循環器

ECMO入門② 生理学 ― 酸素化は血流量、CO₂はsweep gas

ECMOの管理は、突き詰めると2つのつまみに集約される。酸素化は血流量、CO₂除去はsweep gas(掃気ガス流量)。この分離を体で覚えると、「SpO₂が上がらない→血流量とrecirculationを疑う」「PaCO₂が高い→sweepを上げる」と反射で動ける。そしてVAでは、もう一つ土台になる概念がある――mixing zoneだ。ここが分かっていないと、なぜ右上肢で測るのかも、自己心が回復してきたかどうかも読めない。本章(ECMO入門②)は2つのつまみとmixing zoneを、原理から詰める。

この記事の芯

酸素化はECMO血流量・膜型肺の能力・Hb・脱血側の酸素飽和度で決まり、CO₂除去はsweep gas流量で決まる。だから酸素化とCO₂は別々のつまみ

末梢VAでは、順行する自己心の血と逆行するECMOの血が大動脈のどこかでぶつかる。その衝突面がmixing zone自己心が回復すると遠位(下行)へ、ECMOが優位だと近位(弓部)へ動く。だから右橈骨動脈は「脳と心臓が今どちらの血を浴びているか」を映す唯一の窓であり、同時に自己心回復のセンサーでもある。

この記事でわかること

  • 酸素化の規定因子は血流量・Hb・脱血側SaO₂・膜の性能の4つ(ELSO)。実務で動かすのは血流量
  • CO₂はsweep gas流量で調整する。ただし厳密には血流量・膜前PCO₂・膜の性能も関与し、完全に独立ではない
  • mixing zone=順行する自己心の血と逆行するECMO血がぶつかる面。ここより中枢は自己心、末梢はECMOが支配する
  • mixing zoneは動く:自己心が回復すると遠位へ、ECMO優位だと近位へ。「心臓が良くなった時ほどHarlequinが出る」
  • 右上肢で測る理由は解剖:腕頭動脈は冠動脈起始部の次に来る弓部の第1分枝=脳・冠動脈のセンチネル
  • 推定は右橈骨と膜後ガスの対比+多点ガスの勾配+脳NIRS。左手・下肢だけでは見逃す
  • 右橈骨PaO₂が高い=ECMO優位(離脱は遠い)、自己肺相応まで下がる=自己心が押し返している(回復のサイン)
  • 確定した介入閾値は無い。「肺を最適化しても右上肢が戻らない」が実質の移行ライン。よく引かれるPaO₂ 100〜150は別文脈の数字
  • full supportでは概ねCO₂除去能>O₂供給能。ECCO2Rは低流量でCO₂だけ抜く
  • VV:循環は自己心。recirculationで効率低下(SpreO₂上昇)。ELSOはSpO₂ 80〜85%(時に75〜80%)を許容

12つのつまみ ― 酸素化とCO₂は別物

ELSOは酸素供給能の規定因子として血流量・Hb・脱血側の飽和度・膜の性能の4つを挙げる。このうちベッドサイドで最も動かせるのが血流量なので、実務では「酸素化=血流量のつまみ」として扱う。一方CO₂は「患者のPaCO₂はsweep gas流量で制御される」とELSOも明記しており、sweepで動かす。ただし厳密にはCO₂除去も血流量・膜前PCO₂・膜の性能に依存するので、「完全に独立」ではなく「実務上は別々のつまみとして扱える」と理解しておくのが正確だ。

覚え方

酸素化=血流量のつまみ/CO₂=sweepのつまみ。sweepを上げるとCO₂は下がるが酸素化には効かない。full support(全面支持)ではCO₂除去能がO₂供給能を上回る。

供給が足りているかはSvO₂で見る。ELSOは「SaO₂が95%を超えていることを前提に、静脈血酸素飽和度70%超なら全身への酸素供給は十分」としている。この前提はVAでは成り立つがVVでは成り立たないので、SvO₂ 70%はVAの指標として使う。

