集中治療

敗血症 Seminar 2026 ― 病態・診断・回復を、治療の手前から読む

敗血症の「何をするか」は1本目(SSC2026)で扱った。この記事はその手前と後ろ――なぜ臓器が壊れるのか、どう診断の迷いと向き合うか、そして生き延びたあと何が起きるか――を、Lancetの総説(Seminar, 2026)で読み解く。芯は3つ。敗血症は免疫だけの病気ではない(代謝・内分泌・ミトコンドリアの病でもある)。臓器は「壊れる」のではなく「冬眠」する(多くは可逆)。そして生き延びても、完全に元へ戻るのは半分だけ。この3つが分かると、初期対応の意味と、退院後を見据えた関わりが変わる。

この記事の芯

敗血症は「感染に対する制御不能な宿主反応で臓器障害が起きる」病態。だが機序は免疫の暴走だけではない――代謝・内分泌・ミトコンドリアの機能不全(cytopathic dysoxia)が絡み、臓器は壊死ではなく”冬眠”=可逆的なことが多い

そして生存者の完全回復は約半数、6人に1人は重度の身体・認知障害、3人に1人は1年以内に死亡(PICS)。「生き延びた=ゴール」ではない。

この記事でわかること

  • 定義(Sepsis-3):感染+SOFA 2点以上=臓器障害。ショック=昇圧でMAP≥65かつ乳酸>2。SOFAは2025改訂、小児は2024 Phoenix
  • 敗血症は免疫だけでなく代謝・内分泌・ミトコンドリアの病。臓器は「冬眠」=壊死は主体でなく可逆のことが多い
  • 病相:循環と致死的低酸素は48〜72時間で概ね解決し、その後も臓器障害が何週間も続く(長い後半戦)
  • 診断は難しい:細菌が確認できるのは60〜70%、血培陽性は20〜30%、乳酸正常でも重症は否定できない
  • 個別化(subphenotype):全員一律ではなく「効く群/害になる群」を治療の前に見分ける方向へ
  • 治療の芯は「冬眠している臓器を無理に働かせない」。早期の過剰な介入はしばしば害になる(抗菌薬・輸液・昇圧の実務は別記事に)
  • 早期の強化栄養・早期RRT・成長ホルモンは「良かれ」で害(成長ホルモンは死亡倍増)。早期離床は回復を助ける
  • 生存者の完全回復は約半数、3人に1人は1年以内に死亡(PICS)。初期からその後を見据える

1定義をそろえる ― Sepsis-3と最新の更新

敗血症は感染に対する制御不能な宿主反応による、生命を脅かす臓器障害(Sepsis-3, 2016)。臨床操作としては、ベースラインからSOFAが2点以上上乗せされた状態を指す。敗血症性ショックは、十分な輸液をしても昇圧薬でMAP≥65 mmHgを保つ必要があり、かつ乳酸が2 mmol/L(18 mg/dL)を超える状態で、死亡は40%を超える

図1:敗血症の定義(Sepsis-3と最新の更新)

用語 定義 ポイント
敗血症(Sepsis-3, 2016) 感染に対する制御不能な宿主反応による、生命を脅かす臓器障害 ベースラインからSOFA 2点以上の上乗せ
敗血症性ショック 十分な輸液後も昇圧薬でMAP≥65 mmHgを要し、かつ乳酸>2 mmol/L(18 mg/dL) 死亡は40%を超える
SOFAの更新 臓器障害の重症度スコア 2025年にSOFA-2へ改訂
小児 成人のSOFAは使わない 2024年にPhoenix Sepsis score(2点以上)

定義は”入口”にすぎない

SOFAは2025年に改訂(SOFA-2)。小児には2024年にPhoenix Sepsis score(2点以上)が導入された。ただし定義は入口であって、この記事の主眼はその中身――なぜ臓器が壊れ、どう治り、どこまで戻るか――にある。

2病態生理の新しい見取り図 ― 免疫だけではない

敗血症を「サイトカインストームで臓器がやられる病気」とだけ理解すると、抗炎症一辺倒の発想になりやすい。だが実際は、宿主防御を4つの軸で捉え直すのが今の見取り図だ。

図2:宿主反応の4概念と、免疫以外の軸

宿主防御の4概念 意味 関わるもの
Resistance(抵抗) 病原体そのものを減らす 抗菌薬・source control・免疫の直接攻撃
Tolerance(耐性) 病原体量は変えず、組織障害を抑える 過剰な炎症・組織傷害を制御する
Resilience(復元) 乱れた状態を元へ戻す力 臓器機能・恒常性の回復
Resolution(収束) 炎症を終わらせ組織を修復する 遷延させない・線維化を防ぐ
免疫以外の軸 代謝(基質利用の破綻)・内分泌(下垂体軸の一律抑制)・ミトコンドリア機能不全(cytopathic dysoxia=酸素はあるのに使えない)。臓器障害は「壊死」ではなく可逆的な「冬眠」が主体(腸上皮と免疫細胞は例外)

