神経

脊髄硬膜外膿瘍ーNEJM2026

背部痛・腰痛はERでありふれた主訴だ。その多くは鑑別もeasyで、予後もいいものだが、ごくまれに「見逃すと歩けなくなる」ものが混じる。その代表が脊髄硬膜外膿瘍(SEA)。怖いのは、古典的な三徴(局所痛・発熱・神経脱落)が診断時にそろっているのは20%未満で、多くは「ただの腰痛」に見えること。そして神経症状は出てから進むのが速い。この記事は、SEAをどう疑い、どう画像を撮り、いつ手術につなぐかを、ERの初期対応に絞って整理する。芯は「三徴を待たない・造影MRI・72時間」

この記事の芯

三徴を待つな。局所痛+発熱+神経脱落がそろうのは20%未満で、そろってからでは遅い。

疑ったらESR/CRP、神経脱落があれば迷わず造影MRI。神経脱落があれば血培→経験的抗菌薬+緊急手術で、予後を分けるのはおよそ72時間

この記事でわかること

  • 三徴(局所痛・発熱・神経脱落)がそろうのは診断時20%未満。待たずに疑う
  • 疑うトリガー=背部/頸部痛+発熱 or リスク因子(注射薬使用・糖尿病・透析・免疫抑制・菌血症/感染巣・脊椎処置後 など)
  • ESR/CRPは除外に有用(CRP>100・ESR>60が典型)、白血球はあてにならない
  • 造影MRIが決め手。単純CTは感度18%と低い。診断したら全脊椎を撮る(skip lesion)
  • 起因菌は黄色ブドウ球菌が半分超(MSSA 40%・MRSA 18%)。血培は抗菌薬の前に
  • 経験的抗菌薬はバンコマイシン+セフトリアキソン。注射薬使用・術後・敗血症・高度脱落はセフェピムへ
  • 神経脱落・敗血症・不安定・instrumentation関与は手術。予後を分けるのはおよそ72時間

1なぜ怖いか ― 見逃しと麻痺

SEAは硬膜外腔の感染。症状は古典的に4相で進むとされる。

図1:SEAの進む4相と「三徴は20%未満」

相(進む順) 症状 ポイント
① 局所痛 背部・頸部の限局した痛み 80%超。ここで気づけるかが勝負
② 神経根痛 神経根に沿う放散痛 「ぎっくり腰」に紛れやすい
③ 神経脱落 筋力低下・感覚障害・膀胱直腸障害 診断時に20〜47%で存在
④ 麻痺 完全麻痺・重度脱落 診断時に3〜9%。ここまで来ると戻りにくい

局所痛(phase 1)は80%超に出るが、三徴(局所痛+発熱+神経脱落)がそろうのは診断時20%未満。だから三徴を待つと手遅れになる。

診断は遅れがちで、1/3は発症2週間以上たってから診断される。神経症状は診断前1週間以内に出ることが多く、進むと戻りにくい。診断時にすでにstage 3(神経脱落)が20〜47%、stage 4(麻痺)が3〜9%を占める。

好発は50〜65歳・男性。脊椎手術・処置の増加や注射薬使用を背景に、近年は発生率が上がっている。

2疑い方 ― 誰に「撮る」か

背部痛はcommonなので、SEAを拾う鍵は「発熱 or リスク因子」の重ね合わせ

リスク因子(一つでもあれば疑いを上げる)

  • 注射薬使用、糖尿病、透析/末期腎不全
  • 長期留置カテーテル、免疫抑制
  • 最近の心内膜炎・菌血症・皮膚軟部組織感染
  • 肝硬変、脊椎インプラント、最近の椎体骨折
  • 直近3か月の脊椎手術/処置

図2:造影MRIを撮るかの判断(原著アルゴリズムより)

場面 対応
新規/進行する神経脱落がある 迷わず緊急造影MRI(+血培・経験的抗菌薬・手術へ)
神経脱落なし+ESR/CRP上昇+(発熱 or リスク因子) 緊急造影MRI
神経脱落なし・炎症反応上昇なし・リスクなし 今は撮らず経過観察。悪化・遷延なら再評価してMRI

部位は腰仙椎が約50%、胸椎30〜40%、頸椎10〜20%。頸胸椎は脊髄があり神経学的リスクが高いので、この部位の痛み+発熱はとくに閾値を下げる。

3スクリーニング ― ESR/CRP

ESR・CRPは安価で速く、非特異的だが除外に有用(陰性がSEAらしさを下げる)。SEAではCRP>100 mg/L・ESR>60 mm/hが典型。

白血球はESR/CRPより感度・特異度とも劣り、あてにならない。「背部痛+炎症反応上昇」を、次の一手(造影MRI)の引き金にする

4画像 ― 造影MRIが決め手、そして全脊椎

ガドリニウム造影MRIが第一選択。単純CTは感度18%と低く、除外にも定位にも使えない。MRIが撮れない時はPET-CTや造影CTが代替になり得るが、いずれもMRIに劣る。