2mixing zone ― VAの生理はここから始まる

末梢VA(大腿動脈送血)では、大動脈の中を血流が2方向から流れている。自己心は左室から上行大動脈へ順行性に駆出し、ECMOは大腿から腸骨・下行大動脈を逆行性に上ってくる。この2つは大動脈のどこかで正面からぶつかる。その衝突面がmixing zone(M-zone、watershed)だ。

mixing zoneより中枢側(心臓寄り)は自己心の血、末梢側はECMOの血が支配する。ここで効いてくるのが「自己心が出している血の質」。自己心が拍出するのは、自分の肺を通ってきた血だ。自己肺が潰れていれば、低酸素のまま上行大動脈へ出ていく。

そして冠動脈は大動脈基部=いちばん中枢から出る。だから心臓は、常に自己肺の血を最初に浴びる臓器になる。次が腕頭動脈(右腕・右脳)。「全身のSpO₂は保たれているのに、心臓と脳だけが低酸素」という一番まずい形が成立しうるのは、この配置のせいだ。これがdifferential hypoxia(Harlequin syndrome)の正体で、単に「上半身が青い」という現象論ではない。

図1:mixing zoneと大動脈弓の分枝順(末梢VA)

自己心mixing zone(衝突面)腕頭動脈=第1分枝右腕右脳左総頸左鎖骨下 → 左腕冠動脈ECMO送血(大腿)近位=弓部へM-zoneは動く遠位=下行へ自己心の血(自己肺を通る)ECMO送血(膜で酸素化)mixing zone

mixing zoneは固定されていない ― 2つの流量の綱引き

mixing zoneの位置は、自己心拍出とECMO流量の綱引きで決まる。ここが理解の山場だ。

  • ECMOが優位(自己心が弱い/高流量):逆行流が押し勝ち、mixing zoneは近位(弓部〜大動脈基部)まで上がる。弓部までECMOの高酸素血が届くので、右橈骨のPaO₂は高い。Harlequinは起きにくい。
  • 自己心が回復する(順行流↑):順行流が押し返し、mixing zoneは遠位(下行大動脈)へ下がる。弓部は自己心の血に置き換わる。自己肺がまだ悪ければ、ここでHarlequinが顕在化する。

ここが直感に反する ― 心臓が良くなった時ほどHarlequinが出る

「心機能が回復したのだから安心」ではない。回復した心臓が、まだ治っていない肺を通った低酸素血を、脳と冠動脈に送り込む。VA-ECMO中に上半身の酸素化が悪化したら、それは悪化ではなく自己心回復のサインかもしれない

1体の遺体CTから起こした大動脈モデルでの流体シミュレーション(Prisco 2022/患者データではない)では、心係数0.5 L/min/m²の時点で冠動脈はすでに全て自己心の血になり、1.0 L/min/m²で腕頭・左総頸から、1.5 L/min/m²では左鎖骨下も含めた弓部3分枝すべてからECMO血が排除された、と報告されている。脳より先に心臓が低酸素になりうるという順序も、冠動脈が基部から出るという配置から説明がつく。裏を返せば、mixing zoneは自己心回復を映す動的センサーでもある。

3なぜ右上肢なのか ― 弓部分枝の順番がすべて

「右手で測れ」は語呂合わせでも慣習でもなく、解剖からの必然だ。

大動脈弓の第1分枝は腕頭動脈(innominate)で、冠動脈起始部の次に来る最初の大分枝。そこから右鎖骨下動脈(右腕)と右総頸動脈(右脳)が分かれる。つまり右手の動脈血は、弓部でもっとも中枢に近い血であり、脳と冠動脈が今浴びている血の代理指標になる。

一方左鎖骨下動脈は第3分枝でより末梢にあり、mixing zoneが弓部の途中にあると左手だけ良く見えることが起こる。前述のシミュレーションでは、左鎖骨下動脈からECMO血を締め出すには腕頭動脈の約2倍の自己心拍出が必要とされ、左右差が生じる理由が定量的にも裏づけられている(なお左鎖骨下は左椎骨動脈を分岐するため、厳密には「脳の代表」ではなく弓部で最も遠位の枝、という位置づけ)。下肢はそもそもECMO送血側なので、ほぼ常に良好で安心材料にならない。

左手・下肢で測ると見逃す

末梢VAで左橈骨や下肢のSpO₂・血ガスだけを見ていると、脳と心臓の低酸素を丸ごと見落とす。動脈ラインは右橈骨、パルスオキシメータは右手(または右耳)に置く。これはVA導入時のセットアップの一部として最初に決めておく。

