明らかな消化管出血は中止して精査する
- リフィーディング症候群のリスクがある患者では、4段階のスケジュールに沿って緩徐に増量し、ビタミンB1とマルチビタミンを補充し、電解質を追う
エネルギー投与量、タンパク質投与量、胃内残渣量の3点については、JCCNG2024と2026年時点の国際的知見の間に差がある。その中身は姉妹記事「重症患者の栄養療法 2026」で扱う。
参考文献
- 日本集中治療医学会 日本版重症患者の栄養療法ガイドライン検討委員会. 日本版重症患者の栄養療法ガイドライン2024(JCCNG2024). 日集中医誌 2025;32:S3.
- 参照したCQ:CQ1-1、CQ1-2、CQ1-3、CQ1-4、CQ1-5、CQ1-6、CQ1-7、CQ1-8、CQ1-9、CQ1-10、CQ2-1〜CQ2-8、CQ3-1、CQ3-2、CQ3-4、CQ3-5、CQ3-6、CQ3-7、CQ3-8、CQ3-9
- Doig GS, et al. Restricted versus continued standard caloric intake during the management of refeeding syndrome in critically ill adults: a randomised, parallel-group, multicentre, single-blind controlled trial. Lancet Respir Med 2015;3:943-52.
- 日本肥満学会. 肥満症診療ガイドライン2022.