診断がついたら「全脊椎」を撮る

痛みや脱落のある部位だけでなく全脊椎をMRIで。noncontiguousなskip lesionが最大9%にある。

腎機能については、現行のガドリニウム造影剤はアレルギー以外ほぼ投与可。過度に控えない。

5初期治療 ― 血培 → 経験的抗菌薬

起因菌は黄色ブドウ球菌が半分超(MSSA 40%・MRSA 18%)。連鎖球菌・腸球菌・グラム陰性桿菌も。約15%は培養陰性で、多くは抗菌薬先行が原因。

血培は抗菌薬の前に

血培陽性は26〜71%。抗菌薬を打つ前に血培を。血培で菌がつかめず手術も差し迫っていなければ、画像ガイド下生検を先に行う(培養陰性化を避ける)。

図3:経験的抗菌薬(血培を採ってから)

状況 経験的レジメン ねらい
標準 バンコマイシン + セフトリアキソン MRSA+連鎖球菌・グラム陰性桿菌をカバー
注射薬使用・術後感染・敗血症・高度な神経脱落 バンコマイシン + セフェピム 緑膿菌までカバーを広げる
共通の原則 血培は投与前に必ず採る 髄膜炎の合併がなければCNS移行を狙う必要はない

治療期間は化膿性椎体炎に準じ、初期は概ね6〜8週。初期反応が良く感受性菌なら、経口の高バイオアベイラビリティ薬への切替も可(OVIVA)。

6手術か保存か ― 分けるのは72時間

最も明確な手術適応は新規/進行する神経脱落。ほかに、ソースコントロールを要する敗血症、術後感染、不安定・変形による切迫脱落、既存instrumentationの関与。

図4:手術 vs 保存の判断(赤=手術・黄=要注意・緑=保存を検討)

状況 対応 判定
新規/進行する神経脱落 緊急手術(血培後すぐ抗菌薬) 手術
ソースコントロールを要する敗血症 手術 手術
術後感染・不安定/変形・既存instrumentationの関与 手術 手術
神経学的に正常・敗血症なし・脊髄圧迫なし・監視できる 保存を検討(生検→抗菌薬) 保存可
保存だが失敗リスク高(65歳超・糖尿病・MRSA・脱落あり) 手術寄りで再評価。こまめに神経を追う 要注意

予後を分けるのは72時間

神経回復は発症48〜72時間以内の手術で最も見込め、遅れるほど下がる。「72時間以内がベスト」だが硬い締切ではなく、周術期リスク・ソースコントロールの必要性・脱落の進行・保存失敗リスクで個別に判断する。

保存的治療は選べるが約28%で失敗し、遅れて手術になる(予後は早期手術に劣る)。候補は「神経学的に正常・敗血症なし・脊髄圧迫なし・神経症状をこまめに追える」例に限る。失敗の予測(Kimモデル)は65歳超・糖尿病・MRSA・部分/完全な脊髄脱落。菌血症・CRP>115・WBC>12.5・活動性がんも失敗因子。

予後は、院内死亡3〜6%、90日死亡6〜13%。神経学的予後は治療開始/手術時点の神経状態で決まる(メタ解析で良好な神経予後は早期手術86%対保存69%)。だからこそ、麻痺が出る前に捕まえる。

7やりがちな失敗とTake home

1 三徴がそろわないのでSEAを外す そろうのは20%未満。発熱 or リスク+炎症反応で疑い、造影MRIへ。
2 単純CTで「異常なし」と安心する CTは感度18%。除外にならない。造影MRIを。
3 痛い部位だけMRIを撮る 診断後は全脊椎(skip lesionが最大9%)。
4 神経脱落が出てから動く 出てからでは遅い。72時間の勝負。疑いの段階で炎症反応と画像。
5 とりあえず抗菌薬を先に打つ 血培(と可能なら生検)を先に。培養陰性化を招く。
6 神経脱落があるのに保存で粘る 新規/進行脱落は緊急手術。保存はintact・非敗血症・圧迫なしのみ。

Take home

  1. 三徴を待たない:局所痛+発熱 or リスク+ESR/CRP上昇で造影MRI
  2. 診断は造影MRI(単純CTは感度18%)。診断後は全脊椎を撮る
  3. 血培→経験的抗菌薬(バンコマイシン+セフトリアキソン。注射薬使用・術後・敗血症・高度脱落はセフェピム)
  4. 神経脱落・敗血症・不安定・instrumentation関与は手術。予後を分けるのはおよそ72時間
  5. 保存は慎重に(28%失敗)。脊椎外科+感染症と早期に組む
参考文献
  • Tande AJ, Currier BL, Osmon DR. Spinal Epidural Abscess. N Engl J Med. 2026;394:1621-1633.
  • Kim SD, Melikian R, Ju KL, et al. Independent predictors of failure of nonoperative management of spinal epidural abscesses. Spine J. 2014;14:1673-1679.
  • Li HK, Rombach I, Zambellas R, et al. Oral versus Intravenous Antibiotics for Bone and Joint Infection (OVIVA). N Engl J Med. 2019;380:425-436.
  • Berbari EF, Kanj SS, Kowalski TJ, et al. 2015 IDSA Clinical Practice Guidelines for the Diagnosis and Treatment of Native Vertebral Osteomyelitis in Adults. Clin Infect Dis. 2015;61:e26-e46.
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野戦寄りの病院で救急医をしております。

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