4mixing zoneをどう推定するか

mixing zoneは直接は見えない。勾配と対比で位置を推定する。

中核は右橈骨動脈ガスと膜後(post-oxygenator)ガスの対比だ。膜後は良好なのに右橈骨が悪いなら、mixing zoneは腕頭動脈より遠位にある=弓部にはもう自己肺の血が来ていると判断できる。

図2:どこで採血し、何を見ているか

採血部位 何を見ているか 位置づけ
右橈骨 弓部で最も中枢=脳・冠動脈のセンチネル。ここが唯一の主指標 必ず測る
膜後(post-oxygenator) ECMOが供給している血の質。右橈骨と比べる基準線 対比に使う
左橈骨 左鎖骨下=第3分枝でより末梢。右より良く出る 補助(勾配用)
大腿(下肢) ECMO送血側。ほぼ常に良好で安心材料にならない 単独判断は禁物
  • 多点ガス(右橈骨・左橈骨・大腿)の勾配:右だけ悪い→mixing zoneは腕頭の遠位。右も左も悪い→さらに遠位。差の付き方で衝突面のおおよその高さを推し量る。
  • 脳NIRS(rSO₂):脳が実際に低酸素かの裏取り。左右差も見る。
  • 脱血(静脈)側の飽和度が高い(85%超):ECMOが供給過多=Harlequinが起こりうる状況の目印(Alfred)。
  • エコー(研究段階):造影エコー(CEUS)で境界を描出できたとする前向き観察研究があるが10例の実施可能性・安全性研究で、腹部大動脈に明瞭な境界が見えたのは半数(5/10)だった。胸骨上窩から境界の「smoke effect」を見たという報告は非収載誌の1例報告にすぎない。いずれも確立した手技ではなく、日常の判断はガスの対比で行う。

用語の衝突に注意 ― 2つの「smoke」

ELSOのVA-ECMOガイドラインに出てくる「左室のsmoke-like所見」は、左室内の血流うっ滞(もやもやエコー=血栓リスク)を指す。上で触れた大動脈内の境界の「smoke effect」とはまったく別の所見なので混同しない。ELSOは脈圧5〜10 mmHg未満・左室のもやもやエコー・大動脈弁が開かずLVが拡張が揃えば直ちに介入すべきとしている。

自己心の評価と、mixing zoneの監視は表裏一体

動脈波形の拍圧(pulse pressure/pulsatility)は自己心の駆出そのもの。拍圧がほぼフラットなら順行流はわずかで、mixing zoneは近位=上半身もECMO血。拍圧が戻ってくれば駆出が回復=mixing zoneが遠位へ動く合図で、それは同時に離脱トライアルを考え始めるサインでもある(→⑩)。エコーで大動脈弁の開放・LVOT VTI・LV収縮を併せて確認する。

数値の目安としては、ELSOのVA-ECMOガイドラインが脈圧10 mmHg超の維持を挙げている(下回るとLV拡張・大動脈根部血栓のリスク)。また安定したfull support下での脈圧15 mmHg未満は、自己心拍出1 L/min未満を示唆する(26例、AUC 0.93)。ただしこれは離脱の可否を決める基準ではない。離脱判断で確立しているのは低流量時の大動脈弁の開放・LVOT VTI 10 cm以上・組織ドプラの僧帽弁輪収縮期速度6 cm/秒以上・LVEF 20〜25%超といったエコー指標のほうで、脈圧は補助的な位置づけにとどまる(→⑩)。

なお「拍圧の回復=mixing zoneの遠位移動」という結び付けは、上の原理からの推論であり、そう明記した文献があるわけではない。

5右橈骨PaO₂から自己心を読む

以上を踏まえると、右橈骨のPaO₂は「自己心とECMOのどちらが勝っているか」の指標として読める

図3:右橈骨PaO₂ ― mixing zoneの位置と自己心の勢い

右橈骨PaO₂ mixing zoneの位置 自己心 vs ECMO 読み方
高い(目安 200前後) 弓部までECMOの血=M-zoneは近位 ECMO優位(自己心が弱い) ECMO依存。離脱はまだ遠い
中間・動揺する M-zoneが弓部付近で揺れている 拮抗(せめぎ合い) 最も注意。少しの変化でHarlequinへ振れる
自己肺相応まで低下(目安 100前後) 弓部は自己心の血=M-zoneは遠位 自己心優位(回復してきた) 自己肺が良ければ離脱検討/悪ければHarlequin