免疫の側では、過剰炎症と免疫抑制が同居する。リンパ球減少やHLA-DR低下が起こり、二次感染に弱くなる。だから「炎症を抑えればよい」という単純な話にならない。

いちばん効く一言 ― 細胞は”死ぬ”のではなく”止まる”

腸上皮と免疫細胞を除けば、細胞死は臓器障害の主体ではない。酸素はあるのに使えない(cytopathic dysoxia=ミトコンドリア機能不全)状態で、細胞はATP産生を落として活動を止める。だから再生能の低い臓器(心筋・腎など)でも、山を越えれば機能が戻りうる。

3「冬眠」する臓器と、病気の相 ― なぜ時間で顔が変わるか

臓器障害は可逆的な「冬眠」(hibernation/dormancy)として概念化される。エネルギーを節約するための一時停止であり、多くは元に戻る。これが「壊死」との決定的な違いだ。

  • ①早期(fight-or-flight):代謝亢進。循環・酸素需要が跳ね上がる
  • ②亜急性(bioenergetic shutdown):複数臓器がエネルギー節約で”店じまい”=冬眠に入る
  • ③回復 or 遷延:山を越えれば戻る。越えられなければ長引く

現代の蘇生では「後半戦」が本番

循環不安定と致死的な低酸素は、いまの蘇生なら48〜72時間で概ね解決する。問題はその後――せん妄、筋力低下、人工呼吸やRRTから離脱できない、免疫抑制による二次感染――という「長い後半戦」が何週間も続くこと。初期の派手な部分だけを見ていると、ここを取りこぼす。

4診断の落とし穴 ― 過剰診断とmimics

敗血症は時間依存だが、単一の万能スクリーニングはない。NEWS2・qSOFA・乳酸・臓器障害の所見を組み合わせて疑う。自動アラートは鳴りすぎてalarm fatigue(警報疲れ)を招く。

数字で押さえる「診断の限界」

  • 細菌感染が確認できるのは治療例の60〜70%、血培陽性は20〜30%。培養陰性は敗血症を否定せず、陽性が定着菌のこともある
  • 乳酸が正常でも、重症・死亡リスクは否定できない
  • host-response biomarker(mRNA/蛋白)は細菌 vs 非細菌をある程度見分けるが、確定ではなく「尤度」を上げるだけ

そしてmimics(敗血症のふり)を忘れない。肺塞栓・心不全・リンパ腫・重症薬疹やアレルギーなどは、発熱・頻脈・臓器障害で敗血症に見える。誤った「敗血症」ラベルは、不要な抗菌薬と、真の診断の遅れという二重の害を生む。

5治療の落とし穴 ― 冬眠中の臓器を無理に働かせない

抗菌薬の始め方・source control・de-escalation・治療期間は別記事「敗血症の抗菌薬対応」で、SSCバンドルの差分・輸液のde-resuscitation・末梢からの早期昇圧は別記事「敗血症 SSCガイドライン2026」で扱った。ここでは重複を避け、この総説が病態から強調する一点――「冬眠している臓器を、無理に働かせない」――に絞る。

§3で見たとおり、亜急性期の臓器はエネルギーを節約して”店じまい”している(可逆的な冬眠)。ここで早く・強く介入して臓器を”叩き起こそう”とすると、しばしば裏目に出る。「良かれ」と信じられてきた介入が、次々に害または無益と示されてきた。

図3:「良かれ」が害になった介入(緑=回復に有用・灰=無益・赤=有害)

介入 Seminarが病態から強調する点 判定
早期の強化(積極的)栄養 腸管栄養は3〜4日で開始。早期の過剰栄養は有害 有害
早期RRT(血液浄化) 予後を改善しない(高K・尿毒症・難治性アシドーシスに限る) 無益
成長ホルモン 2つのRCTで死亡が倍増(非標的介入の教訓) 有害
早期離床・リハビリ 死亡は変えないが、回復を助ける(例外=むしろ勧められる) 回復に有用

成長ホルモンの教訓 ― と、ひとつの例外

極めつけは成長ホルモン――2つのRCTで死亡が倍増した。「冬眠している臓器や筋を無理に同化させる」発想が真正面から裏目に出た。早期の積極的(強化)栄養や早期RRTも同じ系譜で、いずれも予後を改善しない。

ただし例外は早期離床・リハビリ。これは死亡こそ変えないが回復を助ける――「無理に働かせない」の中でも、動かすこと自体はむしろ勧められる。VTE予防・ストレス潰瘍予防も行う。