表:数値は方向づけの目安であり、確定した診断基準ではない。自己肺の状態・FiO₂・膜後の値と必ず併せて読む。

注意したいのは、右橈骨PaO₂が下がること自体は悪ではないという点。自己肺が良ければ、それは自己心が押し返してきた=離脱に近づいた証拠になる。自己肺が悪いままで下がるとHarlequin。だから右橈骨PaO₂は必ず自己肺の状態(人工呼吸器設定・胸部画像)とセットで読む。

6differential hypoxia ― 閾値と段階的対応

正直に言うと、確定した数値基準は無い

「右橈骨PaO₂が◯◯以下ならV-AVへ」という数値で線を引いたガイドラインは存在しない。ELSOのVA-ECMOガイドラインも「右橈骨動脈と右上半身のパルスオキシメトリを日常的に用いて上半身の低酸素を直ちに検出する」「換気の最適化で解決しなければV-AVが必要になりうる」定性的に述べるにとどまる。

よく引かれるPaO₂ 100〜150 mmHgという数字は、ECPR後のガス交換に関するコンセンサスの値で、採血部位を特定したものではない。ELSOが示すのは膜後(post-oxygenator)で150 mmHg前後という別の指標なので、これを右橈骨の目標として使うのは外挿だと理解しておく。

一方で、「ここまで来たら危険」の目印はいくつか報告がある。ただしいずれも総説・観察研究レベルで、ガイドラインの基準ではない。

  • 劇症型differential hypoxia(FDH):上半身のSaO₂が30〜50%まで落ちる、あるいは膜前(脱血側)の飽和度を下回る(総説での定義)。
  • 脳rSO₂:総説はアラートとして50%未満を挙げるが、元になった観察研究の値は52%未満で、さらに左右差10%超が急性脳合併症と独立に関連したと報告されている。差のほうが実用的なことがある。
  • SaO₂ 80%程度:長期の認知機能障害と結び付いていないとされるが、根拠はH1N1のVV-ECMOコホート(Holzgraefe 2017)で、VA-ECMOのdifferential hypoxiaそのものを見た研究ではない。ECMO流量とHbが十分であることが前提という但し書きも外せない。DHでは低酸素血が脳と冠動脈に選択的に向かうため、この数字を根拠に様子を見すぎない。

したがって移行の判断は「数字」ではなく「状態」で書くのが正確だ。すなわち――自己肺を最適化しても右上肢が戻らない、かつ自己心が回復して押し返している。この2つが揃ったときが、構成変更を考えるラインになる。

図4:differential hypoxiaへの段階的対応(Alfred ECMO guidelineの並び)

段階 やること 中身
1 まず許容する 自己心の回復サインでもある。ただし許容の根拠はVV-ECMOコホートからの外挿(本文参照)
2 自己肺の酸素化を上げる FiO₂・PEEP・リクルート・体位(腹臥位)・NO・気管支鏡・利尿。平均気道内圧を上げる(I:E 1:1のPCV、APRV)
3 脱血カニューレをSVC/RAへ 上大静脈側から引き、膜へ送る血の酸素飽和度を下げすぎない
4 送血を鎖骨下動脈へ 順行性送血に変え、そもそも逆行流との衝突を作らない
5 ECMO流量・MAPを上げ、強心薬を減らす M-zoneを近位へ押し戻す。ただし奏功しないことが多く、LV拡張・肺水腫を招くという異論が強い
6 V-AV化する 返血を静脈側にも分け、上半身の酸素化を担保(各返血ライン1 L/min以上=Alfredの運用)→⑦

表:Alfred ECMO guidelineが示す「侵襲の低い順」の並びに沿った。順序は施設プロトコルにより異なる(EMCritは「肺を直す→自己心/ECMO流量比を下げる→構成変更」の順で、流量増加には否定的)。ガイドラインで確立した標準アルゴリズムではない点に注意。

「自己心拍出をあえて下げる」という一手

自己肺を上げても届かないとき、強心薬を減らす/必要ならβ遮断薬を使うという選択肢がある。順行流を弱めてmixing zoneを近位へ戻すという、原理が分かっていないと出てこない一手だ。

ただし一時しのぎである点は外せない。順行流を抑えればLVは拡張し、肺水腫を招く。そもそもβ遮断が要るほど自己心が拍出しているなら、VA-ECMOを続ける意味自体を問い直すべき、という指摘もある。ECMO流量を上げる手も同様で、「しばしば奏功しない」「肺水腫を悪化させるので勧められない」という反対意見が複数あり、LV unloading(→⑦)とセットで考える必要がある。

7膜型人工肺の能力 ― rated flow

膜型肺の能力はrated flow飽和度75%・Hb 12 g/dLの静脈血を、膜の出口で95%まで飽和できる血流量、で表す(ELSO成人呼吸不全ガイドラインの定義)。必要な血流がrated flowを超えるなら膜が足りない(並列化・大型化)。

水蒸気が膜にたまるとCO₂除去が落ちる。対処はsweepを一時的に大きく上げて飛ばすこと。この操作は“sighing the lung”と呼ばれる(この呼称が出てくるのはELSOの新生児呼吸不全ガイドラインで、成人版は同じ操作を名称なしで記載している)。

8酸素化を上げる手立て

SpO₂が上がらない時は、次を順に確認する。

図5:酸素化が上がらない時のチェックリスト

確認する項目 何を見る・どう動く
ECMO血流量 流量が足りているか。上げると酸素供給↑(最大の規定因子)
Hb(ヘモグロビン) 低ければ酸素運搬能↓。輸血で是正
recirculation(VV) 送血が脱血にショートカット=効率低下。カニューレ間距離・流量・胸腔内圧
患者肺/自己心拍出 患者肺の悪化・自己心拍出の変化(VAはmixing zoneが動く)
代謝(発熱・不穏) 酸素消費↑。解熱・鎮静で需要を下げる

9CO₂を動かす ― sweep gasとECCO2R

PaCO₂が高ければsweepを上げ、低すぎれば下げる。急激なCO₂低下は酸塩基平衡を乱し、脳合併症を招くので、ゆっくり動かす。ELSOは喘息重積などPaCO₂が著明に高い病態について「緩徐に下げる」とし、推奨される低下速度として1時間あたり20 mmHgを挙げている。

CO₂除去だけが目的ならECCO2R(体外式CO₂除去)=低流量で足りる。ELSOはCO₂除去だけなら血流量は0.5 L/min/m²まで下げられるとし、典型的な血流量は心拍出のおよそ10〜25%、それで代謝が産生するCO₂(3〜6 mL/kg/分)を除去できるとしている。喘息・COPD・超肺保護換気の補助に使う。

10VVの生理とrecirculation

VVは肺の代わりで、循環は自分の心臓が担う。だからSpO₂は低くても許容される。ELSOは典型値として80〜85%、時に75〜80%(PaO₂ 45〜55)を挙げ、心拍出とHbが十分でDO₂がVO₂の3倍を保てるなら十分としている。数字を上げにいくのではなく、酸素供給と消費の比で見る。

recirculationは、送った酸素化血の一部が全身を通らず脱血に戻る現象で、効率が落ちる。増やす因子は脱血・送血カニューレの近接、高いECMO血流量、胸腔内圧の上昇(高PEEP)、循環血液量の減少、自己心拍出の低下。動物実験では循環血液量減少で再循環率が43%増え、輸血で45%減ったと報告されている。

カニューレ間距離は2本挿しで15 cm程度を目標とする記載が多いが、これは経験則であってエビデンスに基づく閾値ではない(文献により5・9・10〜13・15 cmと数字がばらつき、先端間なのか多孔カニューレの近位孔からなのかも揃っていない)。むしろ示唆的なのは、大腿脱血・頸静脈送血(先端間19 cm)の再循環が5%、頸静脈脱血・大腿送血(同36 cm)が19%だったという臨床データだ。距離を離せば減る、という単純な話ではなく、配置と流量のほうが効く。シミュレーションでも高流量域では位置の微調整より流量の影響が大きいとされる。

対処はカニューレ配置の見直し・脱血カニューレの追加・二腔カニューレへの変更。検出は膜前飽和度(SpreO₂)の上昇が基本で、SaO₂が下がっているのにSpreO₂が上がる、とりわけSpreO₂がSaO₂を上回るときは強く疑う(逆にSpreO₂が75%未満なら、臨床的に問題となる再循環は考えにくい)。実務的には流量を上げてもSpO₂が伸びないことが手がかりになる。