6個別化へ ― subphenotypeとバイオマーカー

敗血症は極めて不均一な症候群だ。だから「全員に同じ介入」を検証したRCTは、失敗を繰り返してきた(ステロイド・抗TNF・成長ホルモンなど)。

  • 遺伝子転写物・蛋白・代謝物などのbiological signature(subphenotype)で、介入が効く群/害になる群を見分ける(predictive enrichment)。例:ステロイドが効く群・効かない群
  • 血液のバイオマーカーだけでは、肺など臓器局所の反応を捉えきれないという限界もある
  • AIによる電子カルテからのパターン抽出も、まだ研究段階

なぜ「効かない薬」ばかり出てきたのか

平均すれば効果ゼロでも、ある群には有効・別の群には有害で相殺されている、という可能性がある。個別化とは、その群を治療の前に見分けようという試み。ここが次の10年の主戦場になる。

7特殊集団 ― 免疫抑制・小児/新生児・妊産婦

典型的な敗血症像から外れる集団では、疑う閾値そのものを変える必要がある。

  • 免疫抑制患者:発熱など典型的な炎症反応が出にくく、発見が遅れる → 疑う閾値を下げる。真菌やウイルス再活性化(CMV/HSV)も考慮。なお固形臓器移植例はむしろ生存率が高いという逆説も報告されている
  • 小児/新生児:世界の敗血症死の相当数を占める。ワクチンが強力な予防手段。新生児は所見が非特異的で診断が難しい
  • 妊産婦:生理的変化で徴候が隠れる。産科関連(絨毛膜羊膜炎・子宮内膜炎・敗血症性流産・乳腺炎)と非産科(腎盂腎炎・肺炎・創部感染)の両方を考える

8回復とその後 ― やりがちな失敗とTake home

回復とは、感染の収束と臓器障害の回復の両方を指す。だが「退院=治った」ではない。

図4:生き延びたあとの3分岐

生存者のその後 内容 ゴール
約半数 完全〜ほぼ完全に回復する
約6人に1人(1/6) 重度の身体・認知障害が残る(PICS) ×
約3人に1人(1/3) 1年以内に死亡(その約半分は敗血症関連) ×
だから 初期から、家族を含めた予後・ゴール共有、リハ・栄養・心理支援、退院後フォローを見据える。PICSの一部は入院中の治療に由来し「修正可能」

PICS(集中治療後症候群)を初期対応の視野に入れる

身体・認知・心理の後遺(PICS)は、ICU退室後も長く続く。その一部は入院中の治療に由来し「修正可能」だ。だからこそ、初期から家族を含めた予後・ゴールの共有、リハ・栄養・心理支援、退院後フォローを見据える。急性期の勝負と、その後の生活は地続きである。

1 サイトカインを抑えれば治ると考える 免疫の暴走だけの病気ではない。代謝・内分泌・ミトコンドリアも絡む。
2 冬眠している臓器を早く強く”叩き起こす” 早期の過剰介入は害になりやすい。支持に徹し、無理に働かせない。
3 「良かれ」と早期に強化栄養・早期RRT いずれも有害/無益。腸管栄養は3〜4日、RRTは適応を絞る。
4 乳酸が正常だから重症でないと判断 乳酸正常でも重症・死亡は否定できない。
5 培養が出ないから敗血症を否定 細菌確認は60〜70%、血培陽性は20〜30%。臨床で疑う。
6 発熱がないから免疫抑制患者の敗血症を否定 典型的な炎症反応が出にくい。閾値を下げる。
7 生存=ゴールと考える 完全回復は約半数。PICSを見据えた関わりを。

Take home

  1. 敗血症は免疫だけでなく代謝・内分泌・ミトコンドリアの病。臓器は「冬眠」=多くは可逆
  2. 診断は臨床の総合判断。培養60〜70%・血培20〜30%、乳酸正常でも重症は否定できない。mimicsを疑う
  3. 治療の芯は「冬眠中の臓器を無理に働かせない」(抗菌薬・輸液・昇圧の実務は別記事に)。早期の過剰介入は害
  4. 早期の強化栄養・早期RRT・成長ホルモンは害。早期離床は回復を助ける
  5. 生存者の完全回復は約半数、3人に1人が1年以内死亡。初期からPICSを見据える
参考文献
  • Singer M, Angus DC, Annane D, et al. Sepsis (Seminar). Lancet. 2026;407:1276-1288.
  • Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA. 2016;315(8):801-810.
  • Surviving Sepsis Campaign 2021(Evans L, et al. Crit Care Med. 2021;49(11):e1063-e1143)/SSC 2026 update.
  • Schlapbach LJ, Watson RS, Sorce LR, et al. International Consensus Criteria for Pediatric Sepsis and Septic Shock(Phoenix). JAMA. 2024;331(8):665-674.
  • Rudd KE, Johnson SC, Agesa KM, et al. Global, regional, and national sepsis incidence and mortality(GBD). Lancet. 2020;395:200-211.
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野戦寄りの病院で救急医をしております。

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