再循環率は(SpreO₂−SvO₂)/(SpostO₂−SvO₂)で定義され、おおむね10〜30%が許容範囲、20〜30%超で臨床的に問題とされる(報告値は2〜57%と幅広く、実臨床の中央値は14〜16%程度)。ただしVV中に真のSvO₂を取るのが難しく、ベッドサイドで計算されることは多くない。

図6:recirculation(VV)とdifferential hypoxia(VA)の対比

項目 recirculation(VV) differential hypoxia(VA)
何が起きる 送った酸素化血が全身を通らず脱血へ戻る=効率低下 自己心の低酸素血が上半身、ECMO高酸素血が下半身へ
固有のモード VV VA(末梢)
監視指標 膜前の酸素飽和度(SpreO₂)上昇、流量の割にSpO₂上がらず 右手SpO₂・右橈骨動脈血ガス
対処 カニューレ間距離をとる・脱血カニューレ追加・二腔カニューレ化・流量最適化 自己肺の酸素化改善・送血追加(V-AV)・送血部位変更

11やりがちな失敗とTake home

1 酸素化が悪いとsweepを上げる sweepはCO₂用。酸素化は血流量・recirculation・Hb。
2 VAで左手/下肢のSpO₂を見る differential hypoxiaは右上肢に出る。右橈骨・右手で監視。
3 右橈骨PaO₂の低下を「悪化」と決めつける 自己心が回復してmixing zoneが遠位へ動いた可能性。自己肺の状態とセットで読む。
4 右橈骨PaO₂が高いのを「良い」と喜ぶ ECMO優位=自己心がほぼ働いていないということ。離脱は遠い。
5 mixing zoneを固定したものと思う 流量バランスで動く。だから昨日と同じ設定でも今日Harlequinが出る。
6 V-AVの前に自己心拍出を下げる手を飛ばす 強心薬↓・β遮断でM-zoneを戻せることがある。
7 VVでSpO₂ 100%を狙う 不要。ELSOは80〜85%を許容。DO₂/VO₂が3倍を保てるかで見る。
8 CO₂を一気に下げる 脳血流が減る。sweepはゆっくり。

Take home

  1. 酸素化=血流量、CO₂=sweep gas。この分離が管理の土台
  2. mixing zone=順行する自己心の血と逆行するECMO血の衝突面。中枢は自己心、末梢はECMOが支配
  3. M-zoneは動く:自己心が回復すると遠位へ、ECMO優位なら近位へ。心臓が良くなった時ほどHarlequinが出る
  4. 右橈骨で測るのは解剖の必然(腕頭動脈=弓部第1分枝=脳・冠動脈のセンチネル)。左手・下肢では見逃す
  5. 右橈骨PaO₂は自己心の勢いを映す。高い=ECMO依存、自己肺相応まで下がる=回復のサイン
  6. 確定閾値は無い。「肺を最適化しても右上肢が戻らない+自己心が押し返している」が移行ライン
  7. V-AVの前に、自己肺の最適化とカニューレ変更という段階がある。流量↑・強心薬↓は異論も多い
参考文献
  • ELSO Guidelines for Adult Respiratory Failure, v1.4. August 2017.(rated flow/許容SpO₂とDO₂:VO₂>3/SvO₂>70%/ECCO2R流量/PaCO₂低下速度20 mmHg/hr/full supportでのCO₂除去能)
  • ELSO Neonatal Respiratory Failure Supplement to the General Guidelines, v1.4. December 2017.(”sighing the lung”の呼称)
  • Lorusso R, et al. ELSO Interim Guidelines for Venoarterial ECMO in Adult Cardiac Patients. ASAIO J. 2021;67:827-844.(右橈骨・右上半身での監視、V-AVへの移行、脈圧10 mmHg、左室のsmoke-like所見)
  • Prisco AR, et al. Concomitant respiratory failure can impair myocardial oxygenation in patients with acute cardiogenic shock supported by VA-ECMO. J Cardiovasc Transl Res. 2022;15:217-226.(遺体CTからの流体シミュレーション)
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  • Schmidt M, et al. Blood oxygenation and decarboxylation determinants during venovenous ECMO. Intensive Care Med. 2013;39:838-846.
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